あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

はだしの使い魔 2


ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの朝はやや遅い。
彼女はいつものように、目を覚ました後暫しをぼーっと過ごし、

「ゲン、服~」

やがて起き出してクローゼットから制服を取り出し、のそのそと着替えを始めた。

「って、やっぱり居ないし」

一人時間差ツッコミ。
誰が居ないのかというと、昨日ルイズが召喚した平民の使い魔だ。
寝惚けていて気づくのが遅れた。


ここ、トリステイン魔法学院には、国内外を問わず貴族の子弟が多数在学する。
貴族とは、例外はあるが一般的に魔法を使う者。それはハルケギニアでの常識だ。
より強力な魔法を使いこなす事は、一流の貴族としての一種のステータスなのだ。

しかし、このルイズ、不憫な事に魔法の才が全くと言って差し支えないほどに
皆無だった。人よりも努力はしているのだが、成功した試しはまず殆ど無く、
名門貴族の出でありながら「ゼロ」という蔑称でからかわれる事も間々あった。

そんなルイズに好機が訪れた。新二年生最初の行事「使い魔召喚の儀」である。
この儀式はメイジに仕える存在、使い魔を決められた手順に則り自らの下へと
呼び出して契約を交わし、従わせるというものだ。一般に、メイジの実力は
使い魔を見れば分かると言われており、殊に有能な者は竜やグリフォンといった
強力な幻獣を使役していた。

つまり、ルイズはここで強力な幻獣でも召喚すれば一発逆転、
自分を馬鹿にしていた連中を見返してやれると踏んでいたのである。

――同時に、自分は決して無能ではないとの証明にもなると、信じて。

それが、

「ミスタ・コルベール、返事をして下さい! 寝ちゃだめですー!」

どうして、

「あああんた、いきなり何してんのっ!」

こんな、

「あんたじゃのうて、わしゃ中岡元じゃ」

……平民なのか。
平民。生まれつき魔法を使えず、貴族に従属する者達。それがルイズの使い魔。
これでは、お前は一生魔法を使えないと宣告されたも同然だった。

ゲンと名乗ったその平民は、それはもう見事に抵抗してくれた。
お陰で禿頭の中年教師――ミスタ・コルベールは救護班のお世話になっている。
皆の視線と罵声が痛い中、ルイズは元を無理矢理連れていこうとしたが、

「ええ機会じゃ。おどれらみたいな連中に言うてやりたい事が、
 わしゃ山ほどあるけえのう、早う案内せえ。言い訳くらいは聞いてやるわい」

途中からは、寧ろ元に引き摺られる形で学院へと戻ってくる羽目に。
あれ、何で私が悪いみたいなの? と疑問が沸くルイズ。

因みに飛翔魔法、フライで空を飛んで帰る学院生を見た元は。

「うわっ! み、見ろっ。とり、鳥人間じゃ!
 ほうか、外人は空を飛ぶのか……わしゃ、たまげたわい」

カルチャーショックを受けていた。
こうしてルイズの頭痛の種が、また一つ増えるのであった。

石造りの大きな門を潜り抜けると、中世風の威容を誇る建物に元は声を上げる。
彼が当初想像していたような、無法者の巣窟とは雰囲気が違ったので、
警戒は解かないものの、内心やや安堵していた。かといって信用も出来ないが。

「ミス・ヴァリエール、宜しいですか?」

元達が中庭を抜け、中央の塔の前を通ると、一人の若い女性が入り口から出てきた。
学院長オールド・オスマンの秘書、才女ミス・ロングビルだ。
騒動を聞きつけた学院長がコルベールの代わりに寄越したのである。

「はい、ミス・ロングビル」
「こちらの平民の少年が、あなたの召喚した使い魔ですか?」
「ええ。そうですけど……」
「先程、報告がありましたので私が学院長の命で伺いました。
 負傷したミスタ・コルベールに代わって、こちらの、ええと」
「中岡元じゃ。呼ぶ時は、元でええ」
「分かりました。私は、ここトリステイン魔法学院にて学院長である
 オールド・オスマンの秘書を務めさせて頂いております、
 ロングビルと申します。以後、お見知り置きを」

穏やかな物腰と丁寧な言葉遣いで、妙齢の美女は元に応対した。

「マホウ……学院? ここは学校なのか?」
「ええ。貴族の子弟が魔法について学ぶ為の施設ですわ」

元は困惑していた。それなら、皆一様に同じ服装をしている事も、彼が今迄に出会った
ごろつきやヤクザ者特有の剣呑な雰囲気が、少年少女から感じられないのも説明がつく。
しかし、そうなると一体自分は何故連れて来られたのか。

「ほいじゃが、なら何でわしを呼んだんじゃ。自慢にならんが、わしゃ優等生じゃないぞ」
「平民を勉強させるわけないじゃないの。黙って聞いときなさい」

相変わらず横柄なルイズにむっとする元を、まあまあと諌めるロングビルだったが、
元が未だに状況を理解していない事に気づくと眉を顰めた。

「ミス・ヴァリエール。彼に召喚の儀について説明されてないのですか?」
「……は、はい。騒ぎになって、それどころじゃなくて……」
「それでは、私の方から説明させて頂きます」

正確には、元がルイズの腕を掴んでずんずん進んでしまい、
ルイズが喚いたのが原因で説明が出来なかった、というのが正しいのだが。
当人のルイズは、気まずさに元をジトッとした目で睨みうーっ、と唸っていた。
とまれ、ロングビルが元に事情を話す事に。


一通りの話を聞き終えた元の顔は顰め面だ。実情は、彼が当初予想していた話と大差ない。

「わしにこいつのお守りをせえ、いうんか。大方そんとな事じゃろうと思うたわい」
「おおお守りじゃなくて使い魔! 平民が貴族に仕えられるのよ、有り難いと思いなさい!」
「やかましい、人攫いが偉そうに抜かすなっ!」
「人攫いじゃないって言ってるでしょ! 私だって、あんたなんか呼びたくなかったわよ」
「呼んだのはおのれじゃろうが!
 われ、言うに事欠いて呼びとうなかったとはどういう了見じゃ!」

早速口論になっている。売り言葉に買い言葉というか、二人とも熱くなりやすい性分だった。

「落ち着いて下さい。理由はどうあれ、あなたがミス・ヴァリエールに召喚されたのは
 事実で、送還の呪文がないのも、また事実です。これからどうすべきかを考えましょう」

話し合いにすら発展しそうにない二人に、ミス・ロングビルが助け舟を出す。

「何れあなたが帰るにせよ、旅をするには先立つ物が要り用ですわ。
 持ち合わせがあるならば宜しいのですけれど、失礼ながら、裕福そうには見えませんので」
「うむむむむ……ほうじゃのう。
 社長さんに貰うた餞別のお金はあるが、外国じゃよう使えんのう」

元は上着の懐に忍ばせた、厚みのある茶封筒を手で確かめながら頷く。
両替出来るかも知れないが、社長が用意してくれた金を使ってしまうのも申し訳ない。
この金は、来るべき時の為大切に取っておく物で、軽々しく使ってはならないのだ。

「あんたトーキョー? へ行こうとしてたのだっけ。そこで何をするつもりだったの?」

餞別、という単語に反応したルイズが元に尋ねる。
元はルイズ達に話して聞かせた。絵の勉強をして一流の看板職人になる夢。
その為にも、人が多く集まる東京へと旅立つ中途だった事。
汽車(馬車みたいな物かしら?)に乗っていた筈なのに、気がついたら外国に居た事。

「……じゃけえ、わしゃ、東京へ行かんといけん。
 何時までも油を売っとる訳にはいけんのじゃ。働け、いうなら働くわい」

ここで問答を繰り返していても、時間の無駄だと元は悟る。
ミス・ロングビルの言う事も尤もだったので、不承不承ながら元は留まる事を決めた。

「決まりですね。具体的にどのようにするかは、お二人で話し合って
 お決めになって下さい。私は次の仕事が控えているので、これで失礼致します」
「ま、待って下さい、ミス・ロングビル!」

元を上手く口で丸め込み、用は済んだとばかりに場を辞する秘書を、ルイズが制止した。

「はい?」
「働かすって……それって、この平民を雇えと言うんですか?
 使い魔を、お金で雇うなんて! そんなの嫌です、おかしいじゃないですか!」

振り返った秘書に、ルイズは唾を飛ばして猛抗議する。
使い魔は無償で主の為に尽くすのが当然。報いる物は、忠誠を誓う者にこそ相応しい。
そんな私ルール適用によりルイズの脳内では、主に従わない元=タダ働きが確定していた。
……自分が勝手に呼んだ、という事実は華麗にスルーして。

ルイズの理不尽さに、元の怒りは尚募る。この娘は自分を人間扱いしていない。
だが、彼女は雇い主になるかも知れないのだ。旅費が貯まるまでは辛抱せねばなるまい。
ロングビルはそんな元の様子を見て、彼に聞こえないよう、ルイズにそっと耳打ちした。

「何も本当に彼を雇用しろとは言っていません。見たところ、彼は相当の異郷から来た様子。
 帰還は困難を極めるでしょう。言い包めてしまえば、その内こちらに住みたくなりますわ」

そう。それはルイズにも分かっていた。
このゲンという平民、恐らくはハルケギニア近郊の民ではない。
魔法を知らず、妙な服装をし、話を聞く限り文化も大きく異なる。
如何な理屈か、言葉は通じているのが不幸中の幸いだ。

「時が経てば人の心は変わるもの。彼が住みたくなるよう仕向ければ良いのですわ。
 それが出来るか否かは、あなた次第。そうではありませんか、ミス・ヴァリエール?」
「私、次第……。そう、そうですわね。ありがとうミス・ロングビル。
 ヴァリエール家の名誉と誇りに懸けて、必ずやあの使い魔を従わせてみせます!」

ミス・ロングビルに煽られ、ルイズはノリノリに。
使命感に燃えるルイズを誰にも気づかれる事のない刹那、冷ややかな目で見つめた
ロングビルは、すぐにいつもの笑顔へと戻ると、今度こそ塔の中へと戻っていった。

後に残されたのは、ルイズと元。

「……」
「……」

空気が重い。ロングビル効果は既に消えている。
だが、こうしていても始まらない。
ルイズは一度深呼吸すると、意識してゆっくりと話を切り出した。

「ええと、その、そういうわけだから……、あんた、私に仕えなさい」
「どういうわけじゃ、さっぱり分からんわい。
 ほいから、まだ給金が出るかも聞いとらんけえ、よう話してくれや」

話を端折り過ぎるルイズを嗜め、報酬の交渉をする元。
ここでの通貨価値の相場、生活費、働いて金はどの程度稼げるのか。それは重要だ。
しかし、ルイズは大貴族の令嬢。生まれてこの方、衣食住に不自由を
した経験の無いルイズは、残念ながら金の有難みを理解していなかった。

「給金? そんなの無いわよ。最初は試用期間! あんたが使える奴だったら
 報酬を払う事も考えてあげなくもないから、大人しく私に仕えときなさい!」

元は呆れた。彼にしてみれば、ルイズの言い分は子供が駄々を捏ねているも同然だ。
年の頃はそう変わらないと思う……思いたいのだが、この認識の差は如何ともし難い。

「ほうか。ならええ、別の働き口を探すまでじゃ」

告げて、元は深々と溜息を吐いてルイズに背を向ける。
働け、でも金は払わない。これではやってられない。他を当たった方が良い。
ルイズに仕える必要も義理も、彼には無いのだから。

「えぇ、何でよ? ちょ、待ちなさいったら!」

自分が優位だと思っていたルイズは、にべも無く断られて逆に慌てる。
一方の元は、そんな彼女を気にも留めず、何処かへ行ってしまうのであった。


回想終了。現実に引き戻されたルイズは、
寝惚けた頭を冷やすように顔を乱暴に洗うと、布を顔に当てて次には思索に耽る。

あの馬鹿使い魔、どうしてくれようかしら。
無断で外出は出来ないようにしたので、学院の敷地内に居るのは間違いない。
見つけるのはそう難しくないが、あの様子では説得は容易でないだろう。

答えの出ない問いに頭が徐々に煮詰まり、やがて臨界点を突破した熱がルイズを叫ばせる。
そして壁を何度も何度も蹴りつけた。八つ当たりである。

「うがあぁぁぁぁっ、犬の癖に、使い魔の癖にぃーー!」



「……無事に逃げられるといいがねえ」

中央の塔、最上階。学院長室にて。
ミス・ロングビルは部屋の奥に居るオールド・オスマンに聞き取れない小声で呟いた。
あの時、元を騙して使い魔にさせる事は可能だった。
だが、彼女はそれをしなかった。ルイズに敢えて任せ、元に逃亡のチャンスを与えたのだ。
使い魔を得られなければ、ルイズは学院の規則により留年するかも知れないが、
内心貴族を嫌っているミス・ロングビルにとっては、比較的どうでも良い事だった。

――コツ、コツ。

前触れ無しに、学院長室のドアがノックされる。

「おや、こんな朝早くから誰かな?」

オスマンの疑問を背に、ロングビルは何方ですか、と扉の向こうへと声を掛ける。

「……その声、ロングビルの姉ちゃんか?」

学院長室に、明るく溌剌とした少年の声が響いた。


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