《『王宮日誌 シャルロット秘書録』より》
「そこが、この国々と同じ天地かは分からん。月は一つだし、マジナイ師はもっと弱い。
アルビオンもトリステインも聞いたことがない。ガリアは西にあるらしいが、お前のいた国かは分からん」
アルビオンもトリステインも聞いたことがない。ガリアは西にあるらしいが、お前のいた国かは分からん」
「『スキタイ』は王族たちの名前で、そいつらが治めている諸部族も、皆スキタイという。緩い連合王国だ。
北国で冬は寒いが、平原が多く家畜は良く育ち、水は豊かで農耕にも漁労にも向いている。狩りも盛んだ。
黒海という大きな内海の北側が、ほぼ全てスキタイの領土になっている。広さは計り知れない。
大きな川が何本もそこへ注いでいて、南の海峡から別の海へ通じている」
北国で冬は寒いが、平原が多く家畜は良く育ち、水は豊かで農耕にも漁労にも向いている。狩りも盛んだ。
黒海という大きな内海の北側が、ほぼ全てスキタイの領土になっている。広さは計り知れない。
大きな川が何本もそこへ注いでいて、南の海峡から別の海へ通じている」
「俺たち戦士、自由民はあまり都市を好まず、幌馬車に家財道具を積んで、家畜と共に移動生活する。
農民は王族の下僕で、海沿いには商人のいる都市もある。南や東の国々と、交易するのだそうだ。
大人は皆、男も女も馬を乗りこなし、弓を見事に引く。女も勇敢に戦う。
殺した敵は首を狩り、生皮を剥いで手拭いや旗などにする。負けることは滅多にない。
戦いで見事に死ねば天界に生まれ変わると、信じている」
農民は王族の下僕で、海沿いには商人のいる都市もある。南や東の国々と、交易するのだそうだ。
大人は皆、男も女も馬を乗りこなし、弓を見事に引く。女も勇敢に戦う。
殺した敵は首を狩り、生皮を剥いで手拭いや旗などにする。負けることは滅多にない。
戦いで見事に死ねば天界に生まれ変わると、信じている」
「長老たちはこう言う。昔、天の神ゼウスが川の女神と交わり、タルギタオスという男をもうけた。
その男には三人の息子がおり、末息子の子孫が代々三つの『黄金の神器』を受け継いで、王様の証とする。
ゼウスの子で英雄の、ヘラクレスが祖先だともいう。太陽神の他、いろんな神がいる。
好きなのは酒と馬、黄金、大麻と蒸し風呂。若くて強い者が尊敬され、弱い者は努力しないと死ぬ。
大年寄りは皆で殺し、その肉を煮て食べるそうだ」
その男には三人の息子がおり、末息子の子孫が代々三つの『黄金の神器』を受け継いで、王様の証とする。
ゼウスの子で英雄の、ヘラクレスが祖先だともいう。太陽神の他、いろんな神がいる。
好きなのは酒と馬、黄金、大麻と蒸し風呂。若くて強い者が尊敬され、弱い者は努力しないと死ぬ。
大年寄りは皆で殺し、その肉を煮て食べるそうだ」
「黒海の南には、沢山の国々がある。ギリシア人(ヘレネス)もペルシア人も、都市に住んで商売を行う。
ペルシアは世界一大きな帝国だ。広さがどのぐらいあるのかも分からない。とても強い。
ギリシア人は海辺に住んで、小国に分かれて小競り合いをしている。口煩くて嫌な奴らだ。
マケドニアはギリシアの北にある王国で、強い軍隊を持つ。
他にもフェニキアやケルトやエトルリアなど、いろいろな民族がいるらしい」
ペルシアは世界一大きな帝国だ。広さがどのぐらいあるのかも分からない。とても強い。
ギリシア人は海辺に住んで、小国に分かれて小競り合いをしている。口煩くて嫌な奴らだ。
マケドニアはギリシアの北にある王国で、強い軍隊を持つ。
他にもフェニキアやケルトやエトルリアなど、いろいろな民族がいるらしい」
トラクスは、様々な事を教えてくれた。
地理、歴史、生活、神話、伝説。酒が入って機嫌のいい時は、スキタイの歌や踊りも披露してくれた。
特に陽気でもないが、穏やかな男であった。これがあの日、何十人という人間を斬り殺した、あの男と同じ人物なのだ。
平和な環境が人を変えるのか。あるいは、人間の持つ多面性というものか。
地理、歴史、生活、神話、伝説。酒が入って機嫌のいい時は、スキタイの歌や踊りも披露してくれた。
特に陽気でもないが、穏やかな男であった。これがあの日、何十人という人間を斬り殺した、あの男と同じ人物なのだ。
平和な環境が人を変えるのか。あるいは、人間の持つ多面性というものか。
とはいえ、トラクスにも日々の予定がある。日課として、体が鈍らないように四時間ほど剣技を磨く。
思い通りに体が動く『ガンダールヴ』ばかりに頼らず、それが心身にしっかりと馴染むよう、動きの一つ一つを大切にする。
傍で見ていると、舞を舞うようだ。理にかなった動きは、美しい。
騎士として下賜された、風竜の世話と調教もある。馬の扱いが上手なせいか、わりとすぐ馴れた。
その合間や夕方に、私たちの調査に付き合ってもらうのである。食事や酒を共にすることもあった。
思い通りに体が動く『ガンダールヴ』ばかりに頼らず、それが心身にしっかりと馴染むよう、動きの一つ一つを大切にする。
傍で見ていると、舞を舞うようだ。理にかなった動きは、美しい。
騎士として下賜された、風竜の世話と調教もある。馬の扱いが上手なせいか、わりとすぐ馴れた。
その合間や夕方に、私たちの調査に付き合ってもらうのである。食事や酒を共にすることもあった。
メンヌヴィルとかいう傭兵の部下たちも、たまに顔を見せるが、お勉強には興味がないらしい。
トラクスの剣の練習に付き合う場面もあった。フーケ、いやマチルダも戻ってきた。穏やかに時間が過ぎていく。
トラクスの剣の練習に付き合う場面もあった。フーケ、いやマチルダも戻ってきた。穏やかに時間が過ぎていく。
スキタイ人のトラクス……忘れることはできぬ。
「随分書き溜めましたね、ミス・タバサ」
「貴方も。ミスタ・ユリシーズ」
アルビオンに来て三週間ほど。私たちの『トラクス伝』もそれなりの分量になった。クロムウェルに見せても満足な出来だ。
たまにルイズのところへも顔を出しておく。籠の鳥、優雅な囚われ人はまずまず健康のようだ。
「あらタバサ、三日ぶりかしら。お元気? すぐにお茶を出させるわ。
ところで、トラクスの馬鹿はどうしているの? 国王殺しの蛮人様は。裏切り者のロングビル、いやフーケもね」
「元気」
「貴方も。ミスタ・ユリシーズ」
アルビオンに来て三週間ほど。私たちの『トラクス伝』もそれなりの分量になった。クロムウェルに見せても満足な出来だ。
たまにルイズのところへも顔を出しておく。籠の鳥、優雅な囚われ人はまずまず健康のようだ。
「あらタバサ、三日ぶりかしら。お元気? すぐにお茶を出させるわ。
ところで、トラクスの馬鹿はどうしているの? 国王殺しの蛮人様は。裏切り者のロングビル、いやフーケもね」
「元気」
ルイズの桃色の髪は、あの時トラクスに頭皮を剥がされたが、水の秘薬ですっかりくっついていた。
それ以来ルイズがトリートメントに気を使い、高級な秘薬を惜しげもなく使うので、以前より艶やかになっていた。
「ふーん。あんたたち、暇仕事にこんな物を書いているのね。ちょっと面白そう」
「興味深い」
「蛮族の土地の地理や歴史なんて、たいして気にもしていなかったわ。
私にも文筆の才能があればよかった。もお退屈で、退屈で、死にそうよ!
あいつも自分の国へ帰りたいのかしら。ああ、私も早く帰りたいなあ、トリステインへ!」
トラクスへの恨みより、望郷の念が大きいようだ。彼に会わせてもルイズが騒ぎ立てるだけだろうが。
「まあ、トリステインの皆に救出されるまでの辛抱よ。トラクスとフーケは捕まれば死刑だし。
それに、自分の杖がなかったら、私たちメイジは何もできないわ……ねえタバサ、どうにか取り返せない?」
それ以来ルイズがトリートメントに気を使い、高級な秘薬を惜しげもなく使うので、以前より艶やかになっていた。
「ふーん。あんたたち、暇仕事にこんな物を書いているのね。ちょっと面白そう」
「興味深い」
「蛮族の土地の地理や歴史なんて、たいして気にもしていなかったわ。
私にも文筆の才能があればよかった。もお退屈で、退屈で、死にそうよ!
あいつも自分の国へ帰りたいのかしら。ああ、私も早く帰りたいなあ、トリステインへ!」
トラクスへの恨みより、望郷の念が大きいようだ。彼に会わせてもルイズが騒ぎ立てるだけだろうが。
「まあ、トリステインの皆に救出されるまでの辛抱よ。トラクスとフーケは捕まれば死刑だし。
それに、自分の杖がなかったら、私たちメイジは何もできないわ……ねえタバサ、どうにか取り返せない?」
ある日の午後。トラクスの部屋のドアがノックされる。
「タバサか? 鍵は開いている、入っていい」
「いんや、オレだよ。よおお、久し振りだね、サー・トラクス」
野太い中年の男の声。傭兵隊長のメンヌヴィルだ。マチルダもいる。なんとも変わった取り合わせだ。
「タバサか? 鍵は開いている、入っていい」
「いんや、オレだよ。よおお、久し振りだね、サー・トラクス」
野太い中年の男の声。傭兵隊長のメンヌヴィルだ。マチルダもいる。なんとも変わった取り合わせだ。
「クロムウェルの旦那から連絡だぜ。皇帝陛下だし、勅命か。
そろそろ準備が整ったようだ。三日後から、いよいよ戦争だぜ!!
トリステイン侵攻作戦の第一歩として、橋頭堡となる『ラ・ロシェール』を攻略せよ、だとよ。
あちらさんも、すっかりお待ちだろうしねえ。腕が鳴るなあ、焼きたいなあ」
「あそこは岩の街。土メイジのあたしには好都合な地形さ。岩のゴーレムを創造して、奴らをブッ潰してやるよ」
マチルダが久し振りに戦場での顔つきになる。いい女戦士(アマゾン)だ。
そろそろ準備が整ったようだ。三日後から、いよいよ戦争だぜ!!
トリステイン侵攻作戦の第一歩として、橋頭堡となる『ラ・ロシェール』を攻略せよ、だとよ。
あちらさんも、すっかりお待ちだろうしねえ。腕が鳴るなあ、焼きたいなあ」
「あそこは岩の街。土メイジのあたしには好都合な地形さ。岩のゴーレムを創造して、奴らをブッ潰してやるよ」
マチルダが久し振りに戦場での顔つきになる。いい女戦士(アマゾン)だ。
デルフも交えて四方山話が始まる。メンヌヴィルとマチルダは休みの間、反乱兵や王党派の残党狩りもしていたそうだ。
「まったく、野蛮だよこいつは。人間だろうがトロール鬼だろうが、有無を言わさず消し炭さ。
ちったあ金銀財宝を大事にして欲しいね。資金集めでもあったんだし」
「蛮人さんのツレに野蛮と言われてもなあ。少しはオレのささやかな愉しみを理解して欲しいもんだ」
「おでれーた! モノが焼きたきゃあ、焼肉屋か鍛冶屋か陶工にでもなりな! 火の加減ができないからダメか?」
「それに、あんなに命乞いしていた村を焼き尽くしたのには、反吐が出るね。
王党派ったって、領主様がそうだっただけで、村人は関係ないだろ! アルビオン人として抗議するよ」
「なあに、昔オレがトリステインで下級貴族をやっていた頃なんかな……」
「まったく、野蛮だよこいつは。人間だろうがトロール鬼だろうが、有無を言わさず消し炭さ。
ちったあ金銀財宝を大事にして欲しいね。資金集めでもあったんだし」
「蛮人さんのツレに野蛮と言われてもなあ。少しはオレのささやかな愉しみを理解して欲しいもんだ」
「おでれーた! モノが焼きたきゃあ、焼肉屋か鍛冶屋か陶工にでもなりな! 火の加減ができないからダメか?」
「それに、あんなに命乞いしていた村を焼き尽くしたのには、反吐が出るね。
王党派ったって、領主様がそうだっただけで、村人は関係ないだろ! アルビオン人として抗議するよ」
「なあに、昔オレがトリステインで下級貴族をやっていた頃なんかな……」
トラクスが注文していた、マジナイのかかった軽い甲冑も届いた。高かったが、デザインもいい。
出撃の時は、アルビオン軍の花形・竜騎士として戦うことになろう。
また殺戮が始まるのだ。今度は一騎駆けではなく、軍隊での戦争として。
出撃の時は、アルビオン軍の花形・竜騎士として戦うことになろう。
また殺戮が始まるのだ。今度は一騎駆けではなく、軍隊での戦争として。
《『王宮日誌 シャルロット秘書録』より》
夕方。私の部屋に、書類を携えたユリシーズが一人で入ってきた。椅子をすすめる。
「戦争? トリステインへ?」
「ええ、いよいよですよ。とはいえ、私たちは後方勤務で、出撃はしません。
貴女がた『人質』のお守りですが、これも立派な任務ですよ。出撃しないのは皇帝陛下もですがね」
お喋りなユリシーズがおどけた表情をする。シルフィードの事は、彼には伝わっているだろうか。
「戦争? トリステインへ?」
「ええ、いよいよですよ。とはいえ、私たちは後方勤務で、出撃はしません。
貴女がた『人質』のお守りですが、これも立派な任務ですよ。出撃しないのは皇帝陛下もですがね」
お喋りなユリシーズがおどけた表情をする。シルフィードの事は、彼には伝わっているだろうか。
「ガリアやゲルマニアは?」
「貴女の母国は中立ですな。ハルケギニア最大の王国に出て来られると、確実に小国は滅びますので。
ゲルマニアもロマリアも日和見です。一応トリステインと同盟交渉はしていますが、空の上までは腰が重いようで。
アルビオンの皇太子がトリステインにいるため、各地に亡命していた王党派が集まってはいるのですが、
我々『レコン・キスタ』の兵力には敵いません。両王国の最期も近いというところですな」
「貴女の母国は中立ですな。ハルケギニア最大の王国に出て来られると、確実に小国は滅びますので。
ゲルマニアもロマリアも日和見です。一応トリステインと同盟交渉はしていますが、空の上までは腰が重いようで。
アルビオンの皇太子がトリステインにいるため、各地に亡命していた王党派が集まってはいるのですが、
我々『レコン・キスタ』の兵力には敵いません。両王国の最期も近いというところですな」
「攻撃目標を教えて」
「まあ、当然ながら港町の『ラ・ロシェール』を奇襲して、抑えに出ますわな。
あの近郊にタルブという草原地帯があるので、そこを艦隊集結地に使うとか。いや、私も詳細は分からんですよ」
私の質問に、ユリシーズは当たり障りのない返答を返す。しかし興奮しているのか、饒舌だ。
「最終的にはエルフを打ち破り、『聖地』奪回を目指しておりますが……どうでしょうね。
確かに『レキシントン』など空中艦隊は充実していますが、歴史上奴らに勝った試しが、ほぼないもんで……」
「まあ、当然ながら港町の『ラ・ロシェール』を奇襲して、抑えに出ますわな。
あの近郊にタルブという草原地帯があるので、そこを艦隊集結地に使うとか。いや、私も詳細は分からんですよ」
私の質問に、ユリシーズは当たり障りのない返答を返す。しかし興奮しているのか、饒舌だ。
「最終的にはエルフを打ち破り、『聖地』奪回を目指しておりますが……どうでしょうね。
確かに『レキシントン』など空中艦隊は充実していますが、歴史上奴らに勝った試しが、ほぼないもんで……」
開戦か。不可侵条約は反故にされ、国家の間で殺戮が始まるのだ。
珍しい事ではない。ただ、今回はアルビオンの政府が違い、おかしな理想を掲げているだけだ。
珍しい事ではない。だが、千載一遇のチャンスだった。
珍しい事ではない。ただ、今回はアルビオンの政府が違い、おかしな理想を掲げているだけだ。
珍しい事ではない。だが、千載一遇のチャンスだった。
私は彼の背後へ回りこみ、懐に隠し持っていた鋭利な石のナイフをユリシーズの咽喉に突きつける。
「動かないで。必要以上のことは喋らないで」
「ひっ!?」
人質の食器は木製、刃物は部屋に置かれず、宮殿の奥に武器を持って入れる者は少ない。細い鵞ペンは武器にもならない。
このナイフは『切り札』だった。部屋の大理石の壁を密かに剥がし、磨いて作ったものだ。
「み、ミス・タバサ。ご冗談を」
「冗談ではない。『杖』を返し、私とルイズを脱出させて。さもないと、このまま咽喉を切り裂く」
「動かないで。必要以上のことは喋らないで」
「ひっ!?」
人質の食器は木製、刃物は部屋に置かれず、宮殿の奥に武器を持って入れる者は少ない。細い鵞ペンは武器にもならない。
このナイフは『切り札』だった。部屋の大理石の壁を密かに剥がし、磨いて作ったものだ。
「み、ミス・タバサ。ご冗談を」
「冗談ではない。『杖』を返し、私とルイズを脱出させて。さもないと、このまま咽喉を切り裂く」
これは殆ど『賭け』だ。だが、私たちの事に責任を持たされている男。
『杖』の場所は分かるかもしれない。城壁の外には、シルフィードも待機させた。
そこまで逃げれば、あとは一直線にトリステインへ。ワルド子爵たちも待っている手筈だ。
衛兵たちも気が緩み、今は戦争騒ぎで浮き足立っている。警備も手薄になりだした、今が好機のはず。
私もいつまでも大人しくしているわけには、いかないのだから。
『杖』の場所は分かるかもしれない。城壁の外には、シルフィードも待機させた。
そこまで逃げれば、あとは一直線にトリステインへ。ワルド子爵たちも待っている手筈だ。
衛兵たちも気が緩み、今は戦争騒ぎで浮き足立っている。警備も手薄になりだした、今が好機のはず。
私もいつまでも大人しくしているわけには、いかないのだから。
「ルイズの部屋の鍵は今開いている?」
「い、イエス」
「女官たちは何人? 衛兵は?」
「に、入浴の準備で、今は女官だけ二・三人のはず。衛兵は外に少しいるだけ」
「『杖』はどこ? 宝物庫にあるなら、鍵の在処も」
「……言えません。貴女がたを逃がせば、私はどの国にもいられなくなる」
「い、イエス」
「女官たちは何人? 衛兵は?」
「に、入浴の準備で、今は女官だけ二・三人のはず。衛兵は外に少しいるだけ」
「『杖』はどこ? 宝物庫にあるなら、鍵の在処も」
「……言えません。貴女がたを逃がせば、私はどの国にもいられなくなる」
ユリシーズは自分の杖を抜こうとするが、素早く手首を捻り上げて脱臼させ、這い蹲った彼から杖を奪う。
「これは預かっておく。命が惜しければ、協力して。
上手く脱出できれば、ガリア王国で平民として再出発させてあげてもいい。報酬も出す。
トリステインやアルビオン王党派とは、弁護もするが上手く交渉すること。国王殺しの共犯者として、命懸けで」
「そりゃ無理です! 分かりました、協力しますよ!」
「これは預かっておく。命が惜しければ、協力して。
上手く脱出できれば、ガリア王国で平民として再出発させてあげてもいい。報酬も出す。
トリステインやアルビオン王党派とは、弁護もするが上手く交渉すること。国王殺しの共犯者として、命懸けで」
「そりゃ無理です! 分かりました、協力しますよ!」
拷問を始めるまでもなく、ユリシーズは『杖』の場所をあっさり吐いた。
体術だけでも私に敵わないと見て、観念したらしい。信用はしないが、言われた物置部屋を探ったら杖は見つかった。
「クロムウェル陛下は変人過ぎて、あまり人気はありません。そのうちボロが出て負けるでしょう。
エルフどもに勝つなんて夢物語、アルビオンは滅びます。ガリアの『無能王』の方がまだマシ。
こうなりゃ、俺も腹を括りますよ。……あ~あ、また失業か」
体術だけでも私に敵わないと見て、観念したらしい。信用はしないが、言われた物置部屋を探ったら杖は見つかった。
「クロムウェル陛下は変人過ぎて、あまり人気はありません。そのうちボロが出て負けるでしょう。
エルフどもに勝つなんて夢物語、アルビオンは滅びます。ガリアの『無能王』の方がまだマシ。
こうなりゃ、俺も腹を括りますよ。……あ~あ、また失業か」
砕けた口調にふっと笑い、私は荷作りする。衣服と財布と飲食物と『トラクス伝』の原稿、あとはたいした物はない。
ユリシーズの杖は預かっておき、両手首を縄で結ばせてもらう。おかしな真似をすれば眠ってもらおう。
「奴隷になった気分……いや、そういう趣味はないですから、俺」
「トラクスは鎖で手足を縛られ、毎日鞭で叩かれていた。しばらく辛抱して」
ユリシーズの杖は預かっておき、両手首を縄で結ばせてもらう。おかしな真似をすれば眠ってもらおう。
「奴隷になった気分……いや、そういう趣味はないですから、俺」
「トラクスは鎖で手足を縛られ、毎日鞭で叩かれていた。しばらく辛抱して」
ルイズの部屋に侵入し、静かに女官を眠らせて彼女を救出する。流石にトラクスの部屋には行けない。
ラ・ロシェールではまた血の雨が降るだろう。私は彼と対峙し、それを止める事ができるだろうか。
ラ・ロシェールではまた血の雨が降るだろう。私は彼と対峙し、それを止める事ができるだろうか。
宵闇に隠れて、三人は宮殿の裏側の城壁へ近づく。ふわりとシルフィードが舞い降りた。
「げっ、この風竜は……!」
「ミスタ・ユリシーズ、貴方のお喋りに感謝する。これは私の使い魔、シルフィード。
ウェールズ皇太子を逃したのも彼女。感覚共有により、トリステインの首脳に逐一報告をしていた。
『レコン・キスタ』侵攻の第一報も帰還して送る。奇襲は不可能」
「しまったあ、こいつを忘れてましたよ! うわあ、俺やっぱダメッピくんだああ!」
「くっ、くくくくく、笑わせないで二人とも。さあ、帰りましょう! 我が麗しのトリステインへ!!」
「げっ、この風竜は……!」
「ミスタ・ユリシーズ、貴方のお喋りに感謝する。これは私の使い魔、シルフィード。
ウェールズ皇太子を逃したのも彼女。感覚共有により、トリステインの首脳に逐一報告をしていた。
『レコン・キスタ』侵攻の第一報も帰還して送る。奇襲は不可能」
「しまったあ、こいつを忘れてましたよ! うわあ、俺やっぱダメッピくんだああ!」
「くっ、くくくくく、笑わせないで二人とも。さあ、帰りましょう! 我が麗しのトリステインへ!!」
開戦まで三日。トリスタニアからラ・ロシェールまで、早馬で二日。
アルビオンからラ・ロシェールまで、最大に近づいた時でもフネで約半日。ギリギリだ。
しかし、シルフィードの速度なら大丈夫。彼女は馬の数十倍の速度で飛ぶのだから!!
「ああ、爽快!! ざまあみろだわ、トラクスにクロムウェル!
あんたたちなんて、始祖ブリミルが許しておかないんだから!! あっははははははは!!!」
アルビオンからラ・ロシェールまで、最大に近づいた時でもフネで約半日。ギリギリだ。
しかし、シルフィードの速度なら大丈夫。彼女は馬の数十倍の速度で飛ぶのだから!!
「ああ、爽快!! ざまあみろだわ、トラクスにクロムウェル!
あんたたちなんて、始祖ブリミルが許しておかないんだから!! あっははははははは!!!」
アルビオンの夜空に、解放されたルイズの哄笑が響き渡った。
(続く)