あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

豆粒ほどの小さな使い魔-5




食堂につくまでに、席についてからも何度か周りから悪口を投げかけられるルイズ。言い返すのは同じだけど、その度に小さく、これじゃだめなのにと呟いていた。
変わろうとしているらしい。それが難しいことを私も知っている。だから、尊敬に近いものを感じた。
ルイズに言われたから、私は部屋においていくつもりでいた木の実の殻のコップも持ってきた。ドングリよりも皮が少しだけ薄い。
愛用の工具があれば取っ手をつけたり彫刻をしたりするんだけど、当分は無理だろう。他にもしないといけないこと沢山あるし。

シエスタに、おべんとうのお礼を。コップを見せたとき、自分も子供の頃お人形遊びで同じような物を作ったと。
「そうよ! 人形の家具があるじゃないの」
なるほど、ここでも人間の女の子はお人形遊びをするのか。違うようでいて、ニホンと似てるところも意外と多いのかもしれない。
早く探索を、ガッコウの中だけでもしたい。考えるのには、正確な情報が、沢山いる。
野菜だと思ってたら、すごくにがい。灰汁抜きをしたら少しは食べやすくなると思う、けど、これは。
ルイズも私も残してしまった。ただこの匂いは、虫除けの香草に似てる。
「るいず、コレハ、ヤクソウ?」
「え? さぁ、知らないわ。薬に使うなんて聞いたことないから」
パンの欠片を浸して食べた羊のシチューはとても美味しかった。

* *


部屋に戻って、どこにハヤテのお部屋を作るか決めようとしたんだけど、その前にハヤテが小さな声で、窓を薄く開けておいてくれないかと言ってきた。
まぁ構わないけど。
「それで、どんなところがいいのかしら」
連絡員の部屋が隠されてるのは、人間にその姿を見られないようにするため。だけどハヤテが私の使い魔だということは隠してない。
「こそこそする必要もないんだから、大事なのはハヤテが過ごしやすい場所であることよ」
自明の理なのに、ハヤテの方が少し、照れてるのかな? 遠慮することなんてないのに。
「デモ、るいずノ仮ノ連絡員ナンダカラ、連絡員ラシクシタイ」
照れてるんじゃなくて、何かこだわりがあるみたい。
言いたいことをちゃんと言ってくれるのは、分かりやすいし、何よりすっきりする。また一つ、ハヤテの好きなとこが見つかった。
クローゼットや引き出しの中は、出入り口を作るのがちょっと大変そうだから、今は無理かな。人形の家をそのまま使うのはいや。さて、
「るいず、小サイ明カリッテ、ナイ?」
「あっ、そうか、中が真っ暗になるようじゃ困るんだ」
それってかなり条件が難しくないだろうか? それともコロボックルは、暗くても平気なの?
「夜目ハ利クケド、部屋ガ暗イト、困ル」
ハヤテは、自分の顔くらいの円を作って、彼女の国には、そのくらいの大きさの明かりがあるって。
「ごめん、そんな小さな明かりは私には用意できそうにないわ」
隠れ家を作るのって、難しいのね。
「難シイ、ダカラ楽シイ」
ハヤテは、ちょっと自分でも探してみる、と、その一言を残して一瞬で姿を消した。小人の視点で見たら、また違った答えが出るのだろう。
何しろ人間の目に触れることなくここまで来た種族なんだから。
私は、使い魔を守る義務がある、ううん、ハヤテを誰にも渡したくない。
ベッドに背中から倒れこんで、天井を見据える。
昨日今日と、クラスメイトとはまともに話してない。考えてみれば、運がよかった。だからこの先の態度を今決めないと。
珍しい、希少な使い魔を迎えられたことを、自慢してやりたかった。声を大にして皆に向かって叫びたかった。
だけど、それで得られるのは? 子供の満足感だけだ。
ハヤテがそこにいるのが当たり前だという態度。自然に。そう思うと浮かんでくるのは、ちい姉様。
ちい姉様の部屋にどれだけ珍妙な動物がいようと、あのほんわかした癒しの空気に触れると、どうでもよくなって、あたりまえのように思えてしまう。
ハヤテの本当のことを知るのは、ハヤテが信用した相手だけでかまわない。
もしかしたら、これは自分が変わることの第一歩になるんじゃないだろうか。
ちい姉様は、どうしてあの動物たちを相手に自然でいられるんだろう。正しい問いは答えをその内に含んでいる。ちい姉様にとって、彼らが自然な存在だからだ。
きっと人にそのまま言ったら、ふざけるなと言われそうだけど、でもそうなんだ。
昨夜よりも今朝、今朝よりも今、段々にハヤテを相手に緊張しなくなってきてる。
ハヤテのことが少しずつ分かってきて、ハヤテも私のことを少しずつ分かって……もっと潜る……私のことを、知りたいと思ってくれたから、だ。
今日の遠乗り、もの凄く大きな意味があったと、今更ながら。
それともう一人。私は、ハヤテと同じ髪の色をしたメイドに、少し興味を抱いた。話して、どんな人かなってちらっと。
シエスタは? 私を、学院の生徒の一人から、ルイズ・ド・ヴァリエールと見てくれるようになっただろうか。


途中から、取りとめのない空想に入ってた枕元に小さな影がとんと飛び降りてくる。
「あ、ハヤテお帰りなさい。どう? いいところは見つかった?」
「本棚ノ、一番上ノ段、アソコニ、はんかちデ仕切リヲ作リタイ。ダメ、カナ?」
「あそこに?」
ハヤテを肩に乗せて、指差された本棚に行ってみる。
ここも自分で掃除してるし、奥行きもそこそこあるんだけど、こんなに簡単なところでいいのか、逆に不安になった。
「アノネ、るいず、一回、入口ニ行ッテミテ」
そうして、ドアのところから部屋を振り返って……
「……あ」
ドアの開く向き、それに私が机に座ってれば余計に、入ってきた人からは本棚の中は全然見えない。
それに、ハヤテが指し示した場所は、はっきりと意識してじゃないと、まず目を向けない場所なんだ。
ちょっと、ぞくりとした。
ハヤテの小さな姿を見て、彼女の中にどれだけのものが詰まっているのか、予測できる人は殆どいないんじゃないだろうか。ただ珍しいと思うだけで、その中身までは。
ハヤテは、人間のことをよく知ってる。
ドラゴンやサラマンダーとは、方向性が全く違う、もの凄い大当たりだ。自分の幸運に眩暈がした。
「必要なのは、凄い工夫とかじゃないのね」
魔法も、本当は、もしかしたら、そうなんじゃないだろうか。必要なだけの速さ、必要なだけの強さ、杖を持っていない右手が、自然に握られる。
今、何かヒントが頭の中をすり抜けた気がする。後で思い出してみよう。
「参った、降参だわ。一回本を全部どけて、ちゃんと掃除するから、ハヤテはどのハンカチがいいか選んでてくれる? 他にも欲しいのがあったら」
元々一番上の段は半分も使ってなかった。手を伸ばすのがちょっと面倒だったから、普段あまり読まない本を入れてただけだし。
本を机に移して、水拭きと乾拭きを、奥の仕切りも背伸びしてちゃんと拭いた。
これ以上は、ハヤテが自分で掃除すると思う。私の目には奇麗でも、ハヤテにはゴミが見えてるだろうし。
「本は、左側に寄せておけばいいのよね」
「ウン」
返事の度に私の肩まで戻るのでは、ハヤテが大変だ。かと言って頷いたり手を振ったりしても、ハヤテじゃ小さすぎて見えない。
「ダッタラ、コレ、ドウカナ」
ハヤテが右手を口にやる。そこから、
ピュイッ
けして大きくないけど、鋭い口笛の音が響いた。節を変えながら、もうニ回。
「最初ノ音ガ、『ハイ』、次ノ音ガ、『イイエ』、最後ノガ、『るいず』ッテ呼ブ音。ドウ?」
聞いて思った。まるで、鳥の囀りだ。
「ばっちりよ! ハヤテって何でもできるのね」
これも、マメイヌ隊の合図だとか。囀りに似てると思ったのも正解で、もっとずっと沢山の節回しがあるんだって。
試しに、長めのを拭いてもらったら、耳に馴染みはないけれど、こんな鳥もいるかもと思わせるくらい上手だった。
「ねえ、今のは何を伝える合図なの?」
ぱちぱちと拍手をしながら聞いてみた。
「『さくらノ技師ガマタ実験ニ失敗シタカラ、大至急後片付ケヲ手伝ウコト』 私ガ最初ニ覚エサセラレタ合図」
真面目な顔で言うものだから、笑っていいのか一瞬迷ってしまった。
「さくらノ技師ハ、国デモ一番ノ技師。デモ一番沢山シッパイスル技師。トッテモイイ人。ヨクオ菓子クレル」
余計分からなくなってしまった。ただ、ハヤテはそのサクラノ技師のことがかなり好きなんだということはよく分かった。


「明日外で、合図がどれくらい離れても聞こえるのか、試してみましょうね」
ハヤテがカーテンの代わりに選んだのは、地味な色合いのハンカチだった。ピンで端を止めれば外からは見えないし、重りを置けば風でまくれることもないだろう。
キュルケが部屋に飛び込んできても、まずハヤテの部屋だとは気づかれないと思う……私が変な態度をしなければ。
「まだ寝床とかもないし。あ、この小物入れあげるから使って」
中に入っていたイヤリングを別の小箱に移して、ハヤテにプレゼントする。
まだ持ち物はないけど、その内増えるはずだし、くつろぐときには剣とか外してもいいと思う。
「アリガト、るいず」
一番白くて目の細かいハンカチも一枚進呈。
「これは、切り取って、布として使ってもいいからね」
肌触りのいい上等のそれなら、ハヤテの肌を傷つけないし、私のお気に入りをハヤテが身近に使ってくれると思うと、胸の辺りがこう、あったかくなる気がする。


もしも、今日、誰かが私の部屋の音を聞いてたら、私の独り言と鳥の囀りがまるで話してるみたいに聞こえたんじゃないかな。




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