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マジシャン ザ ルイズ 3章 (22)

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マジシャン ザ ルイズ (22)ウルザの時計

ルイズは霧の中にいた。
濃い白乳色をした、濃密な霧。
視界は白、その他の色は一切何も見えない。

――誰かいないの?――

彼女がそう口にすると、目の前に突如人影が現れた。
先ほどまで影も形も無かった場所に突如現れた人物にルイズは驚きの声をあげる。
ましてや、目の前にいる人物の姿を目にしてはなおさらであった。
目の前に現れたのは小柄な少女。髪は桃色のブロンドに目は鳶色、身には魔法学院の制服を纏っている。
そう、それはルイズ自身であった。

「この次元に来るのはとても久しぶりね、懐かしいわ」
こちらの反応を見て、さもおかしそうに口元を隠して笑う少女。
――あ、あなたは一体だれ!?何で私の姿をしているの!?――
くつくつと笑いながら彼女は答えた。
「最初の回答、私はあなたの先祖、始祖って呼ばれてるみたいね」
――!!――
驚きで声も出せないルイズを愉快そう笑う少女。
「次の回答、私に姿なんて無いわ。面倒だからあなたの姿や声や喋り方を借りてるだけよ」
自分の胸に手を当てながら答える仕草は、確かにルイズもたまにしてしまうものであった。
――わ、分かりました。けれど始祖様はどうして私めにお姿をお見せ下さったのですか――
その言葉を聴いて始祖は明らかに機嫌を崩したようだった。
「ちょっと、そういう口調はやめて貰えないかしら。なんだかムズムズするわ」
腰を折り曲げて上目遣いに睨みながら片手にもった杖でルイズをつんつんつつきながら言う少女。
――は、はい。わかりました……――
「わかった、でいいわ。じゃあ次の回答ね、面白そうだったからよ」
あっけらかんと言う始祖、流石にこの言葉にはルイズも言葉が詰る。
「何をしようと思った訳でもないのだけれど……。そうね、あなたの疑問に答えてあげるわ」
ふふん、と薄い胸を誇示するように胸をそらす始祖。
――疑問?――
「そう、疑問。どんな疑問にでも答えてあげるわ」
神の如き、いや、神そのものと時に称される存在が、ちっぽけな存在である自分の疑問に答えるという。
一体何を聞けばいいのか、自分の未来?それとも虚無について?あるいはあのワルドについて?
頭が混乱して何を聞けばいいのか分からない、けれどルイズの口はすっと一つの疑問を紡ぎ出していた。
――ミスタ・ウルザはどんな人間?――
言ってからはっと気付いて両手で口を塞ぐルイズ、聞き届けた始祖はにやにやと笑っている。
「そんなことは本人に直接聞けばいいことじゃない」
そう前置きしてから
「でも、この際だから本人にも分からないことを教えてあげるわ」
杖を高々と振り上げた。




気付くと、空の上にいた。

――きゃああああああ!?――
落ちる、と慌てて手足をバタつかせるルイズだったが、落下の浮遊感はいつまでたっても訪れない。
恐る恐る目を開くと、そこにはルイズと同じように宙に浮かんだ始祖の姿。
「大丈夫、落ちたりなんてしないわよ。それよりほら、始まるわ」
まるで劇場に足を運んでいる客のような口ぶりで、彼女はある一方を指差した。


そこには、闇があった。


闇に触れるだけで草木が、大地が、空気までもが腐り果てた。
黒、漆黒、この世にこんな色が存在することに驚くほどの、光を全て吸い込むような黒。
それが広がっていく。全てを巻き込んで、人も街も巻き込んで。
――何、あれ――
顔色を失ったルイズが呟く。
「あれは■■■■■」
――え?――
始祖の声を聞き取れなかったルイズが聞き返した。
「だから■■■■■よ」
再び顔に疑問符を浮かべるルイズ。
「ああ、もしかしたら聞こえないんじゃなくて分からないのかもしれないわね。だとしたら、それはあなたの防衛本能だから無理に理解しようとしなくていいわ」
ルイズには始祖の言うことの半分も分からなかったが、『アレ』が理解するだけで穢れる存在であることは何となく察することができた。

――ここは、どこなんですか?私、あんなもの見たことが無いわ――
「この次元は『ドミナリア』という世界よ。アレについては見たことが無くて当然、『ハルケギニア』にあれが現れたことなんてないもの」
『ドミナリア』。
ルイズもその単語には聞き覚えがあった。確かウルザが自分の生まれた世界だと語っていた名前だ。
「そう、あなたの使い魔として呼び出されたプレインズウォーカー・ウルザのいた世界よ。そして…」
再び始祖の少女は暗黒を指差す。
「あれこそが、彼が立ち向かっていた邪悪よ」


それから二人は、次々と時間と場所を跳び回り、様々な場面を目にした。
そしてルイズが目撃したものは、悲惨の一言に尽きた。

世界は荒廃していた。
森は腐り、山も腐り、草原も腐り、島も河も腐っていた。
国も、街も、人も、全てが腐り果てていた。
人間、エルフ、ミノタウロス、ドワーフ、トカゲや猫の姿をした亜人、それらは団結して恐るべきファイレクシアの異形の兵達と戦っていた。
けれど彼らも傷つき倒れ、やがて最後には腐れていった。


――何が、起こっているの?――
「侵略/Invasion よ」


次に場面を移した時、ルイズが目にしたのは一人の勇士の姿であった。
彼の全身は汚らわしい血に塗れている。
その周囲には数え切れないほどの、ファイレクシア人の亡骸。
鬼神の如き勇猛でもって人々に希望をもたらすであろう、勇者。
だが、そんな希望など、■■■■■は認めない。
「――――――!!」
邪悪を討つべく立ち向かった彼を

 闇が呑み込んだ。

それからは繰り返しだった。
様々な場所で、様々な勇者によってそんなことが繰り返される。
「アレ」と始祖が呼ぶものは、どんなものでも貪欲に呑み込んだ。
全てが食らい尽くされる。

そのような光景が何度か繰り返され、次にルイズが目にしたのは風変わりな老人であった。
彼は闇がすぐそこまで迫っていることを知りながらも、一心不乱に手に持った本を修正している。
――彼は何をしているの?――
「彼は予見者、未来を知るものよ。彼はその力で歴史書を書いていたの。
 そして、今彼はその歴史書を修正しているところよ」
――早く逃げなくちゃ、闇に飲みこまれてしまうわ!――
「そうね。でも、彼にとって歴史書に書かれた『世界の終焉』を書き直すことこそ、最も重要なことなの」
そう言った始祖は、闇に覆われようとしている男を見た。
彼は必死に自分が視た歴史を修正しようとしている、けれど……

 『黙示録』の予言を修正する直前、彼は暗黒雲に呑み込まれてしまった。

ルイズが余りに救いの無い結末に絶句する。
けれど始祖の少女はさして気にしたふうも無く杖を振るった。
次にルイズ達の前にいたのはモジャモジャのあご髭を備えた海の男だった、
彼は海から汲み上げた膨大な青色をした魔力で、暗黒雲に抵抗していた。
けれど、それが徒労であろうことは明らかである。
――さっきの人と同じような感じがするわ――
「ふぅん。分かるのね、まあいいけど」
――この人もまた、飲み込まれてしまうの?――
「いいえ、彼の場合は少し違うわ」
ルイズが改めて髭の男を視たとき、丁度彼は何かを決意したようであった。
彼は迫る暗黒に対峙し、その直後、呑み込まれた……ように見えた。

――闇が、海を避けてる?――
「いいえ、拒絶しているのよ。
 彼はその身を生贄に捧げて、彼が最も愛した友人達と海を守ったの」

次に場面を移した時、そこは多少風変わりな光景が広がっていた。
大樹の枝の上、そこには一組の男女がいた。
二人とも背が高い、男性は勿論、女性も一八〇サントはあるだろうか。
光景が風変わりだったのは、男女がいたからだけではない。
上空からはあの闇が迫っていたが、同時に彼らの足元では激しく業火が猛っていたのだ。
下に燃え盛る赤、空の青、樹木の緑、そして暗黒の黒、そして寄り添うように抱き合う二人。
なんとも美しい、同時に哀しい光景であった。
――あの二人は恋人同士なの?――
「ええ、そうよ。男性はエルフ達の王、そして女性は人間の英雄よ」
――エルフと人間?――
ルイズは驚いて男を見た。確かにそこには噂に伝え聞く、エルフを表す長い耳があった。
「彼らにとって種族の違いなど些細なことなのよ」
確かに、人間の女性はエルフの男を心から信頼しているようだった。
「そんなことよりも、見なさい」
エルフの男が、女性になにごとかを語りかけた。
彼女は男に寄りかかり、最後のキスをする。
そして微笑み……

 闇に飲み込まれるより先に、二人は身を投げた。

泣きそうな顔で、ルイズは二人を見届けた。

酷い、余りに酷い。
世界中が悲しみに包まれている。
闇が広がる速度は速い。これまでルイズが目にしたものは悲劇のほんの一部分。
ほんの一部分でも分かる、この世界は悲劇に満ちている。

「次で最後よ」
そう言って跳躍を行ったルイズ達。
そこでは激しい口論が行われていた。
「何故ジェラードがやらなけばいけないのですか?
 貴方の眼からパワーストーンを取り出すぐらいなら私だけでも出来ます!」
そう言ったのは、銀色に輝いた驚くほど表情豊かなゴーレム。
「ジェラードはただの相続人ではない、彼もレガシーの一部なのだよ」
こう喋ったのは、ジェラードと呼ばれた男に抱えられた切断された人間の頭部であった。

――ミスタ・ウルザ!?――
目をむいて驚くルイズ。
頭だけの姿で喋っていたのは、なんと彼女の使い魔であったのだ。
驚くルイズを見て、始祖の少女はきゃらきゃらと声を出して笑う。
「悪かったわ、うん、つい面白かったから。
 ええと、そこにいる銀のゴーレムがカーンという名前、首はご存知ウルザね。そしてもう一人はジェラードという名前よ」

カーンが苦しそうに呟く。
「我々にどんな選択肢があると言うのです?」
それは本当に辛そうな声色で、彼がゴーレムであることを忘れてしまいそうなほどであった。
ジェラードが返す。
「この選択しかない。勇士の選択さ」
その表情は、笑っているようで泣いているようでもあった。

――ねぇ、彼らは何を相談していたの?――
会話から緊張と悲壮な決意を感じ取ることはできたものの、ルイズにわかったのはそこまでであった。
「あの闇を滅ぼす唯一の方法について、彼らは話し合っていたのよ」
――あれを?あの闇を滅ぼすことができるの!?――
ルイズがこれまで見てきたのは絶望ばかりである。
そんな中で始祖の少女の口から零れた希望、それを聞いたルイズは顔を輝かせた。
それを見た少女は、口の端を吊り上げて面白そうに囁いた。
「ええ、たった二人の犠牲でね」
――犠牲?――
その様子に不安なものを感じたルイズは、始祖の少女に聞き返す。
少女は、ルイズの耳元に口を近づけ、静かにこう答えた。
「ウルザとジェラード、二人の命」
ルイズの写し身の少女が、指をパチンと鳴らした。



結果として『ドミナリア』は救われた。
自らを生贄に捧げたウルザとジェラードの二人の犠牲によって。
清き白きマナを用いて邪悪なる暗黒は洗い流され、世界は救われたのだ。

『さようなら、ドミナリア』

それが、ウルザの遺した、長い生涯で最後の言葉であった。



――うう、うっ……ああっ、ぁ、う、うううぅぅっ、わああああぁ!!――
ルイズは最初に目にした白乳色の霧の中で泣いていた。
――どうしてっ!?どうしてよっ!?あんなに頑張って、あんなに戦って!それなのにあんな最後なの!?――
ジェラードはウルザの瞳を抉り出し、無事に闇を打ち払った。
そしてその代償として、二人は命を落とした。
英雄譚、これこそがウルザのサーガの結末。
――どうして!?どうしてよっ!? ねぇ、答えて!――
喚き散らすルイズ。
彼女の声は始祖の少女だけに向けたものではない。
ウルザ、そして彼を取り巻く世界へと向けたものであった。

「どうしてって、それはウルザが望んだからよ。
 彼は望み通り、■■■■■を討ち滅ぼした。
 例え命を失ったとしても、それはきっと彼の本望だったはずよ」
――そんなこと――
あるだろう。
ウルザという男の最奥を、あのキュルケの部屋で視たルイズには分かる。
彼は、目的のためならどんな犠牲も厭わない。
例えそれが自分自身であろうとも。
――狂ってるわ――
「プレインズウォーカーとはそういうものよ」
そう即答した始祖は、先ほどに比べて存在感が希薄であるように感じられた。
「そろそろ目覚めの時間みたいね。
 今まで見ていたものは全て泡沫の夢、とるに足らない幻想のひとかけら。
 でも、折角の経験ですもの。何かに活かしてもらえたら私としても嬉しいわ」
存在感だけでなく、姿までも薄れていく桃色のブロンドをした始祖。
――まって!――
笑顔で手を振って何処かへ去ろうとする始祖に、ルイズは咄嗟に声をかけた。
――あれがミスタ・ウルザの過去なの?あれはもう既に過ぎ去った事実なの!?――
その言葉を聞いて、存在の希薄化がピタリと止まった。
「いいえ、違うわ。あなたに見せたものは『起こりえた未来』よ。
 あるいは『起こるはずだった未来』かもしれないわね」
――え?――
「あなたの召喚によって、あなたも、そして彼も、既に『決められた未来』の道筋からは外れているわ」
ルイズはその言葉をゆっくりと噛み締める。
――つまり、あの未来はもう起こらない未来ってこと?――
「それは分からないわね。あなたが召喚によってあっちの世界にどんな歪みが生じたかも分からないし。
 何よりも、彼が望むのなら結果として同じような結末を迎えることになるでしょうね」
――つまりはまだ、何も決まってないってことよね――
「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れないわ。
 折角なんだし、あなたの目指す最善の未来を目指せばいいんじゃないかしら」

その言葉を最後に、白乳色に包まれた世界が弾けた。




ルイズが重いまぶたを持ち上げると、そこはランプの灯りに照らされた豪奢な部屋であった。
天蓋付きのベットは兎も角、高価な調度品類や家具が目に付く。
そこはいつも寝起きしている、魔法学院の寮の自室ではないようだった。
そして、ルイズの寝ているベットの横、ランプに向かい合うようにして座っているウルザ。
「あ……」
朦朧とした意識が立ち直り、それまでの記憶が怒涛のように蘇る。
魔法学院からの脱出、船やドラゴンとの戦い、メンヌヴィルと名乗った男、空に浮かぶワルド。
虚無の呪文を唱えようとしたところまでは覚えているが、次の記憶はあの自分と同じ姿をした始祖ブリミルを名乗る少女との出会いであった。
ルイズが必死に記憶を掘り起こそうとしていると、横から静かな声がかけられた。
「目が覚めたかね」
彼は手元で何かを弄りながら、そうルイズに話しかけた。
「ミスタ、ウルザ……」
彼の名前を呟くと、ルイズの脳裏に先ほどまでの記憶がさまざまと蘇った。
言葉を続けられないルイズに、ウルザは作業を中断せずに語りかける。
「君に、伝えなくてはならないことがある」
静かに紡がれるその言葉。
ルイズはその言葉の裏側にある感情を感じ取りながら、黙って次を待った。
やや間を置いてから、ウルザは口を開いた。


「君に残された時間は長くない」

告げられた、その言葉。
そこに隠された感情が、今のルイズには手に取るように分かった。
それは苦悩。


重苦しい沈黙が訪れた。

けれど、一方でルイズは言葉を冷静に受け入れるている自分に驚いた。
突然に自分の余命を告げられたというのに、どうして自分はこんなにも落ち着いているのだろうか。
ルイズは顔を横に向けて、ウルザを見た。
そして理解する。
(ああ、こんなに悲しい顔をしている人がいてくれたからね)
仮面のような無表情、それこそがこの男の知恵に他ならなかったのだ。
どんな時でも、常に背中を向けていたことも同じ理由。

つまり、彼はこうなることが分かっていたのだ。
自分の目的の為に犠牲にするであろう少女を、彼は最初から悼んでいたのだ。




「ミシュラと、タカシア、それにカイラ。どんな人達だったの?」
床に伏せたままのルイズが発した、その言葉にウルザを驚いた。
「あなたが倒れているときに、口にしていたの」
そんな変化も一瞬のこと、ウルザは再び手元に目を向けて作業を再開した。

それから、長い時間が過ぎた。
あるいは一分ほどだったかもしれない。
その沈黙はルイズには十分にも一時間にも感じられた。
やがて忙しく手を動かしていたウルザの手が止まった。

「これを、君にあげよう」

そう言ってウルザがルイズに差し出したのは、小さな懐中時計だった。
丸い、無骨な時計。
洒落っ気や色気とは無縁な、ただ時を刻むだけの時計。
まるでそれ自身が自分とウルザの関係を表わしているようで、ルイズは小さく笑った。
そして、大切そうに両手で抱いた。


「……トカシアだ」

唐突に、ぼそりと口にされたウルザの言葉。

「……え?」



「トカシアだ。彼女は私の育ての親でもあり、教師でもあった女性だ。
 ミシュラは私の弟。そしてカイラは私の妻だった女性の名だ」



                   時間は大切。でもね、私は時間に追われるような生き方は真っ平よ。
                                  ―――ルイズ


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