あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-12-2


   * * *


 鋭い声に、空は振り向く。
 金髪の少女が居る。
 見事な巻髪は、高校生の身でありながら、部員達に“婦人”と呼ばれてフケ顔を論われていたテニスプレーヤーを連想させる。
 また、一人増えた。千客万来だ。

「ギーシュっ!動かないで!そこに居なさい!」

 お蝶婦人擬きは怒りの形相で歩み寄る。

「ボーズ。知り合いか?」
「ああ。彼女はモンモランシ家のモンモランシー」

「ギーシュ!平民なんかと話してないでっ。こっちを向いて」

 モンモランシーはギーシュを無理矢理振り向かせた。

「どうしたって言うんだい?モンモランシー」

 ギーシュは戸惑った。
 葡萄酒の瓶で頭をカチ割られて以来、モンモランシーとは会っていない。
 それが、いきなり、こんな所にまで訪ねた来た。
 一体、どうなっている?

「ねえ、ギーシュ。貴方、こんな所で何をしているの?」
「決闘だっ。先の汚名を雪ぐ為、ミスタ・空に戦いを挑むのだ」
「何、言ってるのよ、馬鹿っ!」

 モンモランシーは大声で怒鳴り付けた。

「あんた、今、自分がなんて噂されてるか、知っているの?ギーシュ・ド・グラモンは平民に負けて、平民に成り下がった、よっ!」
「その不名誉を返上する為にも、僕は勝たなければいけないのだ」
「何言ってるのよっ!貴族と平民で決闘が成り立つ訳が無いじゃないっ!放っとけば、皆忘れるのよっ!そんな風に言われるのも、平民なんかを追い回してるからだわっ!」
「モンモランシー!ああ、判ってくれ、モンモランシー!僕は貴族だ!決して後を見せない者だ!決闘における不名誉は、決闘で雪ぐ事しか出来ないのだ!どうして、噂が過ぎ去るのを、背を丸めて待つ事が出来るだろう!」
「それだけじゃないでしょっ!私、知ってるのよ!」

 その一言を聞くと、未だ何も言われていないのに、ギーシュは息を飲んだ。恋多き男の、悲しい性だ。
 私、知っているのよ―――― 一体、何度同じ言葉を聞いた事か。

「あんた、毎日の様に、あのへんてこな靴履いたメイドの所に通っているじゃない!どう言うつもりなのよ!」
「み、ミスタ・空に勝つ為にも、彼女の助力が必要なのだっ!」

 ギーシュは叫んだ。
 そう。
 その為だけですよ。
 決して他意は無いのですよ?

「ああ!ギーシュ、私見ていられないのよ!貴方がそんな風にして、不名誉にまみれて零落して行くのを見るのは耐えられないの!」
「モンモランシーっ?」

 おや――――これはひょっとして!?……ギーシュの胸に、淡い期待が湧く。

「ねえ、お願いよ、ギーシュっ!約束してっ!もう、平民を追い回す様な事しないってっ!」

 モンモランシーが戻って来てくれるなら、それでも――――そんな風に考えて、空に振り向く。
 車椅子の男はにやにやと成り行きを見守っている。
 その横に鎮座するワルキューレ。青銅の車輪が光沢を放つ。

「……すまない、モンモランシー」
「ギーシュっ?」
「それは出来ない」

 ギーシュは言った。苦渋の表情だった。
 モンモランシーが戻って来てくれれば、確かに嬉しい。
 だが、今までして来た事はどうなる?
 このワルキューレは、彼女が言う様に、平民を追い回したからこそ生まれた物なのだ。

「ギーシュっ!どうしてよ!どうしてっ!?」
「許してくれ、僕の愛しいモンモランシー。これは僕の名誉の問題だ。誇りの問題だ。悲しいかな、男には、例え行く手に何が待ち受けていようとも、成し遂げなければならない事が有るのだ」
「ギーシュ……」

 何時にない真剣な眼差しに、モンモランシーは言葉を失った。



「そうね……私が間違っていたわね」
「モンモランシーっ!」

 ギーシュは喜びの声を上げる。
 良かった。彼女も許してくれた。判って――――刹那、モンモランシーの形相が鬼女のそれに変わる。

「あんたが話せば分かるお利口さんだなんて一瞬でも考えた、私が間違っていたわね~~っっ!」
「ひっ!――――」

 マズイ!
 マズイマズイマズイ!
 本気で怒らせてしまった!

「も、モンも……」

 怯むギーシュに、モンモランシーは叫ぶ。

「決闘よっっ!」



「あら、そっちも決闘なの?」

 キュルケは言った。
 呆れているのか、面白がっているのか、どちらともつかない口調だった。

「モンモランシー!そ、そんなっ……!」
「私が勝ったら、馬鹿な事は金輪際、止めて貰うわよっ。さあ、勝負の方法を決めて。私は平和主義者だから、平和的な方法がいいわ」

 ギーシュは説得の不可能を悟った。元より、貴族が発言を取り消せる訳も無い。
 平和的な決闘……どんな決闘だ?

「なんや。そっち、先に済ませた方が良さそうやな」
「ミスタ……」

 その声に、ギーシュは振り向く。
 そうだ。ダッシュは攻撃が許されているとは言え、双方無傷の決着もあり得る勝負。
 ここ数日、その為だけに魔法を磨いて来た自分がそれを言い出すのはアンフェアかも知れない。
 だが、空ならモンモランシーが要求する、平和的な決闘を他にも提案出来るのではないか。

「なんや、こっちもワイが仕切ってええのか?せやな……Dランク行こ。“キューヴ”や」

 どうやら、パーツ・ウォウとやらは難易度別に別れているらしい。少なくとも、ダッシュよりは複雑な競技だろう。
 5m四方の空間を岩山に掘れ――――空の要求は、ヴェルダンデがこなした。
 内部の補強。これから決闘に臨むギーシュがやる訳にはいかない。
 そこでマリコルヌが担当する。土メイジならぬ肥満児でも、簡単な作業なら出来る。

「ほな、二人とも入り。決着まで、外出るの禁止な」

 ギーシュはワルキューレ共々飛び降りる。
 新型は構造が複雑だ。2体は楽勝だが、3体は厳しいかも知れない。無駄には出来ない。
 モンモランシーも黙って続く。

「勝負の方法は?」
「何でもアリ。死んだら負け」
「えっ?」

 ギーシュは凍り付いた。

「み、ミスタっっっ……――――!」

 これで面倒が一つ片づいた。
 そう言わんばかりに、空は悲痛な叫びを無視して振り向いた。

「あーあ」
「なんや、キュルケ?」
「少し、彼に同情するわ」
「あの、オンモランシーたら言う娘、強いんか?」
「水メイジよ」
「そう言えば、水、てあんまり聞かへんな。珍しいわ」
「水はえげつないわよ。彼女の得意はブラッディ・クェイク。相手の体液を震動させて、内部から殺傷するの」
「まるで、王蟲の“泡爆滅殺〈バブルガム・クライシス〉”やな……」

 平和主義者と違ったんかい――――空は態とらしく震えて見せる。

「口先だけよ。当たり前でしょう」

 ルイズが呆れた口調で振り向いた。

「卑劣な平和主義者がトリステイン貴族に居る訳が無いわ」
「卑劣かい」
「平和主義者が平和を謳えるのは、彼らの代わりに誰かが戦い、血を流しているからだわ。そんな人達を、被害者の様な顔で野蛮と罵るのが、彼らのやり方。卑劣その物じゃない」
「やっぱ、ルイズは頭ええわ」
「もうっ……また、そうやってバカにして……」

 ルイズは拗ねた様に、唇を尖らせる。

「褒めてるんやで?」
「もう、いいわ。それより、こっちも始めましょう」

 ルイズとタバサ。二人の視線が交錯する。
 合図の帽子が舞った。


   * * *


 ルイズの事は、直接知っている訳では無い。だが、その話は友人であるキュルケから聞いている。
 彼女は魔法についても、“ゼロ”であるらしい。 
 タバサは呪文の詠唱を始める。フライだ。
 魔法成功率ゼロ。それなら、一息に目標まで飛ぶだけで片がつく。
 問題はあの爆発だ。
 魔法の失敗で爆発が生じる話を、タバサは一例しか知らない。仮に意図した場合、どの程度コントロール出来る物なのだろう?
 飛翔――――。
 目の前に“置く”様にして爆発が生じたのは、その時だ。空気が弾け、突風が頬を叩く。
 タバサは着地した。
 ルイズを見据えつつ、ゆっくりと歩を進める。
 相手がどこまで正確に爆心点を設定出来るのか判らない。爆発の範囲が広ければ、狙いの甘さは帳消しになる。
 なにより恐るべきは、爆発が直接空間に作用する事だ。ファイアボールの様に、杖から飛来すると言ったプロセスが無い。
 これでは、外させる事は出来ても、回避は不可能。
 想像以上に、厄介な相手だ。
 ルイズも前進する。小さな杖を突き出し、タバサの一挙一投足に注意を払いながら、ゆっくりと、ゆっくりと。

「?……何故、飛ばないの?」
「後から撃たれるやろ」

 疑問を呈するキュルケに、空は説明する。

「余程、スピードに自信が無い限り、前は取らない。“ダッシュ”の鉄則や」

 本来、飛び道具の無いストームライダーでさえそうだ。メイジ同士ともなれば、尚更だった。
 停止中に攻撃禁止のルールが無ければ、間違いなく、単純な火力の応酬になる。

「そうなれば、ヴァリエールに勝ち目は無い……少し身贔屓が過ぎるルールじゃなくて?」
「今回はな。“ハードル”や“エア”やったら、圧倒的に不利になるやろ」
「まるで、次回が有るみたいな言い方よ?」
「実戦の機会が欲しい。どっちにとっても、悪い話や無いと思うで」

 戦況に変化が生じた。
 タバサの杖が回る。身長よりも長い、節くれ立った杖の回りに、氷の矢が生まれる。一本、二本、三――――五――――八本。
 ルイズがコモンルーンと共に、短い杖を振り下ろす。
 ルイズは走った。相手を睨み据えつつ、全力で走る。
 タバサ得意のウィンディ・アイシクル。氷の刃が次々加速。空気を切り裂き、地面に爆ぜ、岩を断ち、マントを貫き、ピンクの髪を斬り飛ばす。痛みに似た冷感が背筋に走る。
 タバサは飛んだ。宙に浮いた。
 後背の空気が膨張、破裂。音速を超える衝撃が、小さな小さな背中を突き飛ばす。筋骨の至る所に激痛。
 タバサは着地。細い脚が岩盤を蹴る。
 杖が旋回。ウインド・ブレイク。エア・ハンマー。魔法を連発。
 巻き起こる風の余波を捉えて、マントがはためく。しなやかな体が、羽と化してリズミカルに舞う。空中を一転――――。
 ルイズはひた走る。目標へ近付かなければならないし、的を外さなければならない。タバサの様な、移動と攻撃を両立する技も無い。
 不可視の打撃が肩を掠める。視界がグルリと回る。マズイ――――慌てて眼前に爆風の壁を張る。氷と風の刃が纏めて弾け飛ぶ。

「凄いっ」
「ああ、チビッ子やるわ。風を巧く掴んどる」

 自分や弟の宙、そして現風の王であるイツキ以外にも、同じ能力を持つ人間が居る事に、空は素直に驚く。
 まさか、風のメイジは全員こうなのか?

「ヴァリエールもよっ。あんな至近で爆発起こして、自分は無傷じゃないっ」
「指向性爆発――――言うても未だ甘い。チビッ子優勢やな」

 タバサが速い。まるで鳥だ。弾む様に移動。魔法を連発。
 ルイズは的を絞れない。自然、魔法は迎撃に費やされる。
 そして、杖の回りに生まれる氷の矢―――― 一発が風を断つ。
 あれは貰ってはいけない。ルイズは互いの間に爆発。コモンでも発動する爆発は、極めて詠唱時間が短い。
 タバサの前方へ、更にもう一発。これで脚を止める。そこに三発目を叩き込む。
 と、足下がズルリと剥がれた。
 ルイズはトドメの三発目を放てなかった。あっと思う間も無く、肩から岩場に叩き付けられた。割れる様な痛みが胸にまで走り、息が止まる。
 タバサが攻撃に使った氷の矢は一発だけ。
 二発目、三発目は前方の地面。
 自らの爆発に視界を奪われたルイズには、それが見えなかった。凍り付いた岩に足を取られて転倒。
 タバサの足を止められたのは、一瞬だけだ。そして、氷の矢は未だ五発残っていた。

 タン――――

 タン――――

 タン――――

 間を置いて発射。
 一つの爆発では防げない。勿論、転倒しているルイズには、相手を攻撃、妨害する事は許されない。
 ルイズは勢いよく杖を振るう。空気が小さく弾ける。一、二、三、四――――立て続けに矢を逸らす。

 キュルケは声を失う。
 ルイズは確かに、複数の魔法を連発した。どうなっている。何故、あんな真似が出来る。

「ああ――――ルイズは最後まで呪文唱えんでも爆発起こせる。威力低いけど、単音でもいける」

 キュルケは今度こそ驚死する。ルイズの爆発は、系統魔法としてあまりに規格外だ。
 と、ルイズが苦悶の声を漏らす。
 逸らし切れなかった最後の一発が、打ち付けた肩を捉えた。
 目標は目前。タバサは一発だけエア・ハンマー。フライ。
 ルイズは必死で踏み出す。攻撃可能なのは移動中だけだ。
 一歩――――肩にズキンと響く――――痛くないっ――――やせ我慢と共に二歩、三歩。
 背後にエア・ハンマーが着弾。
 タバサがエンブレムへと飛ぶのが見える。
 フラつく足取りで爆発――――

「あっ……――――」

 声を出したのは、誰だっただろう。
 エンブレムが、貼られた岩ごと、木っ端微塵に吹き飛んだ。


   * * *


「えーと……この場合、引き分け?」

 キュルケの問いに、空は頭を振った。
 そんな訳が無い。詰み寸前で、将棋盤をひっくり返した様な物だ。

「と、なるとやっぱり……」
「ウェルダン」
「仕方無いわね~。私、本当はこんな事したくは無いんだけどね~」

 喜々と呟きながら、キュルケは呪文の詠唱を始める。
 タバサが近付いて来る。無表情だが、上機嫌で無い事だけは、誰にでも判る。
 ルイズは、真っ青な顔で肩を落としている。

「……ちゃうねん」

 力の無い声が漏れた。

「何が違う?」
「あのね、私はあの子を狙ったの。断じて、ズルをしようとした訳では無いの。ホントよ」
「なら、チビッ子に言う事あるやろ」

 ルイズは唸ったが、仕方が無い。不可抗力とは言え、自分が目標物を破壊してしまったのは事実なのだ。

「ゴメンナサイ」

 消え入る様な声で、頭を下げた。

「もう一つ」

 タバサが無表情に要求する。
 言わんとする所を察して、ルイズはまた唸る。

「……ま、参りました~っ――――」

 心底、悔しそうな声だった。

 キュルケは残念そうに杖を収めた。
 まあ、ルイズがこれだけ小さくなっている姿を見る事が出来たのだ。良しとしよう。

「ヴァリエールも想った以上に頑張ったけど、順当な結果ね」

 タバサは胸を張る。小さな胸を張る。無い胸を張る。
 ルイズは顔を引きつらせる。
 なによっ!私より小さい癖に!小さい癖に!色々小さい癖に!
 ルイズも胸を張る。
 二つの鳩胸が重なり合い、視線が交錯する。

「はいはい。小さい物……じゃなくて事で張り合わない」

 キュルケに言われては、仕方が無い。
 タバサは何も言わず、ルイズは歯噛みしながら引き下がる。

「くやしいーっ!」

 ルイズは叫んだ。何だか、色々と悔しかった。

「大丈夫」

 タバサはそんなルイズの肩を、慰める様に叩く。

「私もついこの前」
「何の話よっ!」



 一方、ギーシュとモンモランシーの決闘も決着していた。
 立会人のマリコルヌはふて腐れて、岩を蹴っている。
 理由はすぐに判った。二人は互い無傷で、おまけに小指を繋いでいたりした。

「なんだか、平和的に解決したよ」

 ギーシュは照れ笑いを浮かべる。
 狭い場所でじっくり話し合った事で、ヨリを戻す事になったらしい。

「さすが、ミスタっ!こうなる事を予想していたのだね。貴方は僕らの恩人だっ!」

 別にそんなつもりは無かったが、空はそう言う事にしておいた。
 日が傾こうとしていた。そろそろ、学院に戻った方が良い。
 それを引き留めたのが、タバサだった。

「そろそろ、約束を果たして欲しい」
「約束?」
「ここは何も無い」
「ああ。あれか。“風を掴む”方法やろ。チビッ子は才能有るかも知れへんしな」
「“風を掴む”?」

 ルイズが声を上げる。

「あれでしょ。ギーシュのワルキューレを弾き飛ばした」
「ああ、あれね」
「あれは素手では無かったのか?」

 一同は口々に言った。風と聞いて、マリコルヌまで興味を示す。

「せやな――――このままでもいけるけど、真っ平らな方がやり易いし、説明もし易い」

 その要請に従って、ギーシュは岩盤を平面に変える。
 空は飛んだ。
 空中で一転。車椅子ごと逆立ち状態になる。この時点で、歓声が上がる。

「ここからが本番――――」

 空は指を放す。そして、体を脚側へと伸ばす。
 一同は声を失う。
 腕立ての姿勢で、脚を浮かせている様な体制。しかも、車椅子を乗せたまま。
 超人的な膂力は勿論だが、掌を地面に固定でもしない限り、こんな事は出来る筈が無い。
 物理に反している。

「アカン、年や。もうもたん」

 空が潰れた時、一斉に驚きの声が挙がった。

「な、何だ今のは?」
「どうやってやったの?」
「まさか、先住っ?」
「おでれーた」

 空は上体を起こすと、説明する。
 真空溶接と言う技術が有る。平面同士を重ね、間の空気を完全に抜くと、両者は溶接された様に離れなくなる。

「今のは、その応用。大切なのは“面”で風を捉える事や。“空”は柔らかい。ほんのちょっとした条件で流れを変えよる。こうして、風と風の隙間、密度の境界に掌を添えてやると――――」

 刹那、悲鳴が上がった。
 不意に突風が巻き起こり、魔法学院の制服、学院長の趣味を丸出しにした、短いスカートが纏めて捲れ上がった。

「こんな事も出来る」

 どや、凄いやろ――――その声に答えたのは、当のタバサでは無かった。

「ワンダフルッッ!!」

 マリコルヌが叫ぶ。

「やはり“風”の系統こそ最強!この風上のマリコルヌ、今日ほど始祖に感謝した日は無い!」
「悔しいが、確かに認めなくてはいけないっ。」

 ギーシュは声の通りに悔しそうだ。
 タバサは例によって反応無し。見たければ言ってくれれば良いのに――――キュルケは身をくねらせる。
 と、

「そ~っら~っ――――!」

 地の底から響く様な声。ルイズだ。
 モンモランシーも身を震わせている。

「あー、あんな。今のは、風の悪戯やで。事故や事故」
「相棒、その言い訳は苦しいと思うね」

 デルフが言うまでも無い。

「この犬~っ!」

 地べたの空を、ルイズは蹴る。蹴る、蹴る、蹴る。

「や、やめっ!――――」

 空は悲鳴を上げる。
 ルイズは更に蹴る、蹴る、蹴る。

「全く!なんのつもり!」

 そこにモンモランシーも参加する。と、

「ちょっと!待ちなさいよ!」

 その前に、ルイズが立ちはだかった。

「どきなさいよ、ヴァリエール!」
「何、言ってるのよ!私の使い魔よ!勝手な真似はよして!」
「侮辱されたのよ!」
「躾は私がするわ!」
「どっちが蹴った、て同じでしょう!」
「なら、引っ込んでなさいよ!洪水のモンモランシー!」
「私の二つ名は“香水”よ!」

 いきなり始まった二人の言い争いに、男子生徒コンビはこそこそと逃げ出した。
 空もそうしたかったが、ルイズの回し蹴りが逃走を阻む。

「いい!とにかく、私の使い魔には、絶対に手を出さないで!」
「彼を蹴っていいのは、自分だけだ、て事?」
「当然でしょっ!」

 あっ――――
 ルイズは口元を被った。
 キュルケがにやにやと笑っている。不意の声に、注意が働かなかった。
 モンモランシーも生温かい笑みを浮かべている。

「あら、そーう。そう言う事。いいんじゃなくて。お似合いだわ」
「なな、なによ。か、勝手に勘違いしてればいいんだわっ」
「ダーリンも大変ねえ。主人がおかしな性癖持ってて」
「うるさいわねっ!ツェルプストー!」
「ルイズはたまに激し過ぎて、叶わんわ」

 空がぼやく。ルイズの顔が真っ赤に染まる。

「うるさいうるさいうるさい――――っっ!」

 悲鳴にも似た声が、高らかに響き渡った。


 ――――To be continued


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