あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 21

 暗い室内に声と楽曲が響く。
 王都トリスタニアの劇場、タリアリージュ・ロワイヤル座の客席に腰を下ろし、その男は不満げに鼻を鳴らした。
 初老と言って差し支えない年齢であり、若い女性が多いこの場においてはかなりの異彩を放っている。
 だが場所が劇場なだけに彼の容姿に気を配る者もおらず、密談には最適の場所であった。
 その横に座っているのもまた男であり、こちらは先の男の半分以下の年齢だろう。

「その話は確かなのか。いや、ラ・ロシェール中の傭兵が証人なのだったな」
「御意に。あの者たちが素人などということはありません。……本当にご存じなかったので?」
「ああ。鳥の骨め、そんな懐刀を隠し持っておったとは」

不快そうに老人が眉を顰めた。鳥の骨ことマザリーニ枢機卿は彼の政敵と言ってもいい。
正確に言えば彼が一方的に嫌っているのだが。

「おそらくは此度の婚姻、その気に乗じて一気にこの国を手中に収めるつもりなのだろうな」

歯軋りが聞こえた。
アンリエッタ王女とゲルマニア皇帝の婚姻はすなわち亡国の策だと若者は信じて疑ってはいなかった。
故にその推進者であるマザリーニ枢機卿も売国奴に他ならない。
不快感を隠そうともしない若者に、老人は内心の笑いを面には出さずに口を開いた。

「婚姻の儀が成れば、王女殿下はゲルマニアにお輿入れされる。
 そうなれば、トリステインの国政は摂政に一任されるだろうな」
「……馬鹿な。ではあの鳥の骨めがこの国を牛耳ると?
 そんなことは許される筈はない!」
「如何にも。許されるべきでない。
 そして、そのことはあやつも知っているだろう。
 そして無理を通すためには力が要ることも」
「その為に学院の戦力を隠していたと?」

如何にも、と老人は頷いて懐から何枚かの紙片を取り出し若者に差しだした。
訝しげにそれを見た顔が驚愕に強張る。
それは二十年も前にトリステインを騒がした“反乱”とその弾圧についての資料だった。

「“ダングルテールの虐殺”……まさか、枢機卿があの件に絡んでいたと?」
「さ、それはどうかな。
 ただ、その事件の立役者、“炎蛇のコルベール”が魔法学院に奉職していることは確かだ。
 鳥の骨の友人であるオスマンが学院長であるあの学院にな」

表情と血の気を無くした若者を横目に、頬を歪めながら老人が言った。

「ああ、それと。
 どうも最近、アルビオンから傭兵たちが我が国に入ってきているという知らせがあってな。
 ひょっとしたら、そのうち数人にはレコン・キスタの息がかかっているかも知れん。
 ラ・ロシェールでの騒動をそいつらが聞いたら、どうなるかな?」

若者が息を呑んだ。
老人の言葉の裏にあるモノを察したからだ。
レコン・キスタの名をかたって学院を襲わせることを老人は示唆しているのだ。

「鳥の骨めは当てにしていた戦力を失う。
 平和ボケした連中は学院が襲われたことで危機感を募らせる。
 あとは、ああ、オスマンの責任も問えるかもしれないな。
 卑しくも貴族の子弟が通う学び舎の警護が不足していたとは問題だとな」

言い置き、自分の息のかかった傭兵たちの隠れ場所を告げた老人はゆっくりと席を立って劇場を後にする。
残されたのは己の取るべき道に迷う若者が一人だけだった。
彼は若く、そしてそれ故に誇りと怒りとを持っていた。
国を愛し、その為に手を汚す覚悟もあると思っていた。
だが、これは本当に必要なのことなのか。あの売国奴の鳥の骨の権勢を殺ぐ為とはいえ、
傭兵たちに本来大人が守るべき子供たちを襲わせるなどということが?
椅子に深く腰掛け、息を吐く。
その耳に聞きなれた響きの名が聞こえてきた。
舞台では侍女頭の役の女優が女主人公である小国の姫に抱きついている。
女主人公の名はプリンセス・アントワージュ。親しい者はアン王女と彼女を呼ぶと言う。
婚姻の為に大国を訪れた小国の王女アントワージュ。けれど彼女は婚姻の前に逃げ出し、市井の若者に匿われる。
頭を上げ、芝居を見つめた。
その歯が食いしばられ、熱いものが胸に湧き出す。
アントワージュは自国の国民の為に自分を殺し、愛した男の下を離れて婚姻の場に赴いた。
男はそれが誰かを薄々と察しながらも自分から去った娘の為に詩を作り、いつか彼女の元に届けと毎晩歌った。
それはどこにでもあるような恋物語。
そして、いまこの瞬間にもどこかで進行しているかのような恋物語。
劇は終幕近く、周囲はアン王女に感情移入した女性たちの啜り泣きで溢れている。
若者にはそれがこの国の総意のようにも思えた。
望まぬ結婚を強いられる王女アントワージュへの涙。それはすなわち王女アンリエッタへの涙だと感じられた。
ならば、と若者は思った。
これが皆の意思だというのならば、自分は貴族としてその総意に従わねばならぬ。
売国奴の鳥の骨めの力を殺ぎ、ゲルマニアとの婚姻を防がねばならぬと。
例えその為に、魔法学院の生徒たちが犠牲になろうとも。



/*/



一体なぜこんなことになったのだろう。
元東薔薇花壇騎士団団員にして現北花壇騎士八号ことバッソ・カステルモールは、
杖を奪われて押し込められた空賊船の一室でもはや何回目になるか解らぬ自問を再び繰り返した。
視線の先では同じような青い髪をした二人の少女が睨み合っている。
彼の建前上の主人であるイザベラと、彼的には真の主人であるシャルロットことタバサだった。
タバサの連れらしき何人かと、彼らを部屋につれてきた船員がいきなり立ち上がってタバサを怒鳴りつけたイザベラを目を丸くして眺めている。
確かにタバサの為に彼とイザベラはアルビオンに向かったが、まさかこんなところで会うことになろうとは。
困ったことになったと息を吐く。
杖は奪われ、しかも今の自分はとても魔法が使える状態ではない。
『もっと早く!』と命じるイザベラの為に船を加速させようと魔法を使い、打ち止め状態なのだ。
なにしろ昨日の夕方から連続して魔法を放っては回復しの繰り返しだったのだから。
その甲斐あってか通常以上の速度でアルビオンに近づけたのはいいのだが、よもや空賊に会おうとは思いもよらなかった。
何よりも速度を重視したイザベラの為に彼が選んだのは小型の軍船であリ武装にも乏しい。
本来は艦隊間の伝令として使われる船なのである。さらには急な徴発ということで火薬すら積んではいなかった。
空賊ですら呆れ帰り、我が侭な主君を持つと大変だなと同情までされたくらいなのである。
幸いにして今のところは危害を加えてくるつもりは無いようだが、だからと言って油断できる筈もない。
イザベラ一人ならともかくもシャルロットまでを守らねばならぬのだから。

「はっはぁ! こんなとこで会うとは思わなかったな! 久しぶりですなイザベラ殿下?」
「なんでぇ、知り合いか?」

声が響く。明らかに男性のものであるそれにタバサ一行の男性たちを見るが、彼らは二人とも喋ってはいない。
慌てたように周囲を見回す船員にワルドが苦笑を浮かべた。ラ・ロシェールで彼自身も姿なき声に混乱したからだ。
マリー・ガラント号に搭乗後に教えて貰うまで、随分と頭を悩ませたのを憶えている。
タバサは手に持った二本の剣を指し示して見せた。

「この二つ」
「インテリジェンス・ウェポン? かー、こりゃまた珍しいモノを持ってるなお嬢ちゃん」

呆れたような感心したような口調で言う船員に、果敢にも食って掛かったのはイザベラだった。
カステルモールも驚いたように目を見開く。見れば確かにタバサは剣を持っているし、ワルドやキュルケも杖を持ったままである。

「ちょっと! 
 わたしたちの杖は取り上げておいて、この娘は剣を持たせたままってのはどういうことだい!?」
「それもそうね、わたしが言うのもなんだけれど、本当に持ったままでいいの?」

見下すような文句に不快げに眉を顰めた船員に、それをとりなすかのようにルイズが尋ねた。
捕らえた相手の武装解除もしないと言うのはいくらなんでもおかしいだろう。
それに対し、かまわんよと船員は答えた。ルイズだけに向かって。

「お頭も承知してるさ。
 それに、あんたらが誇りを知る貴族だってこたぁこの船の全員が知ってる。
 貴族の誇りは杖だし、戦士なら剣だろうよ。
 誇りを知ってる人間からそれを取り上げるなんて真似はできねぇな」
「ちょっと! わたしらに貴族の誇りはないっていうのかい!?」

無視されて頭に血を上らせるイザベラを見ながら、しかしカステルモールは誇らしげな気持ちを覚えた。
真の主であるタバサが空賊までにも評価されていることに満足を覚えたのだ。
幸いなことにイザベラはそれに気付かないようではあったが、一人だけ気付いた者がいた。
キュルケである。
何時如何なる時でも自分らしくあるのがルイズ症候群の症状の一つではあるが、
その患者たるキュルケにはもう一つの病気があった。
水のメイジでも治せぬ不治の病、すなわち突発的好感症候群、いわゆる恋の病である。
今回もそれに従い、先客の品定めをしていたというわけだった。

「誇りも何も、ただわめき散らすだけなら餓鬼と変わらねぇだろうが。
 このお嬢さん方の爪の垢でも煎じて飲んだらどうだ」
「なっ……!」

絶句するイザベラにふんと鼻を鳴らし、船員はルイズに向き直ると頭を下げた。

「申しわけねぇが、ここでしばらく待ってもらいてぇ。
 本当なら客室に案内すべきだろうが、そんな気の利いたもんはこの船にはねぇからよ。
 どうやら知り合いらしいし、かまわねぇだろう?」
「かまう」

間髪入れずのタバサの言葉に苦笑しつつもルイズはその申し出を受け入れた。
ついでに空賊の頭と話がしたい旨を告げるがこちらは多忙を理由に断られる。
まぁこの船の正体がルイズたちの想像通りであれば、ボロを出さないために接触を減らそうとするのは当然の事だが。

「やれやれだね、足枷をつけなくても僕たちは逃げないよ?」

薔薇を持って格好を付けながらギーシュが言った。
もしこの船から逃げ出そうとすれば、杖を持たないイザベラとカステルモールは足手まといになる。
そして自分たちが彼らを見捨てるなどと言うことは有りえない。
それを見越してこの部屋に自分たちを連れてきたことなど、ギーシュにしてみれば見えすいた考えでしかなかった。

「いや、それについては、心配してねぇさ。
 あんたらに期待してんのは別のことさね」
「ほう、なんだい?」
「いやぁ、さすがにそこの娘っ子は貴族としてどうかと思うからよ。
 あんたらに教育して貰えねかなぁと」

言いながら哀れみの視線でカステルモールを見る船員にギーシュは噴出し、満面の笑みで頷いた。

「いや、君たちの長は実に人を見る目があると見える。
 任せたまえ、誓って彼女をルイズ症候群に感染させて見せよう」
「――――人を病気持ちみたいに言うんじゃないわよっ!」

キュルケやタバサまでもが自覚のないルイズの言葉に苦笑を浮かべたのは言うまでもない。


新着情報

取得中です。