あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

豆粒ほどの小さな使い魔-3




……何だか、馬鹿にされてるような気はしてた。私はそれほどでもなかったけど、ルイズが。
どう反応したらいいのか、戸惑ってしまう。昨日からあんなに楽しそうにしてたルイズが、表情を殺して俯いてしまっているから。
だけど、何も知らないままでは、慰めることもできない。
センセイが止めるよう言ってるのに、どうして悪口を止めないんだろう。
私たちのガッコウなら、こんなことないのに。皆一生懸命学ぼうとする。そうしないと、危険だから。
そうか、少しだけ分かった。
ここは安全なんだ。
見渡して見ると、皆椅子に完全に体重を掛けて座ってる。あれでは襲われたときに咄嗟に逃げることができない。私はいつでも跳べるし、剣も抜けるようにしてる。
ニンゲンには安全でも、私には違うから。
色んな動物がいる。私を食べそうなのは、鳥と蛇かな。他にも。
センセイの話は、難しくてよく分からない。後でルイズに聞こう。今は話しかけ辛い。
窓の外の太陽は一つだけ。月が二つあるなら太陽だって二つあっていいのに。
「――それでは、最初にお手本を見せましょう」
そう言ってセンセイが杖を振ると、机の上にあった石が、鈍い金色に変わった。
触ってもいないのに、なるほど、確かに魔法だ。練習すれば、私にも使えるようになるだろうか。
石の形も変えられるなら、きっと技師の役に立つはず。
字が読めないのが痛い。日本語とも英語とも違う。英語は習ってないけど、字の形は知ってる。
字を覚えた後も、ニンゲンの本を読むのは大変だ。誰かに表紙を捲ってもらってから、端から端まで行ったり来たり、ページを捲るのもそうだし、風でページが飛んだりするから。
「……ハヤテ、字が読めるの?」
「コノ字ハ読メナイ。ダカラ、るいずニ教エテホシイ」
「いいわよ。時間を作って教えてあげる」
ルイズはやっぱり元気がなかったけど、私が本に気を取られてたら、すぐに気がついてくれた。
こんなにいい娘なのに、どうして皆嫌うんだろう?


ルイズが魔法を掛けるところを、すぐ近くで見ようとして、
「――――っ!!」
凄い爆風に吹き飛ばされた。くるくると飛ばされながら、風を逃がして、床に舞い降りる。
足は挫いてない。部屋中が混乱してる。視界が効かないこの煙の中で鳥に襲われたら大変だ。
それに、ルイズ。大丈夫だろうか? 床を蹴って、煙の中にもう一度飛び込んだ。

* *


教室の、前三分の一はめちゃくちゃだ。気合を入れすぎたせいか、爆発がいつもより凄かった。
悔しかった。
ゼロと馬鹿にされるのはいつものことだけど、ハヤテが私のせいで馬鹿にされるのが本当に嫌だったから。
誰かが暴れる使い魔に踏み潰されてる。ざまあみろ。笑いそうになって……血の気が引いた。
ハヤテは、どうなっただろう?
あんなに小さいのに、巻き込まれてたら。怖くて声が出ない。呼んで、もし返事がなかったらどうしよう。
「ルルルルッ……る、るいず、ダイジョウブ?」
「ハヤテ!? 怪我はしてない?」
耳元でいきなりハヤテの声がしてびっくりした。ああ、よかったぴんぴんしてる。ごめんね。泣きそうになった。
「私ハ、ヘイキ」
手をぱたぱたさせる仕草が可愛くて、力が抜けて座り込みそうに――
「ゼロのルイズッ!! いつもいつも失敗ばかり。今度ばかりは許さないからなっ!」
突然の叫びに飛び上がった。
射るような視線に、張り付けにされる。クラス全員からの視線。泣いたらそのまま押しつぶされる。
だから、虚勢を張るしかなくて……視線の半分が、呆れと冷笑に変わった。


シュヴルーズ先生の指示で授業は中止になり、私は教室の片づけを命じられた。
大きな破片を外に出し、予備教室から机を運び込む。
ハヤテは私の肩にいてくれたんだけど。いつまでも黙ってる私に、どこかに行っちゃった。ごめん。今は笑顔向けられそうにない。
カラリという小さな音に目を向けたら……小さな身体で、それでも自分の頭より大きな小石を運んでるハヤテの姿に、涙が出そうになった。
ハヤテに慰めて欲しいと思ってた。それを踏み躙ってやろうと待ち受けてる自分が嫌だった。
気がついたのは本当に偶然。ハヤテはずっと、石を運んでくれてたんだ。
今この時だけは、私の中でぐるぐるしてたゼロという言葉が軽くなった。


とっくに昼食の時間は終わってる。もう授業も始まってるけど、今更教室に行く気になれなかった。
食堂に行って、テーブルクロスを集めていたメイドに声を掛ける。黒髪。朝のメイドだった。
「パンとチーズとワインをバスケットに詰めてもらえるかしら」
こんな時間に堂々とサボっている私に、目を丸くしている。メイドの中には私を影で見下してる人もいるみたいだけど、彼女は違うらしい。
「なければパンだけでも、簡単なものでいいの。気晴らしに少し外に行きたいのよ」
「あ、はいっ 今すぐご用意いたしますから」
彼女は本当にすぐに戻ってきた。ちょっと息を弾ませて。
バスケットを寄越そうとして、初めて肩に乗ったハヤテに気がついたみたい。
「ああ、私の使い魔よ。朝、あなたに小皿を用意してもらったんだけど、覚えてるかしら?」
「っ! も、申し訳ありません」
「別に叱ってるわけじゃないの。これからも食事のときにお皿を用意して貰おうと思ったのよ」
「はい、承りました」
そこでハヤテが、
「ヨロシク、オネガ、イ、シマス」
そう言ったものだから、何だかおかしくって、彼女と吹き出してしまった。
「私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。これからもお世話になるかもしれないから、名前を聞いてもいいかしら」
「はいっ 私はシエスタと申します」
黒い髪は異国風だけど、名前は普通だ。多分移民の末なのだろう。
「ルルル……私ト、同ジ、髪」
「言われてみれば、そうね。まぁ血が繋がってるなんてことはないでしょうけど」
冗談が言えるくらい気分が回復してた。二人の雰囲気のお陰だろう。私は自分の気性を知ってる。一人だったら、今頃部屋のベッドを殴りつけてた。
「ありがとうシエスタ。またね」
背を向けた後も、すぐに仕事に戻らずに見送ってくれる。貴族ばかりの学園で働いてるだけに気が利く。
すぐ分かることなのに、今までは、気がつく余裕もなかったのか。
それは貴族らしくない。
私には深呼吸が必要だと、それに気づかせてくれたハヤテに心の中でもう一度お礼を言った。



散歩すると決めた以上、ただ敷地内を歩くだけでは片手落ちだと思う。だから厩舎に拠って、馬を借り出すことにした。
乗馬は好きだし得意だ。並足で風景を楽しむのもいいし、駆け足で風を感じるのもいい。
そう言えば、このところ馬に乗ってなかった。
ハヤテは、乗馬を知っていた。実際に見たことはないけれど、競技として行われているのは知っている、と。ケイバ? 賭け事か、なるほど。
ゲルマニアあたりならありそうな話だ。
隠れ住むと言っても、完全に人里から離れているわけではないらしい。少しずつハヤテのことが分かってくる。
根掘り葉掘り聞き出すより、こういう普段の会話からお互いに知り合っていく方がいいな。
「ハヤテなら馬より速く走れそうね」
かぽかぽと馬を歩ませる。馬の癖が分かるまでこうするのは、乗馬の先生に教わったことだ。
「ダケド、遠クマデ行クトキハ、乗リ物ニコッソリ乗ルヨ」
「そっか。見つからないように隠れるんでしょう? 例えばどんな風に?」
「色々、ダヨ。網棚ノ上、トカ、誰カノカバンノ中、トカ」
ハヤテの視点から見た私たちの世界は、とても新鮮だ。話題は尽きない。
「狩り? でもコロボックルってみんな小さいんでしょう、獲物を捉まえるなんてできるの?」
よく聞いてみると、コロボックルの狩りの獲物というのは、人間が落とした物も含まれると言う。
糸屑とか、落ちてたバネとか、ガラスの欠片とか。
しかもコロボックルの国には大工房があって、集めた物から色々な物を作り出しているとか。
「ホントハ、じきゅーじそくモデキル、ケド、にんげんノ危ナサヲ忘レチャイケナイカラ、狩リハ止メナイノ」
ハヤテの話の中には、彼らの生きるための智恵が詰まってると思った。
彼女の話を頭の中で反芻しながら、トリスタニアやヴァリエール領のことを話した。



草原に着いて、馬を繋いで遅いお昼ご飯を食べる。
木苺のジャムは、シエスタの心尽くしだろう。ありがたく頂くことにする。
ハヤテたちコロボックルも、よく木の実からジャムを作るという。
食べ物が同じというのは、実は仲良くなるのにとても大切なことなんじゃないだろうか。
例えばジャイアントモールが召喚されていたら……大ミミズなんて食べられない。もしも味覚を伝えられたりしたら……
「るいず? ドウカシタ?」
「な、なんでもないわっ このチーズも美味しいわよね。ああだけどワインはどうしよう」
「チョット、待ッテテ」
言うなり、ハヤテがふっと消えた。本当に目にも止まらない。
目を閉じて、視覚を繋げようとしたら……めちゃくちゃな速さで回ってて、慌てて遮断した。一瞬だったのに、まだ心臓がどきどきしてる。
「オ待タセッ ドウカ、シタ?」
「ん、ん、何でもないわ。それは?」
木の実だ。指で摘めるほどの固そうなそれを、ハヤテは簡単に真っ二つにしてしまった。
そうして、こう言ったのだ。
「コレ、私ノコップ!」

ハヤテ、貴女って最高だわ!




新着情報

取得中です。