あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

牙狼~黄金の遣い魔 第6話(Eパート)

鋼牙たちが戦っている王立研究所=アカデミーより遠く離れた屋敷の屋根の上。
そこに、タバサと風韻竜イルククゥ=シルフィードは居た。
周囲には、奇妙な光景が展開していた。
ドーナツを思わせる、一抱えほどもある環状の物体がタバサの周囲に浮いていたのだ。物体の質感は、金属とも陶器とも取れる、今まで見たことが無いものだった。
ソレがハルケギニアには本来存在しない、特殊なセラミック素材でできていると理解できるものは誰も居ないだろう。オールド・オスマンの指導を受けた、彼女たち魔戒法師少女達の中でも理解できたのはタバサだけだ。
イットリウムを含む、銅酸化物系高温超伝道物質。
ソレがタバサがオスマンから受け取ったオーバーテクノロジーアイテムの正体だった。
銅酸化物より構成された、ベロブスカイト構造と呼ばれる結晶構造。
これを液体窒素温度まで冷却した場合、マイスナー効果と呼ばれる『電気抵抗がゼロとなる』現象が起こる。
これにより同物質は温度が保たれる限り、永遠に電子が流れ続ける状態となる。
すなわち、一種の永久磁石となるのである。
さらに複数のこれをドーナツ型に配置することで、『シンクロトロン』と呼ばれる粒子加速器が完成するわけだ。
この中に電子や陽子、重イオンなどを放り込むと、回り続けつつ加速し続けるという現象が起きる。

さらに加速したこれら粒子を誘導し、射出することで対象上に非常な高温を発生させる。
これを鋼牙の元居た世界ではこう呼ぶ。
すなわち“荷電粒子砲”。
実際はシンクロトロン構造の場合、電子がシンクロトロン放射と呼ばれる発光現象を起こして減衰したり、大気中ではさらに他の分子(酸素など)とぶつかる事でそのエネルギーを失う。またさらに多大な電力を消費するため、兵器としての実用段階ではない。
だが、このハルケギニア世界では『魔法』と呼ばれる便利至極のものがある。それを積極的に用いれば、実用化可能ではないのか?
すなわち、メイジとその命により動く遣い魔との合体攻撃。
今からタバサが行なおうとしているのは、まさにそれだった。
まず、錬金により液体窒素を作り上げる。これをリング表面に接蝕させることで冷却、マイスナー効果を発生させる。実際はイットリウム系の銅酸化物は77Kでマイスナー効果を起こすため、液体窒素温度も必要ない。
こうして造られたシンクロトロン(ドーナツの形状維持と続けての冷却は風韻竜が行なう)へ、ライトニング・クラウドにより電子流を発生させる。それも一度ではなく、何度でも臨界に達するまでだ。
こうしてシンクロトロンストレージリングが形成された段階で、さらにタバサはシルフィードに複数の高温超伝導リングを浮遊させる。これも同じくマイスナー効果を発生させて、線型加速器と呼ばれるものを作り上げた。
この段階で、タバサはかなりの魔力を消費していた。気を失えば、制御を失った電子流がシンクロトロンから周囲にあふれ出す。その危険性にも恐怖する事無く、タバサは黙々と作業を続けた。
そして―。
はるか彼方で白い噴煙が上がった。キュルケのサラマンドラ・バーンとモンモランシーのハイドラ・シュレッダーの接蝕による水蒸気爆発である。
すかさずタバサは杖を振り上げ、線型加速器の先端に超小規模なライトニング・クラウドを発生させた。
ルイズの立てた作戦が上手く行っているならば、あの白煙の向こうへホラー(正確には生体過給器)が現われるはずだ。
やがて、タバサの視線の先で黒々した巨大な影が揺れた。人脳から造られた巨大脳と一体化したホラーだ。
タバサは超小型ライトニング・クラウドをホラーへ目がけ撃つ。それによりホラーまで大気中の分子を励起分解した“通路”が生まれる事となる。これのおかげで放たれる荷電粒子流は減衰する事無く、ホラーを直撃するはずだ。
そうして―。
タバサの周囲のシンクロトロンより供給された荷電粒子は線型加速器の砲身を通ってさらに加速されながら―。
“通路”にわずかに残された気体分子を励起したグリーンと紫の輝跡を残して―。
ホラーを直撃し、焼き尽くした。

「任務……完了」
全ての魔力を使い果たしたタバサはバッタリと倒れる。周辺に荷電粒子を出し尽くした高温超伝導物質のドーナツがひび割れて次々と落下していった。それまで夢中で支援していたシルフィードが慌てて近づいてゆく。
『お姉様?お姉様―ッ!』
シルフィードが覗き込むと、タバサは幼さの残る顔に満足そうな笑みを浮かべ目を閉じていた。

浮上し、魔戒騎士の攻撃を回避しようとしたヴァルファルを凄まじい衝撃が襲った。
『nあ、Naにィ!(な、なにぃっ!)』
広がる紫と碧の光芒。燃え上がる全身。炎の魔法とは性質の全く異なる焦熱地獄。
135人体分の脳を用いたフライの呪文は、通常とは比べ物にならない機動力を彼に与えてくれるはずだった。だが、後方からの突然の衝撃は魔法による機動力さえ奪い、彼を落下させた。
『gaあAぁアァ!』
地表に落下した生体過給器自身の重量で、自分が潰れそうになる。
一体何が起きたのか?どうやら生体過給器の機能が停止しているらしい。
現状を知るため、生体過給器を再起動しようとした彼は愕然とした。
機能が停止するのも仕方が無い事だった。彼の力作たる生体過給器は、巨大脳の3分の2以上を失っていたのだから。
(機能の78%が喪失!どんな魔法を使ったんだ?)
タバサが放った“荷電粒子砲”がその大半を吹き飛ばしたのだが、今の彼に分かるはずがなかった。
どうしてこのような事態が起きてしまったのか?心の底に渦巻く疑念に、答えてくれるものは誰もいない。
ただ分かる事は―。
『nいGeナけれbA、kおロSぁレる!(逃げなければ、殺される!)』
冷徹な事実、それのみであった。
蝕手を切り離し、機能を停止した生体過給器との融合を解く。左右の脳の間の襞(ひだ)を開き、ズルリッと身体を引きずり出す。
『kんnあッ!こNナkおTォ!(こんなッ!こんなことッ!)』
自分は選ばれたエリートのはずだ。アカデミーの誰も成し得なかった偉業を成し遂げた、究極たる存在のはずなのだ。それが今や地面に足を着き、落ち延びねばならない。その憤懣が口をついて出てしまった。
『コnな事ハ、認メらreないっ!(こんなことは認められないっ!)』
認めたくない。
『Kォんナ事は、Bおkう乃想定にハ無イ!(こんなことは、僕の想定には無いっ!)』
何もかもが、自分の思い通りに行くと考えていた。でも、違った。違ってしまった。
『ヤRiなォしヲ!やriナ押Sいヲ要Kyぅスる(やり直しを!やり直しを要求するっ!)』
全てが、自分のミスを認めがたいための妄言に過ぎないということに、ヴァルファル=レナードは気付いていない。

よろめき歩き始めた彼の前に立つ影に気付いたのは、ようやく落ち着いてからのことだった。
『nあニ……mおノだ?(ナニ…モノだ!?)』
小柄な影が手に持ったものを振るうと、己の周囲にふわふわとした柔らかなモノが舞った。
それが舞踏会用の羽毛扇から放たれた羽毛だと気付いた時には、既に遅すぎた。
「錬金!」
コモン・スペルと共に放たれた魔力は、ヴァルファル=レナードにまとわりつくように舞う羽毛を爆発させた。
三百六十度、逃げ場のない全方向からの爆発攻撃はヴァルファルの身体に無視し得ないダメージを残す。まとっていた白衣は、すでにぼろきれ同然と化していた。
「あたしは、お前を許さない」
華奢過ぎる肩を憤怒で震わせて、桃髪の少女―ルイズはヴァルファルへと歩んでいった。
「人間をまるで道具のように弄び、その尊厳を踏みにじる行為は大海の深遠よりも罪深いわ」
逃げようとするヴァルファルをそのたびに爆発する羽毛で牽制し、ルイズはさらに詰問を続ける。
「その本性は、元の人間だった時からのものかしら?それとも、かってのお前であればそんなことは考えもしなかったのかしら?まあ、いいわ」
そして鼻先で哂って、ルイズは穏やかに宣告する。
「もう、悪夢の時間はお終いよ。あたし/わたしが今からお前を滅ぼすわ」
それは死刑の宣告でもあり、同時に救済の告知でもある。
「さようなら。そしてお休みなさい。わたしに滅される事を、感謝なさい」
『Daregaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!(誰がっ!)』
緊張に耐え切れなくなり、ヴァルファル=レナードが弾かれたように動いた。
まとわりつく羽毛を風の魔法―己に残された乏しい魔力をかき集めた―で吹き飛ばし、背中を突き破り現われた触手で襲い掛かる。
もはや人間としての姿は失われ、ヴァルファル=レナードは全身を蝙蝠の羽のようなもので縁取られた緑色の魔人の本性をあらわにしていた。
だが、先端に様々な医療器具を生やした緑色の触手が、少女を引き裂くかと思われたその時、二条の輝跡がそのことごとくを弾いた。
いつの間にか、少女の傍らに二振りの剣を携えた白き魔戒騎士が立っていた。
「俺が相手だ」
魔戒騎士 鋼牙は頭上に魔戒剣のきっ先を廻らせた。
空間に光の真円が刻まれ、輝きを増し、次の瞬間虚空に黄金の輝きが爆発的に生まれる。
黄金の輝きは、澄んだ音を立てて分解し、鋼牙の全身を包み込んだ。
腕に、足に、瞬時に装甲が装着され組み立てられてゆく。

一瞬後、そこには黄金の鎧に身を包んだ騎士が立っていた。
猛る狼のような頭部飾りの瞳の奥には、深い緑の炎が揺れている。
全身に刻まれた文様は、魔を絶ち魔を砕くための呪紋であった。
黄金の炎色の鎧は、ホラーの攻撃をことごとく浄化する。
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄!!!!!!」
高らかに吼えよ『牙狼』。
気高く唸れ『牙狼』。
暗黒を断ち切る聖なる刃。幼き主守りし守護の剣。聖ブリミルの遣いし盾。
ルイズの前に立った牙狼は、魔剣デルフリンガーを横に構えながら牙狼剣を打ち振った。
ソレに対しヴァルファルは錬金で巨大メスを生み出し受け止める。背中から生えた触手が、注射器の針やかん子で攻撃を仕掛けるが、黄金の鎧との間に火花を散らすのみである。
牙狼の背中を踏み台にして、ルイズの小柄な身体が宙へと舞う。羽毛扇から飛ばした羽毛を錬金のスペルで爆破、ヴァルファルの触手を打ち砕く。
ひるんだヴァルファルの巨大メスを牙狼はデルフリンガーで跳ね飛ばし、がら空きになった胸に牙狼剣を突き立てようとした。
だが相手は後方へと素早くステップし、ウィンデイ・アイシクルの呪文をルイズに向けて放った。
ソレをデルフリンガーを盾代わりに受け止め、追いすがるように飛び込んで牙狼剣をぶつける。巨大メスの間に火花が散り、闇の中に互いに対峙する相手の姿を浮かび上がらせる。
それだけで充分だった。後方にいたルイズには二人の位置がはっきりとわかった。
「ファイヤーボール!」
普通ならば炎の球が放たれる呪文だ。だがソレはルイズの場合、遠隔地での突然の爆発に変わる。当然ソレはぶつかり合う牙狼とホラーの両方へ襲い掛かるはずだった。
「お前の役目だ」『へ?』
だが魔法攻撃の気配を察した牙狼は、デルフリンガーのきっ先を後方へと向けた。次の瞬間狙い過たず、爆発の閃光がデルフリンガーの刀身を彩った。
『うあっちゃちゃちゃっ!折れるぅ!折れちまうっ!』
黄金とも、七色とも見えるルイズの爆発魔法のきらめき。
それをまとわりつかせたまま、牙狼はデルフリンガーをホラーへと向けた。
魔剣のきっ先に絡みついた、爆発魔法の余韻をヴァルファルへと叩き付ける。デルフリンガーとホラーの間に火花が散り、相手が仰け反るように体勢を崩した。
重心が揺らいだ相手へ牙狼は体ごとぶつかり、さらに後方へ下がらせる。下がらせたことで開いた隙間にデルフリンガーを突き込み、踏み込み様に蹴り足で上方へと跳ね上げた。
未だ爆発魔法の残滓をまとった魔剣を叩きつけられ、ヴァルファルの身体が宙へと舞った。
それを追うように牙狼も跳び、放物線の頂点を描いたところで追いつき―。
斬!
牙狼剣の斜め上方からの一薙ぎが、ヴァルファルの胴体を両断した。
蝙蝠を思わせる身体が弾け、元々の姿へと還ってゆく。
―ごめんなさい―
青年の姿へと戻ったのもつかの間、レナードの身体は塵と化して消えていった。
―僕、どうしてこんなことを―

地上へと着地した瞬間、牙狼の鎧が解除される。
バラバラに分解された牙狼の鎧は、再び組み合わされて背後の空間へと消えていった。
「鋼牙!」
騎士の姿に戻った鋼牙の元へと、ルイズが駆け寄ってゆく。
「あ~もう打ち止め。これ以上ヤったら、紅い玉が出てくるわよきっと」
「確かに、あれはちょっときつかったわね」
遣い魔との合体攻撃で、魔力を限界まで使い果たしたキュルケとモンモランシーは互いに肩を支え合いながら立ち上がった。
『きゅいーーーーーーーーーーっっ!』
甲高い鳴き声に夜空を見上げると、タバサを背中に乗せてゆっくりと降下してくるシルフィードの姿が目に入った。どうやら、こちらの主は意識を喪ってしまったらしい。
そんな仲間たちを背後に感じ取りながら、二人は見詰め合った。
「お前たちのおかげで、ホラーを倒すことができた。礼を言う」
鋼牙がためらいつつ、口を開いた。
「わかってくれた?鋼牙」
振り向き近づいて来る仲間に視線を向けて、ルイズは答える。
「あのホラーを倒すのは、鋼牙独りじゃあできなかったわ。鋼牙と私たち全員、みんなで一つの力を合わせたから可能だったのよ」
再び顔を向けたルイズは、鋼牙の胸に掌を当て、花のような笑顔をほころばせた。
「あたしたちみんなの勝利ね?鋼牙」
「ああ、お前たちと―」
うなづいた鋼牙は、左掌の魔剣へと眼を向けた。
「この剣のおかげだ」
『おう!これからもよろしくな!相棒』
デルフリンガーが鍔を鳴らし、陽気に挨拶を返した。

瓦礫に半ば埋もれた状態で、エレオノールは呆然とへたり込んでいた。
余りにも突然すぎる別れ話。
余りにも唐突な、慣れ親しんだ職場での惨劇。
余りにも急変する環境の変化に、今の彼女は意識がついていけない状態だった。
混乱する意識のまま、誰か生きているものを捜し求めてさ迷い歩く彼女を最後に襲ったのが、アカデミーの崩壊だった。
建物の内部だったため、『巨大な何物か』がアカデミーの建造物本体から現われたことに彼女は気付けなかった。
そして、建物の外部で飛び交う魔法の気配を察知した、彼女の脳裏に一つの結論が導き出される。
襲われたのだ。
魔法を用いる、何者かに。
それによりアカデミーの自分を除く全員が殺され、最後に建造物全体が破壊されたのだと。


ある意味短絡的とも思える解釈だが、この場合彼女にもたらされた情報が、余りに偏り過ぎてしまったことがその誤解に輪をかけていた。
そして、エレオノールの前に誤解の元となる決定的な存在が現われる。
「あれ、は?」
崩れ落ちる寸前の亀裂の隙間から、外の光景が垣間見えていた。
そこから、煌めく『何か』が動いた気がしたのだ。
そして目を凝らした彼女が見たものは―。
黄金の鎧の戦士だった。
獰猛な、狼を模した冑の戦士は両腕に大剣を携えて静かに気息を整えていた。
そして、唐突に黄金の鎧が弾けて、中から白の装甲コートをまとった騎士が姿を現した。
何処か異国の容貌の戦士は、ゆっくりと顔を上げて彼方を見る。
「コウガ!」
だが、さらに驚くべきことが起きた。彼方から、聴いた事のある呼び声が聞こえてきたのである。
「え?」
呆けた顔で、思わず声を出してしまう。
まさか、そんなはずがない。
異国の青年騎士に声をかけたのは、彼女が最も良く知る存在だったからだ。
「ちび……ルイズ?」
特徴あるピンクがかったブロンドの髪をなびかせて、小柄な少女が青年の胸に飛び込んだ(ようにエレオノールには見えた)。
そして気安げに、仲睦ましげに会話を始めたのだ。
何人もの同僚が殺された、このアカデミーの廃墟の上で!
さらに驚くべき光景が、彼女の前に展開した。
末妹以外にも、何人もの学院の制服を着た少女たちが現われたのだ。彼女たちはみんな、魔力を使い果たしたように消耗し切った顔をしていた。
こうして、エレオノールの誤解は決定的なものとなった。
「そう、そういうこと……」
これがオールド・オスマンの意志なのか。
自らの学院の生徒を動員しての、アカデミー潰し。
しかも姉が居る事がわかっている職場に、嬉々としてはせ参じる末の妹の姿。自分は何もかも失ったのに、“ちびルイズ”は何かも持っている。
ギリ……と。
いつの間にかエレオノールは唇を血がにじむほど噛み締めていた。
必ず、必ずこの礼はしてやる。
オールド・オスマンと彼に率いられる学院に、エレオノールは報復を誓った。
そのためにはまず……。
「生き延びないと」
エレオノールは、瓦礫の中から身を起こし、立ち上がろうとした。腕の力を振り絞り、足に力を込めて上へ、上へとひたすら目指す。
と、身体を引き上げようと伸ばした指に何かが触れた。
ソレは小さな硝子瓶だった。内部の標本は魔法により凍結された上、固定化により劣化を妨げられている。
その透明な硝子壁の内部で、眠るように保存されていた漆黒の肉片が。
ゴボリ………と揺れた。

トリステイン王都トリスタニアの王宮近くにある王立魔法研究所 通称アカデミーが未明夜、突然の爆発音とともに崩壊した事件は、研究所内部で行なわれた魔法実験の失敗によるものとして処理された。
唯一の生き残りであるヴァリエール家長女 エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ヴァリエールは、突然の事故にトリステイン魔法学院から慌てて駆けつけた三女 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールの面会にも応じることなく、事故の処理が済んだ後、慌しく実家に帰還したと記録には残されている。

暁の空の下を、その少年は歩いていた。
まっ白な燕尾服に糊の利いたシャツ、蝶ネクタイから手袋にいたるまで完全に白でコーディネイトされたその姿は、闇より濃い、仏暁の暗闇の中で一際映えて見えた。
完璧な白の一言に尽きるその姿は、周囲に広がる瓦礫の原にはいかにもそぐわなさ過ぎる。まるで自然災害に逢ったかのように、周囲は完全な廃墟と化していた。
ここが一夜明ける前までは、王宮の覚えめでたいアカデミーの施設があった場所だなどと誰が思うだろう?
火の魔法や水の魔法が入り乱れた跡がまざまざと残る様子は、大規模な戦闘が終わったばかりに見える。
魔法衛士隊すら動員した救助活動の結果、わずかに一名の生存が確認された以外は完全に絶望視されていた。
そんな、今もなお瓦礫の下に屍が残る地を、その白き美童は軽やかに歩く。
と、その脚が止まった。
白い革靴の靴底をキュッ!と鳴らし、停止した場所はかっての研究所所長の部屋があった場所だった。
とは言っても、ほぼ平坦に均(な)された地で、かっての部屋割りを再現するのはきわめて困難だろう。果たして、ソレは余人にはうかがい知る由も無い摩訶不思議な術によるものだった。
足を停めた少年は、ジッと足元を眺めた。
そしておもむろに腕を伸ばし、何かを握り締めるような動作をした後、勢い良く上方へ跳ね上げた。
次の瞬間、鈍い音と共に足元の土が抉れ、消えた。
大きなすり鉢状の穴は、人が二人ばかり楽に横たわる事ができるくらいの直径である。
かなり離れた場所から、重いものが落下して立てる地響きが聴こえてきた。
それが、少年の足元から抉られた瓦礫が落下した音だと誰が知りえようか。
ほぼ、目標に届く深さまで掘り進んだ事を確認した美童は、すり鉢状の空間を見下ろした。
穴のちょうど底に、なにやら巨大な四角いものがあった。
かろうじて穴の底に届く、青の月の光に照らされてソレは鋼鉄の黒みがかった光沢を放っていた。ほぼ横倒しになったおかげで、こちらを向いた扉には大きな鍵穴があるのが見える。
―金庫だ。

それは、所長室に置かれていた金庫だった。金目のものと言うよりも、重要な機密文書を保管しておく用途のものだ。
少年は眼下にある金庫へ向かって腕を伸ばそうとした。その時―。
「貴様!なにをしている!?」
鋭い制止の声と共に、背後から足音が近づいてきた。瓦礫をものともせず駆け寄るソレは、鍛えられた兵士のそれだ。
「こんな時間にこんな場所にいるとは、貴様火事場泥棒の類か!?」
「我らが見回りしている最中に現われるとは、運の無い奴だ」
「おとなしくしろ!死にたくなければな」
現われた三人の衛士は、散開して少年を囲うように三方へ広がった。
杖を兼ねるレイピアを抜き放ち、少年へと向ける。既にうち二人はいつでも魔法を放てるよう、高速詠唱(つまりは早口のルーン)を唱え始めていた。
「二、三発、痛い目にあってもらうぞ」
一人がエア・ハンマーの呪文を唱え終わる。その次の瞬間!
少年は、わずらわしそうな表情を浮かべて右腕を打ち振った。
途端、今しも魔法攻撃を放とうとしていたメイジが唐突に消える。
「え!?」「おい!」
唐突な仲間の消失に、残された二人のメイジが唖然とする中、彼方で鈍い地響きが聴こえた。
見れば、数十メートル先にあった、かろうじて残された壁に黒い染みのようなものが広がっている。
ちょうど、我々の世界で地上数十階のビルから蛙を思いきりアスファルトの道路にぶつけたときにできる染みに似ていた。
それが、非常な高速で射出されたため、壁にぶつかった衝撃で限りなく平面にひき伸ばされた仲間の姿だと二人には理解できただろうか?
兎に角、思いがけない事で仲間が喪われた事を、彼らは本能的に直勘した。
「くそ!こいつ、アルマンを!」「こ、殺せ!殺すんだ」
それぞれの最大魔法を放とうと杖をうち振ったその時―。
少年が、跳んだ。
「!」「逃げ―」
左の掌を、下方へと打ち下ろす。
炎の呪文を放とうとしたメイジが“透明な巨大な掌”に叩き潰されて限りなく薄い肉の煎餅と化した。
右の掌で、残る一人のメイジの足元を打つ。
メイジの足元に、巨大な掌の形の陥没が生まれる。今しも氷の槍を放とうとしたメイジは体勢を崩し、そのため魔法攻撃は全く見当違いの方向へ飛び去ってしまった。
いったい、自分たちがどのような攻撃を受けているのか?結局最後までメイジたちには分からないままだった。
「ば、化け物―」
背中を向け逃げ始めたメイジへ、少年は無慈悲にも両掌を打ち合わせた。

瓦礫の原に、ブチリと、柔らかなものが潰される音が響く。
全てが、ほんの数分の間の出来事だった。所々に残された、血だまりを気にも留めることなく、少年は再び作業に戻った。
穴の底から、不可視の巨大な掌で金庫を引っぱり上げる。目の前に置かれた金庫の、観音開きの巨大な鉄の扉の隙間に再び“指”を突き立て、無理矢理両側へ開いていった。
廃墟の中に、再び金属の悲鳴のような音が鳴り響いた。
無理矢理引き千切った鋼鉄の扉をうち捨て、少年は金庫の中身を覗き込む。
どうやら、少年が探していたモノは見つかったようだ。ほどなくして、少年は一抱えほどもある羊皮紙製の本を金庫の中から見つけ出した。
他のものは一顧だにせず、少年はその本を恭しく掲げ持ち歩き始める。
古びた皮の装丁の施された、おおよそ三百ページばかりの全てが完全に白紙でできた本。

その名前を『始祖の祈祷書』と言う。

                               第6話 封剣 終了

例え明日が 終わっても
君はくじけず 前を見続ける
悲しみはいつか消せるはず
僕はかならず 君を守りぬくよ
たとえ全てをなくしても もう一度
きみの微笑みを 見るその日まで
僕が愛を伝えてゆく

~予告~
ザルバ『仇敵と書いてライバルと呼び、戦友と書いて友と呼ぶ。果たして、鋼牙が巡り合ったアイツはなんと呼ぶべきか?処は裏ぶるチクトンネ街。蝶よ花よと咲き乱れるは居酒屋『魅惑の妖精亭』の濃い面々。煌めく双剣が闇を切り、身にまとう鎧は眩き銀の輝きを放つ。次回『銀装』。お嬢ちゃんを守り抜け……鋼牙!』

新着情報

取得中です。