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牙狼~黄金の遣い魔 第6話(Dパート)

「たぶん、ある」
鋼牙の行方を捜す方法があるという、タバサの自信に満ちた答えに、一行は眼をみはった。
「どういうこと?そんな魔法って、あったかしら?風の系統……うーん?」
頭上に巨大な疑問符を浮かべるキュルケに対して、タバサが懐から出したのは、件(くだん)のアルヴィーを用いた魔法の玩具だった。全員が鋼牙にねだった、硝子製の容器内に四季の風景を現した自動人形である。
タバサのソレは、窓を大きく取った居間に、親子三人が居るデザインのものだった。一日が過ぎ行く間に、夫や妻や幼いその娘が居間の中を動き回り、居間の窓からは季節の移り変わりが見ることができる。
平凡だけど、穏やかで、けして失いたくないと誰もが思うような風景画がそこにあった。
ソレを様々な感情が入り混じった表情で眺めながら、タバサはもう一つの手で懐を探った。
「それは、なにかしら?」
タバサが取り出した、汚い皮製袋を見てモンモランシーが首を傾げる。それに対し、タバサは簡潔に答えた。
「オールド・オスマンから習った、探査方法」
「ああ!」
それを聞いて、ルイズは「自分も心当たりがある」と両掌を打ち合わせた。
「確か、ダウジングって術ね?それの魔戒法師版とかどうとか言ってなかった?」
「そう、その通り」
ルイズは魔戒法師としてオールド・オスマンに受けた指導を思い出し、顔色を曇らせる。
「でもあれは、探す相手が常に身に着けていたものか、今現在持ってるものと共鳴するものが手元にないといけないって」
「だからこそ、コレを使う」
再びタバサは、玩具を目の前に突きつける。
「コレと同じものを、鋼牙は持ってるはず。ヴァリエール、貴女の分を」
「ああっ―!」
ようやくルイズにも、タバサの言いたいことに合点がいったようだ。
「つまり、同じ玩具に用いられてる、魔法の共鳴を利用するってわけね」
「そー言えば言ってたわねえ。あたしたちが最初のお客さんだって」
「しかも、あんまり……と言うか全然売れてなさそうだったからね」
キュルケの指摘にモンモランシーも補足した。

「よし!さっそく調べてみましょうよ」
ルイズの言葉に、一同は賛同した。
「よっしゃ!」「試してみる価値は、ありそうね」「……」

馬車の中で、エレオノールはうつむき座っていた。
車両が揺れるたびに、頭がグラグラ揺れる。そのたびに豊かなブロンドが揺れて乱れて、くしゃくしゃな状態になった。けれどそれを気にする事無く、彼女は虚ろな眼差しを足元に向けていた。
「く……」
かすかなうめき声と共に唇を噛み締めた。ひざの上に投げ出された掌が拳を作り、白くなるまで強く強く握り締められる。込められた力に腕がブルブルと震え、その震えは肩へ、さらに身体全体に及んで行って―。
「ふっざけんなああああああああああああああああああああああっ!」
馬車の中で仁王立ちになり、全身全霊を込めて叫んだ。
「!」
次の瞬間、馬車が揺れた。どうやら御者のゴーレムが一瞬、制御を誤ったらしい。しばらく何回か揺れたが、どうやら持ち直したようで再び正常な運行へ戻った。
「はあ、はあ、はああああああ」
肺の中の空気を思い切り絞り出したエレオノールは、しばらくの間荒い呼吸を繰り返した。その後、ようやく呼吸が正常になると口の中で何かブツブツ呟き始めた。
「婚約解消って、ふっざけるんじゃあないわよ!」
「天下のヴァリエール家の長女との縁談を断るって、何様のつもり?」
「『君とはもう限界だ!』ってどういう意味なのよ?」
「おまけに、おまけに、おまけにおまけにおまけに!」
「ウッガーッ!」とか叫び、再び天井を仰ぎ見て―。
「なぁにぃが『実は、好きなヒトができたんだ!』ッよおおおおっ!奇麗事抜かしやがってええええっ!」
脳裏に浮かぶのは、婚約者のはずだったバーガンティ伯爵の腕に抱かれた、少女の姿。
婚約解消を告げた足で、急ぎ駆け足で赴く伯爵の後を追った先で、目撃した光景だった。
御付の人間と待っていた、十代の少女のお腹はどう見てもハラボテ(妊娠)です本当にありがとうございました。
「糞!ど~見たって浮気じゃない!糞!そ~んなに若い娘が良いのかよ!それとも乳か、乳なのか~!糞!糞!舐めやがって~!くそっ!くそっ!ふざけるんじゃね~っ!」
いつしか足元を何度も踏みしめていた。足底を叩き込むたびに馬車が揺れる。終いにはガタ!とか異音を放って床板が落ちていった。危うく飛び退いたため自分は落ちなかったが。
「ったく!母上にはど~説明すりゃいいのよ~っ!」
「ドラゴンがまたいで通る」通称「ドラまた」と呼ばれる自分の母親の姿を脳裏に描いて、エレオノールはゾクリと身震いした。実際、生命の危機を覚える。
「はあ」
あらかた暴れてすっきりしたのか、エレオノールは座席に腰掛けた。ひざを抱え、身体を丸めて嘆息する。

正直、体力精神ともに限界だった。仕事面でも私生活面でもいろいろ有りすぎて、張り詰めたものが振り切れる一歩手前であると自覚できる。もうこの上で何かあったら、プチン!と切れて何も手につかなくなるだろう。
「あーあ、もう少し、可愛ければな」
他人から「可愛くない女」と言われていることは自覚していた。だがそれは自分の実力に及ばない者のやっかみだろうと解釈していた。半分は正解だったが……もう半分くらいは、自分に対する忠告みたいなものではなかっただろうか?
「カトレア、みたいに」
自分のすぐ下の妹の事を思い浮かべる。あの半分でも人当たり(正確には動物当たりもあると思うが)があれば、他人―特に婚約者など―に与える印象も違っただろう。
「もう良い……帰って、寝よ」
これ以上何かをしても、精神的に落ち込むだけだ。と言うかもはや何もしたくない。とりあえず馬車がアカデミーに着いたら、身の回りの物をまとめて自宅に戻ろう。そしてひたすら寝るのだ。
そのことを固く決意したときに、馬車が揺れて停まった。
「着いたか」
大きく伸びをして、先ほど踏み抜いた床板を避けながらエレオノールは馬車から降りた。
乗客が降りたことを認識して、ゴーレムは馬車を停車場へ誘導する。その音を背後に聞きながら、エレオノールはアカデミーの中へ入っていった。
「ん?」
入ってすぐに気がついた。
おかしい。人の気配がしない。魔法による換気の音が廊下に響いているが、それだけである。大体、アカデミーは不夜城とも呼ばれて昼も夜も稼働している。むしろ昼寝ていて夜に活発化する人種もいるくらいだ。
なのに今、王立研究所内には動く人影が一つもない。廊下を歩きながら、並ぶ部屋の扉の向こうへ耳を澄ませてみるものの、実験をしている物音は聞こえてこなかった。
「何か異常が起きたのかしら?」
この段階で、鈍っていたエレオノールの神経もようやく活性化した。
守衛や宿直の人間すら居ないのは、どうしたことだろうか?
「これは、調べてみる必要があるわね」
杖を取り出し、身構えながらエレオノールは手近な扉へ近づいていった。
開錠の呪文はタブーとされているが、今はそんな事は言ってられないだろう。他人の実験
室へ押し入った場合、スパイと見なされるかもしれないという危惧すらも、今の異常事態では思い浮かばなかった。
プレートに『風系通信技術』と書かれた扉を開け、内部を覗き込む。
やはり相変わらず人の姿は見えない。実験用テーブルの上には様々な試料が転がっているものの、
それを元に戻そうという者すら居ないようだ。ざっと視線を走らせるものの、手がかりになるような物は何もない。

否。
あった。
ちょうどテーブルに隠れる形で、こちら側から見えにくい位置に広がっている水溜りは何だろう?
陰になっているため、はっきりとは分からないが無色透明な水ではない気がする。
近づこうとしたエレオノールの鼻腔に、ツン!とくる金気臭い匂いが飛び込んだ。
「まさか!」
慌ててテーブルのところまで駆け寄り、覗き込んだエレオノールは、目の前に広がる光景に絶句した。

「要は、この玩具の魔力と同じ質のものを見つければ良いわけね」
足元にトリスタニアの地図を広げていたモンモランシーが、確認の顔を上げた。
「広範囲デティクト・マジックかぁ、ちょーときついんじゃない?」
「そのためにダウジングを応用するわけよ。ダウジングの結果、この地図の上に目標の魔力が投影される。デティクト・マジックは、この地図の上にかけるだけで良いの」
ルイズの説明に、キュルケは「なーるほど」とうなづいて頭をかいた。
「……行なう」
三人を見据えながら、タバサは皮袋の中から砂を取り出した。発光性物質が含まれているらしく、通りの暗がりの中で蒼く妖しく輝くソレを地図の上にまき始める。
最初は、無秩序な砂のばら撒きに見えた。だがモンモランシーがデティクト・マジックの呪文を唱えると、地図の上の砂が移動し始める。
たがて、トリスタニア市街の街並みの中に、複数の青白い塊が生まれた。
「ええと、この通りは今居る場所だから、アタシ達ね。こっちのブルドンネ街の宿屋の中のおっきな塊は―」
「十中八九、昼間買った元ね。その人が今宿屋に泊まってるんだわ」
「ってことは、この一番小さいのがダーリンってわけね。きゃ!ダーリンのが小さい……うふふふ」
他の三人の『ナニ呆けてんだこいつは?』な視線の先で、キュルケが不気味に身をくねらせた。
「……さて、気を取り直して、この光点が鋼牙に間違いないわね。しかも移動してるし」
「確実。問題は何処に向かっているか」
地図の上で、発光性物質を含んだ砂の集まりは移動していた。地図上はゆっくりと見えるが、縮尺によればかなりの高速である。
『ああん!ダーリンがちっちゃいだなんて、キュルケち~とも思ってないわよ~』
いまだ戯言を抜かすキュルケを放置し、三人が目を追った先。
「なるほど」「ええ!」「……」
三人は顔を上げ、同時にうなづいた。
「鋼牙は、王立研究所=アカデミーに向かってるわ……まさか、姉さま」
「アカデミーかあ。私たちの脚じゃあ、今からは追いつけないわね」
「大丈夫」

モンモランシーの悲観的な言葉に対して、タバサは首を振った。
「迎えのものを寄越す」
次の瞬間、トリスタニア正門近くの厩舎の屋根が破れ、内部からサラマンダーを抱えた風竜が飛び出した。

王都トリスタニアの街の上を、一対の影が跳んでいた。
うち先行する影は、白衣の背中から大量の触手を生やした青年の姿をしていた。移動方法は、その触手を十数メイル先の壁や屋根に打ち込み、自分を引っぱると言ったものである。
対する追う影は、白いコートの剣士である。こちらは屋根を蹴りつけ、地上のように街の上を駆け抜けていた。
だが、二人の移動方法の違いが徐々に距離を生み出していた。手足を全く用いず、触手の伸び縮みのみで移動する前者と、いちいち屋根を蹴り付けて速度を維持しなければならない後者では微妙に速度が異なる。ましてや、前者が触手で引き抜いた屋根瓦や建材を後方へ投げ飛ばして邪魔をするため、さらに移動速度は低下してしまった。
「まずいな。このままじゃあ逃げられる恐れがある」
『どうかな?あいつ、どこか目的の場所があるみたいだが』
やや焦り気味の鋼牙に対し、先ほどのホラーの言葉を反芻した《ザルバ》が答えた。
『たぶん、俺たちをそこへおびき寄せる算段だろうな』
「ちぃ!」
舌打ちしながら、ヴァルファルが飛ばした屋根瓦を弾き飛ばす鋼牙。
やがて街並みが途切れ、前方に異様な光景が現われた。
トリスタニアの街並みは、白い石材で統一されている。なのに前方に突然現われた建造物は、黒曜石を思わせる漆黒の建材で造られていた。
数十軒分の敷地全体を、平べったい1.5階ほどの高さの建造物が覆っている風景は、中世的なハルケギニアのソレとはあきらかに異質だった。
「ここは?」
思わず鋼牙は足を停めた。ヴァルファルはまっ直ぐその建造物を目指しているようだ。そう言えば、ヴァルファルの宿主は白衣をまとっていた。と言うことは、ここは何らかの実験施設のような場所なのだろうか?
『なるほど』
周囲をざっと見回した《ザルバ》は納得の声を上げた。
『話には聞いていたが……どうやらここは、王立研究所。いわゆるアカデミーってところらしいな』
アカデミーの屋上に到着したヴァルファルは、脳を抱えたまま高らかに哄笑した。
『はHァはAhあハァ!こkォgあGォォRうdA!mAカいKいSイ!ぃmあKaらスbあRアしIもNおヲkいMいn見SてAげRuよ!(ははははは!ここがゴールだ!魔戒騎士!今から素晴らしいものを君に見せてあげるよ!)』
まるで優勝杯のように、白衣の青年は脳を高々と掲げる。同時に、アカデミーの建造物全体が大きく振動を開始した。
『こいつは……』

「振動は(建物の)中からだ!」
『KォRぇが、BぉくノtうkゥたSあKuひN……(これが、僕の作った作品……)』
次第に振動は大きくなってゆき、ついにアカデミーの建造物の各所が崩れ始める。
やがて、建造物の中央辺りが盛り上がり、そこから巨大な何物かが現われ出でた。
大きさは小さな家屋ほど。全体が半球状で後部に太い尻尾のようなものが続いている。その姿はまるで……。
『おいおい、こいつは』
「脳、か?」
恐ろしく巨大な一個の脳であった。尾のように見えたのは、脳の後端とつながった脊髄の部分であろう。
大量の脳をパズルのように組み合わせて作り上げられた、巨大な脳のオブジェの上に立ち、ヴァルファルは最後の脳を頭上高く掲げ―。
『SェいTあIカKyうキDァ!(生体過給器だ!)』
前頭葉の中心に埋め込んだ。
次の瞬間、ヴァルファルの足元を中心に凄まじい風が吹いた。続いて熱波。そして凍気。さらに広範囲の小規模地震が発生し、アカデミーの建造物はよりいっそう崩壊していった。
『こいつは、四系統の魔法か?それが暴走?いや、チューニング……最後の微調整中なのか?』
目の前の天変地異に、《ザルバ》が何事か呟いた。
『だが、個人が起こせる魔力じゃないな…そうか!』
《ザルバ》は声を改め、己のパートナーに告げた。
『気をつけろ!鋼牙。とんでもない魔法攻撃が来るぞ』
「どういうことだ?」
『アレはたぶん…生体部品を使った、魔法の増力装置だ!』
増力装置(ブースター)……すなわち、個人の魔法の能力を何倍にも高める機能を持っているということだ。ならば、百人近い人間の脳を部品としたそれは、魔法の威力ををどれくらい高めるだろう?
魔法攻撃と言えば、何らかの対抗手段を求めて街へ出たのに、何も得るものがなかった。そのことが返す返す無念だった。結局鋼牙が手に入れたのは、錆び付いた長剣ただ一振りきりだったからだ。
(何を考える暇がある?)
鋼牙は頭を振り、迫り来る魔法攻撃に備えようと身構えた。だが―。
『HAハhAhaハ!OソI !モぅ遅I nォだ!コUなッTあRa、もU貴サMaにはKぁち目ハNあIぞ!(ハハハハ!遅い!もう遅いのだ!こうなったら、もう貴様には勝ち目はないぞ!)』
荒れ狂っていた異変が不意に止んだ。
見れば、脳の二つの半球の合間にヴァルファルは己の身を埋めつつあった。背中から伸びた触手が、巨大脳の各所に潜り込み、接続してゆく。
『Go・タい・カN・Ryおウ!(合・体・完・了!)』

頭部を残し、ほぼ全身を脳の中に埋めたヴァルファルはニタリと笑みを浮かべ―。
『えァ・はNマー × 11 !(エア・ハンマー × 11 !)』
「!」
ソレを避けることができたのは、半ば偶然だった。
視界の隅で何かが揺れたように感じて、知らず身体を傾けていた。次の瞬間、巨大な透明な塊が鋼牙の身体をかすめ飛び、足元に突き刺さった。
「なんだと!」
まるで砲弾が足元に着弾したかのようだった。下から突き上げる衝撃を全身に浴び、鋼牙は十数メイルばかり吹き飛ばされた。
「おお!」
だが、衝撃は一回きりでは収まらなかった。二回、三回と自分を追うように次々と着弾する。その間鋼牙の体は衝撃にぶん回され、空中で何度も回転した。
空気の塊を飛ばす、『エア・ハンマー』の魔法。その超強力版を何回も連続してぶつけられているのだと理解した鋼牙は、空中で何とか体勢を立て直そうとする。
視界に隅に、『エア・ハンマー』で破壊された建材の一部が迫ってきているのが映った。
体勢を立て直し、生まれた慣性を利用して、鋼牙は建材の方向へ足底を向ける。
次の瞬間、建材を蹴り付けて鋼牙の身体は一直線にヴァルファルの方へ向かった。背後で鋼牙が足場にした建材が『エア・ハンマー』に打ち砕かれる。その破砕音を背中に聞きながら、鋼牙は魔戒剣を前方へ突き出した。
この勢いならば、『エア・ハンマー』の猛攻をしのぎ相手に届くことができる。
そう、思われたその時だった。
『うI nデぃ・IしKゥRう × 65 !(ウィンディ・アイシクル × 65 !)』
突如鋼牙の前に、65本の氷の矢が生まれた。とてつもない冷気と鋭さを備えたソレらは、風の渦の力を受けて一斉に放たれた。圧倒的な数による、圧倒的な暴力。まさに『点』ではなく、『面』での攻撃に《ザルバ》が危機感に満ちた叫び声を発した。
『鋼牙!氷刃に向かって飛べ!』
「おお!」
《ザルバ》の意図を明確に察した鋼牙は、剣を握った腕を軸に高速回転した。ちょうど身体が地面に平行に飛ぶ形となり、飛来する氷の矢の雨に対して極小の投影面積となる。
ホラーの攻撃を潜り抜ける鋼牙の肩を、背中を、胸を、太ももを氷刃が次々とかすめ飛んでいった。
「『抜けた!』」
ヴァルファルまであと一歩というところで着地し、鋼牙はひざを着いた。
ウィンディ・アイシクルの猛攻をしのぐことはできたが、結果的に先ほどまでの突撃の勢いを失うこととなってしまったのだ。
『雷tニんgう・KうラUど × 51 !(ライトニング・クラウド × 51 !)』
だが、相手はその隙を逃さなかった。ヴァルファルの周囲の大気が帯電し、青白い雷撃が放たれる。風のメイジの攻撃魔法。その五十一人分の魔力が鋼牙の前で弾けた。
「やられるか!」

視界全体を埋め尽くす雷光に、もはや成す術がないかと思われた。だが鋼牙は魔戒剣で眼前の空間に真円を描き、その中へ飛び込んで行った。
一瞬後、牙狼の鎧をまとった鋼牙の身体を雷撃が打つ。全身から火花を散らしながら、後方へ吹き飛んだ魔戒騎士は建物の壁へとぶつかり、その下の地面へ叩きつけられた。
地面に投げ出された衝撃で牙狼の鎧が解け、背後の空間に吸い込まれる。鋼牙の周囲にバラバラとイロイロなものが弾けて落ちた。どうやら、衝突のショックでコートの内側の空間に収められたものが飛び出してきたらしい。なにやら『いでっ!で、出られたー』とか声が聞こえたような気がしたが、それにかまっている暇はなかった。
「くそ!」
全身の感覚が麻痺し、失われていた。右手が妙に軽く感じる。かすむ目で見ると、握っているはずの魔戒剣がなかった。さきほどの衝撃で、どこかに落としてしまったらしい。震える足で立ち上がり、ヴァルファルの方へ鋼牙は無理矢理身体を向けた。
『サgしテIるノHa、コrえかNa?(探してるのは、これかな?)』
ヴァルファルが顎をしゃくり、己の下方を示した。地上2メイルほどの高さに浮いている『生体過給器』の直下の地面に、鋼牙の愛剣が突き刺さっていた。
悔しそうに歪む鋼牙の顔に、喜悦の表情を浮かべながらヴァルファルはおもむろに口を開いた。
『ちeクMeいトDあ。MあカIきSi。よISeィNoテすToニなTSUたヨ。KiみノOかGeデ、僕ノKeんKyうハ一だnとスSuンだ。あToハ―ソU、OれIの意Miを込メTeひToイKiにKおRォしTeあgえヨう(チェックメイトだ。魔戒騎士。良い性能テストになったよ。君のおかげで、僕の研究は一段と進んだ。後は―そう、お礼の意味を込めて一息に殺してあげよう)』
生体過給器付きヴァルファルの周囲の大気が、再びパリパリと静電気を帯び始めた。
ルーンを詠唱し、背中から伸びた数本の触手で鋼牙を指し示す。
『コreでOわリDa!MaかイKiし!雷tニんgう・KうラUど × 99 ! (これで終わりだ!魔戒騎士!ライトニング・クラウド ! × 99 ! )
先ほどとは、比べ物にならない超高圧電流の塊がヴァルファルの頭上に生まれた。
まるで固体化した雷(いかずち)のような青白い光球である。すなわち、メイジ99人分の魔力を込められた、ライトニング・クラウドのプラズマの塊が高速で魔戒騎士へ迫った。鋼牙は未だ麻痺し続ける身体を無理矢理疾駆して、その場から離れようと試みた。
『ハHa!MU駄Daあ!(はは!無駄だァ!)』
まるで意志持つかのごとくプラズマ球が鋼牙の進路に回りこみ、弾けようとしたその時!
「ちょーーーーーーーっと、待ったあァァァァァァ!」
いきなり若い女性の声が響き、鋼牙の周囲の地面に銀色の『何か』が突き立った。
ヴァルファルの放った『ライトニング・クラウド × 99』は鋼牙を襲う寸前、銀色の何かへ誘導されたように向かう。
メイジ99人分の雷撃はタバサの購入した投げナイフを避雷針代わりにして地面へと拡散してしまった。
そして、鋼牙の前に緋色の巨大な影が立ちはだかった。
「フレイムか?」

炎のゆらめきをまとい、キュルケの使い魔であるサラマンダーのフレイムがそこに居た。
無論、その上には主であるかっ色の肌の少女がまたがっている。
だがそればかりではなく、キュルケの背後には鋼牙の良く知る少女も同乗していた。
「ツェルプストー、任せたわ」
「はっは~任された」
.桃髪の少女はそう告げると、掌をひらひら振りながら見送るキュルケを後に残し、魔戒騎士の下へ向かった。
少女はやや駆け足気味で近づいてゆくと、ひざを着いた鋼牙に跳びかかり、伸ばした両腕で相手の頬をつかみ、思い切り引っぱった。
「りゅいずっ!?にゃにを!」
驚く鋼牙の顔を引き寄せて、桃髪の少女は震える声を投げつけた。
「い、いい加減にしなさいよ!いつもいつも一人だけで何とかしようとして、それでこんな事になってちゃあ、様はないわよ!」
「だが、お前たちはまだ未熟だ」
ようやく手を離された鋼牙が、両頬を撫でつつ答えた。
「わかってるわよ!そんな事!魔戒法師としても中途半端な、今のアタシ達じゃあ、一人で立ち向かったってホラーを倒せやしない。ううん。例え四人寄ろうとも一人前にもなりゃしない。でもね……」
涙を浮かべた目で、上目遣いにルイズは鋼牙を見つめて。
「鋼牙だって、そうでしょう?たった一人きり、この世界全てを守ろうなんてどだいできっこないじゃない!幾体、幾百体、次々と出てくるホラー全てを倒して……そんなんじゃあ、いつか疲れ切ってしまうわ」
そして一人ホラーに立ち向かおうとしているキュルケの方へ目を遣って。
「だからね。ほんの数秒でも、アタシ達が壁になって上げる。倒れそうになったその足を、踏ん張るための時間を稼いだげる。どんなに停めても、それでも守ろうとする貴方のためにできることはそれだけ」
鋼牙を後に残し、ルイズは自らの杖をかざしてキュルケの方へ歩んで行こうとした。
「大丈夫よ。死んだりしない。必ず生きて、五人また揃えるようにする。魔戒法師の修行は、そのためのものなんだから。だから鋼牙……」
すばやく『錬金』の呪文を唱え、ルイズは杖を振り下ろした。生体過給器の周囲に爆炎が散り、ヴァルファルが苦痛の悲鳴を上げる。
「一緒に戦おう!」

「やっほ~!おまたせえ」
フレイムを降り、ヴァルファルと向き合ったキュルケは、スカートのベルト部から耐熱合金製リボンを引き抜き構えた。

超合金スーパーアロイ 耐熱・耐腐食性の高いこの合金は、本来ハルケギニアにはありえない素材のはずである。だが、連綿と続くツェルプストー家とヴァリエール家の抗争がソレを生み出したと言えば、意外の念を抱く者がいるかもしれない。
話は、キュルケとルイズの世代から五世代ほど過去に遡る。その世代も例には漏れず恋人を奪われたり妻を寝取られたりを繰り返していた。当時のツェルプストー家の御曹司に、あろうことかヴァリエール家へ輿入れ途中の花嫁が奪われてしまったのだ。
おさまらないのは婚約者を奪われたヴァリエールの長男である。おりしもトリステインと群雄割拠していたゲルマニアの一勢力が国境争いを繰り返していた時代である。その紛争に参加したヴァリエール家の長男と、ツェルプストー家の御曹司は戦場で見(まみ)える
事となったわけである。
その勝負は、絶対零度の鎧『ジェントリィ・ウィスプ』をまとうヴァリエール家長男側の一方的な勝利に終わった。ツェルプストーの炎攻撃はその鎧の前にことごとく凍らされ、停止させられてしまったのだ。
嘆き悲しんだのは、バラバラに粉砕された息子の遺体を届けられたツェルプストー家の当主である。彼は最愛の息子の亡骸を前にして、ヴァリエールに対する敵討ちを誓った。
とは言え、絶対零度の鎧の前に生半な魔法攻撃は無意味であった。
何とかして、鎧の防御を貫く手段はないものか?それには、己の持つ炎の力を極限まで効率的に伝達する武器が必要である。
そう、考えた当主は八方手を尽くして様々な武器を入手した。だが、復讐に燃える炎の魔法を受け止めきれる武器は存在しなかった。『ジェントリィ・ウィスプ』を貫く温度域まで上昇すると、ことごとく融け落ちてしまったからだ。
当主は考えた。ないならば、造ってしまえば良い。自分の炎を受け止め、なおかつ武器としての強度を保つ素材を錬金してしまえば良いのだ。
かくして、1000℃を超える炎に耐えることができる素材の研究が始まった。当初は金属として限りなく純度を高めてゆく方法が検討されたが、それは無駄な結果に終わった。
そしてあるとき、複数の金属を一定の割合で配合することでお互いの金属の長所を伸ばす方法が発見された。それまでは『真鍮』すら合金ではなく、『真鍮』という金属の認識だったのである。
かくして最大の炎攻撃に耐えられる素材が完成した。後はこれで武器を製造するのみである。ツェルプストーの当主は、配下の土系統のメイジに耐熱合金製の馬上槍の錬金を急がせた。
こうして、ヴァリエールとツェルプストーの因縁の第二試合が行なわれたわけである。ツェルプストー家当主は弟に家督を譲り、老骨に鞭打ち戦場に立った。
この戦いは……結果的に『相打ち』に終わった。ツェルプストーの元当主は『ジェントリー・ウィスプ』に馬ごと粉々に打ち砕かれたが、最後に繰り出した超高温の熱を蓄積した槍の先端が、ヴァリエール家長男の心臓を抉ったのである。
こうして、偶然生み出されたオーバーテクノロジーはツェルプストー家の門外不出の秘伝とされた。キュルケはこの秘伝から知識を得、耐熱合金製のリボンを作り上げたわけだ。単に魔法の攻撃のみでは、ホラーに対抗し得ないと判断したからである。
なお、後年稀代のエンジニアを女婿として迎えたキュルケは、ゲルマニアで重工業会社を立ち上げる。その後数世紀に渡って民間・軍需を支配し続ける事となる『ツェルプストー』の興りである。その発端として、この秘伝が何らかの影響を及ぼした事は間違いない


閑話休題。
生体過給器付きヴァルファルと対峙したキュルケは、巨大な脳を思わせる異様を見て、「フン!」と鼻を鳴らした。
「まぁたずいぶんキモい格好なンですけど~。言われたりしません~?あんたのセンス最悪ってさぁ」
挑発の言葉とともに繰り出したリボンは、まるでソレ自らが意志持つかのように身をくねらせると、生体過給器の各所に絡みついた。
「まずは、その薄汚い肉の塊をバランバランにしてあげるわ~」
炎の魔法により、一瞬で摂氏数百度に達したソレを絡みつかせた対象の上で滑らせる。そうすることにより相手を表面から焼き切り、治癒が困難な傷を負わせるというのがキュルケの攻撃のコンセプトだ。
『Iス・すTォーMu  × 32 !(アイス・ストーム × 32 ! )
だが、相手も成すすべもなく攻撃を受けるつもりはなかった。
極寒の大気の渦とともに、大量の氷刃が現われ金属性リボンをずたずたに切り裂く。反動で地面に投げ出されるキュルケ。その真上からヴァルファルの放った蝕手が襲い掛かった。
「チッ!」
とっさに舌打ちをして、キュルケは指を弾いた。次の瞬間、ヴァルファルの真下の地面から十数個の白熱球が飛び出し、一斉に弾ける。
白熱球から放たれた、何十本もの火線がヴァルファルに襲い掛かる。だが、再び唱えられた『エア・ハンマー × 16』の攻撃がことごとくソレを撃ち落してしまった。
もはや身を守るすべはない。追い詰めたことを確信し、眼下のメイジを見下ろそうとしたその時、ヴァルファルの身体―正確には生体過給器―に別の衝撃が走った。
『ナNiっ!(なにっ!)』
キュルケの背後に、ピンクがかったブロンドの少女が立ち、杖を振ったのだ。杖を振った瞬間、突然生体過給器の各所が爆発し、その制御を失ってしまった。各所に張り巡らせた触手を用い、ヴァルファルは必死で生体過給器の制御を取り戻そうとした。
『バKaな!BoくノtiかラをUち消スだと!(馬鹿な!僕の力を打ち消すだと?)』
屍の脳を生かし、一体化させて機能させているホラーの力。その力を目の前の少女は、一瞬でも無効化させたのだ。
ヴァルファルは目の前の少女を睨み、判断した。
こいつは、危険だと。
ピンク髪の少女は、先ほど彼が葬りかけた魔戒騎士を背中にかばうように立っていた。
鳶色の瞳の奥で、揺らぐ事のない強い意志のきらめきが見える。
その光に怯えたわけではないだろうが、ヴァルファルの中から、なりふりかまう気持ちが失われた。
『SaいダIのTiカらデ葬ルMaで!(最大の力で葬るまで!)』
生体過給器の能力を総動員し、全身の魔力をかき集める。

『雷tニんgう・KうラUど × 23 ! えァ・はNマー × 31 ! FァいYa・ぼーRu × 41 ! うI nデぃ・IしKゥRう × 40 !(ライトニング・クラウド × 23 ! エア・ハンマー × 31 ! ファイヤー・ボール × 41 ! ウィンディ・アイシクル × 40 !)』
雷撃が空間そのものを震わせ、大気の鳴動が物理的致死の力で飛び来たり、火炎の熱波が近づくもの全てを焦がして冷気が破壊する。
百三十五人分の魔力がヴァルファルの眼前で結実し、たった一人の少女を捻り潰すため迫ろうとしたその時―。
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄っっっっっっっ!」
少女の背後の魔戒騎士が跳ねるように起き、ヴァルファルに向かって駆け寄っていった。

(ほんの数秒でも、アタシ達が壁になって上げる。倒れそうになったその足を、踏ん張るための時間を稼いだげる)
(大丈夫よ。死んだりしない。必ず生きて、五人また揃えるようにする)
(だから鋼牙……一緒に戦おう!)
目の前で、一人の少女がホラーに立ち向かう光景を鋼牙は見た。
魔法すら満足に使えない身で、それでも懸命に杖を振るい続けて、友を、己の騎士を救おうと試みている。
見たところ、ひるんだ様子だが相手には致命傷は与えられていない(ようにこの時の鋼牙には見えていた)。
それどころか何かを決断したかのように、ホラー ヴァルファルは己の魔力の全てを振り絞り、ルイズを押し潰そうとした。
いかづちが舞い、大気が震え、炎が矢となって殺到する。ルイズの華奢すぎる体躯が極寒の刃に切り裂かれようとしたとき、鋼牙の意識は白熱した。
(守りたい)
(護らねばならない)
(護るのだ!何があったとしても!)
「雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄雄っっっっっっっ!」
魂が、全神経が昂(たか)ぶり吠える。武器を持たない身のはずなのに、左掌のルーンが輝きを増し、鋼牙の全身を焼いた。
武器を持たない?
否、武器はある。
己の身自体が、ルイズを守るための一個の武器なのだ。
ライトニング・クラウドに焼かれたはずの鋼牙の全身が、急速に動くようになる。傷が癒えたわけではない。全身の筋肉、神経はズダボロのままなのだ。それもなお、肉体は動くのを止めない。魂は吼える事を止めようとしない。
―なぜなら、それがルイズの遣い魔たる、彼の存在意義だからだ。
鋼牙は獣のように跳ね起き、獣のように吠え、獣のようにルイズのもとへ疾(はし)った。
駆け寄る途中、足元に転がっていた金属の塊を拾い上げて『左腕に』持ったが認識していなかった。

『うおっ!いきなり遣い手かぁ!?どーなってるんでえいっ!?ってアレ?あの化け物ナニ?ええっと、ここどこォ?デルフ、わかんなーい』
未だ呆けたことをぬかしている魔剣を振りかぶり、ルイズの元へ向かおうとする魔法の破壊槌へ鋼牙は―。
―思い切り叩き付けた。
『ぐえっ!』
金属がきしむ音と共に、掌の中の剣が悲鳴を上げる。
同時に剣で受けたエア・ハンマーの魔力が一瞬で霧散し、吸い込まれるように消えていった。
『なんだと!魔力を、吸収した?』
思いがけない現象に、《ザルバ》が驚きの声を上げる。それが納得の声に代わり、鋼牙に対してこう告げた。
『まさか……そうか!鋼牙!その剣で魔法を断て!』
だがその時には《ザルバ》の言葉に従うまでも無く、既に鋼牙は魔剣を振るっていた。否、振るわざる得なかったといった方が良い。
人の頭ほどの球電を断ち切り、迫り来る疾風を剣の腹で受け、燃え上がる火炎を剣風で吹き飛ばす。風斬る音を上げて飛び来(きた)る氷刃を弾き飛ばし、その全ての魔力を喰らい尽くした。
そのたびに腕の中の魔剣は、刀身に輝きを取り戻していった。
全体を覆っていた錆が掻き消え、内側から黄金の輝きが浮かび上がってゆく。
その輝きは、鋼牙の愛刀 魔戒剣に似ていた。
『そうだ!思い出したぜ!』
魔剣の鍔がガチャガチャ言いながら喋り始めた。心なしか、始めに遭遇したときと比べて声に重厚さが増したような気がする。
『これがほんとの俺の姿だ!いやあ、てんで忘れていた。人の手から手へ渡るのにすっかり嫌気が差して、テメエの身体を作り変えてたんだった!俺は……“伝説”だった!』
誇り高く、デルフリンガーは魔戒騎士の腕の中で吠えた。
『そう……俺は六千年の昔、“伝説”の遣い魔 ガンダールブの左腕に握られていた“伝説”の剣!』
ヴァルファルが苦し紛れに再び放った、炎の小球を一太刀で喰らい―。
『魔剣 デルフリンガー様だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
『Baカな!ソNな馬Kaナ!(馬鹿な!そんな馬鹿な!)』
目の前で起こる光景に、信じられないというようにヴァルファルの高度が落ちた。
その時だった。
直下の地面が突然抉れ、地中から『何か』が突然飛び出した。
凄まじい勢いで垂直上昇したソレは生体過給器をかすめ、飛び出した勢いそのままに空中へ駆け昇る。
「外したっ!」

全身を包み込む水流ドリルを解除して、モンモランシーが叫んだ。ひそかに地中を掘り進み、いっきに生体過給器をぶち抜いて仕留めるつもりだったのだろう。だがヴァルファル自体が位置を移動したため、その目算がずれてしまったのだ。
自分は運が良い、そう思いホッとするヴァルファルに対して―。
「オッケー、こっちはいつだってイケルわよ~ん」
眼下のキュルケが嘲りと共に、こちらへ両腕を突き出した。その背後には、巨大な口腔を開けたサラマンダーの姿がある。さらに―。
「こちらも準備完了」
ヴァルファルを見下ろす高さまで上昇したモンモランシーは、金髪をなびかせて自由落下しながら、両腕の遣い魔『化蛇』をホラーへと向けた。
キュルケとモンモランシー、火と水のメイジの視線が空中で交叉する。
キュルケがうなづき、モンモランシーが目線で答えて。
「水・流・斬・刃!」
「炎・竜・焼・牙!」
モンモランシーの両腕の水流が螺旋に渦巻き、キュルケの掌の間で炎の魔力が極限まで凝集され―。
「ハイドラ・シュレッダーッ!」
「サラマンドラ・バーンッ!」
モンモランシーの腕から九体の水流が放たれた。一本一本が剛鉄すら切り裂く水圧の奔流がホラーを襲う。全体を包み込むように展開するソレラから、逃れられるすべは存在しない。
キュルケの両掌の間で、極限まで凝縮された炎の魔弾をサラマンダーの火炎が加速発射する。散弾モードのソレは、ホラーの全身に着弾し舐め尽くす。
二人のメイジによる、二体の遣い魔を用いた合体魔法攻撃。
水と炎、生体過給器の両側から襲い掛かった二体の竜は、ちょうど中間地点で互いの頭部とぶつかり合い―。
一斉に弾けた。

巨大な水蒸気爆発の煙の中から、鋼牙が飛び出した。
その左腕には、魔剣デルフリンガー。その右腕には、ソウルメタルの結晶 魔戒剣。
キュルケのサラマンドラ・バーンとモンモランシーのハイドラ・シュレッダー、二つの魔法攻撃により揺れ動いた生体過給器の元居た場所から取り戻したものだ。さらに続く水蒸気爆発を掻い潜り、鋼牙は巨大な脳へと迫る。
ようやく自分の直ぐ間近まで、魔戒騎士が迫ってくることに気付いたヴァルファルから魔法攻撃が連続して放たれた。
ソレをデルフリンガーで受け、薙ぎ、払い、鋼牙は生体過給器の下方へ滑り込んだ。そして気合諸共、左右の脳球をつなぎとめている脳幹を傷付ける。さらに噴き出る黒い血汐を避けて後方へ回り込んだ鋼牙は、頭上で双剣を交叉していっきに振り下ろした。

その途端悲鳴が弾けた。人間のものとも獣のものとも知れないソレは、あえて言うなら、泥沼に特大のファイヤーボールを叩き込んだ音と言うのが表現として適切だろうか。噴き上がる瘴気の音と身も心も腐らせる異臭を感じさせるような悲鳴だ。鋼牙の最後の攻撃が、後方に尻尾のように突き出た脊髄部分を断ち切ったのだ。
断ち切られた脊髄は断末魔のようにのたうちながら、漆黒の粘液となって消えていった。
「!」
双剣を携えた鋼牙は、視線を上へと向けた。
生体過給器の残る大脳部分が、ゆっくり上昇しつつ遠ざかろうとしている。
「待ちなさい!鋼牙」
それを追い、跳ぼうとした魔戒騎士の傍らにルイズが立ち、制止の声をかける。
「ルイズ?」
いぶかしむ鋼牙に向けて、向けられた鳶色の瞳には先ほどと同じ色あいの感情が浮かんでいた。
すなわち―。
(自分たちに任せて欲しい)
「もうじき、アレはここに落ちてくるわ」
ルイズが鋼牙に告げた瞬間だった。
紫とグリーンの混ざりあった奇妙な輝きが王都トリスタニアを縦断し―。
生体過給器を一撃で粉砕した。

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