あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

牙狼~黄金の遣い魔 第6話(Bパート)

一行がまず訪れたのは、下着を扱う店だった。基本的に鋼牙のまとっているコートやその下のスーツは、魔戒法師や番犬所によりあつらえられるものだ。従って普段その格好でいる限り、一般の店で購入する必要はない。とは言え下着の類まで必要ないわけではないのだ。
さすがに化繊はハルケギニアには存在せず、着心地その他から絹が一番とされる。どうやら近代ヨーロッパと同じく、ハルケギニア西方への養蚕技術の導入はずい分遅れたらしい。
シエスタら平民の衣服が木綿や麻なのはそのせいである。

実は、ハルケギニアの下着事情は我々の世界とは大きく異なっている。一版に思われているように、中世ヨーロッパと全く同じならば、男性は『ブライズ』と呼ばれるズボンのような下着と、『チャスズ』と呼ばれるタイツ様の下着を着用していたはずである。ちなみに『プライズ』の前面にはボタン等で留められる開口部分があり、一時期この部分を際立たせるため『コッドピーズ』と呼ばれる装飾がなされるようになる。中に詰め物をして目立たせる事までなされたらしい。
さて、同じく中世の女性であるが、男性と同じく『プライズ』と身体に密着する『アンダーコート』と呼ばれる下着をまとっていたらしい。ルネサンス期に到ると、『ファーティンゲール』と呼ばれるフレーム付き下着が着用され、スカートの広がりが強調されるようになる(その後、『コルセット』や『ペチコート』などが生み出されるわけだ)。
翻って作品世界を見ると、メイドであるシエスタの身に着けているものは『ズロース』である。『ズロース』は『ユニオンスーツ』と呼ばれる、手首から足首まで全体を被うタイプの下着が上下に分かれたものである。『ユニオンスーツ』が十九世紀初頭の一般庶民の下着、『ズロース』(とその上着である『アンダーシャツ』『キャミソール』)は実は二十世紀初頭に入ってからのものなのだ。
これらを総合すると、ハルケギニア西方の服飾文化(特に下着)は二十世紀初めのものであることが分かる。キュルケが夜着として用いた『ベビードール』などは、我々の世界では1970年代に出現したものである。
一体、この不均衡さはどういうことだろうか?政治、科学レベルは中世からルネサンス期のものであり、服飾文化だけが突出している。
これについて謎を解くものは、実はキュルケが所持していた『召喚されし書物』にある。これそのものは1975年の大衆誌だったが、果たして『召喚されし書物』がこれだけだったかどうか?もしも他にも我々の世界から流出した書物等が存在するならば、比較的大部数発行された雑誌、特にファッション誌が最も多く流れ着いた可能性が高い。これらがハルケギニア西方の服飾に一足飛びに革命をもたらしたと解釈できる。あるいは、そうした年代から服飾デザイナーがハルケギニア世界に召喚されるという事故があったのかもしれない。
こうなると、キュルケが1970年代のベビードールを身に着けていた理由も分かる。1975年発行の大衆誌の中に、このベビードール姿の女性のグラビアがあったに違いない。それはツェルプストーの家人にひどく感銘を与え、一族の女性専用の夜の衣装として採用されたのだろう。
とは言え、そうなると1910年代には発明されていたブラジャーの存在がハルケギニア西方にないことが不可解なこととなる。
ブラジャーそのものは、ハンカチを乳房に当て間を紐でつなぐという発案から産まれた。その後乳房全体を被うカップの形状等に工夫が凝らされることとなるが、そうした前期的なものすら見受けられない。これはあきらかに不自然であろう。
実は、ブラジャーの普及とウーマンリブの広がりは比例している。ブラジャーというバストを固定させて安定させる下着ができて初めて、女性は男性と同等の社会的活動を行い、自己の地位を確立できるようになったのだ。これがないハルケギニア世界の女性の地位は、依然として弱いものであり続ける可能性が高い。

閑話休題。
とりあえず鋼牙は、普段自分が用いているものとさほど変わらぬものを入手することができた。これで用は済んだかに見えたが、そうは問屋が下ろさなかった。恐れていた通り、四人娘たちが自分たちの買い物に熱中したためである。
「やっほ~これって、後ろから見るとすっごい大胆じゃ~ん」
キュルケが選んだのは、Gストリングスタイプで後ろが一本の紐状になったデザインだった。左右の腰の辺りからレースのフリルがついて、正面からは慎み深く見えるが後方へ回るとガラリと印象が異なる。フリル自体も腰骨の大変浅い位置に有り、それがまたセクシーさをかもし出していた。
「まあ、こんなところかな?」
堅実にレース地に花柄の透かし模様がついたものを選ぶのが、我らが金髪おでこ少女ことモンモランシー。彼女は同じデザインのものを赤青黒の色違いで購入した。
「どんなのがいい?なんて聴けるわけないでしょーがっ!」
なにやら一人芝居で切れて手当たり次第に見ているのがルイズ。まあ、デザインはとりあえず質の良い物を買っているのでよしとしよう。
さて、最後はタバサ。
「……」
なにやら手に持つソレを、奇妙に沈黙して眺めている。と思うとやおら両脇に手をやって左右に引っぱると……。
本来ならば、クロッチに当たる部分がくぱぁな感じで広がった。裁縫ミスではなく、あきらかに意図的なデザインである。他にも回りに散らばっている物の中には、三角形の布のそこだけの部分が除かれたデザインが多い。
そうしたものを手に、開いたり閉じたり、閉じたり開いたり。
「ふふふふ」
「あ、ああああんたナニ選んでんのっ!」
これには、さしもルイズも傍らで見ていて大声を上げずにはいられなかった。
とりあえず無事に(?)、下着選びを終えて店の外へ出たときには、すでに太陽は真上に来ていた。
まだ一日は長い。昼食を終えてからでも充分目的の買い物はできるだろうと五人は食堂を探すこととした。



一方その頃。
王都トリスタニアの正門脇に設けられた厩舎にて。
「なんだか、おなかが空いてきたのね」
「きゅるきゅる」
「きっと、五人ものせたからだと思うのね」
「きゅるきゅる」
「おまけにお姉様、こんな荷物まで持たせて重過ぎるのね」
「きゅるきゅる」
本来ならば、厩舎の管理を任された者以外誰もいないはずである。

だが今、あまり光が射さない屋内に女性らしい声が聞こえた。
やや舌足らずの、幼い印象の声である。それに賛同するような鳴き声は、大型の爬虫類の類か。かすかにシュウシュウ舌を鳴らす音を伴っている。
藁が一面敷き詰められた中に、二体……否三体の影があった。
真ん中の一体は、ごく普通の馬である。強いて言えば、かなりの老馬だろう。尻尾に白いものが混じっている。だが、両側の二体はあきらかに馬のシルエットではなかった。
一体は、大型のワニくらいある。背中に優に二人は乗せられそうなほどだ。さらに良く見れば、長い尻尾の先にランタンのような炎が灯っていた。藁葛にその火の気が燃え移らないのが不思議である。
そしてもう一体。これはさらに大きい。全長10メイル、翼を広げればさらにあるだろう。長い首を伸ばして、下方を覗き込んでいる。
前者の体色が紅玉(ルビー)のような緋色、後者の体色が青玉(サファイア)のような蒼色である。
すなわちそれぞれ、キュルケの使い魔である火トカゲ(サラマンダー)のフレイム、タバサの使いまである蒼き風竜 シルフィードである。真ん中の馬は……ただの通りすがりの荷役馬であろう。運悪く、二頭の使い魔の間に預けられたのだ。
それにしても、通常の風竜ならば人語を話すはずがない。してみると、シルフィードは人語を解するほどの高等竜、すなわち風韻竜ということになる。既に絶滅したと考えられていた幻の獣が、こんなところにいたのだ。
さて、老馬の頭上では先ほどの会話が続いていた。
「ところで、さっきから言ってるように、おなか空いたのね」
「きゅるきゅる」
「どこかにご飯を探しに行くべきだと思うのね」
「きゅるきゅる」
「で、さっきから思うのだけど、目の前にごはんらしきものがあるのね」
「きゅる……きゅぅ!?」
見れば、シルフィードが爛々と目を光らせ、眼下を見ていた。
そこには当然、長旅に疲れようやく休憩の場を得た老馬が居る。
老馬は、こちらを見上げひどく不安げな表情?を浮かべていた。そして、その表情?が次第に恐怖の色へと変わってゆく。
「ん、ではいただきますなのね」
「きゅう!きゅるきゅるうっ!」
「やかましいのね。そっちにも半分分けたげるのね」
「きゅるるるるるっ!」
「なんだっ!なにが起こった!?」
「あー、俺の馬がっ!」
時ならぬ騒ぎに厩舎の管理人が駆けつけた時、彼らが見たのは馬を半分飲み込みかけた風竜と、その尻尾を思い切り引っぱって引き止めようとしているサラマンダーの姿だった。

エレオノールの目の前で、マウスは黒い組織片へ近づいていった。
周囲を警戒しつつ、マウスは鼻先でつついて正体を調べようとする。食べ物かどうか、調べようとしたのかもしれない。
だが、マウスに向かって組織片から突如黒い触手が伸び、その身体へ絡みついた。
当然、マウスは甲高い悲鳴を上げながら転げまわって逃げ出そうとする。だが一旦絡みついた触手はたちまちのうちに全身を包み込み、マウスを黒いボールのような状態に変えた。
異様な光景に、誰もが固唾を呑んで見守っている。そんな中でも、実験スタッフはせわしげに動いていた。物体内部を透視する用い、黒い球体内部の状況を観測する。その様子は傍らの直径50サントほどの水晶球にも映しだされていた。
黒い球体の内部では、マウスが脈動とともにその形を変えていった。
「信じられないな。ここまで、他の生物と親和性が高いだなんて」
誰かが呟いた次の瞬間、新たな異変が起こった。
黒い球体がいきなり弾け、中から猫ほどもある生物が姿を現したのだ。その形状は、マウスとは似ても似つかない。むしろ、ある種のフグに手足を生やしたような外観をしていた。
まるで漆黒のハリセンボンといったような生物は、全身から針を生やして、こちらに向かって走り出した。
余りに突然の出来事に避ける暇などない。数人が椅子から腰を浮かしかけるが、もはや間に合うはずがなかった。
次の瞬間、全身に針を生やした異形は『エレオノール達の前に張り巡らされた』強化硝子に突き刺さった。
「うわっ!」「きゃっ!」「まさか」
本来ならば、至近距離からの発砲でも耐えられる耐爆性硝子は一撃でまっ白に変わった。
衝撃は一度では終わらず、二度、三度と連続して起こる。
「捕獲!捕獲しろっ!逃がすんじゃあないっ!」
まっ白になったガラスの向こうへ、何人もの魔道学者たちが杖を向ける。
一斉に凍結の呪文を放つ。何人ものスペルが重ねがけされたソレは、漆黒の異獣を一瞬で絶対零度近くまで冷却した。たちまち芯まで凍りつき、ホラー断片に寄生されたマウスは完全に動かなくなった。
「危ないところだったな」「信じられない生き物だ」「いや、これは本当に生き物なのか?」
「安心するのはまだ早いわ」
ホッと胸を撫で下ろすスタッフにエレオノールは冷徹に告げた。
「凍結して動かない内に、薄片までスライスして固定化を使って封じ込める。絶対に解凍しないよう、細心の注意を払いなさい。自分たちもああはなりたくないでしょう?」
指示に従い、スタッフが一斉に動き始める。オールド・オスマンのあの水晶の結晶構造さえ解析できれば、おそらく再封印可能なのだろう。だがそれまでは、凍結による代謝速度の低下に頼るしかない。
「やれやれ」
小さく息を吐いて、エレオノールは椅子に倒れこむように座った。
やはり、ホラー本体の封印を解かなくて良かったと思う。

組織片すらこれほどの侵食能力なのだ。封印を解いていたら、アカデミーは未曾有の大惨事の場と化していただろう。場合によっては、あのマウスのように侵食された自分たちが、トリスタニアの街にあふれかえったかもしれない。結果として、自分たち穏健派の意見が正しかったのだ。
不意にパンパンパンという拍手が聴こえてきて、彼女は顔を上げた。見れば、レナード・カタリが嫌味すぎるくらいさわやかな笑顔を浮かべて、実験室の入り口に立っていた。
どうやら、一部始終を見られていたらしい。
「素晴らしい!」
レナードは感極まった、という風情で両腕を広げた。
「素晴らしい生物だな。例え肉片のレベルでも他の生き物を侵食して、生き残ろうとするとは……まさに理想的だ」
「理想的?」
レナードの奇妙な言い回しに、エレオノールは反応した。
「何がなんにとって理想的なのかしら?」
ホラーの能力については、今の段階では正直こちらはもてあまし気味だった。確かにスペック的には興味深く、様々な成果が期待できるが、その安定した取り扱いは今のところ困難なのだ。下手をすればある種のガン細胞の如く、気がつけば研究室の全ての細胞サンプルがその組織に乗っとられたと言う事態になりかねない(実際、我々の世界では『HeLa』ガン細胞の例がある)。
「この間、話しただろう?」
何を今更……っという風情で、レナードは尋ね返した。
「この間?ああ、他の人間の脳をメイジの精神力の燃料庫代わりに使うとか」
「そう!その通り!」
レナードがズビシッ!と擬音が入るような勢いで人差し指で指差した。
「実は、あのアイデアには致命的な欠陥があってね」
「?」
自分のほうを覗き込むレナードに、エレオノールはいぶかしむ顔を向けた。
「精神力の供給元となる、人間の脳髄を『生きたまま』長期保存する方法がまだ見つからないのさ」
「なるほど、今のところはドウエル教授の百十三日が限界だったわね」
以前報告書で見た、首から下を様々な機械やパイプでつながれた実験体のイラストを思い出した。
「だがそれでは、緊急の役には立たない。あんな重くてかさばるものをつけていては、全く無意味なんだよ」
レナードの言いたいことは理解できた。要はコンパクト化が必然なのだ。人一人分の精神力を供給するために、それ以上のスペースとエネルギーを必要とするなぞナンセンスの極みだろう。
「言いたいことはわかったけれど、それが私たちの研究対象とどういった関係があるわけ?……まさか!」
「その、まさかさ」


レナードは驚愕するエレオノールに肩をすくめて見せた。
「君たちの研究対象『ホラー』の機能。生体への融合捕食と機能維持の能力を使えば、きわめて簡便に、人体の特定部位のみを生かしたまま保存できると思うんだよ。そうだな…」
何事か考えるかのようなレナードは、顔をしかめるエレオノールに向かって笑顔を浮かべた。
「そう、このシステムを『生体過給器』とでも名づけようか。是非とも君の協力を仰ぎたいね」

ルイズたちに導かれるまま進む内に、いつしか鋼牙たちは裏通りに入っていった。
道の両側に積み上げられた、様々なゴミや家畜のものらしい汚物にキュルケは鼻にしわを寄せた。
「なによここ!くっさいわね~」
「ピエモンの秘薬屋の近く、そこに武器屋がある」
どうやらガイドブックらしいものを見ながら、タバサが言った。
「こちら」
剣の形をした、銅製の看板を掲げた家屋を指差す。それを見て、《ザルバ》が納得の声を上げた。
『なるほど、こいつは一目瞭然だな』
鋼牙たちは石段を登り、羽扉を開けて店内へ入っていった。

「暗っ!」
店内は昼間だというのに薄暗く、思わずモンモランシーが声に出して叫ぶくらい見通しが悪かった。壁や棚に所狭しと剣や槍が並べられ、ところどころ冑鎧が立ち並んでいる。
「すいませんねえ。今、点けますんで」
店の奥から声がして、ついでランプが灯された。微かに獣脂の匂いが漂う。やがて五人の前に、五十がらみの胡麻塩頭の男が現われた。
「ふ……ん」
四人の少女を胡散臭げに眺め、紐タイ締めに描かれた五芒星に気付く。男はドスの利いた声で告げた。
「貴族のお嬢さん方。ここは武器屋だ。お菓子も花も売ってねえ。お嬢さん方の来るところじゃあねえぜ」
「わかってるわよ」
腰に手を当て、薄い胸を張ってルイズが答える。
「今日は、客として武器屋に来たのよ」
武器屋のオヤジはポカンとした顔をした。そして次の瞬間、相好を崩して少女らの元へ近づいていった。
「どんな武器を御所要ですかい?あのフランベルクなんていかがです?こっちのレイピアなんか、鍔のところに本物のスターサファイアをあしらってまして、女性の方でもお似合いです.」
「ちょ、近づ……」

もみ手をしながら、臭い息がかかるくらい近づいて来た親父にルイズは抵抗した。
と、そんな親父の肩を押してルイズから引き剥がす者がいた。
鋼牙である。
「なにしやが……え?」
いきなり後ろに押され顔色を変えかけた親父だが、相手が強面の青年だったことから表情を変えた。
「ひょっとして、武器をご要望なのはこちらの旦那で?」
鍛え上げられた、いかにも騎士然とした鋼牙の全身を上から下まで見下ろし、武器屋の親父は「ふむ」とうなづいた。
「最近は、『土くれのフーケ』なんてやっかいなこそ泥が増えてきましたからねえ。貴族のご令嬢が、護衛の騎士を雇うのも理解できまさあ」
そうして顎に手をやりながら、男は考えた。
「その体つきなら、少々の大剣でも軽く扱えそうですな。でしたら」
そう言って、店の奥から出してきたのは1.5メイルほどもある、見事な長剣だった。いわゆる両手剣で、ところどころ宝石がちりばめられている。
「こいつは、ゲルマニアの錬金術士シュペー卿が、自ら鍛え上げたと言われる業物でさあ。確かにお安かありませんが、ちゃんと銘も入ってまして」
「へえ~シュペー卿?前に一緒に踊ったことあるけど、アイツ自分の工房なんて持ってたっけ?この銘、ほんとに本物?」
横から口を出したのは、ゲルマニア出身のキュルケだった。キュルケは親父の掲げる大剣を取り上げると、ためすがめつ調べ始めた。
「使ってる宝石は本物だけど、どれも質の低い二級品ねえ。肝心の鋼も、芯の部分は鍛鉄じゃなくって鋳造だわ。その上から薄く鍛鉄っぽくコーティングしてあるわねえ。そうした意味じゃあ、たいした技術よ。いかに偽物を本物っぽく見せるかってね」
いたずらっぽく瞳をきらめかせながら、キュルケは目の前で親父が表情を目まぐるしく変えるのを見ていた。期待から不安へ、最後のキュルケの言葉で落胆へと表情を変えて、親父はその場に突っ立った。
「そんな、エキュー金貨で二千、新金貨で三千の値打ち物だって話だったのに」
「まあ、置き物としちゃあ一千くらいの値打ちはあるんじゃない?新金貨で」
カラカラと笑いながら、キュルケは親父の肩を叩いた。
「ま、しっかり気を落とさずイキロ」
「はあ」
力なくうなづく親父。その煤けた後姿に容赦なく鋼牙は歩み寄っていった。
「店主。尋ねたい事が事がある」
「は、はいっ!」
しゃちほこばって答える親父に鋼牙は淡々と続けた。
「お前の店では、メイジの魔法を防ぐ防具やアイテムを扱っていないのか?」
「そ、そいつは……聞いた事ありませんや。もしあったとしても、王族の宝物庫くらいでしょうよ。第一、そんなものゴロゴロ売ってたら、メイジの方たちゃ黙ってやいませんぜ」
「むう」

なるほど、その通りかと鋼牙はうなづいた。支配層であるメイジが、そのような自分たちの地位を危うくするような代物を見逃すはずがない。よしんば存在していたとしても、闇に葬られるのがオチだろう。
「分かった。邪魔したな」
「へ、あ、買わないんで?」
用が済んだとばかり、出口に向かう鋼牙を親父は唖然と見送った。先ほどのショックが尾を引いていると見えて、普段なら「冷やかしかよ!」と怒り狂うところだがその余裕もないようだ。
『ひゃっははははっ!親父、ざまあないな。言ったとおりだろが!そんな鈍(なまく)らつかまされやがって!』
その時、店を出ようとした鋼牙たちの背後から声が聞こえた。あきらかに親父のものとは声質が異なる。一緒にガチャガチャ金属が触れ合うような声は、先ほどまで存在しなかったものだ。
「やかましいデル公!俺は今、精神的にショック受けてんだ。これ以上喋るな!」
一方、親父はその声の主を知っているものと見えて、怒鳴り声を店内へと向けた。
すなわち、錆びた剣が十把一からげでまとめられている場所である。
「んん?なになになにー?」
好奇心に駆られたキュルケとタバサが、その場所を覗き込む。
そんな少女二人に、先ほどの声は容赦なく浴びせられた。
「んなジロジロ見るな!俺は見世物じゃあねえんだ!剣術のイロハも分からないようなガキはさっさと帰った帰った……ってああ、つかむな!」
「これ」
「剣?もしかしてインテリジェンスソード。《ザルバ》のお仲間ね~。ほーい!《ザルバ》《ザルバ》!」
『なんだあ?俺様を呼んだのか』
キュルケに呼ばれ、一旦出口に向かった鋼牙が戻ってきた。その左中指にはめられた《ザルバ》が、キュルケが手にしているものを眼にして訝しげな声を発する。
『剣?またずい分と錆びた代物だな。これがどうしたって?』
『おお!?』
《ザルバ》が声を発するのを聞いて、剣の方も驚きの声を放った。
『なんだなんだなんだーっ!もしかしてお仲間かよ』
『お仲間って、こいつ』
かたや顎をカクカク鳴らして言葉を発する骸骨型の指輪。かたや鍔の金具をカチャカチャ鳴らして言葉を話す錆びた刀。両者とも驚いたようにしばし沈黙した。
やがて、《ザルバ》の方から口火を切る。
『こいつは、この世界の産か?お仲間呼ばわりされても困るんだがな』
『なあにわけわかんない事言ってやがるんだよ!俺には、デルフリンガー様ってゆー立派な名前があるんでい!こいつ呼ばわりはー、よしてもらおーか』
『一応自己紹介されたからには、名乗っておこうか。俺様の名前は《ザルバ》。魔導輪《ザルバ》だ。少なくとも宿無しのお前に比べて、俺様に主は居る。こいつ呼ばわりされても、仕方がないと思うが?』

『がー!なんだその理屈!俺、理屈っぽい奴でーきれーだもんっ!てめーにこいつ呼ばわりされる覚えなんてねーよ』
なにやらヒートアップする両者に、最初面白そうにしていたキュルケもため息をつく。既に口汚いののしりあいになっている状況に、タバサは無言で鋼牙を見上げた。
「《ザルバ》、いい加減やめろ」
鋼牙は己の魔導輪を叱責すると、キュルケから錆びた刀を取り上げて元の場所に戻そうとした。だが―。
『んん!』
鋼牙がつかんだ瞬間、デルフリンガーが奇妙な声を放った。
『待った!ちょーと待ったああああっ!おめ、遣い手だな!?』
「遣い手?」
鋼牙は訝しげに尋ね返した。
「なにを言っている?こいつ」
『とりあうな鋼牙。どうせ朽ちる寸前の剣の戯言だ。耳を貸すんじゃあない』
『んだとーてめ!どこのどぁれが、朽ちる寸前だってーっ!もーあったま来たっ!ぶった斬ってやるっ!そこの床に転がれーっ!』
「黙れお前たちっ!」
いつになく拒否反応を示す相棒と、妙にテンションの高い剣の二重奏に、いらいらが昂じたのか鋼牙が鋭い声を放った。
『……わかったよ。鋼牙』『ふーん、俺、知らね』
「始めに言っておくが、俺は対メイジ用の防具がないか調べに来ただけで、剣を求めに来たわけじゃあない」
未だ反発しあう二者に鋼牙は言う。
『えーっ!そんなっ!』
『ふっ、どうやらお前は用なしのようだな』
失望して嘆く剣に、魔導輪の勝利の声がかけられる。
『まあ、今回は縁がなかったと思って』
剣を置き、立ち去ろうとする鋼牙と《ザルバ》。その背中にデルフリンガーは必死で呼びかけた。
『ねえ!ちょーと待った!ねーてっば!お願いっ!アタシを買って!おじさんの言う事、何でもきくからっ!どうかっ!せめて一晩だけでもっ!』
「いいの?鋼牙。なんだかボロ剣が必死こいてるけど?」
立ち去ろうとする鋼牙に、モンモランシーが呼び止める。
「いらんものはいらん。大体、俺には魔戒剣がある。あんなものに用はない」
かたくなに鋼牙は拒む。それにルイズが賛同した。
「あんな五月蝿い剣、アタシの隣の部屋に置けって言うの?なんだか寝不足になりそう」
「んーそうかー」
『お歌だって歌えるんだよーっ!ボーマン船長。♪デーイジー デーイジー♪』
「確かに、ちょーと五月蝿いかも」
おでこに冷や汗を浮かべながら、モンモランシーもうなづいた。

が、そんなデルフリンガーを一人の少女が取り上げた。自分の身の丈より長い刀身を、えっちらおっちらかついで店の親父のところまで持ってゆく。それを見咎めたキュルケが、驚きの声を上げた。
「あら?タバサ。そんなにその剣が気に入ったの?」
「手がかり」
「え?」
ボソリと呟くようなタバサの言葉に、キュルケは目をぱちくりさせる。そんな彼女の疑問に答えるように、タバサは言葉を付け足した。
「この剣は、鋼牙を遣い手と呼んだ」
「ああ、なーる」
言いたい事がわかったと言う様に、キュルケはうなづいた。
そうして、胸元から財布を出して親父に尋ねた。
「これ、値段おいくらかしら?」

武器屋から外へ出たルイズたちは、約二名ばかり足りない事に気がついた。
「ったく!ツェルプストーはナニをやってるのよっ!」
「タバサもいないし、ほんとに何か買ってるんじゃないの?」
むうと唇を尖らかすルイズに、深呼吸しながらモンモランシーが答えた。
「投げナイフを使って、なんか術ができるんじゃあないかとか言ってたし」
「どーゆーの?」
「うん。風の魔法で飛ばして、刺さったところに雷がどうだとか……なんでもそのほうが、確実に雷が誘導されるそうよ」
そんな会話を交わしていると、やがて羽扉を開けてキュルケたちが姿を現した。
「どういうことだ?」
鋼牙が顔をしかめたのは、キュルケが彼に先ほどの長剣を差し出したからだった。
「んっふー、プレゼントよ。ダーリン」
「ツ、ツェルプストー、あんたって奴はー!」
嫣然と笑うキュルケ。ソレに過剰反応を示すルイズ。なにやら揉め事の起こる予感に、ため息をついたモンモランシーは、もう一人ナイフの束らしき包みを抱えたタバサの方を見た。
「どうして停めなかったのよ?」
「買うよう進言したのは、私」
タバサは残った手で、己を指差した。
「たぶん、後からアレは必要となる」
「まあ、貴方の言うことだからたぶん間違いはないと思うけど」
むん!と腕組をしてモンモランシーは前方を見た。
「問題は、どうやってアレをおさめるかね」
彼女の視線の先では、ピンクブロンドの少女と豪奢な赤毛の少女が打打発止(ちょうちょうはっし)のやり取りを繰り広げていた。

「プレゼントで鋼牙の気を引こうなんて。ツェルプストー!お前を倒-すっ!」
「ヴァエリエール!だーからお前はバカなのだーっ!」
互いに杖を掲げる二人のメイジ。
時ならぬ爆音が、狭い裏通りを揺るがした。

新着情報

取得中です。