あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

豆粒ほどの小さな使い魔-2




……ルイズの呼吸が寝息に変わったのを確かめてから、ゆっくりと起き上がる。
さっき跳ねた時に軽く確かめたけど、今度はもっと丁寧に自分の身体を確かめていく。
ルイズが嘘をついているんじゃなかったら、ここは矢印の先っぽの国からはかなり遠くらしい。
一体どうしてこんなことになっちゃったんだろう。
昔、ニンゲンに捕まったお爺ちゃんはその人とトモダチになった。私もルイズとトモダチになれるんだろうか。
ランプは消えてるけど、月明りが窓から差し込んでるから、私には十分。
剣の刃と、蜘蛛の糸束を確かめた後、呼犬の笛を咥えた。
ピィ……ピイイィィィッ……
この音は、人間の耳には聞こえない。もしこの笛が届くところにマメイヌ隊の隊員がいれば、向こうからも返事が返ってくるはず……
しばらく耳を澄ませたけれど、やっぱり笛の音は返ってこなかった。
トリスタニア。世界の国を知ってるわけじゃないけど、聞いたことがない。魔法だって、お話の中だけだって。
左手の甲の紋様があるから、今更嘘だとは思わない。きっと私たちみたいに、魔法使いたちはこっそりと国を作って暮らしていたんだ。
何だか、気持ちが高ぶってきた。スミレの里みたいに、こことも交流が始まるかもしれない。
そのとき、オチャメさんのノートに、私の名前が書かれるんだろうか。
だけど、舞い上がったままではいられない。深呼吸して、自分を落ち着かせる。
もしも、ルイズが、ルイズでなくても他の誰かが、矢印の先っぽの国を危険に晒すようなことがあれば、その時は……剣と、煮詰めた蜂毒の小瓶を、畳んだ服の上から確かめた。
そうだ。忘れないうちに、目印を仕掛けておこう。きっと隊の皆が私のことを探してくれてるはずだから。
蜘蛛の糸を10センチほど伸ばして、結び目を二つ、少し離して一つ作る。
窓は閉じてるけど、隙間があれば外に出せるかも。
窓枠に飛び移った私は、空を見上げて、驚いて叫びそうになった。

見上げた空に、月が二つあったから。

* *


目が覚めて、真っ先に枕元を確かめた。ハンカチが盛り上がって、黒髪が覗いている。
はぁ、と溜め息が漏れる。よかった。夢じゃなかった。
プリミル様、ありがとうございます。
そのままぼうっと眺めてたら、ハンカチがもぞもぞと動き出した。目を擦りながら顔を覗かせたハヤテに、私も頬が緩む。
こういうとこは、私たちと変わらないんだって。
「お早う、よく眠れた?」
「ルル……オ、ハヨウッ、るいずっ」
ハヤテにしたら、かなり大声で叫ばないと私まで届かないから大変だ。
洗面用の盥の横に、本を三冊積んで、ハヤテの足場にした。新しいハンカチも置く。
「ここで顔を洗ってね」
私の後にパチャパチャと小さな水音を立ててる彼女を見ながら、制服に着替える。
そうだ、彼女の着替えはどうしよう。それを聞くと、ハヤテは少し困ったように、今度から、夜洗って干しておくと言った。
私が手伝うと、きっと破いてしまうと思うし、すぐに着替えを調達するのも無理っぽい。
ただ、薄い布が用意できれば、彼女が自分で作れるかも。
「……縫イ物ハ苦手ダケド……ガンバル」
「うん、頑張って、応援するから」
活発そうな彼女だけに、やっぱりそういうのは苦手だったらしい。

顔を洗ってさっぱりした私たちは、食堂に向かうことにした。
昨日の夕食を食べ損ねただけに、気持ちは朝食のメニューに飛びそうだけど、でも段取りを考えておかないと。
食事より先に、コルベール先生にハヤテのことを話す。コロボックルなんていう今まで見たこともないような使い魔だ。
先生にどう判断されるか想像ができない。噂のアカデミーみたいに解剖だなんて言い出さないといいんだけど。
内緒にしておくことも考えたけど、それだと私が落第してしまう。
いつもぎりぎりの時間に飛び出す私だけど、今日は時間に余裕がある。
廊下の外もまだ静かだ。
この時間なら、キュルケと鉢合わせずに済むと分かったのはいいけど、明日から起きられるかというと自信がない。

「ミスタ・コルベール、お時間を少々よろしいでしょうか」
「ああミス・ヴァリエール、どうしたのかね?」
コルベール先生を食堂の入り口で待ち構えて、隅っこに引っ張っていく。
「サモンサーヴァントのことなんですけど――」
「ああ、焦ることはないよ。ちゃんと時間を設けるから、その時に」
「違うんです。ちゃんと召喚できてたんです」
「なんですと?」
半分意識が食事に向かっていた先生が、その一言でやっと私の方を向いてくれた。
「コンストラクトサーヴァントもちゃんとできました。ただ、かなり変わった使い魔なので、皆の前に出していいのか分からなかったので……」
「なるほど。それで先に私の判断をと言うわけか。分かりました。それで、その使い魔はどこに?」
「ここです、ミスタ・コルベール――ハヤテ、出てきてくれる?」
マントをめくって、ブラウスの胸ポケットの前に掌を差し出す。
するりと飛び出したハヤテは、姿勢よくコルベール先生に向かい合った。ああ、先生の息が止まってる。
目をこすっても、ハヤテは消えませんよ。
「ヴァ……ミス・ヴァリエール……これは一体……」
「コロボックルのハヤテ、私の使い魔です」
ちょこんと、ハヤテが頭を下げた。本当はこんな食堂の隅っこで隠れるようになんてしたくなかったんだけど、これはこれでちょっと面白かった。先生の顔が。
「コロ、ボックル? 聞いたことがないが」
「私もです。ですが、彼女たちはとてもすばしこいんです。私たちの目に止まらないくらい。言葉も話しますし、服も、道具も使います」
「……なるほど」
先生の目が、真剣な光を帯びる。どういう判断をされるんだろう。
「ミス・ヴァリエール。素晴らしい使い魔です」
「では?」
「皆にもお披露目して構いません。ただし、あまり詳しいことは言わないように。今日の放課後に時間を設けますから、この三人で話し合いましょう」
ああ、よかった。
「でしたら、皆に言うのは、名前だけにしておきます。私もまだ彼女とはそんなに話してないんですから」
先生にお辞儀をしてから、今度はハヤテには肩に乗ってもらって、テーブルに向かった。

「るいず、コレデヨカッタノ?」
「ええ、ばっちりよ!」
ハヤテはもう隠れてないけど、まだ誰も気がついてないみたい。席について、
「そう言えば、ハヤテは何を食べるの? 私たちと一緒でいいのかしら」
「ウン……ダイジョウブダト思ウ」
メニューを見下ろしながらハヤテがそう言うから、歩いていたメイドに声を掛けて、小皿を一枚持ってきてもらった。
その中にパンを一欠けらと、鶏肉のソテー、スープはティースプーンに入れて、零れないようにそっとお皿に立てかけた。
「これで足りるかしら」
「アリガト、イタダキマス」
「あ、待って。お祈りが済んでからよ」
そのころになって、ようやく私の肩のハヤテに気がつく人も出てきた。
さて、誰が最初だろう。私はすました顔で、ハヤテと談笑する。人形? 人形に冗談が言えるわけないでしょう?

プリミルへの祈りが済んで、ようやく食事にありつけた。
作法は守るけど、それでもつい口に頬張りそうになる。今日は格段と美味しい。
「どう、ハヤテ。貴女の口にも合うかしら?」
振り向いて大きく頷いてくれた。口に物が入ってるときにはしゃべらないというのをちゃんと分かってる。
「ね……ルイズ、ちょっといいかしら」
「あらツェルブストー、何かご用?」
そら来た。
「ええと、彼女が貴女の使い魔なの?」
「そうよ。コロボックルのハヤテ。ハヤテ、ゲルマニアのミス・ツェルブストーよ」
ハヤテも、食事の手を休めて、しっかりとお辞儀をしてくれた。淑女と言うにはきびきびしてるけど、きっとマメイヌ隊の作法なんだろう。
「ハヤテ、スープのお代わりはどう?」
ふるふるとハヤテが首を振るのにあわせて、ツェルブストーの目もふるふると動く。
と、いきなりその手がハヤテに伸びた。けどそのときにはもうハヤテの姿はそこにはなくて、私の肩に軽い感触が。
「ちょっとツェルブストー! 私の使い魔に何をするのよ!」
「え? あ、ごめんなさい」
考えてじゃなくて、反射的に手が伸びちゃったらしい。ハヤテはと言うと、私の肩に座って、パンの欠片を齧っている。足まで組んで余裕の表情だ。
「それ、人形じゃないのね」
「失礼ね。見れば分かるでしょう?」
「ああ、確かに、でも」
「彼女はコロボックルなの。伝説の小人族の生き残りよ」
そんな伝説知らないけど、ハヤテも頷いてたりする。
ハヤテが怒ってないから捉まえようとしたことについては許すけど、
「食事の途中で席を立つのはみっともないわよ」
そう言って、周りに集まろうとしてた連中を牽制する。実際ハヤテは小さすぎて遠くからじゃ見えない。
私のことを馬鹿にしてる連中にサービスしてやるのも馬鹿馬鹿しくて、飛び降りたハヤテとさっさと食事を済ませることにした。

「私ノコトハ、アマリ話サナイ方ガイイネ」
ハヤテも何となく悟るところがあったんだろう。教室に向かいながら、耳元でそう言ってくれた。
コルベール先生も交えて、言えることと言えない事を決めよう。尤も何も話せなくても、
「ハヤテが動いて見せるだけで十分よ」
そこから先は『伝説のコロボックル族』だ。

教室にはまだ生徒は三分の一ほど。それと使い魔たちが騒いでいた。
ざっと見渡してみたけど、どれもありふれている。珍しさでハヤテに勝るものはいない。
私は胸を張った。

その高揚も、錬金の魔法で失敗するまでだったけど……




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