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豆粒ほどの小さな使い魔-1




サモンサーヴァントで大爆発を起こした後、幾度詠唱を繰り返してもうんともすんとも言わなくなってしまった。
クラスメイトたちははやし立てるし、コルベール先生も生温い目で私のことを見てる。
「もうやめたまえミス・ヴァリエール。続きはまた明日にしよう」
でも、と言いかけて口を紡ぐ。
皆がフライで塔に向かうのにただ俯いていることしかできなかった。


どれくらい時間が過ぎたのか、ようやく頭の中のぐちゃぐちゃも落ち着いてきた。
既に使い魔が呼び出されているときには、サモンサーヴァントは行うことができない。じゃあこの草むらのどこかに、私の使い魔がいるんじゃないだろうか?
私は跪いて目を凝らした。どんな姿形をしていてもいい。ただいてくれさえすれば。
太陽が次第に傾いて、何かが視界の隅でちかって光を反射した。自然のものではない、何か金属か硝子のような物。私は急いでその辺りに駆け寄った。
失敗呪文で大きく抉れた地面から、ほんの少しだけ外側。そこに
「……なにこれ?」
とても、とても小さな人形が落ちていた。壊さないように、掌に掬い上げる。柔らくてほんのりと暖かかった。
大きさは、5サントもないのに、黒い髪はよく見れば丁寧に結ってあるし、もしかしたら、閉じた目に睫毛も生えているかもしれない。
見慣れない模様が散りばめられたチョッキとスカート。靴まで履いている。
あまりにも精巧で、顔立ちも幼げながら整っている。
ああ、もう目を逸らすのはやめよう。胸がゆっくりと上下している。間違いない。
この人形は、生きているのだ。
「……この娘が……私の使い魔……」
あまりにも軽くて小さな彼女は、私の手の中で、どんな宝石よりも美しく大切なものに思えた。
いつの間にか、私は涙を零していた。眠っている間に契約を結んでしまえという下賎な考えはすぐに捨てた。
彼女を抱いて、寮の自分の部屋に帰る。夕食の時間だったせいか、誰にも会わずに済んだ。
ベッドの、私の枕の上に、ハンカチを敷いて、そこに彼女を寝かせた。
ランプを近づけて、よく見させてもらう。異国風の顔立ちだけど、美少女と言ってもいいと思う。こうなると瞳の色が気になる。早く目を覚まして欲しい。
腰に巻いた帯に、長さ1サントもない短剣が差してあった。鞘や柄に私の目には細かすぎて捉えられないほどの精緻な飾りが施されている。光を弾いたのはこれだった。
着ている物も含めて、文明を持たない原住民とはとても思えない。どこにどうやって隠れ住んでいるのか知らないけど、もしかしたら世紀の大発見なのかも知れない。アカデミーにいる姉様のことがちらりと頭を過ぎって、寒気がした。
あそこは研究のためなら解剖も辞さないと聞いてるから。彼女がそんな目に遭うなんて考えるだけでも堪えられない。絶対に私が守るんだと誓ったとき、ぴくりと少女が動いた。
「…………」
聞き取れないほど小さく呻いて、瞼がぴくぴくと震える。
ゆっくりとその瞼が開いて、深い海色の瞳が私の目と合った。
二三度の瞬き、そして「ルルルルッ」としか聞こえないけど、少女がしゃべった。驚かさないように、できるだけ優しく話しかける。
「落ち着いて聞いて欲しいの。私はルイズ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。あなたを使い魔として召喚したメイジよ」
びっくりと目を見開いているけど、私の言葉は理解してくれているみたい。
「あなたが気絶している間に無理やり契約するのはおかしいと思ったから、目が覚めるのを待ってたの」
少し釣り目がちで、口元もきゅっと閉じている。意志の強そうな顔立ちだ。年は幾つくらいなんだろう。
「使い魔と主は一心同体。生涯を共にするのに相応しい使い魔が召喚されるの」
擦り切れるまで読んだ教科書の内容を噛み砕いて彼女に語る。そうすると、私の心にもそれが沁み込んで来て、じわじわと喜びと感動が湧き上がってくる。
「――これから、コントラクト・サーヴァントをするから、落ち着いて受け入れてね」
彼女から見たら、私は巨人もいいところだろう。それが口付けをおろしてくるのだから怯えてもおかしくないのに、彼女はハンカチの上に座ったまま、臆することなく私を見上げていた。その勇敢さはとても心地よくて。
左手にルーンが刻まれる痛みに彼女が手を抑えているのを見て、私の方が慌ててしまった。
「ルルルッ……ルルルルッ」
「だ、大丈夫だから、使い魔のルーンが刻まれる間だけ、すぐに収まるから」
しばらくすると、彼女の小さな左手の甲に、それに相応しい小さなルーンが刻まれた……らしい。小さすぎてよく見えなかったけど。
立ち上がった彼女が、とんとんと足踏みをした後、いきなりふっと姿を消した時には、息が止まるほど驚いた。そのすぐ後に、肩に軽い感触があって、目をやれば彼女が上手にバランスを取っていた。
「……びっくり、させないで」
こんなに動きが素早いなんて。なるほど、今まで人の目に触れなかったはずだ。
彼女が私の耳たぶに手を掛けてきたので、くすぐったかったけど、我慢して耳を澄ませた。
「ルル……ル…………るい、ず」
彼女が、私の名前を呼んでくれた。
「るいず……コレカラ……ヨロシ……クネ……」
たどたどしい話し方だったけど、ちゃんと聞こえた。
「ええ、よろしく。それと貴女の名前を教えてくれないかしら」
「ワタシ……ハ……くるみのひめ……アダナハ、はやて」
「はやて?」
「ルル……まめいぬたいノナカデ、イチバン、ハヤイカラ」
そう言ったときの彼女は、何だか自慢そうだったから、きっとあだ名で呼んであげた方が嬉しいんだと思った。メイジの二つ名みたいなものなんだろう。
「それなら、貴女のことはハヤテって呼べばいいのね?」
「ルルルッ……ウン」
「ねえ、話すときにルルルッて聞こえるんだけど、何て言ってるの?」
「同ジコトヲ言ッテル。タダ速スギテ、人間ニハ『ルルル』トシカ聞コエナイノ」
どうやら素早いのは足だけじゃなかったらしい。
そう言えば、感覚の共有はできるのだろうか? 目を閉じて、集中してみると、ぼんやりと絵が浮かび上がってくる。
桃色のふわふわと、これは……斜め下から見上げた私の顔だ。驚いて目を開けたら途切れてしまったけど、ちゃんと見れたから嬉しかった。そのことを話したら、ハヤテも驚いたように目を見張った。
「ジャア、ワタシモるいずガ見テルモノガ見エルノカナ?」
好奇心も旺盛らしい。目を閉じてうんうん集中してる姿は、今までの中で一番子供っぽくて微笑ましかった。
「ルルルッ……るいずッ 見エタッ」
目を閉じているのに、見下ろされている自分が見えたと、身振り手振りを交えて教えてくれる。
どうしよう、こんなに気が合うなんて。まだ契約を結んでから一時間も経ってないのに。頬がだらしなく緩んでるのが自分でも分かるから。
「ああ、でももう遅いから、今日は寝ましょう。ハヤテはここで寝てくれる?」
ベッドの枕の横に、ハンカチを折りたたむ。即席の掛け布団だ。
肩から飛び降りたハヤテが、ちょっと目を逸らしたらもうチョッキとスカートを脱いでてびっくりした。着替えるのも素早い。きちんと畳んで、その上に短剣を置いた。それを見て恥ずかしくなって、私も脱いだ服を畳んだ。
「女の子なのに、剣を使うの?」
ネグリジェに着替えてベッドに潜り込んで、ふと気になったことを聞いてみた。
「ルル……ころぼっくるハ、ミンナツカウ。鳥ニ襲ワレタトキトカ……狩ヲスルトキトカ……」
コロボックル、というのが、ハヤテたちの種族の名前か。
「タダ、私ノ剣ハ特別……まめいぬたいノ証」
また、マメイヌタイが出た。マメイヌ、隊かな? 騎士団みたいなものを思い浮かべた。ハヤテみたいな格好をした小人たちが、剣を構えて走っていく。何だか格好いい。
「よかったら、明日剣を見せてね……お休み」
「ン……オヤスミ、るいず」
小さな返事に瞼を閉じる。学園に来てから初めてなくらい気持ちよく眠れそうだった。




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