あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

S-O2 星の使い魔-15


「……」
「……」

 馬車上で視線が交錯する。
 屋根の無い荷台でフェイズガンを構えるクロード、御者台から振り返るミス・ロングビル。
 クロードの後ろではタバサが杖を構えている。

 ルイズとキュルケは『花摘み』に行っている。
 戻ってくるまで数分あるかどうか、機会は今しか無い。
 フェイズガンを握る右手に力が篭り、汗が滲む。
 落ち着け、焦りを悟られるな。

「冗談はやめていただけませんか、クロード君?」
「いっそ冗談ならば、その方が良かったんですけどね、ミス・ロングビル……いえ、土くれのフーケ」
 一瞬、ミス・ロングビルの眉間に皺が寄る。

 彼女は知っている。
 ワルキューレの胸を穿ち、己のゴーレムの体を大きく削らしめた光を放つ武器。
 それを生身の人間が受ければどうなるか。

 さらに、後ろに控えるはシュヴァリエの称号を持つ腕利きの小さきメイジ。
 その瞳には一片の迷いも無ければ、人を撃つことへの気負いも無い。
 クロードはともかく、彼女はいざとなれば容赦無く氷塊を叩きつけてくるだろう。

 無言。
 数秒。
 頬を汗が伝う。

「……何時から気付いていた?」
 溜息とともに口を開き、諦めたように両手を上げるミス・ロングビル───否、土くれのフーケ。
 その表情はいつもの温和な秘書の顔ではなく、油断の無い盗賊のそれへと変わっていた。
 それに気付いていればこそ、その手に杖が無くとも二人は空気は緩めない。

「貴女がフーケの情報を持ってきたときから疑ってはいました。
 確信を持ったのは、貴女が捜索隊に同行を願い出たときです」
 ってことは、ほとんど最初からか。舌打ちをするフーケ。

 まず、一晩で集めたにしては、情報の内容が具体的すぎたこと。
 片道半日かかる場所の情報を一晩で持ち帰るなど、どう考えても不自然だ。

 第二に、隠れ家の場所が悪すぎること。
 短期的にはともかく、本格的に山狩りされれば包囲殲滅されるのは目に見えている。
 まるで早急に追撃をかけてくれと言わんばかりではないか。

 第三に、そもそも『土くれのフーケ』が出来合いの木造建築を利用するとは思えなかったこと。
 あれだけのゴーレムを練成出来るメイジなら、隠れ家の一つや二つ自分の魔法で作るだろう。
 その方が足が付きにくいはずだ。

 ついでに言うなら、捜索隊に志願したキュルケとタバサはそれぞれ火と水のメイジ。
 ルイズとクロードは論外だから、そもそも容疑者は彼女しかいなかったのだ。
 そこにこれだけ状況証拠が揃っていれば、疑わない方がどうかしている。

「……やれやれ、坊やだと思って油断した私が甘かったってことか。
 で、どうする。王国に私を突き出すつもりかい?」
「それをするなら、出発前にやっています。
 このまま帰っても意味が無いんですよ」
「は?」

 思わぬ展開にキョトンと目を丸くするフーケ。
 その後ろでタバサも怪訝そうにこちらを伺っている。

「ここで貴女を捕縛したら、真っ先に捜索隊に志願した彼女の面子を潰すことになる。
 僕は自分の推理が正しかったのかどうか、確認しておきたかっただけです」
 それだけ言うと、クロードはフェイズガンを下ろす。
 背中に非難がましい視線を感じるが、黙殺。
 フーケも気に入らなさそうに鼻を鳴らす。

「お前が、私のゴーレムを倒せるとでも?」
「出来ると信じています、彼女なら」

 幾千の夜と幾億の闇に塗り潰されたフーケの金色の瞳が、クロードの青い瞳が覗き込む。
 全てを飲み込まんと牙を剥くプレッシャーに相対しながらも、力強く睨み返すクロード。
 そこに恐れはあれど、曇りは無い。

 僕は彼女を守ると決めた。
 自己満足でも、偽善でも構わない。
 その全ての責任と業は、自分で背負う。

(やれやれ、あの主にしてこの使い魔あり、ってわけかい)
 フッと口の端に笑みを浮かべるフーケ。
 古人曰く、若さとは振り向かないこと。
 主従揃ってここまで真っ直ぐだと、馬鹿馬鹿しくもいっそ清々しい。
 かつては自分もこんな目をしていたのだろうか。
 あれほど嫌悪していた瞳のはずなのに、今は怒る気にもなれなかった。

 ふと、思う。
 異邦人であるクロードが異能者であるルイズに召喚され、
 左手に刻まれたのは誰も知らぬルーン。
 その戦闘力は、未熟とは言えメイジを打ち倒し、その手に光を放つ謎の武器。
 今は捨てた故郷も、なにやら不穏な空気になっていると言う。
 この世界に、ハルケギニアに、人智の及ばぬ何かが起きているとでも言うのだろうか?

 ……馬鹿馬鹿しい、盗賊風情が何を考えているんだか。

「やれやれ、英雄でも気取るつもりかね?」
 フーケは頭を振りつつ吐き捨てる。

 そう、何の気も無く、言ってしまった。
 英雄。その言葉がクロードにとってどれほど重いものか、知る由も無く。


「……英雄?」
 クロードの肩がびくりと震えた。

 目がカッと見開かれる。
 息が詰まる。
 冷たい汗が噴き出す。
 全身をぞわりと悪寒が走り抜ける。

 刹那、風が吹き抜けた。
 木々は激しくざわめき、フーケの外套がバサバサと音を立てる。
 風はまるで痛みにのた打ち回るクロードの心そのままに荒れ狂い、
 その中心に居るクロードの瞳は、ここではない何処か遠くを見つめていた。

 それは誉れにして呪い。
 魂に刻み込まれた烙印。
 矮小な身を焼き尽くす優しき煉獄。
 何人が焦がれても得られず、拒んでも断ち切れぬもの。

「……」
 再び静寂が場を支配する。
 気まぐれな風の舞踏はとうに掻き消え、
 舞台にとり残されたのは、哀れな道化が一人と立ち尽くす観客が二人。

「……女性に銃を突きつける英雄なんて、いるわけがないでしょう」
 痛みを堪えるように、血を吐くように、俯いて呟くクロード。
 その表情は前髪に隠れ、窺い知ることは出来ない。


(不味いこと言っちまったかね、こいつは)
 困ったようにポリポリと頬を掻くフーケ。
 自分だって触れて欲しくない話の一つや二つはある。
 どうやら彼にとって『英雄』がブロックワードだったらしい。

 ふと周りに目をやると、タバサが似たような調子で呆然としている。
 が、こちらの様子に気付いたのか表情を引き締めて杖を向けてきた。
 ふふっ、らしくないじゃないか、シュヴァリエ様ともあろう者が。
 無愛想な娘と思っていたけど、こんなツラもするんだねえ。

 何となく、フーケは理解していた。
 クロードの心には、自分と同じに、世界への絶望が深く刻み込まれているのだと。
 そして自分とは逆に、彼がルイズに強く惹かれていることに。
 好悪は互いに鏡合わせ、意外に自分と彼は通ずるところがあるのかもしれない。

 もっとも、だからと言って易々と捕まってやる義理は無い。
 自分にも守らねばならぬものがある。

「悪いが、加減はしてやれないよ」
 突き放すような口調で言い放つフーケ。
「構いません。ここで倒れるようなら、所詮はそれまでだったということでしょう」
 僕も、彼女も。そう付け加えて、クロードも言葉を切る。

 互いに言い終えると、クロードは荷台に、フーケは御者台にそれぞれ座り込む。
 それを確認して、タバサも座って傍らに置いておいた本を再び手に取った。
 結局、この場でそれ以上の会話が交わされることは無かった。

「ふー、ただいま……って、何かあったの?」
「いいえ。何もございませんわ、ミス・ヴァリエール」





「……呆れた、ダーリンったら。土くれのフーケ相手によくやるわね」
「本当にゴメン、僕一人で勝手に決めちゃって」
 タバサとキュルケ、二人の前で両手を合わせるクロード。

 ここはミス・ロングビルの報告にあったフーケの隠れ家。
 ルイズは外で見張り中、先ほどの場に居なかったキュルケに事情を説明している。
 誇り高い主に事情を隠しおおせた事に内心で安堵しつつ、
 そして最後までまるで気付く気配すら無かった彼女に軽く脱力して。

「いくらなんでもなあ、危ない橋渡りまくった割には実入りが少なすぎやしねえか、相棒?」
「全くだわ。そりゃタバサも不機嫌になるわよねえ」
「別に」
「いや……ホント、すいません……」
 返す言葉があるわけもなく、ただひたすらに頭を下げ続けるクロード。
 そんなクロードに、キュルケは穏やかに微笑む。

「ううん、気にしなくていいのよダーリン。
 私だって、あの子の誇りを汚すような真似はしたくなかったし」
「そう言ってくれるとありがたいよ……ありがとう、キュルケ」
 いや、感謝してますから、抱きつくのはカンベンしてください。
 この後の戦闘に引きずりたくないんで。

「それはそれとして、だ。勝てる見込みあんのかよ、相棒?」
「正直言って、彼女次第だね」
 キュルケを引きはがしつつ、懐の相棒に答えるクロード。
 ここに居る3人には、あのゴーレムを倒すだけの火力は無い。
 勝利の鍵を握っているのはルイズなのだ。

「本当に出来るのかしら、あのルイズに……?」
「出来ると信じてる、彼女なら」
 首を傾げるキュルケに、フーケに言ったことを再び口にするクロード。
 『錬金』で教室一つを軽々と吹き飛ばす彼女の力。
 その力のベクトルを純粋な破壊、爆発に向ければどうなるか。

(……ごめんなさい、コルベールさん。今の僕のやっていることは、間違いなのかもしれない)
 そこまで考えが至ったところで、かつてコルベールに語った悪夢がフラッシュバックし、顔を顰める。
 結局のところ、自分が考えた最悪のシナリオを描いているのではないか。
 開けてはならぬパンドラの箱に手をかけているのではないか。

 だが、たとえそれが災いをもたらすものだったのだとしても、
 諦めずに高き空へと手を伸ばす彼女を手伝いたかった。
 その手が無力でないと知って欲しかった。

(何のことは無い、彼女に自分の夢を投影しているだけじゃないか)
 ぐしゃぐしゃと頭を掻くクロード。
 ならばこそ、彼女が道を違えぬよう共に行く責任がある。
 それが自分にとっての使い魔としてのケジメなのだろう。
 ごめん、父さん。帰るに帰れなくなるかもしれない。


「……見つけた」
 タバサの言葉に正気に返り、ハッと顔を上げるクロード。
 そういえば、この捜索の目的には『破壊の宝玉』の奪還も含まれている。
 ゴーレム対策ばかり考えていてすっかり失念していた。
 いつもと変わらぬタバサの無表情が、言外に責められているようでちょっと心が痛い。

「それにしても、これが破壊の宝玉、ねえ……」
 タバサの手にある件の宝物を一目見るなり、微妙な表情でこめかみを押さえるクロード。

「ダーリン、これが何なのか知ってるの?」
「う~ん、知ってる……って言うのかなあ、この場合。
 とりあえずこれが何なのか、大体の予想はつくかな」
 タバサから受け取ったそれをまじまじと見つめ、溜息を一つ。
 確かに球状ではある以上、このような呼び方をするのはさほど間違ってもいないのだろう。
 成る程、破壊の名を冠するに相応しいシロモノではある。
 製造者の印なのか、凛々しい眉が印象的な女の子───風そよぐ桜並木よりも、夕暮れの河川敷の方が似合いそうな───の肖像が描かれている。
 その顔にどこかで見たことがあるような無いような、微妙な感覚に囚われたのは気のせいか。


 ……さて、じゃれ合いはこの辺で切り上げないとな。そろそろ時間だ。

 一つ息をついて、表情を引き締める。
 ヴン、という唸り声を上げ、デルフの光の刃が具現する。
 剣閃が駆け抜け、小屋の壁の一角が扉のように切り開かれた。
「行くぞ、デルフ」
「合点だ、相棒! 腕が鳴るぜ」
「ねえダーリン、何で普通に扉から出ないの?」
「奇襲対策。あと、雰囲気作り」

 3人が小屋を飛び出したのと、ルイズの絹を裂くような悲鳴が聞こえたのは、ほぼ同時のことだった。





(……らしくない、らしくないじゃあないか。土くれのフーケともあろうものが)
 口の中で、自分にさえ聞こえていないかのように呟く。
 あの少年の眼を、希望と絶望が綯い交ぜになったあの瞳を見てから、どうもいけない。

 夢を見ることなど、とうに忘れたはずなのに。
 自分を裏切り、切り捨てた世界への復讐心を糧に生きてきたはずなのに。
 たった一人残った妹に、自分の真実の姿を明かすことも出来ない道化が。
 これもまた、始祖ブリミルの導きというものか。

「越えられるものなら、越えてみせるがいい。
 己がその手で掴み取ってみせるがいい。
 それだけの覚悟と、力があるのならばね……!!」

 聞こえるはずのない、視線の先にいるはずの少年たちへと高らかに宣言する。
 それは宣戦布告であり、若き戦士たちへの檄のようでもあった。

 今の彼女は、悪辣な盗賊でも有能な秘書でもない。
 己の魂に懸け、誇りと共に生きる貴族。それこそが彼女の真の姿。

 忘れられたはずの、その名は──────


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