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エデンの林檎 十七話

十七話 『イヴは迷わず受け取った』


 戦争とは国家間経済競争の最後の一手である。
 さまざまな外交手段の果てにある最後の一手だ。
 恒久的な平和とか叫ぶ頭の悪い人間が太陽系第三惑星の極東方面にいたりするが、そんなものは不可能である。
 経済抗争も一種の戦争であり、冷戦状態こそが人間を進歩させるのだから。

 少なくとも外交の最終目的が友好関係の締結だというのは幻想だ。

 ここトリステインの貴族もそんな感じで、少々侵略されても「ああ、手違いだからいいんじゃね?」で済ませようとしたりする。
 どこかのお馬鹿な新聞のような貴族連中が慌てふためく様にほくそ笑みながら、マザリーニは声が漏れるのをこらえていた。

 王女は騎士団を引き連れて戦争に向かった。
 まったくあのヴァリエール家の小さなメイジは!

 まだわめき散らす数名の貴族を尻目に、マザリーニは側近に指示を出した。
 アニエスの調査の報告を、と。


 戦況はこう着状態だった。
 途中参戦したモット伯たちが異様なまでの活躍を見せていたからだ。
 それは彼の率いる水のメイジが放つ魔法だった。

 ちなみにジュール・ド・モットは不正の発覚で現在男爵の地位にある。
 ただしこの戦争の武勲で伯爵に戻されるので、まあモット伯でいいだろう。

 ともかく彼ら水のメイジたちが放つ真っ黒な水の固まりは、着弾地点で炸裂、爆発を引き起こす。
 まれに発射前の戦艦の砲弾に着火し、多大なるダメージを与えていた。
 この黒い水、正体は石油である。
 無論石油は水に類するものではない。
 どちらかといえば石炭を溶かしたもの、という表現がぴったりな太古の動植物の死骸の堆積物だ。
 水を含む要素はかけらも無いが、しかし液状のそれをメイジたちが使えない道理は無かった。

 何せこの世界の魔法、純粋な金や銀よりも化合物の青銅のほうが簡単という不思議な法則性を持つ。
 要は魔法の使用者の精神的価値観が優先されるのだ。
 それゆえ水にしか見えないそれを水のメイジが用いるのは当然のことといえる。

 なお石油というものが正しく認識されていないこの国で、モット伯は始めてそれを用いたメイジである。
 後年二つ名が“波濤”から“悪魔の水”に変わったりするが、まあそれは完璧に余談に過ぎない。

 そんな光景をよそにワルド達はじり貧だった。
 決め手が無い、それが問題だったのだ。
 精神力に限界のある自分たちメイジと違い、戦艦は弾薬がなくならない限り体力が続くのだから。
 加えて町の上にフネを落とせない、それはハンディどころの問題ではなかった。

「くそ! 何か、何か手は!」

 視界の端に、大きな羽根を広げた何かが映りこんだ。

「……翼人?」

 その何かから、細長い杖を抱えた小さな人影が飛び降りる。

「あれは……」
「むう!」

 ズキリと、モット伯をファントムペインが襲った。


 数刻前、学園は騒然としていた。
 突如ラ・ロシェールを占領した貴族派、それに対抗する騎士団。
 待機を命じられおのおの部屋に戻る。

 ルイズは一人、小屋へ向かった。
 各種武装をかっ喰らい、カツ丼たちを呼ぶ。
 ラ・ロシェールの近くにはシエスタのいるタルブの村があるのだから。

 誇りを胸に生きてこそ、貴族たる価値がある。

 ひっそりと巨体を感じさせない小さな音で学園を飛び出していくイノシシ。
 それを窓から見送りながら、キュルケ達はため息をついた。

「付いていってあげたいけど、ゲルマニアからの留学生の身としては進軍に参加はできないのよね」
「同じく」
「ギーシュは? 確かに怖いだろうけど行かない気?」
「いや、行こうとは思ったんだけどね」

 レイピアの飾りをもてあそびながら、ギーシュは顔をしかめた。

「『モンモランシーは?』なんて言われてはね。僕はここにいなくては」
「……世知辛いわねぇ」


 シエスタは教会の前、ぐずる子供たちを押し込んでデルフリンガーを引き抜いた。
 眼前には傭兵という名の略奪者が数名。
 この文化レベルの世界の傭兵なんてこんなもんである。

「お嬢ちゃんよ、やれるのか?」
「……引くわけには行きません。弟たちがいるんですから」
「そうかい……」

 デルフは自分を持つ震える手を見やる。
 生き残れるかどうかはこれ次第、か。

「お嬢ちゃん、心を振るわせろ」
「心、ですか?」
「そうだ。父を想え、母を想え、弟たちを想え、友達を想え。そしてそれらすべてを守ると決めろ」
「守る……」
「そうだ、守ろうと思うんじゃねえ。守ると決めろ。振るえる心が力をくれる」

 シエスタは思い描いた。家族を、友人を、学園の知り合いを、ルイズ達を。
 心に温かい感情が染み渡っていく中シエスタは確かに、自分と同じ色の髪と目をした少年の笑顔を感じた。

 左手が、左手のミミズ腫れが、古い文字を浮かべ輝く。

「そうだ! これだよ! やっぱり当たりだ!」

 デルフリンガーは歓喜に震えた。
 存在意義を確認する喜びが、その心のサビをそぎ落とす。
 一瞬輝き、刀身の質すらかえてデルフは力を取り戻す。

「さあ行けガンダールヴ! 俺達は神の楯! 右手が少々寂しいが“イーヴァルディの勇者”の再来と行こうぜ!」
「あああああああああ!」

 今までのようなただ振るうだけの剣と違い、確かな足捌きと確かな挙動で、シエスタは雄たけびを上げた。
 傭兵たちの剣戟を裁き、デルフを振るう。
 そこに五名いた傭兵たちはろくな対応もできないまま、その刃の洗礼を受ける。
 飛び散り降りかかる真っ赤な血を体に浴び、シエスタは下がると同時に嘔吐した。
 すべて吐き出して胃液で口内がすっぱくなってもまだ吐いた。

 胃がねじれるようにきしむまで吐いて、口をぬぐいながらシエスタは前を見る。
 空になった村をあさっていたのだろう傭兵たちが下卑た笑みを浮かべて並んでいる。
 中には杖を構えるものもいた。

「(まずい、まずいぜ。腕はともかく実戦経験が無いお嬢ちゃんじゃこれ以上は……)」

 シエスタはひっそりと、ポケットから取り出したそれを見つめる。
 そして迷うことなくそれを口に放り込んだ。
 ルイズに渡されたそれは瞬く間に消化されシエスタを作り変えていく。
 ふと、ルイズに言われた言葉を思い出した。

『空を飛びたいと思ったことはない? メイジのように、鳥のように』
『少しはありますね』
『ならこれはあなたにあげる。少しのリスクと引き換えに、あなたに翼をくれるもの』

 それはトリトリの実:モデルファルコン。
 鶏と鴨ばかりだったトリトリの実の中で、何故か一つだけあった猛禽の実。
 盗賊たちの前、窓から覗く家族の前、シエスタはその力を解放した。
 服の両袖両脛から羽根が生える。

「ああああああ!」

 それはゾオン系の実に共通する、単純で強力な付加。
 全身体能力の飛躍的な向上。
 それにさらにガンダールヴの力を乗せ、シエスタは雄たけびと共に大地を蹴った。


 最大の戦力とは数である。
 物量こそが最大の戦力だ。
 いかに能力を得ようが呂布でも本田・忠勝でもないシエスタの限界は、思った以上に早かった。

「ああ畜生! ガス欠かよ!」
「まだ、まだです!」

 デルフを構えるも先ほどまでの力は出ない。
 ガンダールヴの力が切れかけている。

「クソッたれがあ! さっさと来やがれあのペチャパイ!」
「誰がペチャパイかあ!」
「ゴルルアアアア!」

 巨大なイノシシにまたがった桃色の少女が木々ごと傭兵たちをなぎ倒して出現した。

「よーう娘っこ! 助かったわらば!」

 爆発に吹き飛ばされてデルフは壁に突き刺さる。

「ルイズ様!」
「無事ね。被害は?」
「村と草原だけです。あの、ルイズ様、私っ!」
「……お疲れ様シエスタ」

 その声に緊張の糸が切れ、シエスタは大声を上げて泣いた。


「ねえシエスタ、食べてしまったのね」
「……はい、その」
「デルフ、どうして止めなかったの?」

 少しきつめに、ルイズは彼に問いかける。

「しょうがねえだろ。食わねえと死ぬような状況だったんだぜ?」
「領主の職務怠慢ね。後で王女に報告しなくちゃ」
「それよりもよ、あれどうにかしねえとやばい感じだぜ」

 声の先には巨大なフネ。

「ロイヤル・リヴリン? あれは皇太子様が……」
「同型艦だろうな。最高の空戦力を誇るアルビオンが一隻しか作らないわきゃあねえ。まあ少々小さめだが」
「……でも他よりは大きいわね」

 そのフネをみやり、ルイズはシエスタに向き直る。
 あたりに散らばる砕け落ちたフネの残骸を、ルイズは集めだした。

「シエスタ、飛べる?」
「えっと、まだ練習とかしてませんから」
「俺がいりゃあ誤差はごまかせる」
「そう、なら手伝って」

 撃墜された三隻のフネは、すぐにルイズの腹に収まった。


 抜き身のデルフを口にくわえシエスタは両手を広げた。
 手が服ごと変化し始め大量の羽が生える。
 全身を羽毛が覆い、数秒後には一羽の大鷹がそこにいた。

「飛ぶほうはまだ慣れてねえだろうし俺がサポートするわ。さっき魔法喰らって思い出したんだが、俺使い手をある程度操れるみたいでな」
「そう、ならあのフネまで」

 大鷹はルイズを乗せて飛び立った。


 鷹が空を飛んでいる。
 初めはレコン・キスタの面々も、それをただの鷹だと思っていた。
 その翼を広げたサイズが三メイルでなければ。

「よ、翼人か!?」
「何か落ちてくるぞ!」

 その鷹から人影が一つ。
 その人影、ルイズは体内に取り込んだ三隻の空船を再構築した。
 ロイヤルリヴリン級のフネの前に突然出現した空船。
 三隻の残骸から築き上げられたそれは、まさに通常の三倍。あとなんか色が赤い。

「ノーマルとは違うのよ! ノーマルとわあ!」

 船首と船尾に集められた通常の三倍の金属。
 船尾にすえつけられた金属の筒から爆炎が噴き出し、その船首の通常の三倍はある巨大なラム(衝角)が、その勢いのままフネに突き刺さった。
 そのまま通常の三倍の速さで直進する。

「うわあああ!」
「何だあのフネは!」

 慌てふためくレコン・キスタに構わずルイズは全身から生えたパイプに爆炎を送り込む。
 その勢いのまま、三倍のフネは相手の船を大陸の向こう側へ押し出した。
 海上で煙を上げる二隻のフネ。

「こういうときは何だったかしら? そうそう」

 ブツンと、推進力を与えていたパイプがその体から離れる。
 直後ルイズの全身から大量の煙と光が発せられた。

「『Bon Voyage!(良い旅を!)』」

 ルイズと『ルイズ』の声が重なり、ボムボムの実が“ルイズ”という名の火薬に火をつけた。
 空を焼き尽くさんばかりの光、消し飛ぶ二隻のフネ。
 爆発地点から零れ落ちた人影を大鷹が拾い上げ、空のかなたへ飛んで消えた。

「“ウ○トラ・ダイナマイト”のほうが良かったかしら?」

 下では逃げ腰になったレコン・キスタをトリステイン王軍が圧倒していた。


 戦争とは戦略をまず練ってこそである。
 だからこそ劉備は三日連続で孔明の家に頭を下げにいったのだし。
 まず終わらせ方を考えてから行うべきものなのだ。

 余談はさておき強大な戦力があるなら分けてしかるべきであり、もしくは関係ない戦力が横からちゃちゃを入れるのは当然予想して当たり前の代物だ。

 まあ何の話かというと、戦争を正々堂々なんてちゃんちゃらおかしいってことだ。

 そんな軍事論を頭で展開しながら、ギーシュは眼下に迫る傭兵の集団をシルフィードの上から見下ろしていた。

「ねえキュルケ、ルイズはこれを見越してたのかな?」
「もともと頭は良かったもの。あのルーンを手に入れてから感情に振り回されてた頭が妙にさえわたってるし、そうかもね」
「確かに僕のような土のメイジには、このやり方はぴったりだろうけど、ね」
「せめてミス・ロングビルがいればねえ。妹さんの安否確かめに帰っちゃったし」
「つまりだよ、二人とも」

 ギーシュはレイピアを抜き下に向ける。

「この学園には属性特化した芸の無いメイジばかりしかいない。他は生徒と平民だらけだ」
「そうね」
「つまりそんな役に立ちそうに無い要員を抱えて、僕らはあの大群と向かい合うわけだ」
「あら、自信が無いの?」
「傭兵くらいならどうにかできる。それくらいの鍛錬は積んできた。でもねキュルケ、数が問題だ」

 見下ろす視線の先には線のように広がる傭兵たち。

「僕らで相手にできるのはせいぜい二三面、オールド・オスマンとミスタ・コルベール以外は戦力として期待できない」
「あら、いつも最強最強言ってるミスタ・ギトーは?」
「風しか使えない上に詠唱も遅い彼が最強? 子爵と共闘した身としては、それは“風”への侮辱にしかきこえないよ」

 傭兵たちに衛兵がようやく気づき、学園中が騒がしくなる。

「さて、では始めようか。キュルケ、タバサ、用意は?」
「化粧も完璧♪」
「問題なし」
「よろしい。では」

 進軍していた前列の衛兵がヴェルダンデの掘った溝に落ち、敷き詰められていた青銅の槍が彼らをあの世へいざなう。

「グランギニョルの開幕だ!」


 本当に教師達は役に立たなかった。
 オスマンとコルベールの三面六臂の活躍に比べ、他の教師達はあまりに役に立たなかった。
 ギトーなど偉そうにしていたわりに、土のメイジが出てきた途端一人で竜巻ごっこをする有様だ。
 かろうじてシュヴルーズの鋼のゴーレムと鉄の壁は敵の侵攻を防いでいた。

 学生寮の正面、生徒たちががたがた震える前でドットに過ぎないはずのギーシュは驚くほどの戦果を上げていた。
 錬金に持っていかれる精神力が問題なら、あまりなくさないようにすればいい。
 ギーシュはジークフリートを行使し、傭兵たちを追い払っていた。
 彼らの中にメイジがいなかったのも彼に幸いした。
 傭兵の一人を“焼き殺して”ギーシュはレイピアを突きつける。

「死にたくなければ引くがいい! それ以上進めば容赦しない!」

 人間の肉の焼けるにおいにこみ上げるものを必至にこらえながら、ギーシュはそれでも毅然と見栄を切る。
 戦う前にファンデーションを塗りたくったキュルケに感謝しながら、青くなった首筋を隠すように服の飾りを波立たせる。

「さあどうする! 死ぬか! 逃げるか! 選ぶがいい!」

 ヴェルダンデに地面への仕掛けを命じながら、ギーシュは誇り高くあった。

 キュルケとタバサは余裕綽々だった。
 二人ともトライアングルメイジであり、タバサに至っては入学前から“シュヴァリエ”の称号を持つほどの実力者だ。
 ばら撒かれる火球と氷槍にメイジ、非メイジに関わらず次々と吹き飛ばされていく。
 キュルケが炎の壁を引いて敵の足を止め、その間に氷槍と蓄炎鉱石から放たれる火球が敵を焼く。
 たまに硬めのゴーレムが出てきても、連続で着弾する氷と炎の熱膨張で自壊する有様だった。

 少なくともこの二人に死角はなかった。

 オスマンは強かった。
 普段のエロジジイはどこにいったの? と生徒が目を見開く中で、属性など関係ないとばかりに炎が、氷が、風が、石礫が、容赦なく侵入者を肉片に変えていく。
 そこにいつもの温厚な顔は無かった。

 コルベールも強かった。
 彼が苦い顔をしながらも放つ炎は正確に、的確に、そして確実に敵の数を減らしていく。
 その二つ名“炎蛇”の通り蛇のごとく駆け巡る炎が敵を焼いていく。

 だがやはり数は強く、精鋭が数人では抑えきれないのも事実。
 崩壊はコルベールから。
 彼が守っていた門が、周りの壁ごと吹き飛んだ。

「くっ! こんな威力を、味方ごと!」

 その炎は入り口を広げただけでなく、その周りの傭兵ごと吹き飛ばしたのだ。

「味方? ただの露払いの傭兵どもなど松明にもならんさ。そうだろ隊長殿お!」

 顔を焼かれた男が一人。

「メンヌヴィル!」
「久しぶりだなセンセェエ! 会いたかったぜえ! そしてなんだかわからんだろうが喰らえ!」

 霞むメンヌヴィルの右手。
 直後コルベールの肩口から血肉がはじけ飛び左手がだらりとたれる。

「(大丈夫、魔法で回復可能だ。だが何で切られた? 何も飛んできてはいない、魔法でもない)」
「ははははは! 見えないだろう? わからないだろう? 俺は力を手に入れたんだよ隊長! この新しい力を!」

 メキメキと音を立てて右手が毛むくじゃらになる。
 黒い体毛と鋭い爪は確かに肉食獣のもの。
 顔が前に長くのび、筋肉で膨れ上がった全身を黒い毛が覆う。

「人狼!? いや、君は人間だったはずだ!」
「人間だぜ? 人狼と同じくらい体は頑丈だがなあ!」

「(馬鹿な!? 人間を人狼に変える? 無理だ、不可能だ! 千年を生きる吸血鬼でも難しいあの呪いを!? しかも魔法は感じなかった)」

 魔法を使わず人を変える、そんな不可能なはずの事象を考察し、コルベールはふと一つの記憶を思い出す。

 それはイノシシに変わるブタ。

「……まさか悪魔の実!」
「ははははは! 知ってるのかよ! そうだよ、これが俺が授かった、新しい力だよ隊長!」

 イヌイヌの実:モデルジャッカル。
 メンヌヴィルがほえる。

「いやあああああああ!」

 後ろで震える手で治療を行っていたモンモランシーが、布を裂くような悲鳴を上げた。


 逃げ帰っていく傭兵たちを尻目に、ギーシュはヴェルダンデの彫った穴に胃の中身を吐き戻していた。
 胃に傷が付いたのか黒ずんだ血が混ざっている。

「ああ、もういやだ、いやだぞこんなのは、何が楽しいんだ? 僕は土のメイジだ。彫刻やアクセサリーを作るのが趣味の、しがないドットメイジなのに」

 錬金魔法で扉に罠をセットして封鎖し、別の場所への増援へ向かおうとレイピアをしまう。

 直後、少女の悲鳴が響き渡った。

「モンモランシー!?」

 間違えるはずが無い、聞き間違うはずが無い。
 確かにその悲鳴はギーシュの愛しのモンモランシーの声。
 声のほうを向くと別の場所からの人員なのか傭兵たちがたむろしている。

「数が多すぎる、時間が!」

 何か手は無いか? 頭を振って必至に考える起死回生の手。
 たった一つだけ、反則のような一手が頭に浮かんだ。
 懐に手を入れ小さな袋を取り出す。

 中にはライチの実が入っていた。
 少なくともその形はライチだった。

 外皮の色と渦巻き模様以外は。

「……確かライチは“この世で一番高貴な果物”だったっけ?」

 渡される際のルイズの言葉を思い出す。

『ギーシュ、あんたは他の二人に比べていろいろ心配だからこれ上げるわ』
『いいのかい? 一つしかないんだろ?』
『別に構わないわ。発生条件はわかったから何とかなるもの』
『まあ使わないことを祈るけどね』
『そうね、それが一番だわ。遺伝しないとはいえ人間から外れるのは確かだし』

 ふう、と回想の中のルイズがため息をつく。

『でも戦争になれば必要になるわ。自分のだろうが他人のだろうが力は力でしょ?』
『戦争、か。父上も懸念されていたが……』
『だからそれを使うかどうかは優先順位の問題ね。自分が変わることより大事なものはあるか? 使うかどうかの判断なんて、所詮その程度よ』

「優先順位、か……」

 ギーシュは思い出していた。

 自分は女性が好きだし、女性の笑顔が見れるなら道化に徹するくらいわけはない。
 実際何人もの彼女がいたし、“大人”になったのは実は十二歳のころで相手は家庭教師だったりする。
 だが彼女は違う、モンモランシーは違う。
 今まで付き合った誰よりも、モンモランシーは僕の心を捉えて離さない。
 彼女が笑ってくれるなら、僕は悪魔にだって魂を売ろう。

「決まってる。彼女より優先すべきものなど、この僕にあるものか」

 それはグラモンの誇りより、はるかに高く価値あるもの。

 ギーシュはためらうことなく、ライチの実にかぶりついた。


    ♪ライチ ラライチ ララライチ 誘惑の果実 ララライチ♪
    ♪ライチ ラライチ ララライチ 天使の口付け ララライチ♪

    ♪ライチ ラライチ ララライチ 裏切りの果実 ララライチ♪

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