あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第7話 禍々しき闇色の名は希望

泥まみれになったおかげか、ルイズは泥のように眠った。
夜中に言葉と一緒にお風呂に入って泥を落とし身体を温め、
それから着替えて部屋に戻るとすぐベッドの上に倒れるようにして意識を手放した。
朝になって気がついたら、ちゃんと布団の中に入っていて、
けれど右手だけは布団から出ていて言葉が握っていた。
床に腰を下ろし、ベッドに寄りかかりながら、ルイズの手を。
そして、ベッドの端っこに頭を乗せて穏やかな寝顔を見せている。
続いてルイズは誠を探した。ちゃんと泥の中から掘り返して、言葉に渡したはず。
浴場から帰った時、言葉はちゃんと誠を持っていた。だから部屋の中にあるはず。
言葉の隣に鞄、空いているそこから黒い頭髪が見えた。中にちゃんと居るみたい。
(何でマコトの首があるって解って安心してんのよ、私)
ルイズは嬉しそうに己が身を呪った。
昨晩降っていた雨はすっかり上がって、部屋を朝の陽射しが明るく照らす。
言葉の手を解いたルイズは、雨上がりの朝という最高の空気を吸うために窓に向かう。
開けた瞬間、身体が浮かび上がるような錯覚を感じるほどの、澄んだ空気が肺を満たす。
昨日のあの出来事で、ルイズの中の何かが吹っ切れた。
「今日からは、生まれ変わった新生ルイズ・フランソワーズが学院を征くわ!」
「さすがルイズさん、素敵です」
振り返ると、満面の笑みの言葉が頬を染めていた。
ルイズの恰好いい発言と頼りがいのある背中に、恋する乙女の瞳を向けている。
「あー、お、おはようコトノハ」
「はい。おはようございます」
平和の一言に尽きる朝のひととき。
この平和を自分からぶち壊そうとしているのに、ルイズの心は晴れ晴れとしている。
「コトノハ。今日はマコトも授業に連れてくわよ。
 その後、モンモランシーに解除薬を作ってもらうから。いいわね?」
「ルイズさんの思うように」

クラスメイト達の平和はたった一日で終わった。
(何でまた鞄を持ってきているんだ……)
誰もが思った。特にモンモランシーは頭痛を起こすほどに。
そんな彼女に追い討ちをかけるように授業後ルイズと言葉がやって来る。

交渉開始。
「惚れ薬の件をコトノハに話したわ。訴えられたくなかったら解除薬作りなさい。
 言いたい事は解るけど質問は許可しないから。こうする事に私が決定したから。
 ここで協力しなかったら私が然るべき場所に報告してあんたは役人に捕まるし、
 いつか自然に惚れ薬の効果が切れた時、コトノハが恨みを晴らすためあんたを――」
「ごめんなさいすぐ作ります堪忍」
交渉成立。
「さすが新生ルイズ・フランソワーズ……素敵です。ぽっ」
「コトノハ、そーゆー事は言わない。恥ずかしいから」
さすがに今朝の発言は恥ずかしいセリフだったという自覚があるようだ。


ルイズに借金をしてまで材料を買い集めたモンモランシーだが、
とある材料が売り切れで再入荷が絶望的のため解除薬の調合は不可能だった。
それを聞かされたルイズは、その材料が何なのか訊ねる。
「水の精霊の涙」
ガリアとの国境にあるラドクリアン湖の精霊からしかもらえない貴重品だ。
それが精霊と連絡が取れなくなってしまったらしい。
とりあえずこれで一安心のモンモランシー。
「薬を調合できないのは私の責任じゃないし、
 彼女も今のままの方が色々と平和だと思うし……これで手打ちでいいわよね?」
「んー……」
確かに言葉は今のままの方が絶対幸せでまともだ。
わざわざ狂気に歪んだ言葉に戻すなんて馬鹿げた行為だけど、
ルイズはその馬鹿げた行為を選択したのだ。
とはいえ『あきらめる』という魅惑的な選択肢に少しだけ心を動かされる。
言葉が正気に、じゃなくて狂気に戻るとしても、
惚れ薬で心が操られている間の記憶が無くなる訳ではないから、
今の心で現実に向き合った経験は狂気を静めるための薬になるかもしれない。
だとしたら今の状態が長く続く方がつまり自然に薬の効力が切れるのを待つ方が、
最終的には言葉のためになるのではないか。
「コトノハ、どうしよう?」
「……私は、材料が手に入らないのなら仕方ないと思います」
「そう。そうよね、仕方ない……か」
二人が納得してくれたようなので、モンモランシーはホッと胸を撫で下ろした。
「それじゃ、そういう事で」
これでもう帰っていいだろうと歩き出すモンモランシー、の肩をルイズが掴む。
「な、何よ。まだ何かあるの?」
「……私とコトノハの考えって……逃げ、よね」
「は?」
「貴族たるもの……逃げたりなんか、しないものよ」

翌日、外泊の許可を取ったルイズとモンモランシーは、
言葉(と誠)を連れてラドクリアン湖に向けて馬を走らせた。
平民とはいえ言葉は乗馬の経験があるらしく、一人で巧みに馬を操って見せた。
「ルイズさんと緑豊かな街道を走る……何だかロマンチックです」
なんて余裕も見せながら。


到着したラドクリアン湖では、なぜか水位が異常に上がっていた。
モンモランシーは使い魔の蛙を使って、水の精霊を呼び出してみる。
現れた水の精霊はとても幻想的でこの世のどんな宝石よりも美しくきらめいていた。
人の形を取り、人の言葉をつむいだ精霊は、涙が欲しいという願いに笑顔で答えた。
「ヤだ」
そのまま帰ろうとする精霊を慌ててルイズが呼び止める。
「待って待って待って! お願いだからちょっと待って! 何で駄目なの!?
 今までは水の精霊の涙を人間に分けてくれたりしてたんでしょ!?
 せめて、せめて理由くらい話して。お願い……!」
ルイズの呼びかけに、笑顔のまま水の精霊は優しい口調で答えた。
「ヤだ」
そして水面の中へと戻っていく。
「待ってください」
今度は言葉が呼び止めた。水の精霊は動きを止めて言葉に視線を向ける。
いちいち止まってくれる水の精霊、何気に律儀な奴である。
「ルイズさんがこんなにも一生懸命お願いしているんです。
 お話くらいしてくださってもよろしいんじゃないでしょうか……?」
言葉は、まだ本音の部分では解除薬を欲しくないと思う部分があった。
解除薬を飲んで、かつて彼氏だったとはいえすでに死体となった男の、
誠の首を狂信的に愛する自分というのを思い出すと、正直、おぞましい。
だからルイズがかつての自分を否定したのは、悲しい反面、正論だとも思った。
今のまま、この気持ちのまま、ルイズと一緒にいたい。
それが言葉の本音。

でも。

ルイズは言葉に自分自身の力で狂気を振り払う事を望んでいる。
狂気に歪んだ言葉ではない、惚れ薬で歪んだ言葉でもない。
本当の言葉と出逢うために。
その高潔で優しい想いに応えたい。だから必要な材料があるなら手に入れる。
それも言葉の本音。

ふたつの本音を天秤に乗せて、傾いたのは、後者だった。
「私は、どうしてもあなたの涙を手に入れなければならないんです。
 絶対にあきらめません。だからなぜ涙を分けてくださらないのか、どうか理由を」
胸の前で祈るように両手を組んで懇願する言葉を見て、いや、
言葉の左手に刻まれた使い魔のルーンを見て、水の精霊は言った。
「盗まれた秘宝を探している。故に他の事などどうでもいい」
「秘宝……?」

アンドバリの指輪。
それが湖底より盗み出され、水の精霊はそれを探すため湖の水位を上昇させた。
世界を水で満たせば、いつか指輪も水に触れ、どこにあるか解るだろう。
気の遠い話ではあるが、人間と精霊では時間の感覚が違う。
「その指輪が見つかるまでは、涙を分けてはくださらないんですか?」
「うん」
「でもこんな闇雲に探すなんて……手がかりは何かないんですか?」
「盗っ人の一人がクロムウェルって呼ばれてたっぽい気がしないでもない」
「名前だけですか……」
言葉はルイズとモンモランシーに視線を向けたが、二人とも知らないと首を横に振る。
ちなみにモンモランシーはなぜか顔面蒼白だ。なぜだろう?
「モンモランシー、どうかしたの?」
「な、何でもないわよ。ともかく、これじゃあもうどうしようもないじゃない。
 指輪が見つかるよりも、薬の効果が自然に切れる方が早いわよ。帰りましょう」
「んー、どうしよう。何とか涙を分けてもらえないかなー。指輪探しを手伝うとか」
「涙やるから探せ」
即座にルイズのアイディアを採用する水の精霊。
突然すぎて三人そろって目が丸くなった。
「……マジ?」
「ヴィンダーやミョっちゃんならともかく、ガンダーになら任せちゃう」
と、ガンダーって何だという疑問を無視して水の精霊は指先から水を飛ばした。
これが水の精霊の涙、らしい。モンモランシーは慌ててビンの中にその水を入れた。
ルイズはこれで一安心と微笑む。
「これで解除薬が作れるわね。ところで、ガンダーって何かしら?」
「それも気になりますけど、指輪……ええと、アンドバリの指輪の事も。
 どんな形をしている、どんな指輪なのか解らないと、探す時に困ってしまいます」
「そうね。あのー、アンドバリの指輪ってどんな指輪なんですか?
 マジックアイテムだとしたら、能力も解った方が探しやすいんですが……」
と問うルイズの後ろで、モンモランシーがムンクのような顔をしていたが、
それに気づいたのは水の精霊だけだったがスルーして指輪の説明を開始する。

「旧き水の力を持つ物。偽りの生命を死者に与える指輪」

グルンと音を立てるような勢いで、ルイズの首が言葉に向けられる。
モンモランシーは指輪の効果を元々知っていたのか、げんなりした顔をしていた。
視線を集める事になってしまった言葉は困り顔だ。
「……あの……どうして私を見るんですか?」
「……。だって、嬉々として使いそうだし。マコトに」
「そんな……! 私が誠君を生き返らせるだなんて……」

言葉はちょっと想像力を働かせてみた。
アンドバリの指輪で生き返る誠。
今はルイズを誰よりも愛している言葉だが、誠への愛が無くなった訳ではない。
だから、生き返った誠とは、こんな感じになるだろう。

『言葉! さあ、クリスマスをやり直そう! ボートに乗ってエッチしよう!』
『ごめんなさい! ごめんなさい誠君! 今の私は身も心もルイズさんの、ト・リ・コ』
『そんな……』

はっきり言って、生き返らせるのは逆に誠に悪いように思える。
しかし、言葉はさらに想像力を働かせた。
自分が解除薬を飲んだ場合、多分、こうなる。

『言葉! さあ、クリスマスをやり直そう! ボートに乗ってエッチしよう!』
『もちろんです! さあ、まずは私の手料理を食べてください』
『モグモグ、おいしいよ言葉!』ボトボト
『ありがとうございます誠君! あら? 何かこぼれ……』
生首の誠。当然、食べた物は、首の切断面からボトボトと落っこちる。
それでも多分言葉は嫌な顔ひとつせず誠に尽くすだろう。
そして。
『言葉……ようやく言葉と結ばれる日が来たんだね』
『誠君……私もこの日を待っていました』
『言葉ー!』
首だけの誠は自分からは何もできないので、仕方なく言葉は誠の頭に自ら……。

「ヒッ……。る、ルイズさん! やめましょう、解除薬を作るのは危険です!」
「だ、大丈夫よ。指輪なんてそうそう簡単には見つからないから」
「でも、私、誠君の生首相手に………………だなんて、そんなの殺生です」
「安心しなさい。すでにディープキスとかやっちゃってるから!」
「私とキスしていいのはルイズさんだけです!」
やいのやいのと騒いでる間に、水の精霊は湖の中へと姿を消していた。
残されたルイズ達の前で、上がった水位が徐々に引いていく。
「……やっぱ、指輪探さないと水の精霊に怒られるわよね」
「……でも、私が指輪を探すのは危ないです。いくら相手が誠君でも、生首相手なんて……」
「大丈夫! 解除薬を飲んでも記憶までは消えないから、今の気持ちを忘れずにいれば……」
「そ、そうですよね。私は新生ルイズ・フランソワーズの使い魔なんだから、きっと……」
「新生ルイズ・フランソワーズは忘れて……お願い……」


水の精霊の涙を手に入れた晩、近隣の町で宿を取った三人は翌朝学院へと帰った。
その日の授業を欠席したモンモランシーはさっそく解除薬の調合を開始し、
同様に欠席したルイズは言葉とのんびりと部屋でだらけていた。
年相応の女の子らしい他愛のないお喋りをしたり、
そうしたら言葉が「多分私は異世界から来ました」とか言い出すから驚きだ。
「ナルニア国物語みたいに、私は地球から異世界に来た……いえ、召喚されたみたいです」
「ナルニア国? それがコトノハの国なの?」
「いえ、ナルニア国というのは創作物に登場する国です。
 世界三大ファンタジー小説と言いまして、私のいた世界では魔法は想像上のものでした」
「へー。でも魔法が無いって不便じゃないの?」
「代わりに科学が発展してますから。科学というのは――」
夢物語のような言葉の話にルイズは半信半疑ながらも瞳を輝かせる。
いかにも嘘っぽい話だが、今の言葉は惚れ薬の効果があるから、
ルイズに対して嘘はついてないだろう。
だから、きっと言葉の話は全部本当。
楽しいお喋りの後の、恋と裏切りのお話も。

「……。つまりそのサイオンジって女が、コトノハとマコトの恋を応援してくれたのに、
 裏でマコトを寝取るわ、キヨウラとかゆー女もちょっかい出すわ、
 挙句の果てにサイオンジが狂言妊娠でマコトを縛りつけようと……恐ろしい話ね」
「ええ……。思えば、誠君以外に私を優しくしてくれる人なんていなかったと思います」
言葉視点から語られた誠は、世界の誘惑に乗ってしまったものの、
心の底では終始言葉を想い続け、最後には戻ってきてくれたというものだった。
ちょっとだらしない奴だけど、根は優しいみたいだしいい奴っぽい。
と、ルイズは誠への印象を変え、生首を見る目に哀れみも含まれるようになった。

本当のところはだいぶ違うのだが、ルイズに知る由は無い。

「……でも、何でマコトは死んじゃったの? せっかく恋人同士に戻れたのに」
「……西園寺さんです。狂言妊娠がバレそうになって、誠君を……」
そこまで話してから、言葉はその先の出来事を話すべきか悩んだ。
誠を殺したのは西園寺世界だ。包丁で誠を滅多刺しにした、悪魔のような女。
だが、今の言葉は、誠の死体に自分がした事を客観的に見る事ができる。
(私は、誠君の首を切断して……そして、西園寺さんに復讐をした……)
話して、ルイズに嫌われたら、どうしよう。
考えるほど、胸が苦しくなる。
いっそ早々に解除薬を飲んで狂気に沈む事で今の感情から逃れたいほどに。
「……コトノハ。話したくない事があったら、話さなくていいよ」
「でも、私……ルイズさんの使い魔ですし……」
「まだ仮の使い魔よ。薬の力で根掘り葉掘り過去を聞きだすなんて、ちょっとね。
 だから、少しでも話したくない事は話さないで。いつか自分の意思で話せる日まで」
「……はい」
そんな日が、来るのだろうか?
きっと来ない。
でも。
来たら、いいな。


夜も更けた頃、解除薬を持ったモンモランシーがルイズ達の部屋にやって来た。
「これさえ飲めば惚れ薬の効果は消えるけど、念のため言っておくわね。
 彼女が惚れ薬を飲んだのは事故であって、私も解除薬作りに協力したんだから、
 私を恨んだりは絶対にしないでよね。それじゃ私はこれで、さよーならー」
早口にまくし立て、解除薬の入ったビンを机に置くと一目散に逃げ出すモンモランシー。
そんなに怯えなくても、と呆れながら、ルイズは解除薬を見る。
これを、言葉が飲んだら、もうさっきみたいな他愛の無いお喋りもできないだろう。
楽しい時間は終わってしまう。
でも、言ったから。
言ってしまったから。

『薬の効果が切れて、またコトノハが狂気に呑み込まれても、私は絶対見捨てない。
 そう、自分の使い魔を見捨てるメイジなんて貴族失格だもの。
 私の使い魔は狂気に呑み込まれたコトノハじゃない。
 薬で仮初の正気を取り戻したコトノハでもない。
 私がまだ見た事もない本物のコトノハが私の使い魔よ』

自分に嘘をつきたくない、誤魔化したくない。
あれこそが正真正銘自分の気持ち。本物の、真実の。
だから。
「コトノハ。私の事、あんたの事、マコトの事、色んな事……。
 マコトが死んでるって事実、アンドバリの指輪の力、色々、本当に色々あるけどさ。
 やっぱり、コトノハはこの薬を飲むべきだと思う」
「でも」
「この薬を飲んでも、私はあんたを嫌いにはならないから。ね?」
「でもっ」
解除薬を勧めるルイズに対し、言葉は強い口調で返す。
「でもやっぱり、私は、この薬を飲むべきじゃないと思います」
「……どうして?」
「きっと迷惑をかけます。アンドバリの指輪という物があるって、知ってしまった。
 だから薬を飲んで元に戻った私は、指輪を探したがるに違いありません。
 もしかしたらルイズさんを裏切り、傷つけるような事を……してしまうかも……。
 私は、そんなの、イヤです。ルイズさんをこんなにも好きでいるのに、
 今のこの気持ちが無くなってしまって、ルイズさんを苦しめてしまうなんて」
うつむいた、彼女の頬を伝い落ちる涙。
不安に、震える瞳の色は濡れて黒くきらめいている。


「でも、いつか終わっちゃう」
ルイズが言う。
「このままの方が、いいとは、私も思うけど、でも、薬の効果はいつか切れる。
 私ね、思うの。薬を切れるのを待つっていうのは、後ろ向きな考えだって。
 だからそれを受け入れてしまったら、薬の効果が切れた時、
 もう……前向きになれない気がする……多分だけれど。
 でも自分の意思で解除薬を飲めたなら……すぐには無理でも、いつか、きっと」
「ルイズさん……」
ああ、やっぱりダメだと、言葉は実感した。
ルイズの言葉は、言葉の心の深くまで染み込んで潤してくれる。
そんな言葉を、言葉は拒めない。
「キスしてください、ルイズさん。今の私に思い出をください。
 そうしたら、勇気を出して、薬を飲める気がします。
 いつか……いつかきっと、本当の私を取り戻せると……信じられます……」
言って、言葉は瞳を閉じた。
ルイズは、そうする事が当たり前というようなほど自然に、言葉の唇に向かった。

一度目のキスは、契約のため嫌々行った。
二度目のキスは、惚れ薬を飲んだ言葉がいきなりやってきた。
三度目のキスは、いつかきっとの願いを込めて、今。

柔らかい。
それだけじゃなくて、あたたかいが、広がる。
女同士なのに、全然嫌じゃない。
恋愛の意味での好きという感情はルイズには無かったけれど、
それとは違う意味での好きがあった。
ご主人様と使い魔としての好き? あるいは姉妹や友達のような存在としての好き?
よく、解らない。

ルイズが唇を離すと、言葉はまぶたを開け、頬を朱に、瞳から涙、唇は微笑みを。
「ありがとうございます。ルイズさんから、いっぱい勇気をもらいました」
「……うん」
「この思い出があるならきっと、ルイズさんを裏切ったり傷つけたりしないでいられる。
 解除薬を飲んでも、ルイズさんを好きのままでいられる。……だから、飲みますね」

瞳は愛と勇気に輝く黒曜石のような黒。

まぶたを閉じて、言葉は解除薬を一気に飲み干す。
魔法が解ける。
言葉から偽りの感情が、けれどとても大切なものが消えていく。
そして、言葉はまぶたを開き、真っ直ぐにルイズを見つめた。
「……おかげで、元に戻る事ができました。ありがとうございます」
「……。そう」
「……安心してください。私、ちゃんとルイズさんを好きなままでいますから」
「……。うん」
「でも、誠君にさみしい思いをさせてしまって、申し訳ないです」
そう言って言葉は、ルイズの横を、通り抜け、鞄に向かった。
微笑を浮かべながら言葉は誠の頭部を取り出し、愛しそうに抱きしめる。
「誠君、ごめんなさい。ヤキモチ焼いちゃいましたか?
 大丈夫です。私が一番好きなのは、誠君ですから。私は誠君の、彼女ですから」
その声を聞き、ルイズは決して振り向こうとせず、手をぎゅっと握り締めた。
手のひらに爪が食い込み、痛かったけれど、気にならない。
今、胸をしめつける痛みの方が、痛いから。
そしてそんなルイズに聞こえないよう注意しながら、言葉は誠の耳元でささやく。
「待っていてください。アンドバリの指輪、いつかきっと、見つけますから」

解除薬を飲む前、瞳は愛と勇気に輝く黒曜石のような黒だった。
今は?
瞳は愛と希望に淀んだ禍々しい暗雲の黒。
その色を、ルイズはしっかりと見てしまっていた。

第7話 禍々しき闇色の名は希望


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