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虚無の使い魔と煉獄の虚神-8-後

雪風は世界の全てを結ぶ魔術を手に入れる。
ゼロは世界の全てを解体する魔術を身につける。
混乱と困惑にかき乱されながら戻ったアルビオン王党派の城ニューカッスルで、ルイズは更に困惑させられる事になった。
子供達に朝食を食べさせ、必ず戻ってくるからと約束をしてテファとモード氏と共に帰ってきた城は、すでにもぬけのカラ。
死体を焼いて空に帰すアルビオン式の葬儀の跡があるだけで、子猫一匹残っていなかった。

後は「用事が有るので出かける」と書かれたタバサの無味乾燥な置手紙ぐらいか。
大砲や弾薬すら、ここには残っていない。

「どうやら、もう出陣しちゃったみたいね」
「おや、この穴はなんだい……?」
「なんでしょうねぇ……」

城の端で人が通れるほどの大穴を見つけたマチルダがティファニアと共に中を覗く。
どうやら城の外に向かっているようだ。

「こっ、これは!!」
「ギーシュ、何か知ってるのか?」
「僕には判る! これを掘ったのは間違いなく我が愛しの「もぐー!」ヴェルダンデー!!」

穴から飛び出してきた使い魔と感動の再会で抱き合うギーシュ。

「おお、そうかい。王党派の軍隊はここから武器を運び出して出陣したんだね。
 たくさん働かされたんだね。えっ? 宝石やミミズもたくさん貰ったから良い?
 キミはとっても優しいねヴェルダンデ! さすが僕の自慢の使い魔だよ!
 うん、うん。もう昨日の昼にはここを出たのかい。そりゃ大変だ。追いかけなくちゃ!」

見事な異種族間意思疎通でモグラの言葉を通訳。
ルイズ達はテファを連れて王党派生き残りの軍を追う事となる。
穴を抜けた所から、各々がレビテーションの魔法を使って浮遊。
先頭をエア・ダイバーのスピッツ・モードが逞しい背中にルイズとテファを乗せ、ギーシュがモグラを、キュルケがサイトをそれぞれ浮かせて、モード氏の脚に一列で掴まった。

「わはははははははははは! うわははははははははは!」

全裸魔術師(今回はテファのお願いによりパンツのみ着用)の後ろに5人が繋がった姿は明らかに変態。
アルビオンの空を、音速に迫る勢いで笑い声を響かせながら変態飛行するモード氏は実に気持ち良さそうだった。

「うわぁ、変態だぁ!」
「変態が空を飛んでいるぞー!」
「大砲だっ、大砲を用意しろっ! 撃ち落とせっ!」
「待てっ! アレは大使殿の一行ではないのか?」

あやうく撃墜されそうになりながら、野営していたアルビオン王軍に追いつくルイズ達。
最初は馬や牛も居ないので、大砲などを貴族達が引いていたため移動距離がそれほどでも無かったのが幸いした。

『最初は』と言うのは、意外なことにわずか300人にも満たなかった王軍の数が増えていたからだ。
レコン・キスタから離反の意を示して合流してきた貴族と兵隊、その数200ほど。
彼等が連れて来た馬や牛が、夜のうちに馬車や牛車に仕立てられて進軍速度を速めていた。
司令官に話があると告げ、陣幕に案内されるルイズ達。
30人程の貴族が集まった司令部で、彼等は今の状況を聞いた。

新兵器、あるいは伝説の虚無と噂された大勝を聞きつけて集まってきた離反貴族は、最初1000に至るほどだったらしい。
だが、王党派貴族達はそんな秘密兵器など存在しない事、この戦いは死にに行くだけという事を説明した。
尻馬に乗って甘い汁を吸おうとしていただけの貴族はコソコソと帰っていった。
それでも残ったのは、レコン・キスタの横暴に耐えかねていた者達だ。
自分の領地で勝手な振る舞いをされた貴族と、それに仕える忠誠心篤い兵士。
友人や家族に無体を働かれた人々や、畑を焼かれた人々が鍬の代わりに剣をとった民兵。
どんな方法を使ったのか、亜人を兵力として操るレコン・キスタには、それだけに敵も有ったのだ。
そんな決死の覚悟をした人々だから、彼等を説得するのは大変だった。
まずテファの血筋を証明するだけでも一苦労。
エルフが来たと恐れる人々の前でマチルダがサウスゴーダの名前を明かし、
ルイズとキュルケ、ついでにギーシュは家名に賭けて保証する。

結局4年前の事件の顛末を司令官である大臣が知っていたため、なんとか説明出来たのだが、
今度は進軍を止める様に説得するのを聞き入れない。

「生き残るのがそんなに悪い事なんですか? 死んだらもう何も出来ないのに!」
「だが死ぬ事で残るものがあるのですよ。我々が戦い、決して屈しなかったという事実が」

そもそも命よりも名誉を尊ぶような貴族でなければ、こんな絶望的な戦いに参加しなかったはずだ。

「もう決めたのだ。我々は王を弔うために敵と戦って果てるのだと」
「それは王様がもう居ないからだって言ってたじゃないですか!
 ここにそれを継げるティファニアが居ます。王党派だって王国だって再建できるじゃないですか!」

ティファニアの元勢力を結集して生きるために戦えと主張するサイト達と、
王と皇太子の弔い合戦として最後の一人になるまで戦うと主張する王党派残党。

「一矢報いて死ぬことより、戦って勝つ事を考える方が建設的なんじゃないのかって話じゃない!」
「元より勝ち目など無いのですよ、お嬢さん。
 貴女がたはティファニア殿下とサウスゴータ令嬢と共にここを離れてくだされ」

噛み合わない双方の理論はしかし、テファの一言によって動く。

「でも貴族の人って、領民を守るのがお仕事なんですよね?」
「そ、それは……」
「私はレコン・キスタの人がどういう方達なのか知りませんけど、貴方達がここで死んでしまったら、領民の人達はみんな、そのヒドイ人達に支配されてしまうんでしょう?
 皆さんが死んでしまったら、誰が悪い人達から皆を守ってくれるんですか?」

素朴すぎるティファニアの問いに、貴族達は誰も答えられなかった。
己の誇り以上に、それは守るべき貴族としての勤め。
恥を知り誇りを知る古い貴族だからこそ、彼等は自分達が生きる必要があるかもしれないと、もう一度自問を始めた。
誰かが戦おうかとこぼす。
死ぬためではなく、生きるための戦いをしようかと。
誰かが故郷の土地の名を口の端に登らせる。
自分の名と同じ地名。豊かで穏やかだった所領の名を、その土地の思い出と共に。

「我等は、己の不甲斐無さゆえに戴くべき王を失った」

大臣の、臨時の司令官の言葉。

「だが、守るべきものはまだ残されている。レコン・キスタなどに蹂躙されるわけにはいかぬ、大切な宝が」

髪も髭も真っ白になった、ルイズの父よりも年上な大臣は拳を握り唇を噛み締める。

「生きる、べきだろうか諸君? 不甲斐無い我々に、まだ出来る事はあるのだろうか諸君?
 生き恥を晒し、老醜を晒し、けれど民草のために一身を賭するべきだろうか諸君?
 新たな王の下、新たなアルビオンのために、もう一度生きるための戦いを成すべきだろうか?」

彼の悔恨、彼の言葉は本物だ。
己を恥じ、死をも望んだ気持ち、自分自身を情けなく思っている事に嘘偽りは無い。
けれどもう一度立ち上がるべきだと。
忘れかけていた守るべき人々のために、死に向かって突き進むのではなく、
生きて立ち向かうべきなのだと、そう思いなおしかけていた。
じっと待つ大臣。
彼に言葉を返したのは、意外な人物―――マチルダ・オブ・サウスゴータだった。

「死ぬのは簡単なのさ大臣。反対に生きるのはその何倍も難しい。
 生きて理不尽な今を変えようって思うならその何十倍もね。
 だから生きるんだよ。
 アンタ達は、この王国を守るためにあたし達を殺そうとしたんだろう?
 だったら今度はこの国を守るために命を賭けるべきに決まってるじゃないか。
 わたし達が必死に生きてるのに、アンタ達がここでカッコ良く楽に死のうなんて、そんな事許しゃしないからね」

じっと、本物の憎しみを込めて、マチルダの視線が大臣を射抜く。
蓮っ葉な言葉の端々に、彼女が重ねてきた苦労が滲んでいるようだ。
本当なら貴族として、深窓の令嬢として、なに不自由無く暮らしていたはずのマチルダ。
その彼女をティファニア共々殺そうとしてまで存続したアルビオン王国の罪を認めるならば、
今がその罪を贖う時だと大臣は悟る。
命を捨てるのではなく、命を賭ける事によって。

「すまぬ。そして礼を言わせてくれ、マチルダ・オブ・サウスゴータ殿」

深々と頭を下げる大臣。
軍議の場にざわめきが起こり、そして1人の貴族が立ち上がって頭を下げた。
1人、また1人と立ち上がり、それにならう。
それは生きる事を決めた男達の決意表明でもある。
やがて、その場に居た全員が、マチルダに向かって帽子を脱いで頭を下げてみせたのだった。

こうして、サイト達の説得は成功した。
だが、困難は終わったわけでは無い。
事態の変化を告げたのは見回りの兵士。
血相を変えた兵士が告げたのは、周囲に奇妙な濃い霧が発生している事だった。

「……これはいったい?」

陣幕の外に出て、内陸方向から迫る濃霧に首を捻る大臣。
短めに刈ったヒゲを撫でながら、この土地でこんな霧を見るのは始めてだと言う。
ここはアルビオンの外周からそれほど離れていないため、風も強くそうそう濃い霧は発生しないのだと。

「大変ですぞ司令官殿! あの霧の中から、続々とレコン・キスタの兵が!!」

報告に来たのはカラスを使い魔にしている風属性のメイジ。
他にも何名かのメイジが、その怪現象を確認していた。

「何も無い空間に現われた『門』から、溢れるように兵士が吐き出されております」
「あの向こうにちらりと見えた城、あれは間違い無くロンディニウムのハヴィランド宮殿!
 我等が王城にして、今はにっくき反乱軍の首魁が占拠する城に間違いありません!!」
「馬鹿な!? ならばやつらは空間を繋げたと言うのか?」
「そんな魔法など聞いた事も無い……」
「いや、先日グレン殿が使われたあの魔術と同じなのではないのか!?」

口々に騒ぐメイジ達の言葉に、サイト達は思い当たる。
空間を繋ぐ門を作り出す魔術は、ワルドと戦った時に現われた女魔術師が使えたはずだ。

「……確か、宣名大系だったっけ?」
「ふむ、宣名魔導師なら龍門を生み出す魔術を使えましょう。
 ならばこの霧は、サイト殿に門を破壊されないための防備でしょうな」

こちらの世界の魔術を使って霧を発生させ、それに隠して異世界の魔術を発動させる。
たった一人の悪鬼に対してあまりに慎重な、けれど合理的な方法に感心するモード氏。
サイトは手の平に拳を叩きつけ、苛立ったように叫んだ。

「だったら俺が行ってその龍門とか言うのをブッ壊してきてやる!」
「待ちなさいよサイト。あの、今展開している敵はどれぐらいですか?」
「およそ4万と言った所ですよ大使殿。今の様子だと、その倍程度まで増えるかもしれませんな」

部下に命じて敵軍を調べさせていた将軍の1人が答える。
生きようと、そう決めた矢先にこの敵襲だ。
動揺を見せるような無様はしていないが、内心は穏やかではなかろう。

「聞いたでしょ、サイト。あんた一人で突撃して門までたどり着ける数じゃないし、今更門を壊しても手遅れよ」
「じゃあ、どうすりゃ良いんだよ!」
「落ち着きたまえサイト。なにも君だけで戦っているワケでは無いんだ。
 ほら、将軍達もこうして話し合っているんだから……」
「こうなれば後退してもう一度篭城するしかありませんな」
「いや、篭城した所で援軍が無いのだから先延ばしでしか無い。
 ならばバラバラに逃げて生き残った者が潜伏し、再起を図るべきだ」
「そんな方法で逃げられる敵兵の数ではありませんぞ! 後ろから撃たれて死ぬのがオチだ!」
「いや、逆に突撃してあの濃霧の中に飛び込めばあるいは……」

軍議はグダグタだった。
そもそも500対4万だか8万という時点でマトモな戦術など始めから無い。
それ以上にレコン・キスタの用兵は無茶苦茶だった。
普通万単位の兵隊を動かすとなれば食料や武器を運ぶだけでも大仕事だし、その動きを察知できる。
ロンディニウムからこの大陸の端まで来るのに日数もかかるはずだ。
そんな常識的な戦いなら、逃げるなりどこかに誘い込むなり考える余裕もあるが、全軍を一気に空間転送などされては太刀打ち出来なくて当然だった。
しかも、転送されたのは兵隊だけに留まらない。
霧を割って現われる戦艦が4隻。
こちらは門からではなく、それぞれが船ごと空間転移してきたと、監視していたメイジが報告している。
そこから飛び立つ竜騎士がそれぞれの船から6騎。合わせて24騎も飛び立っていた。
圧倒的な、絶望的な、戦力差だ。
そんな中で、マチルダは必死に頭を回転させていた。

この中で一番世慣れていて、一番自軍の戦力を理解しているのが自分だという確信があった。
ティファニアを逃がすにしろ戦うにしろ、彼女の保護者である自分が頑張らねばという矜持もある。
それに、彼等に生きろと言ったのだ。こんな所でいきなり死なれては困る。

「一つだけ、策がある。アンタ達、乗るかい?」

そして、彼女はゆっくりと自分の作戦を口に出し―――結局、全員がその策に賭ける事になった。

陣地を構築し隊列を組み始めたレコン・キスタの将兵8万5千。
彼等全員と戦って勝つなどそもそも不可能な事だ。
ならば、その戦列が完成するまえに突撃して中央突破。
敵の城へと突入して転移の門を破壊すれば、手薄な敵本陣に直接戦いを挑める。
戦う相手は前方の数千人だけ……とは言っても、それだけで十分絶望的な戦力差だが。
それでも、攻め込まれる事を想定していないであろうハヴィランド宮殿に飛び込めば、土地勘のある自分たちなら逃げるのも容易。
その前提で、王党派は動いた。
ひたすら迅速に、敵軍が陣形を完成させる前が勝負。
万単位の敵に対してこちらは百単位。速度で立ち向かえばまだ分があると言える。
そうして、圧倒的早さを求める奇妙な縦列楔形突撃陣形が構築された。

先陣を切るのは土メイジ達が生み出す大型のゴーレム。
サイトの発案によって四本足で造られたゴーレムは、巨大なサイのような姿になっている。
中央にはマチルダの生み出した一際大きなゴーレムがそびえ立ち、サウスゴータ太守の血筋の魔力を貴族達に見せ付けていた。

「全軍、突撃イィィィ!!」
「アルビオン万歳!」
「我等の誇りを見せつけよ!」

司令官の号令一下、7体のゴーレムを先頭に500の王党派貴族達が走り出した。
隊列中央には『錬金』で全体を鋼鉄に変えた馬車が走り、その周囲を若く戦闘に馴れた貴族達が乗騎して守る。
中に居るのはティファニアとルイズ、それに二人の護衛としてのキュルケの三人。
始祖のオルゴールを用意し、二人の指には風のルビーと水のルビーが着けられ、呪文を唱える準備は揃っていた。
マチルダは自分の生み出したゴーレムの背に、サイトとギーシュはその後ろで先陣となって馬を駆る。
もちろん、馬になど乗れないサイトはギーシュの後ろでその腰につかまって、だが。

「敵襲っ! 敵襲ぅぅぅ!」
「ばっ、馬鹿な早すぎ――うわぁぁぁぁ!」

数の多さを傘に相手を見くびって油断していたレコン・キスタは混乱した。
逃げ出す事はあっても突撃など、ましてこのような整然とした突撃などして来るとは思ってもいなかったのだ。
おかげで弓矢や銃が放たれるのが一拍遅れた事は王党派にとって僥倖だったと言えよう。
巨大な質量兵器であるゴーレムの突進は深々と敵陣に突き刺さり、同士討ちを恐れた兵士達の飛び道具を牽制できたのだから。
だが、命中率の高い魔法による攻撃までは手控えてくれない。
質量を伴った土系統の、あるいは爆発による破壊をもたらす火系統の魔法を何発も打ち込まれ、一体また一体とゴーレムが破壊されていった。

「あぶねぇ!!」

ついに中央を疾駆していたマチルダのゴーレムも破壊される。
砕けた土くれから投げ出された彼女を抱きとめたのは、ギーシュの後ろから飛び上がったサイトだ。

「ギーシュ、この人をルイズ達の所へ!」
「ああ、任せたまえ!」

そのままギーシュのワルキューレにマチルダをあずけて、サイトは駆け出した。

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

デルフリンガーを振りかざしてゴーレムだった土塊を跳び越し、視界を埋め尽くす兵士へと殴りこむ。
ガンダールヴのルーンは輝きを放ち、サイトの中には凶暴で力強い波動が溢れ始めていた。

「ふははははははははははははは! ふあっはあはははははははははははははは!」

同時に突撃するのは全裸飛行奇スピッツ・モード。
パンツすら脱いだ完全体の錬金大系魔導師が、上空からトンボ返りで敵軍の中に突っ込んだ。
触れた対象を切断するように設定された禿頭の魔導師の体表面が、完全武装の兵士達を鎧ごと切断する。
次々と敵を切り裂いて、再び上空へと飛び上がった。
あまりの攻撃力と変態に足並みを乱すレコン・キスタ兵士達。
その中に飛び込んだサイトが、数人の兵士をまとめて蹴り飛ばす。

「逃げるヤツは追わねぇ! 死にたいヤツだけかかってきやがれ!」
「おうおうおう、遠からん者は音に聞けぇ! 近くばよって目にも見ろい!
 俺の相棒はガンダールヴ! 伝説をその身で知りたい命知らずには冥土の土産をくれてやるぜぃ!!」

嵐のような剣だった。
周囲を押し包むように向かっていった兵士が、まるで人形のように弾き飛ばされる。
熟練の戦士を当たるを幸いとなぎ倒し、その上で馬で駆ける仲間と同じ速度で走るのだ。

「ガンダールヴ!?」「伝説の?」「始祖の左手!」「無敵の盾?」

恐怖が流言となって伝播する。
人が多ければ多いほど、生み出された恐れは大きく増幅されるのは必定。
ましてやそこが戦場ならば余計に。
天には火竜以上のスピードで空飛ぶ変態。
地には馬よりも早い伝説の使い魔。
怯える平民を指揮する貴族達が馬上から魔法を放つが、殆どをデルフリンガーによって吸い込まれた。
何発かは死角から打ち込む事に成功するが、それは王党派貴族のスペルによって阻まれてサイトにまで届かない。
サイトとモード。
たった二人で百以上の兵士を倒す戦士に、恐怖にかられたレコン・キスタと、先陣の剣を援護する王党派、両軍の戦力が集中し始めた。

「ふははははははははは! 惜しいっ! 実に惜しいっ!
 お互いの立場さえ違わねば、空を飛ぶ者同士が戦う必要など無かったでしょうに!!」

集中しはじめる竜騎士の攻撃をたくみに回避し、手痛い反撃を加えるモード。
嘆きつつも、その羽の切れ味は変わらない。
天下無双を謳われたアルビオンの竜騎士が、翼を切り裂かれ胴を薙がれて次々と地に落ちてゆく。

「な、なんだよコイツは!?」
「ゴーレムだなぁ。こりゃあ剣士にゃあ荷が重いぜ相棒」

一方、サイトの前に立ち塞がったのは巨大な土人形。
その手には別のメイジが錬金したのか、巨大なハンマーが握られていた。
振り下ろされる鉄槌。
サイトは素早い動きでそれをかわすが、味方の1人が馬もろとも叩き潰される。
怒りをバネに反撃するサイトだったが、剣で殴ったぐらいでダメージを与えられるような敵ではない。
切り裂かれたはずのゴーレムの脚は、数瞬の後には元通りになっている。

「くそっ、どうすりゃ……」

焦るサイト。
その目の前で、ゴーレムが何かに躓いたようにバランスを崩した。

「もぐー!」
「ナイスだよボクの可愛いヴェルダンデ!」

歓声をあげるギーシュ。
それは敵の足元に穴を掘ったジャイアントモールの手柄だった。
瞬間、ゴーレムの肩にメイジを見つけたサイトの腕が動く。

「デルフリンガーミサイル・改っ!!」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! またかよ相棒うぅぅぅぅぅ!?」

柄の方から一直線に飛んだデルフリンガーがゴーレム使いの頭と激突。
そのまま落下するデルフとメイジ。土に戻って崩れるゴーレム。
その巨大な手が落とした巨大なハンマーを、サイトはその手に掴んだ。
ガンダールヴはあらゆる武器を使いこなす。
本来なら、平和な日本で暮らしていたサイトには大剣のデルフでさえ手に余る重さのはずだ。
それを振れるのなら、より大きなものでも可能ではないのか?
可能だ、という自信がサイトにはあった。
自分の背後にはルイズとテファという二人の虚無の担い手。
その彼女達を守るためなら、多少の無茶は道理を蹴り飛ばしてども通す。
それが虚無の使い魔の使命なのだから。

「う…………おおおおおおおおおおおおおお―――」

歌うように唱和する、二人分の『虚無』のルーンがサイトに普段以上の力を与えた。
ゴーレムサイズの、長さ20メイル、重さは数トンに及ぶであろう鉄槌が持ち上がる。
そのまま竜巻のように高速回転するサイトの身体。
巻き込まれた兵士が次々と弾き飛ばされる。

「ばっ、ばけものだあぁぁぁ!」
「伝説だ! ガンダールヴだ! 勝てるワケ無いっ!」

その光景は、士気崩壊しかかっていたレコン・キスタ兵士達を恐慌に陥れるのに十分なものだ。
サイト達を叩くべく新たに生み出されていたゴーレムが2体、あまりの光景に竦んだ瞬間。

「―――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおりゃあぁぁぁ!!」

2体のゴーレムの真ん中へ向けて投げられるハンマー。
回転しながら二つの岩の胴体を砕いたハンマーは、勢い余ってそのまま数十メイルに渡って軍馬も兵士も関係無しに牽き潰す。

「ギイィィィシュ!」
「任せろサイト!」

地面に突き刺さっていたデルフリンガーを引き抜きながら叫ぶサイトに以心伝心でギーシュが答えた。
ありったけの精神力を込めての『錬金』が、地面から鋼鉄の塊を生み出してゆく。
それは長大な槍。
長さ30メイルに及ぼうかという、美しい薔薇の装飾がされた銀色に輝くランスだった。
その柄に、サイトの五指がミシミシと音を立てて食い込む。
左手に剣、右手に槍。
まさに伝説のガンダールヴの姿そのままである。

「貫けえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

更に強く強く強く光り輝く左手のルーン。
渾身の力で放たれた巨大な槍は一直線に敵陣を突き破り、霧を引き裂いて『門』の側まで届く。

「進めっ! ガンダールヴ殿に遅れるなあぁぁ!」

喉も裂けよとばかりに大臣が叫んだ。
雪崩もかくやという勢いで前進、否、突進する王党派の貴族達。
馬上の者は鞭を入れ、牛車の者は暴走覚悟で、徒歩の貴族は供にもフライの魔法をかけて。
今この瞬間こそ正念場。
精神力も尽きよとばかりに乱れ飛ぶ炎と風と氷と水と土と雷。
8万5千の大軍を中央から切り裂いて、一直線に『門』へと向けてなだれ込む。
そんな彼等に向かって、もはや敵も味方も関係ないとばかりに砲弾がふりそそいだ。
4隻の軍艦が、自軍を巻き込んでの砲撃を開始したのだ。
次々に吹き飛ばされ、肉片となる地上の兵士達。
敵味方の区別無く風のメイジは風の障壁を張り、水のメイジは水の膜を作り出すが、それとて儚い抵抗でしかない。

「馬鹿な!? 止めろ、止め―――」

レコン・キスタの指揮官がまた1人砲弾の直撃を受けて消し飛んだ。
その様子を、怒りをもって見つめる少女が二人。
決して平坦では無い大地を、鞭を巧みに操って馬車を疾駆させるキュルケに守られた少女二人。
鋼鉄の馬車の車中、ルイズとティファニアは身を乗り出して呪文を唱えていた。

「「ジェラ・イサ・ウンジュー・ハガル・ベオークン・イル……!」」

唱和するそれは誰も聞いた事の無い、けれど本能的な敬意と畏怖を呼び起こさせる呪文。

「「エクスプロージョン!!」」

放たれる魔力と生み出される光。
右から迫っていた二隻と左から迫っていた二隻を、ルイズとテファがそれぞれ生み出した光が飲み込んだ。
それは抵抗不可能な破壊。純粋にして絶対の爆発。
瞬時にして風石と砲弾と火薬、そして帆布を失った軍艦は、成す術も無く地上に不時着する。

「な、なんだあの光は!」
「まるで太陽が3つになったみてぇな……」

怯えるレコン・キスタ将兵の上に降ってくるのは、アルビオン王党派の歓声だ。

「虚無の魔法だ!」
「伝説の復活だ!」
「女王陛下万歳! アルビオン王家万歳!」

叫びと共に、王党派残存兵士達は『門』へと駆け込んだ。
24騎の竜騎士を全滅させたモードもまた、門の中へと滑り込む。
それを確認して、サイトは両手から武器を手放した。
瞬間、魔炎となって燃え尽きる空間転移の『門』。
残されたレコン・キスタ将兵は千人近い兵士と4隻の軍艦、それに退路まで失ったまま、
ただ呆然とするしか無く、敵軍の消えた戦場に立ち尽くしていた。

満身創痍。
けれど奇跡的に致命傷は無くハヴィランド宮殿へとたどり着いたサイト達。
王軍もボロボロではあったが、400人近くが生きたまま門をくぐる事に成功していた。
しかし戦いはそこで終わるわけではない。
襲い掛かってきたのは本拠地の防御として残されていた死者の軍団だった。
宮殿前広場に布陣した、服装も年齢性別もバラバラな魔導師達がサイトを襲う。
雷撃、火炎、爆発、熱砂、エネルギー弾。
飛んで来る魔法をデルフリンガーで吸収し、疾風の速さで断ち切るが、敵は死んでもまた甦る。

「ちくしょう、キリがねぇ」
「娘っ子、嬢ちゃん、解呪だ! 虚無の魔法を使え!」
「はいっ、デルフさん!」
「わ、わかったわ!」

馬車の中でオルゴールを開き、同時にルーンを唱え始める二人。
その間にも敵の魔導師は殺到してくる。
吸い込む事が出来ない操作された飛来する剣を受け、疾風の速さで火炎を操る魔導師を斬る。
数人のメイジが協力して敵を倒した血路を走り、また1人刻印魔導師を殴り倒す。
馬車の側に空間転移して現われた魔導師に落ちていたナイフを拾って投げつけ、怯んだ瞬間に駆け戻り、間合いを詰めて切り掛かる。
本当にキリが無い。
相手の数は多く、不死身で、しかも一人一人が強力だ。
それでも、サイトはルイズ達の詠唱が終わるまで止まるつもりなど無かった。

「なんとか、もたせられる……か?」
「いいや相棒。そう簡単にはいかねぇみたいだぜ?」

空間がゆらぎ、大気の中から染み出すように新たな敵が現れる。
立ち塞がるのは半透明の人間に似た50メイルを超える巨体。
因果大系の高位魔導師フィリップ・エリゴルが大気を固めて作り出した因果巨兵は、メイジ達の魔法をやすやすと弾き返して迫って来た。

「まだだっ! 僕はまだやれるっ!!」
「そうよっ! ここまで来て負けるなんて、ツェルプストーの家名が泣くわよ!」
「ああまったくだね! 死人になんか殺されてたまるもんか!」

ギーシュが、キュルケが、マチルダが、最後の一滴まで精神力を振り絞って魔法を放つ。
それでも、半透明の巨兵を倒す事はできなかった。

「あっはっはっはっ! 無駄さ無駄さ! 僕の百手巨人四十号に、そんな豆鉄砲が通用するもんか!」

無暗と快活に笑う『百手巨人』フィリップを前に、ギリリと奥歯を鳴らすサイト。
相手が大系魔導師ならデルフを手放せばその魔法効果を消滅させられる。
けれど無数の魔弾だけでなく、操作された岩や武器が飛び交うこの場所でガンダールヴの力を消すのは危険すぎた。
『大気泳者』スピッツ・モードは先程から空を飛ぶ魔導師との戦いに集中していて援護は望めない。
ギーシュ達のみならず王党派のメイジ達も、もうほとんどが精神力を枯渇させていた。
ルイズ達が呪文を完成させるのにもまだ少し時間がかかるだろう。

「やっぱ、俺が守らなきゃならないって事か……」
「ああ、そうだぜ相棒。
 虚無の担い手を守る事、それだけがガンダールヴに与えられた仕事だ。
 お前さんも俺と同じなのさ。ただ一つの目的のために鍛えられた、一振りの剣なのさ」
「はっ、そりゃ簡単でいいな。ならあのヤロウはこの手で―――」

凶暴な野獣の笑みでサイトは笑う。
ルイズ達の詠唱を背に、巨大な敵を前に、サイトは不退転の決意で立ち塞がった。
湧き上がる戦意。燃え上がる闘志。

「―――ブッ倒す!」

純粋な、氷のような殺意。
切り掛かる。弾き返される。
殺意を高める。
打ち掛かる。反撃を辛くも回避する。更に突撃。
どこまでも殺意をたかめる。

「はーっはっ! 無駄だよ小僧!
 こんな貧相な魔法世界の、その魔法すら使えないようなヤツが僕に刃向かう事すら愚かしい。
 さっさと諦めてゴミはゴミらしく踏み潰されるのがいいさ!」
「言ってろ馬鹿」

回避。攻撃。回避。攻撃。回避。攻撃。攻撃。回避。攻撃。攻撃。攻撃。回避攻撃撃撃撃撃!!
サイトの腕が、脚が、人体の限界を軽々と超えて奔る。
一瞬に一撃の打ち込みが二度の打ち込みになり、三連撃に四連打に五連斬に。

「無駄だ! 無駄だと言っているのが――」

止まらない。止められない。
他の魔導師から放たれる妨害の魔術を、軽々とデルフリンガーによって吸収しながら、サイトは雷光のように剣を揮い続ける。
フィリップは気が付いているだろうか。嘲笑していたつもりの自分の声に、あきらかな怯えが混じっている事に。
倒せ殺せ守れ殺せ倒せ守れ守れ倒せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ―――
震える魂のその果てに、サイトの心はある一点を突破した。
あまりに激しく震えすぎた心はその震動を停止して、ガンダールヴの力が一瞬だけ停止した。
替わりに働くのは、サイトが生まれ持った世界の法則。
すなわち―――地獄の『悪鬼』に宿る魔法破壊の力である。

「な―――んだとぉ!?」

瞬間、あらゆる魔法が燃え上がった。

「ひいぃぃぃぃぃ!」
「悪鬼……沈黙する悪鬼だあぁぁぁ!?」

犯罪者の心の中に刻まれていた恐怖が掘り起こされる。
明滅するガンダールヴのルーン。
断続的に破壊され、間炎を吹き上げる魔法たちの中を、サイトは神速度で走り、敵を切り裂く。
不死であるはずの魔導師達は逃げ惑い、中には空間転移に失敗して自滅する者までいる。

「ひ……ひ……何だ! 何なんだお前は!?
 『鬼火』のような身のこなし! 『沈黙』のような魔法消去!
 寄るなっ! 僕に近寄るな! 忌まわしい殺し屋! スローターデーモン!!」

腰を抜かしてみっともなく這いつくばったフィリップが尻で地面を擦って後ずさる。
百手巨人四十号など、とうの昔に燃え尽きていた。

「違うな。俺は、そんな悪鬼だとか戦鬼だとか呼ばれるようなヤツじゃあない」

一歩、また一歩とフィリップに近づきながら、サイトは静かに言う。

「何だと? ならばお前は何者だと言うんだ!?」
「俺は―――虚無<ゼロ>の使い魔だ」

それがサイトの得た答え。
自分が何者であるかをしっかりと胸に刻んだ少年の歩みは、揺ぎ無く力強い。
目に涙を浮かべ、小刻みに震えて、誇りも力も無くして怯える因果魔導師。
その横をサイトはただ黙って通り過ぎて行った。

「えっ?」

呆然として振り返るフィリップ・エリゴル。
次の瞬間、彼は怒りに顔を歪める。
あの小僧は自分を無視したのだ。因果世界において、誰もが優秀と認め褒めそ讃えた自分を。
許せない。許せない。許せないから、その背中を魔法で狙う。
悪鬼といえど、視界の外から放たれた魔法までは消去できないのだ。
醜悪な笑みを浮かべてサイトの背中へ向かって魔法を放とうとした瞬間。

「「ディスペル・マジック!」」

完成した虚無の魔法が、フィリップを含む宮殿前広場に居た全ての魔導師を死者に戻していた。

かくして、再びハヴィランド宮殿に王党派の旗が掲げられる事になった。
貴族派首脳陣はその殆どが捕縛され、数日の内に処断される事になる。
本来なら絞首台は免れない所だが、新たに戴冠する女王の温情により、大半は財産没収の上で追放となる予定だ。
ただ1人。
会議室で、何者かに首を切断された姿で発見されたレコン・キスタ司令官、オリヴァー・クロムウェルを除いては。






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