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ウィザーズ・ルーン~雪風の翼~14

 夕食をとったタバサとヘイズは、ひとまず休息を取り、翌日に改めて翼人に対処することにした。
 タバサの精神力の消費度、I-ブレインの蓄積疲労など、今すぐにとは行かない現状ゆえである。
 村一番の村長の家――そのなかでさらに一番の部屋を借り受け、ヘイズは翼人に対する戦術を煮詰めていた。
「周辺の被害も考えると、荷電粒子砲でドカンとはいかねえしなあ」
『こんな森のど真ん中で撃ったら、それこそ災害クラスの影響は間違いないでしょう。今回は艦の出番はなさそうに思えます』
「だよなあ」
 ヘイズは「ったくめんどくせえ相手だな」とぼやきながら、ベッドに寝そべるタバサのほうを見た。
 タバサは精神力温存のため「ライト」の魔法も使わず――そもそも翻訳機付き眼鏡にある程度の暗視機能も付随しているが――黙々と本を読んでいた。
 ……八方塞りなんだよなあ……
 タバサの使う圧縮した空気、もしくは氷のつららの魔法は、地上での戦いでなら無類の強さを誇る。しかし空中を飛び回る標的相手には、すこぶる相性がよくない。
 ヘイズは破砕の領域を使おうとすれば、ダミーの杖のせいで両手がふさがってしまう。村人に見られる可能性も考えれば、先住の魔法と疑われるような下手は打てない。
 かといって銃を持てばダミーの杖が持てない為、破砕の領域が使えない。音源は足で行ってもよいのだが、地面が主に土である森の中では、必要最低限の音量が得られない。
「さーてと、どうしたもんかねえ……お?」
 ヘイズが何かに気付いたように、扉に目を向ける。タバサはというと、すでに本を閉じて杖を片手に携えている。
「誰だ」
 ヘイズが扉越しの相手に呼びかける。その問いに小さく怯えた声で、
「ぼ、ぼくです。ヨシアです……」という返答。ヘイズは「あー、あのウジウジしてた奴か」と呟き、
「それで何の用だ」
「少し……お話がありまして……」
「悪いが明日にしてくれ。こっちも翼人の対策は万全にしておきたいんだ。どれだけのシミュレーションを行ったかで、勝率ががらりと変わることもあるからな」
「そ、そのことなんですが……今すぐはなしておきたいんです」
 となにやら切羽詰った声。ヘイズが困惑して視線をおくると、タバサは頷いて返した。
 ヘイズは「やれやれ」と嘆息して扉を開けた。
 見るとヨシアは思いつめたような表情で、小刻みに肩を震わせている。どうもよほどに追い詰められているらしい。
「立ち話もなんだ。中に入れ」
 とヘイズがうながすと、ヨシアは一礼しておずおずといった感じで扉をくぐった。
「あの……翼人たちに危害を加えるのを……やめていただきたいのです……」
 ヨシアの訴えに、タバサは首を振る。
「お願いします! この通りですから」
 とヨシアはタバサの足元に跪いて、絞り出すような声で懇願する。しかしそのヨシアの必死の声も、
「仕事」
 というタバサの一言で、にべもなく却下された。
「じ、事情を! 事情を聞いてください! きっと分かってくれるはずだから!」
 タバサは無言で促した。
「翼人達は季節ごとに巣を作る木を替えるんです。今は春だから家族が増えて。だから幹の太いライカ欅を使うんです。彼らは巣って呼ぶけど、それはもう立派な家ですよ」
 とそこで一息置いて、タバサの表情をうかがった。タバサは相変わらず人形のように無表情で、何を考えているのか昨日今日会ったばかりの者には、到底うかがい知ることはできない。
 ヘイズは「続きを」と促した。
「翼人たちがあの辺りに住み始めたのは半年ほど前でした。別に俺たちはあの木を切らなくても生活できるんだ。ほかにたくさん生えてる木を切ればいい。
でもあの辺のライカ欅は高く売れそうだって、皆が言い出すものだから……皆がおまんまの食い上げだなんて言ってるのは、大嘘もいいところだ」
「それで邪魔な翼人を追い出そうってか? 翼人にとっちゃご愁傷様だな」
 ヘイズはそう感想を述べた。
「そうなんです。元々この辺りに住んでたのは翼人で……後からやってきて、勝手に土地の権利を主張し始めたのは、俺たち人間のほうです。俺たちには彼らから木を奪う権利なんてない!」
 とそこまで聞いてヘイズも、さすがに翼人に対する同情の気持ちも湧いてきたが、
「無理」というタバサの短い言葉。それに目をむくようにヨシアは、
「どうしてです!? 騎士様にはお情けというものはないのですか!」
「任務」とタバサは、ただ事情をそのまま伝えるのみ。
 納得がいかずタバサに詰め寄ろうとするヨシアに、ヘイズはため息をつきながら口を開いた。
「こっちにも事情があってな。そうほいほいと任務を放り出すことは出来ねえ。騎士ってのは案外面倒なもんでな。村の総意で取り消しを王宮まで届けてくれないかぎり、
勝手に任務を放棄したら、罰せられるのは確実だな。ついでに言えばオレらの立場的に言って、任務を放棄なんてしたら、タバサの首が転がることになるかも知れねえな」
 と脅しを掛けるように言い放った。ヨシアには可哀相だがイザベラの性格を鑑みて、任務失敗を言い訳にタバサを死刑か、それに近い刑罰に処するくらいは想像に難しくない。
 こちらも引くわけにはいかない。現実として翼人の屍が転がるか、タバサの首が転がるかという話なのだ。
 殺すとまでいかなくとも、森から追い出して、二度と戻ってこれなくするくらいは必要だろう。気の重い話だが、これもタバサを守る為。
 ヨシアはヘイズの言葉に、煮え切らないというように俯いて肩を震わせていた。
 どうしたもんかとヘイズが思考の海へと入り込みかけたその時、窓の外から透き通るような澄んだ女性の声が聞こえた。
「ヨシア」
 声のしたほうを向くと、そこには可憐な顔立ちをした一人の女性が、窓から顔を覗かせていた。
「お。なんかようなのか?」と女性に言葉を返そうとして、ヘイズはふと気付く。
 ……ここって二階だよな?
 増援の北花壇騎士なのか? と身を固くするが女性の背にある翼を見て、その考えを打ち払う。
 この顔はよく見ると、確か最後に姿を見せた……
「アイーシャ!? あの、ちょっと待って下さい、彼女は敵じゃない!」
 杖を構えたタバサを見て、ヨシアは慌てたようにアイーシャを庇った。
 アイーシャはヨシアの様子を見て、一瞬だけ表情を緩めると、タバサたちに向き直り用を告げた。
「私達に争う意思はありません。私はヨシアに会いに来たんです」

 アイーシャを部屋に迎え入れ、とりあえず空いている椅子に座らせると、早速話を聞くことにした。
 そして語られる二人の関係。人が翼人を罵るように、翼人も人を侮蔑していたこと。翼人達に争う意思はなく、もうすぐあの木から去ることにしたこと。
「そんな! あのライカ欅から離れたら大きな巣が張れないじゃないか!」
「話し合った結論だから……」
「俺が、俺が皆を説得して見せるから! そうしたら……」
「あなた達はすでに強力な戦士をよこした。そして私達は精霊の力を、争いごとなんかに使いたくない。これはもうしょうがないことなの」
 アイーシャは宥めるように言うと、そこでヘイズのほうをちらりと見た。
「貴方達は全く驚く様子を見せないんですね。翼人と人間がこのような会話をしているのを」
 陰りを含ませた表情のアイーシャ。ヘイズはゆっくりと口を開き、
「まあオレも羽の生えた人間と、半年くらいいっしょに過ごしてたしな。きっかけになった島じゃあ、右手が蟹のハサミになる奴とか、手の平から蛇が出る奴とかと生活してたし。
タバサの場合は仕事上、そういう奴と接触するのが多いだけの話だ」
 目を丸くしてヘイズを見る二人に「まあとにかく」、とヘイズは話を打ち切り、
「翼人側が勝手に退散してくれるなら、こちらとしてもありがたい。余計な血を流さずに済むしな。後は翼人が居なくなるのを確認して任務終了だ」
「そんな! お願いです! 先に翼人たちの住処を奪ったのは俺たちのほうなのに、そんなのはあんまりです。この任務を取り消すよう計らってください!」
 「いや、だからな」と説明しようとするヘイズを遮るようにして、
「無理」
 というタバサの短い、しかしヨシアにとってもっとも残酷な言葉が吐き出された。
 ヨシアの表情が一息のうちに苦悶に歪む。
「これだけ頼んでいるのに、どうしてダメなんだ! 任務のためなら何をしたっていいのか! 皆は翼人のことを翼の生えた悪魔って言うけど、なんだよ……悪魔とはアンタたちのことじゃないか!」
 ヘイズが止める間もなく、ヨシアはタバサの首に手を掛け、その身を押し倒した。
 「おいっ!?」というヘイズの制止も振り切って、ヨシアはその手に力を込め始める。
「君はまだ子供だから分からないんだ! 愛する人と離れ離れになることがどんなにつらいのか!」
 首を絞められているタバサの表情に変化はない。ただ茫洋とした瞳を、ヨシアに向け続けるだけ。
「待っててアイーシャ。この子を殺せば時間稼ぎは出来る。そこの便利屋は所詮補佐だから、一人で任務を遂行しようだなんて思わないはずだ」
 ヨシアの表情が狂気に染まる。アイーシャが緊迫した空気に耐え切れず、悲鳴を上げかけたその時、
「そいつはちょっと独りよがりが過ぎる……なッ! と」
 ヨシアの手首を極め、そのまま投げ飛ばしたヘイズはジャケットに仕込んだ銃を取り出し、
「お前とアイーシャが恋人同士であるように、オレとタバサも友人同士だ。それ以上わがままが過ぎると、強制的に動けなくなってもらわざるを得ねえな」
「ま、待ってください! 撃つなら私にしてください。ヨシアは私のためにやりすぎてしまっただけなんです」
 ヨシアとヘイズの間に身を割り込ませて、嘆願するような声音で言葉を紡ぐアイーシャ。
 そんなアイーシャの姿を見つめながら、「ぼ、ぼくは……」と呟き続けるヨシア。
 ……いや、殺すとこまではいかねえんだが……
 勝手に盛り上がっているところ悪いのだが、ヘイズとしては銃のグリップで昏倒させて縛っておく程度のつもりだったのだ。断じて殺すつもりはない。
 どうしようか、と困惑するヘイズを助けたのは、本を携えたタバサの姿。
「それで行く」
 タバサはそう呟き、本のページを皆に見えるよう開く。
 なんのことだという風に目を凝らすアイーシャとヨシアを尻目に、ヘイズはなるほどと納得した。
 タバサが開いたページにはこう書いてあった。
 ――呉越同舟。

 そして翌朝。
「よかったなハリー。どうやら出番があるぞ」
 眼下を見下ろしながら気の抜けた顔で呟くヘイズに、襟元の通信機から甲高い声で、
『よかったですねヘイズ、タバサ様にお願い事をされるとは。あとひとつ言っておきますが、呉越同舟は"仲の悪いもの同士が『一時的』に協力すること"です。
翼人と村人の協力が、『一時的』ではないことを祈っていますよ』
 今ヘイズはHunter Pigeonから垂らしたロープにしがみ付いている。Hunter Pigeonはもちろん偏光迷彩で隠れているが、ヘイズ自身もチョーカー型の偏光迷彩を使用している。
 そしてもう一つ、大戦中にほとんど使用されなかったという欠陥品のデバイス――情報制御により、使用者の周囲に映像を投影するデバイスを使用している。
 有名な魔法士の姿を投射して、敵兵の動揺を誘う搦め手的なデバイスだ。今回の投影に使うサンプルは、王都の竜騎士が乗る風竜。
 このデバイスは情報制御検知器が普及していたため、魔法士はおろか一般兵すらごまかせなかったというシロモノなのだが。
 しかしそれが検知器を持っていない村人相手ならば……
「り、竜!? 大変だ、竜が来たぞーー!!」

 村中が騒然となっていた。どこからか迷い込んだ竜が現れて、村の広場で大暴れしているのである。
 竜がその巨大な翼を振るうたび、ひとつまたひとつと建造物が崩壊していく。
 もはや翼人がどうのこうのと言える状況ではなかった。
 当然村人達が頼ったのは、花壇騎士として派遣されてきたタバサである。
「お願いします騎士様。なんとかしてあの竜を……って、あの便利屋の方は?」
 タバサは精神統一のためか、閉じていためをゆっくりと開き、
「彼はすでに領主に掛け合いに行っている。心配無用。後のことは任されたし」
 と厳かに謳い上げる。
「精神集中、乾坤一擲、疾風迅雷、見敵必殺、雪風魔法」
 勇ましい言葉に感嘆の言葉を上げていた村人たちは、謎の呪文を唱えだしたタバサを見て首をひねりながらも、さらに歓声を上げた。
 よくわからないけど、この騎士様ならやってくれる!
 タバサの四字熟語羅列は、村人達にそんな思いを抱かせた。
 広場に向かったタバサは、さっそく杖を構えて竜と対峙する。
「最強魔法! 氷柱大回転!」
 最強魔法!? え、でも大回転? 大回転って言ったぞあの騎士様。いや最強魔法だ、信じるしかない。などと村人達は困惑と感嘆の入り混じった声を上げる。
 タバサの唱えた"ウィンディ・アイシクル"の魔法により、氷のつららが一直線に竜を襲う。が竜はわずかにその身を翻し、攻撃を回避する。
 落胆の声を尻目に、竜がその翼を広げ、急降下する。タバサはすぐさま杖を振ってフライの魔法を発動。空中へと回避し、難を逃れる。
 村人達の「おおっ!」という歓声に、
「騎士とて飛ぶ。我こそは飛翔騎士」などと、もはや四字熟語に関係ない言葉を使ったりして。なんだかんだでノリノリのタバサである。
 翼が風を打ち、竜がその巨体を反転させ、またもやタバサの小柄な体を襲う。タバサも負けてはいない。上下左右、空中を自由自在に飛び回り、竜の体当たり攻撃をかわし続ける。
「騎士様! 反撃の魔法を! このままではやられてしまいます!」
 懸命に回避を繰り返すタバサに、サムが耐え切れなくなったように叫ぶ。
「今はフライを使用中。他の魔法は使用不可」
 フライを使用しながら、紙一重で攻撃を回避し続けるには、多大な精神集中が必要だ。
 さらにこの状態で他の魔法を使うことは、膨大な技術と精神力を必要とする。
 つまりタバサが回避行動に終始している限り、タバサに勝ち目はない。だが地上に降りれば、やられるのを待つばかりになる。
 村人達の心配は的中し、タバサはとうとう避けきれずに攻撃を受けて、紙切れのように地上に落下した。
「……不覚。蒙昧無知なはぐれと侮った。鎧袖一触の相手ではない」
 タバサの漏らす諦観の言葉に、村人達はそれぞれに絶望の表情を浮かべた。ガリアに名高き花壇騎士が太刀打ちできぬ相手に、どうすればいいというのか。
 さっきまでと比べて、随分と棒読みなセリフではあったが、村人達は皆一様に絶望に染まった様子で、誰一人そのことに気づくことはなかった。
「今からでは増援も間に合わない。もはやこれまで」と呟き、タバサはとさり、と小さな音を立てて気絶した。

 もはやこれまでか。不安と絶望に支配された村人達の中から、互いに怒号が飛び出し始めた瞬間、
「これは罰だよ! 翼人を追い出そうとした罰が当たったんだ。住むところを追い出そうとした報いなんだ!」
 ヨシアの叫びに村人達の視線が集まる。
「んだとコノヤロウ! それとこれとは話が別だろうが」
「別じゃないよ! 協力し合うことができていれば、今こんな竜くらい倒せるはずなんだ! 今からそれを証明してやる!」
 ヨシアがそう言いきると、茂みの中から一人の翼人の女性が現れた。アイーシャである。
 なんだか申し訳ないような、居心地のわるそうな表情をしている。
 サムが現れたアイーシャに文句を言おうとするのを遮るように、ヨシアが覚悟を決めた表情で、
「行こう! アイーシャ!」
 アイーシャはヨシアの言葉に頷き、ヨシアの体を抱えてゆっくりと竜の待つ空へと昇っていく。
「おいおい……あんなヒョロヒョロした飛び方じゃあ、何も出来ずにやられちまうだろ!」
 人一人を抱えている為か、よろけるように飛ぶアイーシャの姿を見て、青ざめた表情でサムが叫ぶ。
 やめさせようとサムがその手を伸ばしたのと、それは全くの同時であった。
 茂みから次々と翼人たちが羽ばたいた。一人や、二人ではない。それは十人ほどの集団で……
 ヨシアとアイーシャを守るように飛ぶ、十人の翼ある騎士団。おとぎ話で読んだ少年戦士と天使の物語。
 その華麗さは、まるで妖精の羽ばたきであった。その荘厳さは、まるで守護天使の飛翔であった。
 誰も彼もがその光景に視線を奪われ、誰も彼もがその心強さに心を奪われた。
「奴に一斉に矢を射掛けて! 動きを止めるんだ!」
 女性の翼人の凛々しさを感じさせる叫び。それは背の翼と相まって、まるで戦乙女の号令のように思えた。
 はっとしたように猟師達は、手に手に弓をとり矢を放つ。
 その瞬間――確かに村人と翼人の中に絆が芽生えていた。


 ……うおお!? ちょっと待て、死ぬ死ぬ死ぬ!
 張子の虎とはよく言ったもの。今のヘイズは幻像の中に潜んで、デバイスを操作しているだけで、しかも幻像に実体があるはずもなくヘイズの身を守るものは何もない。
 通信機で連絡を取り合い、機動はハリーに一任しているのだが、その最中に少々洒落にならない量の矢が射掛けられた。
 ヘイズは高速演算と破砕の領域を駆使し、安全な空間を確保して回避。
「そろそろ潮時かな……っと!」
 眼下を見ている限り、翼人と村人達に絆が芽生え始めている。これ以上あれこれする必要はないだろう。
 遅れて飛んでくる矢を後ろ向きに解体しながら、デバイスをロープにくくりつけて固定。
 あとは適当なタイミングまで耐えて、デバイスを先住魔法で破壊してもらうだけ。少々もったいないが、そこまで利便性のあるものでもなかったので心残りはない。
「……ってオイ、ハリー。これは洒落になってねえんだが」
 翼人達が唱えた呪文によって従えられた、千本をゆうに越える藁葺きの槍と千枚をゆうに越える落ち葉の短剣。
 ……エドと錬相手の時でも、ここまでの量は経験してねえ……
 ヘイズは必死の形相でロープを駆け上がる。自分の真下を藁が落ち葉が、唸り声を上げて通過していくという恐怖極まりない現実。
 しかもデバイスが甲高い悲鳴を上げながら、レンガを割るように粉砕されていくのだ。
 もし逃げ遅れていたらと思うと、ヘイズはぞっとして背中がじっとりとするのを感じた。
『お疲れ様でしたヘイズ。これでわだかまりは解けるでしょう。しかしヘイズ、今回もタダ働きでしたね』
「この世界で稼ごうとはあまり思えねえってのもあるけどな。イザベラが報酬を渡すようには見えねえし、タバサからたかろうとも思わねえよ」
 タラップから覗く広場では、村人達と翼人たちが抱き合って喜びを分かち合っている。
 ま、今回はいいか、と納得しヘイズは踵を返して操縦室へと向かった。
 これから村人と翼人は手を取り合っていくことになるだろう。わだかまりもあったりするかもしれないが、広場の中心にいるほほえましいカップルが何とかしてくれるに違いない。
 ヘイズは目下の悩みをどうしようかと、思考を切り替えた。
 ……増援なんてどうしようもねえよ。
 建前上ヘイズは領主に増援を掛け合うことになっているのだが、当然そんなものがいるはずもなく。
 さてその言い訳はどうしようかと、ヘイズは悩みに没頭することとなった。

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