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ゼロの侠者

『レコン・キスタ』の支配する敵地アルビオンに攻め込んだ、トリステイン・ゲルマニア連合軍。
だが、ある時突然、将兵のうち2万が反乱を起こし、アルビオン側につく。敵の数は併せて7万。
総司令官のド・ポワチエ将軍と、ゲルマニアのハルデンベルグ侯爵は反乱兵の手にかかり死亡。
敵地の中、決死の撤退戦が始まる。だが、『レコン・キスタ』に従わない民草も大勢ついてきた。
民草を間に挟み、行軍は遅々として進まない。

「気にくわねえな」
ロサイス郊外、トリステイン女王アンリエッタの陣営。そこに酒壜を引っさげて座っていた巨漢が、ぼそりと呟いた。
「殿(しんがり)で民草に敵を背負わせたまま先頭にいるのは、どうも居心地が悪い! 俺ァ殿に行くぜ」
「あんたはじっとしてなさい!」
立ち上がる巨漢を、少女が袖を掴んで止める。馬鹿馬鹿しいほど対照的な二人だった。

男は、年の頃は40歳ほど。身長2メイル近くはある偉丈夫で、腹は太いが全身物凄い筋肉に包まれ、毛むくじゃら。
団栗眼にヤマアラシのような髭、太い眉。豪傑を絵に描いたようだ。
少女は、年の頃16歳。身長が153サント。桃色がかったブロンドの長髪と鳶色の瞳を持つ、小柄で細身の小娘。
驚くほど美しいがまだ乳臭が抜けず、気位ばかりは高そう。お姫様を絵に描いたようだ。

「おおお、貴公が出陣してくれるのか! これは心強い!」
「盗賊退治からニューカッスルでの一戦、その後の戦いでも貴公の武勇は伝説的です!」
「まさに万人の敵、一世の虎臣! 『虚無』の使い魔、『ガンダールヴ』!」
「ミス・ルイズ・フランソワーズ! 貴女と使い魔殿がおられれば、陛下も安心ですな」
周囲の重臣たちが、一斉に男を褒め称える。
「よせやい。俺が強いのは生身の敵相手だぜ。強い妖術使い(メイジ)や艦隊にゃあ、敵わねえ。
 それにな、てめえら貴族やそこの女王様のために行くんじゃあねえ。
 背後で苦しんでる将兵や、民草どもを救いに行くのさ。なあ、ルイズよ」

こいつの強さは、嫌というほど知っている。粗暴でたまにポカミスもするが、戦いに出て負けたことはない。
7万の軍勢でも、こいつならなんとかしてくれそうだ。ルイズは、大博打打ちのここぞという時の顔をする。
「よしッ! あんたは殿よ! めいっぱい威圧して敵の足を滞らせなさい」
「ああ」
「でも、何があっても絶対にあんたから仕掛けんじゃないわよ!
 あんたは、たとえ百万の敵だろうと、ひとりで倒せると思い込んでる節があるからね!」
「ケッ、ほざきやがれ!」
巨漢は風竜を借り受け、矛を脇に挟んでまっしぐらに殿へ飛んで行く。その後を数騎が追う。

俺は乱世に生きてきた。
生まれた時から親の顔は知らねえ。女は行く先々、方々で作る。
誰が子を産もうが、死んじまおうが、こっちは流れていくから知ったこっちゃねえ。
何年停まろうが、家族のようなもんでしかねえ。死に別れを惜しむようなもんじゃねえんだ。
そう思ってきたがよ。

「なあ兄者たち。俺はまだ、生きているぜ。あの頃の歳になってよ」
あの小娘を守ろう。それが『侠』ってもんだ。

殿につくと、敵軍が迫ってくるのが眼前に見える。

3万……いや、すでに5万は超えてやがる。
反乱兵どもを併せて7万か。この地形ならなんとか防げるかな。

あの小娘が買ってきた長剣に太い長柄を付け、使い慣れた大矛のようにして携える。
こいつは口煩く喋るけったいな剣だが、流石に大人しくしてやがる。
「よお相棒。本気でやんのか? 7万対1騎をよお」
「ああ。そんなことぐれえ、わからねえか」
名乗りは……いいか。俺の武名は、天下に轟雷のごとく鳴り響いている。
俺の武勇で名乗ってやろう。民草や将兵にゃあ、指一本たりとも触れさせねえぞ。


「む! あの殿に侍る男は……なるほど! アンリエッタめ!」
追撃軍の指揮官、ホーキンス将軍が前線に出て来る。
「腹心をひとり殿におくことで、おのれは民を盾にしておらぬと言いたいのか!
 民の守護を第一義と示す事で、こちらの攻撃を封じるつもりかッ!
 天下に己の正義をひけらかしたいならそれもよかろう。
 ならばこちらは威で圧しまくり、その群れを崩し散らせるまでだ!!」

男が長い息を吸い終わり、敵を睨み据える。

む ん

巨漢が無言のまま『気』を放つと、それは烈風のように前方に噴き出し、敵を圧する。
魔法ではない。男の武威の気が、熱風となって発されたのだ。
「なんだこの圧! なんだこの熱は!」
ホーキンスたちは顔が突風に遭ったように凹み、吹き飛ばされそうになる。
男の周りの空気は、太陽が地上に出現したかと思わせるほどに、熱い。
「こ、これがたった一騎で万の敵を圧する武威の気というものか!!」

しかし、アルビオンの将兵は、怯みながらもじりじりと前へ進む。
「だが敵将よ! それだけの気をいつまで発し続けることができるという!?
 さらに怒涛のごとく押し寄せるアルビオンの精鋭軍を前に!」

撤退戦は辛い。後ろの将兵や民草が、ぼろぼろと潰走し始めた。
「おい相棒、この群れはもうすぐ崩れるぜ。ここは先を行く奴らと合流して」
「聞こえねえ。聞こえねえな」
大矛の穂先でデルフリンガーが呟く。それを男が制する。
「デル公。おめえは何者だ。武器が弱気な事を喋るな。
 俺ァ一介の侠者だ。てめえの居場所を見失うこたァねえ」


ホーキンスの指揮で、ついにアルビオン軍は男に襲い掛かる。
だが、近づく者は皆、彼の振るう大矛によって打ち砕かれ、両断され、脳漿や臓腑を撒き散らす。
風竜に跨る大男は、何百人を相手にしても、笑いながら次々と敵を斃していく。
魔法さえも、大矛の穂先が吸収してしまう。武威の烈風は吹き止まない。

「強い! やはりこの強さは尋常ではない!」
天下、戦、武名はおろか、主君すら無用のこの武。
すべてを捨てて、ただこの場に身命を置いたあの男の武は、べらぼうに強く清らかだ。

獲物を与えれば与えるだけ、彼は勢いづく。猛獣の檻を目一杯に拡げてやるようなものだ!

「敵が背を向けたぞ――っ」
「一気に突っ切れい!」
ホーキンスが命令を下したことを後悔し始めるが、勢いのついた軍勢は止まらない。
巨漢は再び気息を整え、満身に力を溜める。

どこの何者だろうと知ったこっちゃねえ。

なんぼの軍が相手だろうと関係ねえ。

天よ! ただ刮目せい!

われこそは天下無双、張飛益徳なるぞ!!


その日、7万の軍勢は、ただ一騎の豪傑の前に敗走した。

(完)

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