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気さくな王女-23

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「さあどうするの。選択肢は二つしかないからさっさと決めなさい。わたしと友達になるか、ここで人生を終えるか」
「……」
 シャルロットの眉間から親指一本分離したくらいの場所に疑問符が浮かび上がった。ように見えたけど気のせいだった。
 その不可解な物を見る顔つきを変えることなく自分の額に左手をあて、さらに右手をわたしの額に向かって伸ばし……。
「ちがう! 熱があるわけじゃない!」
 小首をかしげてわたしを見ている。意図と主旨をこれっぽっちも理解してはいない。
 体が栄養不足なのは知っていたけど、頭まで養分が枯渇していたとはね。噛み砕いて教えてやる必要がある。
「まずね。ここにお前がいるでしょ。それでわたしが」
 シャルロットの体が大きく跳ねた。わたしはババアがおもりになってくれたおかげでそれほどでもなかったけどやっぱり跳ねた。
 何かを打ち崩す音が聞こえ、天井からパラパラと埃が落ちてくる。部屋の揺れが未だおさまらない。
 何? 何かあったの? ……ま、どうでもいいや。先を続けましょ。

「ええと、わたしがいるでしょ。それでわたしの父上が」
 今度は打ち壊す音が部屋全体に響いた。この音量からいっても部屋全体ではなく城全体に響いている。
 わたしやシャルロットだけでなく、寝台や書き物机まで跳ねた。本が落ち、細工物が割れ、眼鏡立てから眼鏡が落ちかけてシャルロットが掬い上げた。

 外はきゅいきゅいきゅいきゅいと騒がしい。いったい何をしているんだか。
 さっきからわたしが話そうとするたびに邪魔をして。シルフィの馬鹿め、増えてはしゃいで浮かれて遊んでいやがるわね。
「コォラ馬鹿シルフィ、お前さっきから何をやっ……」
 壁に開いた穴の向こうに地面と水平に吹き飛ぶシルフィが見え、すぐに消えた。……本当に何をやっているの?
 シャルロットが穴に駆け寄り、わたしも慌ててそれに続いた。シャルロットの頭越しに見えたのはシルフィの群れと、その群れを相手に戦う一人の騎士。
「……騎士?」

 夜の闇と区別しがたいくらいに真っ黒けの重装備でガッチガチに身を固めた騎士が戦っている。
 でもおかしくない? なんというか……遠近感? 遠近感というか大きさ?
 シルフィは大きい。人間の時は部分部分が肥大化しているだけだったけど、竜に変身してしまえば全身が余すところなく大きい。
 そのシルフィ相手に剣を振るう騎士は、シルフィや城と比較すると……兜の先から靴の底まで二十五メイル弱。いや大きすぎるってば。
 ゴーレムに鎧兜を着せて剣を持たせればちょうどあのくらいのサイズになる。でもそんな動きじゃない。
 訓練された人間を上回る、猫の俊敏さでシルフィの攻撃をかわし、あるいは受け流し、自分の身長ほどもある剣を振るう。

 シャルロットの眉間から親指一本分離したくらいの場所に感嘆符が浮かび上がった。ように見えたけど気のせいだった。
「たくさんいる……!」
 そっちじゃない!
 そりゃ主の知らない間に使い魔が増えていれば驚くかもしれないけど、今驚くべきはそっちじゃないでしょう。

 騎士は力でもシルフィに負けていない。数匹のシルフィが腕にまとわりついて、ブンと一振りで散り散りに飛ばされた。
 一匹が城壁に叩きつけられ、瓦礫とともに地面へ落ちて力なく震えている。あのシルフィは……スキルニルか。
 本物は、と。ええっと……区別しづらいわね。……あれかな? あの一番上できゅいきゅいわめいてるやつ。
 わめくシルフィから突風が巻き起こり、騎士にぶつかり弾けて消えた。
 使い魔を援護すべくシャルロットが氷の矢を飛ばしたけどやっぱり鎧の表面で弾けて消えた。
「魔法が効かない」
 見れば分かるわよいちいち口に出すな絶望したくなるじゃないの。

 城壁を砕くシルフィの鉄頭をものともしない厚い鎧。
 重量を無視した機敏な動き。
 同じ大きさのゴーレムさえはるかに上回る圧倒的な膂力。
 どういう原理かは分からないけど魔法すらも受けつけない。
 何この「ぼくのかんがえたせかいさいきょうのないと」は? こんな子供じみた物を作るのは父上に決まってる。

「……シャルロット。あれがエルフ?」
「ちがう」
「ねえ地下水。あれ、操れない?」
「無理言うなって。ああいう手合いは幽霊の次くらいに苦手だよ」
 ああ、まただ。騎士がシルフィの一匹をつかみ取り、地面に叩きつけた。うわ、揺れる揺れる。ここにまで伝わってくる。
 押されるシルフィを救おうと、シャルロットが再度魔法の詠唱を始めた。
「やめなさい。精神力の無駄になる」
 それでも詠唱をやめなかったので杖を掴んで無理やり止めた。こいつは毎度毎度わたしの言うことなんて聞きやしない。
「シルフィのことは心配するな。一匹や二匹落とされたくらいじゃ小指の先一本だって傷つきやしないわよ」
 シャルロットが責めるような目でわたしを見ているけどこの場は無視。わたしはわたしの仕事をしなければ。

 シルフィは馬鹿だけど大馬鹿じゃない。わたしの指示通り、前線の構築はスキルニルに任せ、後ろから援護する形で騎士と戦っている。
 目的は最強無敵不死身の騎士様を倒すことではなく、わたし達を背に乗せ空に逃げること。シルフィもそれは分かっている。
 騎士の隙を作るためにスキルニルに周囲を旋回させ、死角を狙って城壁の穴につけようと何度も繰り返す。
 騎士もその辺の事情は分かっていて、スキルニルとシルフィがわたし達の方へ来れないように剣を振るって牽制していた。

 どうする? 戦いはシルフィに任せ、わたし達は城中を通って一階の窓なり出口なりから自転車で逃げる?
 だめだ。走って逃げれば騎士に気づかれる。あの動きであの歩幅じゃ自転車でも逃げられない。捕まっておしまいだ。
 だいたいシルフィを見捨てるなんてことをシャルロットが許すとも思えない。
 かといってシルフィに呼びかけたりすれば騎士もわたし達の意図に気づくだろうし……逃げ道がない? ないんじゃない。まだ見つからないだけよ。きっとどこかに逃げ道がある。
 べつにあいつに打ち勝たなくちゃいけないわけじゃないんだから。
 あいつから逃げるだけでもわたし達の勝利だ。そう考えればこっちが有利といってもいいくらい。

 こちらの手駒は十数匹にまで数を減らしたシルフィ軍団、シャルロット、地下水、わたし、自転車。
 ふん、まずまずね。ただし、のんびり考えていればおっとり刀でエルフがやってくるかもしれない。そうなれば今度こそ詰む。
 あらゆる面での素早い対応が求められるってわけね。これこそ鬼畜者向きの詰め将棋じゃない。
 ここの地形、相手の性質、わたし達の目的、やらねばならないこと、やってはならないこと、しなければならないこと……。

 ……そういえば幽霊どこいった? あいつのことだから心配する必要はないでしょうけど……でも気になるわね。
 まさかあの騎士の中に入って内部から破壊活動を……してくれればいいんだけどな。幽霊め、肝心な時に役立たずなんだから。

 ああもう。幽霊に思いを馳せている場合じゃないって。もっとマジメに考えなきゃ。
 地下水はわたしの指示待ちだし、シャルロットは大口ぽっかーんと開けてシルフィの戦いを見てるだけ。
 ここでわたしが妙案を思いつかなければ本当に全滅してしまう。

 ……そうね。組み合わせで考えましょう。シャルロットに地下水を持たせれば……足りない。それくらいじゃダメだ。
 そもそも騎士に直接魔法を唱えようという考え方がよくない。シルフィの風もシャルロットの氷も全然効いてないもの。
 鬼畜者の勘が無くとも分かる。あいつにはまともな系統魔法じゃ効果が無い。
 かといって、地下水含めてメイジが三人いるのに魔法無しでってのも……ああ憎い。父上が憎い。
 あの騎士を考えるだけなら分かるわよ。誰だって子供時代に無敵の騎士や最強の英雄を考えたりすることはある。
 でもね、普通それを現実に移す? 頭おかしいんじゃないの? あれ一体で小国一つくらい滅ぼせそうじゃない。
 それを娘にけしかける? ああそうですねあなたはそういう人でしたねええええわたしが悪うございましたよ絶対に頭下げたりするもんか。

 勝ち目はある、とわたしの中の鬼畜魂がささやいていた。強がりとか無謀とかそういうのじゃなくて、たしかに勝ち目はある。もう少しで掴みかけている。
 砂漠の只中にある小高い丘という攻めづらい地形。こちらの面子。敵戦力。逃げれば勝ち、という状況。
 あと少しで何かを掴む。もう少しで、というところまで来ている。
 シルフィがまた一匹叩きつけられた。時間は無い。余裕も無い。でも、もう少し……そう、これをこうして……あ、そうだ。

 考え事に没入していたその時、トン、とわたしのわき腹を押す者がいた。
 シャルロットかと思ったけど、左手に立っていたシャルロットとは方向が逆。つまりシャルロットではない。
 それに、押しつけられた物が妙に熱い。しかもドロドロと湿っている。
 何の気なしに右手に目をやった。そこには小さな魔法人形がいて、わたしに向かってにっこりと笑いかけた。
「……アルヴィー?」
 なぜここにアルヴィーが? わたしがそう思ったのと、騎士を模したアルヴィーが剣を差し込んだのがほぼ同時。
 剣はわたしのナイフもかくやという鋭さを発揮してアバラ骨の隙間に吸い込まれて……あっ……いった。
 ぐ、え、う、あ、ああ、な、なるほどね。さっきの、トン、で一刺し、これで二刺しってことね。思わず傷口に手をやる。血で滑る。ぬるぬるに滑る。
 ふう……片膝をつき……倒れてしまわないよう手をついた。剣を引き抜いた騎士様がとどめを刺さんと三撃目をかまえたところで一蹴りくれて、部屋の隅に重なっている本の中に叩き込んだ。

 あいてててて……あ、いやいや痛くない。少し痛いかもしれないけど我慢できる程度でしかない。ちっぽけな穴二つ開けられたくらい。
 騎士の剣とはいえ、アルヴィーの得物なんてしょせんはナイフのサイズ。うふっふふふっふふふっふふ、ちょっと驚いたけど屁でもないわよ。

 それにしても、ああクソ。かすり傷とはいえしてやられた。けして気を許さないはずの鬼畜者がボケて油断していた。
 大きな騎士の方に目を集めて、小さな騎士を後ろから襲わせる、か。さっきの意趣返しにしても悪くないわね。
「王女殿下……あなたは危険な方です」
 バラバラと本を跳ね除け、足を引きずり、右腕が逆方向に折れ曲がった状態で騎士のアルヴィーが立ち上がった。
 その声はやっぱりさっきのスキルニル使い。いや、アルヴィーも使ってるから人形遣いか。
 ひょっとしてあのでっかい騎士もこいつが操ってたりするのかしら。ふん、たった一人で大層なご活躍じゃない。
「捨て置けば必ずや陛下に害を及ぼ……」
 言い終える前に空気の拳が人形を押し潰した。見れば、シャルロットが杖をかまえてわたしの前に立っている。
 エア・ハンマーか。頼んでもいないのに魔法の無駄撃ちをしてくれるなんて、本当に使えない子だね。
 それだけでは飽き足らず、わたしの方に向き直るとさらなる詠唱を開始した。この詠唱は……治癒か。
「やめろ」
 わたしの制止を無視してシャルロットが魔法を唱え続ける。傷口が温かな光に包まれ、痛みがほんの少しだけ和らいだ。
「やめろ!」
 今度は杖を振り払って無理やりやめさせた。
 さっきからこんなのばかりじゃないの。本当に覚えが悪くて嫌になるわ。わたしがやめろと言ったらすぐにやめなさい。
「あいてて……あー……こんなところで精神力使ってもらっちゃ……ふぅ。困るのよ。ちょっと手伝いなさい」
 口を開くだけでギリギリと響く。シャルロットがわたしに逆らうのもこれを狙ってのことなんじゃないの?

 体の中にじわじわと生温い何かが溜まっていく。非常に気持ちが悪い。出血を抑える必要があるみたいね。
 まだ魔法を使おうとする馬鹿シャルロットを顎で使ってロープを解かせ、ババアを寝台の上におろした。これで多少は楽になった。
 刺された部分の服を破き、タオルで傷口を押さえつけた。黄色いタオルが瞬く間に朱に染まる。
 わたしはちょっとばかり血の気が多すぎるからね。多少は抜けた方が冷静に物を考えられるようになる。
「横になって。治す」
「嫌……だね。お前の言うことなんか……はぁ。きいてたまるか」
 この程度のかすり傷で何を大げさな。だいたい風のメイジが秘薬も無しに癒しなんかしたって気休めにもならない。
 それならわたし自身の治癒力で自然治癒した方がなんぼか早く治るわ。鬼畜者の体力なめるんじゃないっていうのよ。

「このままじゃ死ぬ」
「死なないね。お前らみたいな……お前らみたいな凡人と一緒にするな」
 くっ……自転車によりかかっていれば……よし、立っていられる。さすがはわたしの使い魔、主を支えることに関しては他の追随を許さない。
「なぁ王女さま。俺が治療するってのじゃダメかね?」
「お前にはお前で役割があるの。無駄な精神力使ったりしたら肥溜めから幽霊のフルコースだからね」
 分は悪い。わたしはともかく、シャルロットと地下水に関してはもんのすっごく不安が残る。
 それでも細いなりに先が見通せる道がそこにある。だったらそこを押し通るために最善を尽くさなければならない。
 やれることを全部やったわけでもないのに失敗しましたなんて断じて拒否する。父上にいい目見せてたまるもんですか。
「聞きなさいシャルロット。わたしの頭脳は今冴えに冴えている。刺されたはずみでいい手を思いついたわ」
「治さないと」
 なんてぇ嫌な目で人を見るんだろうこのガキは。
 どう考えたってわたしの方が正しい。自分も含めて平等に考える為政者の鏡的な物の見方をしてる。
 それに比べ、少しくらい我慢すればいいのに、血を見るのが嫌だからって目前のかすり傷を治そうとする姑息的かつ刹那的な快楽主義者のシャルロット。
 ふぅ……あんまり腹が立つから……肩を抱き寄せて額に軽く口付けをした。……はは、シャルロットの額に血がついた。いいざまね、よく似合うわよ。
「治さないといけない」
 ちっ。同じ文句を何度も何度も飽きもせず。今日はえらくしつこいわね。これをするといつもは黙るんだけど。
 仕方ない、年長者の責務としてもう少し分かりやすく現在の窮状を説明するか。話すのも億劫だっていうのにねぇ。
「わたしが考えついた手段には……げほっ……お前の精神力が必要になる。ここで無駄使いして本番で足りませんなんてことになれば……全員死ぬわよ。お前の母親も含めてね」
「……」
 ほうら黙った。だったら始めから反論しないでもらいたいわ。
 さっきの口付けが不発だったから、今度はぎゅっと抱き締めてやることにした。わたしの胸に押しつけてこいつの顔も血でべっとべとにしてやる。

 そこまでしてなおシャルロットは何か言いたげな顔でわたしを見上げていた。
 抱き締められる分際でなんて顔。反省を促す意味をこめ、額と額をこつりとぶつけてわたしは言った。
「わたしなら……大丈夫。お前ごときに心配されるほど弱虫じゃない」
 無尽蔵の体力と精力を誇るのが鬼畜者。この程度のかすり傷で弱っていたら何もできない。大丈夫大丈夫。……大丈夫。





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