あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのミーディアム 第一章 -16


「……え?」
水銀燈の口から言い放たれた衝撃的な一言にルイズの思考が一瞬停止した。
「……!!」
そんなルイズを後目にミス・ロングビルはすかさず懐から杖を取り出そうとする。
「動くなッ!」
だが広げられた翼から針のように鋭い羽が放たれ、ロングビルの頬をかすめて背後の壁に突き刺さった。
その頬にピッと朱線が入り、赤い雫が一筋垂れると彼女の手は杖を持つ前に動きを止める。

「……ある程度あなたには感づかれてるとは思ってたけど、まさかここで仕掛けてくるとはね」
ミス・ロングビルのその眼鏡の奥にある優しい目が吊り上がり、猛禽類を思わせる目つきへと変わる。

「ようやく本性を表したようねぇ?」
水銀燈もまたロングビル…いや、フーケに劣らぬ狂笑を浮かべる。

「やっぱりあの時の皮肉は失敗だったわね……。声を覚えられた上に恨みまで買ってしまうなんて……」
「まあそれもあるけど。貴女をフーケと断定した決定打はこの子なの」
水銀燈のまわりを紫色の小さな光がふよふよと飛んでいる。
「言ったはずよ。この子は『追跡』・偵察・囮何でもこなすと」
「ますます迂闊だったわ…。この私がつけられてたなんて」
フーケが深い溜め息を吐き肩をすくめる。しかし追い詰められたにも関わらず、さらりと言った。

「さっきの答えを聞いてないわねえ?さっさとこれ持って逃げればよかったのに何故学園に戻ってきたの?」
「使い方が分からなかったのよ。振ろうが魔法かけようが、うんともすんともいわないのだもの。
……魔法学院の者なら知ってる人間がいてもおかしくないでしょ?」
「とんだお馬鹿さんだわぁ……。それで捕まってるのだから世話ないわねぇ?」
「ひどいわ、結構傷ついてるのに…それにまだ私は捕まった訳じゃないわよ?」
そしてフーケは挑戦的にに口元を釣り上げた。この期に及んでまだ観念していないようだ。

その言いぐさと態度に水銀燈は眉間に深い皺を寄せて不機嫌な顔つきになる。
「フン…減らず口を……。ルイズ、ロープでフーケを縛るのよ」
「わ、私が?」
蚊帳の外だったルイズが突然声をかけられて驚いた。
「ええ。そうすればこれは貴女だけの手柄よ?今ここにはキュルケもタバサもいないのだから」
「あ、あんたそのためにキュルケとタバサの人払いをしたの!?」
「そうよ。品評会の失態はこれで帳消しね、まさに計画通り。フフフ……」
水銀燈はそうして歪めた口元を手で隠しクスクスと妖しく含み笑いをした。

「あんた……悪い女だね……」
フーケが呆れたように言った。
「ほめ言葉として受け取っておくわぁ。……貴女に言われるのは癪だけど」

あまりの急な展開に頭の回転も追いつかずどこか釈然としなのだろう、
ルイズがロープを片手におっかなびっくりフーケへと近寄っていく。
ともあれこれでフーケの身柄を拘束すれば任務も完了なのだ。
「じゃ、じゃあ、ミス・ロングビル……じゃなくて土くれのフーケ、大人しくお縄に……」
「ふん…悪いけど私はまだ捕まる訳にはいかないのよ」
フーケは頬に垂れた血を親指で拭い口元に持っていくと、それを舐めてニヤリとした。
彼女はあくまで余裕の態度を絶やそうとしないのだ。
「この土くれのフーケを甘く見てもらってはこまるね」

しかしその言葉と裏腹にまるで観念したように懐にやろうとしていた手を下に降ろす。
「いい加減貴女も年貢の納め時よ。第一、このピンチをどうやって切り抜けるつもりなのかしらぁ?」
「これがピンチだって?」
フーケは水銀燈の言葉一笑付す。

「こんなの……、私にはピンチの内には入らないよ!!」

そう言い放った瞬間彼女のおろされた袖口から丸い玉がゴトリと床に落ち勢いよく煙が吹き出す。
「煙幕!」
水銀燈もルイズもそれに目を奪われた一瞬、フーケは煙に紛れて姿を消す。
水銀燈も羽を撃ち出すもそれはむなしく空を切った。
そしてガラスか何かが割れるような音が小屋の中に響き、音がした先で人の影が外に飛び出す。

「しまった!」
水銀燈が舌打ちするも時すでに遅し。おそらくフーケは窓を破って外に逃れたのだろう。

彼女はデルフリンガーを掛けた右翼の反対、つまり左の翼の付け根に破壊の杖を引っ掛けて小屋からの脱出。
外に出た水銀燈が見たのはフーケが魔法の詠唱を終え地面が隆起し、人の形を象る様だった。

「水銀燈!大丈夫!?」
ハンカチで口元を押さえてルイズも小屋が飛び出してくる。
「ええ、だけど不覚をとったわ…!」

完全な人の形をとった巨大な土の塊を見上げ彼女は口惜しげに歯噛みした。
シルフィードを駆り空から森を偵察していたタバサも広場におこった異変に気づいた。
「ゴーレム…!」
遠めに見えた動く巨大な土くれを確認すると、風竜をすかさず小屋に反転させ彼女は仲間の元へと急ぐ。

「どう言うことなのよこれ!」
小屋の周囲を歩き回りながら見張りをしていたキュルケがルイズ達の元に駆けつけた。
「私はちゃんと見張りをやってたわ!なのになんで!」
「別にあんたがサボってたなんて言ってないわよ!」
ルイズとキュルケ、互いに怒鳴りあうようにして言い争う。

ルイズでは話にならないと、苛立たしげにキュルケは赤毛をかきあげると水銀燈に状況の説明を求める。
「詳しい話は後よ、率直に言うわ」
水銀燈は苦々しい顔をしてゴーレムの後ろで腕組みしてこちらを見据える人影を指差した。
「フーケの正体はミス・ロングビルだったの」

「そう言うこと、悪いわね」
フーケは悪びれも無くそう言うと杖を水銀燈達に突きつけた。

「行け!ゴーレム!」
主の命令を受け巨大な土くれがズシンと大地を踏みしめて少女達に迫る。
「まったく、なんなのよ!もう!」
キュルケは胸元から杖を引き抜き呪文を唱えた。
杖から彼女の象徴たる紅蓮の炎が巻き起こりゴーレムを業火で包み込むが、ゴーレムは全く意に介さない。

次に広場に大きな影が高速でよぎった瞬間、上空から巨大な竜巻が巻き起こりゴーレムにぶつかった。
水銀燈が見上げた先には長い杖を風竜の上から振り下ろしたタバサの姿。
だがこれもゴーレムにとっては涼風程度にしか感じないらしい。
「…!!」
何事もないように歩みを進めてくるそれを、タバサは険しい表情で見下ろした。
「無理よこんなの!」
「退却」
「やむを得ないわね…」
キュルケが叫びタバサと水銀燈が呟く。
タバサがシルフィードを降ろしてこちらに来るように手招きした。
水銀燈とキュルケもゴーレムに背を向けてそちらに駆け出す。

だがその背後で何か弾けるような音を聞き、彼女はそちらを振り返った。
そこにはゴーレムに杖を振りかざしたミーディアムの姿。
「あの子ったら…!」
水銀燈は空中で急ブレーキでも掛けるかのように進行方向を無理やり反転させる。
逆十字の刻まれたドレスの裾が翻り彼女はルイズの元へと翼を羽ばたかせた。
水銀燈はルイズへと近づきながら声を荒げて怒鳴りつけた。

「何やってるの!貴女も逃げなさい!!」
だがルイズはそれに耳も貸さずに唇を噛み締める。
「嫌よ!あいつを捕まえれば、誰ももう、私をゼロのルイズとは呼ばないでしょ!」
「貴女では無理よ!第一キュルケやタバサの魔法も効かなかったのに!」
「やってみなくちゃわかんないじゃない!」
「何を馬鹿な!身の程をわきまえなさい!」

ゴーレムの右足が持ち上がりルイズの頭上に影が差した。ルイズを踏み潰すつもりのようだ。
だがルイズはまだ諦めていないらしく杖を片手に呪文を唱えている。

(かくなる上はこれで!)
水銀燈は舌打ちして左の翼にかけた破壊の杖を手に取った。左手のルーンが光りその扱い方を脳裏に刻む。
「使い方がわからなかったって言ってたわね……」
畳まれた砲身を伸ばし、肩の下から腋を通して腰だめにそれを構えた。

「お望み通り見せてさしあげるわ!!」
そして安全装置を解除して引き金に指をかける。狙うはゴーレムの上半身。

さて、今の水銀燈だが翼を大きく広げて右の翼にデルフリンガーをマウント。
左の翼に掛けていた銃器のような破壊の杖を腋の下で腰と手で固定しゴーレムに構えている。
そう、似てるのだ。あの不幸な『運命』に巻き込まれたアレに。背中のビーム砲を構えてるアレにそっくりなのだ。
……別にそれが悪いとは言わないが……何か嫌な予感がする。

だが構わず彼女は引き金を引いた。
しゅぱっ、という栓抜きのような音が破壊の杖から放たれたが、それと同時に派手な爆発音が広場に響きそれをかき消す。
破壊の杖が着弾した訳ではない、爆発音はルイズの放った魔法だった。
ファイヤーボールか何かを唱えたのかわからないが、それは以前の錬金の授業で見せた大爆発に匹敵するものだった。

ゴーレムの振り上げた反対側の足、軸足にそれが直撃してゴーレムのバランスを大きく崩す。
人型の土の山が仰向けに轟音を轟かせて転倒、
そしてゴーレムの上半身を狙って破壊の杖から放たれた弾頭は着弾せずに白い尾を引いて青く澄み渡った空に吸い込まれ……
遠くに落ちたのか爆音を森の奥に轟かせる。

――つまり、見事にゴーレムを外してしまったのだ。
「嘘!?外したの!?」
それは運命の悪戯か運命(デスティニー)の呪いか、水銀燈は愕然とした。

転倒したゴーレムはその衝撃で所々ひび割れてはいたが周りの土をかき集めてすぐに元の形に再生する。ダメージはほぼ皆無と言っていい。

「破壊の杖の力、しかと見届けたわ……。まさにその名に恥じない素晴らしい威力!」
当たればゴーレムを跡形も無く消し飛ばしてたであろうその一撃に、フーケは戦慄するも興奮を隠せない。

「これであんた達は用済みだけどねえ!」
フーケがゴーレムを立たせ、再びルイズに向かって拳を振り上げさせる。
ルイズは再び呪文を唱え出した。水銀燈は破壊の杖を乱暴に投げ捨てた。
そして悲痛な声でルイズに叫ぶ。
「もう打つ手がないの!逃げて!ルイズ!!」
「あんた言ったじゃない!」
完成した魔法を放つもゴーレムの表面で小さく爆発しただけ。
「ギーシュと決闘した時、ボロボロになったのに自分には譲れない事あるからって!」
「こんな時に何を!」
「私はあんたのその姿にに真の貴族の姿を見た!私だって譲れない物があるの!」
ルイズが杖を構え握りしめる。
「ゼロだなんて呼ばせない!魔法が使えるものが貴族じゃない!」
ゴーレムに向かって目を見開き彼女は叫んだ。
「敵に後ろを見せない者を、貴族と呼ぶのよ!!」
再び振り下ろされる杖、だがその思いも虚しく唱えられた魔法はゴーレムの胸あたりで小さく弾け土を少し抉っただけだった。

振り上げられた土の拳がルイズに向かって浴びせられる。
その視界に巨大な拳が広がり彼女は目をつぶった。
その時……黒い疾風がそこに滑り込みルイズに体当たりするように抱きかかえ、地面をゴロゴロと転がって拳から逃れた。

土埃が巻き起こる中、水銀燈がおもむろに起き上がりルイズに向かって手を振り上げる。

パン!と、乾いた音が響き渡った。

水銀燈がルイズの頬を叩いたのだ。
「いい加減になさい…私はそんな事を貴女に伝えた覚えはないわ!」
ルイズは呆然として水銀燈を見つめた。
「ルイズ、貴女はとんでもない勘違いをしているわ」
水銀燈はルイズの鳶色の瞳を見つめ厳しくも淡々と言った。
「あの時確かに、私は譲れない物があるから闘ったと言った、だけど死に急げだなんて一言も言ってない!」
「だって、私……いつもゼロってバカにされて…!」
ルイズの目からポロポロと涙がこぼれた。彼女の嫌うゼロという呼び名、それを見返したい気持ちは水銀燈もわからなくもない。
彼女自身もまたルイズと同じ苦しみを知っているのだから。
……だが、今のルイズの無謀を認める訳にはいかないのも事実。

「貴女がここで勇敢に…いいえ、無謀にもフーケに挑んで命を散らしたとしても、皆から仮に勇敢だったと言われたとしても……」
水銀燈の鋭い瞳が少しだけ緩み悲しげな顔となる。
「それでも貴女はずっとゼロのまま…。勿論、返上する機会なんて来ることはないの……」
ルイズの肩に手をかけて水銀燈は続けた。
「どんなに辛くても逃げてはいけないわ」
「逃げてなんかないもん!だから私はフーケに……!」
「だから違うのルイズ、生きる事から逃げないで。死んで楽になるなんて間違っても思っては駄目…」
嗚咽をならしながらルイズは黙って聞いていた。
「自分に付けられたゼロの仇名、それを返上するのが貴女にとっての大事な事よね?
なら貴女もこんな所で終わる訳にはいかないのでしょ…?」

水銀燈は昔のことを紡ぎ出すように遠くの空を見上げ語り始めた。

「これはある子から私が教わった事。……いけ好かない子だったわ。だけどこの言葉だけは今もこの胸に残っているの……」
そしてルイズに微笑みかけて言った。


「「生きることは戦うこと――だって、そうでしょう?」」


「あ……」
ルイズの耳に水銀燈の声と誰かの声が重なった。
そして涙で瞳潤ませたルイズは、優しく笑いかける使い魔の面影に、顔も見知らぬ彼女の姉妹を見る。
「生きることは…戦うこと…」
ルイズはその言葉を心の中で何度も反芻した。

「なかなか泣ける話ね。きっと役者でも食っていけるわ、あなた」
ゴーレムの後ろで事のルイズと水銀燈のやりとりを見ていたフーケが言った。それもハンカチを目に当てて皮肉気味に。

「あら、待ってくれるなんて貴女も案外良いとこあるのね」
冷笑に細めたれた眼差しで水銀燈が肩越しにフーケに振り返り答えった。
「なに、破壊の杖の使い方を教えてくれたお礼よ」
「だけどそれも無駄に終わるわ」
艶のある漆黒の翼が翻り無数の羽が辺り一面に舞い散る。
「貴女が破壊の杖を手にする事はもうないのだから。……貴女の思うようには私がさせない」
「面白い!やれるものならやってみなさい!」

フーケは自分に伸ばされたゴーレムの腕をかけ上がり肩の上に立つと、ルイズから目を離し水銀燈を標的として見据えた。

水銀燈はルイズに目配せして逃げるように促す。
「下がってなさいルイズ。フーケは……私がどうにかするから!」
「で、でもあんた一人じゃ!」
「一人じゃないわ」
ルイズの薔薇の指輪がほのかに熱を帯び始める。
「指輪が…」
涙を拭いルイズは淡く光る指輪をじっと見つめていた。
「私が貴女の想いは私が預かる。だから力を貸して……ルイズ。」
ミーディアムから力が引き出され、水銀燈の身体の隅々まで浸透していく。

彼女の言ったとおり一人だけの力で戦うのではない。ルイズの内に秘めたる想いを胸に水銀燈は力強く言った。

「私が、貴女の剣になってあげるから!!」
ばさぁっと翼を打ち鳴らし翼の生えたシルエットがゴーレムの身長より高く飛び上がった。

雲一つ無い蒼天を背に水銀燈は眼下からこちらを見上げるフーケとゴーレムを、額にかかった銀色の前髪の奥から険しく見下ろす。

「デルフ」
右の翼に背負った剣に向けて声がかけられた。
「ZZZ…」
しかし返ってくるのは鍔から発せられるいびきのような音。こんな状況でデルフリンガー、どうやら今までずっと眠っていたようだ。
「いやに静かだと思ったら……起きなさい!デルフ!」
水銀燈が呆れはてて眉間を押さえながらもデルフを叩き起こす。
「ん~?もう朝?なんか用でもあるのか姐さん?」
眠たげな声がガチャガチャという音とともに背から聞こえた。
「前々から思ってるんだけどその姐さんて呼び方…いえ、今はそんな事はどうでもいいわ。
貴方を抜くわよ。いいわね?」
「おお!やっと俺が役立つ時がきやがったか!」
目が完全にさめて歓声をあげるデルフリンガーに水銀燈が眼下のゴーレムを見て言う。
「あれが相手よ」
「ほおー!おでれーた!こりゃまたでっけぇのが出たもんだな!」
驚嘆するように呟くデルフに不敵に笑いかける水銀燈。
「フ……臆したの?」
「ハッ!冗談!俺を誰だと思ってやがる!」
「いい返事よ」


彼女は優雅な挙動で、スッと右手を横に掲げた。カシャンという澄んだ音と共に、見えない力でデルフリンガーが抜き放たれその右手に収まる。
さらに水銀燈は大きく一回深呼吸をして瞳を閉じて剣に語りかけた。
「デルフ、」
「ああ、」
彼女の身には少々アンバランスなそれを両手で持ち、下段から構える。同時に左手のルーンが輝き始めた。
そして翼を逆立て剣の柄の握りを強く締めると……

「行くわよ!!」
「おう!!」

その言葉と共に瞳を見開き羽を巻き上げゴーレムに、空から一直線に翔け下りる。
その左手のルーンはかつてない程に眩い輝きに包まれていた


風さえものけぞらせて上空より黒衣の天使が飛来する。禍々しい黒塗りの翼を鋭く逆立たせ、朽ちた剣を携えた堕天使が。

だが自分を打ち倒さんと襲い来るそれをフーケは軽く鼻で笑った。
「どんなに意気込もうと所詮は小さな人形……」
軽く杖を振りゴーレムに迎撃させるように指示を出した。
「少しは不思議な力が使えるようだけど私のゴーレムを抜く事など不可能よ」
ゴーレムがまるで羽虫でも払うかのように、急降下して斬りかかる水銀燈を右の平手で打ち落とそうとする。

だが土くれの掌が打ちつけられる瞬間、彼女の体がブレて霞のように消え去った。
土くれの剛腕が空を切り、その二の腕に一閃光条が走る。そこから重い音をたて巨腕が地に落ちた。
ずれ落ちた土くれの塊、その裏には剣を振り下ろした水銀燈の姿が!

「な…に…?」
フーケが目を疑った。土で創造されたゴーレムと言えど、魔法で圧縮して固められその巨大な体を支えられるだけの耐久力はある。
だがこの人形、それもゴーレムの数十分の一程度の小さな人形が、一太刀の下にその巨大な腕を斬り捨てたのだ。

呆気にとられているフーケをよそに水銀燈の翼から漆黒の鏃が放たれフーケに殺到する。

それをフーケは、ゴーレムの左手を盾にして凌ぐ。分厚い土の壁に阻まれ羽の鏃はフーケに届くことは無かった。
「ちいっ!」
水銀燈はデルフリンガーを突き出すように構えた。狙うは刺突、左手ごと突き破ってフーケを貫くつもりだ。
逆立てた翼を広げ突撃をかけようとした矢先――
「後ろだ!姐さん!!」
「…ッ!!」
デルフリンガーの警告に彼女は長い銀髪を振り乱し、後方に横薙の斬撃を放った。
たった今切り落とした筈の右腕が彼女に掴みかかろうとしていた。
だが、振り向きざまの渾身の薙払いが五指を切り裂きどうにか難を逃れる。

「なんて再生力なのよ…」
「気ぃ抜くな姐さん!これだから土のゴーレムってのは厄介なんだよ!」
忌々しく水銀燈とデルフが呟く。
だがさらにその背後に迫る気配。彼女は後ろ振り返らずに急速にそこから離脱。
水銀燈のいた位置に向かってゴーレムの左拳が猛スピードで振りぬかれた。

フーケとゴーレムから距離を離し水銀燈はそれを睨みつける。
「あの時と同じ、近づけない…!」

「ふん!誰が呼んだか知らないが、土くれの二つ名は伊達じゃないのさ!」
最初は面食らったフーケだったが、自分に手を出すのが容易でないことを相手に知らしめ落ち着きを取り戻す。

あの夜同様、彼女の行く手を阻む二本の巨大な腕。倒すべき術者、フーケは正に目と鼻の先なのに、水銀燈にはその距離が遙か彼方に感じられた。
「だったらこれで!!」
ルイズから引き出された力が翼に宿り、鏃が弾丸に変わりゴーレムを襲う。
ゴーレムの体に無数の穴が穿たれるが、それも決め手にはならなかった。
蜂の巣と表現しても良いぐらい穴だらけになったゴーレム。
だが大地から多量の土を吸い取り穴を埋めると、瞬く間に元の形を完全に象った。

青銅をも穿つ漆黒の弾丸といえど再生を繰り返す土くれの前には効果が薄いのだ。
おまけにフーケは両腕をがっちりと前に重ねてそれを防ぎ、羽の一枚すら届かなかった。

「どうしたんだい?あんな大口叩いといて、私を倒すんじゃなかったの?」
あざ笑うかのようにフーケが水銀燈を挑発した。
「畜生!いちいち腹立つ事言いやがって!!」
「本当…癇に障るわね…!」
その憎まれ口にデルフリンガーも水銀燈も苛立ちながらそう吐き捨てた。ルイズは使い魔と巨大土くれの戦いを、胸の前で手を握りしめ見守っていた。

ギーシュとの決闘の時をもはるかに上回る動きで水銀燈はフーケのゴーレムを翻弄する。

だがそれでも土の巨人は揺るがない。彼女も善戦してはいるがこのままでは力で押し切られてしまうだろう。

少女の胸の前で祈るように握られた両手、その右手にはめられた薔薇の指輪が淡い光と熱を放ち続ける。
天使の翼がはためく都度に、掲げた剣が振られる都度に、その指輪が強く、熱く輝いた。
そしてその熱と煌めきと共に彼女の心が指輪を通し伝わる。
(水銀燈は私の為に戦ってくれている……)
確かにそれは嬉しかった。彼女は自分の心の襞をもすくい取ってくれている。
だがそれと同時に己の無力さを痛感した。
自分の力を得て戦っていると言えど、ルイズ自身に危険は及ばない。
ルイズは直接戦えるだけの力が欲しかった。その手で水銀燈を助けたかった。

ゼロの少女は静かに目を閉じて薔薇の指輪を左手で覆った。
(今の私にできる事は、ただあの子の無事を祈るだけ…それだけだなんて……)
彼女は悔しげにそう思った。

その閉じられた瞳、暗闇に閉ざされた筈の彼女の視界が突如クリアになる。
迫り来る土くれの拳。視界が目まぐるしく揺れ動きそれを紙一重でかわす。
景色が高速で移り変わり、蒼い空を、眼下に鬱蒼と繁った森を映し、そしてゴーレムとその肩の上に立つフーケを目に捉えた。

視覚だけでは無い。かすめた剛腕がうなる音、風を切り空を翔け、翼がはためく音。
それがルイズの耳に聞こえてくる。

「これって……」
ルイズも言っていた事だが、使い魔は主人の目となり耳となる能力を与えられる。
感覚の共有……ルイズは水銀燈が戦っている様を直に体感していた。

――いや、感じたものはそれだけでは無かった。
ルイズの指輪と水銀燈のルーンの相互作用により視覚と聴覚の他にもたらされる不思議な感覚。
彼女は閉じられた瞳の中、ゴーレムの内部に点在する無数の何かに気づく。

「これってあの子の……」
そしてこれが自分に与えられた、あの子を助ける為の力だとルイズは直感した。
閉じた瞼を彼女は見開く。その眼差しは固い決意が込められた純粋かつ真っ直ぐな物、
ルイズは杖を引き抜きゴーレムの前に躍り出た。
「おい!姐さん!大変だ!娘っ子が飛び出してきやがった!」
「ルイズが!?」
襲い来る腕を打ち払い、斬り伏せる水銀燈にデルフリンガーが慌てた声で知らせた。
続けて繰り出された頭上から落ちてくる土くれの手刀を受け流し、水銀燈は少し離れた所に現れたルイズの元まで下がる。

「ルイズ!危ないから下がってなさいと言ったでしょ!」
声を荒げてミーディアムに忠告するがルイズは決意に満ちた眼差しを使い魔に向け、戦う意志を表明した。

「水銀燈、私も戦うわ」
「引っ込んでろ娘っ子!いくらなんでもおめーをフォローして戦うなんざ無理だ!」
デルフリンガーも乱暴に言うがルイズはそれに構わず水銀燈に告げる。
「一つだけ、やってみたい事があるの」
その顔は先程までの功を焦ってがむしゃらに魔法を乱射していた時の顔ではない。
「……勝算があるのね?」
ズシンと大地を揺らしこちらに向けて歩いてくるゴーレムにデルフを構え、顔だけ向けて水銀燈はルイズに問う。
「うん……きっと成功させるから!」
ルイズのはっきりとした返事、水銀燈はそれが根拠の無い自信による虚言では無いことを感じた。
「……信じるわ。どうすればいいの?」
「うおっ!?乗るのかよ!?」
自分の使い手の肯定の返事にデルフリンガーも驚きのを隠せない様子。
地響きが大きくなりフーケとゴーレムはすぐそこにまで迫る。

ルイズは表情を曇らせ、躊躇うように言った。
「私がゴーレムを攻撃するまで……。ゴーレムから守ってほしいの!」

「だーかーら!おめーをフォローするのは無理だと何度言えば……」
「わかったわ、ちゃんと成功させなさいよ?」
「嘘ぉ!?マジでか!!」
デルフの声を遮り水銀燈が言った。そして口元を少しだけ微笑ませる。
確証がある訳では無い、だが今のルイズはきっとこの状況を打開する。ルイズと自分を結ぶ左手に輝くルーンがそれを感じさせた。

「貴女には指一本触れさせないから!!」
杖を構え再び目を閉じ意識を集中させるルイズの前で水銀燈が立ちふさがりゴーレムを迎え撃った。
ゴーレムの上から水銀燈を無言で見据えるフーケだが、内心では焦っていた。
確かに相手はゴーレムを抜いて自分を直接攻撃することは出来ない。

だがフーケもまた疾風の如く飛び回る漆黒の人形に一撃も食らわせる事もできず、ゴーレムの腕をいとも簡単に落とされているのだ。
(一体こいつは何者なの?何故こうも戦えるの!?)
フーケの中に少しずつ恐れとすら言える感情が芽生えはじめる。


そしてそんな中、突如自分の前にのこのこ姿を晒したルイズに、彼女は不安な内情をごまかすような憤りを外に出す。
「何を企んでるかは知らないけど…わざわざ私の前に姿を現すなんて良い度胸してるわね…!」

そしてゴーレムが足を振り上げルイズに向けて踏み下ろそうとした。
「先にあんたから片付けてやる!」
だが振り上げられた足に向かって横一線に黒い影が走る。
「聞いてなかったみたいね!あの子はやらせないわ!!」
巨大な足を膝から両断させた影がゴーレムの胸の高さで止まり翼を大きく広げて立ちはだかった。
水銀燈の翼から鋭い羽が無差別に撃たれ漆黒の雨がフーケとゴーレムを襲う。
フーケはゴーレムの右手で羽を遮り左手を振り回し水銀燈を振り払う、土くれの手がうなりをあげて彼女に向けて振り下ろされた。


「……もしかしたら私、とんでもない事引き受けちゃったのかもね」
それを前に水銀燈が自嘲するように薄く笑う。
自分の頭上に迫る一撃、後ろにルイズが控えている以上退くわけにはいかない。

「まったくだぜ……、娘っ子もなに考えてるか分からないのによぉ」
「愚痴ったって仕方ないじゃない、もう決めちゃったんだから。……私達はやるだけの事をやるだけよ」
「仕方ねーなあ、腹くくろうぜ!姐さん!」
「悪いけどそれは無理ね」
水銀燈の一見弱気ととれる一言にデルフが呆れるように鍔を鳴らす。
「おいおい、適当にやって止められるような相手じゃないぜ?あのゴーレム」
「フフフ…違うわよ。私にはね……」
自嘲気味な笑みを浮かべたまま水銀燈は柄を絞り剣を強く握り直しす。
「……色んな理由で腹くくれないのよ!」
そう言うと自ら土の掌に向かいを構えた剣を叩きつけた。
1メイル程しかない人形が、不釣り合いな大剣をその手にゴーレムの腕を斬り伏せる。
この戦い、フーケは何回斬られた箇所を再生させたかわからなかった。

「あ、あんたは何者なのよ!先住魔法のマジックアイテム?アカデミーの新兵器!?」

フーケの恐れが顕著になってきた。彼女は早口でルーンを唱え杖をゴーレムの振りかぶった拳に向ける。
その拳が浅黒く変化し、鈍い光沢を表面に宿した。
「やべえ!あいつ、土の拳を鋼鉄に変えやがった!!」
「鋼鉄!?」
それを見たデルフが焦るようにまくし立て、水銀燈も驚愕の表情を露わにした。
彼女のすぐ後ろには杖を構えたルイズの姿、避ければ自分のミーディアムに鋼鉄の腕が襲いかかる。

水銀燈は驚きに満ちた表情を正しデルフに檄を飛ばした。
「デルフ!受け止めるわよ!!」
「本気かよ!?」
自分ごとルイズを叩き潰そうと真正面から鋼鉄の塊が勢いをつけて突き出された。
水銀燈は全身を引き締め鋼の拳に向けて剣の腹を構えて迎えうつ。
「貴方も男なら歯ぁ食いしばりなさい!!」
「仕方ねえ!俺も腹くくってやらあ!もっとも腹も歯も無ぇけどなぁ!!」

「忌々しい人形…主ごと砕け散れ!!」
フーケの怒声とともにゴーレムの拳が水銀燈を襲った!


ガキィィィィーーーン!と金属を打ちつける音が大きく響き、耳をつんざく甲高い音にフーケ思わず顔をしかめた。
(流石にこれを食らえば…!)
だが確かな手応えを感じ、やっと厄介な敵を排除したとほくそ笑む。

「言ったはずよ――」

拳の影から聞こえる声、そしてフーケは自分の耳と目を疑った。瞳を閉じ杖を掲げるルイズは健在。そして――

「ルイズには、指一本触れさせないと!」
鋼鉄の拳の影には剣の腹でそれを受け止めた漆黒の天使の姿があった!
「何故なの!?何故あんたはそんな小さな体で戦える!?こんな真似までして!?」

フーケの中に蓄積された恐怖の感情が抑えきれなくなったのだろう、その美貌が歪み、青ざめヒステリックに叫んだ。

「何故ですって…?」
ギリギリと苦しげにも拳を止めたまま水銀燈は不敵に口元を釣り上げる。
「決まってるじゃない……この子を守ると言ったからよ!!」
そして苦しげな表情ながらも皮肉に笑って言った。
「貴女にはわからないわよね。盗人の貴女ができるのは奪うことだけ……。守るものなんて何も無いのだから……」

「なんだって……!」
だがその言葉を聞いた瞬間恐れおののき青ざめていたフーケの顔が豹変した。
彼女はゴーレムの拳を引き上げさせ、もう一度振りかぶる。
「知ったような口を聞くな!!」
憤怒の表情で怒りに満ちた叫びと共に、鋼の拳が再度繰り出された。

ミーディアムの力で身を固めデルフリンガーで受け止めるも、激しい衝撃が水銀燈の体を突き抜ける。
「ぐぅっ…!」
球体関節が悲鳴をあげ、全身にショックが走る。それでも彼女の意地と不屈の心が拳をルイズに届かせない。
「お前に!なにがわかる!『あの子』を守ために全てを失った私達の苦しみが!」
だがフーケは怒号とともにさらにその鋼鉄の塊を何度も打ちつけた。
「それでも私はあの子を守りたいんだよ!守るものの一つくらいあるんだよ!好きで盗賊なんかに身を落とすものか!!」
「痛ぇぇぇ!姐さんマジ無理!俺ブチ折れるから!マジで!」
「弱音なんか聞きたくないわね…。だけど突然なんなのよ……!」
「あんたがなんか怒らす事言ったんじゃねぇの!?てかマズいってコレ!」

フーケの感情剥き出しで怒りを上乗せした拳の連打に水銀燈の防御が少しずつ崩れ始めた。
「でもあの子のためなら私は盗賊にだって、悪魔にだってなってやるのさ!!」
一際勢いのついたゴーレムの一撃がデルフリンガーを跳ね上げ水銀燈の防御を打ち崩した。
「そんな!」
「うわあああ!破られた!」

「あの世で!悔いるのねえ!!」
がら空きになった水銀燈に鋼の拳が叩きつけられるかと思われた瞬間……
ゴーレムの腕が内部から爆発し轟音とともに砕け散った。
フーケも、水銀燈も何が起こったかわからなかった。
「そ、そんな馬鹿な!なんで!?」
「なんだかよくわからねーが助かったぜ……」
「一体なにが起こったの…?」
その呟きに答えるように後ろから声が聞こえてきた。

「できた……」
水銀燈の後ろでルイズがゴーレムに杖を突き出していた。

「あんたが戦ってる最中に、よくわからない変な感覚を感じたの」
ルイズが目をつぶりルーンを刻みながらも淡々と説明を始める。
「でもあんたが守ってくれてる間にぼやけてたそれがわかってきたわ。その正体はね、あんたの撃った羽だった」
詠唱が完成し、振り上げた杖を真っ直ぐに振り下ろした。
「まるで自分の手の中にあるように感じたわ。そこで閃いたの。……それに私の魔法をかければどうなるかってね!!」


ルイズがかけた魔法は『錬金』。以前の授業の時と同じくそれは失敗して爆発を引き起こす!
ゴーレムの脇腹あたりが爆破され土くれの体をぐらつかせた!


「あんたの仕業か!」
千載一遇のチャンスを絶たれ、ゴーレムに痛手を負わされたフーケが歯噛みしてルイズを睨んだ。

ゴーレムを動かそうにもダメージが予想以上に大きい。フーケは魔法力をゴーレムの修復に当て込んだ。


(今はゼロって言われてもいい、これが私なりの戦い方よ!)
心内でそう呟き巨大なゴーレムに真っ向から対峙するルイズが声高らかに使い魔に告げた。
「水銀燈、今度は私があんたを守る番よ!!」


ゴーレムの中に無数に点在する羽を感じルイズが間髪入れず魔法を唱え、放つ。
表面には大してきかない爆発でも内部から炸裂すれば話は別、ゼロのルイズがトライアングルのフーケを圧倒していた。

フーケは地面へと降り全力でゴーレムの修復を続ける。
今のゴーレムは言わば体内に何個も爆弾を抱えているような物だ、その上にいればいつ爆発に巻き込まれるかわからない。
ルイズの魔法はゴーレムを再生に専念させ、攻撃させる暇さえ与えない。失敗魔法はゴーレムの再生力を少しだけ上回り、小さいながらも明確なダメージ与えていた。
「はぁ…はぁ…」
だが魔法を放ち続けるルイズの声に陰りが出てきた。
詠唱が息切れを起こしその顔が少し苦悶に歪む。
無理もない。休みなく連続で魔法を唱えているのだ、かかる負担だってかなり大きい。
ゴーレムの再生がルイズの破壊力を脅かし始めた。

だが砕けてできた穴が修復され塞がれようとした瞬間、
そこに火球が着弾し再びそれを打ち砕く。さらにそこに伸びた竜巻がその傷を大きく広げた。

「まさかあんたが本当にフーケを圧倒するなんて思わなかったわ!ヴァリエール!」
「助太刀する」

ルイズの両隣に炎と風、赤と青の二人のメイジが駆けつけた!
「キュルケ!タバサ!あんた達逃げた筈じゃ!」
ルイズの驚きの声にキュルケがウインクをしておどけて答える。
「ええ、逃げてたわ。…でもあんたが一歩も退かず戦ってるのを見せらたら、ね?」
「見捨てる訳にいかないから…」

キュルケに続きタバサも小さくもしっかりと呟いた。
「あんた達……。あ、ありが…」
感極まったルイズが二人にお礼を言おうとしたがキュルケがその唇を人差し指でそっと塞ぐ。
「はい、そこまで。礼なんか後々!さあ、あんたも杖を構えて!一気にたたみかけるわよ!」
「今こそ勝機…!」
一瞬呆気にとられたルイズだったが、その顔に笑みが戻り、彼女は杖を振り上げて呪文を唱えだした。

「キュルケ!タバサ!私に続きなさいよ!!」
三人の中央にいたルイズが一歩前に出、ゴーレムに向け杖を振り下ろした。


「こいつはおでれーた!本当にやりやがった!あの娘っ子やりやがった!」
「だから言ったでしょ?あの子はやるってね……?」
ルイズを中心とした三人の魔法による波状攻撃はゴーレムの回復速度を凌駕し、土煙を巻き上げながらその体が少しずつ崩していく。
それを後ろから水銀燈とデルフリンガーが拳を防いで痛めた体を休め、眺めていた。

「このままいきゃ、あのゴーレムぶっ倒せそうだぜ!ちょっと時間かかるかもしれねぇけどよ!」
「私は時間をかける気は無いわ」

水銀燈がまだ痺れの残る体を押してルイズの後ろにまで来た。

「この戦いの幕は私の手で引かせてもらう!」

水銀燈の墨染めに染められた翼のうち、片方がドクンと胎動するように波打ち流動を始めた。
崩れた体から巻き上がる土煙がゴーレムを覆い隠し、目視できなくなるにまでに広がった。
それだけの量の土がゴーレムから崩れ落ちているのだ。

焦燥感にかられ、だらだらと冷や汗を流すフーケ。この状況をどう抜けるか必死で考えていた。
(どうする!?もう精神力も底をつく!このまま根比べを続けるのは分が悪い!)
いっそのことゴーレムを残して逃亡を計ることも考えた。
だがせっかく手に入れた破壊の杖、その威力を見た前でアレを手放すのは非常に惜しい。

フーケは考えが纏まらないままふとゴーレムを見上げる。
そしていつの間にかルイズ達の魔法が止んでいた事に気づいた。
辺りにはもうもうと土煙が立ち込め確認は出来ないが魔法がゴーレムに当たる音が一切しないのだ。
ルイズ達の方が先に精神力が切れたのか?

――違う。フーケはその考えを即座に否定する。
彼女は察した、もう魔法を撃つ必要が無いのだろうと、何かとっておきの奥の手があるのだと。
これは幾多の修羅場をくぐった勘だった。彼女の背中に冷たい汗が一筋垂れる。
(ヤバい……何かとてつもなくヤバい予感がする!)

空気が張り詰め、大地が鳴動しはじめた。
さらにバチバチと雷でも帯電するような激しい音が土煙の奥から聞こえる。
(何なの!何が起こっているの!?)

そのフーケの心情に答えるように突如、突風が巻き起こり土煙が吹き飛ばされる。

「視界良好!感謝するわ。タバサ!!」
「今度はよく狙って。……あとお礼はモフモフ一回」
フーケの目に映ったのは剣を大地に突き刺して翼の片方を黒龍の頭へと変えた水銀燈の姿だった。
そのアギトがブルブルと禍々しく震え、エネルギーの奔流が渦巻き、今まさに放たれんとしている。

「水銀燈、大丈夫なの?」
ルイズは水銀燈の背中から抱き寄せるようにがっちり掴んで聞いた。
「ええ、…あの時に比べればなんとかね……」

後ろを支えてくれるミーディアムがいてくれる、それだけで彼女の負担は遥かに軽くなった。

ミス・ロングビルとして品評会に立ち会っていたフーケも知らぬはずがない。
スクウェアメイジが設計した宝物庫の防御すらかすっただけで消し飛ばし、
角度がずれていたら学院本塔をも吹き飛ばしていたとすら言われる黒龍のブレス。
それが自分に向けられているのだ。

「ちいっ!冗談じゃないよ!」
フーケの頭にはもう破壊の杖の事など微塵にも無かった。
水銀燈達に背を向けゴーレムをけしかけてすぐに逃亡を計る。

だがその逃走経路を塞ぐように火柱が走った。
「あら!この子があなたの為にもう一度花火を打ち上げてくれるのに、逃げるなんてひどいんじゃないの?」
キュルケが炎を走らせ、杖先から上がる煙にふっと息を吹く。
「せっかくだからご覧になってはいかが?……特等席でね!」
そして片目を瞑ってちょっと意地悪っぽく言った。
黒龍のアギトがギリギリにまで開かれ、溢れ出るエネルギーが光の弾に収束されていく。
水銀燈は冷ややかに目を細め勝利を確信した笑みを浮かべて言い放った!
「受け取りなさい……貴女への、手向けの花よ!!」

もはやゴーレムの前進が敗れかぶれにさえ見える。その巨大な土の巨人に向けて轟音とともにブレスが撃ち放たれた。

支えていたルイズも反動で尻餅をつき、漆黒の羽が大量に舞い散る。
水銀燈はどうにか意識を保って頭を押さえつつも光弾の行方を見守った。

水銀燈を媒介として撃ち出されたルイズの力は、ゴーレムに吸い込まれると同時に眩い閃光と大音響を巻き起こし炸裂。
太陽が地上に現れたかのような膨大な熱量の光球がゴーレムを跡形もなく消し飛す!!

そして光球が縮退し、光の奔流が治まる。後に残ったのは直径10数メイルのクレーターだけであった。


「今度こそやったわ…うっ……」
頭を押さえたまま水銀燈が呻きその体がぐらりと揺らいだ。その片翼は品評会の時と同じく、反動でボロボロになっている。
ルイズ、そしてキュルケとタバサも彼女に駆け寄る。

「水銀燈!」
「あんまり頻繁に使える物じゃないわね……これ」
尻餅をついていたルイズが慌てて起き上がり使い魔の体を支えてあげた。ルイズに体を預けた水銀燈は気だるそうに呟いた。

「やったわね!流石は私が見込んだお人形よ!」
キュルケが赤毛をかきあげた後嬉しそうに水銀燈に抱きついた。
「……」
タバサはどさくさに紛れてまだ無事な方の翼にばふっと顔をうずめた。
……あ、水銀燈に突き飛ばされてひっくり返った。
起き上がったタバサは後頭部を打ちつけたのか、頭の後ろを両手で押さえてぷるぷるしている。
いつもの無表情な顔だが水銀燈に向ける視線が抗議がましい。


だがそんな一体と三人の前に突如現れた人影。
「最後の最後で詰めを誤ったね……あなた達!」
焦げたローブに身を包み現れたのはゴーレムごとブレスに巻き込まれた筈のフーケだった。どうやらギリギリで逃げ延びたらしい。

そして……彼女に回収され、その手に握られた破壊の杖が水銀燈達に向けられる。

ルイズもキュルケも、タバサすらも驚きを隠せず絶望に満ちた表情で、杖の空虚な暗い砲口を凝視していた。


新着情報

取得中です。