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Bullet Servants-04



私達にとって様々な思い出の詰まった、かけがえのない地――トリスアの森で行われたピクニックも一段落。

木立の間から差す、穏やかな日差し。
柔らかく暖かい風に吹かれての、気持ちよい午睡。
何より隣には、忠誠を誓った主にして……私がこの世で一番愛する女性が居る。
これほど――――執事として、男として、幸福なことなど他にあろうか。


『セルマー、リックー、どこー?』
『……いたぞ。あっちだ』
『え? どこですか……あ』


……ヴァレリア様と、アッシュの姿が見える。
二人のやりとりを聞きつけたのか、他のみんなも近づいてきているようだ。
気恥ずかしさに、つい苦笑する。

――お嬢様。ちょっと照れくさいところを、見られてしまいましたね。
傍らに眠る最愛の、“末裔たる者(ミスティック・ワン)”の少女に、そう微笑みかけようとして――――――



異変に、気付いた。





…………なんだ、これは。

視界が、眠る前よりやけに低い。しかも現在進行形で、なおもそれは続いている。
眠り続けるお嬢様の顔がどんどん、視界の上へずれて――――いや、違う。

(……沈んでいるのか!?)

それこそ底無し沼にでも浸かったかのように、“私だけが地面に飲み込まれていく”。
少なくともこんな表現でも使わなければ、いま私に起こっている状況を説明しきる自信がない。
さらにじりじりと、あるはずの芝生を透過し、体が大地に沈んでいく。

(お嬢様……!!
 ヴァレリア様、雪さん、アッシュ、ホープ! 誰でもいい、誰か手を貸し――――!?)

すぐ近くまで来ていた友人達に助けを求めようとして――――そこで、更なる異変に気付く。
体が、まるきり動かない。
いくら叫ぼうとしても、声……どころか、口さえ開かない。

(どういうことだ!?
 目は見えて、耳もちゃんと聞こえているのに……!!)

ついに、私の体全てが地に沈みこんだ。
もはや私が見上げているヴァレリア様達は、“水面の向こうの存在に”なりかけている。
だというのに――――

『これはちょっと……』
『起こせませんね』

(…………キャロル? コゼット!?)

私たちを見て苦笑する、同僚のメイド達。
二人とも、何を言っているんだ!?

『幸せな顔しちゃってまあ……』

ヴァレリア様の師であるエルフの大魔法使いが、いかにも楽しげに呟く。

(エルネスタさんまで……気付いていないのか!?)

皆、まるで私の異常に気付いた様子もなく、呑気にコメントを続けている。
お嬢様に異常が起きた様子がないのが、せめてもの救いだが……!

『――寝かせておいてやりなさい』
『起こす気も失せるぜ』

リザードマンとオークのベテラン刑事コンビが、呆れたように肩をすくめた。

(ガラさん、プーキーさん…………!!)

膨れ上がる絶望感に比例して、見る見る“水面”が――私が居たトリスアの森が、遠ざかっていく。

待て。
頼む。
お願いだ。
待ってくれ。
みんな。
私は、ここに――――――

遠ざかる意識の中で、最後に一つの、声を聞いた。
聞いただけでプライドの高さがすぐに分かるような、舌っ足らずな少女の声だった。


『――ここはトリステイン王国の、かの高名なトリステイン魔法学院!
 そしてわたしが、今日からあんたのご主人様よ! 覚えておきなさい!』





「――――ッ!!?」

毛布を跳ね飛ばし、飛び起きる。
まだ部屋の中は暗い。

「……夢?」

混乱したまま、半覚醒状態の頭で、呟く。
辺りを見回そうとして――自分がベッドではなく、板張りの床に寝ていたことを思い出した。

「それって、さっきまであなたが見ていたもの?
 それとも――――この状況を評して、かしら?」

懐から聞こえてくる、妙齢の女性の――即ち、私の魔銃の声。
その言葉によって覚醒した頭で、部屋の中を認識し――――


置き方の違う机に、まるで造りの違うクローゼットと戸棚。
執事の部屋などにあるはずのない、貴人用の天蓋付きのベッド。
そしてその中で寝息を立てる――――“黒ではなく、桃色の髪をした”少女。


――ここが、フォルテンマイヤー邸の私の部屋でない事を。
そして昨日起きた出来事は全て、夢ではなく現実だったと、否応なしに思い知らされる。

「……どうやら、夢ではなかったようですね……。
 おはようございます、ルダ」
「おはよう、リック。 寝覚めはどうかしら?」
「……最悪です」

ここはアーク・メリア連邦国でなければ、ニヴェンやギデオン独立国でも――いや、そもそもゴルトロックでさえない。
異世界ハルケギニアはトリステイン王国の、魔法学院の寮だった。


「はぁ……」

一つ、深い深い溜息をつく。
やりすぎると運が逃げるというが、せめてこの程度ぐらいは勘弁して頂きたい。
この状況を生み出した張本人――私の召喚主の少女に、何気なく目を向けた。

「すぅ……すぅ……」
「……起こすには、まだ早過ぎるか」

気持ち良さそうに寝息を立てている、少女の寝顔。
お嬢様とはまるで違うが――起きている時の意地っ張りなところがない分、まだ可愛らしいものである。
昨夜の彼女の行動には、流石に私も開いた口が塞がらなかったが――




『ふぁああ…………ようやく話がまとまったと思ったら、眠くなってきちゃった』
『左様ですか――お疲れ様でございます。
 それで、今夜はもうお休みに――――ぬぉっ!?』

いきなり展開された目の前の光景に、色を失う。
目の前の少女が唐突に、着ていた自分のブラウスに手をかけ、ボタンをぷちぷちと外し始めているのだ。

『なによ、変な声出しちゃって』
『……あの、な、何をなさっているのでせうか。ルイズ様?』

思わず声が裏返る。
前をはだけたブラウスの間から、ヴァレリア様を思わせる、ほっそりとした上半身がのぞいていた。
一瞬、さらにヴァレリア様のイメージに引き摺られるように『なだらかな平原』というフレーズが脳裏に浮かんだが――
……いや、やめておこう。二人の少女の名誉と、私の身の安全のためにも。

『なにって、着替えよ』

それは見ればわかります。
……ってちょっと待て私。それからルイズ様。


『……お、お待ち下さい。
 仮にも貴族の子女ともあろう方が、私のような者の前で生着替えなど――』
『何か問題でも?』
『大有りです! そ、そもそも私とて男なのですが――』

振って沸いた出来事にどもりつつ、後ろを向きながら抗議する。

『でもあんた、ハーフエルフでしょ? 襲われないって分かってるなら、べつにエルフに見られたって』
『半分は人間の血が流れております、というか種族以前の問題です!
 そもそもいっぱしの淑女が、異性の前でやすやすと肌など……わぷっ!?』

あまりにもあんまりな無防備発言に、つい振り返って反論しようとして――顔面に、柔らかい衝撃。

『なんなのよもう、いちいち細かいわね……うちの母さまや姉さまみたいなこと言わないでよ』
『私はあなたのお母様やお姉様ではございませんが、一応執事ですので。
 で、これは……一体なんでしょうか?』

顔面に飛んできた、布製品の塊を抱えつつ――
既にネグリジェ姿で、ベッドに潜りこもうとするルイズ様に問い直す。

『服よ』
『それは見ればわかります――って、その……下着まであるのですが』
『明日の朝でいいから、洗濯しておいてちょうだい』
『いえ、仰りたいことはわかりますが――その前に一つ、重大な問題を忘れておられないかと』
『あによ、もう……寝床ならこれあげるから、後は床で寝なさいよ』

くたびれた毛布をこちらに投げ渡すと、一方的にぴしゃりと言い切り、
魔法で灯されていたらしいランプを消して、ルイズ様は寝に入ってしまった。

『じゃあわたしはもう寝るから、程よい時間でわたしのこと起こすのよ。
 洗濯もー、忘れたら、許さないんだからね……ふにゅう』
『………………はぁ』




……流石にせつなくなったので、回想終了。
投げ渡されたスカート、ブラウス、ショーツほか衣類の入った籠を抱え、もう一度思う。
――いくら私が使い魔で執事とはいえ、男に女性用下着を洗わせるのはどうかと思うのですが。

「…………とりあえず、まずは洗い場を探すことから始めましょうか」
「……あなた、ほんと悲しいまでに使用人根性が染み付いてるわね」
「執事ですので」

諦観に近い開き直りとともにルダのツッコミを受け流し、洗濯籠を抱え、寮の外に出る。
日の出前ということもあり、外はまだ暗く、人の出歩いている様子もない。

いちおう、部屋へ連れて行かれるまでの間の、最低限の地理は覚えている。
昨日の今日で、流石にまだ不十分かつうろ覚えではあるが――まあ歩き回ればなんとかなるだろう。
なんとも微妙な気分に耐えながら、私は水場を探し始めた。




「ぁふ……ねむ。
 文句言っても仕方ないけど、早番なんてやるもんじゃないわね……」

洗い物を詰め込んだ籠を抱え、あくびをかみ殺しつつ洗い場へ向かう。
自慢にしているひいおじいちゃん譲りの黒髪も、あちらこちらがまだ跳ねている。
持ち回りで決めた割り当てだけど……やっぱり、なんか損した気分。
まだ春先だけに、この時間じゃ外はほとんど真っ暗だし。

「それにしても、食堂のテーブルクロスとかって、結構食べこぼしや染みも多いのよね」

……流石に面と向かってなんてとても言えないけど。
うちの弟や妹達じゃあるまいし、仮にも貴族の方ならもうちょっと丁寧に――――ん?


「……誰?」

目的地の洗い場には、先客がいた。
まだ薄暗くてよく分からないけど――多分体格からして、男の人。動きからしてどうも洗濯をしているらしい。
しかし、それにしても見覚えのないシルエットだけど――誰だろう?
この学院の貴族の方なら、自分で洗濯なんてしないだろうし……。

「……お、おはようございます。
 もしかして――――新入りの使用人さんですか?」

消去法で最後に行き着いた答え。
たぶん、この学院に来た新入りの使用人さんか何かだろう。
……なら、わたしが知らなくても無理もないか。
まだ覚醒しきらない頭で、わたしは見慣れぬ新たな同僚(と思しき人影)に、声をかけてみた――――。




じゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶ。
煤のようなもので薄汚れたブラウスを、白くなるまで揉み手洗いで洗ってゆく。

「ふぅ。これで、三着目……と」
「へぇ……存外堂に入ってるじゃない。手馴れたものね」
「洗濯や料理、掃除などの家事一般も、執事の必須技能ですよ?」

……とはいえ洗濯など、執事としての基礎修行以外では、屋敷ではキャロル達メイドの仕事であったため――実質、かなり久しぶりである。
正直スカートやブラウスなどはともかくとして、ネグリジェやキャミソール、ショーツなどの下着類は、上手く洗えている自信がない。
人手が多いとはいえ――キャロルやコゼット達メイドの役割の大きさを、しみじみと噛み締める。

「……それで、ブラウスとかスカートを優先して洗ってる訳?」
「し、仕方ないじゃありませんか。実際こちらのほうが数も手間もあるわけですし」
「ふーん。数はいいとして、手間は大して変わらなさそうだけどねえ」

ルダの冷ややかなツッコミを、辛くもスルー。
……まあ、男としては女性用下着など、あまり気が進まない洗い物だというのも、事実ではあるのだが。
お門違いな話ではあるのだが――
ヴァレリア様と二人暮らしで、執事としてもこういう事には手馴れてそうな雪さんが少し羨ましいです、はい。

「しかし、今の話じゃないけど……本当にブラウスの汚れ物が多いわね。
 いくつ溜め込んでたのかしら、あの娘」

……そういえば、どれもやけに煤汚れが多かったような――。
そう疑問に思ったところで、背後から足音とともに、近づいてくる気配。
肩越しに振り返った先には――見慣れたフォルテンマイヤー家のものとは違った意匠のメイド服に身を包み、洗濯籠を抱えた少女の姿。
この学院のメイド、といったところだろうか。


「……お、おはようございます。
 もしかして――――新入りの使用人さんですか?」
「あ、ああ……すみません、お邪魔でしたか?
 この洗濯物がひと段落したら、すぐここを空けますので」

後ろからのメイドの声に、少し慌てて応じようとして――


「あ……いえ、別に慌てなくても大丈夫ですよ。
 みんな最初はそんなものですし。 大丈夫、すぐに手際だってよくなりますから」
「……はい?」

帰ってきたのは、少し予想からズレた返答だった。

「これから慣れていけばいいんですよ、これから」
「あの……もしもし?」
「……それにしてもマルトーさんもひどいなぁ。
 他のみんなに紹介はしないわ、いきなり新人さんにこんな日の出前から洗い物させるわ……」

いきなり一人で納得し始めた少女に呼びかけてみるが、まるで気付く様子がない……どうしたものか。
軽く途方に暮れようとしたところで――少女の背後から、光がさし始める。
どうやらもう、日の出の時刻らしい。
状況についていけず、肩越しに生返事を返すのが精一杯の私に、一方的に喋り続けるメイド。

「とりあえずあなた、まだこの学院、来たばかりですよね。
 いちおうわたし、先輩っていうことになるようですし……
 また何か仕事のことでわからない事があったら、遠慮なく聞いてくださいね?」
「は、はぁ……」

先輩? まさかこの少女も召喚された人間なのか? それとも勘違い?
それはさておいても、どうも会話がかみ合ってないようだ。
少女の顔が、日の出の逆光で少し見づらくなってきた。


――そんな阿呆な事を考えている暇があったら、もっと状況を考慮すべきだったのかもしれない。
後から思い出しても、実に迂闊だったと思う。

例えば、私とこのメイドの視力の違いとか。
例えば、夜明け前後の明るさの変化とか。
例えば、ゴルトロックとハルケギニアの文化の違いとか。

そして――――

「あ、自己紹介、まだでしたね。
 わたしは、シエスタって言います。
 それで、あな、た……は――――」

振り返っている私の顔を、朝日が照らし始める。
そう、私の金髪の隙間からのぞく――――“人間より少しだけ長い耳”も。
朝日に照らされていく景色に反比例して、みるみる暗雲垂れ込めていく少女の顔。
……猛烈に、嫌な予感が私を襲う。



「いやあああああああああああぁぁあぁああ!? エルフぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」



――そしてこの状況に限定して言えば、“ハルケギニアにおけるエルフという存在”について。
早朝の洗い場に、メイドの少女の悲鳴が盛大に響き渡る。

「馬鹿」

……魔銃の辛辣過ぎる呟きに応えるだけの余裕は、私にはなかった。



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