あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのマリア

始祖ブリミル降臨紀元暦6242年の春。フェオの月、ヘイムダルの週ユルの曜日の夕方。
トリステイン王国、魔法学院にて。
男の聞いた話によれば、その日『ルイズ・フランソワーズ』が召喚したのは、小さな女神像だったという。

彼女は何歳になっても一つも魔法が使えず、多くの人間から侮辱され、軽蔑され、中傷されて育った。
簡単な『サモン・サーヴァント』で使い魔を召喚する儀式ですら、彼女には苦痛であった。
呪文をどんなに正確に唱えても、魔力を放てば必ず爆発し、何でも吹き飛ばす。
歩く災厄、『ゼロ』のルイズ。それが彼女、ラ・ヴァリエール公爵令嬢の不名誉極まる二つ名だったのだ。

《宇宙の果てのどこかにいる、神聖で、美しく、生命力に満ち、強力な使い魔よ》。
そう、彼女は呼びかけ、願い求め、訴えた。心の底から、あらん限りの欲と、世界への呪詛を込めて。
何回も、何十回も。爆発が三桁になろうという時、『それ』が現れたのだ。

「黒い、石の女神像……?」
女神か、あるいは修道尼か。両手を広げたその像は、生き物ですらない。
けれど、崇める者にとっては神聖で美しい、生命力に満ちた強力な女神なのだろう。何か惹かれるものもある。
周囲の嘲笑にかまわず、ルイズは恐る恐る偶像を手に取り、契約――『コントラクト・サーヴァント』の呪文を唱えた。

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。
 『五つの力』を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ」

そして、彼女の唇は、女神像の唇に重ねられた。
ある穏やかな春の夕方のことであった。



ビシリ、と像に亀裂が走る。その両眼からは血涙が流れ、亀裂からはなんとも言いがたい、
おそらくは腐敗した血肉の臭いと、寒気のするような黒い霧が噴き出す。
女神像の肩から無数の痩せこけた腕が突き出し、胴体は巨大に膨れ上がって腐臭を放つ肉塊と化す。

蛆と膿を垂れ流す腐肉はどんどん膨れ上がり、広場全体を覆い尽くす程に広がり、ゆっくりと空中に浮かぶ。
『それ』には頭らしい部分はなく、大きな腹と無数の腕を持つ、冒涜的で穢らわしい存在であった。
その周囲には、名も知れぬ悪霊たちが、ヒュウヒュウと啼き叫びながら飛び回っている。

「悪魔! いや、邪神か!」
引率の中年教師、コルベールが宙に浮かび、杖を構えて叫んだ。
使い魔召喚の儀式は、大抵術者の実力に見合った存在(動物、幻獣)が呼ばれるものだが、
稀に手に負えない危険な存在が召喚される場合もあり、そのためにも熟練した教師が立ち会うことになっていた。
だが、この巨大な腐肉は幾らなんでも危険すぎる。生徒たちの中には、見ただけで嘔吐し、失神する者もいた。

ルイズは、腐肉の前に浮かんでいた。『契約』が完成したのだ。
その白い肌には醜い痘痕が浮き出し、桃色の髪はぼさぼさの白髪となり、筋骨は歪んでねじくれる。
「貴女は、誰?」
けれど、ルイズは狂わない。しっかりと膨れ上がる腐肉を見据え、誰何する。

《妾はマリア。『病の母』にして『不潔な女主人』。世界に疫病をばら撒き、病の精霊を支配する大精霊。
 『混沌』における三柱の『不浄の神』の一なり。妾を召喚し、契約せしは汝か、人間の娘よ》



マリア。異世界《グローランサ》における、不浄の三神の一柱。
かつては『死』から滋養を見出した豊穣と多産を司る女神であったが、狂える神ラグナグラーに強姦され、
『獣人ブルーの母神』セッドとともに、世界を歪ませて破壊する『混沌』の女神に堕ちた。
その上半身に生えた無数の腕は、犠牲者を捕まえることを表し、下半身全体を占める胃袋は、犠牲者を喰らうことを示す。
神々の『時の盟約』によってこの世に『時間』が生じた後も、彼女は大きく力を削がれながらも『必要悪』として残されたのである。

「そうよ、マリア。貴女は私の下僕。一緒に世界を変えましょう」

《妾と『契約』したからには、汝は我が司祭『病の主』となる。世界に疫病と混沌をばら撒き、我が力を増すのだ。
 また、病に罹った者から、我が名において『病の精霊』を退去させる力をも授けよう。
 そうして信者が増えれば、妾は古の『大暗黒の時代』の如く、あらゆる者から畏敬されるであろう……》

マリアのおぞましい意思の声は、ルイズやその場にいる者の脳内に直接響き渡る。
忌まわしき悪疫の精霊がルイズの体内に宿り、彼女を『病の主(感染源)』とする。
だが、ルイズの肉体は、もとの美しい姿を取り戻していた。しかも強大な魔力が全身に漲っている。

《おお……なんと、天空に『青い月』と『赤い月』が在る。
 ならば、汝はこの世界における『赤の女神』、『混沌の娼婦』であったか。
 見よ、太陽は没し、『赤い月』から深紅の大蝙蝠が飛んでくる。
 あれこそは汝の乗騎。いざ、この世界を腐敗と破滅に導かん……》

コルベールの意識は、そこで途絶えた。



それから十年余り。
かつて『トリステイン王国』のあった大地は抉り取られ、新たなる『第三の桃色の月』として天空に在る。
それはアルビオンより高く、『東方』よりも遠い。

ガリアとゲルマニアの大半、そしてアルビオンは『帝国』に征服され、東の強大なエルフと鎬を削っている。
エルフは、『聖地』には異界から現れた『悪魔(シャイターン)の門』があるとして恐れているが、
今や『帝国』こそが、その悪魔だと考えている。我々人類との共闘体制も結んだ。
かの『帝国』では混沌とルイズとマリアの三大神が崇拝され、全ては一つだという『啓発』の教義が説かれているのだ。

「……そして、それを目撃した男、コルベールだけは生きて解放された。
 『貴方は私を叱らず、才能があると信じていて下さった。だから殺しません』と『虚無のルイズ』様に言われたそうだ。
 だが、その男は心を打ち砕かれ、精神を病んで衰弱死したという。今は『病の精霊』となり、月にいるかも知れないな」

ロマリアの教会で会った男からは、そう聞かされた。この聖なる国も、徐々に混沌に呑み込まれようとしている。
エルフとの同盟が人類を救った。だが国内にはガリアやゲルマニアの難民が多数住み着き、今も多くの血が流され続けている。
混沌の尖兵たるブルーやオーガ鬼、スコーピオンマン(蠍人)やウォクタパス(蛸人)どもが『帝国』では大手を振っている。
湿地にはドラゴンスネイル(大蝸牛)やゴープ(スライム)もうろついている。

偉大なる『始祖ブリミル』よ、この世界をお救い下さい。忌まわしき混沌から、貴方の子らをお守り下さい。
僕、ジュリオ・チェザーレは、教皇の勅命を奉じて何度目かの『聖戦軍』を率いる重責を担い、北へ向かった。

(終わり)

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