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虚無の王-09


 この日、図書館でタバサを発見した空は、以前と同じ様にして文字の読み書きを学んでいた。
 魔法学院での生活には、三日で馴染んだ。順応能力の高さも有るが、馴染まなければならない理由も有った。
 送還の魔法は存在しない――――オスマンの語った言葉は、少なくともこの学院内においては事実だ。
 そして、職員や出入りの業者に話を聞く限り、彼等の文明がハルケギニアと言う極めて狭い地域に限定されているのも、また事実だった。
 文化の形式は中世欧州に近似するが、発展の度合いは大幅に上。空はそう当たりを付ける。
 何より水が豊富で、比較的衛生状態が高水準にあるのが有り難い。この分なら、異世界から来た身でも、つまらない疫病に悩まされずに済みそうだ。
 一方、この世界全体で考えた場合、恐らく、ハルケギニアは極めて後進的な地域なのではないか、と言う気もした。
 砂漠に住まうエルフ達に東への陸路を封鎖され、海路も開けていない。
 大体、戦争に弱い国は遅れているに決まっている。

 この国には過去しか無い――――

 水色の後頭部越しに本を眺めていると、ふ、とそんな考えが浮かんだ。
 十分な情報も無いままの印象論だが、悪い予感と言うのは大抵当たる。
 ここで膨大な史料と、歴史から、送還の魔法を掘り出せればいい。だが、無い物を作るとなると、不可能なのではないか。
 いっそエルフとやらを頼る方が近道かも知れない。
 とは言え、人間型をした食人生物と会話が成立するかは大に疑問だ。
 それとも、東方を目指して見るか――――

「どうして?」

 不意の声が、空を些か早計な空想から現実に引き戻した。

「ここには、『貴方はどうして、そんなにも愚かな事を言い出すのか』と書いてある。なのに貴方は『なんでやねんっ!』と読んだ」

 文章を指でなぞりながら、タバサは言った。

「ここもそう。『ああ。どうすれば、アンリエッタの愛を得る事が出来るのだろうか』と言う科白から始まって、主人公の苦悩が2ページに渡って書かれている。なのに、貴方はたった一言『アンアンとアンアンしてえ』」

「間違うとる?」

 タバサは何もコメントしなかった。

「んー、最初に少し教わってからやったかな。文章見ると、いきなり全体の意味が、頭ん中に浮き出る様な感じになってな」
「間違っていたら無意味」
「え、ホンマ、間違うとる?」
「要約し過ぎ」

 空は顎の下を指先で撫でた。何故、この様な食い違いが生じるのだろう。

「ひょっとしたら、会話も食い違っとるのかもな。ワイの言葉はこっちの言葉に変換されて、こっちの言葉は日本語になって。文章読む場合は、こっちから日本語からこっちで、二重変換やから、余計おかしゅうなるんかも知れへん」
「こっちの言葉?変換?」
「ああ、ワイは別の世界から来たんよ。言うて無かったな」
「そう」
「随分、簡単に信じよるなあ」
「貴方は異世界的」
「イカシとる、て事かい?」
「なんでやねん」

 銅鐘が響いた。午前の授業が終わった様だ。
 タバサが膝から降りると、空は軽快に車椅子を返す。
 先日の様に、昼食を摂り損ねるのは御免だった。


   * * *


 空の一日は、ルイズより30分ばかり早く起きる事から始まる。
 寝床は藁束とシーツ、木箱で作った簡易ベッドだ。当初は藁束に毛布で、アルプスの少女を気取っていたのだが、藁屑が散乱する、と家主から苦情を申し入れられた。
 先ずは義足を装着。
 衣服は召喚された時に着ていた物に加え、今は二揃え持っている。清潔を保つ為に必要、と陳情すると、ルイズは存外あっさりと買い与えてくれた。内、一着は学院行事等に同行する際の物だから、普段は二着を交互に着る事になる。
 車椅子の各部を簡単にチェック。
 ルイズが洗顔に使う水を汲みに行く。この時、ついでに自分も洗顔を済ませ、旅行用の歯ブラシを使う。付属の歯磨き粉は数日で使い切った。
 着替えと、洗面器を用意してから、ルイズを起こす。寝起きの悪い御主人様が、グズグズと言いながらも、洗顔を済ませ、着替えている間、空は背中を向けている。
 着替えが終わると、ルイズは足を差し出す。そうして、靴だけは空に履かせるのだ。
 その時、貴族の少女は頬を浅く染める。瞳もどこか潤んでいる。男を傅かせる事に悦びを覚えているのか、執事と女主人を気取っているのか。
 現代日本に生まれていたら、池袋の比較的特殊な趣向を凝らした喫茶店に通い詰める口かも知れない。
 朝食はアルヴィーズの食堂で一緒に取る。そして、授業に出るルイズと別れて、部屋の掃除と、洗濯。
 ここからは、他人の都合に合わせて動く事になる。
 まず、図書館。タバサが居れば、文字の勉強をする。現状、基本はマスターしたが、専門書には未だ歯が立たない。優秀な教授を欠いてはお手上げとなる。
 その場合、コルベールの研究室に向かう。時間に空きが有る限りで、偉大な発明王は熱烈に歓迎してくれる。
 こちらも都合が合わない場合は、用務員や出入りの業者を捕まえて雑談する。いずれ学院の外で活動する日の為にも、この国の常識は知っておくべきで、ルイズにもタバサにも、そしてコルベールにさえ、それは全く期待出来なかったからだ。


   * * *


「おっ!」

 コルベールは顔を輝かせた。

「おおっ!」

 コルベールは額を輝かせた。

「おおおっ――――!」

 コルベールは歓声を上げて駆け出した。
 仰ぐ空には、蜘蛛の模様が描かれたフリスビー。小さな円盤がゆっくりと回っている。三匹の愛犬を遊ばせる為に使っていた品だ。
 今、禿頭の中年は、犬以上の興奮を見せている。ふわりと着地しようとするフリスビーを、年も忘れてダイビング・キャッチ。黒いローブが派手に地面と擦れ合う。
 今日は幸運な日だった。午前中にはタバサを捕まえ、コルベールは午後に受け持ちの授業が無かった。

「どや?真っ平らな円盤よりは、よう飛ぶんが判るやろ」

空が後を追う間、コルベールは大はしゃぎでフリスビーと戯れていた。要領を得ない投げ方だが、それでも手にする円盤が、風石も無しに、驚く程の距離と時間を滞空出来ると知るには十分だった様だ。
 落ちていた小枝を筆に、地面に図を書いてやる。
 フリスビーの断面に、大まかな空気の流れ。大雑把ながら、流体力学と航空力学について講義すると、魔法学院の教師は、たちまち四十代の少年へと変身する。

「素晴らしい!実に素晴らしい!この理論に従って翼を作れば、フネの航続距離を何倍にも伸ばす事が出来る!」
「せやかて、フネの推進は帆やろ。やる事、あべこべになるで」

 揚力とは抵抗だ。風石なる物があるなら、寧ろ翼は無い方が返って航続距離が伸びる可能性も有る。

「そこで“愉快な蛇くん”ですよ?」
「問題は燃料やな。もっと揮発性の高い物が無いと、馬力が足らん」
「それは、研究次第でどうにでもなるでしょう」

 コルベールも小枝を取る。大雑把なフネの図面。
 二人は知識を交換しながら、ああでも無い、こうでも無い、この方が良い、と図面に手を加えて行く。

「ここはこないな感じで――――」
「いやいや。逆に考えるんですっ!こうすれば――――」
「おお!お前、頭ええな」

 一段落着く頃には、辺り一帯、フネとも飛行機ともつかない絵で埋め尽くされていた。

「ま、何やるにしても、問題は金やなあ。コッパゲ、お前、パトロンとか探さへんのか?」
「うむっ。考えてはいるのですよ。貴族は皆、魔法を箒の様な、何も考えずに使う、勝手の良い道具程度にしか捉えていない。こと、火の魔法となると、破壊の力としか考えない。それでは実に寂しい。何か他に役立てる方法は無いのか――――」

 コルベールは熱弁を振るう。
 とは言え、その研究に理解を示す貴族は、誰も居ない。どんな発明を提案しても、そんな事は魔法を使えば良い、の一言で片付けられてしまう。

「阿呆。そら、話の持ってき方が悪いわ。馬が無くても馬車が動く、じゃ誰も食いつかん。具体性が無い。計画ごと持ち込まな駄目や」
「と、言いますと?」
「そやな。例えばや……新型のフネを設計した。これを建造して、東方に行きたい。成功すれば、交易路を拓いて、利益を独占出来る。乞支援――――とか?」

 コルベールはその言葉に目を瞠った。

「東方、ですか」
「東方や」
「東へ!」
「東へ!」

 コルベールは感極まった様子で、空を見上げた。

「いや~、話が大き過ぎて、余計誰も理解してくれなさそうですね」
「まずは細かい事からコツコツとやな……魔法の在り方変えたいんやろ。世の中、お前の発明品で埋め尽くしたれ。そうすりゃ、金にも困らへん」
「夢が膨らむなあ!」
「ワイも帰る方法探すのに、金要るさかい。協力させて貰うわ」
「是非!……所で、一つ気になる事が有るんですがね」
「なんや?言うてみい、コッパゲ」
「それです。私はハゲでは無い」
「ハゲやん。剃ってる、とでも言うつもりかい?」
「いいえ。それも違います」
「なら、なんや?」
「これは伸ばしているんですっ!」
「……そか」

 答えは迷った空は、結局、適当な相槌でお茶を濁した。
 丁度この時、大きな影が過ぎった。タバサの使い魔。風竜のシルフィードだ。

「なんでやねん」

 翼上の少女は、無表情に呟いた。


   * * *


「ルイズ~。急げ。特訓やで。特訓、特訓やっ」
「判ってるわよ」

 放課後はルイズと合流。
 学院に程近い岩場へと移動する。
 ルイズは膝を震わせている。杖を握る手も同様だ。
 移動手段――――車椅子にステップを付け、握りを掴んで後に乗る――――には一考の余地が有りそうだった。
 加減をしているとは言え、空は馬並だし、道は酷く荒れている。
 少し休憩してから、特訓を始める。

「特訓と言えば、滝なんやけどな。この辺に無いのは残念やわ」
「……有ったら、何させる気だったの?」

 ルイズは顔を引きつらせる。
 特訓初日。上から大岩を転がしてやった事を、未だ根に持っているらしい。

「なにしとんのや、ルイズ!避けたら特訓にならへんやろ」
「ななな何言ってるのよ!こここんな事してたら、死んじゃうわよっ!」

 結局、無謀な真似は止めにして、今は地道に事を運んでいる。
 先ずは、詠唱する呪文と、爆発の規模や発生地点の相関関係を調査する。
 対象はコモンマジック及び、各系統のドット魔法。
 又、同じ呪文でも、詠唱の仕方や、杖の構えで変化は生じないか――――
 魔法を使用すると、精神力を消耗する。
 日本語で言う所の同語と、完全に同一の概念とは限らないが、魔法の連続使用に少なからず制限が有るのは確かな様だ。
 自然、実地での訓練は短時間になる。



 夕食の時間前に学院に戻る。
 食後は座学。
 燃焼科学、爆発に関する基礎知識を講義する。

「魔法の事はよう判らへんけど、ルイズは魔力ちゅうの?それ自体は滅茶苦茶強いんと違うか?」
「なんで、そう思うの?」
「爆発言うんは、圧力の急激な上昇、解放の結果起きよるもんや」

 これは想像だが――――空は説明する。
 魔法が成功した場合、魔力は効果として解放される。だが失敗の場合、効果と言う逃げ道を得られない事から、圧力が限界まで高まり、爆発となる。

「いや。もっと言うと、今まで試した魔法の効果じゃ、逃げ道として小さ過ぎる。で、力を逃がし切れずに爆発。実際発生していた小さな効果も掻き消されてまう――――そんな所やないかと思うてな。これなら他の連中が失敗しても爆発せん説明にもなるやろ」
「……さあ。よく判らないわ」

 ルイズは返答を避けた。
 自分が系統魔法を使えないのでは無く、系統魔法が自分の力を受け入れる器として小さ過ぎるのだ――――
 あまりに尊大な発想だ。生まれてこの方、出来損ないと呼ばれて来た少女が、飛びつくよりも、拒否感を覚えるのは当然と言えた。

「最初は誰かて失敗する。その頃から、“ゼロ”言われとった訳やないやろ。お前の失敗ぶり、逆に褒める奴とか居らへんかったか?」

 ルイズは尖り目の顎に指を当てる。
 最初は自分も屈託無く爆発を起こしていた。姉妹はただ笑い、両親も笑いながら、将来の大物と太鼓判を押した。
 尤も、一年もすれば、誰も期待を抱かなくなった。その後、誰か自分を評価しただろうか?

「ワルド様――――」

 美しい少年が笑顔が、脳裏に浮かんだ。
 また、失敗して父君に怒られたのかい。大丈夫、僕が取りなしてあげよう。
 あまり気にする事は無いよ。君には凄い才能が有るのだから――――

「誰やそれ?」
「私の……許嫁よ。きっと、私を慰める為に、そう言って下さったんだわ」
「そうかも知れへんし、本気かも知れへん。ひょっとすると、目茶キレる奴かもな。ちょっと興味湧いたわ。今度、紹介し」
「もう何年も会ってないのよ」
「許嫁やろ」
「親が決めた事だもの。ワルド様は女王陛下の魔法衛士隊隊長で、スクウェア・クラスのメイジなのよ。私なんか、とても釣り合わないわ」
「向こうには別な意見が有るかも知れへんけどな。ま、ちょいと脱線したわ。続けよ」

 基礎知識に大部分を費やしながらも、応用技術も絡めて行く。
 爆発を利用して、実際に何をするのか。それを知っておいた方が、イメージも湧きやすいだろう。
 その後、ルイズは授業の予習復習に取りかかる。
 空は散歩と称して外に出る。
 トリステイン魔法学院はのどかだ。敷地内で動く限りでは、深夜外出を見咎められる事も無い。
 ルイズがベッドに入った頃、空も部屋に戻って、自分の寝台に入る。
 念の為、携帯で日記を書く。情報を整理する為だ。
 こうして、空の忙しい一日は終わる。


   * * *


 空のトリステイン滞在は、七日目を迎えた。
 地球なら一週間が過ぎた計算になる。尤も、ハルケギニア……と言うよりも、この星の場合、一週間は八日間。因みに一年は三八四日だ。
 一日の時間が、地球と変わらない事は確認出来ている。
 重力も多分同じ。
 その辺りから星の密度や大きさを計算出来ないか。そんな事を考えて、結局止めておく事にした。あまり、意味の有る事では無さそうだったからだ。
 空は一日毎に、ハルケギニアの知識を深めて行く。知れば知る程、地球に帰るのが一筋縄では無いと判る。
 これは気長な仕事になりそうだ。事によったら、帰る頃には、“空の玉璽〈レガリア〉”は解放か、破壊かの道を辿っているかも知れない。
 だとすれば、帰る意味など何も無いのではないか――――そんな考えが浮かんで、空は頭を振る。
 諦めたら、そこで終わりだ。諦め切れる事だったら、八年前、脚を砕かれた時にそうしている。
 また、魔法学院での一日が始まる。
 何時もと変わらぬ日々だ。そうなる筈だった。
 所が、この日は、ささやかな偶然と不運とが重なり、少しばかりスパイスの利いた一日となってしまった。
 午前中、タバサもコルベールも捕まらなかった。
 話し相手も見つからなかった。
 仕方なく、ルイズの授業にお供する事にした。
 文字も大分判る様になったし、魔法の知識は書物から得られるにしても、生で見ておくに越した事は無い。

「諸君、最強の系統は知っているかね――――」

 教壇では一目に不人気そうな教師が講義している。
 空は寝たフリをしながら、聞き耳を立てていた。
 自分が居ると、生徒達が萎縮する。それに配慮したのだが、正直に失敗だった。本当に寝てしまった上、滅多に言わない寝言を口にした。
 揺り起こされた時、眼前には真っ赤な顔で睫を伏せるルイズが居た。

「……なんて夢見てるのよ……もう――――」

 泣きそうな声だ。
 女生徒達は或いは顔を背け、或いは顔を手で覆っている。
 男子生徒は興奮しきった様子で身を乗り出している。

「……と、とにかく、皆に説明してっ。ねえっ。今のはただの夢だって!」
「ワイ、寝言言うとった?」
「言った所じゃないわよっ……」
「どないな寝言?」

 どこにそんな余裕が有ったのか。ルイズの顔が益々赤くなる。

「し、知らない!……」
「せやかて、どんな夢か判らへんかったら、ワイも説明のしようがないで?」
「……とても口に出来ないわ……」
「どないな風に?」

 ルイズは仕方なく、空の耳元でそっと囁いた。

「あん?……よう、聞こえへん。もう一度」
「だから……――――」
「もうちょい、大きな声で」
「……――――」
「ワンスモアや。もっと大きな声で」

 そんなやり取りを何回繰り返した時だろう。
 乾いた音が鳴った。
 空の頬を引っぱたくと、ルイズは教室から逃げる様に駆け出した。

「……なんやっちゅうねん、一体?」
「随分、刺激的な夢を見ていらした様ね」

 キュルケが潤んだ瞳で擦り寄って来る。
 その説明で、空は漸く事態を察した。どうやら、未成年には聞かせられない様な夢を、つぶさに寝言で漏らしてしまったらしい。

「……なんや。ワイも落ち着いたつもりやったんけどなあ」
「よろしいじゃありませんの。大変、興味深い話でしたわ、ミスタ」
「そか?この手の話なら、幾らでも有るで。そやなー、これはもう五年前くらい前の話やけど――――」

 空が話を始めると、男子生徒は身を乗り出し、女生徒は顔を背けながらも、さり気なく距離を詰める。
 神聖な教室はピンク色の空気で染まったが、それに文句を言う人間は誰一人居ない。
 終鐘。授業は殆ど進まなかった。

「号令はどうしたのかね?起立、礼の号令は」
「もう勃っています」

 風上のマリコルヌが、生徒半数の意見を代弁した。

「うむ。では礼」

 ミスタ・キトーは珍しく柔軟な態度を見せた。彼もまた、立てない理由を抱えていたからだ。


   * * *


 この日、ルイズは空の顔を見ようとしなかった。
 会話も拒否した。
 特訓の時間になっても姿を見せなかった。

 この日、男子トイレはいやに込んでいた。
 やましい事は特に無く、ただ純粋に便意を催しただけ、とは、あるクラスの生徒の談だ。

 この日、一部の女生徒に噂が広がった。
 ミス・ヴァリエールの使い魔に近付いてはいけない。妊娠する。

 この日、一部の男子生徒は、空に対して敬礼する様になった。

 そして、この日、空は部屋から閉め出された。
 使い魔の顔を見た瞬間、主人の少女は顔を真っ赤に染めて扉を閉じ、無言のまま鍵を掛けてしまった。

「こらー、ルイズ!ツカイマの保護は主人の義務やろっ。ワイは在トリステイン日本大使として、断固抗議するっ」

 部屋の前で騒いだが、徒労に終わった。
 トリステインは性に不寛容な国なのだろうか。
 中世欧州では、アナルセックスやオーラルセックスは勿論、快楽を目的とした性交渉は、夫婦間ですら罪悪だった。そこで現代日本の性風俗を語れば、変態と見なされても不思議は無い。
 なにしろ、あの時代、同レベルの想像力を発揮し得たのは、贖罪規定書を執筆する様な司祭様の類だけだったのだから。
 だが、それにしてはルイズの反応がおかしい。クラスメート達やキュルケのそれと差が有りすぎる。不思議の国のアリスよろしく「そんなことをしたら、お婆様に叱られてしまうわ」と口走る様な、古くお固い道徳を引きずるタイプなのだろうか。
 さて、今夜はどうしよう。
 床は石敷き、廊下に開いた窓からは、冷たい風が吹き込んで来る。さすがにここでは眠れない。

「コッパゲの世話になるか」

 空は部屋の前から離れる。
 背後から足音が忍び寄って来たのは、丁度階段に差し掛かろうとした時だった。重く静かな足音――――キュルケのサラマンダー、フレイムだ。
 こんな所で何をしているのか、と首を捻った時、階下から物音。見ると、巨大なモグラが躙り寄って来る。

「……これは、怪物に挟まれたワイ、今、ドキドキするほど大ピンチ?」

 そんな事を嘯いている間に、フレイムがジーンズの裾をくわえた。
 あ、と声を上げた時、モグラが反対の脚をくわえた。
 二匹はそれぞれ、正反対の方向へ、空を引っ張り始めた。

「あだだだだだ――――っ!」

 二匹による股裂きに、空は悲鳴を上げた。


 ――――To be continued


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