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宵闇の使い魔 第弐拾話

タルブ村を襲撃する新生アルビオンの竜騎士達。
その先頭に立つのは、死んだはずのワルド―― 一体何が起こっているというのだろうか。
姫殿下は無事なの? トリステインはどうなってしまうの? 分からない事が多すぎる。
でも今は、目の前に居る人たちを助けなけなきゃ――


宵闇の使い魔
第弐拾話:目覚めの時


虎蔵と別れたルイズ達は、空の竜騎士達に発見されないように慎重を期しながら、逃げ遅れた村人を救助して回っていた。
キュルケが燃え盛る火をコントロールし、タバサが風と氷で消火する。
マチルダが大地を、家の壁を削っては崩れ落ちた家屋に取り残された村人を助け出す。
一度は《破壊の杖》を巡って対立していたとは思えないコンビネーションである。

ルイズだけが何の力にもなれずに、悔しさを募らせる。
だが今は不用意に、無理に何かを成そうとするべき時ではない。
ルイズにもその程度の分別はあった。

「拙いわ。また、一騎こっちに来る――」
「またかい――――しつこい奴らだねぇ」

見張りをかって出ていたルイズの警告に、マチルダが作業を中止して土壁を偽装する。
一行は汚れるのも構わずにその影に身を潜めた。
ルイズは肌身離さず持っていた《水のルビー》を指にはめると、それを反対の手で包み込むように祈る。

メイジが四人も居て情けない話だとは思う。
こうしている間にも、火や煙によって命を落とそうとしている人が居るかもしれないのだ。
出来る物ならば、竜騎士達を追い払って救助に専念したい。
だが、空を陣取る竜騎士は三騎。
それも、名高きアルビオンの竜騎士だ。
どう転んでも、この四人で勝てる相手ではない。

竜騎士がブレスで崩れかけていた納屋を破壊すると、また別の方向へと飛んでいった。
徹底して行わないで居る理由は不明だが、ルイズ達にはありがたかった。
更に、暫くすると三騎全てが村の外れへと一目散に飛んでいってしまう。
救出作業はやりやすくなったが――――

「拙いね。トラゾウの所に向かったか――――」
「嘘――助けに行かなきゃ!」

マチルダの呟きにルイズが物陰から飛び出そうとするが、彼女のマントをタバサが掴んで引き止めた。
抗議の視線を向けるルイズに向かって、タバサは遠い空の一点を示した。
其処には、三騎の竜騎士達がホバリング状態で留まっている。

「――――加勢する様子は無い」
「どういう事だい。アイツがやられているとでも言うのか――――」
「それは考えにくいわ。四対弐で圧倒していたのよ?」

マチルダの危惧にルイズはびくっと肩を揺らすが、キュルケがそれを抱きしめるようにして宥めながら反論する。
キュルケの言葉は誰もが納得する所であるが、そうなるとあの三騎の行動が謎だ。
敵味方、情報、思惑が様々入り乱れている。
結局、彼女たちは一刻も早く村人の救助を終えて、虎蔵の元へと駆けつけるという選択肢しかないのだった。


暫くの後、森の中から村の青年が彼女らの元へと駆け寄ってきた。
森に逃げた村人たちが合流して、全員の無事を確認したということを伝えにきてくれたのだ。
これで彼女たちの役目は果たせた。

「貴族様方も、早く森へ!」
「いいえ。私たちにはやる事があるわ。村の皆には、平原とは反対方向にできるだけ離れるように伝えて頂戴」

訴えかける青年に、ルイズが土や煤で服だけでなく顔すらも汚したままで答える。
貴族の子女にあるまじき格好であるが、その姿は紛れも無く、彼女が望む貴族そのものであった。

「しかし! 幾ら貴族様とはいえ、竜騎士には――――」
「えぇ。私達では勝てない――――でも、私の使い魔が。仲間がまだ戦ってるのよ。置いて逃げることは出来ないわ」
「――解りました。伝えます。ご無事で!」

食い下がる青年に、ルイズがぴしゃりと言い放つ。
すると流石に青年も納得したようだ。
最後にそう声をかけて、一目散に森の方へと走っていった。
これでタルブ村の人々については、それなりに安心して良いだろう。
後は虎蔵を助けに行くだけだ。

しかし、その瞬間。
その場の全員が、村の外れ――――恐らくは虎蔵とワルドが戦っている辺りに強大な気配を感じ取った。
それに続いて強烈な突風が吹き荒れる。
軽いルイズやタバサでは吹き飛ばされそうなほどの、物凄い風だ。

「きゃっ!」
「――ルイズ!?」

タバサは風系統の術者として風を感じ取っていたのか、皆より一足早く身を伏せて難を逃れた。
しかしルイズは間に合わずに、吹き飛ばされそうになる。
キュルケが何とか捕まえて、強引に地面に引きずり倒した。

「大丈夫?」
「えぇ、ありがとう――――助かったわ――」
「これで何とか――――けど、これじゃ近づく事も出来やしないね」

マチルダが口惜しそうに舌打ちしながら土で防風壁を作り出す。
おかげで何とか体勢を整えることが出来るようになったが、
ルイズは風に吹き飛ばされるという前代未聞の経験にまだ目を白黒させていた。
タバサのような空を高速で飛びまわる竜騎士でもない限り、なかなかできる経験ではない。

ふと地面を見ると、キュルケに地面に引きずり倒された拍子にバッグから《始祖の祈祷書》が飛び出してしまっていた。
慌てて拾うルイズ。破れている様子は無い。
ほっとしてバッグに戻そうとしたのだが、止まぬ風がバサバサと強引にページを捲った。

「えッ――――なに、これ――――」

するとどういう事だろうか。
白紙であった筈のページに、うっすらと文字が浮かび上がっているのだ。
状況も忘れて見入ってしまう。


其処に書かれていたのは、伝説の《虚無》について。
ルイズの指にある《水のルビー》を含む、《系統の指輪》と、
《虚無》使いの資格をもって初めて解読することが出来る仕掛けが施してあったのだ。

ルイズは周囲の轟音すら耳に届かなくなったかのように熱心に読み続ける。
風と空の変化に気を取られていたキュルケたちは、ルイズのその様子に気付くことは無かった。



一方、虎蔵とワルドの戦いを上空から監視していた竜騎士達はそこで起こった現象に呆然としてしまっていた。
遍在による四方からの面攻撃。
回避不可能な必殺の一撃。
《閃光》のワルドの実力を甘く見ていたと痛感せざるを得ない、鮮やかな手並みである。

だが、スクウェアクラスのメイジと渡り合う謎の男はそれを耐え切った。
いや、耐え切ったという表現が適切なのかも解らない。
《エア・ハンマー》によって巻き起こされた土煙の中から現れた男は、化け物と呼ぶに相応しい姿へと変化していたのだから。

「や、奴は何者なのだ――――それに、なんなんだこの風はッ!」
「《閃光》の魔法などではないぞ、これは。まさかあの男が起こしているとでも言うのか?」
「――――まさか、先住魔法」

吹き上げてくる強い風のなか、なんとか高度を維持させながら僚友と怒鳴りあう竜騎士達。
彼らの眼下では、両者の戦いが再開していた。
だが、その展開はあまりにも一方的である。
今までとは比べ物にならない速度で民家の上の遍在に肉薄した男が、右手の爪で遍在を貫いた。
そのまま腕を振り嫌うと、遍在は真っ二つに裂かれ、消滅した。
一瞬の出来事である。
瞬きも出来ぬ間に遍在の一体が倒されていた。
それだけでも驚くべき事であるのに、民家の上からワルドを見下ろす男の背中には――――なんと黒い翼が生えていたのだ!

「翼! 奴は翼人か! くそ、翼人の先住魔法が此処までの物だと? 聞いたことも無いぞ!」
「だが目の前で起こっていることは事実だ! 報告に戻って、待機中の小隊を全て出させろ! すぐにだ!」

僚友の怒鳴り声を受け、一騎の竜騎士が限界速度で艦隊方向へと飛んでいった。
残る二体も、出来るだけ高度と距離を取って二人の戦いの監視を続ける。
ワルドの援護に入ろうという気は起きなかった。
二騎とはいえ火竜を操る竜騎士が援護に入れば、状況は変わるかもしれない。
頭の片隅で理性はそう叫んでいるのだが、身体が動かないのだ。
言い知れない恐怖のような物を感じているのだ。

もっとも、彼らは知る由も無いことではあるが、その反応は至極まっとうな物であるといえる。
謎の男――虎蔵は元の世界でのとある事件の折に、低気圧として顕現した異形のものを取り込んでいる。
その結果、彼は幾つかのリスクを負ったものの、自らを低気圧の主として気圧現象を操る術を得ていた。
つまり、今の虎蔵は自然現象そのものであるといえる。

太古より人は自然の中に神を見た。
それは魔法として様々な奇跡とも呼べる現象を日常に感じ得るハルケギニアの民とて、大差は無い。
自然によって恵みを受けながら、自然によって全てを失うこともある。
文明を発達させる以前の人々は、正しく自然によって生かされ、殺されていたのだ。
遺伝子に刷り込まれた本能的な畏怖。
それが竜騎士達の身体を支配しているのだ。

「これが先住魔法だというのならば、聖地奪回など出来る物か――――」

竜騎士の口から零れ出た言葉は、正しく彼の本心であった。


その間にも、ワルドの遍在が一人、二人と消されていく。
もっとも、ワルドとて唯やられるばかりではなかった。
のこる遍在と絶妙な連携を取って次々と攻撃を仕掛けている。
風を、電撃を次々と放っては虎蔵に命中させている。
普通ならば"殺し過ぎている"程の過剰攻撃だ。

だが、風による攻撃は右腕に吸い込まれるように散らされ、電撃は服を焦がしこそするが、大きくダメージを与えている様子は無い。
反対に、虎蔵が右腕を大きく振る。
すると、大地を、建物を鮮やかに切り裂きながら、不可視の刃が遍在に襲い掛かった。
非常な低圧によって生み出される窮奇現象である。
遍在は回避すら出来ずに、細切れにされて消滅した。

ごくりと、自らが唾を飲み込んだ音で竜騎士は我に帰った。
拙い、このままではワルドがやられるのは目に見えている。
慌てて援護に向かおうとしたその時、ワルドは《ウインド・ブレイク》を地面に叩き込み、
土煙を巻き上げてから《フライ》で空へと飛び上がった。
風に煽られ十分なスピードは出せていないが、直ぐにその元へ彼の風竜が飛んできた。
風竜はワルドをその背に乗せると、大慌てで艦隊の方向へと逃げ出していく。

「ッ――――逃げるか。だが、正しい判断だと言わざるを得んな!」
「遅すぎた気もするがね! 我々も追うぞ!」

二騎の竜騎士も、恐怖を振り払うようにワルドの後を追いかけていった。



その少し前、ルイズたちは未だにマチルダの作った防風壁の陰に隠れていた。
キュルケが自らの髪とタバサを抑えながら空を見上げる。

「――――酷い空ね。嫌な色をしているわ。それにあの渦――――何がおきているの」

どんよりとした不吉な空で、雲が渦を巻いている。
双月どころか、青空すら見ることが出来ない。
こんな不吉な空を見たのは、キュルケに限らず全員が初めてであった。

「まったく。本当に如何しちまったんだい。こいつは――――」
「空の上なら兎も角、地上でこれだけ風が強いなんてね」
「―――-上はもっと凄い」

タバサがキュルケに抑えられながら、遠い空――タルブ平原の上空をを指差した。
ラ・ロシェールを向けて展開しているアルビオンの艦隊が互いに接触しないように右往左往しているのが見える。
フネはひっくり返らないように、味方のフネと接触しないようにするだけで精一杯のようだ。
もはや、新生アルビオン自慢の艦隊も役立たずである。

「けど、この調子ならあいつらも――――」

マチルダの言葉どおり、虎蔵とワルドの戦いを様子見していたと思われる竜騎士達も突風に翻弄されていた。
一騎は暴風が吹き始めて暫くの後、艦隊の方へと飛んでいったが、二騎が相変わらず何かを監視するように残っているのだ。
だが、彼らの煽られ方を見ると、上空だけではなく虎蔵達の居る筈の地点からも風が吹き上げているようだ。
一瞬、この突風がワルドの魔法かとも考えたが、即座に否定する。
幾らスクウェアと言えども、これほどの広範囲に風を巻き起こすことは出来ない。
ならば、一体何が起きているのだろうか。
しかしその瞬間、別の竜騎士が飛び上がっていくのが見えた。


「あれは、子爵?」
「みたいだね――――逃げていくのか?」

タルブ村を襲撃していた最後の竜騎士。
すなわち、ワルドは監視していた二騎の竜騎士達には目もくれずに、一目散に艦隊の方へと飛んでいく。
その二騎の竜騎士達も慌ててそれに続いた。

「ッ――――アレ、見て」

しかしその時、タバサが普段のフラットな声色とは異なり、かなりの緊張を含んだ様子でキュルケの袖を引っ張った。
逃げていくワルド達から、再び先ほどの方向へと視線を向ける。
すると其処には、黒の翼を生やし黒衣の人影が吹き荒れる暴風をものともせずに浮いていた。
威風堂々たるその様子は、この場に吹き荒れる風の主のようにすら見える。

いや、恐らくその通りなのだろう。
その姿には、だれしもにそう思わせる迫力があった。
特に、背中の翼とはまた別に肘から羽が生えたかのような、不可思議な右腕。
遠目にはよく見えないにも関わらず、其処からこの暴風が巻き起こっているようにすら見えるのだ。
そしてそれは――――

「翼人? いえ、あの格好は――――ダーリン!?」
「嘘だろ、アイツ――翼人だったってのかい?」
「解らないけど、でもあんな格好をしているのはダーリン以外に見たこと無いじゃない!」

そう、どう見ても虎蔵である。
凄腕の剣士が奇妙な術を持ち出し、更には翼まで生やしてきたのだ。
異世界――虎蔵の住んでいた世界は一体どんな魔境だというのだろうか!

虎蔵はばさりと翼を羽ばたかせては、逃走する竜騎士を追いかけ始める。
だが、反対にアルビオン艦隊からは竜騎士の大群が飛び立ち始めていた。
十騎は優に超える。もしかしたら二十騎は居るかもしれない。
恐らくは最初から虎蔵の様子を監視していた竜騎士達は、この現象を引き起こしているのも虎蔵であると判断したのだろう。
その彼を打ち倒すために、大規模な戦力を向けてきたのだ。

「拙い、幾らなんでもあの数は――――」
「トラゾウ――――タバサ、お願いが――」

そのあまりの戦力に、マチルダの口から絶望の声が漏れる。
幾ら虎蔵でも、多勢に無勢だ。
キュルケが心配そうに、最近では呼ぶことの無くなった彼の名前を呟く。
そして、真剣な表情に切り替えてタバサに視線を向けた。
そう、彼女はシルフィードに乗って援護に向かおうというのだ。
タバサもそのつもりだったのか、こくりと頷いた。

すぐにシルフィードが隠れていた森の中から飛んでくる。
どういう訳か、竜騎士達の竜とは異なり比較的スムーズに飛んでいた。
キュルケはそれを見ると、マチルダへと視線を向ける。

「ミス・ロングビル。ルイズを頼むわね」

空の上から、シルフィードに乗りながらの先頭となると、土系統のマチルダには攻撃手段が少ない。
マチルダ自身もそれを重々承知しているため、あぁ、と頷いた。
だが――――

「お姉さま! あの人なら心配は要らないわ。この一帯を、あの人の風が支配しているんだもの!
 風を捉えることも出来ない竜に乗る奴らになんか、負ける筈が無いわ! きゅいきゅい!」


シルフィードが喋った。
タバサは眉を顰め、キュルケとマチルダが呆然とシルフィードへと視線を向けた。

「あ、喋っちゃった。ごめんなさいお姉さま」

人語すら操る高い知能を持つ竜。
韻竜。
それこそがシルフィードの本当の種である。
タバサは面倒事を起こさないためにそれを隠していたのだ。
だが、此処に居るのはキュルケにルイズ、そしてマチルダ。
マチルダはまだ多少疑問があるのだが、皆仲間だ。
ガーゴイルだといって誤魔化すよりも、さきに問い詰めたいことがあった。
タバサは皆にシルフィードのことをさらっと説明すると、すぐさまシルフィードへと話を向けた。

「説明して」
「きゅい! 私も詳しくは解らないのね。でも、辺りの風からも、あの空の渦からも、あの人の気配を感じるのね。きゅいきゅい!」
「――――となると、この現象はアイツが引き起こしているってことかい」
「きゅい! 多分そうなのね。凄い事なのね! あの人元々普通の人間っぽくない匂いだったけど、
 こんな正体だったなんて思わなかったのね! きゅいきゅい!」

タバサやマチルダの問いに、シルフィードはやや興奮した様子で答える。
人間よりも遥かに自然と近しい種である風韻竜として、虎蔵の起こしている現象に興奮しているようだ。

「ルイズ、貴女――本当にとんでもない人を召喚したわね――」

キュルケはそう呟きながら、無数の竜騎士と交戦を開始した虎蔵を眺めた。
距離があってよくは見えないが、無数の魔法やブレスが飛び交う中を虎蔵は縦横無尽に駆け回り、次々と竜騎士を落としていく。
何度か攻撃を喰らってしまっている様だが、動きに陰りは無い。
多少心配ではあるが、確かにたった一騎で援護に行っては足手纏いになってしまうかもしれない。

だが、その時になってキュルケがようやくルイズの異常に気付いた。
地面にしゃがみ込んだまま、一心不乱に白紙の《始祖の祈祷書》を読みふけっていたのだ。

「ルイズ! 貴女、さっきから黙ってると思ったら何してるのよ!
 ダーリンが、貴女の使い魔が凄いことしているのよ! そんな白紙なん――か――――」

興奮した様子でルイズに虎蔵の活躍を見せようとするキュルケ。
だが、言葉は尻窄みになっていった。
ルイズの目が、あまりにも真剣だったためだ。

彼女は何時だって真剣な様子で講義を受けていた。
それは根が真面目であることも、魔法が実践できないことへの反骨芯もあっただろう。
だが、今はそういった物ではない。
同学年の中で、自分がルイズをもっともよく見ていたという自負のあるキュルケには解った。

「キュルケ。貴女には、これ――白紙に見えるのね」
「え、えぇ――――何処から見ても。ちょっと、ルイズ。貴女には何か見えるとでも言うの?」
「――――《虚無》について書かれているわ」


ルイズの言葉に、マチルダがぎょっとした様子で視線を向ける。
タバサも、それほど大きくは無いが表情に変化があった。
仕方が無いことだとは思う。
しかし――――

「この本は王家から渡された物で、この指輪は姫様から頂いた物なの。
 白紙に見えるのは、《虚無》使いの資格を持つ者が指輪をはめた時にのみ、中身が見れる仕掛けが施してあるみたい」
「じゃあ、なにかい。お嬢ちゃん、アンタが《虚無》の使い手だって?」
「――――私だって、信じられないけどね」

マチルダの突込みにも、ルイズは虎蔵のように肩を竦めて答える。
本を落とせば、今も文字は見えている。

『――初歩の初歩の初歩。《エクスプロージョン》』

これ以外のページには文字は出ていなかった。
これだけの厚さの本で、数ページしか使っていないとは考えられない。
ならば、今の実力ではこの魔法しか使えないということなのだろうか?
どちらにしても、《エクスプロージョン》なる《虚無》は使える。使えるに違いない。
そしてその為の呪文は、一度見ただけですらすらと頭に入ってきた。
もはや《始祖の祈祷書》を見ることなく詠唱できることだろう。

「――――本当なのね?」
「えぇ」

キュルケの問いに、ルイズは正面から――身長差から見上げるようにはなるが――見つめた。
キュルケはその曇りの無い瞳を見ながら、色々な事を思い出していた。
学院教師の誰一人として解くことの出来なかった、ルイズの"失敗"の原因。
前例の無い"人間"の、それどころか"異世界"の――――強力すぎる使い魔。
どちらも、普通のメイジというにはあまりにも特異過ぎる。
それは彼女が《虚無の系統》だからなのだとしたら?

「――――ありえなくは、無いか」
「キュルケ!」
「ちょっと、本気かい――――?」

暫くルイズと見詰め合った後に、彼女の言葉を信じるといったキュルケ。
マチルダは信じていないようであったが、

「まぁ、そんな事もあるかもしれないが――――なんにせよ、今は見守るのが最良の選択だよ」

といって肩を竦めて、再び虎蔵の戦いへと視線を戻した。
マチルダは、虎蔵自身の強さに十分な信頼を置いている。
であるから、虎蔵に任せておけばあの竜騎士は倒しきると思っていた。
故に、仮にルイズが《虚無》を使えるのだとしても、今は何もする事が無い。
そう考えたのだ。

だが、ルイズにはそのつもりは無かった。
マチルダもキュルケもタバサもトリステインの人間ではない。
だが、自分は違う。
この国の貴族なのだ。
ならば、戦える力があるのならば――――


「タバサ。お願いがあるの」
「――――何」

既にいつもどおりの、平坦な調子で返事をするタバサ。
しかし、《虚無》使いだと言うルイズの事を疑っている様子は感じられない。
信じている、といったわけでも無さそうだが。

「私を――――あそこに連れて行って」

そういってルイズが指差したのは、虎蔵が次々と竜騎士を屠っているその向こう。
砲撃も出来ずに突風に煽られるままになっているアルビオン艦隊が居るあたりだ。
タバサに頼むということは、未だに興奮した様子で「やった、また倒したのね!」と叫んでいるシルフィードに乗せろということだろう。

「貴女はこの国の貴族ではないわ。だから、本当ならばこんな所で命をかける必要は無いのは分かっている。
 でも、私一人じゃ、あそこまでたどり着くことも難しいの。だから、お願い。力を貸して」
「ちょっと、ルイズ――――あんな所に行って何をするって言うのよ! 仮に《虚無》が使えたって!」

ルイズの無茶苦茶な頼みに、キュルケが大声を上げて割り込んできた。
無理もない。
キュルケにしてみれば、タバサは一番の親友だ。ルイズも。
本人同士はなかなか口にしないだろうが。
それが、わざわざ意味も無く戦場のど真ん中に飛んでいくといっているのだ。

タバサも僅かに首を傾げる。
危険だというのは、まぁ良いとしよう。
艦隊の様子を見る限り、満足な対空砲撃は来ないだろうから、シルフィードの機動性と自分の魔法を駆使すれば、
あそこに近寄ることはそれほど難しいことではない。
虎蔵が敵の注目を集めている今ならば尚更だ。
だが、その危険を冒してまで何をすると言うのか。

「――――何をする気」

故に、問う。
単刀直入に。

ルイズは、一点の迷いもなく答えた。

「あのフネを沈めるわ――――《虚無》なら出来る。そんな気がするの」

《始祖の祈祷書》を胸に抱いて、力強く。

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