あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ルイズさんとハヤテくんよ-4-1

オールド・オスマン。
この学院のヌシであり、何歳なのかは学院の誰も知らない。
学院の一部の教員はスケベジジイと認識している一方で、彼に恩義を感じたり、彼の力を認めて学院に勤めている人間がいるのもまた事実である。
つまりは、魔法学院の長をやるだけの力はあるということだ。

そんな彼は今、一つの不安を抱えていた。
具体的に言えば、宝物庫に管理していたある物が、前に様子を見に行った際に『逃げ出して』しまったのだ。
物が逃げる―――という表現は一見おかしく聞こえるが、それが呪われたアイテムである、と言えば想像はつくと思われる。
それ単体は何の変哲も無い、マジックアイテムでもないただの物である。
呪いさえなければオスマンも使おうと思っていたものだが、呪いを解く勇気が持てなかった―――解き方は知っているがやりたくない―――為に封印していた。
が、封印が甘かった。

「いかん……どこに行ったんじゃ」

それは突然現れ、勝手に対象を見つけては呪いをかける(一名限定)。
昔、うっかり呪いにかかってしまい、口にも出せないおぞましい事になってしまった。
よく分からないうちに呪いは解けたが、根本的な解決には至っていない。
「いかん……いかんぞ……」
学院の人間、特に教員が呪われてでもしたら、阿鼻叫喚の地獄絵図が発生するかもしれない。
「それはそれは、おぞましい事に……!」
想像だにしたくない未来予想に、オスマンは頭を抱えるしかなかった。



その事件を語るには、まずしばらく前の時間に遡ろう。


ハヤテが召喚されてから、一週間が経った。
彼の一日は、ルイズより一時間程前から起きる事から始まる。
水汲みは言うに及ばず、9歳から親の酒代稼ぐのに年齢詐称して清掃のバイトをやっていた事もあり、ルイズを起こす事無く拭き掃除を完了させてしまう。
「ふぅ……続きは後で、お嬢様が起きてからですね」
「相棒、やってる事家政婦だな。絶対使い魔じゃねえだろ」


続いて、ルイズを起こすまでの30分程を、初めての話友達シルフィード、そしてデルフリンガーと外で過ごす。
話す事があっても無くても、シルフィードの寝転がった巨体にもたれ、朝の陽気に当てられて僅かな休みを堪能するのが気に入っていた。
「ハヤテは変わり者なのね、多分」
「そうでしょうか?」
「一日の初めに喋る相手がこんなボロ剣と韻竜の時点で、まあ普通じゃないな」

全身を撫でる日の光と、適度に吹いてくれる風の心地よさで、ともすれば眠ってしまいそうになる。
そんな中で―――今だけでは無く、使い魔を勤めている時々で、果たして自分はこんなにのんびりしていていいのだろうか、と逆に不安に駆られてしまう事がある。
今まで借金返したり生活費稼いだり借金取りから逃げたりを年がら年中続けていたハヤテには一種の強迫観念みたいなものが染み付いており、金と命と生活の為に働き続けてこの若さでワーカホリックのようになっていた。
故に、この世界で使い魔と言う一種の就労にあるとはいえ、こんなに目的も命の危機も感じずにいていいのだろうか、と思わずにはいられない。
だから少しでも心がこの状況に慣れるように、ハヤテは万感の想いを込めて、この一言を言うようになった。

「―――今、幸せですねえ……」
「ねえねえデルフ、ハヤテって何歳? なんだか遠い目をしてるのね、きゅい」
『その姿はまさしく、退職したばかりのお父さんが何をしたらいいか分からず縁側で茶を啜っている姿であるからして』
「16歳のはずだが。なあ相棒……もうちょっと年相応になろうぜ。
 今からこれじゃ、相棒の将来が不安になるぜ」
6000歳の剣と200歳の竜に心配されながら、朝のハヤテは幸せに包まれていた。


続いてルイズを起こし、食堂へ行く為に部屋を出る際、タイミングを見計らっていたかのように、隣室のドアが開く。
ルイズの平面的な体とは対称的な、出る所が出まくった長身の体型を持つメイジ、微熱のキュルケであった。
彼女はルイズの後ろにつくハヤテを見て、続いてぶすりとした少女を見直し、ニヤリと笑う。
「おはよう、ルイズ」
「おはよう、キュルケ」
「キュルケさん、おはようございます」
「おはよう。相変わらず可愛いわねぇ、ルイズには勿体ないわ」
主に睨まれながらも律義に礼を返すハヤテに、キュルケはルイズに見せ付けるように少年に質量のある肉体をわざと擦り寄せ、二人の反応を見ながらからかっていた。
「あ、あうあう、その」
「こら、キュルケ! 離れなさい! あんたもデレデレしない!」
「はいはい、別に召喚直後から告白された彼氏をすぐに取らないわよ……多分」
「多分って何!? それに彼とか、そんなんじゃないわよ!」


かたや少年の青少年的な羞恥と照れで茹蛸に、少女の嫉妬からの茹蛸を面白いと思って。もう一週間も同じ事を繰り返しているのに、反応が同じなのも面白い。
だから、ついつい遊んで―――っと、今日はちゃんと用があったと思い出す。友人が、目撃していたから気になって。
「そういえば、あんた達、授業終わった後に調べ物してるらしいわね」
「何で知ってるのよ」
「図書館で毎日本を山程取っ替え引っ替えしてたら、嫌でも目立つわよ」
主に自分の友人でよく本を読む一名に。
まあ、ルイズが元気なのはいい事だ。あの使い魔の少年が現れてからは授業の失敗も引きずらなくなったみたいだし、魔法が使えない事で不機嫌そうだった雰囲気も最近は和らいでいるみたいだし。
だからこそ、からかいがいがあるのだが。
「何を探してるか知らないけど、まあ頑張りなさい」
励ましの言葉をかけると、ルイズはまずポカンと大口を開け、続いて背伸びしながらキュルケの額に手を当てた。
「何がしたいのよ」
「いや、熱は無いわよね」
「あたしの事、どう思ってるか大体分かるわ」
確かにからかってばかりで、励ました事は無いが。
「お嬢様、そろそろ授業が……」
「そうね、急ぐわよ! キュルケ、あんたも!」
「はいはい」
あのルイズがこれだけ変わるのだから、人間の使い魔も案外悪くないのかしら、とルイズに引っ張られるハヤテを見ながら、そんな事を呟いてみるキュルケだった。


キュルケの言っていた通り、朝昼の授業が終わると、ルイズ達主従は他の事に見向きもせず図書館に向かった。
目的はハヤテの左手に浮かぶルーン文字。
ハヤテは言うに及ばず、座学は優秀なルイズにも聞いた事が無い、光って変な効果のルーンだが、始祖ブリミルがハルケギニアを新天地としてからの歴史が詰め込まれているという、この学院の図書館の書物なら、ヒントぐらいはあるかもしれない。
が、ここで問題が発生する。ハヤテは話し言葉が通じる癖に、読み書きが―――ハルケギニアの文字が全く通じないのだ。
仕方なくルイズはルーンをスケッチし、ハヤテが適当に運んで来る本から関係ありそうな物だけを抜き出しては片っ端から調べる事を続けること1週間。

「全然無いわね……ふぅ」

テーブルに山積みにされた本を前にして、ルイズは力なく呟いた。
30メイル程の高さの本棚が壁際に所狭しと並ぶ中で、たかだか一週間程度で簡単に答が見つかるとは思っていなかったのだが、かといってこうも箸にも棒にもかからないと、やる気が削がれてくる。
使い魔やルーンに関する有名な書籍は殆ど漁ったのだが、これでは残りの本を期待せずにしらみつぶしするしかないだろうか。
「お嬢様、この本は……」
「片付けといて。全部無かったから」
はい、とハヤテが役立たずの本をまとめて抱え、手押し車に乗せていた時、

くいくい。
「相棒相棒、袖引かれてる」
「え?」
「確か……タバサよね?」
ルイズの言ったとおり、ハヤテの袖を小さく、だが確かな力で引っ張るのは、ルイズより更に小柄で、ハヤテの水色より更に青い髪をしたメイジの少女、タバサだった。
図書館にいるときは殆ど見かけていたが、今まで何の反応も見せていなかった彼女が、今に限って何の用だろうか?
彼女はルイズの名前の問いにコクリと頷き、
「ルーン、見せて?」
「ルーンなら、ここにスケッチしてるわ」
と、ルイズが紙を渡し、タバサが「私も調べておく」と頷いた。
彼女曰く、あれだけ毎日毎日、崩れたらそのまま生き埋めになりそうなほど本を積んでいたら、流石に興味を魅かれずにはいられないとか。
「ありがとう、タバサ」
「ありがとうございます」
「いい。それと、」

と、何故かタバサは無表情のまま、犬がマーキングするかのようにコートの腕の部分から、胸、首元、背中に回って鼻を摺り寄せる。
今までまともに見た事がない、タバサの綺麗に整った顔を近づけられ、ハヤテは戸惑い、ルイズは少しムッと頬を膨らませるが、

「―――あの子の匂いがする」

タバサの一言に空間が―――主に主従の少年少女を対象にして凍りついた。埃が混じっている図書館の空気が、余計に息苦しく感じる。
「ど、どういう事よあんたーっ!」
先に再起動したルイズが、柔道家もかくやのスピードで詰め寄り、襟元を掴んで前後にガクガクシェイクする。
「お嬢様、あの、全然わからな―――」
「女っぽい顔だし、いつも言うこと聞くから油断したわ。まさか一週間でそんな事するなんて!
 相手はキュルケ? 食堂のメイド? まさか知らない別の人間!?」
脳をゆすぐほど振り続けるルイズの激怒の理由を、タバサは少し離れた場所で理解できず見物人と化していた。
ただ、自分が知ってる相手の匂いがついてる―――理由は不明だが―――と言っただけなのだが。


「おいおい娘っ子、相棒が内緒でそんな事出来るぐらい甲斐性あると思うかい?」
「そういえば……無いわね」
「大体、あの子ってだけで女とは限らないだろ? 何を想像したんだよ」
「な、な、何って……!」
羞恥に顔を赤くし、口ごもったルイズに、デルフは意地悪さ全開でケケケと笑い、
「なりは小さくても、耳年増ですなぁ」
「うるさいうるさいうるさーい! このぽんこつボケ剣の癖に!
 肝心な事思い出せないんだったら、その生意気な口閉じときなさい!」
「はっ、俺様を黙らせたかったら、鞘にでも差し込むんだな。あの店から貰うの忘れやがったから、無理だがな!」
「何だ、そんな事でいいの?」
「あれ、薮蛇?」
「みなさん、仲良しですね」
「あんた、頭に虫湧いてない?」

と、話が脱線し始めた所を、タバサの問いが引き戻す。心なしか、緊張の色が浮かんでいるように見えた。
「何故?」
「えっと……何故と言われましても、心当たりも質問の意図も解りませんし」
「そうよ、話がずれていたわ! ハヤテ、服に匂いがつくような行動なんてそうはないわよ!
 さあ、誰と何をしたの!」
自分で脱線した癖に偉そうに宣言し、ルイズは再びハヤテに詰め寄って、
「くんくん……私の知らない匂いね、多分」
「どさくさ紛れに男の胸に飛び込んで顔を擦り寄せるたぁ、変態チックだな娘っ子」
「―――~っ! わ、私は主人として、」
「相棒の匂い、どうだ?」
「ん、ちょっとクラッとして、妙な気分―――ってアホー!」
流石年の功か、齢六千年の剣は16歳の少女をたやすく手玉に取っていた―――間違った方法で。
「それはそれとして相棒、疑い晴らす為に、ここで知り合った名前を挙げたらどうだ? たかだか一週間、大して知り合いいないだろ?」
「えっと……お嬢様、タバサさん、シエスタさん、キュルケさん……名前を出しただけで睨まないで下さい、お嬢様」
「ぷい」
出て来た名前が女ばかりで、膨れた子供みたいにそっぽを向く主。
「後はデルフと、シルフィードさんと―――」
「相棒、ストップストップ!」
「え……あ!」
内緒の約束をすっかり忘れ、きゅいきゅい鳴く竜の名前を出してしまい、慌てて口を閉じる。
が、それを観客二人が聞き逃す筈も無く、
「…………」
名前を出した途端、じー、とビームでも出そうな程鋭い目をした青の少女と、
「誰? また女の感じがするわね」
分からないながらに微妙な洞察力を発揮する桃色少女。彼女らの次の台詞は、期せずしてシンクロした。

『さあ、キリキリ吐く!』


左右から挟まれたプレッシャーに負け、ハヤテは朝食前に外で会う、喋る竜の話を白状したのだが、予想に反して反応は冷めたものだった。
「結局、その使い魔にくっついてたから匂いがついただけなの?」
「はい、そうです」
「けど、竜が喋る? そんなのあるはず無いじゃない、昔話じゃあるまいし」
「けど、あの姿は竜だと思うんですけど……」
「いい? 喋れる竜のことを韻竜って言うんだけど、もうとっくに滅んでるって言われてるのよ。だから、それを使い魔にするのは無理なのよ」
「え、そうなんですか? じゃ、あれは……」
「多分、何か別の動物と間違ったんじゃないの?」
けど、喋ってたのは何だったんだろう……と呟くハヤテの様子を、好都合だとタバサは判断した。
シルフィードは彼女の使い魔であり、そして滅びた筈の韻竜である。それを知られて騒がれるのは、タバサの趣味では無い。
幸いハヤテというこの使い魔は、竜が喋る事に何故か疑問も驚きも常識も無いようだし、主は主で言う事を全く信じていない。
都合がいいので、間違った答を教える事にした。

「ガーゴイル」
「ガーゴイルって?」
「それは私の使い魔。本当はガーゴイル」
「じゃあ、シルフィードさんが言ってた『お姉様』って、タバサさんの事だったんですか」
コクリと静かに首を縦に振り、
「ガーゴイルは貴族が作り出す、擬似生命つきの魔法像のこと。いいものは生き物と見分けがつかないだけ」
「使い魔って事は、タバサさんが作ったわけじゃないんですか?」
「主人のいなくなったのを、受け継いだから」
「彼女、竜が喋ってるのを内緒にして、みたいな事を言ってましたけど」
「今みたいに、韻竜と誤解されたら面倒だから」


「成程、そうですよね」

あはは、質問ばかりしてすいませんとタバサの説明を疑いもせずに鵜呑みにするハヤテ。
(相棒……よく知らないから仕方無いとは思うが、少しは疑った方がいいと思うぜ)
『全くだ』


全てが終わり、ようやく一日の生活が終わろうとしている時も、ルイズが先にベッドに腰掛けているのとは対象的に、ハヤテは彼女の衣服の破れた部分を針と糸でちくちく夜なべしていた。
「お嬢様、僕をじっと見てどうかなさいましたか?」
「何でもないわ、気にしないで」
「そうですか」
それきり、少年は彼女に見向きもせず神経を仕事に集中していた。
その健気な様子を見ながら、ルイズは心中でもう一度ハヤテの評価をする。
使い魔としては微妙だが、家事一般に関しては言うまでもなく儲けものレベルだ。
ただ、炊事洗濯掃除に料理までああ簡単にこなされていると、並の女より女らしいのは気のせいだろうか、と思わずにはいられない。
以前キュルケに、「あんた、使い魔じゃなくて嫁を呼び出したんじゃないの?」とからかわれた事があるが、言うまでもなく同意した。
あのかいがいしさでは夫とはとても言えない。

だからと言っては何だが、この時間に、ルイズは寝る前にある注文をする。
「ねえ、服を着替えさせてよ」
その時のハヤテの反応はもはや見慣れたものとなっていた。
「え、う、あ、えええっ!!」
言葉にならない悲鳴をあげ、顔を茹蛸にしながらズダダダッと後ろ小走りで後ずさる。
その毎回の反応を見るといつも、可愛いなあもうとか、やっぱり男なのねえ、と妙に安心してしまうのだ―――何故安心するかは、皆目見当がつかないけれど。
まあ、確かにこれで男は勿体ないだろうなあとは思う。これで女だったら、さぞやモテるだろうに。
「はしたない事を言わないで下さい、お嬢様!」
「もう、冗談がきかないんだから。いつもの事でしょ」
これも、いつもの事だ。そして、またいつもの様に、一人で着替え、腕立て伏せを始めたハヤテを見届けて、先に眠りにつく。
「デルフ、見張ってなさいよ」
「しゃあねえな、娘っ子が寝ぼけて相棒を襲わないように見張ってら」
「逆よ!」

『夢の中に入り込むルイズ。しかし、明日が今日と同じようにはならないという事を、誰も想像しなかったのでありんす!』



不穏な天の声とは裏腹に、次も変わらぬ平凡な朝が始まった。
『しかし、恐るべき変化は既に訪れていたぁ!』

「お嬢様。起きてください、お嬢様」
お決まりの台詞で揺らされ、ルイズはまどろみから覚醒し始める。
だが、少し変だ、とルイズは直感で思った。
触れられている両手に力強さを感じないし、何より声が無理をしているかのように高い。
「だ、れ……?」
「何を仰るのですか? わたしです、綾崎ハヤテですわ」
「ハ、ヤ……ってちょっと待ちなさいっ!」
「きゃあっ!」
まるで少女のような悲鳴をあげ、尻餅で倒れて涙を浮かべるハヤテ。
だがそのしぐさが変だというのは圧倒的に分かる。
服はどこから調達したのか、上は各国軍で見かけるような水兵服だが、下の丈の短いスカートとの組み合わせで犯罪の匂いを醸し出していた。
(脚も綺麗ね、細くて白くて―――って、ちがーう!)
ルイズは激昂する。自分の使い魔は一応、多分、恐らく、顔と特技はともかく、れっきとした男だった筈だ。
それが今は、平民の少女みたいな薄着をし、自分をわたし呼ばわりし、あまつさえ女言葉まで使うなんて!

「あ、あんた……」
ハヤテの姿をもう一度確認しても、水兵服スタイルは変わらない。
自分が寝ぼけていないと分かった時、何故か言い知れぬ怒りの波動がルイズの全身を駆け巡った。
流石に主の様子がおかしいと察知したか、握り拳をブルブル震わせているルイズにハヤテは声をかける。
「お嬢様……どうかなさったんですの?」
「どうかなさった……ですって!」
波動がハヤテの身体を焼き、ビクリと身をすくませる。ルイズはそんな使い魔に、ベッドの上から直立不動で指差して宣言した。
「どうかしてるのはあんたよっ! 鏡見なさいっ!」
逆らったらやられる。
そんなオーラ力みたいなものを感じ取ったハヤテは急いで部屋の端の鏡に向き直り、くるりと一回転したり前屈みになったり、スカートを中身が見えない範囲でたくし上げてみたりして、
「お嬢様、わたしの服装がおかしいですわ!」
「おかしいのはあんたの言葉よーっ!」
(いや相棒の服もおかしいから)
デルフの呟きは、混乱の渦中にあっては全くもって意味が無かった。


「つまり、あんたの服も、その言葉使いも、一段階ぐらい高い声も、自分の意思でやってるわけじゃないのね?」
「はい、当然ですわ」


あんな事があってはオチオチ寝てはいられず、ルイズは早々に身なりを整えて、尋問タイムを開始していた。
「娘っ子、もとい裁判長!」
「発言を許可するわ、デルフ」
「相棒は、今朝水汲みを行い、シルフィードといるときからこんな状態だったぜ!」
「え、ええっ! どうして教えてくれなかったんですの!」
「いや、余りにも慣れた様子で違和感無かったし……長い年月で『そういう趣味』があるって知ってたしな。
 その……相棒が『そんな人間』でも俺様達は受け止めてやろうって、決めたのさ」
「お、おれたちって……」
「俺様と、シルフィード」
「うわーん!」

ハヤテは泣き崩れて倒れた。無駄な心遣いとありすぎの理解が痛すぎた。
一方、違和感無い、という点ではルイズは激しく同意していた。頬を紅潮させ、目尻に涙を浮かべる様子は殺人的だ。
だが、服が脱げないとか意志に反して女言葉になってるとか、似合ってるし見栄えがいいという事実だけで止まってはいけないのだ。
主としては、使い魔に起こった謎の現象について、真実を追究せねばならないのだ!
そう、奥に隠された真実を!

「あんた、一つ質問したいんだけど」
「あの、質問でどうして両腕を掴まれて、押されているんでしょう?」
「たいした事無いわよ? ちょっと、男の癖に女みたいな服着て、ご丁寧に大きめに詰め物してるなんて生意気だから、ちゃんと確かめてやらなきゃとか思ってないから」
「だから、何でベッドに押すんですか!?」
「ああもう、五月蝿いわね!」


ドタバタと、隣の部屋から壁が揺れる程の騒音がする。
キュルケはもうすぐ朝食なのに朝っぱらから何をしてるのかしらと疑問に思い、続いて、ルイズが久し振りに使い魔に癇癪でも起こしたのかしらと興味が首をもたげた。
「全く、何してるのよ」
そう言いながらもキュルケの顔は何を言ってからかおうかとニヤついていた。
部屋を出て隣室の鍵がかかっていない事を確認し、ノックも無しに扉を開ける。
「おはよう、ルイズ―――」

目に飛び込んでいた景色は、予想の斜め上をキリモミしていた。キュルケは絶句せざるを得なかった―――ルイズの行為に。
一言で言うと、隣人は女の子をベッドに組み敷き、あられもない姿を日の光の下にさらさせていた。
青い髪の少女―――どこかルイズの使い魔の少年とそっくりな気がする―――は涙を目尻に浮かべ、苦しげに肺から微かな吐息を吐き、上気した顔に真っ赤な色を張り付けていた。
上着は水兵服だろうか、服が首下までたくし上げられ、キュルケに僅かに劣るだろうが質量のある膨らみと、先に乗る桜色の形良い、突起が瑞々しい肌とともにこぼれていた。
下は下で、脱げそうで脱げないギリギリの所でスカートの腰部が脚と脚の『付け根』を隠していた。『有る』か『無い』かはすぐに判別できないが、あれでは『無い』のではないだろうか。

「げっ……!」
「うう……」

キュルケを見つめる驚きと羞恥の四つの視線と状況証拠から、彼女は微熱の脳細胞をフル回転し、一つの推理を作り上げた。
「ルイズ……」
「な、なによその痛いわって顔は!」
「いつもあたしを色ボケとか言ってたり、男と全然浮いた話が無いなって思ってたけど、そっちの趣味があったからなのね」
「ち、違うわよ!」
「けど、あたしにそんな趣味はないから、遠慮するわね! 大丈夫よ、別に差別したり、言い触らしたりしないから! 
 あたしは理解力あるつもりだから! ルイズ×謎の少女なんて言葉が浮かんだって言わないから!
 あ、あたし先に食堂行ってるから! 邪魔したわね!」
ルイズの制止と弁明も届かぬまま、キュルケは早口でまくし立てるだけまくし立てて嵐のように去っていく。
あとに残ったのは、
「って、何でこの服は半脱ぎで止まるのよ!」
関係ない所に突っ込んで鬱憤を晴らすルイズと、
「わたし……わたし……」
16年間一秒たりとも離れなかった相棒に無言で別れを告げられ、そのショックから立ち直れず茫然自失した元ハヤテが座り込むだけだった。

『大丈夫だ綾崎ハヤテ、世の中は女の方が需要があるさ!』


「オロオロ……あの、ここはどこでしょう?」
「ここ? トリステイン王国に決まってるだべさ!」



しばし苦悩していたオスマンだが、流石は学院長、対処方を即断し、側にいる美人秘書ミス・ロングビルに指示を伝えた。
「ミス・ロングビル。これは重大な事態で、口外は不可じゃ。
 これより学院内で、水兵服を着た者を発見し次第、即座にここに連れて来るのじゃ」
「す、水兵服ですか?」
いきなり何を言い出すんだこのジジイとうろんな目を向けられても、オスマンは構わず続ける。


「放置しておけば、おぞましいことになりかねない。そうだな、コルベール君には知らせてもよい。
 広い学院じゃが、必ず騒ぎになっている場所がある。そこに、いるじゃろう」
意味不明ではあるが、雇われてついぞ見た事の無い老人の真摯な目を目撃し、尋ねずにはいられなかった。
「おぞましいとは……どのくらい危険なのですか?」
「ふむ、その服を着た者を連れて来る際、肉体的損傷に関しては全く心配せんでよろしい。
 宝物庫に眠っていた曰くつきのものじゃが、価値も実用性も、宝物庫の『破壊の杖』には全く及ばぬ。しかし……時と場合によっては、見る者に天国もしくは地獄を与えるのじゃ!」
破壊の杖、と聞いてロングビルが僅かに眉で反応を示したように見えたが、何の変化もないように続ける。
重要なのは、それがあると確認できた事。それだけでも収穫である。
「分かりました、今から向かいます」
「うむ、よろしく頼むぞ」
まだ盗賊の時間じゃないと自制しながら、ロングビルは学院長室を出る。
自分の背後を見つめるオスマンの目が、なにやら怪しげなものになっているのが気になっていたが、いつもの事と流して。

「ロングビルに着せたら似合うじゃろうなあ、ファファファ……」


「すみません……ここ、東京では無いのでしょうか?」
「東京? 知らんなあ……ここは、トリステイン城下町だぜ?」



再び戻って、学院の食堂。ルイズは人前に出るのを全力で嫌がった元ハヤテを引っ張って連れて行った時の反応は、それぞれヒソヒソと聞こえはするが、ハヤテ本人だとは全く気づかれなかったようだ。
ハルケギニアにそもそも女体化とか、男が女の格好して云々(もしくは逆)という概念があるのかどうかは謎だが、ともかく余計な説明をしないでいいので何よりだ。
聞かれてもハヤテ自体が何が起こってるのか分からないから困るだけだったが。

「お嬢様ぁ……もう帰ってもよろしいですかぁ?」
「何言ってるのよ、堂々としておけばいいのよ!」
各々の視線を受けて縮こまる元ハヤテとは対照的に、もう吹っ切れたわよ、とズカズカ歩くルイズ。
どうせキュルケにあんなの見られたら、大体は後ろめたい事なんて無くなるわよ!
向こうにいるキュルケがこっち向いたと思ったら生暖かい目で見てくるのがしゃくに障るけど、バレてないから問題無いわ。
「……!」
あ、向こうでハシバミ草くわえてたタバサが目を見開いてフォーク落とした。
これは……バレたかしら?

とりあえず何事も無かったようにそのまま椅子を引かせ、厨房にハヤテを送り出そうとしたその時。
「あの、ミス・ヴァリエール。お願いがあるのですが」
「あら、どうしたのシエスタ?」
「今日、三人も休んでしまって……よろしければ、ハヤテさんの手をお借りしたいのですが?」
「ん、いいわよ」
と、いつものノリでハヤテの腕を引っ張って前に出しかけ、シエスタが驚いて硬直したところで、ハヤテがハヤテでない事を思い出した。
「あの……この方、は?」
「ああ、えっと、その……ちょっとこっち寄りなさい?」
「は、はい」
シエスタの顔を引き寄せ、
「あのね、事情は言えないけど、これがそいつよ」
「あの、どう見ても女の人に見えるんですけど。まさか、実はハヤテさん、初めから女だったんですか?」
「そうじゃないんだけど、ややこしいわね……とにかく、こいつを自由に使ってくれていいわよ」
「はい、分かりました。
 お願いします、ハヤテさん……って言っていいんでしょうか、えっと……」
「そうね、名前考えてなかったわ。どうしようかしら?」
「名前ですか。ハヤテ、ハ……ハーマイオニーなんていかがでしょう?」

と、ハヤテは某魔法映画のヒロインから思いついた名前を出しただけだか、予想外に少女二人に引かれた。
「ハヤテさん、普通、そんなすぐに名前出てこないですよ?」
「あんた……最初からそんな趣味あるんじゃないの?」
とんでもない誤解ではあったが、この空気では否定が通じそうにも無く、ハヤテ改めハーマイオニーはガクリとうなだれた。


「おじいさん……ここは、何処でしょうか?」
「ここは、トリステイン魔法学院の庭じゃが。娘さんは何者じゃ? ただの平民には見えぬようじゃが」
「鷺ノ宮伊澄と申します……呪いの気配を追っていたら、いつの間にか道に迷ってしまって」
「呪い、とな。ふむ……話を聞かせて貰っても、よいかの?」

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