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白き使い魔への子守唄 第10話 招かれるもの

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築かれた屍山血河に、仮面の男は立っていた。
降る雨の冷たさに、熱き衝動が冷めていくのを心地よいと感じながら。
「ハクオロ様」
鉄扇を握る獣耳の娘が、疲れた声で問いかけてくる。
「この戦、我々に勝ち目は……」
仮面の男は感情の無い声で答える。
「無い。もはや我が方の敗北は必至。
 ギリヤギナの長とエヴェンクルガのもののふ、此度は彼奴等の勝利だ。
 さすがは契約者といったところか……」
「……貴方様は我々の力になりながらも、なぜ契約をなさろうとしなかったのですか?
 我々を、己が眷属になさろうとしなかった訳は」
「……さて、なぜだろうな」
契約者となった者に打ち込まれる楔。
願いの代償。
それらのものを、もしかしたら。
鉄扇を持つ彼女は、彼の沈黙の中に優しさを垣間見た気がした。
「ところでトゥスクルよ、この大戦が終結せし時、汝は如何にする?
 ワーベと共にオンカミヤムカイへ帰るのか?」
「……さて、どうしましょうか。國を流れてみるのも悪くないと思っております。
 まずはケナシコウルペにでも行ってみようかと。
 ……敗戦した國の行く末は知れております。少しでも力になれれば……と」
「そうか。ならば、気が向いたらヤマユラという里にも行ってみるといい」
「ヤマユラ?」
仮面の男は、そこでようやく言葉にわずかな感情を込めて言った。
「かつて、我がミコトと共に在った地だ」

   第10話 招かれるもの

変な夢を見た。
いつもは、何か黒っぽい夢を見るのに、まったく知らない光景の夢。
なのになぜだろう、胸が熱い。郷愁の念に駆られてしまうのは。
ベッドから起き上がったルイズは、ベッドの隣の床で眠るハクオロを見た。
わずかにはだけた胸元のルーンが光って見えて、ルイズはまばたきをしてから、
もう一度よく見てみた。ルーンは光っていない。寝惚けてたようだ。
目を覚まそうと思って、ルイズは顔を洗いに行った。顔を洗えば目が覚める。
冷たい水でスッキリサッパリ。
そういえばどんな夢を見ていたんだっけと、ルイズは思い出してみる。

戦場跡と思われる場所に数多の屍が転がっている。
鉄の扇を持った獣耳の亜人が、ハクオロと何かを話して。
ギリヤギナとかエヴェンクルガとか、意味の解らない単語がいっぱい出てきた。
でもトゥスクルとかケナシコウルペとか、オスマンが語った言葉も出てきた。
本当に変な夢だ。
夢なんて普通、顔を洗う頃にはとっくに忘れている。
でも今日の夢は顔を洗った後も結構はっきりと覚えていた。
ただの夢?
違うんじゃないか、と思ったけど、所詮夢は夢。たいした意味なんて無い。
でも。
「ヤマユラとかミコトとか、ああいう名前はどこから出てきたんだろう」
月がひとつの世界のものの名前は、オスマンが語った分を除けば、
ハクオロが言ったクスカミ程度しか知らないのに。
「……ん~……まあ、いいや」
と、歯磨きを終えてから、
ルイズはようやくハクオロに朝の身支度を手伝わせてない事を思い出した。


叩き起こされたハクオロは、いきなりルイズが不機嫌な事に溜め息をついた。
どうやら主である自分より遅く目を覚ましたのが不味かったようだ。
それでもルイズは自分で朝の身支度を整えており、
ハクオロがやる事はもう残っていなかった。

朝食は、ちょっとだけ質と量がよくなっていた。
これならマルトーに頼らずとも空腹に苦しむ事はなさそうだったが、
やっぱり厨房で食べる食事の方があたたかみがあるとハクオロは思った。
待遇がよくなったとて、使い魔の範疇からはまだ出ていないのだ。

部屋の掃除を終えたハクオロは、洗濯物を持って洗い場に行く。
そこでシエスタと一緒に洗濯するのが日課なのだが、
今日のシエスタの表情は暗く、何か悩み事があるようだった。
「シエスタ、おはよう」
「あ、ハクオロさん……。おはようございます」
「元気が無いようだが、何かあったのか?」
「……今朝、実家から手紙が来て……」
洗濯をしながらシエスタは手紙の内容を話した。
ハクオロも洗濯をしながら聞く。
「今年は作物が不作で、村中困っていて……そんな時なのに、父が腰を痛めてしまって。
 それ自体はたいした事ないんですけど、しばらくお仕事ができそうになくて、
 家事する人もいないし……お父さん、困ってるんです」
「家事? 母親は……」
「私を産んだ後、体調を崩して……」
「すまない。つらい事を訊いてしまったな」
「いえ、いいんです。母の事は何も覚えていませんし」
「……そうか」
それからしばらく、二人は黙々と洗濯を続けた。
そしてシエスタは作業が終わろうとした頃、ようやく口を開く。
「一度、村に帰ろうかと思ってます。お父さんの怪我が治るまで」
「……君の故郷は、どんな所なんだ?」
「タルブっていう、取り立てて何も無い小さな村です。
 田畑を耕して、収穫し、それを糧に生きていく。
 けれどとっても綺麗な草原があって……森は危険だから入っちゃ駄目で」
「ふむ。……行ってみたいな」
「えっ!?」
突然の言葉に、シエスタは目を丸くした。
ハクオロもつい言ってしまった言葉に慌てる。
「あ、いや、この國の一般的な人々の生活に興味があってな。
 トリスタニアには連れて行ってもらった事があるが、その、
 色んな所に行けば記憶を取り戻すきっかけになるかもしれないし」
嘘ではなかった。
それに、彼女が語ったタルブの村の様子には、なぜか懐かしさを感じる。
(もしかしたら、ヤマユラとやらもそういう村だったのかもな)
ハクオロは、今朝見た奇妙な夢を思い返していた。


「――という訳なんだが、行ってもいいか?」
「ダメ」
午後のティータイム。ルイズはのんびりと紅茶を飲んでくつろぎつつ、
一応ハクオロの言い分は聞いてくれたものの、躊躇無く却下した。
「なぜだ」
「村に行ってどうすんのよ。メイドの親の面倒でも見るの?
 ご主人様の私を放ってまでする事じゃないでしょ。まったく、くだらない」
「しかしシエスタには日頃世話になっているし、恩返しがしたいんだ」
「私だって毎日あんたの世話をしてるじゃない」
寝床と食事を与えているだけのルイズと、
掃除洗濯その他身の回りの世話をしているハクオロ。
しかも食事は厨房に行けば何とでもなるし、寝床もルイズの部屋にこだわる必要は無い。
とはいえ記憶喪失のハクオロの身元保証人という立場は絶対的なものだ。
いや待てよ?
恩人の同郷の者というハクオロならば、オスマンに頼めば何とかしてくれるかも。
つまりもうハクオロはルイズの庇護無しに普通の生活を送れるのだ。
だがハクオロはルイズを妹や娘のように大切に想っているし、
使い魔である自分がいなくなればルイズの立場が悪くなるとも理解していた。
「記憶を戻すには、こう、色々な事を体験するのがいいと思うんだ。
 シエスタから村の様子を聞いた時、懐かしさのようなものを感じた。
 もしかしたら私は極普通の村に暮らしていたのかもしれない」
「あんた軍人っぽいキャラクターなんじゃなかったっけ?
 武器を使えたり、作戦考えたり……でもメイジじゃないから、軍人は無いか」
「一週間でいいから」
「タルブの村ってどこにあるの?」
「ラ・ロシェールとかいう街を越えた所だとか……」
「片道三日はかかるじゃない。往復で六日、それに一週間足したらずいぶん長いわね」
「そうだ、ルイズも一緒に来ないか?
 民草の生活を直接見て回るというのも、いずれ民を治める者としていい経験になる」
「んー、それもそうね。でもダメ」
「なぜだ」
「何となく」
ルイズの理由にハクオロはげんなりとしたが、事実本当に何となくなのだから仕方ない。
実を言うとハクオロがシエスタとかいうメイドのために一肌脱ごうというのが、
どうにも気に食わないのだ。自分の使い魔なのに、何で平民のメイドなんかのために。
だから、ダメなのだ。


「ダーリン、隣いいかしら?」
二人が座っているテーブルに、キュルケがやって来た。
返事を聞かずにハクオロの隣に座ると、
手近にいたメイドに紅茶とケーキを持ってくるよう指示する。
「あら、何だかご機嫌斜めね。ルイズにいじめられてるの?」
「いや、そういう訳ではないが……実は……」
ハクオロは事情を説明した。
「別にいいじゃないそれくらい。ハクオロだって記憶を取り戻すために、
 やってみたい事をやったり、行ってみたい所に行く権利はあるわ」
「無いわよ。私の使い魔なんだから」
「狭量ねぇ。鞭ばかりじゃ使い魔はついてこないわよ」
事情を聞かされている間に運ばれたケーキを食べながら、
キュルケは冷めた目でルイズを見る。
「う、うるさいわね。あんたは関係無いんだから引っ込んでなさいよ」
「ねえルイズ。行き帰りも含めて二週間近くハクオロが留守するから駄目なのよね?
 じゃあ一週間だったらどうなの? あなたは許可する?」
「一週間なら別にいいわよ。向こうには一日か二日しかいられないでしょうけれど」
馬鹿にしたように笑うルイズから、確かに言質を取ったとキュルケは勝利の笑み。
「じゃあハクオロ、一週間だけタルブの村に行きましょう」
「いや、しかし、一週間のほとんどが移動でつぶれてしまうというのは……」
「タバサに頼めば一日とかからず行ける距離よ。
 虚無の曜日に送ってもらって、次の虚無の曜日に迎えに来てもらえば、
 往復時間をたいして費やさず、きっちり一週間村にいられるわ。
 私が頼めばタバサはイヤとは言わないわ。だから、私も一緒に連れてって」
まさかタバサの風竜を使うとは思っていなかったルイズは、
慌てて反対したもののキュルケは言質を握っていたため、
結局キュルケが押し勝ってしまうのだった。
ルイズ最大の妥協点は、キュルケがハクオロにちょっかいを出さないよう、
自分もタルブの村へついていくという選択。
そしてキュルケはタバサに頼んだ。
「イヤ」
断られても頼んだ。
「面倒」
めげずに頼んだ。
「……」
無視されても頼んだ。
「解った」
渋々了承してくれた。
親友のキュルケにこうもしつこく頼まれては、さすがのタバサも折れるしかない。
「だからタバサって好きよ。さすが私の親友、愛してる!」
こうして翌日の虚無の曜日、みんなでタルブの村に行く事が決定した。
ルイズは授業を一週間休む理由を作るのに苦労したらしい。
キュルケは楽に適当な理由をでっち上げた。さすがである。

こうして翌日、風竜で帰省する事になったシエスタはビックリ仰天。
畏れ多いですとか自分は馬でとか断ったが、キュルケに押し切られて風竜に乗る。
「いざ! タルブの村へしゅっぱ~つ!」
その日のトリステイン魔法学院にて、キュルケとデートの約束をすっぽかされた男達が、
「またあの仮面野郎か!」と怒りの声を上げていたらしい。十人くらい。
ちなみに全然出番がないデルフリンガーだが、ちゃんとハクオロに背負われてたりする。


風竜に乗って、しかも貴族を三人(とオマケ)も連れてのシエスタの帰省は、
タルブの村の人々にとって大騒ぎになりすぐにもてなしの宴が催される事になった。
が。
「自分達はシエスタの手伝いに来たのであって、もてなされるために来たのではない」
即座に断るハクオロ。それもそうねと納得するキュルケと、何の反応もしないタバサ。
そしてルイズは平民の家に泊まる事に難色を示す。
シエスタの客人という事で三人が宿泊するのはシエスタ宅となったが、
元々父と娘二人で暮らしていた小さな家で余分なベッドなど無く、
空き部屋は物置と化しておりとても使える状態ではなかった。
父は療養中であるためベッドを奪う訳にはいかない。
だからシエスタの部屋のベッドにルイズとキュルケの二人が入らねばならない。
しかしそうなるとシエスタとハクオロの寝所が無くなる。
そこでハクオロは提案した。
「私は床で構わない。しかしベッドの持ち主であるシエスタも床というのは申し訳ない。
 だからここに泊まるのは私だけにして、ルイズとキュルケは村長さんあたりの家に……」
「嫌よ」
「私も」
乙女心という強力な殺気に押されたハクオロは、何か解決策はと頭を抱える。
魔法で空き部屋を整理して寝床を作れないかという案も出したが、
シエスタの父に空き部屋の荷物を動かしたくないと断られてしまった。
その間にタバサは勝手に村長と交渉してベッドをひとつ貸してもらい、
レビテーションでシエスタの部屋まで運んで来ていた。

ルイズとキュルケが借りたベッドで、シエスタが自分のベッドで。
これで解決かと思いきや、犬猿の仲の二人が同じベッドでなど納得する訳がなかった。
しかしハクオロの「貴族とは平民が眠る場所を奪う権利でもあるのか」と睨みをきかせたら、
さすがはダーリンとキュルケが態度を一変させる。
それでも嫌だと言い張ったルイズは、シエスタのベッドで一緒に寝る言い出した。
ライバルのツェルプストーよりも、まだ平民のメイドの方がマシという事らしい。
ちなみにハクオロの寝場所はシエスタの父の部屋の床だ。
元々シエスタの父が怪我をしたため手伝いに来たのだし、
それに女性ばかりの部屋にハクオロが居座る訳にもいかない。

何とか割り振りの決まった一同は、とりあえずシエスタ宅の掃除を開始した。
学院で働いていたため留守にしていたシエスタの部屋は埃が積もっており、
掃除には時間がかかると思われたがキュルケとタバサが魔法で簡単にすませてしまった。
コモンマジックしか使えないルイズは手伝う事がなく、散歩に出かけてしまった。
シエスタは台所を片づけて、みんなの食事の用意にかかる。
ハクオロはシエスタの父が管理している畑の様子を見に行き、何事かを考え込む。
(作物の育ちが悪い……。どうやら他の畑も同じようだ。
 この村は農作物を生業としているようだが、これでは収穫はあまり期待できんな。
 何とかしてやりたいが……なぜだろう、何とかできるという確信がある)


お昼になると、シエスタが芋粥を振舞ってくれた。
「お母さんが得意だった料理で、お父さんから話を聞いて作ったんです」
芋粥という、いかにも貧しい料理にルイズとキュルケは落胆する。
父親はその芋粥が好物らしいが、やはり貴族相手に出す料理ではないと指摘した。
「俺は腰を痛めただけで、病人じゃないんだから、別に芋粥でなくてもいいんだが」
落ち込むシエスタを元気づけたのはハクオロとタバサ。
「私はこういう家庭的な料理は好きだ。食べていると、胸があたたかくなって安心する。
 それに……どこか懐かしいような、優しい味わいだ。料理した者の真心が伝わってくる」
「……おかわり、大盛りで」
なぜおいしいのかを細かに解説して喜ばせるハクオロと、
最小限の言葉で賛辞を送る貴族のタバサ。どっちも破壊力は十分。
けれどシエスタの乙女心からすると、貴族からのお褒めの言葉よりも、
大好きなハクオロさんの賛辞と笑顔が何よりも嬉しかった。
もしシエスタに犬の耳と尻尾があったら、その両方をピコピコと振っていただろう。
もっともシエスタには犬の耳どころか人間の耳すら無いのだが、
それを知るのはハクオロと父親の二人だけである。

おかわりを五杯も食べたタバサは、シルフィードに乗って満足気に学院へ帰っていった。
一週間後の虚無の曜日に迎えに来るまで、ハクオロとルイズとキュルケ、
そしてシエスタとその父親の共同生活が送られる。

シエスタにとっては、生涯忘れられぬ一週間が。

夜になって。
ハクオロはシエスタの父に肩を貸してベッドまで運んでから、彼の腰に薬を塗ってやる。
薬といってもメイジが調合したポーションのようなものではなく、
そこら辺に生えている薬草をすり潰しただけの簡単なものだ。おかげで金はかかっていない。
シエスタの父をベッドに寝かせ、デルフリンガーを脇に置いて部屋のランプを消すと、
毛布に包まったハクオロは慣れた様子で床に寝転がる。
すると暗闇の中、シエスタの父が話しかけてきた。
「すまないなぁ。客人を床に寝かせて」
「いえ、慣れてますから。それにシエスタのお父上を床で寝かせる訳にもいきません」
「俺のこたぁオヤジでいいよ。腰を痛めるような歳になっちまった、はっはっはっ。
 ところでお前さん、ハクオロだったか。仮面もそうだがみょうちくりんな服を着てるなー」
「訳あってとても遠い國から来ましたもので」
「そうか、遠い国か……そうか……」

歯車はかみ合っていく。まるで、導かれるように。

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