「運がいいわ」
二つの月に照らされ、ゴーレムの肩にのった女性、土くれのフーケは口元を緩める。
「どこの誰の仕業か知れないけど、これなら何とかなりそうね」
そこには本塔のちょうど宝物庫があるあたりの壁に皹が入っていたのだ。
「ここまで具合がいいと何か作為的なものを感じるけど…」
例えこれが罠か何かだとしてもそれごと叩き潰すのみ。
皹の入った壁にゴーレムの拳が打ち下ろされた。
あっけなく崩れ去る宝物庫の壁、フーケは薄ら笑いを浮かべるも頭から黒いローブをまとい、慎重に宝物庫の中に進入していく。
皹の入った壁にゴーレムの拳が打ち下ろされた。
あっけなく崩れ去る宝物庫の壁、フーケは薄ら笑いを浮かべるも頭から黒いローブをまとい、慎重に宝物庫の中に進入していく。
「破壊の杖は…これね。ついでにこれも…こいつもついでにいただこうかしら?」
フーケは破壊の杖やその他の珍しそうなものを持てるだけ手にすると急いで先ほど開けた穴からゴーレムの肩に飛び乗る。もちろんあのサインを残して……。
『宝物庫のお宝、確かに領収しました。土くれのフーケ』
「ふふ、思ったよりも簡単に盗み出せたわ」
ゴーレムの肩に乗ったフーケは喜びを隠せない。心配された罠も杞憂に終わりそこに油断があったのかも知れない。
「さてと、ここともおさらばね」
悠々とゴーレムの足を進めようとするフーケ。だが彼女は気付いていなかった。その足元に三人の少女がいることに……。
Zero ed una bambola ゼロと人形
「ルイズさん。あのおっきなのは何ですか?」
そういってアンジェリカは本塔の前に聳え立つゴーレムを指差す。
「え? あれってゴーレム…」
誰が作ったのかしら。首をかしげて悩むルイズだったがその手をキュルケが引っ張る。
「ちょっと何すんのよ!」
その手を怒鳴りながらルイズは振り払う。
「何か嫌な予感がするのよ」
キュルケはゴーレムを見据えそう言った。
「嫌な予感? よく分からないけど…離れた方がいいの?」
キュルケの言葉にルイズも何か感じるのかその場から離れようとするがふとあることに気付いてしまった。
「どうかしたのかしら?」
キュルケがルイズの視線をたどるとゴーレムの足元にアンジェリカの姿があるではないか。
「アンジェ! そっちに行ったらダメよ!」
叫び声と共にアンジェリカへと駆け出すルイズ。
「ああもう! 待ちなさいよ!」
キュルケもどうしようかと躊躇した後にルイズを追いかけて走っていった。
「あ、ルイズさん。見てください。大きいですね」
近くにやって来たルイズにアンジェリカはゴーレムを指差しながら話しかける。
「アンジェ、危ないからあっちに行きましょう?」
ルイズはアンジェリカの手を引いてその場から立ち去ろうとした。一足遅れてキュルケもやって来た。
「あ、動きましたよ?」
アンジェリカがそういうのでルイズとキュルケは視線をゴーレムにやった。
ゆっくりとゴーレムの足が動き出しはじめる。このままでは三人とも踏み潰されてしまいそうだ。
ゆっくりとゴーレムの足が動き出しはじめる。このままでは三人とも踏み潰されてしまいそうだ。
「二人とも早く逃げるわよ!」
キュルケの言葉を皮切りに動き出したルイズとアンジェリカだったが、アンジェリカが何かにつまずいて転んでしまった。
無情にもゴーレムの足は目前に迫っている。
無情にもゴーレムの足は目前に迫っている。
「アンジェ、早く!」
ルイズは懸命にアンジェリカを引き起こそうとするが間に合わない。
「ルイズ!!」
キュルケの叫びが虚空に響く。
一方ゴーレムの上で喜びに震えていたフーケは顔を青くしていた。気付かないうちにゴーレムの足元に 近寄ってきた人間がいるのだ。それも学院の生徒と思しき少女達が三人も……。
「こんな時間に何をしているのよ!」
いつの間に近寄ったのだろうか。余りに事がうまく進んでいたのでそこに油断があったのかもしれない。もはやゴーレムの動きは止められない、フーケは考える。このままでは少女達を押しつぶしてしまう。
「止めれないなら!」
フーケはとっさにゴーレムの足の軌道を変えた。ゴーレムの足は宙を泳ぎ、あらぬ方向へ行き地面にぶつかる。だが強引に足の軌道を変えたため、ゴーレムはバランスを崩し地面へ轟音を立てながら倒れていく。
当たりに激しい砂煙が立ち込めた。フーケは肩を抑えながらゆっくりと周りを見回す。
当たりに激しい砂煙が立ち込めた。フーケは肩を抑えながらゆっくりと周りを見回す。
「まったく…最後にこれかい? ついてないねぇ」
自らを嘲るように笑い出したフーケそして盗み出したものを眺める。
「ちっ、さすがに全部持っていくことはできないか…当初の目的は果たしたからよしとしましょう」
地面に落ちた破壊の杖を持ち上げようとするフーケだったがその肩に激痛が走る。思わず杖を落としそうになるが懸命にそれを堪えた。
「痛ッ! 私とした事が情けない…」
痛みに耐えながらも砂煙の向こうにいるであろう少女達を探す。辛うじてそのシルエットが確認できた。どうやら無事らしい。
「私も随分と甘くなったものね」
自分の怪我よりも無関係な人間の安否を心配するなど……苦笑しながら破壊の杖を持ち、その場から立ち去っていくフーケ。
そして後には砂まみれの三人の少女が残された。
Episodio 22
Notte fortunata sfortunato di notte
幸運な夜、不運な夜
幸運な夜、不運な夜