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Mr.0の使い魔 第二十六話

 至近距離での爆発は、クロコダイルにも少なからぬ被害を与えていた。
湿気の多いこの空間では、砂になって衝撃を逃がす事ができない。全身
すす汚れや擦り傷だらけ、羽織っていた外套も壁際まで吹き飛んでいる。
 見るも無惨な有様だったが、クロコダイルは笑みを浮かべていた。

「こうもあっさり片付くとはな」

 煙の中から白い仮面が転がり落ちる。からからと音を立てる仮面以外、
それこそ肉の一欠片も残さずに、敵の体は消し飛んでいた。
 上階にいたメイジの驚愕が背中越しにもわかる。たった一撃、それも
失敗した【レビテーション】にこんな破壊力があるとは思うまい。完全
に無警戒だったモノがとんでもない活躍をすれば、どんな人間でも動揺
する。その意識の揺らぎは、歴戦のスクウェアメイジとの戦いにおいて
致命的な隙だった。

「はぁッ!」

 裂帛の気合いと共に、ワルドの竜巻が膨れ上がる。荒れ狂う風に跳ね
飛ばされた白仮面は、踊り場から投げ出されて墜落した。その姿が闇に
紛れて、それきり影も形も見えなくなる。魔法で地面への激突は避けて
いるだろうが、追撃する余裕はないらしい。

「何とか、片付きましたね」
「そうだな。取りあえずは一段落だ」

 僅かに疲れを滲ませたワルドの言葉に、クロコダイルも小さく頷く。
何度か指を曲げて痺れが抜けたのを確かめ、吹き飛ばされた外套を取り
に壁際へ向かう。
 埃を払って外套を羽織ったクロコダイルは、そこでようやくルイズが
デルフリンガーのすぐ傍らにしゃがんでいる事に気づいた。床に落ちた
仮面を拾い上げてまじまじと眺めている。

「何やってんだ、ルイズ」
「え、あ、別に」

 引き抜いたデルフリンガーを鞘に納めながらのクロコダイルの言葉に、
ルイズはハッとして顔を上げた。勢い余って手からすっぽ抜けた仮面が、
軽快な音とともに階段を転がり落ちて行く。
 思わず手を伸ばしたルイズだったが、すぐにその手を引っ込めた。敵
はすぐそこまで迫っているのだ、余計な事をしている暇はない。

「行きましょう。早くフネに乗らないと」

 掌に残る蝋燭のような手触りを思い出しながら、ルイズはそう言って
歩き出した。


 Mr.0の使い魔
  —エピソード・オブ・ハルケギニア—

     第二十六話


 『女神の杵亭』前の攻防戦は、再び膠着状態に陥っていた。
 傭兵達は同種の罠に嵌まる事を警戒し、また近接部隊が揃って火傷を
負ったため、最初と同じ遠距離攻撃のみに徹している。比較的軽傷で沼
から脱出できた者の方が多いのだが、それでも数人、炎に絡めとられて
絶命した。半ばまで泥に沈む黒ずんだ死体は、それを見る人間に恐怖と
嫌悪を抱かせる。もう一度突撃して同じような反撃を受ければ、自分も
死体の仲間入りをするかもしれない——明確な死の可能性が、積極的に
攻め込む事を戸惑わせていたのだ。
 翻ってギーシュ達三人も、亀のように宿の中に引き蘢っている。特に
ワルキューレを七体全て精製した事に加え、広範囲に【錬金】をかけた
ギーシュは、すでに疲労困憊でコモン・マジックも使えない。キュルケ
とタバサ、そしてヴェルダンデに守られ、柱の裏で息を乱していた。

「は、は……我ながら、みっともない。こんな無様な姿を、女性の前で晒すとはね」
「何言ってるの、ギーシュ。あなた、すごく素敵だったわよ」
——もぐもぐ

 力なく呟いたギーシュを、キュルケとヴェルダンデが労う。隣で呪文
を唱えるタバサも、いつもとは違う温かい眼差しで彼を見つめた。囮と
して、ギーシュはドットとは思えないほどの大活躍を見せたのだ。力を
使い果たすのも無理はない。
 友人達の心遣いに、ギーシュは自嘲した。弱気な姿を見せては相手に
嘗められる。だからこそ冷徹に振る舞って心理的優位を得た。同時に、
余裕がある所を見せてキュルケやタバサに心配をかけさせまいとした。
だというのに、引っ込んでしまえばこの様だ。これでは彼女らに、また
自分にこの場を任せてくれたクロコダイルに対して、とても格好がつか
ないではないか。
 ギーシュの内心に気づいたのか、キュルケは悪戯っぽく笑う。普段の
妖艶な笑顔とはまた別の魅力があった。

「ねぇ、ギーシュ“隊長”。あたし達にも活躍させてよ。
 お祭りは見るだけじゃなくて、参加するのが楽しいんだから」
「そう、かい? じゃあ……この場は、君に、引き継ごう」

 ギーシュの意識はそこで途切れた。精神力が底をついて、気を失った
のである。
 目を閉じたギーシュの額に軽く口づけて、キュルケは玄関の外を見た。
隊列を整え直した傭兵達から何本もの矢が放たれ、暴風に弾かれて見当
違いな方向へ飛んで行く。あれだけ派手にやられて、再び突撃する気は
ないようだ。
 敵情を確認し、今度はヴェルダンデに目を向けた。主人に寄り添って
いたヴェルダンデは、キュルケの視線に気づいて鼻を鳴らす。

「ヴェルダンデ、もう少しだけ頑張れるかしら?」
——もぐもぐ

 自分の使い魔でない生物との意思疎通は難しい。ヴェルダンデが何と
言ったのか、その意図を完全に汲み取る事はキュルケには不可能だ。が、
ヴェルダンデもそれをわかっているようで、首を大きく縦に振り賛同の
意を示す。

「いい子ね。それじゃ——」
「待って」

 意気込んだキュルケを、不意にタバサが引き止めた。

「どうしたの?」
「様子がおかしい」

 言われて、キュルケはもう一度外を見る。タバサの杖が指した先では、
傭兵達が一カ所に集まっていた。


「ここまで、だと?」
「そうだ」

 戻って来るなり、仮面のメイジは仕事の終了を告げた。
 いぶかしむ隊長の視線を受けても、メイジは平然としている。

「理由を聞かせてもらえるんだろうな」
「必要がなくなった……それだけだ。
 報酬は全て『金の酒樽亭』に預けてある。後は勝手にしろ」

 メイジの言葉に、隊長はしばし考え込んだ。
 依頼人から終了の旨を言い渡されたのだから、これ以上攻撃を続ける
のは体力の無駄遣いである。気前よく使い続けていた矢もタダではない
のだ。折角の残弾を減らす必要はない。貴族の子供にコケにされたのは
腹立たしいが、感情よりも現金の方が大切だ。
 考えをまとめて、隊長は頷いた。

「わかった、俺達はここで解散する」
「待てよ! あんなガキ共に嘗められたまま終われってのか!?」
「俺はそれでも構わん。わざわざ魔法を喰らいに突っ込むよりはマシだ」
「う……」

 血気盛んな一人が隊長に詰め寄るも、返ってきた言葉に口をつぐんだ。
左腕の火傷が疼きはするが、やはり単独で突っ込むのは無謀でしかない。
怒りを溜め込むか、それとも自分だけ突撃して怪我を増やすか。僅かに
迷いを見せたものの、最後には彼は前者を選んだ。
 他の者も似たり寄ったりで、結局全員が酒場へ戻る事に決めた。
 全員の意見が出揃うと、隊長は今度はメイジの方を伺う。

「さて、と。あんたはどうするんだ、メイジの旦那」
「ここでお別れだ。もう会う事もあるまい」

 最後まで横柄な態度のまま、仮面のメイジは闇に消えた。


 クロコダイル達がフネ——『マリー・ガラント』号に辿り着いた時、
甲板では船員達が出港準備に大忙しだった。勝手に乗り込んで来る三人
に、彼らは最初こそ顔を顰めて詰め寄って来たが、ワルドが貴族派だと
告げると途端に掌を返した。何と言っても貴族派はお得意様であるから、
粗相があってはならぬ、という事らしい。
 遅れて現れた船長も、金貨数枚を渡されてあっさり乗船を許可した。
ワルドがグリフォンを呼び寄せた時にも、毛並みの良さや力強さを褒め
讃えて追加のチップを受け取るあたりいい根性をしている。
 もっとも、ルイズはそれがいたくお気に召さなかったようだが。

「信じられない! 仮にもトリステインの人間が、貴族派に媚を売るなんて!」
「彼らにも生活があるのだろう。貴族派は金払いのいい上客だからね」
「ワルドは貴族派が正しいって言うの!?」
「そうじゃない。ただ、価値観というのは人それぞれだ。
 王家への忠義を第一とする人間もいるし、とにかく報酬を優先する者もいる。
 このフネの船員、少なくとも船長にとっては、貴族派からの報酬が大事だというだけさ」

 宛てがわれた船室で不満をこぼすルイズ。ワルドは苦笑とともに自分
の見解を述べたが、それでもルイズは納得がいかないらしい。由緒ある
トリステイン貴族であり、またアンリエッタ王女に忠誠を誓う彼女には、
たかが金のために仇敵とも言える貴族派に与する船長達の行動が、国を
裏切るも同然に思えたのだ。
 立派な愛国心の持ち主だとワルドは頬を緩めたが、同時に幾ばくかの
危機感も覚える。この先はルイズの敵視する貴族派の膝元なのだ。ヘタ
な事を口にしては杖を向けられかねない。
 間違いが起こる前に、ワルドは一言釘を刺す事にした。

「いいかい、ルイズ。これからは不用意に貴族派をけなしたり、王党派を擁護したりしない方がいい。
 僕達が王党派だとばれたら、任務どころではなく敵に捕まってしまうからね」
「……わかってるわ」

 相変わらず不機嫌な表情だが、それでもルイズは頷く。自分の感情が
原因でワルドに迷惑をかけるのは本意ではない。彼の為にも、今だけは
我慢しようとルイズは決心した。
 同じく頷いたワルドは、今度はクロコダイルへと視線をずらす。港に
着くのが翌朝なので、クロコダイルは入って早々横になってしまった。
今は積み重なった藁の上で寝息を立てている——のだが、ワルドが用が
あるのはクロコダイルではない。

「少しいいかな、インテリジェンスソード君」
「……デルフリンガーだ。覚えとけ」
「では、デルフリンガー君。少し、聞きたい事がある」

 カタカタと鍔を震わせるデルフリンガー。渋々ながらも返事が返って
来た事に笑みを浮かべたワルドは、気になっていた事を尋ねた。

「桟橋での戦い、君は魔法を受け止めていたね。
 普通の剣ならあっさりと破壊されていたと思うのだが、君には何か特別な力があるのかな?」
「さてな。作られたのが随分昔だから、細かい事は忘れちまったねぇ」
「ならば聞き方を変えよう。デルフリンガー君は、魔法を吸収、あるいは無力化できるのか?」
「……」

 そこでデルフリンガーの声が止まった。
 不審に思ったルイズが横から口を挟む。隠し事をするのはワルドへの
不義理のようで、いい感じがしないのだ。

「ちょっと、デルフリンガー。この間実験したんだから、ちゃんと答えなさいよ」
「……あー、まぁ、そうだ。完全じゃねーが、ある程度なら吸収できる」
「ふむ。それは、どんな魔法でも?」
「モノによるさ。さっきの雷みてぇに、吸い込み損ねた分は持ち手がダメージを受けちまう」
「そうか。ありがとう、参考になったよ」
「どういたしまして」

 ぶっきらぼうに答えて、デルフリンガーは再び鞘に引っ込んだ。
 ワルドはと言えば、小さく欠伸をして壁に身を預ける。

「港に着くまでにはまだ時間があるな……ルイズも、今のうちに寝ておきなさい」
「わかったわ」

 頷いたルイズも、藁束を枕に横になった。


 夢を見ていた。
 もう何年も前の光景。実家の庭にある湖のほとりで、まだ少年の域を
出ていないワルドがちいねえさまと楽しげに話している。幼いルイズが
二人の間に混ざろうとして、後ろからエレオノール姉さまにほっぺたを
引っ張られる。
 懐かしい日々の記憶。“今”のルイズは、それを上から眺めていた。

「———」

 なぜだろう。
 温かな気持ちの中に、僅かに冷たいモノを感じる。

「——ズ」

 気づいてしまったからだろうか。
 ワルドが、ずっと昔からちいねえさまを見つめていた事に。

「—きるん—、—イ—」

 自分が、ワルドの“一番”にはなれな——。


「起きろ、ルイズ!」


 ハッとルイズは瞼を開けた。目と鼻の先ワルドの顔がある。一瞬火が
出そうなほど顔が熱くなるも、鋭い視線にすぐさま頭を冷やされた。横
で寝ていた筈のクロコダイルも、いつの間にか目を覚ましている。
 ただならぬ気配に、何かあったのだとルイズも理解した。

「何があったの?」
「フネが止まった。その直前に爆発音——いや、砲撃音が聞こえたから、多分空賊だ」

 空賊、文字通り空を縄張りとする盗賊である。フネを襲い、金品や時
には乗員の命すらも奪い取るならず者の集まり。逃げ場のない空という
領域に出没する彼らは、山賊や海賊と同様に危険極まりない存在だ。
 知らず知らずのうちに、杖を握る手に力がこもる。

「戦うの?」
「いや、敵がどんな武装を持っているかわからない。
 不用意に暴れると、逆上した連中が大砲でこのフネを沈める可能性もある」
「そんな! それじゃ、おとなしく捕まれって言うの!?」
「そうさ」

 横からクロコダイルが口を挟んだ。口元がつり上がっているのを見る
に、何か悪巧みをしているらしい。えげつない事だというのは、今まで
の付き合いですぐにわかった。

「……一応聞いておくけど。捕まって、それからどうするつもり?」
「賊相手に正面から戦う義理はねェだろう?
 連中が何を相手にしたのか、骨の髄“から”みっちり叩き込んでやる」

 愉しげに告げるクロコダイル。
 ルイズは頼もしく感じると同時に、喚び出す前の彼が海賊だった事を
思い起こして一抹の不安を覚えた。


   ...TO BE CONTINUED

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