あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

使い魔定光-5


「ええ、明日決行の予定よ」

暗闇と静けさがあたり一面を支配する夜。
既に時間も遅く、東方の島国の言葉を借りればまさしく丑三つ時と呼ぶにふさわしい。
その暗闇を照らす光はは二つの美しい月の光と、夜空に広がる星々だけだ。

「それより、ホントに大丈夫なんでしょうね?スクウェアクラスの固定化は一筋縄じゃいかないわよ?」
「心配するな。馬鹿力だけが取り柄の奴だ」

女の問いに、影は肩をすくませ少しばかり笑ってみせる。
なんとも芝居がかった仕草だ。女は口にはしないが不快感を覚えた。

「〈イホウジン〉は明日の夜にでも手配する。現物を確認してから、もう半分の報酬を渡す」
「わかったわ。 …ねぇ、あんた達が欲しがってるモノ、あれはいったいなんなの?やけに払いがいいし、気になってたのよね」

女は、用件を伝え終え姿を消そうとするその影を呼び止めた。
月の光に照らされ、黒ずくめの影の顔がチラリとのぞく。
垣間見た男の顔は不敵に笑っていた。

「…世界をひっくり返すぐらいのものさ」
「!?」

突飛な答えに、女は一瞬思考が回らなくなる。
そして、そう答えるや否や影はすばやく飛び去り、夜の闇へと溶けていった。


「ミス・ロングビル!こんな夜中にどうされました?」

その場に呆然と立ち尽くしていた女、ロングビルに衛兵が気付いたのはそれからしばらくしてのことだった。

「あぁ。ごめんなさい。お月様があんまり綺麗だったから…」
「そ、そうでしたか…しかし、女性の夜歩きは危険です!自分が部屋までお送りします!」
「あら…ありがとう。衛兵さん♪」

すこし興奮気味の衛兵に微笑み、ロングビルは衛兵の隣に寄り添うように身を寄せた。
容姿端麗、人当たりもよく聡明。学院の中でも人気のあるロングビルの前で、この若い衛兵が顔を赤く染めるのは道理であろう。
月夜に照らされた、この妖艶な笑みに騙されない男の方が少ないことは明白であった
たとえそれが、狩りを企てる雌狐のものだったとしても…


「変身!」

ポンコツを勢いよく頭に被ったコルベールが叫ぶ。
その顔はどこか期待感に満ちており、そんな彼を咎めることなど誰一人としてできなかった。
それはルイズも同じで、ただでさえ被り心地の悪いポンコツをその頭で被っていて平気なのだろうか、とちょっと思ったりもしたが、口には出さなかった。
しかし、コルベールの意気込みむなしくその身体には何の変化も起きず、シーンと静寂が流れるばかりだ。

『やはりルイズ以外の人間には変身できないようだな』
「……」

現実は非情である。
コルベールの淡い期待を容赦なく、粉々に打ち砕いてしまうのだから。
結局、その場に残ったのは兜を被ったまま項垂れるオッサンと、なんとも言いがたい微妙な空気だけであった。

「ぽ、ポンコツは私の使い魔ですから、しょうがないですよ、コルベール先生!」
「そうそう。ねぇタバサ?」
「……」
「僕が試したときも駄目だったから、当然の結果だと思うんだ…っ!?」

ぎろりとルイズ、キュルケにひと睨みされたギーシュがビクッと震える。
彼は意図して言ったわけではないのだが、場の空気が読めないのは考え物だ。
一方、タバサは下手に慰めると逆に本人をみじめにさせることを知っているのか
はたまた、ただ面倒なだけか何の反応も示さない。

「ハハハ…いいんですよ皆さん…おそらく、ミス・ヴァリエールの言うとおりの理由でしょう」
『君達が変身できなかったのは、変身機能が私の意思とは関係なくルイズの生体信号でロックされているからだろう。例のルーンの影響と言うことか』

コルベールは、傍らに人体模型よろしく立てかけられたポンコツの胴体、ユマノイドデバイスに目をやりながら、ポンコツを脱ぐと自分の机に置き、自分もイスに座った。
だらりと、生気を失ったユマノイドデバイスの手の甲に刻まれてあったはずのルーンは、きれいに消えていた。
消えた理由は、具体的に言えばポンコツの頭部がユマノイドデバイスから外れたときだ。

「ポンコツ君のルーンはとても特殊なものでしたからね…書き留めておいてよかった」

言いながら、引き出しからルーンを書き留めた用紙を取り出す。
全員の目がそれに集まった。

「見たことがない」
「たしかに…ね」

目を凝らせるようにルーンを観察していたタバサが口火を切った。
キュルケもそれに同意する。

「これに該当するものがあるとすれば、それはきっとガンダールヴぐらいのものでしょうね」
「へ?!」
「が、ガンダールヴ?!」
「あの伝説の!?」
「あ、いや、皆さん?あくまでこれは、言葉の綾というか…」

まじまじと見入る生徒達の反応に、まるで自分のことのように気を良くしたコルベールが
ちょっとした冗談のつもりで言った言葉に、他の全員は目を見開いて驚く。
無理もない。ガンダールヴといえばあらゆる武器を使いこなすと言われている伝説の使い魔。
ポンコツは宇宙から来たということ以外は、全く素性の知れない使い魔なのだ。
大いにその可能性ある。

『…そろそろ本題に移りたいんだが』
「あ、そ、そうね。ごめんなさいポンコツ。はじめて」

やっと空気が落ち着きだしたところでポンコツが切り出す。
ルイズも、わざわざコルベールの部屋にこうして集まった経緯を思い出し、それに従った。
そもそもこの集まりは、今回が第1回目となる「流刑体対策会議」なのだ。
参加メンバーは、流刑体についてポンコツからだいたいの事情を聞いて知っているコルベール。
それに加えてキュルケ、タバサ、ギーシュと、ルイズが随行体として戦うのを知る面々。
あとは、学院長のオスマンだが 立場上、あまり頻繁に参加できそうもないということで1回目から欠席である。
もっとも。それは建前で、実のところは最近入った美人秘書と長く一緒にいたい、というのが本音なのでは?とはキュルケの談。

『流刑体達がここ最近おとなしくしているのは奇妙だ』
「たしかに…人里離れた山で仲良く肩を寄せ合って暮らしてるとか…ないわよね」
『気性の荒いものが多い流刑体に限って考えられんな』

馬躁の一件から既に数日。
それを除けば一ヶ月近く流刑体はその姿を現していない。
ポンコツによれば、ここ数日であわせて5000体ほどの流刑体が降ってきたという。
だが、市街ではまったく騒ぎになっていないと、コルベールは言う。
流刑体よりも、怪盗の方がよほど世間を騒がしている、とコルベールが肩をすくめながら言っていたのが思い出された。
残忍で狡猾。人並み知恵を持つ野獣が一ヶ月行動を見せない。
これをひと時の平和と捉えるか、嵐の前の静けさと捉えるかは人それぞれだが
確実に言えるのは、このハルケギニアに流刑体は今も息を潜めて存在しているということだ。

「密かに殺されてるとか?」
『今現在確認してるだけで5000体ほどの流刑体を?現実的ではないな』

キュルケの言葉にもすばやく異を唱えるポンコツ。
その後も様々な意見や推測が出たが、どれもここ最近の流刑体の大人しさを説明するには弱いものばかりであった。

「まぁ、身近に一匹いるちゃ、いるんだけどね…」

1回目から泥沼状態の会議に、ほとほと疲れたルイズが伸びをしながら窓に目をやる。
そうそう、あんな感じで見た目は完全に馬なんだけども、やけに馴れ馴れしいのよね。
姐さん、姐さんうるさいし…

「って!馬躁!あんたなんで!?」
「あんな小屋でじっとしてろってのが酷ですぜ、姐さん!ちょっくらその辺をひとっ走りしてきていいですかい?」
「だっ、だめだめだめ!あんたみたいなのが走り回ったら大騒ぎよ!」

窓からぬっと首を出す馬躁にルイズは一瞬凍り付いてしまった。
コルベールは口をあんぐりと開け驚き、ギーシュは露骨に嫌な顔をして後ずさる。
キュルケとタバサは我関せずを決め込んでいるようだった。
ルイズは連れ帰った馬躁を、そのまま学院の馬小屋に放り込んで放置してしまったことを今更ながらに悔やんだ。
ここが地上2階だということはこの際置いておこう。

『馬躁。今は重要な会議の途中なんだ。自重してくれないか』
「そ、そうなのよ!走れる場所だったら今度探しとくから、とりあえず今は馬小屋に戻って…!」

なんとか馬躁を引っ込めようと四苦八苦するルイズをよそに、しばらく固まっていたコルベールが持ち直し、興味津々と言った様子で馬躁に近づく。

「しゃ、しゃべる馬とは!実に興味深い!ポンコツ君、この馬も流刑体なんですか?!」
『うむ。数日前に捕獲した。再三報告しておけとルイズに言っておいたのだが…』
「す、すいません!コルベール先生!どう言えばいいのかわからなくって、つい…」

本当は単にルイズが面倒くさがって咆哮を怠っただけである。
とりあえず馬小屋に入れておけばバレまい、などという甘い考えのもとに。

「あぁ!いや、それはもう結構。しかし本当に興味深い!ミス・ヴァリエール!この首筋に――」
「ところで姐さん、誰でい、このハゲ散らかしたオッサンは?」
「あ――――」
「ちょ!」
「……」
「…神よ」

コルベールにまとわりつかれ、若干不快な様子の馬躁が何気なく口にしたそれで、ルイズは部屋の温度が一気に冷え下がるのを感じた。
普段は温厚で、物腰が柔らかい人柄で通るコルベールを怒らせる、あるひとつのワードがあることは、この学院に身を置くものなら誰もが知っていた。
彼の身体的特徴、噛み砕いて言えば、その体毛のきわめて少ない頭部。
そのことについて触れないということは、ここでは暗黙の了解として確実に存在していた。
一度、勇気と無謀を履き違えた生徒がそのことを指摘したとき、学院には血の雨が降ったという逸話が、嘘か真か残っている。
教室の天井にある赤いシミはその時のものだ、なんていう笑えない冗談とともに、その伝説は代々トリステインで語り継がれてきたのである。
しかし、その伝説の再現をまさか自分達が体験することになろうとは…
その場に居た全員が神の意地悪な所業を恨んだ。

「は、話も終わったみたいだし、私達は帰るわ!」
「そうさせてもらう」

筋の通った言い訳で、まずはキュルケ・タバサのコンビが戦線を離脱する。

「そういえばモンモランシーと約束があるんだった…ルイズ、これからもできる範囲で協力させてもらうよ! それじゃ!」

続いてギーシュが、すたこらさっさと前述の二名に続き離脱。
ルイズの孤軍奮闘というわけである。

「ちょ、ちょっとー!薄情者ぉー!私だっ…」
『不可解だ。彼らは一体何をあんなにおびえているのだ?』

今にも逃げ出したい衝動に駆られたルイズが自分もそれに続こうとする
ポンコツの的外れな発言に突っ込むゆとりはもうなかった。

「姐さん、待ってくださいよ!今度っていつっスか~」
「って…え?」

ルイズの戦略的撤退は適わなかった。
馬躁は彼女のローブをむんずと咥えていたのだ。

「は…ははっ」

人間、ぎりぎりの状況になると自然と笑ってしまうというが…それは本当なのだな、とルイズは身をもって思い知った。
わなわなと肩を震わすコルベールの全身から発せられるオーラで、窓ガラスがピシっと小さく悲鳴を上げる。
視界が暗転する---―
ルイズが覚えているのはそこまでだった。

「はぁ、疲れた…」
『流刑体と互角に渡り合う人間が居るとは驚きだったよ』

結局、ルイズ達が解放されたのは陽もだいぶ沈んだ頃だった。
途中、意識が途切れたので記憶は曖昧だが、ポンコツの話を聞く限り、とてつもなく恐ろしい惨劇が繰り広げられたのは確かだ。
その証拠にあれだけ騒がしかった馬躁はすっかり大人しくなり、「光が…なんだかわかんねぇ、光が…」などと、うわごとのように繰り返しながら、トボトボと馬小屋にまっすぐ帰っていった。
あの伝説は本当だったのだ…
ルイズは、自分が気を失った幸運に感謝した。

「でも馬躁も馬躁よね。本当に流刑体なのかしら、あいつ」
『馬躁は事故とはいえ、3000人の命を奪った凶悪な犯罪者だ』

枕元に丁寧に置かれたポンコツがこちらに目を合わせるように、もっとも表面上は無機質なコワモテなのは変わらないが、答えた。
ギーシュとの一件以来、ルイズがポンコツを乱雑に扱うことはなくなった。
それはポンコツがルイズの信頼を得た意味でもあったし、使い魔として認めたということに他ならない証拠であった。

「ふーん…」
『しかし、会議といっても何の進展もなかったな。やはり流刑体達の動向をつかめないことには…』

ポンコツはそこで言葉を切ると、彼が時折発するジジジ…というくぐもった音が耳元から聞こえてきた。
妙に思ったルイズが、ポンコツに頭を向けようとしたその時、ズン!と腹の底から響くような凄まじい振動がルイズを襲う。
地震!?と一瞬思った矢先に、再び重いバコーン!という轟音の第二波。
第一波に比べ、やや弱い衝撃だが、そんなことをいちいち考えている余裕はなかった。

『ルイズ!外だ!!』
「っ!?」

普段のポンコツからは想像もつかないような怒声が上がり、慌ててルイズはポンコツを小脇に抱えダッと窓へと走る。
ポンコツの声はよほど大きかったのか、隣の部屋の生徒達が自分と同じように窓から顔を覗かせているのが見えた。
ルイズは落ちない程度に窓から身を乗り出す。もっとも、本当に落ちたとしてもポンコツがいれば安心だが。

「あ、あれは!?」
『?!』

目の前に広がる光景に、ルイズは絶句した。
月夜に映し出されたその赤土色の巨体は、さながら樹齢何千年も経とうかという大木そのものであった。
「それ」が巨大なゴーレムであるということに気付くのに、しばらく時間がかかってしまうほどに。
どこからともなく、土くれのフーケだ!という声がした。
土くれのフーケ。
錬金魔法を操り、貴族達から希少なマジックアイテムを奪っていくという、巷で話題になっている大怪盗。
時には巨大なゴーレムを使い、手荒な方法で目当ての品を奪っていくとも聞く。

『ルイズ!ゴーレムの肩を見ろ!』
「!?」

ここにそれほど希少価値の高いものがあるのか、と一瞬考えを巡らせていたルイズを
現実に引き戻すかのごとくポンコツが声を張った。
見れば、ゴーレムの右肩に乗るフーケと思しき影の向こう側、左肩に陣取る影が確認できた。
遠目からでも、その大きさは推測できる。身の丈2メイルはあろうかという大男だ。

『あれは流刑体・爆腑(バクフ)だ!』
「なんですって…?!」

それを聞いたルイズは、おもわず変身して飛び出そうと身構えたが、それはポンコツによって却下された。
今ここで戦えば被害は甚大なものになる。
そしてなにより、爆腑は強い。
誇張なしに命を落とす危険性がある、とポンコツに力説されてはルイズも黙って従わざるを得なかった。
しばらくすると、外からあわただしく被害状況を報告しあう、ほとんど罵声に近い声が聞こえてきた。
静かな夜は一転、突然の騒動によって騒がしい夜となってしまった。




『この惑星の犯罪者と「流刑体」。あまり好ましくない組み合わせだな』

ポンコツがポツリと零したその一言がひどく頭に引っかかり、その夜ルイズは一睡もできなかった。


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