あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのガンパレード 20

「空賊だ! 抵抗するな!」

いきなり現れて大砲を撃ち放った黒船に、ルイズは胡乱そうに目を細めた。
その船腹ではメガホンを持った男が大声で怒鳴っている。

「空賊ですって。どう思う?」

髪をかきあげ、集まってきた仲間たちに問い掛ける。
それがね、とキュルケが楽しそうに笑った。

「後甲板で船長たちのやり取りを見てたんだけど、
 あいつら、この船が貴族派の荷物を積んでるって言ってやってから撃ってきたのよ」
「当たり。王党派」
「まぁそれ以前に、最初に自分から馬鹿正直に空賊でございなんて言う奴はいないな。
 反撃されたらどうするんだ。臨検を装って武装解除してから言えば損害も出ないのに」

タバサとギーシュも笑いながら口を挟む。
ワルドは帽子を押さえながら天を仰いだ。
頼もしいのはいいことだが、これはいくらなんでも異常だろう。

「で、どうするの?
 最初から正体は解ってるのよと言ってあげる?
 それとも、出方を待つ?」
「ぼくとしては後者を進めるね。
 王党派なら手荒い真似はしないだろうし、ぼくらにはブータニアス卿もいる」

いつしか一行の中での参謀役に納まったギーシュが言った。
異論はないと頷く少女たちを見回し、ワルドに話を振る。

「子爵もそれでよろしいですか?」
「かまわない。かまわないが、ブータニアス卿とは誰のことかね?」
「ああ、ルイズの使い魔の猫ですよ。
 ブータニアス・ヌマ・ブフリコラ。略してブータです」

ふむ、とワルドが首を傾げる。
それはまた、貴族のように仰々しい名前の猫だな。
だがラ・ロシェールでのことを思えばそれくらいが相応しいのかもしれない。
実際には貴族ではなく王でしかも神なのだが、さすがにワルドもそこまではわからない。

「のん気なもんだ。状況がわかってるのか?」

離れたところでそれを見ていた船長が舌打ちする。
ワルドはルイズたちの落ち着き振りを異常と称したが、傍目から見れば彼もまたその一人であった。
顔を歪める船長を副長が宥め、混乱して暴れられるよりはいいでしょうと舷側から乗り込んでくる男たちを指し示す。
こちらにメイジがいると空賊が知れば、問答無用で殺しにくることも考えられたからだ。

「船長はどこでぇ」

派手な格好の空賊の一人が荒っぽい言葉遣いで辺りを見回した。
どうやら彼が頭らしい。ルイズはその腰に水晶で飾られた杖が提げられているのを見て取った。

「わたしだが」

震えながら、それでも精一杯の威厳を保とうと努力しながら、船長が手を上げる。
頭は大股で近づくと、その顔を曲刀で叩きながら問いかけた。

「船の名前と、積荷は?」
「トリステインのマリー・ガラント号。積荷は硫黄だ」

空賊たちの間からため息が洩れた。頭はにやっと笑うと、船長の帽子を取り上げ、自分がかぶった。

「船ごと全部買った。料金は手前らの……!?」

――――その時、世界が凍った。

ギーシュが薔薇の造花を取り出し、目の前に掲げた。
キュルケが杖を構え、頭に狙いをつける。
タバサがデルフリンガーをいつでも抜けるように腰をかがめた。
彼らは知っていたのだ。
自分たちの中心である少女が何に怒り、何を許せぬと感じるかを、十二分に理解していたのだ。

「おい……?」

ワルドが呆然とした表情で戦闘態勢を取った連れを見やる。
ブータを従えたルイズが、怒りに燃える目で頭を睨んでいた。

「……貴族の客まで乗せてるのか」

怒気を感じ取ったのか、頭がルイズたち一行を見やる。
空賊たちが半円を描くように包囲し、武器を構えた。
慌てる船長を押しのけ、頭はルイズに近づくと顎を手で持ち上げて口笛を拭いた。

「こりゃあ別嬪だ。お前、おれの船で皿洗いをやらねえか?」

ルイズはその手をぴしゃりとはねつけると、頭に目を合わせたまま言ってのけた。

「下がりなさい、下郎」
「驚いた! 下郎と来たもんだ!」

頭は大声で笑ったが、周囲の男たちは誰一人として笑わなかった。
むしろ不快さを視線に乗せてこの傲慢な少女を見やった。
いつの間にか横にいた船長が顔面一杯に汗をかいているのと対照的に、
ルイズは冷静そのものの表情で口を開いた。

「無自覚に他人の誇りを踏みにじる者を下郎と言って何が悪いのかしら?」
「ハ! 貴族さまの誇りって奴かい?」

頭は笑い、これだから世間知らずの貴族さまはと肩を竦めた。

「ここは陸じゃねぇ。貴族だからって偉いわけじゃねぇさ。
 しらねぇようだから教えてやる。船で一番偉いのは……」
「結構よ。下郎の口上は聞くに耐えないわ。
 理解できないようだから教えてあげる。あなたを下郎と呼んだのはこれが理由よ」

ルイズの合図で大猫が動いた。跳躍し、頭を掠めるように着地する。
その口には先ほど奪われた船長の帽子が咥えられていた。
ルイズはそれを受け取ると、軽く埃を払ってからその正当なる持ち主に差し出した。

「かぶりなさい、船長」
「え、いや、しかし」
「あなたはこの船の船長で、これはその証よ。
 あなたにはこれをかぶる権利がある。
 航海中においてはそれを禁止することは誰にも出来ない。
 あなたが死ぬか、自分から船長であるのをやめる時以外はね。
 少なくともわたしはそう聞いているわ。
 違うのかしら?」

船長は驚き、目を見開いた。
差し出された帽子を受け取り、じっと見る。
ルイズの言うことに嘘はなかった。
それは彼女が空軍士官を兄に持つギーシュから聞いたことの一つだった。
およそ航海中の自分の船の中においては、船長は一国に置ける王と同様の権限を持つ。
それは水の上と空の上を問わず、民間と軍組織の違いも問わない船に生きる者たちの不文律だった。
その権限を持ち、全ての船員の生命を預かる責任を持つが故に船長は尊敬されるのだ。
帽子を見つめ、これまでの長い船乗りとしての人生を思った。
水夫として過ごした期間を、副長として船長の補佐をした時間を、初めて自分の船を持った時の喜びを思い出した。
無意識のうちに手が帽子の縁をなぞる。
綺麗な、とはお世辞にも言いがたい。
長い月日の間に雨風に打たれ、何度も繕った痕がある帽子だった。
だがこの世に二つとしてない、船長としての今までの自分を飾ってくれた帽子だった。
同じ風を感じ、同じ光景を眺め、同じ時間を過ごしてきた帽子だった。
船長は頷き、そっと帽子を自分の頭にのせた。
背筋を伸ばし、先ほどとは別人のような姿勢で空賊の頭に相対する。
奪われた誇りが、再び自分に戻ってきたのだ。
この上何を恐れるべきか?
決まっている。再び誇りが奪われることだ。

「貴族であろうが平民であろうが、船の上には船の上の掟がある。
 まさかそれを知らないわけではないでしょう。
 なのにあなたはそれを破った。下郎と呼んで何が悪いのかしら」

あくまでも堂々とした態度を崩さぬルイズに、空賊の頭は深々と息をついた。
周囲の空気は先ほどまでと違い、船長の誇りの為に声を上げた少女を賞賛するものに変わっている。
ルイズの言動は空の上に生きる者から見て正しく、文句のつけられるものではなかった。
それを否定することは自分たちの誇りを否定するものだからだ。

「さて、それではその下郎に要求するわ。
 わたしとその仲間、五人の身代金を合わせればこの船を買ってお釣りが来る筈よ。
 わたしたちがそちらの船に移る代わりに、この船を開放しなさい」

ルイズは一度息を吐くと話題を変えた。
その内容に空賊や船員たちが顔色を変えるが、ワルドを除く仲間たちはただ苦笑しただけだった。
なにしろ彼らの中ではこの空賊は王党派のものであり、それと接触することが目的だったのだから。
自分たちの任務と関係のない商船を巻き込むのは彼らの本意ではなかった。

「それは……」

空賊の頭もまた息を呑み、ルイズの提案を考える振りをした。
本来ならば取るべき道は決まっている。
この船に積載された硫黄も、そしてこの船自体も、彼にとっては喉から手が出るほど欲しいものだった。

「お前は、優しいんだな、貴族の嬢ちゃん」

頭の呟きに、ルイズは面映そうに笑って見せた。
その表情に空賊の頭もまた嬉しそうに頬を緩める。
この少女は自分の無礼をそれ以上追及しなかった。もし追及され、謝罪をと言われれば断りきれぬ。
彼の行いは確かに空を往く者たちの掟に抵触したのだから。
だが、部下たちの前で自分の非を認めることなど人の上に立つ者が出来るものではない。
この少女はそれを知っており、その上で話題を変えたのだと理解できたからだ。
ため息を吐く。
もしも自分の知る貴族が全てこの少女のようであったのなら。
いや、もしあと十人もこのような貴族がいてくれたのならば。
自分はこのようなことをしなくても良かった筈だった。
周囲にいる船員たちがざわめきを上げる。
空賊たちの船に続き、もう一隻の船が姿を現したからだ。
頭はそれを眺め、皮肉げに唇を歪めた。
朝方に拿捕したその船で見た貴族の娘を思い出す。
今は人質として自分の船にいるその娘は、
混乱して船長や船員に罵詈雑言を浴びせた挙句に眠りの呪文で無力化されたのだ。
おそらく今頃は目を覚まして、同じ部屋に閉じ込めたお付きらしい男に食ってかかっているだろう。
頭は視線をルイズに移し、やれやれと首を振った。
今世にいる貴族の大多数はあの娘のような存在であり、
目の前の少女が極少数派なのは解ってはいたが、
それでもなぜこうまで違うのかと考えるのを止めることは出来なかった。
冷静に考えれば、船は自分たちの船ともう一隻あれば足りるだろう。
ならばこの船は見逃してもいいか。少女の提案を受け入れようと頭は決意した。

「生憎だが、貴族のお嬢さん。そういうわけにもいかんよ」

頭の機先を制するように口を開いたのは船長だった。
先ほどまでの怯えが嘘のように力の篭った視線で空賊を見回すと、ルイズを庇うようにその前に立った。

「わたしが依頼されたのは、君たちをアルビオンに送り届けることだ。
 故に、わたしは君たちがアルビオンの港に着くのを見届ける義務がある。
 さて、空賊くん。わたしの船と積荷は差し上げよう。
 その代わりに、このお嬢さんたちがアルビオンに着くのを見届けさせていただきたい」

頭は船長の目を見つめ、そこに決意の色を見て取った。

「……いいだろう。このお嬢ちゃんたちはアルビオンに着いたら開放しよう。
 その代わり、着くまでは人質としておれの船に移ってもらう。それでどうだ?」
「異存はない」

驚いたのはルイズである。
この空賊が王党派であり、船長たちに無体を働くことはないと思ってはいるが、
船乗りがその船を失うようなことを許していい筈がない。
だが、その反論は船長の微笑みによって封じられた。
船長は微笑み、本当に嬉しそうにしていたからだ。

「すまんな、副長。それにみんな」

言いながら、船長は胸を押さえた。
その奥にある熱いモノを感じ、それを得られたことに、それを与えてくれたこの少女に感謝した。
船乗りは常に危険と隣り合わせである。
永い航海の間にはこの様に賊に襲われることもあるし、
風を読み間違えた所為で目的とは違う場所に不時着することもある。
あるいは嵐にあって船体が破損することもあれば、
乱気流で空に投げ出されることもある。
例え生き残っても、船乗りとしては死んだも同然の怪我を負ってしまえば意味がない。
歳を取り、船に乗れなくなっても同様だ。
船長はそんな死んだ船乗りを何人も見てきた。
船を降り、陸の上でかつて自分がいた世界を眺めるだけになった同胞を何人も知っていた。
憧れの、後悔の、憧憬の視線でかつての世界を眺める元船乗りたち。
だがその中に、数こそ少なかったけれど笑みを持ってそれを為す男たちがいた。
笑いながら、後悔などないとかつての世界を優しい瞳で見る男たちがいた。
それを不思議に思いながらも、それでもいつか自分はそうなりたいと思った。
そうなれればいいとずっとずっと思っていた。

「なに、気にすることはないよ、お嬢さん。
 わたしも歳だ。そろそろ船乗りとしての寿命が近づいてきたと思っておったところだ。
 惜しむらくはこの船を副長に譲ってやれんことだが」
「ご心配なく、船長。自分の船は自分で調達します」

副長もまたにこやかに言った。
長年に渡り船長の女房役を勤めてきた忠実な男は、素直に喜びを現していた。

「ありがとうよ、お嬢さん」

船長は深々と頭を下げた。
船乗りとしての最後の最後に、このような客を運ぶことが出来た。
誇りをこの胸に取り戻すことが出来た。
船と引き換えに恩人を救うことが出来た。
自分はこの先、ずっとずっとこの時のことを思い出すだろう。
それは夜の闇の中でも消えぬ光。冬の寒さの中でも消えぬ燠火。
長い長い航海の間に何度も自分を導いてくれた星明りのように、
この思い出はこれからの自分を導き、この胸の奥で輝いてくれるだろう。

「本当にありがとう。
 船乗りとしてのわたしはこの航海で死ぬだろうが、どうやら笑って逝けそうだ」


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