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ディセプティコン・ゼロ-13 B

そんな中、敢えて戦場へと侵入する炭素生命体の一団が在った。
彼等の手には、杖、剣、そして銃。
ブラックアウトの主、ルイズ達の一行だった。

「っ……何だってのよ! 何が起こってるの!?」
「戦闘に決まってるじゃない! さっきのが聴こえなかったの!?」
「誰と!?」
「だから『お友達』とでしょ、銀色の! 人間相手にしちゃ派手過ぎるわよ!」

轟音に掻き消されぬよう声を張り上げつつ、ブラックアウトが戦闘を行っているであろう地点へと向かうルイズ達。
デルフは止めたものの、おとなしくブラックアウトの帰還を待つつもりなど、彼等には欠片も無かった。
そして、意図的に避けているとしか思えない―――――事実、ブラックアウトによって、その様に誘導されていた―――――20mm、プラズマ、エネルギー弾幕の間隙を縫って戦域へと辿り付いた、その時。
彼等の目に飛び込んできたのは―――――


ブラックアウトに馬乗りとなり、凄まじい勢いでその胸部を殴り付ける銀の巨人、その姿だった。



「ギーシュッ!」

ルイズが叫ぶより先に2体のワルキューレが錬成され、巨人へと向かい走り出す。
ブラックアウトに気を取られていたのか、ジャズは跳躍したワルキューレに組み付かれるまで、その存在に気付かなかった。

右腕の砲身を再度ブラックアウトへと突き立てようとしたその時、左側面の脚部、腕部、そして頭部に人型を模した魔法制御兵器が組み付いた事によって漸く、敵の増援としてメイジ達がやってきた事を認識。
次の瞬間、それら3体の人型が轟音と共に爆発した。
脚部アクチュエータ、損傷。
左腕部、損傷軽微。
光学センサー、ダウン。

1秒と経たずに視覚装置が再起動した瞬間、強烈な焔が光学センサーを遮る。
同時に、四肢の関節を狙い氷の矢が飛来、着弾。
砕け散った氷の破片が機構間隙に侵入し、内部で氷塊として成長、稼動を阻害する。
ジャズ、思わぬ攻撃に堪らず離脱。

メイジ。
まさかこの自分が、魔法如きに遅れを取るとは。
貴族派にこんな手練が居たのか?
この攻撃は明らかに、此方の構造的弱点を突いてきている……!

20mm砲弾飛来、回避。
回復した光学センサーを左前方の森へと向ける。
メイジを確認、総数4。
先程の攻撃から予測するに、敵の系統は其々、火、土、水、不明。
特に水は、稼動を制限される恐れが在る為、優先的に排除する必要性在り。

ジャズはその右腕を翳し、砲口を向ける―――――ブラックアウトへと。



彼等を狙う必要は無い。
彼等には、彼等に相応しい相手が居る。
自分の敵は、この忌々しいデカブツだ。


ワルキューレの爆発により、皹の入ったバイザー。
その視覚装置の片隅に、彼がこの世界で最も信頼する2人の片割れ、重武装にて敵集団へと向かい駆ける『相棒』の姿が映り込む。
その走りが敵集団を完全に射程へと捉えた事を確認し、ジャズはブラックアウトへと突撃した。




逸早く『それ』気付いたのは、デルフだった。
ルイズ達の注意がブラックアウトと銀の巨人との戦いに向けられている中、急速に接近する人影を認めたのだ。
その手には、一振りの剣。

「敵だ!」

叫ぶと同時、亜人型へと変形、跳躍。
銃口を展開し―――――しかし間に合わない。


一閃。
人間離れした神速の横薙ぎがデルフに直撃、その身体がボールの様に吹き飛ばされる。
漸くルイズ達が事態に気付いた時には、デルフは巨人達の戦いの真っ只中へと放り込まれ、銀の巨人に蹴り飛ばされて、破片を散らしながら木々の間へと消えていったところだった。


「デル……!?」

その名を、最後まで呼ぶ事は出来なかった。
彼女の目に飛び込んだものは、折れた剣を降り抜いた体勢のまま、殺意の滲んだ目で此方を見据える、1人の少年。
どうやらその手に持つ剣は、デルフを殴打した際に砕け散ったらしい。
しかし剣が折れているにも関わらず、目前の少年から発せられる鬼気は微塵も薄れはしない。




なんだ、この男は?
剣を持っているという事は『平民』か。

正面から覗き込んだ彼の目が湛える冷たさに、ルイズは背筋が凍り付くのを自覚した。

『平民』だと?
メイジに向かって、隠し様も無い殺意を向けるこの少年が?
あのデルフを、不意を突いたとはいえ一撃で排除した人間が、『平民』?



考える暇など無かった。
少年がナイフを抜いたのだ。

その時、ルイズを庇う様にして青髪の少女が、『ウィンディ・アイシクル』を唱えながらその前に躍り出る。
攻撃などさせない、一瞬でけりを着ける。
明らかにそれを意図した、迷いの無い行動だった。
余程手練のメイジでなければ、この距離から放たれる無数の氷の矢を躱す事など不可能だろう―――――


その予想は裏切られた。
ルイズも、キュルケも、ギーシュも、魔法を放ったタバサさえも。
『平民』が至近距離から放たれた魔法を回避するなど、考えもしなかったのだ。


少年はもう一本、小振りのナイフを抜き、それを投擲したのだ―――――タバサが、鍛えられたその動体視力を以ってしても追えない速度で。
ナイフは見事にタバサの手首を貫き、彼女は杖を取り落とす。

―――――『回避』ではない。
『発動させなかった』のだ。

驚愕に目を見開く一同を無視し、少年は驚くべき跳躍力でタバサへと飛び掛る。
タバサも咄嗟に身を躱そうとしたものの、少年の速度に反応し切れるものではなかった。



一撃。
一欠片の容赦も無く、少年の膝がタバサの鳩尾へと突き刺さる。
身体をくの字に折り曲げ、僅かな呻きと共に、タバサの意識は闇へと墜ちた。

不運な事に、角度の問題からキュルケには、少年がタバサをナイフで突き殺した様に見えたらしい。
ほんの数瞬、呆けた様にタバサと少年を見遣った後―――――


「……ッ! フレイムボールッ!」


鬼気迫る形相にて、それこそ通常の6倍、否、8倍は在ろうかという『フレイムボール』を、タバサから離れ、此方へと駆ける少年へと放った。

今度こそ、躱せる筈が無い。
既に魔法は放たれているのだ。
しかも、少年の背後からは何時の間にか、2体のワルキューレが槍を手に迫っている。
例え火球を躱したとしても、その瞬間にワルキューレによって突き殺されるだろう。

少年が腰に手を回し、それを引き抜く。
分厚い革に包まれた何か。
そしてそれを庇う様にして、正面から火球へと突っ込み―――――


その下方右側をすり抜けた。


「なっ!?」

キュルケは信じられなかった。
まさかこの火球を前にして、自ら突っ込んでくる者など居はしないと思っていたのだ。
事実、今までにもそんな話は聞いた事が無い。

少年は足先から地面に倒れ込み、泥の上を滑る様にして、火球の斜め下、地面との僅かな隙間を潜り抜けたのだ。
火球はそのまま背後のワルキューレ1体に直撃、四散。
そして少年はその手に抱えた革の袋から、それを抜き出した。


『フリントロック・ピストル』




地面を滑りつつ、自身へと銃口を向ける少年の姿を捉えながら、キュルケは現実感に乏しい思考を働かせる。

何なのだ、こいつは。
この身のこなしといい、武器の扱いといい、まるで御伽噺の登場人物―――――『イーヴァルディ』ではないか。
槍は無いが、代わりにナイフと銃―――――如何にも現実らしい。

そして今更、今更だが、心臓を鷲掴みにされる様な恐怖が全身を走る。

自分達は、何を相手にしているのか。
『平民』な訳が無い。
こいつは『平民』なんかじゃない。
こいつは……こいつは―――――


『メイジ殺し』


乾いた音と共に、キュルケの腹に灼熱の衝撃が走る。

―――――撃たれた。

少年がキュルケへと銃を投げ付ける。
グリップが額に当たり、鈍い音と衝撃が頭を揺さぶった。
視界に赤いものが映り込み、顔全体に温い液体の感触。
次いで再び、腹に衝撃が走った。
逆手に持ち替えたナイフの柄による突き。
キュルケの意識が沈む。

「キュルケッ!」

叫び声。
突如、傍らの枝が爆発する。
突然の事に反応が遅れ、木片に全身を切り刻まれる少年。
足元のキュルケに被害はなし。

木片の散弾に切り刻まれ、血塗れとなった少年が振り返る。
その視界には、無数の花弁―――――薔薇。
吹雪の様に舞うそれらは、格闘戦を繰り広げる巨人達をも覆わんばかり。

「何だ……これ」



呆然と呟いた瞬間、背筋を走った悪寒に従い身を捻る。
その空間を突き抜ける、青銅の槍。
その凄まじい刺突に目を見開き、躱せた事に安堵したのも束の間。
剛腕から繰り出される槍の横薙ぎに、彼は10メイル近くも弾き飛ばされた。

「グゥッ!?」

木の幹に叩き付けられ、激痛に呻く少年。
視線を落とせば、右腕が在り得ない方向へと捻じ曲がっている。

「ちっ……くしょ」

その言葉も終わらぬ内に、彼はその場から飛び退く。
一瞬前まで背を預けていた箇所を見遣れば、太いとはいえない木の幹を貫いて、青銅の槍が生えていた。
己の顔から血が引くのを感じつつも木の裏に回り、槍を放棄して徒手にて迎撃の構えを取るゴーレムの首を、左手に持ち替えたナイフで刎ね飛ばす。

その時、少々離れた位置で杖を構える、桃髪の少女が目に入った。
彼女は何かをその視界に捉え、小声で何かを呟いている。
その視線を辿った先には―――――

「クソッ!」

自身が刎ねた、ゴーレムの首。
彼は咄嗟に、それを蹴り飛ばす―――――ルイズへと。

「え?」

自身へと向かって飛んでくる『爆発物』に、ルイズが戸惑った様な声を上げる。
しかし、既に杖は振られていた。

爆発。
視界が煙に閉ざされる。
状況を判断し切れず、軽い恐慌状態に陥るルイズ。
その側にギーシュと、2体のワルキューレが駆け付ける。

「ルイズ、しっかり!」
「あいつは? あいつは何処!?」
「いいから早く! 此処を離れるん……」



ギーシュの背後、ワルキューレの首が飛ぶ。
その音に振り返ったギーシュが、煙の中から突き出された脚によって蹴り飛ばされ、数メイルも吹き飛んだ。
ルイズは咄嗟に杖を構え直し、それまでの位置から飛び退く。

直後、煙を突き破って少年が追い縋る。
ルイズは杖を向け―――――

「錬金ッ!」

彼の腰元、ナイフの鞘を爆破した。

「うあぁッッ!?」

叫び声。
やった、と喜色を浮かべるルイズの前方で、少年が無事な左脚を使い跳躍。
ルイズへと飛び掛る。

目を見開き、驚愕の表情を浮かべるルイズ。
その目前の空中で、彼はナイフを捨て拳を握り、大きく左腕を振り被ると―――――


「ッがああぁッッ!」


渾身の力で、ルイズの右頬目掛け振り抜いた。


鈍い音。
ルイズの小柄な身体が吹き飛ばされ、もんどりうって地面へと叩き付けられバウンド、其処で漸くその動きを止める。
数秒しても、その身体が動き出す気配は無い。

「やっ……たの、か?」

荒い息と共に、呆然と呟く少年。
声を返す者は居ないが、己以外に動く人間が存在しないという現状こそが、その答えだった。

「……ザマ見ろ、貴族が」

そう呟くと、彼は相棒の戦いへと目を遣る。
目を離してから2分程しか経っていない。
もう暫く決着は着かなそうだ。


「サイト!」


と、轟音の中、聴こえるはずの無い声が耳に届いた。
慌てて其方へ目を遣ると、帽子を被った金髪の少女―――――テファの姿。



「テファ! 危ないだろ、どうして来たんだ!?」
「だ、だって凄い音がしたし……サイト、その腕……!」

テファは少年―――――才人に走り寄るとその腕を見遣り、青褪める。

「ん、ああ……折れちまった。それよりテファ! 早く此処から離れろって! まだジャズが……ぎぁッ!?」
「サイトッ!?」


突然だった。
全く突然に才人が吹き飛ばされ、木へと打ち付けられる。
見れば、才人の立っていた地点に、青銅製のゴーレムの姿が在った。

―――――ワルキューレ。

「やって……くれたじゃないか……」

その背後、口に当てた指の隙間から血を溢しながらも、金髪の少年が立ち上がる。

「レディに向かって物を投げ付けるに留まらず……顔を殴るとはね……」

震える膝を叱責しつつも確りと立ち上がると、血を拭って杖を構えるギーシュ。
恐怖を滲ませた目で此方を見るテファへと視線を固定すると、彼は凄惨な笑みを浮かべた。

「……ま、僕も他人の事は言えないか」
「ぐっ!?」

軽く杖を振ると、ワルキューレがテファの首を掴む。
そのまま力を込める事無く、ただし逃げ出す事も出来ぬ様に押さえ付ける青銅の像。
それを見届けると、ギーシュは軽く咳き込みつつ声を張り上げた。

「もう起きてるんだろう、タバサ! キュルケとルイズの傷を見てくれ!」

その声に、伏していたタバサがのろのろと起き上がる。
顔色は、お世辞にも良いとは言えない。

「大丈夫かい?」
「……あまり」



此方も咳き込みながら答え、キュルケへと歩み寄る。
程無くして、彼女も目を覚ました様だ。
血の滲む腹部を押さえつつも、何とか立ち上がる。
ルイズは、まだ暫く掛かりそうだ。

「さて」

其処でギーシュは、ワルキューレに押さえ込まれたテファへと歩み寄ると、杖を見せ付ける様にして語り掛ける。
才人が心配なのか、テファの目には涙が滲んでいたが、それを見るギーシュの心は不思議な程に冷め切っていた。

「テファ、だったかな? 今のところ、君に頼みたい事はひとつだ。君はあの巨人と知り合いなんだろう? 彼を止めるのに協力して欲しい」

テファ、涙を零しながら首を振る。
ギーシュは溜息をひとつ。

「だろうね。だから、こうさせてもらう」

突如、ワルキューレがテファを抱えたまま、ジャズの方へと向き直る。
急な動きに思わず目を閉じた彼女が再び瞼を上げた時、その視界には一振りの剣が映り込んでいた。
自分の首筋に添えられた、それが。

ジャズ、戦闘中断。
剛腕の一撃をまともに受け、20メイルほど吹き飛ぶ。
身を起こすと同時、眼前に20mmを突き出され、静止。

「解って貰えた様だね」

満足げに頷き、テファの帽子を杖で弾く。
その行為自体は、軽い脅しのつもりだった。
しかし。


「っ!」
「なッ!?」
「うそ……!」
「……!?」


その下から覗いたものは、ギーシュ達に予想もしなかった衝撃を与えた。
長く、尖った耳―――――


『エルフッ!?』



一様に叫び、咄嗟に杖を構え直す。

エルフ。
その存在はこのハルケギニアの住人達にとって、恐怖以外の何物でもない。
強力な先住魔法を操り、数十人規模のメイジですら歯が立たない怪物。
そして同時に、始祖ブリミルを信仰する者達にとっては忌むべき存在。

―――――今なら、或いは。

「タバ……サ……ッ! このまま……やるわよッ!」
「……!」

キュルケが『フレイムボール』の詠唱に入り、その隣ではタバサが『ジャベリン』を放つべくテファへと杖を向ける。
激しく首を振り、必死にワルキューレの拘束より逃れようとするテファ。
ジャズが飛び出そうと試みるものの、至近距離からの20mmを受け、更にはブラックアウトに圧し掛かられて動きを封じられた。
必死に抵抗するテファに向け、詠唱を終えたキュルケは荒い息と共に語り掛ける。

「おとなしく……してなさいッ……すぐに、終わるわ……ッ」


杖が、ゆっくりと振り上げられた。


『テファッ!』


ジャズが叫び、その声が20mmの砲声に掻き消される。
テファがくぐもった叫びを洩らし、涙を流しながらジャズの方へと手を伸ばすが、それすらもワルキューレに押さえ込まれた。


そして、遂に詠唱が完了し、キュルケとタバサが一歩を踏み出す。
悲痛な電子音。
20mmの発砲音。


その様子を見たギーシュは、少しだけ、ほんの少しだけ居た堪れない心境となり、ふと目を逸らし―――――


―――――無い。


姿を消した『それ』に気付き、硬直した。





そんな馬鹿な。
さっきまで、さっきまで其処に在ったのに。
確かに『2つ』あったそれが、今は『1つ』になっている―――――!

「……まさかッ!」

最悪の予想に至り、振り返ったその時。


連続した重々しい銃声と共に、キュルケ、そしてタバサが血を噴き出し、倒れた。


「……ぅぁあぁぁぁッ!」


雄叫び。
ワルキューレは間に合わない。
足元のそれ―――――デルフが『ヒトラーの電動鋸』と呼んだ、『地球』製の銃―――――『MG42』を拾い上げる。
一通り、扱い方は聞いておいた。
安全装置を押し込み、構える。
こんな物を立ちながらに撃てばどうなるか、凡その予想は付いていた。
しかし、他の手段など考えている暇は無い。
今すぐにやらねば、皆、殺されるのだ。

背後に、物音。
ギーシュは咄嗟に振り返り、『それ』を構えた人影を捉えるや否や―――――




「……う……んぅっ」

目を覚ましたルイズは、頬から首筋に掛けて走る電流の様な痛みに呻きを洩らした。
口の中に違和感を覚え、それを舌で弄ると硬い物に触れる。
吐き出してみれば、それは血塗れの奥歯だった。

そうだ。
自分はあの少年に、頬を張られ―――――違う。
殴られたのだ―――――拳で、全力で。

頬に触れる。

熱い。
腫れている。
それも尋常ではない大きさに。
頬骨が砕けているのかも―――――

その時、ごり、と音を立てて頭に何かが押し付けられる。



恐る恐る―――――ゆっくりと。
視線を、上げる。


其処に佇んでいたのは、あの少年。
頭から、口端から、全身から。
至る所から血を溢しつつ、それでも憎悪の滲んだ闘志はそのままに―――――否、より一層密度を増し、見覚えの在る銃をルイズの頭へと突き付けている。

と、其処でルイズは、仲間達はどうなったのかと周囲を見渡し―――――


「……! キュルケ! タバサ! ギーシュ!」
「動くんじゃねぇッ!」
「ひ、ぎッ」


血塗れで転がる級友達を目にしたルイズは反射的に走り出そうとし、銃床による一撃を受けて地面へと転がる。
更に腹部へと爪先が突き刺さり、有りっ丈の空気を吐き出すと共に血の味が口内に拡がった。
余りの苦しさに涙を浮かべ、鳩尾を押さえて地面に蹲るものの、更に脇腹を蹴られて転がる。
そして再び銃口を突き付けられたその時、またも少年が叫んだ。

「くそったれが……良く解ったよ。テメエらにとっちゃ、ハーフエルフだってだけで殺す理由になるんだな」

何を言って、と言い掛けたルイズの脇腹に、再度爪先が減り込む。
今度こそ悲痛な声を上げて転げ回るルイズを冷たい目で見据え、少年は声を張り上げた。

「テファはな……何時だって、誰も死なない様に気を配ってきたんだ。下衆な傭兵だろうと、むかつく貴族サマだろうと、子供達を狙ったクソ盗賊どもだろうとな! なのに!」



全体重を掛け、白い手を踏み潰す。
悲痛な、聴くに堪えない悲鳴が森に響き渡る。
少年―――――才人の叫びは止まらない。

「テメエらは何様のつもりだ!? テファの家族を奪っただけじゃ気が済まないってのか!? 命まで差し出せってのか!? ただ静かに暮らす事も許されねぇってのかよッ!」

手を押さえて啜り泣くルイズの頬を、才人は容赦なく蹴り上げる。
もう、悲鳴すら上がらない。
ただ、ルイズの目からは涙だけが止め処無く流れ続けている。


手よりも、頬よりも、目の前の少年の叫びが痛かった。
詳しい事は解らないが、ただ必死である事は痛い程に伝わったのだ。
そして恐らくは自分達が、彼が命を賭して護ろうとしていたものを踏み躙ろうとしていた事も。

彼はテファ、と言った。
その人物が恐らくはハーフエルフであり、誰からも存在を許されなかった生涯を歩んでいる事を窺わせる事も。
似ている、と思った。

ただ生きたいだけなのに、許されない。
頑張ったのに、認めてもらえない。
汚らわしいハーフエルフ。
出来損ないのメイジ。

似ていると、自分にそっくりだと、そう思った。


「……今更、そんな顔すれば許されると思ってんのかよ」


そのルイズの表情が気に入らなかったのか。
才人は『地球』製の銃―――――『StG44』の銃口をルイズへと向けたまま、吐き捨てる様に言った。
そして動きを止めたブラックアウト、ジャズの方へと顔を向けると、心底凍り付く様な声を発する。



「おい、其処のデカブツ。ジャズに向けてるそれを引っ込めろ……引っ込めろっつってんだよッ! こいつぶち殺されても良いのかッ!」

―――――ブラックアウト、20mm収納。
その瞬間、ジャズがブラックアウトの顔面を殴り飛ばし、更に胴部を蹴って地面へと倒し、その胸部へと砲弾を2発、連続して同じ箇所に撃ち込む。
ブラックアウト、胴部予備格納砲破損。
ジャズ、砲身をスパーク防御壁周辺へと突き付け、静止。

「ジャズ、そいつ任せた」
『了解。中々上手くやったな、サイト』
「止せよ」

そんな言葉を交わした、次の瞬間。

テファの悲鳴が上がった。


「……テファ!?」
『くそ!』


その方向へと振り返った才人とジャズの視界に映ったのは、木に寄りかかって眠っていた筈のテファと―――――


「……テメェ」
「銃を捨てな。この娘っ子の内臓の色なんか、見たくねーだろ?」


半ばから折れ曲がった右腕でテファの首を押さえ付け、左腕の刃を喉下に突き付ける、小さなメカノイドの姿だった。

「それとも脳ミソの方が好みか?」

微かな金属音と共に、その左腕から銃口が覗く。
テファが怯えと絶望を滲ませた視線をそれへと向け、小さく首を振りながら逃れようと試みるものの―――――

「動くと為にならねーぜ」
「……!」




ぷつり、と音を立てて、刃先がテファの喉下、白い柔肌に突き刺さる。
そのままじわじわと深く突き刺さってゆく刃を、彼女は恐怖に揺らぐ瞳で呆然と眺めていた。
痛みすら感じられないのかもしれない。

その時―――――


『其処までだ』


ジャズが、砲身を向けていた。
―――――意識の無い、ギーシュ、キュルケ、タバサへと。


「こいつ、どうなっても良いってのか?」


そしてサイトもまた、再度『StG44』の銃口をルイズへと突き付けていた。
その目に迷いは無い。
デルフが妙な真似をすれば、即座に引き金を引くだろう。

デルフが、忌々しそうに電子音を鳴らす。
その時、ブラックアウトが在らぬ方向へと右腕を翳した。

「相棒……?」

そしてデルフを含め、皆が訝しげな表情を浮かべる中―――――


『止めろッ!』


ジャズの叫びと同時、プラズマが森の一画を薙ぎ払った。


『……!』

その方角に何が在るかを知る才人、テファの表情が青褪める。
ウエストウッド村。
微妙に異なる方角ではあるが、村に被害が全く無いとも言い切れない。
才人は反射的に、憎悪の叫びを上げようとした。

「テメ……」
「お、おにいちゃん……」

その時、微かに耳へと飛び込んだ幼い声に、才人はその方向を向いた。
それはテファ、ジャズも同様で、その先に在った子供の姿に、呆然とした声を洩らす。



「メアリ……どうして……」
「だって……だって、テファおねえちゃんも、サイトおにいちゃんもいないし……フィルが、大きな音して、こわいって……」

その言葉通り、メアリと呼ばれた少女の背後から、更に幼い男の子が恐る恐る姿を現す。
更に背後の暗がりに目を凝らせば、少なくとも4人の子供達が居る事を確認出来た。

「ごめんなさい……ごめんなさい、おにいちゃん……」
「メアリ……ッ!」


金属の擦れ合う音。
咄嗟に金属の怪物へと視線を移せば、それは子供達へと、その殺戮を為す為の兵器を内蔵した右腕を向けていた。
20mm、再展開。
凍り付く才人。

その視界の端に、金属の亜人がテファから離れ、彼へと向かってくるのが映り込んだ。
抵抗はしない―――――出来ない。
『StG44』を弾き飛ばされ、喉元を押さえられ地面へと倒される。



「……もしや、とは思ったが……まさか『大当たり』とはな」


亜人が何かを言っている。
しかし才人には、それに注意を払う余力など無かった。
意識が、急速に薄れてゆく。

見れば、すぐ側に桃髪の少女の姿。
どうやらまたも意識を失ったらしい。
だが、どうでも良い事だ。

亜人の嗤いが轟く。
狂嗤だ。

「……おでれーた! 皮肉なモンだ! こんな所で、こんな形で『使い手』に出会うたぁな! おでれーた!」

嗤う。
狂った様に嗤う。
心底楽しそうに、狂った様に嗤う。




「一緒に来てもらうぜ、『ガンダールヴ』! オメーはこんな所でくたばっていい人間じゃねえ! イヤだと言おうが何と言おうが、無理矢理にでも連れてくからな!」

疲れた。
眠りたい。
でも……

「おい! ジャズとかいったな。村とやらには何人居るんだ……そうか。 相棒、直ったらすぐに出発だ。 ガキどもも、そいつも連れてくぜ。吊り下げれば大丈夫だろ? おい、少しは喋れよ相棒……」

テファは。
テファはどうなった?
子供達は?

「……マジかよ。弱ったな……まあ良いや、喋れなくても問題は無ぇしな。おい、エルフの娘っ子。荷物を纏めな。猶予は5時間しか無ぇぞ、急げ!」

駄目だ、もう睡魔に逆らえない。
でも、テファも子供達も無事な様だ。
後は任せればいい。
相棒に―――――ジャズに。

今はもう―――――眠りたい。


業火に紅く照らされ、巨人の影が揺らめく森の中。
闇に墜ちる才人の意識に、これまでで最高の狂嗤が飛び込んだ。




「ははははは! 楽しいったらないぜ! こんな楽しいのは6000年振りだ! ええ、おい、6000年だぜ! これでこそ退屈に耐えてきた甲斐が在るってもんだ! そう思うだろ? 相棒!」



この日、レコン・キスタは王党派を打倒し、アルビオン全土を統治下に置いた。
王党派の篭城するニューカッスル城を『陥落』させた彼等は、新国家の樹立を宣言する。
即ち―――――『神聖アルビオン共和国』の樹立を。

無数の屍の上に築かれた新国家は、着々と他国への侵略計画を整え始めた。
彼等の起こした戦乱については、ハルケギニアの後世に於いて永く語られる事となる。


しかし。
一般に知られる彼等の勝利の陰に、ニューカッスルにて散った21,000名もの将兵、ロサイスにて焔の中へと消えた1,600名の将兵と85名の民間人の存在が在った事は、歴史上からほぼ完全に抹消されている。
これがレコン・キスタの情報操作によるものか、それとも他の要因によるものかは定かではない。


そして―――――


浮遊大陸アルビオンの一地方、サウスゴーダに点在する小さな村々のひとつ、ウエストウッド。
この村の住人達が一夜にして忽然と消え失せた事、そしてその周囲が、まるで『悪魔』が降臨したかの様に徹底的に破壊されていた事、ロサイスに轟いた爆音と空を照らした青い閃光もまた、歴史の陰に葬られ、日の目を見る事は無かった。

『虚無の鋼鉄の使い魔』と『鋼鉄の蠍』が、表の歴史上でアルビオンの土を踏むのは、暫く後の事である。




ブラックアウト、トリステインへの帰還経路に就く。
意識の無い主達と同胞、そして敵を乗せて。
消える事の無い怨嗟と、想像を絶する数の死をアルビオンの大地へと齎して。
誇るでもなく、恥じるでもなく。
目的の為、ただ目的の為に、『勝利』の為に。
ブラックアウトは帰路に就く。
ただひとつ、たったひとつの野望を秘めて。




ディセプティコンに、栄光あれ。

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