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ウィザーズ・ルーン~雪風の翼~11

 学院に戻ってきた五人は、オスマン氏に詳細を報告していた。
「ふむ。まさかミス・ロングビルがフーケじゃったとはのう。美人なもんじゃから何の疑いもなく採用してしもうたが、まさかこんなことになってしまうとはのう」
 立派な髭をしごきながら、遠い目で反芻するオスマン氏。
「一体どこで知り合ったんですか?」
 と傍に控えていたコルベールが尋ねると、
「居酒屋で出会ったんじゃよなあ。わしは客で彼女が給仕……こうつい手を伸ばして尻を触ったら、何も怒らないどころか、妙に愛想よく酒を勧めるものじゃから、
ついついその場で口説いてしもうてのう……。魔法も使えるということで、秘書に採用したんじゃが、今思えばあれはフーケの周到な策略だったんじゃなあ……」
 いい尻の持ち主だったんじゃがなあ……とオスマン氏は、幸せいっぱいの感慨深げな表情になった。
 とそこで、オスマン氏を除いた全員が、オスマン氏に冷ややかな視線を送っているのに気づく。
 特にルイズなんかは、これ以上無いジト目だ。
 コルベールにいたっては、小さな声で「死ねばいいのに……」などと呟いている。
「と、とにかくじゃ! 『隠れ身の衣』も帰ってきたし、フーケは衛士に引き渡した。一件落着じゃ!」
 オスマン氏は無理やりごまかすように、厳めしい面で五人に向き直った。
「君たちの『シュヴァリエ』の爵位申請を、宮廷に出しておいたぞ。おいおい宮廷から連絡が下るじゃろう。ミス・タバサはすでに『シュヴァリエ』の爵位を持っとるから、精霊勲章の申請をしておいた」
 三人はその言葉を聞いて、いっせいに破顔した。キュルケなどは興奮交じりにはしゃいでいる。
「いいのじゃ。君たちはそれに値する活躍を収めたのじゃからな。だが、すまんのう。サイト君とヘイズ君は貴族ではないでな。じゃが、ヘイズ君は便利屋を営んでいると聞く。
じゃから報酬という形でいくらか渡すことになるじゃろう。もちろんサイト君にもじゃ」
 「わしのポケットマネーじゃよ?」といたずらっ子のような笑顔で言うオスマン氏。
 こほん、と咳払いをひとつ。オスマン氏はまた五人に向き直ると、
「さて、今宵は『フリッグの舞踏会』じゃ。今日の主役は君たちじゃぞ。用意をしてきたまえ」
 三人は一礼し、ドアに向かった。
 ルイズの心配そうな表情と、タバサの何かを慮った表情がこちらを見つめてくるが、
「ルイズ、先に行っててくれ」
「オレも後で向かう。少しばかり話があるだけだが、多分その間はハリーとの通信も無理だ」
 タバサはヘイズに渡されて、制服の襟元につけた通信機を撫でながら、わずかに逡巡したのち退出した。
 ルイズも何か言いたげな表情だったが、サイトの表情を見てから頷いてタバサの後を追った。


「さて、私に何か話があるようじゃな。君たちは学院の宝を取り返した英雄じゃ。できるかぎりの力を貸そう」
 それからヘイズは、コルベールに退席を促した。これから話すことは、あまりこの世界の人にほいほいと話す内容ではない。
 目を光らせて少年のような笑顔で待っていたコルベールは、嫌々ながらといった表情で名残惜しげに退席した。
「あー、『隠れ身の衣』なんだが、こいつはオレの世界の道具でな。マジックアイテムとかそういう不思議パワーとは、真逆の道具だ」
「なんと……! 元居た世界とな?」
 ヘイズの説明に、きらりと眼光を鋭くするオスマン氏。
「ああ、オレとサイトはこことは異なる世界から呼ばれたらしい。そしてオレはサイトの居た時代の、はるか未来から来てる」
「俄かには信じられんが……」
「俺たちも信じられなかったですけど、召喚されてこの世界に来たんです」
 そしてヘイズは『隠れ身の羽衣』の説明に戻り、
「こいつは大戦初期に製作された偏光迷彩っていうデバイスで、周囲の光景をリアルタイムでローブに投影して、周りの人から見えなくするって一品だ。
ただし初期型だから、なんらかの演算機関の補助がなければ動かねえし、投影の精度も低い。ちなみにオレは、こいつの最新型であるチョーカー型を持ってる。
似合わねえから付けた事はあまりないが」
「データライブラリーによると、大抵は隠密行動中の空間曲率制御特化型魔法士『光使い』か、混戦時の分子運動制御特化型魔法士『炎使い』が使っていたようです」
 ハリーが説明に補足を加える。
「信じられねえ。俺のいた時代じゃ、偏光迷彩なんて研究中で、実用化なんて夢のまた夢の代物だったのに……」
「ところでその『光使い』とか『炎使い』というのは何なのだね? 魔法士というのが、君の居た世界のメイジのようなものだというのは推測できるが」
「それは私が説明します」
 驚愕を吐露するサイトとオスマン氏に、ハリーがデータライブラリーの情報を伝え始めた。

 ――光使い。D3というデバイスを操り、空間を捻じ曲げ、荷電粒子砲の火力で主に対艦戦闘で活躍した、戦場で最も人を殺した魔法士。
 ――炎使い。分子運動を操り、氷を作ったり熱量を加えて爆破することができ、高レベルになると物質の合成すら可能とする、大戦で最も作られた魔法士の一つ。
 そして情報制御理論と、それによってできた魔法士のあれこれ。
 大気制御衛星の暴走による永久の冬の到来と、勃発した大戦の傷跡――。

 話が終わると、オスマン氏もサイトも、なんだか納得できたようなできないようなあいまいな表情を浮かべている。
「なんとも面妖な世界があるものじゃな」
 とオスマン氏は心情を吐露した。サイトも頷く。
「俺のいた世界の未来で、そんなことが起こっていたなんて……」
「オレからすりゃ、魔法なんてミョウチキリンなものが、何の違和感もなく溶け込んでいるこの世界のほうが不思議だけどな。
オレの世界にも『発達しすぎた科学は魔法と見分けが付かない』なんて、小洒落た言葉があるけどよ」
 「サイトも多分知ってるだろ?」と言いながら、嘆息するヘイズ。
「そういや、『隠れ身の衣』はどうやって、学院の宝物庫に入ったんだ?」
 ふと思いついた疑問を口にする。するとオスマン氏は重々しく口を開き、

「あれは十年と少し前じゃったかのう……わしが近くの森を散策しておると、不覚にもワイバーンに襲われてのう。なすすべもなく、
あわや「このまま死ぬか」とそう思い始めたそのときじゃった。突如として青年が現れ、わしに衣を被せたかと思うと、ワイバーンはわしの姿を見失った。
そしてその隙に青年が氷の弾丸でワイバーンを退治したのじゃ。青年は「東からはるばる来たら、襲われているのが見えて助けた」と言い、わしは命の恩人である青年を学院に連れて帰った。
青年は毎日のように「早く帰らないと七瀬中佐をお助けできない」と嘆いておった。そしてある日スヴェルの日――二つの月が重なる夜に彼は空へ昇っていき、月の中へ吸い込まれ二度と帰ってくることはなかった。今思えば彼は、恐らくもとの世界へ帰ったのじゃろうな。そしてわしは青年がのこしたローブを『隠れ身の衣』と名づけ、宝物庫に保管することにしたのじゃ」
 厳かな口調で訥々と語ったオスマン。

 オスマン氏の長い逸話を聞き終えたヘイズはハリーに、
「間違いねーな」
「ええ。踏破能力・生存力・氷の弾丸――間違いなく炎使いです。七瀬中佐というのは、シティ神戸の紅蓮の魔女のことでしょう。オスマンさま、その青年は黒尽くめの軍服ではありませんでしたか?」
「そのとおりじゃ」
 オスマン氏の言葉に「やはりな」と頷くヘイズ。
 黒一色に染め上げた軍服は、かつてシティ・神戸自治軍で正式採用されていた制服だ。数々の状況証拠を含め、その青年がヘイズの世界の人物だったことは間違いない。
 となれば、どうしてもとの世界に帰ることができたのか。はるばると言うほど東からやってきたのなら、何度でも月が重なる日があったはずだ。
 それにもかかわらず、オスマン氏と出会ってから初めて月の重なる日に帰ることができた。
「これはわしの憶測なのじゃが、彼はわしの命を救うためにこの世界にやってきたのではないじゃろうか。そして彼は使命を果たしたから、元の世界に帰って行ったのではないかのう」
 「わしの希望でもあるがな」とオスマン氏は笑う。
 だが、なるほど。何かを任されこの世界に呼ばれても、使命を果たせば帰ることができる――。
「ってことは、オレ達にも元の世界に帰る希望はあるってことか」
 指をぱちんとならし、ヘイズは表情を明るくした。
「しかし、その使命が何か分からなければ、帰ることはできんわけじゃがな」
 がくんとヘイズとサイトはずっこけた。そうであった。使命が一体何なのか、皆目見当が付かないのだった。

「しかし、サイト君についてはなんとなく分かっている。その『ガンダールヴ』のルーンによってな」
「そうだ、このルーンだ。武器を持つとこいつが光って、何故か体がいつもよりよく動くんだ」
「それは伝説の使い魔のルーンじゃ。あらゆる武器を操り、主の身を守ったという」
「てことは……」
 そこでサイトが首をかしげた。嫌な予感がする。
「ミス・ヴァリエールを守り抜くこと。それがサイト君の使命じゃろう」
 やはりであった。それはつまり「ルイズが死ぬまでは帰れませんよ」と言っているに等しい。
 ヘイズは「頑張れよ」と言ってサイトの肩を叩くし、オスマン氏は「住めば都じゃ。なんなら嫁の貰い手も探すぞ」などとのたまっているし。
 頭を抱え込みながら、サイトはとうとう脱力してへたり込んでしまった。


 アルヴィーズの食堂は二階が大きなホールになっていて、そこで舞踏会が行われていた。
 着飾った生徒や教師達が、豪華な料理の周りで歓談している。
 本当ならヘイズは場違いなはずなのだが、
「お似合いですよヘイズ。返すのを忘れた軍服が思わぬところで役に立ちました」
「うるせえ。オレはもう二度と、こいつを着る事はないと思ってたんだがな」
 ため息混じりにヘイズは呟いた。
 今ヘイズが着ているのは、シティ・ロンドン自治軍に所属していた時に着ていた軍服である。
 もっともあの時は、状況が状況だったために、ヘイズの意思とは無関係に配属になったわけだが。
 せめてもの抵抗と、本来は白いジャケットとスラックスを真っ赤に染めなおした一品で、ヘイズとしてはあまりいい思い出のない品物であった。
「さてと、オレはとりあえず会場に溶け込めてるわけだし、あるのは合成品でないワインだ。飲めるうちに飲まないとな」
 と本日すでに四杯目となるワインに口をつけた。
 視線を廻らせると、サイトもバルコニーでワインを飲んでいる。少々やけになっているように見えるのは気のせいだろうか。あ、また注いだ。
 そしてキュルケは最初はサイトと何か話していたが、パーティーが始まると男児生徒に囲まれ歓談が始まった。
 ギーシュを見ると、モンモランシーを執拗に誘っては断られている。まだ仲直りはしていなかったようだ。あ、ギーシュの横面を張り飛ばした。
 さてタバサはというと、黒いパーティードレスを身に纏い、料理の皿と格闘中だった。特にサラダの消費に余念がない。

「ようタバサ。それ美味いのか?」
「極上」
 タバサの傍に歩み寄ったヘイズが尋ねると、タバサは食事優先なのか短く返した。
 ヘイズはグラスを傾けながら口を開いた。
「院長のじいさんが言うには、オレは何かの使命を受けて呼ばれたらしい」
「そう」
 聞いているのかいないのか、タバサは黙々と皿の上のサラダを減らし続ける。
 こちらのほうを向こうともしない。
「そんでだ。その使命ってやつを果たせば、オレは元の世界に帰れるらしい」
「そう」
 相変わらずサラダを食べている為、その表情がどのようになっているのか確認できない。
 しかしヘイズは微妙に、タバサの返答の声が違ったような気がした。
「まあ、今は使命がなんなのか分からねえから、どうしようもねえんだけどな」
「そう」
 ヘイズは二人分のグラスにワインを注いだ。
「というわけで、これから長くなりそうだ。オレたちのこれからの無事を祈って、ここはひとつ乾杯といこう」
 タバサは頷き、グラスを手に取ると「乾杯」と小さく呟いて、ヘイズとグラスを合わせた。
 とそこでホールの扉が開いて、衛士がルイズの到着を叫んだ。
 主役が揃ったところで、楽士が演奏を奏で始める。
 最後にやってきたルイズは、次々にダンスの相手を求められている。
 無理もない。曲がりなりにもフーケを倒したのは彼女だし、今体を包み込んでいるドレスが彼女の美しさを際立てていて、高貴なお姫様のように見せている。
 しかしルイズはそんな誘いを全て断りながら、バルコニーに居る人物――サイトに向かって歩を進めていく。
「嬢ちゃんのお相手はサイトか。じゃあうちの姫さんのお相手は、オレの役目ってことかな?」
 ヘイズは指をぱちんと鳴らし、タバサの手を恭しく取った。
「ヘイズがやると、妙に違和感がありますね」
 ハリーが茶化すが、
「そうでもない」
 とタバサはその手を握り返した。

 ルイズとサイト、タバサとヘイズというふたつのペアが、ホールの雰囲気を支配した。
 優雅にステップを踏み、時に緩やかに時に激しく華麗に舞い踊る。
 ギーシュは目を丸くしながら、モンモランシーと顔を見合わせた。
 キュルケは口元を押さえて「まあ……」などと感嘆した。
 誰も彼もが華麗に舞う四人の姿に、視線を奪われていた。
 たしかにそれはホールでもっとも素晴らしい光景であった。
「おでれーた!」
 デルフリンガーが叫ぶ。
「主人のダンスの相手を務める使い魔を二人も見るなんて、こんなことを見るのは初めてだ!」
 その声はやがてホールを包み込む歓声と拍手にかき消されて……。

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