あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロヒーロー

 びゅうびゅうと吹き付ける乾いた風が、桃色の長く柔らかい髪をぶわっと巻き上げる。
 その持ち主が慌てて自分の髪を押さえようとする前に、真っ赤なマントと大きな背中が風を遮った。
 軽く手櫛で撫でつけ、まとわりついた砂埃を払い終えた髪を整えると、その桃色の髪の少女は優しく微笑んで口を開いた。
「ありがと」
 返事はない。当然のことをしたまでだと言わんばかりに微動だにせずに、赤いマントの持ち主は前を向いて立ちつくしている。

 少女は――ルイズは、少しだけ昔を思い出した。
 彼女の決して長いとはいえない人生の中、ほんの少しだけ昔の話。
 こうして彼女の前に立つ背中は、大きくなってもあの頃から何一つ変わっていないなと、思い出を重ねる――。



 全ての始まりは春の使い魔召喚の儀式だった。
 魔法成功率ゼロ、学院始まって以来の落ちこぼれ『ゼロのルイズ』と呼ばれ、蔑まれ続けてきたルイズ。
 彼女が報われない努力を積み重ねるだけの地獄から抜けだし、新たな一歩を踏み出す切欠となったのである。

 一度、二度、三度と繰り返されたサモン・サーヴァント。
 現れた『ゲート』が爆発を繰り返すのみで、使い魔の影も形も見えない様子に、周囲の生徒たちは嘲笑を込めて囃し立てる。

 ――もう諦めて留年したらどうだ。
 ――やっぱりゼロは何をやってもゼロだな。
 ――いくらダメだからって、平民を連れてきたりするなよ。

 だが彼女は諦めなかった。むしろ、背後でさんざん騒いでいるボンクラ共は一体何を見ているのかと憤慨していた。
 一度目も、二度目も、三度目も、そしてたった今詠唱をしている四度目も『ゲート』はちゃんと出現しているではないか。
 爆発したのは……そう! きっとなにか『爆発してしまうモノ』が喚び出されただけなんだと。
 あれちょっと待て、じゃあ何か、私はそれを爆発させずに呼び出さなければいけないのか――と思わず詠唱に詰まってしまうルイズ。
 しかし、すぐさま「そんなことはない」と気を取り直して詠唱を続け、魔力をゲートに流し込む。
 やがて完全に安定したゲートが、今までとは違った緑色の不思議な光を放ち――。

 光が収まったとき、そこには『彼』がいた。



 ゼロヒーロー
  ~ルイズはいかにしてゼロマスターと呼ばれるに至ったか



 白い肌に緑色の髪、白いズボンに緑の靴、そして白い弓に緑のジャケット。
 見事なまでに白と緑のツートン・カラーで染められたその使い魔は、人の姿こそしていたが背は小柄なルイズの半分しかなかった。
 ルイズが爆発を起こさずに召喚を成功させた。驚きで呆然としていた観客は、我に返ると一瞬にしてざわめきに満ちあふれた。
 だがそのうちの何割かは、相変わらずルイズをゼロと見たままの悪意の籠もったものであった。

 ――いくら召喚ができないからって、子供を誘拐してくるなんてひどいゼロよね。

 あまりにも失礼な物言いに、サモン・サーヴァントを成功させた達成感も吹き飛んで沸騰するルイズ。
 事実、それは幾度も苦労してはっきりと成果を上げた学友に対する言葉としては、あきらかに貴族として相応しいものではない。
 教師として監督役を担っていたコルベールが、言い過ぎた生徒を叱責しようと口を開く。
 さきほどまでは、召喚中のルイズが雑音を意に介さない程に集中していたため黙っていたが、すでに結果は出たあとだ。
 失敗こそあれ、最終的には見事に使い魔の召喚を成し遂げた生徒を賞賛こそすれ、中傷するというのは礼節以前の問題だろう。
「ちょっと、アンタ――」
「言い過ぎですよ、ミス――」
 ルイズとコルベールが振り向いた瞬間であった。二人の間を、風切り音が通り抜けた。
「ぎゃっ!」
 次いで悲鳴。今しがたルイズとコルベールが苦言をぶつけようとした金髪で見事な巻き髪の少女が、腰を抜かしてへたり込んでいる。
 その視線の先には一本の矢。腕に深々と突き刺さり、傷口からはだくだくと血が流れている。それを見てさらに周囲から悲鳴が上がる。

「ああっ! マリコルヌがやられた!」
「……いや、今……誰か僕を突き飛ばs」
「どこから飛んできた矢だ!」
「……聞いてよ、ねえ、犯人はギーs」
「犯人はそこだ!」

 混乱の中、びしっ! と一本の薔薇を突きつける学生が一人。
 その指し示す先にいたのは、たった今ルイズが喚び出したばかりの使い魔の姿。
 いつの間にか弓につがえた二の矢で弓弦を引き絞りつつ、油断無く彼を見つめる生徒たちを見返している。
「ゼロのルイズが喚び出した使い魔が!」
「いきなり暴れたぞ! やっぱりゼロはゼロだ!」
 向けられた敵意に、慌てて戦闘態勢を取る生徒たち。周囲に、今にも魔法が飛び交いそうな一触即発の空気に満ちあふれる。
 慌てたのはコルベールである。自分の油断から生徒に怪我を負わさせてしまった。
 色めき立つ生徒たちに、落ち着くようにと声を張り上げ、いざとなればやむを得まい、と前に出、ルイズの使い魔に向けて杖を構える。

 だが、もっと慌てたのはルイズであった。
 せっかく喚び出した使い魔が、生徒を、貴族を傷つけた。
 ――殺されちゃう!
 そう思った瞬間、ルイズは咄嗟に使い魔をかばうように前に出た。
 両手を広げ、無数の杖から自分が喚び出した使い魔を背に守るように立ちはだかる。
「いけない! ミス・ヴァリエール!」
「え……?」
 慌てたコルベールの声に、一瞬、きょとんとするルイズ。

 まずいまずいまずい。
 コルベールの脳裏に、一瞬後の最悪の光景がよぎる。
 サモン・サーヴァントで喚び出された使い魔は、通常は契約を――コントラクト・サーヴァントを終えるまではおとなしくしている。
 だがルイズの喚び出した使い魔は……ええと、なんと言ったか、ちょっと太めの生徒を矢で射抜くほど攻撃的になっていた。
 さらに次の矢をつがえた状態の、そんな使い魔の前に急に飛び出したりしては、はずみで矢が放たれてしまってもおかしくはない。
 最悪、背後から心の臓を射抜かれて絶命――と、そこまで考え、なんとか間に合えとばかりに彼が詠唱を始めた瞬間である。
「え……」
 今度は、その使い魔が弓を構えたままルイズの前に出てきたのである。
 つがえたままの矢の先は、もちろんルイズではなくコルベールの方を向いている。
 詠唱を中断し、真剣な表情でルイズの前に立つ使い魔を油断無く観察する。

「守って……くれてるの?」
 ルイズがかばおうとしたはずの使い魔が、逆に彼女を背にかばっている。
 彼女よりも小さくて、あきらかにメイジでもないのに、弓一本と矢が数本で、この使い魔はルイズを守る気でいる。
 驚いたことに、コントラクト・サーヴァントもしていないのに、だ。
「ミス・ヴァリエール! 使い魔にその弓を下ろすように言ってください!」
 コルベールの指示で我に返る。そう、状況はあまり変わっていない。
 言われたとおりに、慌てて目の前の使い魔に指示を出す。
「大丈夫よ! みんなは敵じゃないわ! その弓を下ろしても大丈夫なのよ!」
 その言葉を聞いて、使い魔はちらりとルイズの方を振り向いた。こくりと頷いて、弓を下ろす。
 その瞬間、張りつめていた空気がすっと和らいだ。足の力が抜けて思わずへたり込んだルイズが、背中から使い魔を抱きしめる。

「驚きましたね……コントラクト・サーヴァント前に主人を守ろうとする使い魔がいるとは」
 撃たれた生徒の手当が無事に終わっていることを確認したコルベールが、ルイズとその使い魔を見て呟いた。
 あの緑色の使い魔は、あきらかにルイズを守るために動いていた。
 最初に射られた矢は――恐らく、自らの主人を侮辱されたことに腹を立てたのだろうと推測する。
 怪我人が出てしまった以上、後処理に時間を取られることは確かだが、ともあれ、今しておかなければならない事を済ませる。
「ミス・ヴァリエール、そのままコントラクト・サーヴァントを済ませてしまいなさい」
「え……あ、はい」
 言われて初めて気づいたかのように、こくりと頷くルイズ。
 ルイズがへたり込んだ状態で、お互いの頭も丁度良い高さにある。
「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール――」

 こうして、その緑色の使い魔は、正式にルイズの使い魔となったのである。



 使い魔召喚の儀式により、二年生へと進級した生徒たちの興奮冷めやらぬ翌日のこと。
 ルイズの使い魔は、突如として決闘を挑まれていた。
 決闘場所はヴェストリの広場。午前の授業が終わった昼食後、一人の生徒が昨日のことで食って掛かってきたのだ。
 不幸な事故のことは謝るから――とルイズも頑強に抵抗したが、周囲の生徒たちの悪ノリもあり、引き離されてしまったのである。
「昨日、危うくキミが怪我を負わせるところだった僕の一輪の花、香水のモンモランシーのために」
 決闘を仕掛けてきた生徒、ギーシュの口上を黙って聞くルイズの使い魔。
 携えた弓は、いつでも矢を放てるように。片手に矢こそないものの、臨戦態勢にあることはあきらかに見て取れた。
「そして彼女をかばい名誉の負傷を負った我が友、鼻紙のマリコルヌのために!」
「かぜっぴきでも鼻紙でもなくて風上だよっ! って、キミが突き飛ばs」
 ギーシュの口上が終わった瞬間、周囲の歓声は最高潮に達した。

 それを決闘の始まりの合図と判断したか、ルイズの使い魔は素早く矢をつがえ、ギーシュに向けてそれを放つ。
 だが、ギーシュはそれを見透かしていたかのように手に持った薔薇を一振りする。
「矢が来るとわかっていれば、防ぐ手段はいくらでもあるんだ」
 薔薇の花弁が一枚舞い、ギーシュの目の前で女戦士の姿を取る。
 ギーシュによって『錬金』された青銅の女戦士は放たれた矢を受け止めると、ルイズの使い魔を目掛けて殴りかかった。
「言い忘れたが、僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュだ。従ってこの青銅のゴーレム『ワルキューレ』がお相手するよ」
 殴りかかってくるワルキューレに対し、大きく飛び退いてさらに矢をつがえるルイズの使い魔。
 こうして、決闘は始まった。

 ルイズがやっとのことで決闘場であるヴェストリの広場に辿り着いたとき、目の前には傷だらけの自分の使い魔の姿があった。
 少し離れた場所には、幾本もの矢が突き立ったギーシュのゴーレムが倒れ伏している。
 にわかには信じられないことだが、この使い魔は弓一本でメイジの作り出したゴーレムを倒したのである。
 いくらギーシュが魔法使いの中で最低ランクの『ドット』ランクだとしても、この使い魔にはそれと渡り合える実力があるのだ。
 ほんの少しの優越感と、それ以上に使い魔の怪我を案じて、ルイズは使い魔の前に出て叫んだ。
「ギーシュ! あんたのゴーレムは倒したわ! こっちの怪我もひどいし! もう引き分けでいいでしょう!」
「やあゼロのルイズ。残念ながらそうはいかないんだ」
 軽く嘯いて、もう一度手の中の薔薇を振るギーシュ。
 すると、薔薇から散った一枚の花弁が、無傷の『ワルキューレ』となって広場に降臨する。
 勝ち誇った表情で、ギーシュは堂々と絶望を宣告する。
「あいにくと、僕が作り出せるゴーレムは一体だけではないのだよ」
「そんな……!」
 ゴーレム一体を倒すだけでこれだけボロボロにされたのである。
 それがさらに一体――いや、ギーシュの持っている薔薇の花弁の数だけ作り出せるとしたら、どうやっても勝ち目はない。
 もう、これ以上使い魔を傷つけさせるわけにはいかない――と、歯を食いしばってルイズが許しを請おうとした時である。

 再び、使い魔はルイズの前に出た。
 主人の誇りを守るべく、傷だらけの身体をおして前へ、前へ。
「ダメ……もうやめて!」
 必死に手を伸ばし、自らの使い魔を止めようとするルイズ。その手が、急に熱を持った。
 熱い――と叫びかけて、そうではないと気づく。彼女が伸ばしたその手から、使い魔に向けて魔力が流れているのだ。
 ボロボロになりながら、一体の敵を打ち倒した使い魔。
 そしてそこに、彼の主人が辿り着いた。間に合った、と言ってよい。
「これは……」
 ルイズから流れた魔力が、敵を倒した経験を混じり合い、使い魔の肉体を急速に活性化させる。
 負っていた傷はあっという間に消え去り、ややひ弱な印象があった小さな身体には、とにかく力に満ちあふれている。

「何だ……? 行け、ワルキューレ!」
 なにやら異変を感じ取ったギーシュが、勝負を決めてしまおうとワルキューレに指令を下す。
 ボロボロだった使い魔など、あと一撃も加えれば抵抗する気もなくすに違いないと。
 だが次の瞬間、その表情が凍り付いた。

 轟音――いや、それが矢の音だとすぐに気づけた者がどれだけいるだろう。
 ルイズの使い魔が放った矢が、向かってくるワルキューレを貫き、そのままギーシュの背後の壁に突き刺さったのである。
「え……」
「嘘……」
 ギーシュとルイズ、そして周囲を囲むギャラリーの呆然とする声。
 青銅製のワルキューレが、たった一本の矢で貫かれただけで、胴体に大穴を空けて行動不能になったのである。
「わ……ワルキューレェェっ!」
 一瞬でギーシュは恐慌状態に陥った。彼が操れるだけ全てのワルキューレが、彼を守る壁となったまま一斉に襲いかかる。
 その数は――もう数える必要すらなかった。
 いくつのゴーレムが並んでいたのだとしても、その全てがわずか一矢で貫かれ、大穴を空けて広場の石畳へと転がったのだから。

「……他にもあったわよね、フーケのこととか、……ワルドのこととか」
 今もこうしてルイズの目の前に出、彼女を背に庇っているのは彼女の使い魔だ。
 ルイズの半分しかなかった背は、彼女が見上げる必要があるほどに高く伸び、変わらず緑と白の出で立ちは、赤いマントで飾られている。
「それじゃ行きましょうか」
 ルイズの言葉に頷いて、一歩前に進む使い魔。
 その名を、ルイズはとびっきりの愛情を込めて呼ぶ。
「ジャレス……いいえ、ジャレットの方がいいかしら?」
 どちらの名を呼んだ時も背中が嬉しそうだった。呼び方は特に気にしないらしい。

「それと――ボムノスケたち」
 なんと、ルイズの後ろにはさらに三体の使い魔が控えていた。
 どれも真っ赤な丸い胴体に手足と目がつき、王冠をかぶり、真っ白いヒゲと眉をつけた奇妙な姿をしている。
 彼らは、ルイズが失敗したと思っていた、最初の三回の召喚で喚び出されていた使い魔である。
 彼女がここに至るまでにいろいろ……本当に色々あって――とにかく、今は無事にこうしてここにいる。

 目の前から、轟音が聞こえてきた。
 敵は、アルビオン軍七万。
「それじゃ、いくわよみんな!」
 返事はない。その代わりに数限りない爆音が、ルイズの約束された勝利を前祝いするかのように轟いていた。

 これは後世にゼロヒーロー、あるいはゼロマスターと呼ばれる、一人の少女の物語である。

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