あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-08


 自分は特別な存在である――――

 それを自覚したのは、レビテーションの魔法を初めて成功させた時の事だった。

 三人の兄達は口を揃えて、自分を誉めた。

 自分達でも、その年では出来なかった。

 お前には才能が有る。

 少年は有頂天になった。憶え立ての魔法で、罪の無い悪戯を繰り返し、邸の召使い――――取り分け若いメイド達を狼狽させた。

 だが、そんな事よりも、少年はもっと楽しい遊びを知っていた。もっと心を躍らせてくれる事を知っていた。

 “飛ぶ”事だ。邸の尖塔から飛び降り、そのまま、空の散歩としゃれ込むのだ。

 フライの魔法さえ知らない少年は、夢中になった。父の領地を上空から見下ろしていると、この世の全てを手に入れた様な、何とも言えない気分に浸る事が出来た。

 或る日、いつもの様に空中を漂っていると、一羽の鳥が飛んでいた。白く大きな鳥だ。その美しい姿に、少年は虜になった。よし、捕まえてやる――――頭上で羽ばたく翼を追いかける。

 だが、どれほど懸命に飛んでも、獲物にはまるで追いつけない。鳥は眼下の少年に気付いた素振りも見せる事無く、蒼穹に消えた。

 少年は“空”の広さを知った。

 少年は“空”の高さを知った。

 そして、少年は自分が特別では無い事を理解した。

 大きくなれば、自然に父の様に、兄達の様になれるのだ、と信じていた。とんだ間違いだった。
 四男の自分が相続すべき物は何も無い。自分がしがない学生を続けている間、軍務に従事した兄達はみるみる出世して行く。ドットクラスでまごまごとしている内に、ラインへ、トライアングルへと杖に磨きをかけて行く。

 “空”は途方も無く広く、そして高い。

 いつからだろう。空を見上げる事が無くなったのは。いつからだろう、諦観の中、即物的な享楽だけを追い求める様になったのは。悪友達と過ごした一年間は楽しかった。実に楽しかった。だが、それだけだった。
 そこにはどんな実りも無く、いかなる成長も有りはしなかった。

 鳥が飛んでいる。ギーシュは必死で追いかける。額から流れた汗が唇に滑り込み、目を刺す。シャツが腕に絡みつき、襟元から重く垂れ下がる。体中が泥にまみれている。
 鳥が飛んでいる。まるで追いつけない。幻を追っているかの様だ。脚が縺れる。視界が揺らぐ。腹が重い。それでもギーシュは追い続ける。

 決して追いつけない?

 そうかも知れない。

 鳥が飛ぶのは、“無限の空”だ。

 だが、諦める気にはなれなかった。

 ギーシュは空を仰ぐ。鳥を追う。手を伸ばす。

 今が楽しければそれで良かった。そう思っていた。だが、今は胸の中に、小さな信念が生まれようとしていた。

 その気になりさえすれば、自分は未だ空を飛……――――


 果たして何度目だろう。ギーシュは倒れた。
 今回は今までと様子が違った。極度の疲労と脱水症状が、その意識に鉛の重さでぶら下がり、粘土の様に引きちぎった。何物の祝福を受ける事も無く、前のめりに崩れ落ちる少年の体を、空は地面に叩き付けられる寸前で受け止める。

「アカン……もう歳や……」

 空も疲れ切っている。息が上がり、額から汗が流れ落ちる。
 陽は落ち、ヴェストリの広場は薄闇に包まれていた。獣の様に相手を追い回すギーシュを嘲笑し、転倒の度に大笑いしていた生徒達の姿も、今は見当たらない。授業や夕餉の時間と言うのも有るが、何より彼らは飽きっぽい。
 ギーシュは数時間に渡って杖の奪回を試み――――とうとう、力尽きた。本来、空に追随するのは、A級ライダーでさえ困難だ。今はモーターを切っているとは言え、“ガンダールヴ”の力が有る。
ストームライダーにとっての武器はエア・トレックであり、空のそれは車椅子――――伝説の使い魔の紋章は、その様に判断したのだろう。
 ギーシュの体を支えたまま、空は左手の紋章は見つめる。その名称も詳細な効果も、彼は知らない。現状、気付いているのは、風を本来の数倍の効率で掴める事、戦闘中には体が軽くなり、反射速度も増大する事。後者は車椅子に搭乗時のみ、有効な事。
ワルキューレの拳をかわして車椅子から跳躍した時、ルーンの効果が失われ、空は大いに困惑する事になったのだ。

「引き分け、て所やな」

 空は笑った。ギーシュは気を失っている。気を失いながらも、自分の手にある薔薇の杖を、しっかりと握り締めている。こちらが手を放すと、杖を握った腕がだらりと落ちる。
 空はギーシュの肩、グラモン家の家紋から、創世神〈ジェネシス〉のエムブレム・ステッカーを剥がす。
 さて、この少年を保健室なり、医務室なりに運んでやらなければならない。どこだろう。そう考えた時、二人の女生徒が小走りに寄って来た。ギーシュが二股をかけていた、と言うのは、この二人だろうか。

「なあ、嬢ちゃんら」
「はい?」
「この男は十分に根性見せたし、せやったら、決闘の原因になった事は、全部チャラが筋やと思う。詳しい話は判らへんけど、今回の件は水に流してやって欲しいわ。どや?」
「あの……」

 女生徒達は困惑した様に言った。

「私はミス・モンモランシではありません」
「私もケティではありませんわ」
「……あ、そ」

 広場を見回す。残る人影は二つ。授業に参加する為、一時姿を消していたルイズ。少し離れた所には、決闘が決まった途端、真っ青な顔で逃げ出した筈のシエスタ。それだけだ。

「……ボーズ。女、てのは残酷やなあ」

 背が高い方の女生徒が杖を振るう。力の抜けたギーシュの体が、ふわりと浮き上がった。後は任せても良さそうだ。

「なあ、嬢ちゃん達は、この兄ちゃんどや?気合いの入った、ええ兄ちゃんやで」
「いえ。絶対に結構です」

 二人はギーシュを連れて立ち去った。知り合いと言う訳では無いらしい。保健係の様な物だろうか。それとも、単なるお節介焼きだろうか。

「……あいつの仲間、誰も残らへんかったんか。冷たい話や。友達居らんのかな」
「仕方無いわよ。皆から見たら、あんたはただの平民。貴族がただの平民に負けたのよ。誰も見向きはしなくなるわ」

 ルイズが寄って来る。疲れた声だった。

「大変やな。貴族つーのは」
「当然でしょ」
「そや。ルイズ。あいつとの事やけど……」
「水に流せ、て言うんでしよ。いいわよ。私は別に関係無かったし。少しだけ、言い過ぎた気もしてるし」
「そか――――おい、シエスタ。お前はどや」
「え?……はいっ?」

 いきなり呼びかけられ、シエスタは動転した。声をかける機会を窺っていたのだが、声をかけられた時の準備は出来ていなかった。

「あのボーズと何が有ったか知らへんけど、忘れてやってくれるか?」
「あ、はい!……空さんが、そうしろ、と言うなら、忘れます」

 貴族は本来、若いメイドを直接叱責したりはしない。そうした手合いは、極めて情緒不安定な類と見なされる。所が、学院に集まる貴族の子弟達は、若く、増長し、なにより退屈を持て余している。奉公人に絡む事など珍しくも無い、とは先輩の談だ。
今日は初めての事だったので面食らったが、いちいち気にしていたら、学院での奉公は覚束無いだろう。言われるまでもなく、シエスタはギーシュとの一件を忘れるつもりでいた。

「そうだ、空さん。お腹、空いてませんか?お昼も、お夕食も召し上がっていない様ですし」

 言われて、空は腹に手を当てる。昼食は勉強に夢中で忘れた。夕食はギーシュとの決闘が長引いて食べそびれた。

「賄い食で良ければ、お出しできますけど、いかがですか?厨房の皆も、きっと歓迎してくれます」
「いーわよ。行ってらっしゃい」

 ルイズの言葉もあって、空は厚意に甘える事にした。

「あの……すみません。あの時は逃げ出してしまって」

 車椅子を押しながら、シエスタは言った。

「ええよ。危ない場面になったら、女の子は逃げとくもんや」
「本当に貴族は怖いんです。私みたいな、魔法を使えない、ただの平民にとっては……」

 でも――――シエスタはぐっと顔を上げる。

「もう、そんな怖くないです!私、空さんを見て感激したんです。平民でも、貴族に勝てるんだって!」
「で……勝って、どないすん?」
「え?」
「あー……まあ、卑屈になる事は有らへんけど、喧嘩する事も無いやろ」
「そ、そうですね。やっぱり、平和が一番ですよね」

 どこか、戸惑った声だった。


 ようやく、決着した――――
 オスマンとコルベールは同時に欠伸を漏らした。何しろ、ギーシュが杖を奪われてからと言うもの、展開は単調その物。極めて退屈な勝負だった。闘技場なら、敗者の助命に賛同する観客は、一人も居なかったに違いない。

「ま、判ったのは、彼が只者では無い、と言う事くらいかの?」

 ギーシュは最下級のドットメイジだが、それでも平民に遅れを取る事など有り得ない。だが、空がコルベールの主張する通り、“ガンダールヴ”かどうかも、判然とはしなった。何しろ、彼は一度も武器を手にしていないのだから。

「どちらかと言うと、“ミョズニトニルン”では無いかね?」
「それなら、ルーンは額の筈ですし、ミスタ・空の車椅子はマジックアイテムではありません」

 どちらにしても、空が見せた機敏な動きは尋常では無い。“ガンダールヴ”では無くとも、ただの使い魔では無いだろう。

「王室に報告して、指示を仰ぐべきでしょうか?」
「それには及ばん」

 まだ、はっきりした事は何も判っていない。コルベールの推測通り、空が“ガンダールヴ”なら、尚更、王室に彼とその主人を与える訳にはいかない。他国から領土を切り取り、貴族は武功を挙げる。それが政治と考えている様な連中だ。
オスマンは退屈を持て余しているが、それでも平和を疎む程では無かった。

「この件は他言無用」

 そう結論を得ると、コルベールは学院長室を後にする。
 オスマンは恩人を思い出す。八人の“王”に極めて危険な男が居る。己が欲望の為、空を侵し、世界を血で染めようとしている――――ギーシュへの対応を見るに、空がその危険な“王”である可能性は低いと見て良いのだろうか。
 それは早計な気がした。本物の悪党は、小物を相手に本性を出したりはしない物だ。


 空は月を見上げていた。二つの月――――なんとも奇妙な光景だ。
 ギリシア神話では、“空”は月の雫で生まれた、と言う。ハルケギニアの濃密な青空、眩いばかりの星々を眺めていると、存外、馬鹿にした物でも無い気がした。

「『我等の風』が来たぞ!」

 厨房に入るや否やの叫び声は、コック長のマルトーの物だった。丸々太った体に、立派な誂えの服を着た中年親父だ。
 マルトーは貴族を毛嫌いしている。厨房の皆もそうだ。彼等は自分達と同じ平民が、メイジを倒した事に感激し、空を王様か何かの様に扱った。余り物の材料だが、最高の料理を用意する、と請け負った。
 そんな誘いを、空は断った。
 今日は忙しい日だった。随分、らしくない事をした気もする。ルイズのクラスメイトに脅しをかけたのは、明らかにやり過ぎだった。

「Hey! zero boy〈よう、チンカス〉」

 顎の割れた揉み上げ男が脳裏に浮かぶ。ゼロ、ゼロと囃し立てる餓鬼供に、どうしても、我慢出来なかった。だが、クラスメイトが萎縮した状態では、ルイズも過ごし難いかも知れない。近い内に、フォローを入れた方がいいだろう。だが、どうやって?
 女子寮塔へと車椅子を進めた時、ルイズと出会した。

「待っとったんか?」
「別に。散歩をしていただけよ」
「そか」
「随分、早かったのね」
「料理を二人分、部屋に届けてくれる様、頼んどいた。その後、図書館で時間潰したから、後少しで届くやろ」
「どうして、二人分なのよ?」
「夕食、食べてへんやろ?」

 ギーシュをあしらいながらも、空は広場によく目を配っていた。主人としての義務感に駆られたルイズは、授業が終わると、即刻広場に駆けつけ、決着までその場を動こうとしなかった。

「食べて来ちゃえば良かったのに。あのメイドはあんたを気に入ったみたいだし、厨房のコックも歓迎してるみたいな事言ってたし。同じ平民同士、仲良くすれば良かったんだわ」
「同じかあ……正直、同じにされたないなあ」

 それは、意外な一言だった。

「……どうして?」
「まあ、あいつら貴族が怖いらしいから。それが平民に負けた言うんで、溜飲下げるんは判るわ。せやけど、同じ平民のシエスタが絡まれてる時、何もせんかった連中が、同じ平民が勝った、言うて浮かれとるんはついていけへん。都合良過ぎや」
「そうは言うけど、実際、平民の彼等には何も出来ないでしょう」
「そば居てやる事は出来たやろ。一緒に頭下げてやる事は出来たやろ。そんなら、シエスタもなんぼ心強かったか、て事や。コックや給仕が勢揃いして、頭下げて見い。あのボーズかて無茶出来たと思わへん」
「仕方無いわ。平民には忠節と勤勉だけが有ればいい。勇気や仁慈、献身は貴族の徳目だわ」
「そんなもんかいな」
「そんなものなのよ。平民は何も要求しない。代わりに何も要求されない。それでいいんだわ」


 バスケットにたっぷりの料理と葡萄酒を受け取ると、シエスタは“飛翔の靴”で颯爽、走り出した。
 図書館で少し調べ物が有る。空はそう言っていた。巧く行けば、帰り道を捕まえられるかも知れない。
 部屋に行けば、ミス・ヴァリエールが一緒に居るだろう。出来れば、空が一人の時に手渡したかった。彼が喜んでくれる顔を見たかった。
 車椅子の空はよく目立つ。見付けるのは簡単だった。
 駆け寄ろうとして、シエスタは二の足を踏んだ。空の隣には、ルイズが居た。ギーシュに叱責されている時、間に入ってくれた、言わば恩人だが、それでも貴族と思うと、どうしても緊張してしまう。
 どうしよう?――――今、手渡すか、二人が部屋に戻るのを待つか――――そう考えていると、二人の声が聞こえて来た。

「同じかあ……正直、同じにされたないなあ」

 その一言に、シエスタは立ち尽くした。

「同じ平民のシエスタが絡まれてる時、何もせんかった連中が、同じ平民が勝った、言うて浮かれとるんはついていけへん。都合良過ぎや」

 足が、まるで石になったかの様に動かない。
 もし、立場が反対だったら、どうだろう。シエスタは自問する。自分なら助けに入れたか?間に入れたか?
 答えはもう出ている。ギーシュが激怒した時、自分は庇ってくれたルイズも、空も見捨てて逃げ出したではないか。

「私、空さんを見て感激したんです。平民でも、貴族に勝てるんだって!」

 自分の言葉を思い起こす。なんと、都合の良い夢を見てしまったのだろう。
 零れ落ちる涙は、忽ち滂沱となった。幼少時の出来事が、脳裏に甦った。
 “飛翔の靴”が普及するダルブ村。シエスタは同年代の誰よりも速かった。誰よりも機敏だった。それがなによりの自慢だった。
 家の手伝いを終えると、毎日の様に平原に繰り出した。頭上を鳥の群が飛んで行く。それを追いかけていると、まるで自分まで空を飛んでいる気分になれた。
 そう、子供の頃、自分は確かに“飛べた”のだ。鳥と自分の間に、ローブ姿の少年が割り入るまでは。
 あれはメイジだ。父が教えてくれた。自分もあの様に飛ぶ事が出来るのか――――その問いに対する答えは、無情な物だった。
 貴族の生まれでなければ、魔法を使う事は絶対に出来ない。
 あの時も、シエスタは今の様に泣いた。泣いて、“飛翔の靴”を放り出した。何が“空を飛べる靴”だ。曾祖母は嘘吐きだ、と泣き叫んだ。
 一晩、泣きはらした。翌日の朝食。祈りの際、始祖ブリミルに投げかけた問いは、今でも憶えている。

 始祖ブリミルよ、あなたは何故、そんなにも不公平で、残酷なのですか?

 どうして翼を持つ者と、持たざる者を分かたれたのですか?

 一つしか無い、この世界なのに――――


「あんた、悪い奴ね」

 寮に戻る道中。ルイズはそう笑った。

「ああ。決闘は杖、手放したら負けなんやってな。知らんかった。嬲る様な形になって、ボーズにはホンマ、悪い事したわ」
「その事じゃないわ」
「どの事や?」
「ギーシュのワルキューレを弾き飛ばした時、手を触れて無かったでしょう?」

 殆どの生徒には、突き飛ばしたかの様に見えただろう。だが、あの時、真横に近い角度で目にした何人かは、ルイズと同じ事に気付いた筈だった。

「それがどうしたんや」
「あんた、昨日は何も出来ない様な事言ってたじゃない。自分から雑用まで言い出して。なんのつもり?」
「いや……ま、この脚やし、機敏には動けへんし――――」
「機敏に――――なあに?聞こえなあい」

 空は口籠もった。あれだけ派手に動いておいて、機敏には動けないなどと言っても、悪い冗談にしか聞こえないだろう。

「まあ、いいわ。護衛と言っても、学院内で危険が有る訳じゃないし。その代わり、私が外出する時は、ちゃんと着いて来る。いい?」
「判った」

 空は安堵した。護衛では24時間拘束されてしまう。自由に動ける時間を確保する為、雑用を請け負ったのだ。学院から見渡す限りでは何も見当たらないし、ルイズの外出もそう、頻繁な物でも無いだろう。

「ねえ、一つ聞いていい?」
「なんや」
「あんた、元“王”て言っていたでしょ?現役の時には、八人の“王”は“塔”の頂に集まらなかったの?」

 その問いに、空は小さく溜息をついた。
 昼からずっと気になっていた。イカロスの寓話、空が過去に経験したであろう挫折、その烙印であろう両脚――――それを穏便に聞き出す方法は無いかと考えていた。どうやら、この問いは、核心に触れているらしい。

「遙か昔や。進化の頂点に達した、一匹の獣が居った――――」

 地上最強の生き物として君臨したからこそ、目指した物があった。生まれてから、ずっと見上げて来た物だ。自らを縛り付ける鎖への挑戦――――
 未だ見ぬ新天地を目指して、それは飛んだ。途中、力尽きるかも知れない。そこに陸が有るかどうかも判らない。それでも飛んだ。ただ目指した。ここではないどこかを。新たなる世界を。上を――――

「その鳥には夢が有った。理想が有った。せやかて、どんなに力を持っていても、一人では辿り着けん所も有る。そして、そいつが率いる群れの全てが、同じ理想と信念を持っとった訳や無かった」
「“王”に賛同しない者が居た?」
「――――ワイを伝説の“空の王”や呼ぶ奴も居ったけど、違たなあ。ワイの翼は、蝋で固めた偽物やったらしい」

 その問いに答える代わりに、空はそう言って、脚を叩いた。

「一度は“塔”の頂に揃った八人の“王”と八つの“玉璽〈レガリア〉”。せやけど、真の“空の王”はとうとう現れんかった」

 ルイズは言葉を見付けられないまま、空を見つめた。聞かなければ良かった。そう思った。聞くべきでは無かった。恐らく、八人の“王”に裏切り者が出たのだ。そして、彼は“塔”を巡る闘いに敗れ、脚を失った。
 と、空は笑みを浮かべると、ルイズの頭を軽く叩いた。

「そないな顔すな。ワイはなあ、こないになりはしたけど、後悔だけはまるでしてへんで」
「え?」
「男が夢追いかけんかったら、一生何して暮らすねん。生まれて来た意味無いやろ」


 夢――――心の中で、ルイズは繰り返す。思えば、ゼロと蔑まれるまで、自分にもそんな物が有った筈なのだ。貴族として、何としても系統に目覚めなければならない。そんな息苦しい義務感とは違う。夢を、希望を抱いていた筈だった。それはなんだったろう。

「ねえ、昨日歌った歌」
「イカロスの歌か?」
「続きは無いの?」

 答える代わりに、空は歌い出す。

『おかはぐんぐん 遠ざかり
 下に広がる 青い海
 両手の羽根を はばたかせ
 太陽めざし 飛んでいく
 勇気一つを友にして

 赤く燃えたつ 太陽に
 ろうで固めた 鳥の羽根
 みるみるとけて 舞い散った
 つばさうばわれ イカロスは
 落ちて命を 失った

 だけどぼくらは イカロスの
 鉄の勇気を 受けついで
 明日へ向かい 飛び立った
 ぼくらは強く 生きていく
 勇気一つを友にして』

「勇気一つを友にして、ね――――友達は勇気だけなの?」
「どんな時やて、そうやろ。最後は勇気だけや」
「勇気だけ、ね――――」

 鉄の勇気を 受けついで――――空の脚を一瞥すると、ルイズはそっと口の中で繰り返した。

「空。あんた言ったわね。“あいつらは飛んでいる癖に、ちっとも気持ち良さそうじゃない”て」
「ああ。言うた」
「なら、当然、あんたは気持ち良く飛ばしてくれるんでしょうね」
「あたぼうや!」

 ルイズの言葉に、空は破顔した。

「天国までイカせたるっ!」

 ルイズも笑みを返す。笑いながらも、空の頭を一発張る事は忘れなかった。


 ――――To be continued


『』内
「勇気一つを友にして(作詞:片岡 輝)」より引用


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