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薔薇乙女も使い魔 第五話    『ヴァリエール家の娘達 』


第五話    『ヴァリエール家の娘達 』



 月光に照らされて、門をバックに一人の女性が仁王立ちしていた。

 ルイズの気の強い部分を煮詰めて濃縮させて熟成したら、こんな風だろうか。
 かなりキツめの、見るからに男勝りなブロンド美人だ。
 突然の突風に吹き飛ばされて広場に倒れたルイズ達四人を、まるで下らぬものでも見る
かのようににらみ、見下ろしている。

「まったく、なんて落ち着きのない子なの!ヴァリエール家の一員としての自覚をもって
いないの!?」
「は、はい…でも、そのあの、こんな急に」
「言い訳するんじゃありません!ちびルイズ、そこに座りなさいっ!!」
「はいぃ!」
 ルイズはエレオノールの前に、チョコンと正座させられた。
「ふん…よろしい。今日は、実はあなたに確認したい事があって、急遽来たのです」
「あの、姉さま。もしかして、ずっと待ってたんですか?」
「ええ、夕方頃からずっとですよ。それが、まさかこんな遅くまで歩き回っているなんて
…どういうつもりなの!?」
「そ、それは、姉さまが来ると知らなかったから」
「私が来るかどうかは関係ありません!確かに今日は連絡無しに来ましたが、淑女として
夜中に歩き回るのは・・・」
 ルイズは正座させられたまま、延々と叱られていた。

 後ろのジュン達は、どうしようかと顔を見合わせた。
 回れ右して、抜き足差し足こっそりと立ち去ろうとしていた。

「お待ちなさいっ!」
 ジュン達の背中を、エレオノールの冷たい声がむち打った。
 ジュンは、ギクシャクとぎこちなく、肩越しにエレオノールを振り向いた。
「えーっと・・・なにやらお取り込み中のようですので、その、部外者は、向こう行って
ますね」
 だが、エレオノールは冷たい視線をジュンに投げかけ続けた。
「今日は、あなた達の事を知って、慌てて来たんですよ」

 ジュンの背中を、冷たい汗がダラダラと流れる。
 いつかこうなるかも、とは予想していたけど、とうとう来てしまった…どうやってこの
場を切り抜けよう?
 そんな思考がジュンの頭を駆けめぐっていた。この難局を乗り切るため、ジュンの頭は
フル回転し始めた。

「あなたが、噂の平民使い魔ですね?」
 ジュンの心臓が、口から飛び出しそうになった。もう、誤魔化せるレベルの話ではない
だろうと理解できてしまった。
 ジュンは覚悟を決め、大きく深呼吸をして、エレオノールに振り向いた。そして、自分
が知ってる、最高に礼儀正しいお辞儀をした。
「はい。私は先日ルイズお嬢様に召喚され、使い魔の契約をいたしました。桜田ジュンと
申します。以後、お見知りおきを」
「平民の名前なんてどうでもいいわ」

 一瞬、伏せたままのジュンの顔がこわばり、紅潮した。
 ギーシュと最初に会った時も同じような事を言われた。だが、あれは『ジュンがどうい
う人間か知るために、あえて挑発した』という類のものだ。対してこれは、明らかにそれ
とは違う。間違いなく、このルイズの姉はジュンの存在を、平民を、『どうでもいい』と
考えている。
 この世界の身分制度、その現実をジュンは思い知らされた。同時に、ふつふつと怒りが
体の奥底から湧いてきた。

「私が今夜、こんな急に来たのは、あなたが召喚した…ちょっと!そこの小さいの!!」
 エレオノールは、さらに忍び足でそぉ~っと立ち去ろうとしていた、真紅と翠星石を呼
び止めた。
 二人とも、やれやれしょうがないといった感じで振り向いた。
「私達に、何かご用でしょうか?」
真紅が嫌々ながらという感じで答えた。翠星石はエレオノールに睨まれ、真紅の後ろに
隠れてしまった。
「もちろん。私はあなた達皆に用があって来たのですから」

 正座したままのルイズが、不安そうにエレオノールを見上げた。
「あ、あの、姉さま。一体、私の使い魔に何の用が…」
 聞くまでもない事だが、ルイズは聞かずにいられなかった。
「何の用、ですって?では、改めて教えてあげましょう。
 『ヴァリエール家の三女、ルイズがサモン・サーヴァントで平民の少年を召喚した。し
かも、エルフの技で作られたゴーレムを2体も所有し、並のメイジでは歯が立たない。も
しや聖地からの間者では?』
 そんな噂がアカデミーや王宮で流れているからですよ!!」
「ちっ!違います姉さま!!彼らは聖地よりも遙か遠くの出身です!私が偶然トリステイ
ンに召喚してしまっただけです!あの人形達もエルフとは関係ありませんっ!」
「お黙りおちびっ!だから私がこうして確かめに来たんです!!」

 そんなやりとりを聞いて、ジュンは内心『うっひゃー』と思っていた。予想していた中
でも、最悪に近い展開だった。
 だが、同時に疑問も感じた。聖地が何かは知らないけど、どこかのスパイじゃないかと
疑っているなら、疑われるのは自分自身。なのに、何故自分が『どうでもいい』のか。な
ぜ王宮の人間ではなく、姉とはいえ、アカデミーの人間が派遣されたか。

 考えられるのが一つ。スパイは大義名分。真の目的は・・・

「というわけで!あなたの使い魔達は取り調べのため、アカデミーで身柄を預かります」
 エレオノールが胸を張って宣言した。 
 やっぱりか・・・ジュンは予想通りと思いつつ、顔を覆いたくなった。

「そんな!?姉さま、無茶苦茶です!!お願いです…あの子達、ジュンを、真紅を、翠星
石を、あたしから取り上げないで下さい!どうか、どうかそれだけはお許し下さいっ!」
「なりません!これはヴァリエール家にかけられた、あらぬ疑いをはらすために、どうし
ても必要な事なのです!!」
 すがりつき懇願するルイズの願いを、エレオノールは全く聞こうとはしなかった。

 ジュンは、後ろの真紅と翠星石に目配せした。二人も無言で頷く。

「エレオノール様、ですね。ルイズお嬢様よりお名前は伺っております」
 ジュンは、これでもかと言わんばかりに礼儀正しく、ルイズをしかり続けるエレオノー
ルに話しかけた。震えそうになる足を、必死で押さえつけながら。
「その通りですわ。ふん、どうやら平民の子供の割に、礼法は少しは知っているようね」
「恐れ入ります」
 執事のように頭を下げるジュン。額に浮かぶ汗を見られぬように、深々と頭を下げ続け
た。
「用件の程は、お嬢様方のお話から理解致しました。つまりは、私たち3人をアカデミー
で取り調べたい、ということですね」
「3人?平民とゴーレム2体よ」

 エレオノールは、明らかに見下した目でジュンと真紅と翠星石を見下ろした。ジュンは
怒りに震えそうになる手を、胸に押さえつけ必死でこらえる。

「なるほど。ですが、間者か否かを確かめたいのであれば、私め一人で十分なはず。どう
ぞ私だけをお連れ下さい。人形2体は、続けて使い魔としての務めを果たさせたく存じま
す」
「そ、そんな!?だめよジュン!!」ルイズが叫ぶ。
「平民の子供が出る幕ではないっ!黙って皆ついてくればよい!!」エレオノールが一笑
に付す。

 ジュンは、頭を下げたまま押し黙った。ルイズもジュンの姿を見つめ続ける。

「・・・あくまで、我ら全てを、アカデミーに連れて行くとおっしゃられますか?」
「当然です!」

 ジュンは頭を伏したまま、静かに、しかしハッキリと、口を開いた。

「・・・申し訳ありませんが、承知致しかねます」
「なんですって!?平民ごときが、貴族に逆らうというかっ!!」
「いいえ。私はルイズ様の使い魔にございます。ですから、主たるルイズ様の命令もなし
に、勝手に主のもとを離れるわけには参りません」
 その言葉を聞き、ルイズもハッと我に返る。
「そ、そうよジュン!真紅も翠星石も!私のもとをはなれることはなりませんっ!」
「主もかように申しております。どうかここは、お引き取り下さい」

「だまらっしゃいっ!!」
 エレオノールが一喝する。ルイズがひぃっと首をすくめる。
 ジュンと真紅と翠星石は、微動だにしないかに見えた。だが、僅かに、ゆっくりと、体
勢が低くなり始めていた。いつでも素早く動けるように

「下らぬ戯れ言を弄する、小賢しい子供だこと」
「いいえ。使い魔として当然の義務にございます」
「ふん、そこの少年。確か話では、お前がルーンを刻まれたのですね?」
「さようです。これにございます」

 包帯でまかれたジュンの左手を掲げた。エレオノールは怪訝な目をする。

「ルーンを刻まれた人間、というのは、いささか奇異な目でみられます。ですので普段は
包帯で隠しています」
「そんなことはどうでもよろしい。ともかくお前自身がルイズの使い魔なのだな?」
「御意」
 『御意』の意味は知らないけれど、TVなんかではこんな時使ってたなと思い出し、と
にかくジュンは言ってみた。

 ジュンは内心コルベールに感謝した。コルベールが『珍しい』と言っていたルーンを見
られたら、今度は何を突っ込まれるか、分かったものではない。

「ならば話は簡単です。ルイズの使い魔ではない、その人形2体を連れて行く。これで話
は終わりです」

 ルイズも、ジュンも、黙って聞いていた真紅も翠星石も、一瞬あっけにとられた。

「な!?姉さま!どういうことですか!?この子達とて私がサモン・サーヴァントで呼び
出した、れっきとした私の使い魔です!」
「ですがルーンはその少年にのみ刻まれている。つまり、おちびの使い魔は、その少年で
す。人形達は関係ありません」
「ち、違います!あの子達も私の、私の!」
「いいえ、それは違いますわ。エレオノール様」

 真紅が、不敵な笑みを浮かべながら、口を開いた

「ほう、ゴーレムのクセに、よく舌が回るではないか?」
「恐れ入りますわ、レディ。ですが私たちはゴーレムでなく、ただの人形にございます」
 エレオノールの氷のごとき視線を、真紅は正面から受けとめた。
「そして、あいにく私たちローゼンメイデン第5ドール真紅と、後ろの第三ドール翠星石
は、あなたが言う『平民』のジュンを主としております。ゆえに、主の命無く主のもとを
離れるワケにはいきませんの」
「そーですそーですぅ!あなたみたいなコーマンチキに用は無いです、さっさと帰りやが
れですぅ!」
 真紅の後ろから翠星石も抗議する。

「このエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリ
エールの命が、聞けぬと、申すか…」
「はい、聞けませんわ」「おとといきやがれですぅ」
「ゴーレムの分際で、貴族を愚弄するか…」
「愚弄はしませんわ、ただ当然の筋を通すまで」「無茶言ってるあなたが悪いですぅ」
「ヴァリエール家の長女より、平民の小僧の命が上だと、申すかぁっ!!」
「私どもはこの国のものではありませんの」「だからぶりえーるも何も知らないですぅー
だっ!」

 エレオノールの髪が逆立ち、体は小刻みに震えだした。右手がゆっくりと、彼女の杖へ
とのびる。
「・・・ルイズ」
「はっ!?・・・・はい」
 わなわなと怒りに震えるエレオノールが、杖を構え、ゆっくりとルイズを見下ろした。
「これが最後です・・・そこの平民に、アカデミーに来るように命じなさい」

 ルイズは地面にへたりこんだまま、恐怖で震えていた。すでに涙がこぼれそうだ。

「・・・い、い…いや…いや」
「・・・もう一度だけ聞きましょう。返答は?」
「いやですっ!!!」
 ルイズは立ち上がり、ジュン達の前に立った。胸元から杖を引き抜き、まっすぐ彼女の
姉へ向けた。
 驚き呆れた表情で、エレオノールはルイズを睨み付けた。

「ルイズ、ちびルイズ。いつからあなたはそんなにお馬鹿になったんです?」
 問われたルイズは一瞬ジュン達を振り返り、キッとエレオノールを見据えた。
「この子達は・・・ジュン達は、あたしが召喚したんです」
「知ってるわ、おちび」
「やっと、やっと召喚したんです。何回も何回も失敗して、ゼロのルイズってバカにされ
続けて、それでも諦めず必死で、進級したくて、周りを見返したくて、やっとの思いで、
この子達が来てくれたんですっ!!
 そりゃ、人間喚ぶなんて前代未聞だし、しかも何人も喚んじゃったし、ちょっと生意気
で自分勝手な連中だけど。でも、でも!あたしの使い魔に、使い魔になるって、言ってく
れたんです。
 キュルケをギャフンと言わせて、ギーシュだってギタギタにして、ゼロのルイズって言
われる、魔法がほとんど使えない私のこと、全然気にせず、ずっと、いえ、ずっとじゃな
いけど、でも、一緒にいてくれる子達なんですっ!
 ・・・渡さない・・・絶っ対に渡さない!アカデミーの研究材料なんかに、させるもん
ですかっ!!!」


 ルイズの瞳は、もはや僅かの迷いも恐怖も含んではいなかった。
 そしてエレオノールの目も、もはや交渉の余地がないほどの怒りに燃えていた。

「おちび…この姉の命が、聞けないと?」
「たとえ姉さまの命でも、これだけは聞けませんっ!」
「いいでしょう…」

 エレオノールのブロンドが逆巻く。その唇からは呪文の詠唱が聞こえる

「ちびルイズ・・・久しぶりに、折檻してあげましょう!!」

      『ウィンド・ブレイク!』
 広場の草が舞い上がる!ルイズ達に向けて、突風が走るっ!

 バシィ!「おっそいですぅ!」
 翠星石が一瞬早くルイズの前にツタのカベを生やした!風は虚しくツタを揺らした。真
紅の左手からは竜巻の如く赤い薔薇が舞い上がる!

「何ぃっ!?詠唱も無しにっ!!」
 一瞬動揺するも、間をおかずエレオノールは右へ駆け出した。唇からは続けて詠唱が漏
れている。
「逃がさなくってよっ!」
 真紅の手から放たれた薔薇の帯がエレオノールに追いすがる!
「なっ!?速い!!」
 薔薇の触手がエレオノールに触れる瞬間、彼女の魔法が発動した。紅い触手の手前で発
生した竜巻が、全ての花びらを吸い込んでいく。
「キャアッ!」
 だが、エレオノール自身が竜巻に近すぎた。彼女自身が竜巻に巻き込まれそうになる。
それでも新たな呪文を詠唱し続けている。

「ファイヤーボールッ!」
 ルイズがエレオノールに杖を向けて叫んだ!

 ドゥンッ!!
 エレオノールの後方、塔のカベが大爆発した。
「あぅっ」
 ルイズがガックリした。
 そのルイズに向けて、エレオノールが杖を向けた!杖が雷を帯び始めるっ!!


 シュパパパッ!


 何かが切り裂かれる音がした

 エレオノールの杖が、一気に飛び出したジュンのナイフでバラバラに切り刻まれた!
ナイフが、エレオノールの首もとに突きつけられる。
 両者の間に、張りつめた沈黙が流れる

「・・・これ以上戦うというのなら、次は本気でやります」
 ジュンの目は、さっきまでの彼からは想像付かないほど鋭かった。彼の意識は左手の指
輪に向いている。脅しではなく『本気』で戦うために。
「うっぬぅうぅぅ!た、たかが平民が、ヴァリエール家に刃向かってただで済むと思って
いるのですか!?」
「…何か忘れておられますね。我が主もヴァリエール家の三女ですよ、長女様」
「くっ!なんて口の減らない小僧かしらね!?」
 二人が更に睨み合う。



     どどどぉぉぉ・・・・・



 遠くで大地が揺れるような音がした。

 ジュンがナイフをエレオノールの首筋にゆっくりと押しつける。ジュンの頬を冷たい汗
が幾筋も流れ落ちる。そしてエレオノールの全身にも。
「…どうやら、引き下がっては頂けないようですね…」
「な!?何の話をしているの??私は何もしていませんよ!!」
「ほぅ?では、後ろのゴーレムは何ですか?」
「・・・え?」

 エレオノールはゆっくりと視線を背後へ向けた。
 そこには、身の丈30メイルはあろうかという土のゴーレムがいた。ゴーレムの肩の上
には、黒いローブに包まれた人影がある。

「3つ数えます。お供のメイジに、ゴーレムを戻すように命じて下さい」
「ちっ!違う!!あれは知らないっ!」
「ひとつ」
「やっやめ!やめてっ!!誤解ですっ!!!」
「ふたつ」
「る、ルイズッ!!たすけ、たすけてっ!!!」
「じゅ、ジュン!ちょっと待って!!姉さまを!」
「みっ!」
 瞬間、ルイズの声を聞く前に、ジュンの動きが止まっていた。勢いで思わずカウントを
始めたけど、数え終えたら僕はこのナイフを、どうすればいいんだろう?という事に気が
付いたから。

 だが、どちらにしても、カウントは最後まで行けなかっただろう。


 ドッゴオォォォン・・・・・


 ゴーレムは、塔のカベを殴ってぶち破った。ローブの人物はゴーレムの腕を伝って塔の
中に侵入した。

「「「「「え?」」」」」

 エレオノールも、ジュンも、ルイズも、真紅も、翠星石も、いきなりの展開に、目が点
になって動けない。
 少しして、塔から出てきたローブの人物が、再びゴーレムの肩に乗った。ゴーレムはそ
のまま、学院の城壁をまたいで、草原へ去っていった。

 残された5人は、何が起こったか分からず、ぼけーっとしていた。



「あーらららららぁ!これは大変だわねぇっ!!」

 いきなり上空から、のんきな女性の声が降ってきた。
 5人が上を見上げると、ウィンドドラゴンが彼らの頭の上を旋回していた。
 舞い降りてきたウィンドドラゴンの背に乗っていたのは、キュルケとタバサだ。
 あっけにとられる五人をニヤニヤと見渡し、キュルケは勝手にしゃべり始めた。

「あーら大変なことだわぁ!学院に泥棒が来たみたいよぉ」
 タバサがこくりと頷いた。
「あれは今、巷で噂の『土くれのフーケ』だわね。巨大ゴーレムを使っての力技。間違い
ないわ。まさか学院の宝物庫を狙うとは、ビックリねぇ~」
 また、うなずくタバサ。
「でもヘンね、学院の宝物庫には、スクウェアクラスのメイジが何人もかかって強力な防
御をかけてたはずよねぇ」
 コクコク、とさらに頷く。
「それに固定化の呪文もしっかりかけてあるし。いくらフーケのゴーレムが凄くても、そ
んな簡単にカベを破れる分けないわよね。どうしてかしらねぇ?」
「ありえない」
 タバサがようやくしゃべった。
「あーっ!わかったぁっ!!さっき学院の広場で大喧嘩してた、どっかの貴族達のせいだ
わぁ~♪」
「んなっ!?」

 エレオノールが、やっと、彼らが何を言ってるのか気が付いて声を上げた。だが、もう
遅かった。

「街からの帰り道に見つけたゼロのルイズをコッソリ追いかけていたら、タァイヘンなモ
ノを見つけてしまったわぁ~♪まさか、姉妹喧嘩の果てに学院の宝物庫のカベをぶっこわ
して、泥棒さんの侵入を許してしまうなんてえ~☆どぉしよぉ~?」
「ビックリ」
 タバサが、全然ビックリしてない風にポツリと言った。
「こおんな事がアカデミーや王宮に知られたら、ヴァリエール家にはどれほどの不名誉な
のかしらぁ?もしかして、貴族の娘が二人も、牢獄行きっ!?やーん!あたし、しーんじ
られなーい。キャハハハッ!!」
「あはははは」
 タバサは棒読みで笑い声を言った。
「あ、そぉれぇとぉもぉ~。『アカデミーによる使い魔強奪未遂事件』ッて言った方がい
いかしらねぇ~?」
「どっちもぐー」
 タバサは、無表情なまま、指でマルを作った。
「アカデミーの人間ってイヤよねぇ、神聖なる使い魔とメイジの関係も、ただの研究材料
にしちゃうなんて~。
 ねぇ、そこのお・ね・え・さ・ま!」
 キュルケはいきなりエレオノールを指さした。
「どぉっちのタイトルがいいと思いますぅ?あたしぃ、わっかんなーい♪」


 エレオノールの顔色は、高速で赤と青と白を行き来していた。その表情は、もはや表現
する言葉が見あたらないほど、あらゆる感情が入り交じっていた。

 ようやく、エレオノールが、まるで地獄の底から響くような声をだした。
「そ…そこの二人に、ヴァリエール家の名において、命じます。今夜、ここで見た事は、
口外しては、なりません」
「あっらー!大変な事だわぁ、ヴァリエール家の長女エレオノール様に、命令されちゃっ
たぁ。やぁねぇ、さっそく周りの人たちにも、教えてあげようと思ってたのにぃ~」
 タバサが杖で寮塔と本塔を示した。そこには、大音響を聞きつけて駆け出してきた学生
達が見えた。
「くうぅっ!!も、もし口外するような事があれば!あなたの命は」
「あら!面白いわねぇ、このキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・
ツェルプストーの命を奪うというわけね!」
「なっ!ツェルプストー!?」
 エレオノールは彼女の姿を改めて見直し、目を白黒させた。
「ならば話は早い。祖先より紡がれし両家の因縁、血塗られし歴史、今ここに再び幕を開
けようぞっ!!」
 叫んだキュルケが杖を手にする。
「まっ!待ちなさいっ!!早まってはなりませんっ!」

 後じさったエレオノールだったが、自分のすぐ背後に、ナイフを持ったままのジュンが
いる事を思い出した。しかも、杖は彼に切り刻まれた。おまけに、彼に付き従う魔法兵器
が2体。ルイズも彼女の味方をしない。
 もはや前にも後ろにも行けず、彼女は哀れなほどオタオタしていた。

「・・・な、何が望みですか・・・」
 肩をわなわなとふるわせて、エレオノールがキュルケに、敗北宣言とも言える言葉を発した。
「・・・帰りなさい」

「「「「「「…な?」」」」」」

 キュルケの答えは、余りにも予想外の言葉だった。エレオノールはおろか、その場にい
た全員が驚いて聞き返してしまった。
「大人しく引き下がれば、この場は不問に処す、と言ってるのよぉ。不服かしらぁ?」

 まともに考えれば、キュルケの要求は明らかにおかしい。先祖代々続く宿敵ヴァリエー
ル家の大スキャンダル。表沙汰になれば、ヴァリエール家は王家からどれほどのお叱りと
処罰をくらうか。その結果得るツェルプストー家の利益はどれほどか。たとえ利益が全く
無くても、腹を抱えて大爆笑出来れば十分だろう。
 だが、エレオノールには、これを拒む選択肢を与えられていない。どこをどう見ても、
彼女の明らかに裏がある要求を、飲まざるを得ない。
 そして、周囲には学園の生徒や使用人が集まって「なんだどうした」と訝っている。も
はや考える時間もない。
 エレオノールは、果たして人間はこれほどまでに汗を流せるのか、というくらい滝のよ
うな汗を流して迷っていた

「姉さま、ここは引いて下さい」
 ルイズが、静かに、だが力強く声をだした。
「キュルケには、私から話をつけます。ですが、アカデミーの人間である姉さまがここに
いると、話がヴァリエール家の中だけでは済まなくなります。どうか、アカデミーに戻っ
て下さい。そして、二度とアカデミーに、私たちに手出しさせないで下さい。
 姉さま、この通りです。お願いします」

 ルイズは、深く頭を下げた。


 エレオノールは、淑女にあるまじき歯ぎしり音を響かせ、とうとうため息と共に肩を落
とした。
「わ・・・わかりました。今は、帰りましょう」

 それだけ言って、彼女は野次馬を押しのけ、馬車に乗った。
 馬車はゴーレムの御者に操作され、急いで学院を出て行った。
 馬車の窓からエレオノールが、ルイズ達を憎々しげに睨んでいた。



「ふひゃあぁあぁあぁ~~~・・・・」
 情けない声を出したのは、ジュンだった。ナイフを放り出し、広場に大の字でぶっ倒れ
ていた。
「よくやったわジュン」「見直しましたですよ!もうチビ人間じゃないですよぉ!」
 真紅と翠星石がかけより、今頃になってダラダラと大汗をかいてる少年を激励した。駆
け寄ってきたルイズの瞳には、涙が浮かんでいる。
「ジュン…真紅も、翠星石も、ありがとう。ホントに、ありがとう」
「いーよいーよ、どうせいつかは必ず来るって思ってたんだから」
 ジュンは大の字で伸びたまま、手をヒラヒラさせた。


「さーって、ルイズちゃあ~ん♪」
 キュルケが、ウィンドドラゴンから降りてきて、クネクネしながら彼らにニッコリと微
笑んだ。
「このお・れ・い・は♪どうやって払ってくれるのかしらねーっ!」
 その笑顔は、明らかに見返りを要求していた。しかも、もんのすげーでっかい報酬を。
ルイズはタジタジで、引きつった笑顔で目を逸らす。
「えーっと、そのぉ~、なんの事かしら・・・」
 キュルケが、さらにニコニコと、最高の笑顔を見せる。
「このまま、王宮いこっかなー?それともぉ、オールド・オスマンに全部話しちゃおっか
なー♪ねぇタバサ、どっちが良いと思う?」
 タバサも頭をかしげた。

 ぐゎしっ!
 ダダダダダ・・・・

 ルイズは、キュルケとタバサを掴んで、寮塔へ走っていった。
 しょうがないのでジュンも真紅と翠星石を抱えて、慌てて後を追った。
 後には大穴が開いた塔を見て騒然とする人々が残った。



 ルイズを追いながら、ジュン・真紅・翠星石は、ホントにこの世界に来て良かったのか
と、真剣に悩んでいた。


             第五話    『ヴァリエール家の娘達 』   END


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