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薔薇乙女も使い魔 第四話   『ルーン』


 夕暮れの商店街。
 冴えない時計屋の中で、老人が少年に古い懐中時計を見せていた

「ええ!これですコレ!こういうのが要るんですよ!」
「本当にいいのかい?若いのに、こんな年代物の懐中時計なんて」
「いえ、これが必要なんです。トリステインに、あんまりこの世界のハイテク品を持って
行くわけにはいかないから。
 …ホントはこの古時計でも、かなりヤバイかもしれないけど」
「ふ~ん、そういうものなのかねぇ。まぁいい、大事にしてくれよ」
「はい。で、いくらですか?」
「いや、代金はいらんよ。持って行きたまえ」
「え、いやそいういうわけには」
「蒼星石を目覚めさせるために頑張ってるんじゃろう?だったら、蒼星石のミーディアム
じゃったワシも、手を貸さねばなるまいよ。
 いつまでかかっても良い。必ず、必ずや、蒼星石を目覚めさせてくれ」
「分かりました。頑張ります」
 ジュンは蒼星石の元契約者である時計職人の老人、柴崎氏の時計屋を後にした。



 ここは地球、ジュンの住む町。
 ジュンは一時ハルケギニアから帰ってきていた。
 見慣れたはずの夕暮れ、ヒグラシが鳴き始めた帰り道。だが、何か新鮮に感じる。
 木々の代わりに林立する電信柱。、草一本生えないコンクリとアスファルトの地面。前
に立つと当たり前のように開閉する自動扉。火トカゲよりよっぽどモンスターっぽい車。
トリステインではありえない、信じがたい蒸し暑さ・・・

「ほんのすこし異世界にいってるだけで、何もかも違って見えるんだな…」



 ジュンが帰宅すると、リビングでは一騒動起きていた。
「やだー!カナも行きたいー!絶対、頑張れば、みっちゃんと一緒なら、トリステインへ
行けるのかしらー!?」
 ダダをこねる人形が、床を転げ回っている。

「なぁ~にを言ってるのですか!?このバカカナは。話を聞いてなかったですかぁ?召喚
されてもいないはずの金糸雀に、みっちゃんさんまで来たら、あたし達が自由に異世界を
往復出来るのが、ばれてしまいますぅ!!」
「そうよ金糸雀。翠星石を連れて行くのだって、本当はかなり危険だったのよ。
 幸い翠星石の服がたまたま緑色だったから『最初からジュンや私と一緒に召喚されてい
たけど、草むらの中に隠れて見えなかった』とごまかせたのよ。もうこれ以上は、ごまか
しようがないわ」
「あ、あたしの髪と瞳も緑なのだけど、どうかしら?」
 ジュンは「むりむり」とつぶやいた。

黄色のベビー服みたいな服にオレンジ色のドロワーズ、 緑の髪を、お下げのロールヘ
アにしているのは、ローゼンメイデン第2ドール金糸雀だ。
 ハルケギニアに行きたいとダダをこねて、ソファーで紅茶を飲んでいた真紅と翠星石に
怒られていた

「でも、でも、みっちゃんも向こうの世界が見たいって、すっごく見たいって、写真も沢
山たっくさん撮りたいって言ってるから…」
 ジュンはため息と共に、泣きそうになりながらダダをこねる金糸雀の肩を叩いた。
「あのさ、金糸雀…草笛さんの気持ちは分かるけど、でもさ…向こうの言葉、分かんない
だろ?」
「う、そ、そうなのかしら?」
「そうだよ。僕と真紅と翠星石がハルケギニア語を話せるのは、この左手のルーンのおか
げなんだ。ルーンと指輪を通して会話出来るから、向こうの世界でもなんとかやっていけ
るんだよ」
「うう…いくら薔薇乙女一の頭脳派、この金糸雀でも、異世界の言葉は無理かしら…」
 金糸雀は今にも鳴き出しそうなのを我慢していた。

「で…ねえちゃんは何してんの?」
 ジュンは、ハァヒィ息つきながら大荷物を両手に抱えてやって来たのりに、冷たい視線
を送っていた。
「はぁふぅ…これはねぇ、ジュンくんの着替えでしょ、お弁当でしょ、それからルイズさ
んへのお土産と、あと、巴ちゃんからもらった夏休みの宿題と」
「却下!」
「ええぇ!?ダメよぉ、ちゃんと着替えないと服だって汚れるでしょ?ご飯だって、たま
には日本食食べたいでしょ?それにルイズさんにも世話になってるし」

 ジュンは頭を抱えた。

「ねえちゃん、イマイチ分かってないだろ…僕はトリステインからは遙か遠くの異国から
召喚されたって事になってるんだよ?それも、着の身着のままで!その僕が、異国の服を
ポンポン着替えたりしたら、その服どっから持ってきた?って話になっちゃうじゃない
か!」
「うーん、やっぱりそれがばれるとマズイかなぁ?」
「当たり前だろ!ソッコーでトリステイン王宮のメイジ達が、僕らをとっつかまえに来る
だろうね。最悪、異世界侵略戦争くらい起きるカモよ」
「あうう…」
 のりはがっくりと肩を落とした。

「ちょっとぉ、あんた達ぃ…何を遊んでるのよぉ」
 廊下から現れたのは、逆十字の柄が入ったスカートに、黒と白の編み上げドレスの小柄
な女性の姿。背中には黒い翼。水銀燈だ。

「お帰りなさい水銀燈。ご苦労様ね。こっちへ来てお茶を飲みなさいな」
 相変わらずソファーで優雅に紅茶を飲む真紅が、水銀燈に紅茶をすすめる。
「ハッ!お断りよぉ…それより、首尾はどうなのぉ?」
「やっぱり時間がかかりそうね。ローザ・ミスティカの情報も無いし、それに…」
 真紅は水銀燈をじっと見つめた。
「向こうの薬は、かなり高価よ。おまけに、最大限の効果を発揮させるには、『治癒』の
魔法を使える水系メイジが、魔法をかけながら使う必要があるみたい。でも、それ相応の
効果は期待出来るわ」
「だぁったら話は早いわねぇ…水系メイジとやらを薬ごととっつかまえて、連れてくれば
いいんだわぁ」

 水銀燈の赤い瞳が危険な光をはらむ。

「止めた方が良いわね。強力な治癒の魔法を使えるメイジであれば、当然強力な戦闘力を
持つわ。それに、ヤケになったり混乱されて、病室で大暴れされたりしたら、もともこも
無いわよ」
「くっ…」
 さらりと真紅に受け流された水銀燈は、ぷいっと顔をそらす。そんな水銀燈の横顔に、
真紅は優しく微笑んだ。
「めぐの事がとっても心配なのね。でも、焦っちゃダメよ」
「!・・・なにいってんのよ、だあれがあんな・・・」

 水銀燈は真紅達に背を向けた。哀しげにうつむく顔をみられないように。

「ふん。まぁどうせ蒼星石と雛苺のローザ・ミスティカが見つかるまでは、アリスゲーム
は中断するしかないんだしねぇ。暇つぶしに、あんた達の異世界冒険に付き合ってあげる
わぁ」
 そういって、水銀燈は再び倉庫の大鏡へ去っていった。

「さぁ!真紅、翠星石、そろそろ行くとしよう」
 懐中時計の時間を合わせたジュンが、二人に檄を飛ばした。
「そうね、そろそろ行きましょう」
「そうですねぇ。ジュン、体力は大丈夫ですかぁ?」
「バッチリだ!んじゃ、ねえちゃん、金糸雀、後を頼む」

 残る二人は、涙目だ。
「ジュンくん、無茶しちゃだめよ?ルイズさんの言う事よく聞くのよ?生水飲んじゃダメ
よ?なにかイヤな事あったら、すぐ帰ってきてね。それから、それから・・・」
「頑張るのかしらー!ジュンー!真紅ー!翠星石ー!カナは応援してるのかしらー!!お
土産も少し期待してるかしらー!?」
 そんな応援を背に受けつつ、ジュンはリビングに置いてある二つのトランクをチラッと見た。

 待ってろよ、蒼星石も雛苺も、必ず目覚めさせるからな

 ジュン達は倉庫の大鏡に入っていった


 ルイズの部屋には、日の出の朝日が差し込んでいた。
 ベッドに座るルイズが、不安げに鏡台を見つめている。

「あいつら・・・いつまでかかってるのかしら。まったく、主を心配させるなんて…」

 不意に鏡台が輝いた。
 と同時に、どさどさどさっとジュン達三人が折り重なるように鏡面から飛び出てきた。
 ジュンがピクピクしながら、震える手で懐中時計を取りだした。ぎぎぎぃ~…と首をき
しませ、ルイズの部屋に置いてきた目覚まし時計とも見比べる。
 彼は、絞り出すような声でつぶやいた。

「・・・や、やったぁ。しぃ、新記録ぅ・・・」
「なにが新記録よっ!!」
 ルイズの枕がジュンの頭に命中した。




第四話  『ルーン』





 虚無の曜日の午後。

 トリステイン城下町ブルドンネ街大通りに、ルイズ達はいた。
 看板や通りを目印に進むルイズ。ジュンは右手に真紅、左手に翠星石を抱えて後ろをつ
いている。白い石造りの街、道ばたには露店があふれている。ジュンも真紅も翠星石も、
珍しげに周囲を見物していた。
 真紅と翠星石をチラッと見る人はいるが、別に気にするでもなく通り過ぎていく。はた
目には『貴族の娘と、彼女の人形を抱えた小姓』だと思われているに違いない。
 ルイズはなんとなく、上機嫌だ。やっぱり買い物はスキなのだろう。
 ジュンの左手には、コルベールに言われたとおり包帯を巻いていた。

「えーっと。秘薬店近くだから・・・あ、あった」
 汚い路地裏を抜け、四つ辻を曲がって、剣の形をした看板がかかった店を指さした。

 薄暗い店内はランプで照らされ、所狭しと剣や槍や甲冑が並べられていた。店の奥で店主の親父がルイズのマントと五芒星に気付いた。ルイズはツカツカと店主の前へ行く。

「旦那、貴族の旦那、ウチはまっとうな商売して・・・」
「客よ。この子に合う武器を・・・」
 店の奥でそんな話をしている店主とルイズ。ジュンはと言えば、真紅達を抱えたまま、
店の武具を珍しそうに見回っていた。
「へぇ~、すげぇ~。やっぱ全部本物なんだなぁ…ネットやTVで見るのとは、ワケが違
うなぁ」
 ふと真紅と翠星石を見ると、二人とも何か感慨深げに武具を眺めていた。
「なんだ、二人とも武器に興味があるの?」
「そ、そんなワケないですぅ。こんな野蛮な物、大嫌いですぅ」
「私も好きではないわ。でもね…」
 真紅は、ふと遠い目をした。
「こういうのを見ると、やっぱりどこの世界も戦いとは無縁でいられない、そう思うの」

 ジュンは、黙っていた。彼にとって戦いとは、ゲームやTVの中にしか無い事だ。アリ
スゲームに関わってはいるが、彼自身が命がけで戦闘をするというわけではない。
 だが、目の前にあるのは本当の武器。皮膚を刺し、肉をえぐり、骨を砕き、効率よく人
を殺すための道具の数々…

 真紅が、重苦しく口を開いた。
「私が前に水銀燈と戦ったのは、第二次大戦のまっただ中だったわ」
「え・・・」

 ジュンはぎょっとした。完全な少女『アリス』を目差すはずの薔薇乙女から、血生臭い
人間の戦争が語られるとは、あまりにイメージからかけはなれていた。

「今でもよく覚えてるわ。月が綺麗な夜でね、戦車の砲撃や爆撃でボロボロになった教会
の敷地で、お互い必死で戦ったわ。その教会の周りには、沢山の兵士が折り重なって倒れ
ていたの。でも、その中のどれだけの人が、まだ生きていたのかしらね」

 翠星石も、哀しげに口を開く。
「あたし達ローゼンメイデンにとっても、戦う事は、生きる事ですぅ。それはあたし達の
宿命ですぅ…でも、でもぉ、ケンカはイヤです。姉妹どうしが戦って、誰かが永遠に失わ
れるくらいなら、翠星石はアリスにならなくていいですぅ」

 ジュンは黙って、壁に掛かる武器を見つめた。
 自分はこのハルケギニアでやる事がある。でもこの異世界を動き回れば、当然危険もつ
きまとう。真紅や翠星石が守ってくれるとはいえ、いつも必ず傍にいるというわけでもな
い。だから、自分も護身用に武器が必要だ。
 だが、この武器を手に取れば、自分も相手を殺すということだ。

 そんな事を真剣に考えるジュンの背後では、ルイズが店のオヤジと「…剣ならどんなに
安くても200…」「100しか…」なんてやりとりをしていた。すでに足下を見られて
いるようだ。
 ジュンは、真剣に人間の宿命を考えた自分がバカらしくなった。

「ねえルイズさん。どうせ僕は剣なんかロクに使えないんだから、安物の小さいヤツで良
いよ」
「そーも行かないわよ!こっちも貴族としてのプライドがあるんだから!」
「そうですぜ旦那。それに最近は『土くれのフーケ』なんて盗賊が貴族のお宝を散々盗み
まくってるって噂で。貴族の方々は恐れて、下僕にまで剣を持たせてる始末で。へぇ」
「でも、使えない武器持たされてもなぁ」
「おう!わかってんじゃねぇか坊主!」

 いきなり、乱雑に積み上げられた剣の中から、男の低い声がした。
 ルイズとジュンは声の方向を見たが、誰もいない。店主が頭を抱えている。

「そのボウズのちっこい体じゃ、長剣なんか抜く事すらできねーぜ!悪いこたいわねーか
ら、そのボウズのいうとーり、ナイフ辺りにしておきな!」

 ジュンは後じさった。声の主は、剣だった。積み上げられた剣の一つから声が発せられ
ていた。
 ルイズが駆け寄ってきて、サビが浮いたボロボロの長剣を手に取った。
「これってインテリジェンスソード?」
「そうでさ、若奥様。意志を持つ魔剣、インテリジェンスソードでさあ。ったく、いった
いどこの酔狂な魔術師が始めたんでしょうかねぇ?剣を喋らせるたぁ…」
「これにするっ!!」

 ジュンが即決した。ルイズはキョトンとして、ジュンと手の中の剣を見比べる。

「ちょっとジュン。何もこんなサビが浮いたヤツにしなくても」
「いや、武器としてじゃなくて!しゃべるって方!」

 真紅と翠星石もジュンの腕を降りて、ボロ剣を興味深げに触っていた。
「すごいわ…人形以外で、こんなに強い力を持つなんて」
「おまけに大声でしゃべってるです!信じられんですぅ。どっから声出てるですか?」
 ジュンは、お前等の方が遙かに信じられねーよ!っと突っ込みたいのを我慢した。

「へえぇ、これが噂のインテリジェンスソードかぁ」
「おうよ!デルフリンガーってんだ。おめぇ、俺を買う気か?」
「うん、そう、ぜひ!」
「何いってやがんでぇ!自分の体をよく見ろよ、剣をふるどころか、剣に振り回されるの
がオチだぜ」
「ふれなくていいよ」
「あん?」
「僕は、魔法の勉強をしたいんだ。特にゴーレムとか、魔法のアイテムとか」
「…おめぇ、俺を分解して調べてぇってのかい?」
「え?いや、そんなつもりはないけど。でも、どうやって作られたのか知りたいんだ。な
ら、作られた本人に聞ければいいと思わない?」
「へぇ、なるほどね。平民のクセに魔法を勉強してぇとは…」

 剣は黙った。じっと、ジュンを観察するかのように黙りこくった。
 しばらくして、剣は小声でしゃべり始めた。

「おでれーた。見損なってた。まさか、こんなちびっ子が『使い手』とは」
「使い手?」
「ふん、自分の実力も知らんのか。まあいい、ボウズ、俺を買え」
「うん、そうするよ。僕はジュン、桜田ジュン。よろしくな。
 じゃ、ルイズさん。これでお願いします」
 ルイズはちょっと不満げだ。
「え~?それでいいのぉ?もっとちゃんとしたのを買わないと、武器として役に立たない
わよ」
「それじゃ若奥様。こちらのナイフもおつけして、100でいかがで?」
「あら、安いじゃない」
「こっちにしてみりゃ、厄介払いみたいなもんでさ。なにせ口は悪いし客にケンカ売るし
で困ってましたんで。鞘にいれてれば静かになりますよ。
 おいデル公!観念してバラされて溶かされちまいな!」
「うるせぇ!もうこんなシケた店とはおさらばだぜ、せいせいすらぁ!」


 武器屋を出たルイズ達は、道ばたで悩んでいた。ナイフは腰のベルトに付けるとして、
どうやってこの1.5メイルほどもある長剣をジュンが持つかで悩んでいた。

 腰に差したら地面にズリズリ擦る。デルフリンガーが「勘弁してくれ」と訴えた。
 背中にまっすぐさしたら、鞘が足に当たって歩きにくい。
 あんまり斜めにしたら、彼の横を歩く通行人に当たる。
 あれやこれやと四苦八苦し、鞘のベルトを色々調節したりずらしたり。

 どうにかこうにか、周囲の邪魔にならない程度に、背中に斜めにさせた。だが、歩きや
すいよう、かなりベルトの位置を下にずらした結果、背後に出た柄部分が、不自然にひょ
こっと飛び出ていた。

…ぷっ

 ルイズがふきだした。真紅も翠星石も、顔を伏せて笑い出したいのをこらえてる。
 ジュンも、なんだか恥ずかしかった。それに、どうやって抜けば良いんだろうと悩んで
いた。どう考えても、これは鞘から抜き出せない。
 試しに、デルフリンガーの柄を掴んで引き抜こうとした。だが、ちょっと柄から引き出
しただけで、案の定腕が伸びきって、それ以上引き抜けなくなった。

「うぷ!ぷ、く、くくくく…」
 ルイズは腹を抱えていた。
 だが、ジュンはキョトンとしていた。真紅と翠星石はハッとして、顔を見合わせた。


 なんだ?なんだか・・・体が、軽い。まるで羽みたいだ


「ジュン!手を離して!」突然、真紅が叫んだ

「へ?」ジュンはキョトンとした。
「え!?なになに?」ルイズは笑いすぎて涙目になりながら、顔を上げた。
「おう、ちびっ子共は鋭いねぇ」少し抜かれたデルフリンガーが、とぼけた声を出した。

「いいから離すですっ!」ボカッ!
 飛び上がった翠星石が、ジュンの後頭部を蹴り飛ばした。その拍子にデルフリンガーか
ら手が離れた。

「あれ?・・・れ?体が戻った」
 ジュンは頭をひねって、自分の体をあちこち確かめるように叩いていた。ついで背中の
剣をおろし、じっと見つめてみた。
「なんだ?今の」
「ジュン!大丈夫なの!?」
「チビ人間!気を確かにもつですよっ!」
 真紅と翠星石が慌てて駆け寄ってきた。
「え?へ?な、なに、何の話?」
 ルイズも何事かと駆け寄ってきた。

 ジュンは自分の体を、手をじぃっと見渡した。
「え~っと…何ともない。でも、さっきちょっと体が軽くなった気が」
「体?頭じゃなくて?」「ジュン、意識はどうですかぁ?」
 真紅と翠星石が、ジュンの顔に思いっきり顔を近づけた。
「あの、ホントに、頭は何にもないけど…何が?」
 真紅と翠星石は、どいうことだろう、と顔を見合わせた
「ちょっと、一体何なのよ!?」
 ルイズは、全く話が見えなかった。




「あたしがつけたルーンの効果が、おかしいっていうの?」
「ええ。つまり、精神支配が弱すぎるの」
「使い魔を支配するためのものなのに、これはありえんですぅ」
「んで、それと僕の頭蹴り飛ばすのと、どんな関係があるんだよ」
 城下町からの帰り道、馬に乗った一行はポックリポックリのんびりと、夕暮れの街道を
学院へ向けて進んでいた。
 ルイズは後ろにジュンを、真紅と翠星石を前に載せている。馬の鞍には大きな袋が結び
つけられ、買ってきた衣類やデルフリンガーが突っ込まれている。

 真紅が怪訝な顔で話し出した。
「つまりね、メイジは生物を召喚して、契約して、使い魔にする。そうよねルイズ?」
「ええ、そうよ」
「でも、普通いきなり呼びつけられて絶対服従しろなんて言われて、従うわけがないじゃ
ない。だから、コントラクト・サーヴァントは召喚された者の精神を支配するはずよ。で
ないと・・・ホラあれ」

 真紅が空を指さす先には、ウィンドドラゴンが学園へ向けて飛んでいた。遠目に、長い
赤毛と短い青い髪の人影が乗っているのが見えた。タバサとキュルケだ。彼女らも城下町
から帰ってきた所だろう。

「あんな凄いドラゴンを呼び出したはいいけど、召喚したメイジが食べられましたって結
果になってしまうわ」
 ルイズも頷く。
「ええ、その通り。だから使い魔をみればメイジの格が分かるって言われるの。高位の存
在を使い魔にするには、相応の強力な魔力が必要よ」

 真紅もうなずき、ジュンの左手を見た。彼の左手はルーンを隠すため、包帯を巻いてい
る。
「でも、ジュンのルーンは普段、ほとんどジュンの精神を支配出来ていないの」

 ルイズが眉をひそめ、口をとがらした。
「何よぉ~、それって真紅が指輪で邪魔してるからでしょぉ~?召喚した夜に自分で言っ
てたじゃないのよぉ~」
「ほとんどって言っただけよ。全く効果が無いワケじゃないわ。でも、この程度ならジュ
ンは指輪無しでも、平気でルイズの命令に逆らえるわ。いえ、ルイズがジュンに無茶な命
令なんかしたら、ジュンは腹いせにルイズの顔に落書きしたり、下着のゴムを切ったり、
教室で悪い噂流したりとか、いろんな嫌がらせをしてくるわよ」
「僕は、そんな、ガキっぽいイタズラしないぞ…」
 ジュンがジト目で真紅を睨んだ。翠星石がにひひぃ~っと笑いながら答えた。
「例えばの話ですよぉ。まぁその僅かな効果も、あたし達の指輪で妨害しているんですけ
どねぇ。ほんのちょっとの力で抑えれてますよぉ。
 僅かな効力でも、長期間あびれば、同じ事ですからぁ」

「やっぱり、あたしのメイジとして力が低いからかな…」
 ルイズは力なくつぶやいた。だが真紅はルイズをまっすぐ見て、力強く言った。
「そうじゃないわ。いえ…さっきまではそう思ってたけど。でも、その剣を握った瞬間、
違うって分かったの」
「何が違うの?」
 ルイズが視線を上げて真紅に尋ねる。
「さっきジュンが剣の柄を握った瞬間、強力な魔力がジュンに流れ込んだの。指輪の力を
軽く上回るほどの、ね」
「剣を握った時?…ね、ねぇジュン!」

 ルイズは背後で、左手をジッと見つめるジュンをビュンっと振り返った。

「今、あたしの事どう思う!?えと、こう、何か神々しいなぁ~とか、大好きになっちゃ
ったとか、あたしのために何でもしてあげちゃう♪とかさ!」
 目を輝かせながら、鼻をくっつける程の勢いでジュンに詰め寄った。
「…えっと、ルイズさんを、今、僕が、どう思うかって…?」
「そう、そうそうそう!!」
「…え~っと、えっとね、えと…」
「…ねぇ~どうなのぉ~?正直にオネーサンに言ってよぉ~♪」
「正直に、言って良いの?」
「も、もちろんよ!」
「…わかった。そ、それじゃ言うよ?あのさ…」
「うんうん!」
「もうちょっと、女性としての慎みを持って欲しいというか…僕の目の前で、平気でネグ
リジェに着替えるとかいうのは、どうかなぁ~っと」
「・・・そんだけ?」
「うん、そんだけ」

 どげしっ
 ジュンはルイズに、馬から蹴り落とされた。


「キャハハハッ♪ざぁんねんでしたねぇルイズさぁ~ん。話は最後まで聞くですよぉ。確
かにルーンから凄い魔力が流れましたけど、精神支配の方はたいしてかわってまっせーん
なのです♪」
 翠星石がルイズを指さしながら、爆笑して言った。
「で、でも!だったらその魔力って!?」
「そぉれはですねぇ…ジュン、腰のナイフを手に持ってみてくださぁい」
「いつつつ・・・全くなんだってんだよ…たく、尻いってー」
 腰をさすりつつ、ジュンは右手で腰に挿したナイフを引き抜いた。

「!?」
 瞬間、ジュンはハッとした顔になった。ルイズが怪訝な顔でジュンを見つめる。
「どうしたの?ジュン」
「尻が・・・」
「尻?」
「尻が、痛くない!」

 ガクッ
 そんな効果音が聞こえそうなほど、ルイズは落胆した。
「何バカなこと言ってんのよアンタはー!」
 と言って彼女は荷物のデルフリンガーを引っこ抜いてジュンに投げつけた。

 パシィッ!
 彼は、左手で投げつけられたデルフリンガーの柄を掴んで受け止めた。鞘だけが慣性の
法則に従って、後ろの草むらまで飛んでいった。
「あら?」「あれ?」
 投げたルイズも、受け止めたジュンも、予想外の結果に目が点になった。

「なんだ、おめぇ。ジュンとか言ったか?自分の力も知らなかったのかよ」
「自分の力?」
 いきなりデルフリンガーに言われ、ジュンは更に訳が分からなくなる。
「左手の包帯、外してみな」
「包帯・・・」
 ジュンは右手のナイフで、包帯を切り裂いた。そこには、光り輝くルーンがあった。

「「ルーンが光ってる…」」
 ジュンとルイズの声がハモる。二人ともルーンを凝視し続ける。

 翠星石が馬の頭に立ち、ビシィッとルーンを指さした。
「それこそが、そのルーンの力なのでぇーっす!そのルーンは、体を強化したり、痛みを
消したりする力があるんでぇす!
 翠星石がジュンの頭をけっ飛ばしたのはぁ、最初、ルーンの精神支配が強化されるかと
思ったからですぅ。だから柄を急いで離させたんですぅ。でも、どういうわけか、強化さ
れたのは体だけでしたぁ」
「ええ、それも桁ハズレにね」
 真紅は不安げにルーンを見つめる。
「それを一発で見抜くチビッ子共は、本当に鋭いやな。俺はおでれーたぜ」
 剣の表情は分からないが、確かに驚いたんだろう。


 ジュンが、ゆっくりとデルフリンガーに視線を移した。
「なぁ、デルフリンガー…お前、僕を『使い手』って呼んだよな?」
「おう、呼んだぜ」
「『使い手』って、何だ?」
「忘れたっ!」
 全員見事にズッコケた。

「いやー、昔むかしに覚えがあるんだよ、そのルーンの感じはよ。でも6千年も生きてる
とよぉ、昔の事なんか一々覚えてられねーだろよ?」
「6千年って…」
 ジュンがあからさまにうさんくさそうな顔をした。
「そうあやしそうな顔するなって。ともかく、俺はおめぇの力を知ってる。そして、そい
つは武器を手に持つと発動する。そういう事だ」

「ホントかなぁ…確かに体はホント軽いんだけど」
 ジュンは相変わらず半信半疑だ。
「使い魔として契約すると、ただの猫がしゃべれる猫になったりとか、特殊能力を得る事
があるって言うけど、おそらくそれね。
 よし、試してみましょ。とりあえず、ジュン。走って」
「ルイズさん…まさか学院まで、走って帰れッて言うの?」
 ルイズはにんまり笑った。
「そのまさかよ、頑張ってね♪」
「冗談はおいといて、そろそろ後ろ乗せてよ」
「あらあら、あたくしは由緒正しい貴族のレディですものぉ~。殿方と一緒の馬に乗るな
んてはしたないマネ、とても出来ませんわぁ~♪」

 ジュンは、やっぱりどう思ってるかなんて正直に言うモンじゃない、と悟った。
 しょうがなく、左手の包帯をまき直し、右手にデルフリンガーを握ったまま、馬の横を
走ってみた。


 既に夜も更け、月明かりに照らされた静かな草原。
 少女を乗せた一頭の馬と、長剣を持つ少年が疾走していた。

「すごい・・・信じられない!」
 ジュンが叫んだ。長い間引きこもり、人並みの体力など無いはずの彼が、人間ではあり
えない速度で走っている。
 ルイズ達も目を丸くして、何も言えなくなっている。
「へへ、本気になったらもっとすげぇぞぉ」
 デルフリンガーだけが、いつものとぼけた調子だった。

「なぁ、僕、思うんだけど、ルーンが指輪の魔力を上回るって事は、ずっとこの状態でい
ると、僕、洗脳されるってこと?」
 ジュンが、馬と一緒に走りながら、息を切らせる事もなく、尋ねてきた。馬は小走りで
走っている。それでも人間が長距離走り続けれる速さではないはずだった。おまけに月明
かりがあるとはいえ薄暗い夜道だ。道を知っているルイズはともかく、初めて通るはずの
ジュンが、全く足を躓かせることもなく、馬と同じ早さで走れるはずがない。
 そんなジュンの姿は、ジュンを含めた全員にとって『ありえない』としか言いようのな
いものだった。

 ルイズの前に座る真紅が、少し不安げに答えた。
「大丈夫と思うわ。確かにルーンの魔力は高くなってるけど、こと人間の精神に関しては、
私たち薔薇乙女の方が上手のはずよ。ルーンの精神支配だけは、変わらず妨害出来ている
と思うわ
 まぁ、ついでにルーンの力も全体的に、少し抑えられてるかも知れないけど」
 翠星石はうんうんうなずいて答えた。
「無意識の海にまで潜れるあたし達の前には、そんなルーンなんて安上がりなライトも同
じでーっす!もし洗脳されちゃっても、夢の庭師であるこの翠星石が、必ず助けてあげる
ですよ」

 だが、ルイズは明らかに浮かない顔だった。
「でも、やっぱり長い間ルーンを使っていたら、身も心もあたしの使い魔になったり、す
るのかなぁ…?」
「おう、なんでぇ貴族の娘ッ子。メイジのクセに、使い魔が忠誠誓うのが気にいらねぇっ
てか?」
 すごい勢いで振り回されているはずのデルフリンガーが、全くいつもと変わりない調子
でルイズに話しかけた。
「いえ、それは嬉しいわ、メイジとしてね。でも…」
 ルイズは、馬と共に駆けるジュンを見つめた。しばし、ジュンと見つめ合う。

「そんな事でジュンがあたしの使い魔になっても、あたし、あんまり嬉しくないなぁ…」
 そうつぶやいて、ルイズは視線を落とした。

 ジュンも、真紅も、翠星石も、うつむくルイズをじっとみつめた

 そんな彼らの視線に気付いたルイズは、慌てて胸をはった。
「か!勘違いしないでよね、あたしはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴ
ァリエール、誇り高きヴァリエール家の貴族よ。あんたみたいなお子ちゃまなんて、ルー
ンに頼るまでもないってことよっ!
 見てなさいよ!いずれハルケギニア全土に知られるような凄いメイジになって、ジュン
が自分から土下座して『下僕にして下さい、犬と呼んで下さい』なんて言わせてやるんだ
からね!!」
「ありえねー」
 ジュンが呆れてつぶやく。
「う、うるさいわねっ!ゴチャゴチャおしゃべりしてる暇ないわよ!?キリキリ走りなさ
いっ!!」
「そろそろ疲れてきたから、馬に乗せて欲しいンだけど」
「そしたら馬が疲れるじゃないの。あんたは黙って走りなさいっ!」
「ひでー!おにー!僕は馬以下かぁ!」

 ルイズとジュンを見て、真紅と翠星石はコロコロと笑っていた。
「へへ、貴族の娘ッ子は素直じゃないねぇ」
 デルフリンガーは半ば呆れていた。

 馬に乗る3人と、走る少年は、月明かりの草原を風のように駆け抜けていった。




「ぜぇー、ひぃー、はぁー・・・ホントに、学園まで、走らせる、なんて・・・」

 もう夜も遅くなった頃、フラフラのジュンが学院の門にたどりついた。後ろから馬に乗
ったルイズ達もやってくる。
「いやぁ、頑張ったなぁジュンよ、見直したぜ。これからよろしくな、相棒!」
「凄いですよチビ人間!ちょっとだけ大きくなったかもですねぇ」
「本当に大したものよ。ちょっと見直したわ」
 そうデルフリンガー・翠星石・真紅に褒められたジュンだが、もうヘロヘロで、全然耳
に入ってない。学園の門に倒れかかって、ゼーゼーと肩で息していた。
「ほら、ジュン。学院に入ったら、剣はしまいなさいよ。それと、馬を返してきてね」
「わーったよー・・・ゲホゲホ、ほんと、人使いが、荒い、んだから」
 ジュンはデルフリンガーを鞘にしまって背中に担ぎ、真紅と翠星石を乗せたままの馬を
馬小屋へ連れて行く。


 学院の門をくぐると、誰もいない広場に見慣れぬ馬車が停まっていた。
「あら、あれ・・・何かしら」
 ルイズがトコトコと馬車に近づき、紋章を確認した。

「おーい、馬は戻してきたよ~…って、あれ?」
 広場に戻ってきたジュン達が見たのは、まるで幽霊に追われているかのごとく、全力疾
走で向かってくるルイズだった。
 何かこっちに向かって叫んでる。
「どうしたですかぁ?」
「さぁ?」
 翠星石と真紅がそんな事を言ってる間に、ルイズはジュン達の所へ駆けてきた。
「にっにっにっ!!」
「「「に?」」」
「逃げるわよっ!!」
「「「え?」」」
「いいから!早くっ!!」
 言うが早いかルイズはジュンの手を引っ張って、門から逃げ出そうとする。だが、走り
続けてフラフラのジュンは、もう走りようがない。
「ちょ、ちょっと待ってよ。ルイズさん、一体何なの?てか僕もう疲れて」
「あ!あれは、あの馬車がっ!」
 と叫んでルイズは広場の馬車を指さす。
「あれは!あ、ああ、姉さまの馬車っ!」
 と言ってルイズはずるずるとジュンを引きずっていこうとする。ジュンはもう、訳が分
からない。
「あの、ルイズさん。お姉さんが来たら、なんで逃げるの?」
 ルイズはジュンを引きずりながら、必死で声を押し出した。
「姉さま!エレオノール姉さま!アカデミー!王立魔法研究所の、主席研究員なの!!」

 アカデミーが何かはよく知らないジュンだったが、言いたい事は分かった。

「逃げるぞ!」
「ですねぇ」
「いきなりだわね」
 ジュン達も門へ向けて走り出した。


 ゴゥッ!!
「きゃぁっ!」「うあっ!!」「か、風!?」「な、なんですかー!?」


 突然、ルイズ達の前に突風が吹いた。4人とも風に飛ばされ、広場に押し戻された。
 門の前に一人の女性が、見事なブロンドを風になびかせて舞い降りた。

「ちびルイズ!どうして逃げるんですか!?」
「ひいぃっ!ね、姉さま…す、すいません~!」

 震えてひれふすルイズの前に降り立ったのは、ルイズによく似た20代後半の女性。
王立魔法研究所『アカデミー』の主席研究員。ラ・ヴァリエール家の長姉。

 エレオノールだった。



第四話   『ルーン』
                             END


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