*エイト、つかいまのしごとをする
夜が白々と明け始めた頃――
ニワトリはコケコッコーと鳴き、使用人たちは忙しく動き始めている時間であるが、上流階級のお坊ちゃん、お嬢様はまだまだ夢の中。
ルイズもその例に漏れず、まだベッドの上ですやすやと眠っていた。
が、しかし、その安眠はいきなり打ち切られることになる。
ニワトリはコケコッコーと鳴き、使用人たちは忙しく動き始めている時間であるが、上流階級のお坊ちゃん、お嬢様はまだまだ夢の中。
ルイズもその例に漏れず、まだベッドの上ですやすやと眠っていた。
が、しかし、その安眠はいきなり打ち切られることになる。
<日の出を確認、日の出を確認――朝と判断します>
ルイズは当然聞こえていなかったが、不思議な声が部屋に響いた。
すると、その直後――
すると、その直後――
「あさー!」
能天気な声と共に、ルイズは夢の世界から叩き落された。
「うひゃあ!」
跳ね起きると、真横にいかにも能天気な黒髪の男の子が立っていた。
「ごしゅじんさま、あさだよ」
「あんた、誰……って、昨日召喚した使い魔よね……」
ルイズはまだ眠い目をこすりながら、
「っとに、まだ暗いじゃないの……。朝っていっても、朝一番に起こすことないでしょう」
能天気な顔して、融通の奇怪な使い魔だ、とルイズはぼやく。
「……私、もうちょっと寝るから……籠の服、洗濯しときなさい」
命令してから、ぼふん、とルイズはベッドに顔をうずめる。
ルイズの命令――それに、エイトの球が反応した。
<メイドから洗濯のスキル学習。後に洗濯開始>
「うん、メイドにおそわってせんたくする」
そう言って、エイトは洗濯籠をかつぐ。
「いってらっしゃ~い……」
二度に入りながら、ルイズはベッドの中から手を振る。
しかし、エイトはすぐに出て行かず、
しかし、エイトはすぐに出て行かず、
「メイドって、な~に?」
とんまなことを言った。
「あんた、わからないで教わるとか言ってたの?」
ルイズは不機嫌そうに顔を上げて、ついに頭を抱えてしまった。
「ようするに、使用人の女のことよ……。使用人もわかんない? つまり、粗末なかっこして働いてる女の子……いや、それだけじゃわかんないか……」
メイドを知らない、見たこともない、どんなものかもわからない。
そんな相手に、言葉だけでどう表現すればいいのだ。悩んだ末、
そんな相手に、言葉だけでどう表現すればいいのだ。悩んだ末、
「そうだ!」
ルイズはぴこーんと閃き、ベッドから降りると、部屋の中にある本をごそごそとあさりだす。
その間、エイトは洗濯籠を担いでまぬけな顔をさらしていた。
その間、エイトは洗濯籠を担いでまぬけな顔をさらしていた。
「これよ!」
ルイズは、ある本に描かれたイラストを指差して叫んだ。それは色んなタイプのメイド服の一覧であった。
「色々あるけど、大体似たようなかっこうした女がメイドだと覚えておけばいいわ」
エイトはじっとイラストを見ていたが、
「おぼえた! じゃあいってくる」
元気に叫ぶと、部屋を飛び出していった。
「ちょっと、ドアくらいしめていきなさーい!」
「メイド!」
「ひゃあ! すみませんっ!?」
いきなり大声で呼び止められ、シエスタは思わず身をすくませた。
何か貴族を……メイジを怒らせるようなことを? そんな心配を振り返るが、
何か貴族を……メイジを怒らせるようなことを? そんな心配を振り返るが、
「あの……?」
立っていたのは、まず自分より年上とは思われない、見たこともない変な格好をした少年……男の子であった。
「きみ、メイド?」
洗濯籠をかついだ少年は、にこにこした表情でそう尋ねてくる。
「そうです……けど」
他の何に見えるんだろう? と思いながらも、シエスタはうなずく。
「せんたくおしえて」
「え?」
「ごしゅじんさまにいわれた。せんたくしろって。だから、せんたくおしえて」
「ご主人様……? あ……もしかして、ミス・ヴァリエールが召喚されたっていう使い魔?」
ルイズが平民っぽい男の子を使い魔にしたとの噂は、使用人たちにも届いていた。
「うん。ぼくはルイズのつかいま」
エイトはこくんとうなずいた。
その答えに、シエスタはほっとしながら、
その答えに、シエスタはほっとしながら、
「そうなんだ……ええと、あなたの名前は?」
腰をかがめて、エイトに尋ねた。
自分よりも年下相手なので、敬語ではない。
自分よりも年下相手なので、敬語ではない。
「エイト」
「エイトくんね……。私はシエスタ。この学院で使用人をしているの」
「しようにん? メイドじゃないの?」
きょとんとするエイト。
それにシエスタは少し驚いた顔をするが、すぐに笑い出し、
それにシエスタは少し驚いた顔をするが、すぐに笑い出し、
「女の使用人のことをメイドっていうのよ?」
「ふーん」
「その洗濯籠は……ミス・ヴァリエールの?」
「うん。せんたくしろってめいれい。だから、せんたくおしえて」
「洗濯だったら、ついでにやってあげるわよ?」
エイトの顔を見て、ちょっとかわいいかも……と思いながら、シエスタは笑いかける。
その言動のせいか、見た目以上に幼い印象を受ける。
その言動のせいか、見た目以上に幼い印象を受ける。
「メイドにおそわってせんたくしろっていわれた。だから、せんたくおしえて」
エイトは首を振るでもなく、子犬みたいなまっすぐな瞳でそう言った。
「そっか。じゃあ、ばっちり教えてあげる。こっちへいらっしゃい」
見た目は可愛いけど、けっこう頑固なのかも、と思いながら、シエスタはエイトを水場のほうへと案内した。
「うーん……大丈夫かしら」
部屋の中で、ルイズはもんもんとしていた。
元気よく飛び出していったのはいいが、果たしてあの使い魔、ちゃんと洗濯してくるのか?
知能障害というわけではないようだが、一般常識とかそういうものがずぼっと抜けている。
洗濯しても、衣服をぼろぼろにする危険性もある。
元気よく飛び出していったのはいいが、果たしてあの使い魔、ちゃんと洗濯してくるのか?
知能障害というわけではないようだが、一般常識とかそういうものがずぼっと抜けている。
洗濯しても、衣服をぼろぼろにする危険性もある。
――探しにいこうかしら? いえ、うーん……。
ひとしきり悩んだ後、
――あ、感覚の共有をやればいいんじゃない。
やっと、そこに気づいた。
人間相手だし、当初は無理かと思われたが、すぐに可能であることがわかっている。
ルイズは瞳を閉じ、意識を集中した。
人間相手だし、当初は無理かと思われたが、すぐに可能であることがわかっている。
ルイズは瞳を閉じ、意識を集中した。
ばしゃばしゃ。
ぎゅっぎゅっ。
ぎゅっぎゅっ。
水の音と、もう一つは洗濯する音。
――一応、洗濯はできてるみたいね……。ん……。
『……ああ、だめだめ』
女の子の声が聞こえる。
それに、黒髪の少女の横顔がちらちら。
それに、黒髪の少女の横顔がちらちら。
――この子は……たしか、シエスタとかいうメイド。そうか、この子に教わってるのね?
『それは、そういう風にやったら痛んじゃうでしょ? こう、優しい感じで……』
洗濯するエイトを、女の子の手が上から包んで、洗濯の動作をさせる。
まさに手取り、足取りという感じであった。
まさに手取り、足取りという感じであった。
『そう、そういう感じ。うまいうまい』
楽しそうな声。
――……。
何となく不愉快になって、ルイズは感覚共有を停止させる。
「っとに、あの馬鹿使い魔、ちびのくせに女の子にでれっとしちゃって……」
ルイズはぶつくさ言いながら、ベッドの上に寝転がる。
「でも……覚えさせなかったら私の服が危ないし……」
だったらエイトに洗濯なぞさせないでおけばいいのだが、ルイズはそのへんをすっかり失念していた。
というより、意識の隅へ放り出していたとすべきか。
そのうちに――まだ睡眠量が不足していたのか、ルイズは再び眠ってしまった。
というより、意識の隅へ放り出していたとすべきか。
そのうちに――まだ睡眠量が不足していたのか、ルイズは再び眠ってしまった。