あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

美的センスゼロの使い魔-2

―――翌日


「起きてくださいマスター」
「ん~、もう食べられないわ…」

彼、ダイ・アモンのマスターであるルイズは幸せそうな寝言を漏らしながら布団にしがみついている。

「ええい、こちらが満足な食事も出来ずにいるのに幸せそうな夢を見やがってクソ忌々しいっ!
起きなさいマスター!」

「あと5分…」

「起きろって言ってるでしょうがこの平面胸のメスガキャァぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「キャッ!?」
バキィッ! と言う衝突音と共にベッドが激しく揺さぶられ、ルイズがその衝撃で床に落下。それと同時に響いた
ズシンと言う振動は、ルイズではなくベッドそのものが落下したせいだろう。むやみに豪華な作りの見るからに
重そうなベッドが、さっきの衝撃で完全に宙に浮き上がったらしい。

「いきなり何すんのよこの…」

ベッドから放り出された時にぶつけた頭をさすりながら、ルイズが立ち上がると、
「…アンタ誰?」
そこにはフードを目深に被って顔を隠した、ローブ姿の男が立っていた。

「寝ぼけてるんですかマスター!? 私が(不本意ながら)貴方の使い魔になったダイ・アモンです!」

そう言われて、すぐに思い出した。ルイズが昨日呼び出したやかましくアホな使い魔の事を。
そして、思い出すと同時に怒りがこみ上げてきた。

「…思い出したわ。思い出したけど…朝っぱらからいきなり何すんのよ!」

「なぁ~にが『何すんのよ!』ですかこのボケナスが! 朝になったら起こせといったのはあなたでしょうが!」

売り言葉に買い言葉とはこのことか、あっと言う間に低次元な口喧嘩になる。とてもじゃないが自称伯爵と
公爵令嬢の会話には聞こえない。

「使い魔なら使い魔らしくもっと丁寧に恭しく起こしなさいよ!
「ムキー! 口の減らない小娘ですね!
いくら丁寧に恭しく起こしても『あと5分~』とか言って一向に起きなかったのは誰ですか!
おかげで余計な体力使っちゃったじゃないですか! 日中に力を出すのは重労働なんですよ!?」
「うぐっ…! それでも丁寧に起こすのが使い魔の仕事なのよ!
それと、さっきドサクサにまぎれて平面胸とか言ったわね!?」
「ええ言いましたとも、事実を指摘したまでですがそれが何か問題でもあるってんですかこのスットコドッコイ!」
「平面じゃないもん! 少しは膨らんでるもん! 去年より成長してるんだからまだまだこれからだもん!」
「ほぉぉぉう、それは楽しみですねえ。せいぜい期待せずに待ってみる事にしましょう」
「あー、もうムカツクわぁぁぁぁぁ、今日はもう食事抜きよ!」
「え? なんですかそれ!? それはちょっと横暴ですよ!」
「うるさい! それよりも何よその格好! 人型に戻ったなら顔くらい見せなさい!」

ルイズがアモンのローブを掴んで引っ張り、アモンがそれを振り払おうとする。
口喧嘩から取っ組み合いにフェイズシフトしようかと言う時、部屋のドアが開き第三者が登場した。

「朝っぱらからうるさいわねぇ、いったいなんなのよ」

呆れたような声で入ってきたのは、ルイズとは対照的な肉体を持つ色気過剰少女、キュルケーだったのだが…
彼女はルイズの様子を一瞥するなり、獲物を見つけた猫科肉食獣のような笑みを浮かべた。

「…あらやだ、ルイズったら面白い趣向じゃない。お邪魔だった?」

揶揄するようなキュルケーの口調に、ルイズはようやく今の自分の姿に思い至った。すなわち
“ネグリジェ姿の少女が男性の服を引ん剥こうとしている”としているという事に。

「ち、ち、ちちちちちちち違うわよ! これはそんなんじゃなくて!」

慌てて否定するが、キュルケーは完全にルイズいじりの体勢に入っている。

「照れなくてもいいじゃない。それにしてもルイズがそんなに大胆に迫るなんてねえ…」
「違うって言ってるでしょこの色ボケ!」
「で、そこの見かけないハニーはどこのどなた?」

ルイズの反論を無視して話を変えるキュルケー。当然確信犯(誤用)である。

「申し遅れましたね美しいお嬢さん。私はダイ・アモン伯しゃk…」
「アンタは黙ってなさい!コイツは昨日の使い魔! ハニーとかそんなんじゃないわよ!」

「あら、あなたの使い魔ってきのう召還した時はジャイアントバットだったじゃない。人型に化けたの?」
「違うわよ! コイツは吸血鬼でこっちが本来の姿!」

「へえ…驚いたわ。あなた、本当に吸血鬼を使い魔にしちゃったのね」
「何よ! 悪い?」

「悪いとは言わないけどねー、やっぱり使い魔ってのはこういうのじゃないとね。そうでしょ、フレイム」
キュルケーがそう言うと、彼女の背後からくけーと鳴き声を上げて大きなトカゲが姿を現した。
オレンジ系の暖色を中心としたカラーリングで、尻尾の先には炎が燈っている。

「おや、これはサラマンダーですか」
「やっぱり判る?」
「ええ、私のかつての主も良く使っておりました。もっとも、実体を持たない完全な精霊体のサラマンダーでしたが」
「へえ、サラマンダーにそんなのもいるなんて知らなかったわ」
「サラマンダーが使い魔ということは、お嬢さんは炎属性?」
「あら、中々わかってるじゃない」

「…主人を無視して勝手に話を進めてるんじゃないわよこの馬鹿使い魔!」
「へぶぎゃッ!」

部屋のインテリアである銀の燭台がアモンの頭部にクリーンヒット。使い魔吸血鬼は無様な声を上げて床に突っ伏した。



「まったく、何で私の使い魔はこんなヤツなのよ…」
「そんなに捨てたもんでもないんじゃない?
そりゃ私のフレイムには劣るかもしれないけど、話のわかるいいヤツみたいだし」
「余計なお世話よ!」

ルイズにとっては、キュルケーに対しては「話しのわかるいいヤツ」らしく畏まって接するアモンが
余計に気に食わない。そんなルイズの様子を察してか、キュルケーはやや強引に話題を変えた。

「…ところで、さっきはいったい何してたの?」

話がそこに戻って、ルイズはようやく自分がしようとしていた事を思い出した。

「この使い魔はせっかく人型に戻ったのに、ご主人様である私にすらその姿を見せようとしないのよ!」
「そう言うことなら興味あるわね。吸血鬼ってどんな顔してるのかしら。」

キュルケーはあっさりとルイズの意見に同調した。この女が男の顔に興味を示さないはずがない、とはルイズの
心の声である。

「ああ、ムチプリバディの美しいお嬢さんまでそんなことを言うんですか!?」

敵が増えた事を悟ったか、アモンはフードをより深く被ると部屋の隅へと後退った。
徹底して顔は見せたがらない使い魔の態度に、ルイズは思わず怒りを爆発させそうになるが、
理性的に考えれとキュルケーの前で感情的に怒鳴り散らすのはあまり良い事ではない。
“落ち着くのよルイズ…素数を数えるのよ…素数は孤独な数字…私に勇気を与えてくれる…”
113まで数えたところでようやくルイズの心は落ち着いた。
平静を取り戻すと、今度はルイズの心の中の紳士が囁き出す。
“逆に考えるんだ…顔を隠したがる理由を聞けばいいと考えるんだ…”

「あー、もう何でそんなに顔を隠したがるのよ」

心の紳士のアドバイスに従いつつ、ルイズは先にこれを聞くことを思いつかなかった自分の至らなさを反省する。
失敗を反省し教訓として、次に繋げるのはルイズのポリシーである。

「ええ、説明してやりますから耳の穴かっぽじって良く聞きなさいよ!
そもそも召還の際に日光で力を失ったのがいけないんです! 月と血で力を取り戻したとは言え、せいぜい3割程度!
パワフリャで美しい私の姿に戻るには力が足りないのですよ! 貧弱かつ醜い私の真の姿を人目に晒す訳にはいきません!」

「なるほどねえ。そう言うことなら仕様がないんじゃないの?」

キュルケーはアモンの説明に納得したようだ(というより、醜いという自己申告を聞いて興味をなくしたようだ)が、
ルイズはそれで納得はしなかった。いや、顔を見せたがらない理由としてはアモンの言い分を理解したのだが、
それを受け入れる気はなかった。“この際だから徹底して弱みを握ってやろう”と言う結論に達したのである。
理由はそれだけではない。

「顔が醜かろうと、私は構わないわよ。むしろ醜いからって使い魔の素顔も把握してないなんてメイジ失格だわ!
ダイ・アモン…これは命令よ! 顔を見せなさい!」

ここまで言うと、流石のアモンも諦めたようである。命令されたから爪を気にして受け入れただけとも言えるが。
目深に被ったフードに手をかけると、ゆっくりとめくり上げた。

「え?」
「やだ! 嘘!」

どんな恐ろしい顔がフードの下から現れるかと覚悟を決めて見守っていた二人の前に現れたのは、繊細そうな細面の
白皙の美青年だった。ただの美青年ではない。超美形といってもいいくらいのハンサムぶりである。
ルイズが唖然とする横で、キュルケーは「えーっ! これで醜いって、魔力を取り戻したらどうなっちゃうの!?」
とか騒いでいる。アモンはといえば、「これでもう用は済んだだろう」と言わんばかりに再びフードを被ってしまった。
それも「こんな貧弱な青ビョウタン顔を3人もの目に晒す事になるとは…この屈辱、決して忘れませんよ!」等と言う
捨て台詞付きで。

「…って3人? ここには2人しかいないじゃない…」

ルイズが疑問の声を上げて辺りを見回すと、3人目は確かに存在した。何時からそこにいたのか、入り口の前に
クラスメイトのタバサが存在していたのである。

「って、タバサ? 何時からいたの?」

タバサの親友であるキュルケーさえ、存在に気付いていなかったようだ。

「…『アンタは黙ってなさい!コイツは昨日の使い魔!』あたりから」

「最初の方じゃない!」

つまり、この無口な少女は、この騒動をほぼ余すところなく観察していたのである。
ルイズはキュルケー以外の目にも失態を晒した事に目眩すら感じていた。
しかし、そこまで見ていたからには当然アモンの素顔も見ているはずなのだが、タバサの表情には
何の反応もない。キュルケーなどは思わず“さすがタバサ”と感心してしまう。

「で、何しに来たの?」

キュルケーの親友である以上、用事があるのはルイズではなくキュルケーであると考えるのが自然だろう。
ルイズとキュルケーもそう判断したのか、用件を質したのはキュルケーの方であった。だが、ある意味で
彼女の用件は両者に大きく関わるものだった。すなわち

「朝食の時間。もうすぐ終わり」

と言う事である。

「「な、なんだってー」」

仲良くハモる二人の悲鳴。その様子を見ながら、アモンは「実は凄く仲がいーんじゃないですかこの二人は」と思ったと言う。



「悪いけど、ルイズ…私は先に行くわ!」

そう言い残しキュルケーは食堂へ向けて走り去っていった。まるで風属性にチェンジしたかのような疾風怒濤振りであった。

「ちょっと待ちなさいよキュルケー!」

と言ってルイズも後に続こうとするが、自分がまだ寝間着姿のままである事に気付くと、

「ごめん、タバサ! また後で!」

と言って勢い良く扉を閉じ、着ていた服を脱ぎ捨てた。

「ちょっと、ルイズ様!? アナタ恥じらいってものがないんですか!?」

アモンが非難の声を上げるが、この際無視。本当は立場の違いをわきまえさせるために取ろうとしていた手段だが、
切羽詰った状況なので仕方がない。

「うるさいわね! 貴族って言うのは使用人相手に恥ずかしがったりしないものなのよ!
そんなことより、その棚から着替えをとってちょうだい! 早く!」

いかにも渋々と言ったしぐさで命令を実行するアモンの手から着替えをひったくると、ルイズは早送りのビデオのような
速度で着替えを済ませ、部屋を飛び出した。あまりの勢いに呆然としていたアモンがようやく一息つくと、

「忘れてたッ!」

と言って戻ってきた。

「私がいない間に勝手にどこか行ったり誰かの血を勝手に吸ったりしないように!」

「へいへい、そのくらいはわかってますよー」

だいたい、吸血鬼は基本的に昼間は寝ているものである。いちいち釘を刺されなくても、ダイ・アモンには
わざわざ何かをする気はなかった。だが、そんな彼の目論見は脆くも崩れ去った。ルイズは先の条件に、さらに

「その脱いだ服、洗濯しておきなさい! それと、今日の授業は基本的に使い魔同伴だから、
用事が済んだら教室まで来ること! わかったわね!?」

と言う要求を付け加えたのである。

「え? ちょっと! それマジですか!? ッて言うか吸血鬼を昼間に働かせるなんてアンタ鬼ですかっ!?
ひょっとしてコキュトスに封印されてた悪魔ですか!? 暖かい人の血は流れてないんですかァァァ!?」

走り去るルイズの背中に向かい、吸血鬼は悲痛な声をあげた。



“まずはこの洗濯物をどうするか考えねばなりません”

考え込むダイ=アモン。とりあえず部屋から出るにも日光をさえぎる何かが必要だ。今着ているローブは、
実は魔力で編んだ紛い物で自分の体も同然だ。当然、日光を遮断する効果はない。と、言う事はとるべき手段は一つ。

「まー、ご主人様が洗濯とかしろって言うんだから必要なものは勝手に使ってOKですよねぇー」

そう言ってルイズの部屋を物色し始めた。まず衣装箪笥を漁ってみるが、着用できそうなものは皆無。
ルイズとアモンの対格差を考えれば当然の結果である。仕方ないので毛布を被る事にして、物入れの中から
見つかった舞踏用の仮面(マスケラ)を顔につける。視界を確保しつつ日光を避け、(アモンの美的感覚で)醜い
素顔を隠す事が出来るのだ。しかもこの手の(一般的に悪趣味っぽい)アイテムはアモンの趣味に合うのである。
傍から見ると「顔を仮面で隠し毛布に身を包んだ長身の男」と言う凄まじく不審な外見なのだが、このダイ=アモンという
男はそんなこと一向に気にしない。

「あー、めんどくせー」

そう言いながら、ルイズの服を持って移動を開始する。が、当然どこで洗濯をすれば良いかなどわかる筈もない。
出来るだけ直射日光に当たらないように建物内を移動していると、見るからに使用人と思しき女性が洗濯物を運んでいる。

“おおぅ、これはラッキー! 純正100%混じりっ気無しの生娘のニホイですねこれは!”

「済みませんがお嬢さん」
「え…きゃっ!」

悲鳴を上げるメイド。こんな不審人物に話しかけられれば当然の反応と言えるだろうが、そんな常識は当然アモンには
通用しない。

「人が礼儀正しく話しかけたと言うのに悲鳴を上げるとは何事ですか! 躾のなっていない使用人ですね!」
「もっ…申し訳ありません!」

理不尽な物言いだが、悲しいかな使用人根性の染み付いたメイドは反射的に謝ってしまう。
謝ってしまった後で“あれ? 何で私謝ってるんだろう…?”などと疑問に思うが後の祭りである。

「ム・ッウ~ン素直に謝るのは良い事です。その正直さに免じて今は許して差し上げましょう!
ところでお嬢さん、洗濯と言うのはどこでどうすれば良いのでしょうか?」

相手が面食らっている事も気付かずに、用件を畳み掛ける。他人の都合など気にしない。

「あ、それなら向こうに水場が…ところで、その…失礼ですがどちら様でしょう?
…あの、私はシエスタと申します」

メイドはメイドで、アモンの勢いに押されつい受け答えをしてしまう。本来なら悲鳴を上げて逃げ去っても
おかしくない状況だが、どうもそのタイミングを逸してしまったようである。
実のところは、アモンがその視線に込められた魅了(チャーム)の魔力を発揮しているためでもあるのだが。

「これは申し遅れました、使用人のお嬢さん。私はダイ=アモン伯爵と申します」

丁寧な会釈をするが、毛布にくるまった仮面男なので怪しい事この上ない。この上ないのだが、視線の魔力で
警戒心の薄れているシエスタには外見の怪しさなど関係ない。

「あの…ひょっとしてミス・ヴァリエールの使い魔の?」

「まあ、不本意ではありますが現在はそう言う立場になっておりますねぇ。何でご存知なんですか?」

「え…あの、生徒の皆さんの噂になっていたので…」

「ほほぅ…さすが、私の美しさは早速人々の噂になっているようですね…まったく美しさは罪です!」

「ええ、まあ…」

シエスタが言葉を濁す。
当然、彼女が聞き及んだ噂はそんな内容ではなく「ゼロのルイズが物凄く奇妙な使い魔を召還した」と言うものだが。

「ところで、ワタクシは洗濯などした事ないのでどうすれば良いのか良くわからないんですが、
お嬢さんはどうやらこれから洗濯をなさるご様子。よろしければコイツもついでに洗ってもらえませんか?」

物凄く厚かましい要求だが、アモンの面の皮はこの程度で遠慮するほど薄くはない。元々雑用を押し付ける
心算もあっての魅了である。

「はい、その位でしたらお安い御用ですよ。寝間着と下着と制服ですね?
終わったらミス・ヴァリエールの部屋に届けておきます」

当然、軽く洗脳されたも同然なシエスタが断るはずもない。

「…ところで、アモンさんはなんでそんな格好を?」

アモンがその気になれば彼女を自我のない人形に変える事も可能だが、現在は自我を保ったままで
彼に対し逆らわないと言う程度にとどめてある。なので、現在は彼女が自分の意思でアモンに疑問を持ち、
質問をする事も可能だ。

「ええ、まあ直射日光に弱いので…」

そこまで言いかけて、アモンは現在抱えている問題を思い出した。

「そうでした。お願いがあるのですが、衣類の調達をお願いできませんか?
フード付きのローブ、日光を通さないように黒で裏地付きの厚手のものを頼みますよ」

「ええ、わかりました。教師用のローブの予備ならすぐご用意できますが」

そう言うことなら、と言うわけで、洗濯よりまず先に備品類をしまった部屋に寄ると、アモンは教師用の
ローブと皮の手袋を無事確保する事が出来た。そのまま適当に日の当たらない場所を探し、そこで毛布からローブに
着替えるのだが、ちょうどローブを着終わったところで

「あの、サイズは合って…ました…か?」

何気なくシエスタが顔を出し、硬直した。今まさに仮面を付けようとしているアモンの顔を見てしまったのだ。
ある意味で予想外すぎるインパクトに満ちた素顔を。

「…見ましたね…?」

怒りに震える声でそう言いながら、仮面を装着する。

「あ、いえ、その…」

凄みをきかせたアモンの物言いに思わず怯んでしまう。
シエスタは彼の全身から禍々しいオーラが立ち上るのを見たような気がした。

「見てしまったのですね、この私の醜い素顔を!」

“醜いって…どこが?”
シエスタは思わず心の中で突っ込んでしまった。何かの冗談かとも思ったが、アモンは本気で素顔を恥じ、
本気で怒っている。

「ご…ごめんなさい! 申し訳ありませんっ!」

再び勢いに押されて謝るシエスタ。そんなシエスタに折檻を加えようとしたのか、アモンが片手を振り上げた時、
“カランカランカラン”と緊張感のない鐘の音が校内に響き渡った。

「…なんですか今の音」
「…あの、予鈴…です。もうすぐ授業が始まると言う…」

拍子抜けしたように拳を下ろしたアモンの質問に、まだ少し怯えながらもシエスタが答える。
「授業…?」と呟いたアモンの脳裏に『今日の授業は基本的に使い魔同伴だから、用事が済んだら教室まで来ること!』
と言うルイズの声が甦った。

「やっべー! こんな事してる暇はありませんっ! すぐ教室に向かわなければっ!…って、そうだお嬢さん!」

「は、はい!?」

「教室はどっちですか!」

「あっちですけど」

「ありがとうございます!
それとさっきのアレは見なかったことにしなさい今すぐ忘れなさい決して他言してはいけませんYOooooooooooh!
わかりましたか使用人!」

剣幕に押されて人形のようにカクカクと頷くシエスタを尻目に、アモンはそう言い残して全力疾走で去っていった。
とは言っても、パワー不足であるのでフラフラとよろめきながらの早足程度でしかなかったが。
シエスタはといえば、嵐のように現れて去っていった不審人物に対し、“一体なんだったのかしらあの人…”と言う
疑問を抱くと共に、“凄い美形だわ! ちょっとラッキーかも!?”と言うミーハー心理が彼女の脳内を
駆け巡っていたりするのだが。
もっとも、彼女は自分が本当に幸運だった事に気付いていない。
本来のアモンは人間をゴミクズ同然に扱う残虐な吸血鬼であり、激昂すれば衝動的に暴力を振るう凶人なのだ。
彼を怒らせた時点で、彼女は問答無用で惨殺されていたはずだった。だが、現在は昼間である。出歩くだけで重労働なのに、
今のアモンには素顔を隠すほどの魔力もなく、ルイズ起床時にベッドを蹴り上げたせいで体力も消耗している。怒りに
任せても殴りかかるだけの体力がないのだ。本当にシエスタは幸運だったのである。

ただし、アモンは執念深い。

「あのメイド、シエスタと言いましたね…後で必ず折檻してやりますよ…!」

幸運とは言っても、危険が先に延びただけの事であったが。

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