あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔人-02


…天を貫くかの様に高く掲げられた杖が、鋭く振り下ろされた。
果たして、この挙動を何十回繰り返しただろうか? ただ一心に呪を紡ぎ、
己が裡に在るだろう《力》を注ぎ、解き放つ。
だが……。それに応えるのは、只の土煙と爆音。そしてそれにも増して不快で自身を辱める、
男女入り交じった嘲弄の雨だった。
この日を迎えるにあたって、彼女は心身共に入念な準備を施し、不退転の決意を胸に臨んだ。
――が、度重なる失敗と外野からの呵責無い悪罵、野次がもたらす、焦りと無力感は体力に集中力をも蝕み、
それらが相俟って、『もう後が無い』という事実を彼女に自覚させる。
揺らぐ身体と心に鞭打ち、天地全てに届けといわんばかりの声で、彼女は呪を構築し詠み上げた。
そして……。遂に「それ」が彼女の眼前に顕れた。
それ迄の爆発では無い。七色に煌く、姿見の様な物体が朧に浮かび、表面が波打つや、大きく渦を巻いた。
(や、やった…! 私にも出来…、いけない!)
反射的に浮かぶ歓喜を抑え、彼女は意識を前方の《門》へと傾注する。
もし、この機を逃してしまえば、今の自分が再度この《門》を開ける保証なぞ、一分も無いのだ。
手にした杖を握り直し、残された体力と気力の全てを託す。
「――さあ、来なさい! 我と命運を分かち合いし、半身よ…!!」
凛とした声が響き渡った瞬間。
叫びに応えるかの様に、《門》が一際強い輝きを発した瞬間。
砲弾の如き速度と勢いで、黒い塊が光の中から飛び出した。
「きゃ……!」
突然の事に、正面に立っていた少女は避けきれず弾かれ、その場に尻餅を付く。
彼女を撥ねても影の勢いは衰えず、更に数メイルを転がって近くの草むらに突っ込み、
それを薙ぎ倒した所で、やっと止まった。
……したたかに打った腰の痛みも今は気にならない。
少女は立ち上がるや、自身の『成果』を確かめようと、蹲る影へと駆け寄る。
――黒髪と黄色がかった肌。顔の半分は眼鏡に似ているが、ごつごつとした仮面じみた物体に覆れている。
見慣れぬ色形の衣服。その上にやたらポケットが付いた短衣を着込み、足下は頑丈そうなブーツ。
両手には細緻な彫物が施された、騎士が着用するような黄金色をした小手を填めていて、
又、すぐ近くには彼の荷物とおぼしき、濃緑色の袋と銃に似た細長い金属の塊が転がっていた。



――角も無ければ羽も無く、腕が四本だったり、尻尾も見当たらない。
そして何よりも――杖を携えて無ければ、外套(マント)を纏ってもいない。
――つまりは、平民。他の者達が得た様な、幻獣はおろか小動物ですらない、どうでもいい存在。
「…ミス・ヴァリエール。使い魔召喚の儀で、平民など呼んでどうするおつもり?」
「なんだい、成功したようでやっぱり失敗してらぁ!」
「さすがは“ゼロ”のルイズ! どこまでも俺たちの予想を裏切らないぜ!」
「しかも、出てきたのは平民だぜ平民! ま、あいつらしいちゃあ、あいつらしいけどね」
周囲を取り囲む人垣が、どっと笑い声を上げた。その中に気遣いや遠慮といった物は、一つとして無い。
否応無く恥辱と怒りを呼び起こされた少女の白皙の肌は、赫っと紅く染まる。
「ミスタ・コルベール!」
背後に控える中年の男性…この儀式を監督する、担当教師へと少女は向き直る。
「なんだね。ミス・ヴァリエール?」
「あの! もう一度、召喚をさせて下さい!」
「それは駄目だ。ミス・ヴァリエール」
訴え掛ける声は、すげなく拒絶される。
「これは決まりだからだよ。二年生に進級する際、君達は『使い魔』を召喚する。今、やっているとおりだ。
この儀により現れた『使い魔』で、今後の属性を固定し、それにより専門課程へと進むんだ。
一度呼び出した『使い魔』は変更する事は出来ない。何故なら、春の使い魔召喚は神聖な儀式だからだ。
好むと好まざるに関わらず、彼を使い魔とするしかない」
――生存本能に衝き動かされたか、混濁しきった彼の意識は急速に形を整えていく。
それに伴い、神経、筋、腱、骨格、血流、氣脈…。バラけて、停滞していた機能が、
『緋勇龍麻』という人間を動かすべく、有機的に纏まり連携を取り始めた。
(か、は……)
僅かに息をつく。何処からか聞こえて来るのは、あの凄まじい断末魔じみた破壊音に変わって、
ヒトの声…しかも複数のだ…である。
若い女性らしいのと年配の男性…、それ以外にも、少なくない数の人間がいるのがわかる。
その時点で、今居るのはあの崩壊しつつあった遺跡では無く、何処か地上に出ている事は明らかだ。
(く…。地下で、あの鏡みたいなモノへと飛び込んでから、此処で寝転がっている迄に一体、何が、あったと…?)



一方で、全身の自己診断は既に終わっていた。
――僥倖というべきか。全く未知の異変に巻き込まれたというのに、拙い怪我や異常等は感じられ無い。
逃げる時から稼働っ放しだったN.V.Gの電源を落として頭の上にずらすと、二日酔い
にも似た頭痛に眉をしかめつつ、投げだされたままの四肢に力を送り、上体を起こす。
「――いは認められない。彼は…、ただの平民かも知れないが、呼び出された以上、君の『使い魔』
にならなければならない。古今東西、人を使い魔とした例は無いが、春の使い魔召喚の儀式
のルールはあらゆるルールに優先する。彼には君の使い魔となって貰わなくてはな」
「そんな……」
半分方禿げ上がった中年男性の前で、桃色がかった金髪の少女がうなだれるのが見えた。
「…そこの二人組。聞きたい事が有る。一体、此処は何処だ? お前達は、何者なんだ…?」
彼の当然ともいえる問い掛けは無視されたのか、手前にいた少女がこちらへと歩み寄って来る。
「…聞こえていないのか? お前達は誰だ? 何故こんな場所に、俺が居るというんだ?」
敵意や武器は無いようだが、警戒すべき何かを感じ、自然、彼の手は腰に下げた物へと伸びる。
「あーっ、もう! うるさいだけじゃなく、失礼な平民ね! いい? 言うのは一度だけよ。
ここは、ハルケギニア大陸のトリステイン王国。そして、伝統あるトリステイン魔法学院よ。
…後、これが一番大事な事だけど。私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール。
あんたの主人となるべきメイジよ。覚えておきなさい!」
「な、に……?」
(トリステイン王国? 地名だけなら、ヨーロッパか何処かにありそうだが、仮にそうだとしても、
日本から此処迄の瞬間転移を行った上、着いた先はハルケギニア大陸!? しかも『魔法』学院だと!? 馬鹿な…!!)
経験上、大抵の異変、トンデモには耐性を備えていた龍麻だが、全く予想だにしない事態と地名や語句に
思考を掻き乱される、が…。それに気を取られたのが、彼の人生で二番目の不幸であった。
「……ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔と成せ」
気付けば、息がかかる程の距離にルイズと名乗った少女の顔がある。
「!?」

そのまま彼の唇に押し当てられる、柔らかく温かな触感。
「っ…!? いきなり何をするかっ!」
触れたのは一瞬。反射的に身を放した龍麻は、袖で口元を拭う。
「何って、『契約』に決まってるじゃない。…感謝しなさいよね。貴族にこんな事されるなんて、
普通は一生ないんだから」
「契約だと!? 何を勝手なこ…っっ!?」
言い終える前に、左手に感じた違和感に唇を噛む。
火傷…むしろ高圧電流に触れた様な熱と痺れが、左手を起点に全身を這い回る。
「ヴァリエールとか言ったな! 何が原因で、こうなった…っ!!」
「すぐ終わるわよ。あんたの身体に『使い魔のルーン』が刻まれているだけだもの」
言い返すよりも先に、『黄龍甲』の止め具を外すと、左手の状態を確かめる。
――鈍色に光る、文字とも記号ともつかぬ代物。勿論、龍麻が持つトレジャーハンターとしての
知識の中にも、類似する物は全く存在しない。
(これは……!?)
ふと、横から向けられた視線に気付く龍麻。
見れば、あの中年の男がまじまじと左手に刻まれたソレを注視している。
「ふむ…。珍しいルーンだな。少し調べてみるとしよう」
一人ごちると、龍麻達から背を向け、向こうに居並ぶ教え子達に声を掛ける。
「――これにて、儀式を終了する。さあ皆、教室に戻るぞ。遅れないように」
その身体が音も無く浮かび上がり、滑る様に宙を舞った所で驚愕の余り目を見開く。
「何っ!?」
これ迄、異能を宿す奇人、魔人、変人、化人、人外らを相手取り、無数の命の削り合いを演じて来た龍麻だが、こればかりは無い。
しかも後ろにいる、ルイズと名乗った少女の同窓と思しき、男女含めた集団も又、
当然の様に飛び上がり、一団となって動きだしたのだ。
その光景を片や呆然と、もう一方は憮然とした表情で見やる。
そして…。教師であるコルベールと、同級生一同が立ち去った後の草原に、龍麻とルイズだけが取り残された。
「――人が空を飛ぶのはいい。だが、それが『魔法』なんて代物によって成り立つ等と、
デタラメも此処に極まれりだな…!」
「なによ。メイジが飛ばなくてどうすんのよ」
「その発想自体がおかしいんだ。少なくとも、俺にとってはな…!」
目一杯主張する龍麻だが、ルイズは鼻にも掛けずに答える。

「あんたの考えなんてどうでもいいし、関係ないわ。ここは、魔法とそれを扱うメイジが全てに先立つ世界よ。
…そうだ。まだ、あんたの名前を聞いていなかったわね」
「…緋勇龍麻。ロゼッタ協会に籍を置く、トレジャーハンターだ」
仮の身分ではあるがな、と胸中で付け加えつつ、名乗る龍麻。
「そ。名前がわかった所はいいとして、取りあえず付いてきなさい。
今からあんたに申し渡しておくべき事が有るからね」
「…奇遇だな。俺からもアンタに対し、言いたい事と確かめたい事が山積しているからな」
近くに転がっていた、自分のバックパックと愛用のドイツ製突撃銃を拾い上げた龍麻は、負けじと言い返す。
互いに対する、敵意じみた警戒心と観察の視線を交わしつつ、黒髪の青年と桃色がかった
金髪の少女は取りあえずの目的地である、草原の先に有る白壁に囲まれた城塞を思わせる建物へと歩いて行った。


――頭上をかすめ飛ぶ異郷人(メイジ)…
紅く輝く黄昏の陽…
異界を成り立たせる常識と法則…
その日、召喚主は“従え!”と言った……。


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