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封仙娘娘異世界編 零の雷 第四章 その一

第四章 伯爵家、公爵令嬢誘拐(?)事件顛末 その一


 一


魔法学院の本塔を照らす二つの月。
二重の光は、外壁に垂直に立つ黒い人影を浮かび上がらせていた。
その位置は内部で言うと五階――宝物庫にあたる。
人影の名は、『土くれのフーケ』と言った。
トリステイン中の貴族を恐怖に陥れている、神出鬼没の怪盗である。
『土くれ』の二つ名は、秘宝を守る壁や扉などをその強力な『錬金』の魔法で土くれに変えてしまうと言う、
盗みの手口に由来する。
すなわち、土くれのフーケはメイジである。それも、凄腕の。
そのフーケが、今はギリギリと歯を鳴らしていた。

「さすが魔法学院の宝物庫と言うべきなのか……ふざけた話だわ」
足の裏から伝わる壁の感触。優れた『土』系統のメイジであるフーケにとって、そこから外壁の厚さを測ることなど
造作もない。
だが、それを破壊できるかどうかはまた別の問題だ。
「あのハゲめ……何が物理攻撃に弱い、だ。これじゃ私のゴーレムでもちょいと厳しいか……」
フーケは腕を組んで考える。
そして、懐から小さな道具を取り出した。内側に小さな珠がじゃらじゃらと沢山付いた、不思議な道具。
――見る者が見れば、それが『そろばん』と言う計算機であることに気づいたかも知れない。
「……――」
フーケが小さく声を掛けると『それ』は、途端に鮮やかな緑色のオウムへと変化した。
オウムはバタバタと羽ばたき、フーケの胸の上に留まった。
「――。……この外壁をブチ破るには、どうすればいい?」
「…………」
オウムは答えない。フーケは軽く舌打ちする。
「質問が悪かったか? ……ふむ。では、こうしよう。
 近い内に、私は宝物庫に侵入することができる。――それは何故?」
オウムは、甲高い声で答えた。今度はうまくいったようだ。
「ギー。フーケのゴーレムを狙った『ゼロのルイズ』の魔法が的を外れ、外壁を傷つける。それに乗じて侵入する確率が半分。
 月が四つある確率が半分。ギー」
「……そりゃまた随分とバクチ要素の強い話だこと」
そう言いつつもフーケは満足げに笑う。
「『ゼロのルイズ』……あぁ、あの向こうっ気の強そうな小娘ね。……ふぅん。そりゃ意外」
後半の答えは無視した。当然だ。
月が四つある、などという与太話を信じて何になろう。一方が外れなら、もう一方が当たり。
ただの消去法だが、フーケには絶対の自信があった。
「どちらが正解かはシラヌ。シラヌ」
このオウムの決まり文句だ。……なんとも微笑ましいではないか。
胸の上に手を伸ばし頭を撫でると、オウムは嬉しそうに喉を鳴らした。可愛い奴め。
「で、それはいつ?」
「ギギッ。一週間後の確率が五割。メロンから赤子が出てくる確率が五割」
後半は日時でも何でもない。
「ふむ……まぁ、いいわ。それくらいは待てる」
一週間後――つまり八日後だ。
――あの屈辱に耐えてきた長い年月を思えば、どうということはない。
まぁ、別の意味での屈辱の日々が多少延びることにはなるが……大したことはない。大したことは。

オウムの頭を撫でる手につい力がこもる。
――オウムの苦しそうな呻き声により、我に返る。
「あぁ、悪い悪い。
 ……っと、そうだ。一応、これは聞いておかないとね。
 例の秘宝……『破壊の槍』って、どんな代物なの? 具体的には」
オウムは何事もなかったかのように返答を寄越す。
「ギー。炎を操る巨大な槍。普段は貧相な槍に偽装しているが、真の姿は二メイルを超える。
 その力は殷雷刀をも遥かに凌駕する。と言う確率が半分。
 フーケが秘宝『――――』を手放す確率が半分。ギッギ」

「なるほど……あのインライトー以上とは、そりゃ大したもんだね」
後半の予言は、やはり無視した。考えるまでもない。
私が手放す? 『これ』を? ……馬鹿な。たとえ山一つ与えられたところで売る気はない。
この秘宝は、もはや私の半身も同然。
どうせこれも月が四つあるとか決行日はメロンから赤子だとかと同じ、『あり得ない』と同義だろう。

「一週間後、か……楽しみね」
土くれのフーケは眼鏡の奥の瞳を輝かせた。


 二


『波濤』のモットこと、ジュール・ド・モット伯爵は強欲な男である。
そして、それ以上に好色として知られていた。
彼はしばしば、気に入った若い娘を金の力で強引に召し抱えては、『世話役』などと言う名目で慰み者としていた。
当然ながら、平民たちの評判は芳しくない。

――そんな彼が『それ』を手に入れたのは、決して偶然ではあるまい。

 *

――どうにも、マルトーの説明は要領を得ない。
「連れて行かれちまったんだよ、シエスタが! 無理矢理に!
 だがアレはどう考えてもおかしい!!」
殷雷は顔をしかめた。厨房に近づいた途端、いきなりこれだ。
シエスタ――魔法学院に仕えるメイドの名だ。
いつぞやの『決闘』以来、洗濯を手伝ってもらったり厨房の助っ人に入ったりで、
それなりに親しくしていた娘だ。
彼女の姿が見当たらないと思ったら、この有様というわけだ。
「順を追って説明してほしいのだが……」
「だから笛だよ! 一回吹くと息子で二回だと妻が来て三回吹くとマ」
「落ち着け。分かったから落ち着け。
 一、深呼吸。
 二、当て身。
 三、九鷲酒。
 今すぐ選べ」
「……すー、はー、すー、はー……」
人間、素直が一番である。

「――よし。最初から聞くぞ。一体何があった?」
マルトーは語り始めた。
「……今朝の話だ。モット伯爵って貴族が来てな。使いじゃなく、本人だ。
 そいつがシエスタの事を気に入ったみたいで、身請けするなんて言い出してな。
 ありゃ絶対前々から狙ってやがったな。くそっ」
料理長の言葉にはトゲがあった。
「そのモットとやら、どういう人間なんだ?」
「いけ好かねえスケベ野郎さ。こんな話はこれが初めてじゃない。
 シエスタ以外にも、権力を笠に若い娘が何人も連れて行かれたって話だ。
 だが相手が貴族じゃ、俺たち平民にゃ手の出しようがねえ……」
マルトーは吐き捨てるように言った。
殷雷は顎に手を当て、ふむ、と唸る。
そのモット伯がろくでもない人物だというのは理解した。
だが、正当な手続きをもって取引されたのでは、どうしようもないのではないか?
マルトーもそれは分かっている。
……それにしては、先ほどの態度が気に掛かる。
何やら、猛烈に悪い予感が殷雷の中で膨れ上がってきた。

「……続きを頼む。それで、シエスタはどうしたんだ?」
「ああ、あいつも最初は嫌がってたよ。何しろ突然だったからな。
 ……だが、急に態度が変わったんだ。ポッ、て赤くなっちまって。
 『喜んであなたに仕えましょう』なんつってな。
 どう考えてもおかしいだろ!?」
――いつかどこかで、聞いたような話。
「……その辺り、詳しく頼む」
「ん、あぁ……ええと。そうだそうだ!
 何か懐から笛を取り出したんだ! モット伯が」
笛。
「『君にこの曲を捧げよう。きっと気に入るはずだ』とか何とか言って吹き始めたんだが……
 それがまたひでえ音でな。ビィビィと、虫の羽音みてえな――」
虫の羽音。
「俺は近くで聞いてたんだが、笑いを堪えるので必死だったな。
 ……なのに、シエスタはポッ、だ。
 おかしいだろ!? どう考えても!」
幾つもの点が繋がり、線となってゆく。
殷雷は最後の確認をした。
「その笛……どんな代物だった? 縦笛か、横笛か? 色は?」
「横笛だったな。色は……確か赤っぽかったはずだ」
――やはり。
悪い予感は当たった。
その『笛』の事を、殷雷は知っている。

――が、まぁそれはそれとして。
「シエスタのことは分かった。それは良しとする。
 ……俺の最初の質問、覚えてるか?」
そもそもの厨房に来た目的はシエスタではない。
いきなり話が脱線したため、忘れるところだった。

「……ルイズがさっきから見当たらんのだが、何処に行ったか知らんか?」
最初の質問を一言一句違わず繰り返す。
マルトーは、さらりと答えた。
「だからその話をしてたんじゃねえか。さっきから。
 見たよ。モット伯とシエスタが話してる時、たまたま近くにいたみたいでな」
――ちょっと待て。まさか。
「付いて行っちまったよ。一緒にな」

……な。

「なんだとォォォォォ!?」


――『蜂引笛』。
その音色を聞いた者を魅了する能力を持った、笛の宝貝。
有効射程は、音の届く範囲全域。

対象は『異性』。

異性でさえあれば、後は無差別にして、無条件である。

 *

殷雷は頭を抱えていた。それ以外にどうしろと言うのか。
武器の宝貝である殷雷にとって愛だの恋だの惚れた晴れただのは専門外であり、
気迫が半減するのだ。
はっきり言って、『関わりたくない』という点では彼の知る全宝貝の中でも十指に入る。
「でも、関わらなきゃならんのだろうなぁ、成り行き上……」
シエスタだけならまだしも……と言っては悪いが、ルイズまでも連れて行かれてしまったとなると
流石に放置は出来ない。不本意ではあるが、使い魔としては。
「その……何とか言う笛を奪っちまえばどうにかなるんじゃねえか?」
マルトーに声を掛けられた。
実際、そうするしかないだろうとは思う。とは言え。
「……『元々俺たちの物だから返してくれ』何て言ったところで返してくれる訳は無し。
 金で解決するような話でもない」
そもそもそんな金も無い。
――となるとやはり、強硬手段に訴えるほかあるまい。
マルトーが手を叩く。
「女装して魅了された振りをして近づくってのはどうだ? あのスケベ野郎も女相手なら油断するだろ」
何てことを思いつくのだこの親父は。
どうせやるのは自分ではないと思って適当なことを言って――いるようには見えない。
真剣そのものだ。余計質が悪い。
殷雷が文句を言おうとしたその時。

「――面白い手かも知れないが、それは無理だね」
突然響く第三者の声。
金髪の男が、厨房の入口にもたれ掛かっていた。
薔薇を片手に気取るその男の名は、
「……ギーシュ・ド・グラモン」
「Yes,I am!」
で、あった。

フフン。
ギーシュは優雅に笑った。
……つもりなのだろうが、その姿は何故か滑稽に見えた。
貴族嫌いのマルトーは、さっさと厨房の奥に引っ込んでしまった。
「話は聞かせてもらったよ。ルイズが大変なことになっているようだね」
要は盗み聞きである。
「女装してモット伯に近づこう、なんて考えているようだが、そんなことはやるだけ無駄だよ」
考えたのは俺じゃない、と突っ込みたかったが、話の続きを聞く方を優先する。
「君の顔が女装向きじゃない、とかそう言う話じゃないんだ。

 モット伯に対して、性別を偽るのは絶対に不可能なんだ」

真顔で断言する。その言葉には確かな裏付けがあるらしい。
父から聞いただけで実際に目の当たりにした訳ではないが、と前置きしてギーシュは続けた。
「彼の女好きは有名だからね。妻や娘を取られまいとして、男の振りをさせる人も結構多いらしいよ。
 逆に、女の格好をして近づき、連れて行かれた女性を取り返そうとした人もね。今の君たちみたいに。
 でも、彼は騙されない。絶対にね」
冗談を言っているようには見えない。
「それは魔法の力、なのか?」
「そんな魔法はないよ。少なくとも聞いたことはないね。
 純粋な眼力……いや、そんなもので済まされるレベルじゃないか。
 膨らんだ布団だけ見て、中に居るのが男か女か分かる、とも聞いたな。
 ……生まれ持った才能なのか、鍛錬によって会得したのかわからないけど」
常人ではあり得ない『力』。しかもそれは魔法によるものではない。
当然、宝貝でもないだろう。
……とんだところに超人が潜んでいたものだ。
「『ヒヨコの雄雌判別選手権』で五年連続優勝したって話も聞いたな」
「……そんな大会があるのか」
無駄な技能の有効利用とはこのことか。
……優れていればいるほど馬鹿馬鹿しい技能というのはある意味貴重かもしれない。

まぁ、ともあれ女装作戦は却下と。そもそも採用する気もなかったが。
「夜闇に乗じて忍び込むか、通り魔的に襲いかかって奪うか……」
窃盗か強盗か。……どちらにしても泥棒には違いないが。
「最近モット伯は屋敷の警備を強化してるらしい。もちろん外出する時もね。
 仮にそれを突破できたとしても、それで終わりじゃない。
 彼自身が『トライアングル』のメイジなんだ。
 たとえ君でも一筋縄ではいかないだろうね」
『トライアングル』というのが如何ほどのものなのか殷雷には分からないが、
少なくともギーシュとは比べ物にならないだろう。
ギーシュはニヤリと笑う。
「簡単にはいかない。……君一人では、ね。

 僕も協力させてもらうよ。モット伯のやっていることは、全ての男と女に対する冒涜だ」
真っ直ぐ、殷雷の目を見て言った。その瞳に一切の翳りはない。
……疑う訳ではないが、一応釘を刺しておく。

「笛を奪った後、自分で使おうなどと考えるなよ」
「……………………」
ギーシュが硬直した。
「……おい」
「し、し、失敬だなキミは! そんなこと考えてないよ!! 君が言うまで考えもしなかったよ!!
 いや、でもそいつがあれば……ち、違う!!
 そんな物使うのは、男として最低だよ! 絶対に許されない行為だよ!!
 だから、ええと……と、とにかく、僕はそんな物使わ、使わないんだから! 勘違いしないでよね!?」

……余計なことを言って、無駄な葛藤を植え付けてしまったかもしれない。

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