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ウィザーズ・ルーン~雪風の翼~8

 二つの月が照らす塔にひっそりと佇むのは、ローブでその身を覆い隠した人物。
 だがいくらローブを纏っていても、わずかにこぼれる長髪や、女性特有の魅惑的な肢体の輪郭までは隠せない。
 女性の正体。それは昨今巷を騒がせている、「土くれのフーケ」であった。
 月明かりだけを頼りに、宝物庫の扉を手探りで調べるのだが、そこから伝わることは、フーケにとってわずらわしいものばかり。
「ええい。なんて数の固定化だよ。馬鹿みたいに厚みがあるし、これじゃ、ちょっとやそっとじゃ壊しようがないじゃないか」
 ええい、とぼやきながら、フーケは苛立ち混じりに扉を蹴とばした。


 当初はこの塔にある「隠れ身の衣」を盗み出す算段だったのだが、春の使い魔召喚でミス・タバサが船を召喚したことを知った時、考えが変わった。
 フーケはいっそのことだ、このさい船をいただいてしまおうと考えた。
 船丸ごとは無理でも、船に積んであるお宝ぐらいは盗めるだろう。フーケはそう考えていたのだが。
 忌々しいことに、常にあのヘイズという使い魔が船にいるため、どうしても手が出せないのだった。
 寝泊りが船内なのは言うに及ばず、日中は船内にこもりっきりでよく分からない作業に没頭し、その合間に入れ替わり立ち代りする生徒の相談を聞く。
 一日のうちでヘイズが船から出るのは、食事時と厨房の手伝いの時ぐらいなのである。
 食事時はフーケも食事を取らざるを得ないし、厨房の手伝いをしている時は召使が船内を掃除をしに来る。
 もはやフーケが盗みに入るのを、完全に見越してるんじゃないかとおもうほどの、完璧な布陣だった。
 そしてこれがとどめとなるのだが、生徒の一人が話しているのを盗み聞きしていたところ、あの船は動力部の調子が悪く、飛行できない状態にあるという。


 そして当初の目的どおり、宝物庫から「隠れ身の衣」を盗もうと、忍び込む算段をしていたのだが。
「こんなに頑丈じゃ、私のゴーレムでも壊すのは、かなり無理しないとダメだね……」
 フーケは憎々しげに壁を睨みつけた。
 この頑丈な壁さえなんとかすれば、お宝はすぐそこなのに……。
「かといって隠れ身の衣をあきらめるわけにはいかないね」
 歯がゆさをかみ締めながらも、フーケはどうやってお宝をいただくか、腕組みをしながら思考を巡らせ始めた。
 トリステイン中を恐怖に陥れている大怪盗「土くれのフーケ」が、この程度の障害でお宝をあきらめるわけにはいかない。
 これから手に入れるお宝を想像し、フーケは我知らず唇をゆがめていた。



 Hunter Pigeonの操縦室はまたもや大所帯となっていた。
 昼間の面子からギーシュとモンモランシーが抜け、代わりにルイズとサイトが入った形である。
 そしてルイズは城下町であった傭兵相手の大立ち回りを、得意げに語り聞かせていた。
 そこでサイトは買ってもらったばかりの剣を抜いて見せたのだが、
「なんていうか……言っちゃ何だがソレ、ボロボロだな……」
「ねえ、ルイズ。もうちょっと見栄えのいいのはなかったの?」
「ルイズ様の気持ちは痛いほど理解できます。ヘイズは働いても報酬が値引きされるのは当たり前。ただ働きもざらで、ひどい時には借金までこさえました。
いつも変わらず自転車操業でやっているため、ヘイズの家計は常に火の車でして、艦の装備を買うにも困る有様です。
ですから、ルイズ様が剣の購入で節約するのも、よく分かります」
 次々と強烈なツッコミに打ち抜かれ、サイトは崩れ落ちて泣いた。
 話も盛り上がったところで自信満々に抜いて見せた剣に対して、ヘイズとキュルケの哀れみのこもった感想、そしてとどめにハリーの神妙な同情である。
 それはそれは見事な連携であった。
「おいおい、オレのことをそこまで悪く言うかよ。見ろよ相棒の哀れな姿を。こりゃあ相当落ち込んじまってるよ」
「うおっ! 剣がしゃべりやがった!?」
 いきなりカタカタと動きながら、しゃべりだした剣を前に、ヘイズはずざざざっとその身を引いた。
「あら、インテリジェンス・ソードじゃないの」
「かなり希少」
 いきなり剣がしゃべりだすというヘイズのいた世界では絶対ありえない事態に、キュルケとタバサが補足をする。
 この世界は本当になんでもありだな、と呟くヘイズ。
 ハリーも顔の表示されたウィンドウをうなずくように、
「珍しいですね。世界を渡りましたが、剣がしゃべるのを見るのは私も初めての経験です」
 とマンガ顔を折りたたんで上下しながら答える。
 ハリーの発言を聞くが早いか、
「それをオメが言うかね。俺からすりゃ船がしゃべったり、顔を表示したりするほうが非常識に思えるがね」
 とデルフのツッコミが入る。
 確かにハルケギニアで、意思を持って言葉を発する船なんていうものは、どこにも存在しないのだった。


 話が終わり、武器屋で出会った少年のことをヘイズに尋ねられると、「あ忘れてた」と、少年にもらった手紙をいそいそと取り出した。
「こいつは確かに錬の字だな。なになに、エドワード・ザインと世界樹の地で合流? なんのこった?」
 エドワード・ザインと世界中の種と言えば、 元の世界で錬と出会うきっかけになった世界樹事件を思い出す。
 文章から察するに合流ポイントは、始めてエドワード・ザインと出会ったシティ・チューリヒ跡地近郊のプラントか、
世界樹の種を育てていたシティロンドン郊外のプラントあたりのことだろうが、ハルケギニアはもといた世界とは異なる世界である。
 ロンドンもチューリヒも存在しないはずなのだ。
 となれば錬との合流ポイントは、どこになるのやら。
 ハルケギニアではヘイズと錬にしか分からない暗号だが、それゆえにヘイズに暗号の意味が解読できないと合流ポイントの割り出しようがない。
 「あ、それは多分ラ・ロシェールのことじゃないかしら。あそこには世界樹っていう港が存在するわ」
 ヘイズが疑問に頭をひねっていると、ルイズが助け舟を出してくれた。
 聞けば錬はこの世界でも便利屋をやっていたと言うし、この世界の情勢もある程度調べが付いているのかもしれない。
 だとすれば、そのラ・ロシェールが合流ポイントである可能性もないとは言い切れない。
 ラ・ロシェールに行くには、やはりHunter Pigeonの調整がいよいよもって急務になってきた。
 さてどうしたものかな、とヘイズが考え始めたそのときだ。
 雷でも落下したような轟音と振動が、Hunter Pigeonの外から響いてきた。
「何事だ、ハリー!?」
「スキャン終了。画像、メインモニターに出します」
 阿吽の呼吸で外の様子が、操縦席のメインモニターに映し出された。
「な、なにこれ……」
 モニターに映し出された映像を見て、キュルケは驚きを隠せないように言った。
 そこには30メートルを越えようかというゴーレムが、塔の外壁を殴りつけている姿が映し出されていた。



 あれこれと考えた結果、フーケの取った手段は「力押し」だった。
 「固定化」の魔法と塔自体の厚みで、まさに鉄壁の守りだったのだが、それでもわずかに歪みの入った箇所があった。
 先日の決闘騒ぎの折り、ミス・ヴァリエールの使い魔が撃った銃の流れ弾が、たまたま塔の壁に傷をつけていたのだ。
 いかに強固な建築物でも、わずかながらでも綻びがあれば、打ち崩すことは容易い。土のトライアングルたるフーケには、そのことがよく分かっている。
 フーケは慌てふためいて出てきたヘイズたちを睥睨し、
「さーて、ガキ共が出てきた。けど、生徒風情が束になったところで私の土ゴーレムは止められないね」
 圧倒的な質量。それこそがフーケのゴーレムの特徴であり、そして中位以下のメイジに対する圧倒的アドバンテージ。
 単純に大きいということは、優れた城塞破壊能力だけを意味しない。巨大であると言うことは、それだけで大きな防御能力を持つ。
 蜂の一刺しでは巨大な竜の鱗を貫くことはできない。
 つまり、完全にゴーレムを破壊する為に必要な、強力な魔法とそれを扱う精神力。どちらも学院の一生徒には、持ち得ないものである。
 それを理解しフーケは嗤う。
「さあ、止められるものなら、止めてみるんだね。けど……わたしのゴーレムはそう簡単には崩せないよ」


 Hunter Pigeonの船外に出たヘイズたちが見たものは、土ゴーレムが塔の外壁を破壊し、何者かが宝物庫に侵入するところだった。
「ああっ! 宝物庫が! 何かを盗まれる前に、あいつを早く捕まえなきゃ!」
 侵入者の姿にルイズが叫び声を挙げるが、
「ゴーレムが先決」
「タバサの言うとおりね。背後から殴り倒されるのは御免だもの」
「決まりだな。まずはあのゴーレムから落とすぜ。ここは教師に任せてオレ達は退却ってのがもっともな判断だろうが、
トライアングルクラスが二人に、規格外も二人だ。この人数ならやってやれねえことはねえ。
あれは恐らく足止めとオトリを兼ねてるはずだから、速攻で破壊する必要があるな。
行くぜサイト、俺たちが前衛だ」
 ここで叩くべきはゴーレム。
 ルイズたちは頷くと、こちらにその拳を向け始めたゴーレムに、雨あられと魔法を解き放った。



 ――でけえな。ウィリアム・シェイクスピアと比べりゃ、さすがに小さいけどよ。
 ヘイズはひとりごちながら、ゴーレムに向けて片手をオーケストラの指揮者のように構え、地を這うように駆け出した。
(I-ブレイン起動。稼働率を三十パーセントに設定)

 ヘイズのI-ブレインには、通常備わっているはずの一切の戦闘用プログラムが存在しない。
 I-ブレインの九割以上を占めるほどに肥大化した演算素子は、その代償に出力端子や主記憶領域といった魔法の使用に必要な一切合財を枯渇させてしまった。
 そのためヘイズは魔法士でありながら、全く魔法が使えない。そのかわりひとつだけヘイズが持っているものがある。
 ヘイズがもつ唯一の能力。それは「予測演算」
 I-ブレインの九割以上を占める演算素子の演算力を用いて、ヘイズはほとんど予知に近い短期未来予測を可能とする。

「うおっ! さすがに直撃したら死ぬな、こりゃ」
 I-ブレインの吐き出すアラートに従って、その身を翻しゴーレムの攻撃を避ける。
(データ取得。誤差修正)
 今のはかなり際どかった。塔の壁を破壊するときの速度を基準にしていたが、攻撃時の速度は見た目に反して速い。
 速度の誤差を修正。これで次からはより正確な予測・回避が可能になる。
 爆発。炎球。氷柱。次々と叩き込まれる魔法に、ゴーレムはわずかに動きを止めるのみ。
「このやろう!」
 神速の動きでゴーレムに肉薄したサイトが、その手に持ったデルフリンガーを、魔法が被弾した箇所に振り下ろす。
 がこの攻撃も、ゴーレムの手首に切れ込みを作るにとどまった。
(予測演算成功。「破砕の領域」展開準備完了)
 駄目押しとばかりに、ヘイズが眼前に掲げた指を打ち鳴らす。
 予測演算により、つぶさに動きをトレースされた空気分子が、ヘイズが打ち鳴らした音に従って、空気中にある論理回路を作り出す。
 空気分子によって作り出された論理回路は、騎士の情報解体と同じ効果をもたらし、切れ込みの入ったゴーレムの手首を抉るように解体する。
 抉られた箇所だけが砂のように崩壊し、自重に耐えられなくなったゴーレムの手が、重力に従って落下した。
「すごい……これがヘイズの魔法……」
 キュルケが感嘆のため息をもらした。ルイズも同意するように、驚いた表情を見せている。
「まあ、厳密には魔法じゃねえんだけどな。……なに!?」
 ヘイズの視線の先では、先ほど破壊したはずのゴーレムの腕が、時計を巻き戻したように再生していた。
 ギーシュのワルキューレは一度破壊すれば再生しなかったため、こいつもサイズが大きいだけで同じだろうと高をくくっていた。
「再生能力付きかよ。これじゃあどうやっても倒せるわけないじゃないか!」
 サイトが吐き捨てるように叫んだ。チートだ、などと言いながらゴーレムの攻撃を防いでいる。
「再生はその場凌ぎ。一撃で破壊すれば、再度生成するのは恐らく不可能」
 タバサが打開策を口にするが、
「でもどうしろっていうのよ! そんな魔法スクウェアクラスでもないと使えっこないじゃない!」
 半狂乱に叫ぶルイズ。
 ――撃てるのは一発限り。しかも三時間は素で戦う羽目になるが、使うしかないか……!
 切り札を使うべきか否かヘイズが逡巡していると、ゴーレムは現れたときと同様に、前触れなくその身を崩壊させていった。
「な、何事なの?」
「……逃げられた」
 キュルケの疑問に、タバサが無表情で答えた。

 後になって駆けつけると、宝物庫の壁には文字が刻まれており、こう記してあった。
「隠れ身の衣、確かに領収いたしました。土くれのフーケ」

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