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虚無界行-4

第3章 穏やかな朝に

翌日、まだ日が昇りきらぬ時間に南雲は目を覚ました。
ベッドに横になったまま再度目を閉じると、自身の『内』へと意識を集中し、全身の状態チェックを開始する。

異常無し。

(後はこの『使い魔のルーン』とやらか)
身を起こし、左手に目をやる。
これは契約完了の証だという・・・こちらの意思を訊かずに契約も何もないだろうに。
毒になるようなものではない、とはルイズの弁だが信用してよいものかどうか。
己の身にルーンを刻んでその作用を観察したメイジも居まい。
メイジ達自身も知らないような妙な効果が無い事を願うばかりだ。

南雲は部屋を出て学園内を散策することにした。
当分の間拠点となる場所の詳しい間取り・施設の位置等を把握しておきたかったのである。

日が昇り始めている。
静謐な空気の中、日の光が世界を夜から塗り替えようとしていた。
春の風も、夏の陽も、秋の月も、冬の雪も。
―――――その一つ一つが、思い出の背景を美しく、鮮明に彩っていく事だろう。
確かにここは、学び舎にふさわしい環境であった。

と・・・建物の角の手前で、角の先からパタパタと小走りで
こちらへ向かってくる足音を南雲は聞き取った。
足を止める。数秒後、洗濯物がうず高く積まれた籠を抱えた少女が現れた。
メイド服をきっちりと着こなしている。学園の使用人だろう。
黒髪とそばかすがよく似合う、素朴な感じの可愛らしい少女であった。

「?・・・えーと・・あの・・・」
メイジにも見えず、さりとて顔見知りの使用人でもない。
南雲を目にした少女は、しばし怪訝な顔で考え込んでいたが、
「・・・あ!?もしかしてミス・ヴァリエールが呼び出された使い魔の方ですか?」
すでに噂になっていた平民の使い魔の事を思い出した。
物を抱えていたのに思わずポンと両手を打ち合わせてしまい、「あわわ・・・」と慌てて抱えなおす。



「まぁ―――――そうだ」
その様子に内心苦笑しながら、答える南雲。
「これから洗濯かね?邪魔をしたようだな、済まない」
ひょいと少女の進行方向から体を外し、散策を続けようとしたが、
「あっ、あの・・・何かお急ぎの御用事ですか・」
少女の問い掛けに、再度足を止める。

「いや、来たばかりでここの事は殆ど分からなくてな。
 細かい間取りを知っておきたくて歩き回っているだけだ」
「はぁ、なるほど・・・お仕事熱心なんですね」
使い魔としての任務に燃えているのだとでも思っているのか、
好感の篭もった眼差しで南雲を見つめる少女。

「そうだ!もし良かったらお教えしましょうか?学園の中なら私、細かい所まで知っているから
 お役に立てると思いますが・・・」
「それはありがたいが、洗濯の時間は大丈夫なのかね?」
「大丈夫、それぐらいの時間なら余裕綽々です!」
ニコッと、愛らしい笑みを浮かべて少女は請け負った。
「そうか―――――では、よろしく頼む」
「はいっ。じゃあ、取り合えず洗濯場まで一緒に来てくれますか?あそこは開けているから、
 主な建物は全部見通せて説明しやすいし、良く分かると思います。
 あ・・・いけない」
しゃんと背筋を伸ばし、南雲を見据えると
「私、ここでメイドとして奉公させていただいてます、シエスタと申します。あの・・」
礼儀正しく自己紹介をした。

「南雲秋人。南雲が苗字であき人が名だ」
南雲も名乗る。このハルキゲニアに来てから、初めての穏やかな会話であった。



しばし後、ここは厨房。
今朝も早くから、コック達が貴族の朝食の仕込みで大わらわである。

そこへやってきたシエスタを見て、コック長のマルトーが声をかける。
「おう、シエスタ!何だ、もう洗濯が終わったのか!?今日は洗う物が多かったんだろ?」
「あっ、マルトーさん。ええ、今日はこちらの方が手伝ってくれて・・・。
 ミス・ヴァリエールの使い魔の南雲さんです。ほら、南雲さん」
グイグイと腕を引っ張られ、厨房の中へ入ってくる南雲。振り払うわけにもいかなかった。
水牛の突進すら片手で止めうる男が、今は少女1人に身の動きを任せていた。
―――――これもまた、南雲を良く知る人間が見たら驚愕するに違いない。

興味深そうに南雲を眺めるマルトー。
「ほぉ、その兄さんが・・・にしたって早かったな」
「はいっ!凄かったんですよー南雲さん!もう、こうやってドシャーッてなって、
 見る見るうちに綺麗になって、それをまた片っ端から物干しに―――――」
興奮気味に喋るシエスタ。よほど感動したらしい。

仕事中に時間を割き、親切に説明してくれた礼代わりに洗濯の手伝いを申し出た南雲だが、
その後の光景は確かに、ちょっとした見物であった。

洗濯に何か大仰な技を使ったわけではない。ただ、そのスピードが常軌を逸していた。
到底1回では洗えぬ量を、軽々とかき混ぜて洗い上げ、
これまた1人とは思えぬスピードとテンポで物干し台へそれらを掛けていく。
通常一時間はかかるであろう量の洗濯物を、20分足らずで干しまで完了したその手並み。
超人は、戦闘以外においてもその力を遺憾なく発揮していた。

―――――バイオニック・ソルジャーの生みの親であるダグラス・マクルーア博士が
先ほどの様子を見たら、果たして何と言うだろうか。

ともかく、その様子を熱く語られて職人気質の塊ともいえるマルトーも大いに感嘆した。
「へぇ!そりゃあ俺も見たかったな。
 世話になったな兄さん。礼だ。ちっと早いが、朝飯を拵えるから食っていきな。
 俺達が普段食ってるまかないだから、遠慮は要らないぜ」
「実は私も、南雲さんに朝ごはんをご馳走したくて連れて来たんです」
マルトーもシエスタも、100パーセントの善意で勧めているのは間違いない。
「―――――いただこう」
南雲は観念すると、用意された椅子に腰掛けた。


ほどなく食事の用意が整った。
焼きたてのパンと熱いシチュー。数種類のジャムにバター。
新鮮な野菜を用いたサラダに、牛乳らしい飲み物。
異世界の料理がどういうものか多少気にしていた南雲だが、どうやらあまりかけ離れてはいないらしい。

南雲は一口一口、ゆっくり租借しながら食事を進めた。見事な味であった。
コックの腕はもちろん、食材自体も一流の物を使っている。
まかないだけでも、貴族の食事の贅沢さが想像できた。

「見事なものだ。貴族の食事を任されるとなると、やはり並みの腕では駄目なのだろうな」
表情のいつもの無表情であったが、賛辞に嘘は無い。

マルトーはそれを聞くと、大いに気を良くして語り始めた。

メイジは魔法を使える。そりゃあ大した物だし、おかげで生活が支えられてる。
だが、こうやって美味い料理を作るのだって料理人にしか使えない魔法だ。
それをあの貴族のガキ共はちっとも分かっちゃいない。
美味い料理が無い人生がどんなに味気ないか、想像してみろってんだ、とこういう調子である。

愚痴も混ざった話ではあったが、陰鬱な雰囲気ではなく和やかに話は進む。
そして話題は南雲の使い魔としての話へ飛んだ。

「そういえば、いきなり召喚されたのならお洋服の着替えとか、色々要りますよね」
シエスタの何気ない一言。
南雲にとってもそれは考えるべき事であったが、並みの特殊部隊員でもナイフ1本有れば
密林の中、1年はサバイバル生活をするだけの技術を持っている。
ましてやこの男は超人であった。
人並みの食事や柔かい寝床など、一生無縁でも過ごせるに違いない。


「生活の事については、主人と話が出来なくてな」
出来なかったというよりは南雲の方から一方的に会話を打ち切ったのであるが、その簡単な
言葉を聞いたマルトーとシエスタは、気の毒そうな顔を南雲に向ける。
主人の面倒臭がりか、ケチか・・・貴族側の一方的な理由で南雲の事を
放って置いていると考えたのである。

「ったく!本当に貴族ってのは・・・!平民の、それも使い魔の事なんざ適当で良いと考えてやがる。
 おい、秋人!腹が減ったらいつでもここへ来な。腹一杯食わせてやらぁ!」
力強く言うマルトー。いつの間にか呼び方が変わっている。
貴族は嫌いなようだが、太っ腹で気のいい『親父さん』であった。

「―――――そうだな。頼らせてもらおう。
 だが貰いっぱなしという訳にもいかん。俺に手伝える事があったらいつでも言ってくれ」
南雲も答える。その言葉に、「義理堅い所がますます気に入った」とマルトー。

それを見たシエスタも慌てて、
「あっ、じゃあほら、使用人の制服なら確か余っているはずですし、南雲さんが使っても
 大丈夫だと思います。
 その代わり、今度お洗濯のコツ教えてください。

 えと、それから・・・・」
一旦言葉を切るが、やがて意を決したように言い切った。
「・・・私も、名前で呼んでも良いですか?秋人さん、って」

年頃の少女の胸の内を察するのに、この様子だけを見れば十分であろう。
頬を染め、熱を帯びた目で南雲を見つめるその姿を。

「・・・・それは、構わないが」

そんな2人を見たマルトーは、ニヤリと笑って棚へ近づく。
戻ってきた時手にしていたのは、一瞥しただけで高級と分かるワインだった。
「本当は平民はこんな上等なワイン飲めないんだが、まぁ黙ってりゃバレやしないだろうよ。
 ほれほれ、一杯いきな。新しく生まれた愛の前途を祝って、な」
「ま、ま、ま、マルトーさん!」
プシューと湯気でも出そうなほど顔を赤くするシエスタ。
かまわずマルトーは3人分のグラスにワインを注ぎ、1つを南雲に差し出す。

南雲はグラスを受け取る。豊穣な香りが漂ってきた。
人生の、大事な時に飲むのにふさわしい味だろう。

悲しい傷を癒す時にも―――――嬉しい心を、より膨らませたい時にも。

「―――――ありがとう」
      • この言葉を口にしたのは、いつ以来だろうか?

胸を、腹腔を満たす温かいもの。
戦いの中で生きてきた男。戦いの中では機械となった。成り下がった。
究極の兵士、バイオニック・ソルジャー。

だが、南雲秋人は確かにこの一時、『人間』であった。

いつしか、南雲の鉄のような無表情に、別のものが浮かんでいる。
―――――微笑であった。

自分達がちょっとした奇跡を引き起こしたと知るわけも無く―――――
マルトーはまた豪快に笑い、シエスタは顔を真っ赤に染めながら、ニコリと微笑みを返した。


第3章―――――了

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