あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

T-0 12


 数度目の激突の際、ターミネーターの体はとうとう硬く厚みある石壁を貫き、
 突き飛ばした2体のワルキューレもろとも壁の向こう側へと大の字になって倒れた。
 その上に、崩れた壁が岩石となって体に落ち、ターミネーターの足が言葉もなく跳ねる。
 タックルを敢行したワルキューレは2体とも肩口から潰れ、さらに落ちてきた岩によって完全に原型を失った。

「おっと、僕としたことが……平民相手に本気を出しすぎたかな?」

 気障ったらしく杖を翻し、額から落ちる汗もぬぐわず口元に笑みを浮かべる。
 ついさっきまでガタガタ震えていたのはどこのどいつだよ! とは、誰も突っ込まなかった。 

「ターミネーター……」

 自分の使い魔のなすすべなくやられる姿を最前列で見ていたルイズは、壁の穴から半分
 ほど突き出ている黒い脚がピクリとも動かないことを知り、その場にへたり込んだ。
 現実を受け止めたくない。そう思うと体が呆然として、力がうまく入らなかった。
 「しょせん、やるだけ無駄だったんだよ」と、歓声に紛れてどこからか声が聞こえる。
 落胆したような、舌打ち交じりの低い声だった。

 一頻りの歓声の後、自然と広場から生徒たちが去っていく。
 まだ興奮の余韻に浸り、その場で馬鹿みたいに騒ぐものも何名かいるが、大半の生徒は興味を散らし、
 ばらばらと自分の部屋なり、新しい遊び場なりに帰っていった。

 キュルケもそんな一人だった、応えるように馬鹿みたいな立ち振る舞いをするギーシュを見ていても楽しいはずはなかった。
 あの使い魔――『たーみねーたー』だったかしら? ――には少し、期待のようなものを感じていたけれど、
 あれじゃあさすがに死んでしまっただろう。まったくもって、おもしろくない。
 艶のある赤い髪をなびかせ、自分も部屋に戻ろうと踵を返した……のだが、振り向いた直後に袖を掴まれた。
 何事かと目を配らせてみれば、タバサが小さな手でくいくいと袖を引っ張っている。

「タバサ? どうしたの?」

 尋ねてみると、タバサは頭を左右に振った。


「まだ、終わってない」




「う、うわああああああああぁっ!!?」

 悲鳴。耳を劈くような強烈で悲痛な叫びは、唐突な破壊音と同時に響き渡った。
 振り向いた先の当人――ギーシュ――は、驚きと恐怖に腰を抜かしてしりもちをつき、
 不恰好に両手でがさがさと地面を弄っている。
 ギーシュの見上げる先には、ターミネーターの姿があった。皮膚のところどころ剥げ、
 うっすらと光る銀色の骨が垣間見えるという痛々しい面持ちにもかかわらず、やはりというか、一切の感情がそこにはない。
 ターミネーターの一歩後ろには、大きな穴の開いた石の壁があった。
 そう、彼はギーシュのもたれていた分厚い石壁を、背後からブチ破って登場したのだ。

「わ、わあっ!」

 しりもちをつき、虫のようにずるずる這い回るギーシュの手から、ターミネーターは一瞬の早業で杖を奪い取った。
 そして、次の瞬間にはバキキッと音を立て、杖を握りつぶした。
 もとより魔法を扱う精神力は切れ切れになっていたが、メイジが杖を折られた。
 大前提に従い、通常の決闘の場合この時点でギーシュの敗北は決定したのだが……、ターミネーターは止まらない。

「え!? だ、だめっ!!」

 ほとばしった悪寒からか、ルイズは素早く起き上がると共に駆け出し、じりじりとギーシュに迫るターミネーターの背にしがみついた。
 精一杯の力で何とか止めようとするが、しかし、彼は背中にルイズを引っ付けたまま、まったく問題なく動き続ける。
 屈強な殺人マシーンをか弱い少女一人で止めるには、土台無理があった。
 ルイズはただっ広い背中を掴む自分の手が、いつも以上に小さく、なんとも頼りなく見えた。

「だめよ、だめっ! それ以上やったら後々大変なことになっちゃう!
 あんたが強いのはわかったから、もう止めなさい!!」

 何とか肩によじ登り、精一杯耳元で叫んでやる。
 それでも、ターミネーターは変わることなく歩を進めた。
 元から短絡的だったルイズは、自分の言うことを聞かないこいつに、少しイラっとした。

「止めなさいって、言ってるでしょうが!! いい加減にしなさい! このオンボロっ!!」

 そして、キレた。

 同じ叫びでもギーシュのそれとは正反対の、怒りのこもったそれは、
 至近距離で耳に当てられれば間違いなく鼓膜が破裂するだろう強烈な音波。
 さすがのターミネーターも、凍りついたように動きを止めた。
 くるりと首をまわすと、ややむっとした顔つきで至近距離にあるルイズの顔を覗き込んだ。

 不機嫌に見える彼の顔は、近距離で見ると余計に怖かったけれど、ようやく止まった。
 額の汗をぬぐうルイズの口から、「ほっ」と安堵の息が漏れたのだった。

 ギーシュは腰を抜かしたまま、しかししぶしぶ降参宣言をし、決闘は終局を迎えた。
 ルイズは黙って踵を返したターミネーターの背にしがみついたまま、部屋へと戻るように指示を促した。
 道中、いい加減彼の服を握り閉めている手が痛くなったのだが、ターミネーターがタイミングよくルイズを持ち上げ、
 そのままゆっくりと地面に下ろしてくれたおかげで、とりあえず痛みを我慢する必要はなくなった。



 時を同じく、場所は変わり、学院長室――。

【炎蛇】こと、禿げ頭に汗を滲ませるコルベールと、長い口髭を撫で回すオールド・オスマンの二人が
 壁にかかった鏡――もちろん、鏡に映るものは、ヴェストリ広場での決闘生中継の様子――を見つめ、顔をしかめていた。

 ここに来るとたいてい落ち着かない様子を見せるコルベールはともかく、オールド・オスマンの表情に
 いつもの飄々とした面影は見られない。真摯な瞳で、ただじっと事の流れを見届けていたのだ。

 ちなみに、ミス・ロングビルには既に、この場から退出してもらった。
 コルベールがオスマンに“話すべきこと”を示した直後から、オスマンの表情は変わっていたのだ。
 ただ、オスマンは詳しい説明を大して受けもせず、コルベールの話の上辺をさらりと聞き流した後、
 さすが思い当たる節があるのか、腕を組んで物思いにふけ込んだ。
 そのしばらく後、ロングビルからの決闘報告を聞くなり、オスマンは何も言わず『遠見の鏡』を作動させたのだった。

 そして決闘が終わった今、鏡から映像が消えた。
 しばらく放心したようになっていたコルベールは、おそるおそるオスマンに話しかけた。

「勝ってしまいましたね」
「うむ……」
「それも、圧倒的に勝ちましたね」
「うむ……」
「ギーシュは『ドット』クラスのメイジですが、ああもあっさり勝つとは……
 彼はただの平民ではない! 初見から只者ではないと思っていたが、やはり彼は伝説の――」
「『ガンダールヴ』じゃな」 

 コルベールの言葉を引き継いで、つぶやくようにオスマンが続けた。

「そうですよ! これはものすごい大発見ですよ!」 

 精神的に高揚しているのだろう、コルベールは慌てて机上に置かれた古い本をめくり、もう一方の手で持っていたスケッチを開いた。
 それらに目を配らせ、自分で見合わせたあと、オスマンの眼前に見せびらかすように突きつける。
 決闘の最中からそれを何度も見せられていたオスマンは見飽きていたらしく、うんざりした様子でそれを手で払うと
 「わかったわかった」とばかりに大きなため息をひとつ漏らした。

 どうにも、嬉しそうではない。コルベールは疑問に思った。
 歴史的大発見を目の当たりにして、この人はなぜ、こんなにも気分が悪そうなのだ?

「伝説の『ガンダールヴ』か……。また厄介なものが転がり込んだもんじゃのう……」 

 顎鬚を撫で、片手で頭を抱えると、オスマンはコルベールに聞こえぬようため息を吐くと、
 心の中でぼそりとつぶやいた。 



 部屋に戻ると、急に疲労感が襲ってきた。
 肉体的にはそんなに疲れることをしてないから、たぶん、これは精神的なものからきているのだろう。
 おぼろげにそんなことを考えながら、ふらふらとおぼつかない足取りでベッドに倒れこんだ。
 ベッドが体の重さ分沈み込み、体に感じる適度な弾力さと柔らかさは、なんともいえぬほど気持ちがいい。 
 うつ伏せに付して顔をうずめていると、今度は眠気が襲ってくる。
 体を返し、ボーっとした瞳で天井を眺めているとき、視線の端に黒いものが映り込んで、
 ふと、思い出したようにルイズは言った。

「怪我のほうは大丈夫なの?」

 仰向けの状態で目線を下に配らせると、黒いものがはっきりと輪郭を現した。
 筋骨隆々とした男は言わずもがな、現ルイズの使い魔であるターミネーター『T-800』である。
 彼は物静かに仁王立ちし、ドアの傍からルイズのことを眺めていた。

「自然に治る」 

 彼は重苦しく閉じ合わさった口を少し開き、低い声で言った。
 彼の顔はいたる所に裂傷、打撲の傷跡を着けさせ、ひどいものでは皮膚がはがれ、血で滲んだ骨が垣間見えるほどである。
 ルイズはふーんと興味なさそうに返事をすると、のろのろと上半身を持ち上げ、ターミネーターを見上げた。

「ねぇ……ターミネーター。あんた、いったい何処から来たの? 本当に……本当に人間じゃないの?」 

 嫌に落ち着いた声でルイズが尋ねると、ターミネーターはルイズの目線まで体をしゃがませた。
 顔についた傷をより近くで見ることになったが、ルイズは傷そのものよりも、あることに目を奪われた。
 ターミネーターの右目上の裂傷、ほんの数センチ程度の傷であったが、中に見える、骨にだ。
 それは部屋に掛けられたわずかなランプの光を拾い集め、鈍く重々しい“銀色”に光っているのだ。本来、骨の色は白ではないのか、
 【白骨】という言葉もあるくらいだし……。 

 不意に、頭の中に映像が流れ込んだ。薄暗い世界、積み上げられたゴミ屑。間違いなく、昨夜見た夢……悪い夢だ。
 その夢の最後を思い出した。駆け出した自分の先に立っていたのは間違いなくこの使い魔。
 けれど、その顔は半分の皮膚が焼け爛れたように黒く禿げ、驚愕に体の動かない自分を、煤にまみれた銀色の頭蓋骨と、赤く光る目が見つめていた。

              ――――『おれはターミネーターだ』――――

 映像が脳に焼きつき、さらには最初に質問した時のターミネーターの答えが、映像にそっくりリンクし始める。 
 しかし、考えても使い魔について何の知識もない自分がわかるはずもなく、たまりかねて、こうした質問したのだ。

「おれはターミネーターだ。2029年から1994年のロスに送りこまれた後、理由はわからないが、ここに送られた。」 
「だーかーらーっ、その“ろす”とか2029年とか1994年っていつのどこよ?」
「おれのいた世界の地名と、年号だ。おれがもともと『造られた』世界では、人間は存亡を掛けて戦争をしている」   
「戦争って、そのくらい…………ちょっと待って、あんた今“おれのいた世界”って……?」 

 ターミネーターは「ああ」と頷いた。

「おれはこの世界とは、違う世界から来たようだ」


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