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零の使い魔

 青年は一人、七万の軍を前に立っていた。
 そこにはひとかけらの恐怖もなく、ひとかけらの絶望もない。
 ただ前を向き進む意思だけがあった。


 青年は使い魔であった。
 気がつけば倒れていた森の中、彼は耳の長い女性に必死に謝られていた。
 女にとって彼は呼び出してしまった被害者だったから。
 それでも彼はうらみの言葉一つこぼすことなく、ただ食事と寝床の提供に頭を下げた。


 戦争が起こった。
 どんな戦争なのか伝聞で耳にしてあまりの主体性のなさに青年は頭を傾ぐ。
 聖地の奪還? そんな終了する目安のわからない戦争に何故皆が力を貸すのだろうか。
 だがどれだけ現状への違和感をぬぐえなかろうと、彼はだた恩義のために戦うのみ。

 ある日賊が村を襲った。
 戦争中には必ず出る盗賊、略奪と虐殺はどれだけ近代戦になろうとなかなか無くなりはしない。
 当然彼のいる村にもそういったやからが押し寄せた。

 無理難題を押し付ける彼らに、青年はあろうことか徒手空拳で立ち向かった。
 一人殺せば言うことを聞くだろう、そう思ったのか武器を振りかぶった盗賊は、彼の拳であごを強打されて意識を飛ばした。
 唖然と動きを止める彼らを見、彼は賊たちの扱いを考えた。

 ただ逃がせばさらに大勢を引き連れてくるだろう。ならばここで徹底的に釘を刺すべし。

 周りに自分を呼んだ女性や子供たちがいないことを確認し、彼は地面を蹴った。
 彼らが慌てて迎撃耐性に入れたのは半数以上が始末された後だった。

「撤退し二度と来ぬならば命は見逃そう。だが次はその命頂戴仕る!」

 それでも何度も何度も盗賊達は村に押し寄せてきた。
 戦争が長く深いほどそれは多くなる。
 とくにこの村には青年を呼び出した彼女がいる。
 好事家に高く売れると下卑た笑いを漏らした一団は、あっけなく再起不能にさせられた。

「金に代えうる命など無い!」

 戦争には意義や大義が必要だ。言い訳がなければならない。
 だが彼がどれだけ調べても、それは“良くわからない”だった。

 聖地を奪還する、それはよし。
 エルフがいるらしいから彼らを打倒し聖地を奪還する、そこまではいい。
 戦争とはあくまで政治的行動の一環に過ぎない。
 ならば当然利益を求めての行動でなければならないはずだ。
 つまりあまりにも意味がない戦争をしていることになる。

 まるで狂信者のごとき行軍。

 それはかつての彼の兄に従うものを思い出させた。

 ならば守り戦わねばならない、己は牙持たぬ人の剣なれば。



 サイトは戦場で傷だらけで立っていた。
 七万の軍勢の中たった一人、デルフを片手に孤軍奮闘。
 何故そうしたのかはわからない、何故死に挑んだかはわからない。
 だがサイトは一人デルフを杖に満身創痍で立っていた。

「美事よな。我がアルビオンにいれば英雄になれたろうに」
「うるせえよクソッたれが。誰が弱者を一方的になぶるようなクズの裏切り者に付くか」
「はっはー! 良いぜ相棒! そのおっさんも切り捨てて凱旋といこうじゃねえか!」

 その言葉を周りのメイジ達はあざ笑った。
 彼らにとって平民は、家畜となんら変わらないのだから。

「平民が少々死のうが何の問題がある?」
「別にいいだろ、大した命でもない」

 ああ、と、サイトは理解した。
 何故ルイズから離れなかったのか? 何故こんな無理のある戦場に一人残ったのか?

 気に入らないからだ、彼らが。

「理由には十分だろ?」
「あん? 何だよ?」
「こいつらは気に入らない、理由としては十分だろ?」
「はっ! 違いない!」

 周りのメイジ達が杖を構える。
 避けられない、わかってはいても引く気は無かった。
 自分たちに、価値がないなどと言わせはしない。

「手前らみたいなクズにやれるほど、安い命じゃないんだよ!」
「ほざけゴミが! 平民ごときに価値などあるか!」

 飛来する魔法、デルフで受け止め切り捌く。
 切って切って受けて切って、そのうち一つが直撃した。
 大した威力でもないエア・ハンマー、だが当たり所が悪かった。
 あごを掠めるように放たれた一撃が脳を揺らす。

「(あ、やべ、意識が……)」
「相棒! しっかりしやがれ!」

 デルフの叫びもむなしく、サイトの意識は闇に落ちる。
 意識が沈む直前、誰かの声が聞こえた気がした。


「(くそったれくそったれくそったれ! あと少し、あと少しあれば相棒の体を動かせるのに!)」

 無力感に打ち震えるデルフ、その横でレコン・キスタのメイジ達はサイトに止めを刺すために歩み寄る。

「まったく、てこずらせてくれた」
「本当に。平民ごときがなんとも偉そうに」
「ふん、所詮は雑草、ここで死ぬのが定めよ」

 メイジは杖を掲げ呪文の詠唱を開始する。

「否! 雑草という草はない!」

 誰かの声がさえぎった。



 そこにいたのは青年だった。
 二十手前くらいだろうか? 短く刈り込んだ髪と四角いメガネ、そして整った顔。
 その男が着る服は、サイトの認識の中では“詰襟の学生服”と呼ばれていた。
 右手に下げられているのは学生カバン。
 その硬そうなレギンスをのぞけばどこからどう見ても日本の学生だった。

「戦闘行為の停止を進言する! その少年にはもはや戦闘能力はあらず! 何ゆえ命まで奪おうとするか!」
「はあ? 何言ってんだ平民が」
「別に平民一人死んだところで問題があるのか?」
「敵を殺して何が悪い」

 同じく平民だろう彼に向けられる声は、やはり侮蔑が込められている。

「その少年の命に価値がないと言うか!?」
「当たり前だろう。大体何だ貴様、平民の分際で」

 青年の心が怒りに染まる。
 それは代弁する怒り、牙持たぬ弱者の悲しき怒り。
 正しい怒りをその胸に、彼は指を男たちに突きつける。

「その命を軽んじる発言、交戦の意思ありと認む!」
「まったく、変な平民が多いなあ」
「殺しておけ。面倒だ」

 彼らの言葉を気にも留めず、青年はカバンを地に落とす。
 そのあまりに重たい音に思わずメイジたちが杖を構えた。

「瞬・着!」

 カバンから放たれる光、それに包まれる青年。
 光が納まったときそこには、黒鉄の鎧に身を包む戦士が一人。

 それはか弱きものの怒り。
 戦う力持たぬ、弱者たちの代弁者。
 その拳にこめるは必勝の意思。

「覚」

「悟」

「完」

「了」

 それは牙持たぬ人の祈り。

「当方に迎撃の用意あり!」






終わり

-「覚悟のススメ」より葉隠覚悟を召喚

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