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白き使い魔への子守唄 第9話 ルイズと踊れ

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帰還したルイズ達はさっそく学院長室へ赴き、オスマンとコルベールに報告する。
ミス・ロングビルの正体が土くれのフーケだったという事実は、
彼女の色香に全力で騙されていたオスマンとコルベールにとって相当の衝撃だった。
オスマンは酒場で偶然出会いお尻を触っても怒らなかったから秘書に採用したと言うし、
コルベールも実はロングビルに宝物庫の弱点を聞かれてペラペラ喋っちゃったりしてる。
大丈夫かこの学院。

   第9話 ルイズと踊れ

「ま、何はともあれみんな無事でよかったよかった!
 君達に『シュヴァリエ』の爵位申請を王宮にしといてやったから、
 その冷たく蔑むような視線はそろそろ勘弁してくれんかのー」
学院長の身でありながら下手に出るオスマンに皆一様に呆れたが、
シュヴァリエという餌に釣られたルイズとキュルケはすっかり上機嫌になる。
だが、ふいにルイズの表情が陰った。
「……オールド・オスマン」
「む? 何かね、ミス・ヴァリエール」
「あの……その、えっと」
ルイズは、自分達の後ろで控えているハクオロへ視線を向けた。
感情の読めない表情で見つめ返され、すぐにオスマンへと向き直る。
「……ハクオロには、何もないのでしょうか?」
「彼は平民の上、お前さんの使い魔じゃからのう。
 いわば彼の手柄は主の手柄、彼への褒美は君達がシュヴァリエの称号を得る事じゃよ」
「じゃ、いらないわ」
あっけらかんとした口調で突然とんでもない事を言うキュルケ。
さすがのタバサも驚いた。
「あー、それは、ミス・ツェルプストー……シュヴァリエの爵位を辞退する、と?」
「シュヴァリエの爵位くらい、いずれ自力で取るからいいわ。
 それに、ハクオロは私からの贈り物を受け取らなかったのに、
 私だけ受け取るっていうのは、どうもね」
キュルケは後ろにいるハクオロに振り向いて、ウインクを決める。
「ま、待ってくれキュルケ。剣の件だが、自分は結局あの剣を折ってしまった。
 本来弁償しなければならないのに、君はそれをいともたやすく許してくれたろう。
 だから、私の事など気にせずシュヴァリエの爵位を得るべきだ。
 私抜きにしても、君達一人一人の功績は十二分に大きいものだ」
「そうね。誰一人欠けていてもフーケを捕まえて天照らすものを取り返すのは不可能だった。
 四人全員が力をひとつにしたからこその功績なの。
 だから、ハクオロがいなければ私達は生きて帰る事すらできなかったかもしれない。
 そのハクオロのご褒美が、私達への爵位だというなら、本当にいらないのよ」
「キュルケ……」
「オールド・オスマンや、あなたの言う事はよく解るわ。間違ってるとは思わない、でも。
 あなたからの贈り物はこんな形じゃなく、あなたの手から直接渡してもらいたいもの」
どちらからともなく、キュルケとハクオロ双方が微笑む。
すっかりなごやかな空気に変わったところで、タバサも口を開いた。
「私もいらない」
なごやかな空気がまた驚きに染められるが、キュルケだけはクスクスと笑っている。
「あら、どうして?」
「もう持ってる」
「そう」
そして、ルイズ。今度は彼女が何か言い出すだろうとオスマンとコルベールは視線を向ける。
キュルケとタバサも、ハクオロもルイズに視線を向けた。


ツェルプストーのキュルケが辞退し、タバサまで辞退した今、
ここで自分だけシュヴァリエの爵位をもらいますなんて言ったら、
空気読めないとか浅ましいとか、貴族として非常によろしくない評価を得てしまう。
『ゼロのルイズ』としてコンプレックスを持っていたルイズにとっては、
喉から手が出るほど欲しいシュヴァリエの爵位。しかし、しかし!
「……わ、私も辞退します」
精いっぱい強がって、何ともないって表情の裏で、号泣するルイズ。
わざわざつき合う事ないのに、とキュルケは呆れ顔を浮かべながら、どこか嬉しそうだ。
ハクオロも「もったいない」と溜め息をついている。
コルベールは困り顔、オスマンは残念なような嬉しいような曖昧な表情。
「どうやら三人とも、シュヴァリエ以上に大事な貴族としての精神を持っているようじゃ」
貴族としての精神。
そのキーワードに、ルイズが反応する。
(貴族……貴族としての、精神……)
ギュッと唇を噛んだルイズを見て眉根を寄せながらも、オスマンは話を終わらせようとする。
「では、とりあえずこれにて解散とするかの。皆、ご苦労じゃった。
 今宵はフリッグの舞踏会、主役は諸君等三人。思う存分楽しんでおいで」
キュルケとタバサが一礼し、ルイズは、拳をきつく握って、吐き出すように語り出した。
「も、申し訳ありません! 天照らすものが奪われたそもそもの責任は、私にあります!」
いったい何度驚かされればいいのか、とコルベールはすっかり驚き疲れている。
一方オスマンは「ほう?」と余裕たっぷりだ。
「あの晩……私は塔の外壁に魔法をかけてしまい、その、失敗しました。
 ご存知かとは思いますが、私の魔法は失敗すると爆発を起こします。
 外壁が私の爆発で崩れた直後、土くれのフーケが現れて……」
「なるほどのう。フーケ如きに破られる壁ではないと思っていたが……。
 しかし魔法の失敗による爆発か。それが固定化などに変な作用を起こしたのかのう」
「今まで黙っていて、申し訳ありませんでした。いかなる罰でも……」
「いや、罰など与えんよ。失敗魔法程度で崩れる壁が悪い、我々の管理責任じゃよ。
 さ、舞踏会に備えて着飾ってきなさい。あー、それと、ハクオロ殿は残るように」
今度こそお開きと思いきや、ハクオロだけ残るように言われ、ルイズは困惑した。
だがハクオロはそうではないらしく、残される心当たりがあるようだ。
「あの、ハクオロに何か?」
「何、たいした事ではない。ちょっと世間話でもしようかと思っての」
どうやらハクオロだけを残したいようだと察したルイズだが、
当のハクオロはそうなるつもりは無いらしい。
「何の話なのかは想像がつく。だが、ルイズもこの場に残して欲しい。
 彼女は無関係ではないと……私は思う」
「ふむ……。ミス・ヴァリエール、どうするかね?」


キュルケとタバサ、それからコルベールも去り、
学院長室にはハクオロとルイズ、オスマンが残った。
オスマンは早速、取り返してもらった天照らすものを机の上に置く。
「報告では、ミス・ヴァリエールがこの腕輪の力を引き出したそうじゃな」
「ええ。土くれのフーケは、クスカミの腕輪を使えなかった。
 なのにルイズには使う事ができた……その理由をご存知なら教えてもらいたい」
「クスカミ……とな?」
オスマンの双眸が細まり、ルイズもクスカミの腕輪という単語を奇妙に思い眉根を寄せる。
「……なぜか、この腕輪の起こした雷光を見ていたら、その名を思い出した」
「ほう。やはり、そうであったか」
「オールド・オスマン。クスカミの腕輪についてご存知の事を、すべて話して欲しい。
 どこで手に入れたのか。誰から手に入れたのか。使い方は。
 ルイズが使えてフーケに使えなかった理由は。この腕輪は私と何か関わりがあるのか」
「そんないっぺんに質問されてものー。とりあえず順番に話すとするか」

オールド・オスマンとクスカミの腕輪の出会いは約五十年ほどさかのぼる。
若き日のオスマンはある日、とある森でワイバーンと遭遇し襲われていた。
当事のオスマンにワイバーンを退けるだけの力は無く、殺されるのは時間の問題。
しかし突如、十本近くにも及ぶ数の巨大な雷光がワイバーンに降り注いだ。
その天を照らすが如き凄まじき威力と閃光にオスマンは驚愕した。
いったいどんなメイジがこんな魔法を。
しかし、その場に現れたのは、獣の耳と尾を持った亜人だった。

「――亜人?」
ハクオロの問いに、オスマンがうなずく。
「奇妙な亜人じゃった。亜人は人間と交流が無いとはいえ、ある程度は認知されておる。
 じゃが、奇妙だったのはその娘の着ておった服。
 我々人間の着る服とはまったく異なる装い、では亜人の装いか? そうではない。
 少なくとも人間、亜人を含め、ハルケギニアに住む者の衣類ではなかったのじゃ。
 私は考えた。この亜人の娘は、ハルケギニアの外、東方から来たのではないかと。
 そして……その娘の着ていた服、男女の違いはあれど、お前さんの服とそっくりじゃった」
「では自分は東方の人間……?」
「しかしすぐ、その娘が東方の者であるという考えは否定された」

――ここは、どこですか。なぜ、月がふたつあるんですか。
そう言って、娘は倒れた。ついさっきまで戦場にいたかのような重傷を負っていたのだ。
オスマンはすぐに彼女を学院に運び、手厚く看護したが。

「死んでしまった……と」
「うむ」
落胆するハクオロの言葉を、短く肯定するオスマン。
その瞳は憂いの色に満ちていた。今でも、その恩人の死を悼んでいるのだろう。
「クスカミの腕輪はその娘が持っていたのか」
「最初は先住魔法かと思ったのだじゃが、彼女は腕輪の力を解放しただけと答えてくれた。
 オンカミヤリューでもない自分が術を使えるはずがないと苦笑しておったな」
「オンカミヤリュー?」
聞き覚えのある、しかし意味の思い出せない単語にハクオロは腕組をして頭を捻る。
「オンカミヤリューとは、恐らく彼女のいた世界でのメイジを差すものと私は考えておる」
「彼女のいた……世界? まさか、月が」
「勘がいいのう」


亜人の娘は、オスマンや学院の人々の服装や、何より耳や尻尾が無い事に驚いていた。
耳はあるにはあったが、毛が生えていないと驚かれた。
オンカミヤリューかと一瞬勘違いしたらしいが、
それでもあるべきものが無いためオンカミヤリューではないと判断されたらしい。
重傷で、助かるかどうか際どかった彼女は、オスマンにいくつかの事柄を言い残そうとした。
その中に結局オンカミヤリューとは何かというものは含まれていなかった。

「彼女は言った。自分はケナシコウルペという国の薬師だと。
 その国には、いや、その国があった大陸には月がひとつしかなかったらしい
 いくら東方といえど、月が一個減るなどありえぬ話よ。
 じゃから私は、彼女がいた国は、距離をという概念を越えた別世界だと考えた」

――ここがどこかは解りません。けど、きっと私のいた國から遠く離れた所なのでしょう。
息も絶え絶えになりながら、彼女は懸命に遺言を伝えた。
己の主であるケナシコウルペ皇(ウォルォ)に、最期まで尽くせなかった事を詫びて欲しい。
大恩あるワーベ様に、この腕輪を与えてくれた事を今一度感謝したい。
同じ薬師として尊敬するトゥスクル様に、もう一度ご教授願いたかった。
――そして、ハクオロ殿。
――あのお方が何者であるかは解らない。しかしあのお方はこの戦を勝利に導く最後の希望。
――ハクオロ殿から与えられた任務をこなせぬまま異境で果てる我が身を許して欲しい。

「そう、お前さんに与えたハクオロとは、その娘が言っておった名前じゃ」
オスマンに視線を向けられ、ハクオロは戸惑った。
話に入り込めずにいたルイズの混乱も、ここで一気に高まる。
「ですが、オールド・オスマン。なぜそのハクオロという名を、私の使い魔に?」
「ハクオロというその男は、顔半分を骨のような白い仮面で隠していたという」
「仮面……」
ルイズは改めてハクオロの仮面を見た。
確かに、あの白い仮面は綺麗に磨いた骨のように見えなくもない。
何かの生物? の、頭蓋骨を元に作ったと考えると、案外しっくりくる。
ハクオロは己の仮面を撫でながら、静かに息を吐いた。
「……しかし私はそのハクオロという男ではない」
「じゃろうな。彼女が死んだのは約五十年ほど昔の話じゃ。
 その時、ハクオロという男が何歳だったかは知らぬが、生きていたら五十を越える。
 お前さんはどう見ても二十から三十の間くらいにしか見えんのう。
 しかし同じ『月がひとつ』の世界から来たであるお前さんに相応しい名は、
 ワーベ、トゥスクル、ハクオロの三つの名しか知らぬ私にとって、ハクオロしかない」
「……その娘は、己の名は明かさなかったのですか?」
「…………」


――ケナシコ……ウルペの王。ワーベ。トゥス……クル、ハクオロ。覚えたぞ。
――そ、その方々に、私の、最期の言葉を、どうか。
――うむ、伝えてみせるとも。いつかきっと、月がひとつの世界に行き、伝えるとも。
――腕輪、は、お礼に上げる
――礼など、私は君に命を救われたんだ。しっかりしろ、気を強く持て。……死ぬなっ。
――あり、がと。オスマン。
――最後に教えてくれ。君の名前は?
――私、は………………。
――聞こえない。……頼む、死なないでくれ。恩人の命も救えず、名も知れずでは……。
パクパクと、唇を動かす事しかできない亜人の娘。
オスマンは、彼女の手を握り、何とか言葉を聞き取ろうと口元に耳を近づける。
と。
娘は最後の力を振り絞って、オスマンの頬に、唇を。
驚いて飛び上がったオスマンが彼女の顔を見下ろすと、満足気に笑っていた。
死に顔は笑っていた。

「惚れると同時に逝きおった」
どこか遠くを見つめながら、オスマンは天照らすものを撫でる。
この老齢の男にも、そんな甘酸っぱい、しかし苦々しい過去があるのだと二人は知る。
「彼女を埋葬した私は、礼としてもらった腕輪を試してみた。
 だが何をしようと腕輪は反応せず、ディテクトマジックも無意味じゃった。
 しかし宝石の中で渦巻く蒼の奔流を見て、このアイテムはまだ生きていると確信した。
 そこで私は『天照らすもの』と名づけて学院の宝物庫に封印したのじゃ」
「それでは……なぜルイズがクスカミの腕輪を使えたのかは、解らないと?」
「それはむしろ、腕輪の本当の名前を知るお前さんが知ってるはずの知識じゃ。
 まあ記憶喪失じゃあ仕方ないがのー。ほっほっほっ」
楽しそうにオスマンは笑ったが、ハクオロは気難しい顔をしている。
自分の故郷だと思われる所の情報は得られたが、月の数が違う別世界などどう帰ればいい。
オスマンの言う通り、月の数が違って見える國など同じ世界にあるとは思えない。
月の数が違う、という現実を受け入れるならば、SF的な考えになるがここは別の星?
しかし異星人というほど自分達が違った存在には見えない。
パラレルワールドだとか異世界だとか、そういった単語の方がしっくり来る。
「……考えれば考えるほどに解らなくなる」
ケナシコウルペの薬師という娘も、ここがどこであるか解らなかった。
ならば同じ世界から来たと思われる自分も、
記憶を取り戻そうがここがどこでどうすれば元の世界に帰れるのか解らないのではないか。
「まあ、解らん事は無理に考えん方がいい。
 情報不足でどう考えても答えが出せぬだけだとしたら、無為に疲れるだけじゃ」
「……そうかもしれませんが……自分の場合、考える事で記憶が戻るかもしれませんし。
 あるいは何かきっかけが……そう、クスカミの腕輪のようなきっかけが」
「クスカミ、か」
オスマンは水パイプで一服すると、クスカミの腕輪を持ち、ハクオロを手招きする。
「あの、何か?」
「平民で使い魔だから褒美をもらえないお前さんに、私から特別サービスじゃ」
と、オスマンはハクオロに、恩人の形見を手渡した。
先の話で、オスマンの恩人に対する思い入れは重々承知している。
だからその形見を渡すという行為は、如何なる意味を持つのか。
「これは私がもらった物だが、記憶の手がかりとして持っておくがよい」
「……いいんですか?」
「どうせ使い方も解らんし、いつかお前さんが元の世界に帰れた時、
 せめて彼女の遺品だけでも……などとセンチメンタルなアイディアが浮かんでのう。
 さあ、そろそろ行かんと舞踏会に遅れるぞ。行った行った」


ケナシコウルペという國と、その皇。
クスカミの腕輪の元々の持ち主らしいワーベという男。
薬師のトゥスクル。
白い仮面の男ハクオロ。

約五十年も昔の人物ではあるが、自分と何か関わりがないだろうか。
そう考え、月がひとつの世界の人々の名を心の中で反芻する。

ケナシコウルペの皇。ワーベ。トゥスクル。ハクオロ。
なぜだろう、そのすべてが、とても懐かしい。胸が、ざわめく。
特に、トゥスクルという名。
使役した事があるような、世話になった事があるような、
喪った事があるような、大切な何かに名づけたような、そんな不思議な名前。

「飲みすぎだぜ、相棒」
フリッグの舞踏会はアルヴィーズの食堂の上の階のホールで行われた。
陳列された料理の数々に舌鼓という気分ではなかったハクオロは、
一人宴の席を外れ、バルコニーで月見酒を飲んでいた。
「デルフ。私は、何者なのだろうか……」
「……さあねえ」
柵に立てかけられたデルフを相手に、ハクオロはワインを不味そうに飲む。
今宵の宴に出されたワインは年代物の高級品だが、気分の問題で味は変わる。
「あの爺さんの話は俺も聞いてたけど、正直チンプンカンプンだわ。
 ケナ……何とかやら、トゥススルだとか、変な名前ばかり出てきやがるし」
「ケナシコウルペとトゥスクルだ」
「あー、そうだっけ? それからあれだ」
「ワーベか?」
「クスカミ。雷を出す腕輪が、何でクスカミって名前なんだ?」
「確か……水の神の名前だったはずだ。
 火はヒムカミ、水はクスカミ、風はフムカミ、土はテヌカミ」
「相棒のいた世界の四大系統って訳か」
「ああ。フーケを捕らえた後、気がついたら自然と思い出せていた。
 多分クスカミの腕輪を見たのがきっかけになったのだろう」
「しかし水の神の力で雷たぁ、変わってるな。こっちじゃ風系統の力のはずだ」
「いや、そもそも雲は水蒸気の集まったもので、雷雲は高空で凍った水滴などが、
 上昇気流にあおられて摩擦される事で静電気を生じ……」
「悪ィ。相棒が何言ってんのかさっぱり解らねーや」
「そうか……。まあ風と水の両方が必要なのは間違いないな」
懐からクスカミの腕輪を取り出したハクオロは、宝石の中で蒼く渦巻く光を見る。
自分はこの腕輪を知っているようだが、原理はさっぱり解らない。
少なくとも科学的な技術で作られたものではない。
恐らく、元の世界でメイジに相当するオンカミヤリューが術を使って作ったのだろう。
だとするとワーベとはオンカミヤリューだという事か。
(ワーベ……オンカミヤリュー……ワーベ……賢大僧正(オルヤンクル)……ウ、ウル……)
「ウルトラマン?」
「いきなり何を言ってんだ相棒?」
「いや、何でもない」
ハクオロはグラスに残っていたワインを一気にあおると、
新しいワインの瓶を開け、空になったグラスをなみなみと赤く染め直す。
(赤い……赤、血、血……? 吸血……蚊? ……カ、カ……ミ、……カ……ユ……)
「かゆみ。……いや、違うな。むしろ……ムーミン……? ムーミンッ!」
これだ、とばかりに握り拳を掲げるハクオロ。明らかに酔っ払いである。


「何意味不明な事を月に向かって吼えてんのよ」
プスッ。後頭部に何かが刺さった。
「アイダッ!」
ワインをこぼし、涙目になりつつ振り向くハクオロ。
そこには白いパーティードレスに身を包んだ、可憐な美少女姿のルイズがあった。
ただし右手にはフォーク。
「またそれか!」
「な、何よ。こんな所でいじいじ飲んでる方が悪いのよ。……せっかく着飾ってきたのに」
最初は凶器に目が行ったハクオロだが、改めて見直してみれば、
なるほどルイズのドレス姿は清楚で可憐で美麗でと褒め言葉がいくつも浮かぶ。
しかし。

「フォークのせいで台無しだな」
「アンッ!?」
ルイズのガン飛ばし。
「いえ、何でもないです」
効果は抜群だ。

「しかし、よく似合っている。それならダンスの相手にも困らないだろう」
「相手なんていないわ」
場の空気をなごませようと言ったが、ルイズはぶっきらぼうに切り返してきた。
もしかして、馬車の上で頬をはたいた事をまだ怒っているのだろうか。
「だから、踊って上げても、よくってよ」
「……はい?」
いきなり想定外の発言。
仮面の下で目を丸くするハクオロと、顔を真っ赤にしながら手を差し出すルイズ。
しばし、沈黙が流れ、ハクオロはルイズの手を取った。
「私のような素性の知れぬ者が相手でよろしければ」
「素性なら知ってるわよ。あんたは、私の使い魔でしょ」
二人は一緒にホールへと向かい、ダンスの輪に加わる。

武芸の心得はあるらしいハクオロだが、ダンスの心得は無いらしく、
ぎこちない踊りになってしまったものの、
ルイズがうまくリードしてくれたおかげで何とか形にはなっていた。
「ねえ、ハクオロ。……あの、ごめんね」
「ん? 何がだ?」
「馬車で叩かれた時、私、謝れなかったから」
「自分も、叩いたりして悪かった」
「あんたはあの後すぐ、謝ったじゃない。だからいいのよ」
「そうか」

二人は踊る。夜空に浮かぶ双月のように寄り添って。
しかしいつか別れが来る。
ハクオロが、月がひとつしかない世界から来たのなら。
ホールで踊る双月も、いつかひとつに欠けてしまうのではないか。
そんな不安を、ルイズは胸の奥の扉にしまって、鍵をかける。

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