「よくきたな、平民のメイド! 君は貴族である僕に恥をかかせた。よって決闘で決着をつけようじゃないか…!」
ヴェストリの広場には見物人が押しかけていた。輪の中心で、ギーシュは気障に薔薇の杖を咥えている。
貴族と平民の決闘なんて見世物に、みな興奮していた。ゆっくりと真由子に化けたとらが輪に入っていくと、その美しさにどよどよと歓声があがった。
貴族と平民の決闘なんて見世物に、みな興奮していた。ゆっくりと真由子に化けたとらが輪に入っていくと、その美しさにどよどよと歓声があがった。
「ギーシュ……一応聞くけど、あんた本気?相手、平民よ。しかも女の子。勝っても恥ずかしいだけだと思うけど……」
万が一にも勝てたとしてだけど、とルイズは心のなかでつけ加える。平民でも女の子でもないのだが、知らせる義理もない。
面倒ごとを避けるには、取りあえず、ギーシュの意志で決闘が行われたことをまわりに知らしめる必要があった。
ルイズの問いに、ギーシュは鼻で笑う。
面倒ごとを避けるには、取りあえず、ギーシュの意志で決闘が行われたことをまわりに知らしめる必要があった。
ルイズの問いに、ギーシュは鼻で笑う。
「ハン、もちろん手加減はするさ……参ったと言って謝れば、許してやるよ。さあ、平民! 戦う気があるなら、剣を取って戦いたまえ……!」
ギーシュは錬金で剣を作りだし、真由子の姿をしたとらに向かって放り投げた。剣がとらの足元に突き刺さる。
とらはシエスタの着ているのと同じメイド服を着て、傲慢に腕を組んでいる。顔には凶暴な笑みが浮かび、真由子の美貌が台無しであった。
とらはシエスタの着ているのと同じメイド服を着て、傲慢に腕を組んでいる。顔には凶暴な笑みが浮かび、真由子の美貌が台無しであった。
「くっくっく……よわっちいヤツほどよく吠えるのは、どこでもかわらねえな……」
笑いながらとらは剣をずぶりと引き抜く。すると、左手のルーンが輝きだし、とらの体に力が溢れだした。
(む……こいつは……呪印の力か? 力が溢れてくるみてえで悪くねぇな……)
「剣を取ったな、さあ始めようか! 行け、ワルキューレ!」
ギーシュの繰り出した青銅の戦乙女がとらに襲いかかった。青銅の重い拳が真由子の姿のとらの顔を狙って繰り出され、気の弱い下級生たちは思わず目を覆う。
だが。
その拳は、あっけなく少女の左手一本で受け止められた。あまりに意外な成り行きに観衆がどよめく。
そしてそのまま、真由子の姿をしたとらは、片手でワルキューレを持ち上げていく。
そしてそのまま、真由子の姿をしたとらは、片手でワルキューレを持ち上げていく。
「おいおい……小僧、こんなオモチャでわしに勝てると思ったかよ……?」
「わ、ワルキューレが……」
「わ、ワルキューレが……」
ギーシュが青ざめていく。片腕で青銅のゴーレムを持ち上げる平民など、聞いたこともなかった。ようやく、ギーシュは自分がとんでもない過ちを犯したことに気がついていた。
「ああ!? ちょっとでも勝てると思ったかよ――このアホウがっ!!」
とらは一気にワルキューレを思い切り地面に叩きつける。青銅のゴーレムはカエルのようにベチャリと潰れ、それきり動かなくなった。
「うわああああああ! ワルキューレ! ワルキューレ!!」
ギーシュは狂ったように薔薇をふる。合計七体のゴーレムが、各々武器を構えて、とらとギーシュの間に立ちふさがった。
しかし、次の瞬間には二体がバラバラになって吹き飛ぶ。とらがギーシュの錬金した剣で、一瞬のうちに寸断したのだ。
しかし、次の瞬間には二体がバラバラになって吹き飛ぶ。とらがギーシュの錬金した剣で、一瞬のうちに寸断したのだ。
「は、速すぎるっ……一体どうなってる!?」
「くく……わかんねーか? 教えてやるよ」
「くく……わかんねーか? 教えてやるよ」
ニヤリと笑うとら。その凄惨な笑みの迫力に、ギーシュの全身が凍りついた。こいつは、平民じゃない。メイジどころか、人間じゃない――
「オメエがノロマなのさ!」
「ひいいいいいっ! ワルキューレ! 一斉にかかれえーっ!!」
ギーシュが残った五体の戦乙女を、メイド服のとらに襲いかからせる。刹那――
ゴオオオオオオオッ!!
真由子の姿のとらの口から出た、凄まじい爆炎が青銅のゴーレムたちをなめとり、一瞬のうちに蒸発させる。サラマンダーはおろか火竜にも引けを取らない炎である。
「ばばば、ばかー! とら、バレないようにって言ったじゃない! というか、火が吐けるならそう先に言いなさいよ!」
ルイズが抗議まじりの悲鳴を上げる。もっとも、そのころにはとっくに、観客たちは悲鳴をあげながら蜘蛛の子を散らすように逃げだしていた。
キュルケとタバサはシルフィードで上空に逃れて観戦していたが。
キュルケとタバサはシルフィードで上空に逃れて観戦していたが。
「ままま参った!負けだ!僕の負けだよ!!」
しりもちをついてギーシュは失禁する。泣きながら降参するギーシュに、とらはふんと鼻を鳴らした。
「命は取らねえ、食いもしねえ……コースイくせえからな。だがな、小僧! こんだけ覚えとけ
人間はよわっちいからわしはキレエだ。だがよ、どっかのアホウに言わせりゃ、人間は負け続けるようにはできてねぇ――だとよ。だから……」
人間はよわっちいからわしはキレエだ。だがよ、どっかのアホウに言わせりゃ、人間は負け続けるようにはできてねぇ――だとよ。だから……」
とらはギーシュの剣を無造作に地面に突き立てた。
「強くなるんだな……ナガレぐれえ強くなったら、またわしが相手してやらあ」
(ナガレって、誰――!?)
おそらく、とらを除く全員がそう思った。