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マジシャン ザ ルイズ 3章 (19)

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マジシャン ザ ルイズ (19)白炎の紅蓮傭兵魔術師メンヌヴィル

「とっ、と、……話が違うぞ竜殿。あの船は未だ依然健在のように見えるが?」
ばさりばさりと翼をはためかせる屍竜。その背に乗ったヴィンダールヴ・メンヌヴィルが横でホバリングする赤と青の竜に問いかけた。
「我は我の責務を果たした。墜落を免れたことは予想外であったが、なんにしろ当初の目的であるガンダールヴの無力化は済ませてある。後はメンヌヴィル、貴様の仕事だろう」
「全く竜殿はよく口が回る。そうまで言われては俺も人間の意地を見せねばなるまい」

飛び回っていた屍竜達が一度集結し、そして一斉に散開した。
それまで散発的無秩序に攻撃を加えていただけだった屍竜騎士隊が、ここに来て連携し、一つの意思の元に獲物を狙う空の狩人となる。
あるものは力場の効果範囲すれすれを飛び、またあるものはタイミングを合わせ別々の場所をブレスで攻撃する。
竜を焼き尽くす程の炎壁は同時には一箇所しか発生させることができないことを逆手に取った見事な指揮連携である。
そうして、最初の一匹が力場の死角へと潜り込んだ。

「さてと、どうやら、わしの出番のようじゃな」
「……はい、お願いします。オールド・オスマン」
オスマンとコルベールがお互いに頷く。
決意を秘めた瞳で、オスマンが立ち上がりブリッジの外へと続く扉に向かって歩き出す。
「オールド・オスマン!一体どこへ……?」
「ん、外じゃよ。ミス・ヴァリエール」
ちょっと散歩に出てくる、という気軽さで答えるオスマン。
「外って、そんな、危険です!」
「危険は百も承知じゃよ」
オスマンが懐からパイプを取り出して口に咥える、火はついていない。
「じゃがな、生徒を危険から守る、これは教師として当たり前の行為じゃ。例えどれだけの危険があろうとも、教え子を守るためなら喜んで危険に身を晒すのが教師というものじゃよ」
扉が横へとスライドし、外界への道を開く。
振り返らずにオスマンが何かを喋ったが、風の音にかき消されてルイズはその言葉を聞き取ることができなかった。

「私も行く」
ルイズの横に屈んで手を握っていたタバサが、すっと立ち上がる。
「タバサ!?あなたまで何を言ってるの!?」
驚きタバサを見上げるルイズであったが、見返したタバサの瞳はオスマンと同じ決意の色を示していた。
「今守らなければ、何もかもが壊れてしまう。……だから」
杖を片手に、ルイズに背を向けて歩き出すタバサ。
しかし、彼女を引きとめようとするのはルイズだけではない。
「ミス・タバサ止めなさい!外は危険だ、全て学院長、オールド・オスマンに任せるんだ!」
タバサはその声に一度だけ足を止めて、じっとコルベールを見つめた後、オスマンの後を追い外へと出て行った。

恩師と教え子、二人が戦場へと去った。
その姿を見てもなお、コルベールは一歩を踏み出せないでいた。

ここに、大きな罪を犯した男がいる、
その罪のあまりの大きさに、歩みを止めてしまった男がいる。
男の半生は、後悔と贖罪に彩られていた。
男は自身の破壊の力を再生の力と信じて、自分を騙した。
彼はいう、力とは使い道次第で様々な面を見せると。
しかし、彼は気付いているのだろうか?
破壊が再生であるならば、再生と破壊もまた、等価であることを。

「ふん、迎撃要員くらいはいるか」
目の見えぬ男、メンヌヴィルは温度で艦橋から出てきた二人を推し量る。
一人は老メイジ、もう一人は小柄な娘。
両者共に相当に腕の立つメイジであることが、歴戦の傭兵であるこの男には手に取るように分かった。
そうして、当然ながらこのことから読み取れる事実にも気がついている。
ブリッジから出てきた二人は、恐らく今このフネで動ける者の中で最も戦力的に優れた者達。
ならば今のブリッジに残された者達はどうか?
そんなことは決まっている。実力的に第三の位置につけている者が残っているか、非戦闘員が残されているだけだ。
甲板で屍竜騎士団の迎撃を行っている二人を相手にすることができないのはメンヌヴィルとしても残念なことであったが、今の彼は雇われの身であり、更には使い魔として契約している身でもある。
主人の意向を無視して行動することはできない。
「多少骨がある者が残っていてくれれば、楽しみようもあるのだがな」
そう呟いたメンヌヴィルの右手、かつて始祖ヴリミルが従えたという、あらゆる幻獣を操る使い魔ヴィンダールヴの手にあったものと同じルーンが光り輝く。
ハルケギニアに伝わる始祖ブリミルの伝承、その中で名を残す伝説の使い魔達。
その一節に謳われる『神の右手はヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空』と語られる存在。
しかし現代に蘇ったヴィンダールヴは心優しい存在などでは決して無い。
それは邪悪にして獰猛な形に口を釣り上げ、老若男女貴族平民弱者強者全てを焼き焦がさんと欲する魔人。
「行くぞ!我が血を沸き立たせ、焼き尽くさんとする戦場へと!」
ヴィンダールヴが従えたあらゆる幻獣、そこにはドラゴンも含まれる。
そして彼が現在騎乗しているドラゴン・ゾンビもまた、神の右手の影響を受ける存在である。

ドラゴン・ゾンビは神の如き速さで飛翔すると一気に船尾へと回り込む。
更には皮膜飛翔の限界を超えて直角の軌道さえ取ってみせる、これこそ正に曲芸飛行。
死角を狙って飛び、瞬時にウェザーライトの懐へと潜り込んだメンヌヴィルの目標はただ一つ。
ブリッジの制圧。


「ミスタ・コルベール、外の二人をここから援護することはできないんですか?このフネには大砲とか、そういう武器は何か無いんですか!?」
コルベールは躊躇いの表情を見せながら、口を開く。
「……無いのだよ、この船にはそういった兵器は、一切装備されていないのだ」
「では、ミスタ・ウルザがやっていたみたいにすごい速さで動いて敵を振り切って逃げるとかは?そうよギーシュ、今はあんたが操縦してるんでしょ?すぐにぶっちぎっちゃいなさいよっ!」
「え、でも今飛んでる以上速度を出すと……」
「それもできないんだミス・ヴァリエール。先ほどまでの高速戦闘は、ミスタ・ウルザだから可能であったことなのだよ。彼がガンダールヴだからこそできたことで、アレを我々だけで再現することは到底不可能だ」
そう、この船はコルベールとウルザが共同で作り上げたものだが、同時にウルザにしか取り扱うことができない機能も数多くあった。
先ほどのように力場発生器を使って、魔法の効果を拡大して船を守る程度はできる。
しかし、力場発生器で『反射』の刃を作り出すことなど、『反射』のメカニズムを知らぬコルベールにできようはずが無い。
あれはウルザが秘密公文書館の中から見つけ出してきた資料を元に独自の研究開発の末に会得したものであり、コルベール自身が同じように使うことはできない。
「じゃあ……じゃあ、私が行きますっ!」
そう言うなり辛抱堪らずといった様子で駆け出そうとするルイズ、これには流石のコルベールも説明しながらもせわしなく動かし続けていた手を止めて、慌ててルイズの肩を掴んで引き止めた。
「止めたまえ!君が行ってどうなるというんだ!?」
「離して……っ、離してください!私だって何かの役に立つわ!だって伝説なんでしょう!?こんな時に役にたたないで何が伝説よっ!私が全部吹っ飛ばしてやるわ!」
オールド・オスマンとタバサ、二人が自分達を守る為に戦っている。
その姿は正にルイズが思い浮かべる理想の教師の姿であったし、理想の貴族の姿でもあった。
だからこそルイズは我慢することができない、自身がただ守られるだけの存在であることが。
ゼロのルイズであるからこそ人一倍誇り高い貴族であろうとした少女は、誰も守ることができない、守られるだけの存在である自分が許せない。
それはまた、あのアルビオンの舞踏会の夜、強くなると誓った自分自身への背信であるようにも感じられたのである。
「離してっ!」
「落ち着きたまえミス・ヴァリエール!」

「ふぅぅ……何ていうか、ホント酷い目にあったわ」
コルベールがルイズの手を掴んで必死に引き止めている最中、そう言いながらブリッジ後部の扉から現れたのは、縦巻きのブロンドに大きな赤いリボンをつけた少女、モンモランシーだった。
普段から自信に満ち溢れ勝気な雰囲気を漂わせている釣り目も心持ちどこか元気が無く、本来なら完璧にセットされている縦ロールも所々乱れている。
「もう何なのよぉこのフネ。揺れないと思ったら突然揺れ出すし、トイレからは突然水が出るし……」
突如現れた空気を読まない闖入者に場の空気が凍る。
続けてよいものかどうなのか、ルイズが戸惑っているうちに、操舵席で座って(腰を抜かして)いるギーシュが声をかけた。
「ええと、モンモランシー?」
「何よ、私が大変なことになってる時に全然に助けに来なかった癖に」
モンモランシーの放った棘付きブローが、うかつなギーシュを襲った。
「う、ううぅ。それには深い訳が……」

この時、先ほどモンモランシーが現れた扉とは違う扉が、小さく音をたてて開いた。
ブリッジには二つの扉があり、一つはウェザーライトⅡの船内へと通じる扉、もう一つは甲板へと通じる扉である。
船外へと通じる扉が開いた以上、外から艦橋へと入ってくる人間がいるということだ。
ルイズはこれを見てオスマンかタバサが敵を退治して戻ってきたと目を輝かせ、一方のコルベールは正反対の事態を連想した。
「ミス・モンモランシ!伏せなさいっ!」
即ち外敵の侵入。
現れたのはコルベール自身も慣れ親しんだ四大元素の一つ『火』。
艦橋内部を舐め尽すように伸ばされた炎の舌、その色は白。
全てが燃やし尽くされる直前に立ちはだかる炎の壁、その色は青。
色の異なる二つの炎は空中で激しくぶつかり合い、お互いを滅ぼすようにして消滅した。
「面白い、思ったよりも骨のある奴が残っているようだな」
そう言って扉から一歩を踏み出したのは、鍛え上げられた肉体と炎の狂気と冷酷なる心を持つ忌まわしき焼却者、白炎のメンヌヴィル。

生きてきた場所が違う、そうと一目見ただけで分かる殺戮者の登場に、ブリッジの誰もが息を飲んだ。
ギーシュは操縦を続けながら先ほどとは違う、目前に現れた死神の気配に顔を引きつらせる。
ルイズは生まれて始めて感じる濃厚な戦場の臭い、それを一人で作り出したこの戦場の化身に戦慄する。
モンモランシーは、ほんの一メイル先でぶつかり合った焼炎の残滓に驚いて床にへたり込む。

コルベールは――
「五人か、うち倒れている者がガンダールヴだな。思ったよりも少ない人数で動かしているのだな、このフネは……む?」
――自分を追いかけ現れた、過去の罪と対面した。

「おお、お前は……。お前は!お前は!」
歓喜と狂気が交じり合った、正に狂喜という形容こそが相応しい様相に顔を歪めて叫ぶメンヌヴィル。
「お前こそは捜し求めていた温度!コルベール!おおコルベールっ!遂に出会えたぞコルベェェルッ!」
「貴様……」
いつかこうなる日が来ることは分かっていた。
罪に追いつかれる日が来ることは分かっていた。
けれど今日、この時、教え子達の前で無くとも良いではないか。
「俺だ!忘れてしまったのか?メンヌヴィルだよ隊長殿っ!おおお!久しぶりだ!懐かしいぞ!こんなところで会えるとはなっ!ハハハハハハッ!!」
「やめろ……」
「何年ぶりだ!?隊長殿!そうだ二十年だっ!二十年ぶりだっ!」
「やめてくれ……」
「どうしたんだ隊長殿!喜んではくれないのかっ!?懐かしい旧友との再会ではないかっ!」
「お願いだ、やめてくれ……」

「何……?何なの?どういうことなの?ミスタ、ミスタ・コルベール……この男は、一体何なの?」
両手を広げ、狂ったように笑い続ける男と、片手で顔を押さえて何かに耐えるようにしているコルベールとを視線で往復し、恐怖に身を震わせながらモンモランシーが呟く。
「ミス・モンモランシ……」
おぞましいものを見ているような恐怖に怯えるモンモランシーの瞳、それを見てしまったコルベールの顔に深い影がさしていく。
「学院生徒と一緒にいるということは、隊長殿は今は教師であらせられるのかっ!?これはおかしい、こんなにおかしいことはないぞっ!貴様が教師!?
最も似合わぬ仕事ではないかっ!何を教えているんだっ!?人殺しの方法か?人間を焼いた時の芳しい臭いについてか?それとも眉一つ動かさず村を滅ぼすやり方かっ!?」
コルベールの脳裏に沸きあがる焦土の光景、人が物が焼ける臭い、リアリティを伴う幻視。
「それ以上言うな副長ォォォォ!!」
憤鬼の形相のコルベールが振るった杖の先端から、その華奢な体に似合わぬ巨大な青炎の蛇が躍り出る。
対応してメンヌヴィルも鉄の杖を突き出し、怒涛の勢いで放射された白炎でこれを相殺した。

「ひっ!」
学院で見せたことの無いコルベールの激情、その豹変を目の当たりにしてモンモランシーが泣き出した。
「ミス……これは……私は、」
「やめてっ、来ないで!あなたは、私の知ってる先生なんかじゃないっ!」
あまりの事態の変化に動転したモンモランシーの言葉、それが刃物となってコルベールの心に突き立てられた。
そんな二人の様子を見ながら、メンヌヴィルはまるで滑稽な喜劇でも見たかのように笑い出す。
「何だ隊長っ!?生徒には知られていなかったのかっ!?教え子に隠し事をするなんてなぁ、そんなことでは教師失格ではないか!しょうがない!では俺が教えてやろう!全部教えてやろうっ!おい娘、こっちを向け!」
無造作に一歩踏み出してモンモランシーを見下ろすメンヌヴィル。


「は、はい!」
モンモランシーがこちらを向いたことを確認してから、メンヌヴィルは大仰に、まるで自身が教師になったかのように高らかに語り始める。
「あの男はな、炎蛇のコルベール、俺たちの隊長殿だ。かつて俺が副長であった特殊な任務を行う実験部隊の隊長殿でな……。それは凄い男だったのさ」
メンヌヴィルが一つ語る度、コルベールの顔から一つ表情が欠けていく。
「隊長殿は当時二十をいくらも過ぎてない若造だったくせに、やたらと肝が据わってた。顔色一つ変えずに敵を焼き尽くすのを見て、俺は惚れ惚れとしたもんだ。特に凄かったのがタングルテールって田舎の村での作戦だった。
そこで疫病が流行って手がつけられないから焼き滅ぼせって命令が下って、俺達が駆り出されたんだ」
コルベールは動けない、ただ絶望と後悔が押し寄せるに任せた。
「その時の隊長殿ときたら、これがもう凄まじかった。何せ容赦が無い、女も子供も老人も、きっちり見境無く焼き尽くした。まるで竜巻みたいな炎を操ってな、村をあっという間に火の海に変えてしまったのだ。
更に傑作だったのは、その村は疫病でもなんでも無かった、新教徒狩りの口実に過ぎなかったってことなんだがな」
メンヌヴィルはそこで一度言葉を切ると、その巨体を窮屈そうに屈ませてモンモランシーに視線を合わせた。
「そして何より凄いのは……」
言ったメンヌヴィルが突然自分の左手に指を差し入れた。
「――っ!」
言葉にならぬ悲鳴をあげるモンモランシー。それを無視してメンヌヴィルはくちゅりという音を立てながら自分の眼球を引き抜いた。
「この俺から光を奪った男だということだっ!」
人の形をした炎が楽しそうにモンモランシーへと語りかける。
「どうして目を焼かれているのに見えているかか?」
メンヌヴィルがにやりと笑う、それはまるでいやらしい爬虫類のそれであった。
「蛇は温度で獲物を見つける。俺も炎を扱ううちに随分と敏感になってね。距離、位置、どんな高い温度でも低い温度でも、正確に数値を当てられるようになったのだよ。温度で人の見分けだってつく」
モンモランシーの恐怖は既に臨界を超えている。
こんな人間がこの世に存在することが信じられない。
「お前、怖がっているな?感情が乱れると温度も乱れる。お前は今怖がっているな水のメイジよ」
モンモランシーは自身の股間から暖かいものが広がるのを感じたが、今更そんなものは関係ない。
今このときに至って、恥じらいや誇りに何の意味があるだろう、目の前にいる男は戦場そのものなのだ。

「馨しい香りだ…、だがもっと嗅ぎたい」
メンヌヴィルが立ち上がる、手にはしっかりと握られた杖。
「……?」
「お前の焼ける香りが、嗅ぎたい」
瞬間、メンヌヴィルが振り抜いた杖から迸った白炎がモンモランシーを焼き尽くさんと踊り狂った。
だが、人間一人を瞬時に焼き尽くす程のその炎は、横から打ち込まれた青炎によって横へと逸らされた。

「私の教え子から、離れろ」
炎蛇のコルベール、魔法研究所実験小隊の隊長、仮面をかぶった様な無表情な男の姿がそこにはあった。
「やっとやる気になってくれたか隊長殿!やはりそうでなくてはなっ!」
飛び退いて距離を離す白炎のメンヌヴィル。その表情は心の底からの歓喜に満ち満ちている。
長い隔絶を経て、蛇と蛇、二匹の炎蛇が対峙する。

コルベールは小さく笑みを浮かべる、二つ名の示す蛇のような冷たい笑みを。
「ミス・モンモランシ。『火』の系統の特徴をこの私に教授願えないかな?」
噛み締めた唇の端からは血が流れていた。
それはコルベールの顎を赤く彩りながら、床へと落ちていく。
「破壊、ですわ……」
「『火』が司るものが破壊だけでは寂しい。私は二十年間、そう思い続けてきた」
コルベールは、表情はそのままに、声だけは普段のままで呟いた。
「だが、君の言うとおりだ。『火』は破壊しか生まない。君の『水』の様に人を癒したりは、できないんだ」


「ミス・ヴァリエール。ミス・モンモランシを連れて物陰に隠れなさい」
ルイズは頷いて、モンモランシーへと走り寄ろうとする。
そしてそれが、激突の合図となった。
走り出したルイズに向かって炎球を同時に三つ放つメンヌヴィル。
コルベールがそれらに向かって相殺の炎を同じく三つ発射する。
両者が放った炎のうち、二つまでがお互いを焼き尽くして消滅する。
だがその内の一つが互いにすれ違う。
追跡する炎球、蛇の如く狙った相手を追い詰めるそれが三つの炎球の内一つに紛れており、モンモランシーではなくコルベールを狙うために放たれていたのだった。

「くっ!」
迫る炎球を咄嗟にかわしたコルベールのマントの端が燃え尽きた。
炎球はそのまま床へと衝突し、周囲に炎を撒き散らした。
ウェザーライトⅡのブリッジは一部木で作られているにも関わらず、耐火措置でも施されているかのように、燃え上がることはない。
「惜しい!マントが焦げただけか!しかし次は当てるぞ!俺は貴様の燃え尽きる臭いを嗅ぎたくて堪らんのだ!はは!ハハハハハハハ!」
連続して次々に白炎を発射するメンヌヴィル。
その勢いと狡猾さはコルベールの青炎を上回り、いつしかコルベールは防戦に立たされていた。
「どうしたどうした!?教師生活が長くて体が鈍ってしまったのかっ!?」
炎玉、炎波、火槍に火矢。
二十年間、絶えず戦場に身を置き続けてきた炎蛇の激しい攻撃。
二十年間、戦場から過去から罪から逃げ続けてきた炎蛇とは、練度も精度もまるで違う攻撃。
かつての実験小隊の隊長と副長、しかしその実力は二十年で様変わりしてしまっていた。
コルベールに勝機があるとすれば唯一つ。だが、
(彼女達を巻き込むわけにはいかないっ!)
コルベールの術中、最強の秘儀。
それを用いれば、あるいはこの強敵を打倒することも可能だろう。
けれどそれは、近くのものを見境無く殺してしまう炎の特性そのものの呪文である。そのような魔法をこの密閉された空間で使えば、自分の生徒達を巻き込んでしまう危険性があった。
最強の切り札を使うことができないコルベール、その姿こそがこの二十年でコルベールが弱くなった証明でもあった。

「どうした?息があがっているぞ隊長殿」
興奮こそすれ、息一つ乱さぬ盲目の炎蛇メンヌヴィル。
一方のコルベールは、精神的重圧と二十年のブランクによって、既に息も絶え絶えの状態である。
一見してどちらが有利かなど、考える必要も無い。
だが、当のメンヌヴィルはこの戦いに失望の感を禁じえないでいた。
「どうしたというのだ隊長殿?その姿はまるで俺が敬愛する隊長殿のものとは思えないぞ?一体この二十年で貴様は何をしていたというのだ?人殺ししか能の無い俺達が、人殺しを忘れていたなど笑い話にもならん」
「うる、さい……」
ふむ、と杖を持たぬ左手を顎にやり、思索に耽るメンヌヴィル。
そうして一瞬の沈黙の後に、メンヌヴィルは顔を綻ばせた。
「そうか、これは俺としたことが失礼した。隊長殿には足枷があったのですな。確かにそれでは全力が出せないのも道理」
いかにも合点がいったという口ぶりで手を叩く狂炎の魔手。
「なんだ、と……?」
「とりあえず、そちらに隠れている娘二人を焼き尽くそう。そうだ、それがいい。そうすれば隊長殿は以前の隊長殿に戻ってくださるはずだ」

ゆっくりと杖を振り上げるメンヌヴィル。
そのとき、コルベールの世界が色を失い、速度を失った。

「っ―――!!」

息を飲む二人の、大切な、大切な女生徒達。

二十年、大切にし続けた二十年。

「やめ――」

飛び出そうとする、踏み込もうとする右足。

ゆっくりだ、何もかもがゆっくりだ。

もどかしい、何もかもがもどかしい。

気は急いても、色と速度を失った世界は、思うように足を進ませはしない。

体が重い、鉛のようだ。

それでも走る、必死に、懸命に。

無様でもいい、教師の威厳など火にくべて捨ててやる、この身を悪魔に差し出せば良いというなら喜んで差し出そう。

だから進め、足よ進め、彼女達を守る、その為に!!!!

「――ろおおお!!」


                     「実に馨しい香りだ。味の方はどうかな?」
                            ―――白炎のメンヌヴィル


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