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薔薇乙女も使い魔 第三話   『トリステイン魔法学院での一日』



ジリリリリリ・・・・・
バシィッ!

 毛布の中でもそもそと寝返りをうち、目覚まし時計をぶったたいて止めた。

 メガネ、メガネ

 ぞりぞりと床の上を腕がはい回る。でも見つからない。
 うっすらと目を開く。まだ周りは薄暗い。
 夜明け前かな、まだ寝直しても大丈夫かな、そんな甘い誘惑に、再び眠りに落ちそうに
なる。
 ん…でも、ついでに…。ぼんやりと思いつき、ノロノロと体を起こした。

 横を見ると、鞄が二つ。真紅と翠星石は、まだ寝ているらしい。
 その向こうには大きなベッド。女の子が小さく丸まってすやすや寝ている。
 自分は床の上にひいた毛布にくるまっていた。硬い床の上で寝たせいで、体があちこち
痛む。

 鏡台に置いてあったメガネをかけて、周りを改めて見直してみる。
 まるで貴族のよう、というか貴族そのまんまな部屋の内装。家具も立派な年代物ばかり。
そんな部屋のはじっこに、おもいっきり場違いな自分のリュック。自分の毛布の横には、
殴られすぎてボロボロの、安物の目覚まし時計。
 だらだらと立ち上がり、ふわぁ~と大あくびをしながらのびぃ~っとした。




                 第三話  




 そっか
 昨日からルイズさんの所で、しばらくお世話になることにしたんだっけ
 ねえちゃん…一人で大丈夫かな、心配してるかな。連絡とれないし、一度戻らないとダ
メだよな
 第一、地球とハルケギニアで時間の流れ方が同じっていう保証すらないんだし、確認の
ためにも何度か往復しないといけないんだ。
 それに、往復のたびにヘロヘロになってる訳にもいかない。nのフィールドの近道も探
さないとな。金糸雀と水銀燈が地球側から探してくれてるけど、簡単にはみつからないだ
ろうなぁ。もともとルートを見つけれたのは奇跡みたいなもんだし、スッゲーむかつくけ
ど、ウサギ頭が協力してくれたおかげだろうしな。
 とにかく、行くとしよう。そんために、わざわざこんな早起きしたんだから・・・


 そんな事を考えながら、まだ寝ている3人を起こさないよう、抜き足差し足こっそりと
部屋を出て行った。

 まだ夜明け前、空はうっすらとしらみはじめていた。
 音を立てないよう廊下を歩いていった。そして、一つの扉の前に立った
 ジュンは、その扉をジッと見つめた
 せつなげに、じぃ~っと見つめた
 はあぁ~っとため息をつき、肩を落とし、扉に背を向け、とぼとぼと寮塔を出た。

 トリステイン魔法学院は、全寮制のメイジ養成学校。城下町まで馬で三時間はかかる場
所に位置している。早い話が、遠目に見ると草原の中にポツンと建っていた。おかげで、
今のジュンには好都合だ。

 キョロキョロ

 ジュンは周囲に、そして頭上にも誰もいない事を確認して、翠星石が昨日生やした見事
な大木やメチャクチャに絡まるツタの間を抜け、とととーっと学院の外に走り出た。
 そして腰ほどの高さの草むらの中に入り、ズボンに手をかけて腰を落とそうとした。

「あーっ!ジュン様じゃないですかーっ!!」

 いきなり背後から、学院の門から声が飛び、慌ててズボンをはいて立ち上がった。門に
立っていたのはシエスタだった。
「あう!あ、そのあの・・・お、おはようございます」
「どーしたんですか?こんな朝早くに」
「いえ、あの、その…さ、散歩です。早起きしたんで、朝日でも見ようかなって」
「そ、そうでしたか。その、私は、朝食の準備をしていたんですけど、門から出て行く人
がいたので、誰だろうかなーって思って…」
 真っ赤になりながら、モジモジとするジュンは、誰の目から見ても、シエスタの目から
見ても「ああ、なるほど。アレですか」と察しがついた。察しがついたから、シエスタも
頬を赤くして、あさっての方を見ていた。ジュンが寮塔にいるのは知っていたので、アレ
で困ってしまったんだなーっと、すぐ気が付いた。

 シエスタもモジモジしつつ、どうしようかなーと悩んだ末に切り出した。
「あ、あのですね。コック長のマルトーさんがですね、ちょっと太めのおじさんなんです
けど、ジュン様に会ってみたいって言ってましたよ」
「あ、はぁ、そうですか」
「今、厨房にいるんですけど、その、会ってみませんか?」
「え、えっと、その、今はちょっと…」
「あのですね、多分、この学院に長くいる人ですから、色々と聞ける事があると思うんで
すよ。…その、困った事とか、相談事とか」

 ジュンは、照れながらポリポリと頬をかいた。

「そ、そうですか。じゃぁせっかくだし、会いに行こうかな?」
「ええっと、厨房は食堂の裏です」
「ありがとうございます。ん、んじゃいってきます」
 といってジュンは、平静を装いつつ、そそくさと走っていった
 クスクス笑うシエスタが彼の背を見送った。

「よ~お、落ち着いたか?ボウズ」
「はい、すいませんマルトーさん。ありがとうございました」

 厨房で大鍋をかき混ぜるマルトーが、晴れ晴れとした顔になったジュンに声をかけた。
朝食作りで若いコックや見習達が走り回る厨房に、大声が響き渡る。

「ハッハッハ!まぁしょうがないわなぁ。女しかいねぇ寮塔には、女子トイレしかないも
んな。学院の扉は夜、鍵がかかってっしよぉ。こっちの使用人のトイレは自由に使ってい
いぜぇ」
「すいません、ありがとうございます」
「なぁ~にをかしこまってんでぃ!お前さんは俺たちと同じ平民だそうじゃねぇか!?し
かもまだガキじゃねぇか!それが見ろ!あの貴族のくそったれをのしちまったんだぞ!」
「いやあの、あれは僕じゃないんですけど」
「知ってるよ、お前さんの人形達だろぉ?いやはや、すげぇじゃねぇか!あんなのが沢山
ありゃぁ、ふんぞり返った貴族共に俺たち平民が一泡ふかせれるんだぜ。
 なぁボウズ、教えてくれよ。どこであんなとんでもない人形を手に入れたんだぁ?是非
俺も一つ欲しいぜ。こう見えても俺は学院のコック長だ、金なら結構もってるんだ」

 ジュンは、予想通りの展開だなぁと思いつつ、どう誤魔化そうかと考えていた。
 ローザ・ミスティカ捜索のためには情報が要る。急ぎたいので、一々姿を隠しては要ら
れない。協力を得るためには、こちらの力を見せる事も必要な事もある。ハルケギニアに
はゴーレムやガーゴイルが存在するので、真紅達ローゼンメイデンも、その一種と言い張
れる。
 そう思って、真紅達は姿を隠さない事にした。だが、この世界でもローゼンメイデンは
常識はずれの存在だった事に、今更ながら気が付いた。

「いえ、僕はロバ・アル・カリイエから来てるんです。ハルケギニアでは手に入らないと
思います」
「ああ!なるほど、ありゃエルフの技で作られてたのか。どうりで見た事ないほどスゲェ
わけだ!
 にしても、また遠くから来たんだなぁ…その年でけっこう苦労してんなぁ」
「いえ、あの、別に苦労はしてませんよ」
「バカいえ!聖地より遙か東の地から、たった一人でいきなり放り出されて、無理矢理使
い魔なんてワケの分かんねぇ事やらされて。これが、苦労でなくてなんだってんでぇ!」
「大丈夫です。ルイズさんも、よくしてくれてますから。
 ところで、あの、焦げ臭いですよ?」
「ん?・・・あーっ!しまった、やっちまった…」
 マルトーがかき混ぜていた大鍋から、煙が上がっていた。

「すいません、忙しい所お邪魔してしまって。それじゃ失礼します」
「おう、また来いよ!いつでも歓迎するぜ。この厨房には、困ってる子供をほっとくよう
な不届きものはいねぇからな!」
 ジュンは立ち去り際に、厨房を走っていたシエスタを見つけた。
「シエスタさん、その、あ、ありがとうございました。おかげで助かりました」
「あらあら、いいんですよー♪また来て下さいね、ジュン様」
「はい、でも、あの、僕は貴族じゃないから、『様』はいらないです」
「え?あ、はい、分かりましたわ。ジュンさん♪」
「はーい」
 ジュンは一礼して出て行こうとしたが、ジュンの背にシエスタが「あ、あの!」と呼び
止めた。
「えと、なんでしょうか」
 シエスタが、早朝のジュン以上にモジモジした末に、はにかんだように顔を伏せた。
「あの…、すいません。あのとき、逃げ出してしまって」
「ん?…ああ、昨日の?別にいいですよ。それじゃぁまた」
 なんでもないという風に厨房を出て行ったジュンを、シエスタはキラキラ輝く瞳で見つ
めていた。

 来た時と同じように、誰にも見つからないようコソコソとルイズの部屋に戻ってきた。
扉を開けようと取っ手に手をかけた所で、いきなり視界がぼやけた。
 背後からヒョイッとメガネを盗られていた。
 驚いて後ろを向くと、小麦色の丸い物体が二つ、視界を覆っていた。

「?」

 視線を上に上げると、褐色の肌の女性がジュンを見下ろしていた。目の前にあったのは
ベビードール姿の彼女の、半ばあらわになった胸

「うわっひゃぁっ!!」
「あらやだぁ、そんなに驚く事ないんじゃなぁい?」
 キュルケがケラケラと笑いながら、ジュンのメガネを右手でクルクル回していた。
「かっ!返して下さい!」
「うふふ…ほぉら、取り返してごらんなさいなぁ」

 ジュンは思いっきり背伸びして、ピョンピョン跳びはねてメガネを奪い返そうとした。
だが、キュルケは彼よりずっと背が高いので、全然手が届かない。

 ぽふっ
「やんっ♪」
「うわったたっ!す、すいませんっ」
 キュルケは跳びはねる彼を、胸の谷間で受け止めていた。ジュンは真っ赤になって思い
きりあとずさってしまった。

「ふふふ…杖も持ってないなんて、どうやらあなた、ホントに魔法が使えないようね」
「そ、そうですよ。僕はただの平民です。満足したなら早く返して下さい」
「んん~、どうしよっかなぁ~。返そうかな~?」
「冗談はよしてください。僕はメガネがないと困るんです」
「そうねぇ、返してあげてもいいんだけどぉ…それじゃ、代わりにねぇ」

 やれやれ、また真紅と翠星石の事か。どうせ、人形を貸せとかいうんだろうな
 そう予想して、どうやって煙に巻こうか考えていたジュンに、想像の範囲外なセリフが
投げかけられた。

「オネーサンに、キスしなさぁい♪」

「・・・・・。・・・・・?、??・・・・・え?」
「キスよ、きーすー」
「…主でしたら、ルイズさん一人で十分すぎるほど間に合ってます」
「やーねぇ、コントラクト・サーヴァントじゃないわよ。
 別に口でなくても、私の肌、好きな所を選んでくれていいわよぉ。軽くあたしの肌に口
づけしてくれたら、このメガネ返してあげるわ」
「え…いやあの、えと、その、僕、もう帰らないと」
 真っ赤になってじりじりと後退していくジュンを、じわじわとキュルケが壁際に追いつ
めていく。
「あら…恥ずかしいの?ふふ、可愛いわね」
「あの、ちょっと、そういう冗談は」
「ほら、力を抜いて。お姉さんにぃ、任せなさぁいねぇ」
 前屈みになるキュルケが、怯えるジュンの頬にすぅっと指を
 バンッ!
「ちょっとあんた!!あたしの使い魔になにしてんのよ!!」

 ルイズがネグリジェのまま、扉を吹っ飛ばしそうな勢いで飛び出してきた。
 鬼のような形相のルイズを見ても、キュルケは余裕でクネクネしていた。
「やぁ~ん。だってこの子、メガネとるとなっかなか可愛いんだも~ん」
「あんた、とうとうそんな子供にまで・・・」
「やーね、冗談よ冗談。はい、メガネ返すわね。ウフフ、ごめんなさいねぇ~。んじゃ、
またねぇボウヤ」
 そう言って、キュルケはジュンにメガネを返して、自分の部屋に戻っていった。
「まったくあの女は…ちょっとジュン!あんたも鼻の下伸ばしてンじゃないわよ!?」
「し、してないよ!」
「いい?昨日も話したけど、あのツェルプストーの女はね、ヴェリール家とは宿敵で、ヴ
ァリエール家の者は恋人をことごとく奪われ続け・・・」
 そんなお説教をしながら部屋に戻っていく二人を、キュルケは扉の隙間から見つめてい
た。

「どうだった?タバサ」
「ただの平民」
 キュルケの部屋には、青い髪の小柄な少女が立っていた。キュルケが気を引いたスキに
ジュンへディティクトマジックをかけていた。そして探知した結果は、噂通りのものだっ
た。
 探知魔法はある種の『覗き見』。重大なマナー違反、ばれればタダでは済まない。
「ただ…」
「ただ、何?」
「あの子の左手の指輪。あれはマジックアイテムの一種」
「なるほど…あれで人形を操ってるんだ」
 タバサは首をふるふると横に振った。
「あの指輪、ほとんど機能してない。魔力をほとんど放ってなかった」
「ほとんどってことは、少しは何かに使ってるのね。どんな効果?」
 タバサは再び首を横に振った。
「謎の魔法人形、謎の少年使い魔、謎の指輪、か。おまけになかなか可愛い子達ねぇ。
 うふふ♪面白くなりそうねぇ」
 爽やかな朝のはずなのに、キュルケの部屋からは妖しい空気が漂っていた。

 ルイズのお説教を聞きながら、部屋の中を見渡した。鏡の前に真紅がいるが、翠星石の
姿はない。
「なによ、人の話はちゃんと聞きなさいよ!」
「翠星石がいないけど」
「ああ。さっき鏡の中に入っていったわよ。薄緑と赤の、えと、人工精霊だっけ?それと
一緒に」
 と言ってる間に、鏡面が輝き波打って、二つの光と共に翠星石が出てきた。
「う~ん、だめですねぇ。やっぱり簡単には近道は見つからないです。まだ、迷わないよ
うにするのがやっとですよぉ。ローザ・ミスティカも見つからないですねぇ」
「そう、しょうがないわ。物事そんな簡単に行かないものね」
 真紅もさしてがっかりしていない。ハルケギニアに来て、まだ3日目。それほどの成果
があがるとは、ジュンも人形達も考えていなかった。

「な~にぃあんた達。朝からもう探検してたの?」
「ええ、時間は貴重よ。近道だけでも早く見つけないと」
「ジュンが魔法の勉強するためにはですねぇ、往復するために使うエネルギーと時間を、
出来るだけ減らさないとだめですぅ」
「あー、そーだよなー。僕、そろそろ魔法の勉強始めないとなー」
「ちょっとちょっとあんた達…」
 ルイズは呆れて首を振った。
「そんな最初から飛ばしてたら、体が保たないわよ。まずはじっくり足場を固めるのが、
筋ってものじゃないかしら?」
 ルイズにいわれて、三人も顔を見合わせて頷いた。

「納得したようね。ンじゃまずは…」
 ビシィッっとジュンに本を突き出した。
「これ読んで」
 ジュンは本を受け取り、開いた。
「これ、何?」
「今使ってる教科書」
「…読めない」
「…なんで?」
「見た事無い文字だから」
「それ、今私たちが話してる言葉よ」
 真紅も本をのぞいた。
「ルーンの効力、文字には及んでいないみたいね」
 翠星石は首をかしげた。
「しゃべれるのに、文字は読めないです。ヘンな話ですねぇ」
「ん~…ということは」
 ルイズはアゴに指をあて、次いでジュンをピッと指さした。
「まずは文字を覚えなきゃだめね♪」
 真紅と翠星石がジュンをポンポンと叩いた。
「よろしくね、ジュン」
「頑張るですよー」
「へぇーい…」
 ジュンは、諦めの境地に達した気がした。

 というわけで、ルイズはその日の朝食を、ジュン達と一緒に壁際のテーブルで食べなが
ら、ジュンにハルケギニア文字を教えた。
 そんな彼らの姿は周囲には、主と使い魔、というよりは、姉弟に見えていた。
 外からは使用人達がカーンコーンと、大木とツタを斧で切り倒す音が響いていた。


 ひそひそ…
「アー、ヴェー、セー。言ってみて」
「アー、ブえー、セー」
「ちょっと違う。アー、ヴェー、セー、もう一度。」 
「アー、ヴェー、セー」
「そうそう、その調子」
 ひそひそ…

「もしもしミス・ヴァリエール、それにミスタ・サグラダ。何をひそひそと話してるんで
すか?」
「ふぇ!?す、すいませんミスタ・コルベール!その…使い魔にハルケギニア文字を教え
ていました」
「ほぅ、それは立派です。ミスタ・サグラダも向学心をお持ちですね。でも、今は私の授
業中なので、後にして下さい」
 彼らはコルベールの『火の系統』の授業中に、こっそり文字を教えていた。
「すいません、コルベールさん。…あの、僕はサクラダ=ジュンです。ジュンで結構です
から」
「分かりました。…ああ、文字を覚えたいのなら、幼年学校の教科書を使うと良いでしょ
う。あとで私の研究室に来なさい、何冊か差し上げましょう」
「いいんですか?ありがとうございます!」
 頭を下げたジュンを見て、コルベールは生徒が増えた気がした。


 コルベールの研究室、というと聞こえはいいが、見た目はただの掘っ立て小屋。中には
試験管・薬品・地図に天体儀と、まさに化学実験室だ。異臭もすごい。ルイズ達4人は悪
臭に顔をしかめつつ、棚をゴソゴソ探るコルベールを眺めていた。

「これです。もう使わない教科書なので、遠慮無く持って行きなさい」
「うわぁ、助かります。コルベールさん、ありがとうございました!」
「感謝致しますわ、ミスタ・コルベール」
 ぺこっと礼をするジュンとルイズに、コルベールも満足げだ。
「いやいや、いいんだ。しっかり勉強したまえよ」
 と言ってコルベールは、ルイズ達をしばらく見つめた。

 ジュンは「またか…」と、うんざりしてきた。
 真紅達も警戒心を露わにし出す。
 そんな使い魔達の表情にコルベールも気が付いた。
「ああ、すまない。そうだね、君たちもいい加減、あれこれ詮索されるのはうんざりして
きただろうね」
 ジュンは、ちょっとビックリして頭を下げた
「すいません。こんな世界の彼方から来た正体不明の連中ですから、最初はヘンな目で見
られるのも当然ですね。しばらくの間は我慢しますよ」
「うむ、哀しいが奇異の目で見られているのは事実だろう。次の食事時にでも、オールド・
オスマンから全生徒にクギを刺してもらおう。少なくとも、表立って君たちに絡んでく
る生徒は減るだろう」
「わざわざすいません。ぜひお願いします」
 ペコリと頭を下げたジュンにコルベールはウンウンと何度も頷いた。
「うん、君は平民の子供なのに勉強熱心だ。本当に立派ですぞ。親御さんも、さぞや立派
な方達だったんでしょう」

 親、と言われて、ジュンは少し表情を曇らせた。
 真紅と翠星石も、心配げにジュンを見上げる。

 そんなジュンの顔に、コルベールは慌てて弁解した。
「いや!すまない、君も家族の事は、その、こんな遠い異国のトリステインにまで来てし
まって、その、会うのは難しいかも知れないが、別にもう会えないわけでは」 
「え?いえ、そういう事ではなくて、あの、まぁ、ハルケギニアに召喚される前から、長
い事会ってませんでしたから」
「ぅん?そ、そうかね。いやまぁ、すまんね。君の家庭の事に他人がいきなり口出しして
しまって。すまなかった、この事はもう口にしないとしよう」

 コルベールは誤魔化すように、慌てて机の教材を片付けた。その教材の一つに、ジュン
は興味を惹かれた。

「あの、コルベールさん。これは何ですか?」
「おお!よくぞ聞いてくれました。これは私が発明した装置ですぞ。油と火の魔法を使っ
て動力を得る装置です!このふいごで油を気化させて、そして…」
 と言ってコルベールは円筒の横に空いた穴に杖を突っ込んだり、足でふいごをふいたり
した。
 円筒の上に付いたクランクが上下し、車輪が回転して、ギアを介し、箱からヘビの人形
がぴょこっぴょこっと飛び出した。
「・・・ヘビ君が!顔を出してぴょこぴょこご挨拶!面白いですぞ!」

 ルイズはぼけっとしていた。全然興味がないようだ。
 真紅と翠星石は、わーすごーい♪と机に登り、飛び出すヘビをペタペタ触っていた。
 ジュンは仰天していた。まさか、この魔法世界でエンジンの原型が見れるとは。
「すっ、すごい!これ、先生が作ったんですか!?」
「おお!君にはこの発明の素晴らしさが分かるのですか!?うんうん、やはり君は見所が
ある!私の目に狂いはなかった!確かに『火』は破壊を司る!しかし諸君、『火』は使い
ようですぞ。使いようによっては・・・」
 興奮するコルベールのマシンガントークにジュンは圧倒されつつも、頭がちょっと寂し
くてさえない教師を、思いっきり見直していた。
「凄いですよ先生!僕、先生を尊敬しますっ!この研究、ぜひ続けるべきです!」
「そ!そうかねウンウン♪いやー、ミス・ヴァリエール。君は本当に素晴らしい使い魔を
召喚したねぇ!まさか、こんなに真実と真理に対する洞察力が高いとはっ!全く、あのガ
ンダー」
 うぐっ
 コルベールは慌てて自分の口を両手で塞いていた。

「がんだ?」
 ルイズ達四人がキョトンとなった。

「うおっほん!失礼、興奮しすぎて何を言ってるか、自分でも分からなくなったようだ」
 コルベールは慌てて誤魔化した。
「さてさて諸君、そろそろ私も次の仕事にかからねばならない。ミス・ヴァリエール、彼
にしっかり勉強を教えてあげてくれたまえ。
 あ、それとジュン君」
「はい、なんでしょう」
「君のその左手のルーンなんだけど、やっぱり人間が使い魔に召喚、というのは前例が無
くてね。学院の者は知ってるけど、事情を知らない者には、やっぱりそのルーンはかなり
ヘンに見られると思う」
「…そうでしょうね」
「外部の者に会うような時は、包帯か手袋で隠した方が無難だと思いますぞ」
「そうですね、わかりました」

 ルイズ達はコルベールの研究室を後にした。だがしばらく歩くと、真紅が少し顔をしか
めた。
「ちょっとルイズ、ジュンも。ホントにその本を使うの?」
「うーん、せっかくもらったし」
 翠星石も、鼻をつまむ。
「なんてすかこのにほひは~、クハァイでふぅ」
「まぁまぁ、あの部屋にずっと置いてたらしいからなぁ。きっと、すぐ消えるよ」
 ルイズは顔の前で手をパタパタさせてる。
「はやいとこそれ済ませて、次の本に行きましょ」
「そ、そだね。んじゃ、さっそく部屋に帰ろうか」
「待ちなさいよ!そんな悪臭をあたしの部屋に付けないで。図書館行きましょ」
 ハーイという3人の返事がハモる。引っこ抜いた根っこの大穴を土で埋めてる使用人達
の横を通り、一行は本塔へと向かった。



 放課後の図書館、人影もまばらだ。
 夕日が差す窓際のテーブルに、小さな人影2つとさらに小さな人影が2つ。
 子供向けのおとぎ話を読んだり、童謡を歌ったりしている。


神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、
                     右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。
神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。
                  あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは陸海空。
神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。
                あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。
そして最後にもう一人…、記すことさえはばかれる…。
四人の僕を従えて、我はこの地にやって来た…


 歌声が図書館に響く。ほとんど人がいないので、文句を言う人もいない。唯一、彼らを
遠くのテーブルから、タバサが本を読みながら、横目でチラリと見ていただけだった。
 青い髪の少女は、すこし彼らの姿を眺めて、再び本に目を戻した。

 とっぷり日も暮れて、空には少し雲に隠れた二つの月と星空。
 ルイズの部屋には、テーブルを挟んで勉強する二人の姿があった。

「ふぅわあ~。つっかれたぁあ~」
 ジュンが大あくびをした。
「はぁふぅ~。そうねぇ、いい加減疲れたわねぇ」
 ルイズもぅうにいぃ~っと伸びをする。
「あ、僕、ちょっと外に取ってくるものがあるんだ」
 と言って、ジュンは部屋を出て行った

「もうこんな時間ね。こっちもこれくらいにしましょうか」
「そうですねぇ~。そろそろ寝ますかぁ」
 鏡台の前で真紅と翠星石は、nのフィールドを探索し続けていた。

 ルイズがネグリジェに着替え終えた頃、ジュンはわらの束を抱えて戻ってきた。
「これ、毛布の下に敷こうと思って」
「ちょっとぉ、あたしの部屋を汚さないでよねー」
「ゴメン、ルイズさん。でも、明日の朝片付けるから、夜だけお願い!」
「しょーがないわねぇ。ちゃんと自分で掃除するのよ」
「分かってるよ。綺麗にしておくから。それじゃ、おやすみなさい」
 そう言って、ジュンはさっさと毛布にくるまった。

「みんな、おやすみなさい」
「おやすみですぅ、また明日です」
 真紅と翠星石も、鞄に入り込んだ。

「まったく…子供の相手は疲れるわねぇ」
 先に寝床に入り込んだ3人を、ルイズは腕組みしながら眺めていた。

「ま、いっか」
 それだけつぶやいて、ルイズもベッドに入った。




第三話   『トリステイン魔法学院での一日』
                             END


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