あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無の王-07


 “風”と“火”の塔の間に、ヴェストリの広場が在る。西向きの中庭で、日中も殆ど日が差さない。悪巫山戯には最適の場所だ。

「決闘だ!」

「決闘だ!」

「ギーシュ・ド・グラモンとゼロのルイズの使い魔が決闘だ!」

 その噂は瞬く間に広まった。
 学院の生徒は皆、貴族の子弟達だ。どだい、若い彼等が、節度と信仰と学問だけで満足出来る筈も無い。退屈な寮生活の、一服の清涼剤。珍しい見せ物を見逃してはならじ、と、挙ってヴェストリの広場を目指す。
 生徒達は口々に囁き合う。成り立ちそうも無い賭けに、残酷なショーを期待する声、ヘタレのギーシュが、負けないまでも、無様な勝負を見せるのでは、と言う意地の悪い憶測。皆、一様に酷薄な笑みを浮かべている。美しい庭園が、廊下が、道徳の下水道に変わる。
 そんな生徒達の列に、キュルケとタバサが居る。

「珍しいわね。あんたがこう言う事に興味を持つの」

 傍目には表情の見えないタバサだが、眉の動き、目の光、吐息、キュルケは極々僅かな仕草から、その意志を読みとって見せる。どうやら、空が目当てらしい。
 “雪風”の二つ名を持つメイジは、彼の持つ技術に興味を持っている。魔法を用いずに風を操る術。それが戦闘に転用可能か判断するのに、これ程打ってつけの状況は他にない。
 キュルケもまた、空と言う人間を見極めたい、と考えている。
 ルイズが小石を爆発させた直後だ。桃色の悪魔を口々に罵る生徒達は、一人の平民の、たった一睨みで口を閉ざした。その上で、空は一人一人の肩を叩き、“比較的平和な”言葉を駆使して“説得”する。
 所詮、学院の生徒達は貴族の子弟だ。法撃の爆音、銃鎗の煌めきに慣れ親しんだ、本物の貴族では無い。危険や暴力の臭いには脆弱その物。三人が空の言葉に曖昧な頷きを返した頃には、全員が顔を伏せ、恐るべき使い魔から目を背けていた。
 あの時、空が見せた目を思い起こすと、キュルケは今でも背筋がゾクゾクする。それは到底、善良と友愛と幸福との中で生きて来た人間の物では無かった。
 この男は危険だ。キュルケは直感する。腹の底に濃密な闇をたらふく溜め込んでいる。その背徳の香りが、彼女の“微熱”を煽り立て、理性と自制とをトロトロに溶かして行く。
 そして、この乱痴気騒ぎに注目しているのは、生徒ばかりでは無い。


 学院長室――――
 オスマンとコルベールは“遠見の鏡”を介して、広場の光景を見つめている。
 コルベールは言う。空は伝説の使い魔“ガンダールヴ”かも知れない、と。昨日はスケッチを取る事が出来なかったので、照合しない事には判然としないが、自分の記憶に残るそれは、『始祖ブリミルの使い魔たち』に描かれたそれと、瓜二つの物だった。
 だが、それだけで空を“ガンダールヴ”と決めつけるのは早計だ。丁度、その時、一人の教員が飛び込んで来る。ヴェストリの広場における決闘騒ぎ。
 オスマンは捨て置く様に命じた。一方で、“眠りの鐘”を手にした教師を待機もさせる。危険が無いとは言えないが、確認の為にも、やらせた方が都合が良い。
 それは、“伝説の使い魔”だけの問題では無かった。

「……彼は誤解している。“トロパイオンの塔”は……天国への階段でも、空へ至る“道”でも無い」

 オスマンは恩人の言葉を思い出す。

「天は怒りに震えている――――」

 最後尾を進むのは、当事者である空。そして主人たるルイズだ。

「ギーシュだって、謝れば……ああ、無理――――」
 口に出して考え事をするタチらしい。先刻から決闘を回避する方法を考え、度々、頭を振っている。

「あー、もう!なんで、あんな事したのよ!」
「ワイの国では、あれが作法やねん。薔薇なんて持ってへんし」
「そーじゃなくて……!あんたは、私の使い魔なのよ!何、勝手な事してるのよ!」
「せやな。ルイズの面子も考えんと、勝手に謝って悪かったわ」
「そっちじゃなくて……!それもあるけど……決闘よ!平民が貴族に決闘を挑むなんて前代未聞よ!考えられないわ」
「そーせんと、ルイズが喧嘩始めそうやったし。ケチな喧嘩に頭出張らす訳、いかへんやろ」
「始めないわよ!貴族同士の決闘は禁止されてるんだから!」

 もう一つ、気にいらない事が有る。

「“ついでに”て何よ。“ついでに”て。私がギーシュに二股かけられた二人や、平民のおまけだって言うの?」
「ルイズは散々、あの兄ちゃんやっつけてたやん。可哀相に、涙目やったわ。せやから、ついで。ワイに仇とって貰おう、て腹でも無いやろ」
「あのね、言っておくけど、平民は絶対に、貴族には勝てないのよ」
「言うたやろ。ワイは王様やて」

 怒り狂うルイズを笑顔であしらいながら、空は考える。目的達成の手段を平和的な物に限らないなら、交戦確率の高い相手――――メイジの能力を知っておくに越した事は無い。
ギーシュは最下級のドットクラスだと言う。メイジ全体を計るには物足りないかも知れないが、逆に危険も少ないだろう。初戦には手頃な相手だ。多分。
 マイペースな空の態度に、ルイズは呆れて唇を結ぶ。同時に、仄かな期待も胸に浮かぶ。
 空は元“王”だと言う。それが本当なら――――“道”が系統に匹敵する物であり、彼の力がスクウェア・クラスに相当するのなら――――脚のハンディを差し引いても、ギーシュなど相手にならない筈だ。
 この男は、本当に“空”を見せてくれるのだろうか。


 ギーシュ・ド・グラモンがヴェストリの広場に着いた時、そこには既に二桁の野次馬が集まっていた。口々に囃し立てる声に、片手で答えながら、ぐるりを見回す。
 相手はどこから来るだろう。ルイズが側に居るし、野次馬の目だって有る。道に迷ったり、余計な回り道は考え難い。そう計算すると、広場の奥まで足を進める。決闘に退路は必要無い。何より、今回は距離を保つ事が肝要だった。
 ギーシュは跪くと、両手を組んで祈る。

 偉大なる始祖ブリミルよ、あなたに成り代わり、不逞の徒に罰を下す事をお許し下さい。
 グラモン家の名誉を回復する為、我が杖に祝福をお与え下さい――――

 ギーシュは空を見くびっていない。自分とルイズの間に割り入った際に見せた、驚くべき速さ。呪文の詠唱に時間を要するメイジにとっては脅威だ。勝負は最初の数秒で決まるだろう。魔法の完成が遅れれば、刀鎗白打による不名誉な敗北を喫する恐れ無しとは言えない。
 本来、決闘は対等かそれに近い者同士でなければ成り立たない物だ。平民――――それもカタワ者を相手にするなど馬鹿げている。
 貴族は力によって君臨する。平民に敗北すれば、一切の名誉を失う羽目になる。
 それでも、この決闘は避けて通れない。肩章の家紋に上張りされた、見た事も無い紋様――――なんとしてでも、この恥を雪がなければならない。
 広場が騒がしくなって来た。野次馬がみるみる増えている。そして、歓声――――空が来た。ギーシュは立ち上がると、勢いよく振り向く。

「諸君!決闘だっ――――!!」

 回廊から降り立つ車椅子を注視しながら、ギーシュは高らかに宣言する。
 歓声がわっと大きくなり、耳を聾した。諸君、静かにしてくれ――――空との距離を測りつつ、ギーシュは内心で懇願した。彼に声をかけなければならない。それが、勝負の肝なのだ。邪魔をしないでくれ。
 幸い、手を振って応えている内に、声は静まった。空はゆっくりと近付いて来る。距離はまだ許容範囲。

「取り敢えず、逃げずに来た事は誉めてやろうじゃないか。ルイズの平民」
「申し込んだの、ワイやで?」

 車椅子を止めて、空は言った。良し――――ギーシュはほっとする。声をかける距離が遠すぎれば、相手は止まらずに近寄って来ただろう。かと言って、近すぎれば危険が増す。これは悪く無い間合いだ。
 さて、ここからだ。演出も兼ねて、もう一押し。少々、アンフェアなきらいもあるが、貴族にとって最大の恥辱は敗北だ。躊躇う必要も無いだろう。


「さて、まずは礼式に則って、名乗りを上げるとしようか。僕の二つ名は『青銅』。青銅のギーシュ――――」

 ギーシュは造花の薔薇を一振り。花びらを一枚、宙に散らす。地に落ちたそれは、瞬く間に、甲冑の女戦士を象った。

「この青銅のゴーレム、『ワルキューレ』を以てお相手しよう」

 ワルキューレが数歩進んで、優雅に一礼すると、また歓声が上がる――――合図を待たずに魔法を使った事に対して、非難の声は聞こえない。巧く行った。こう言う場面では、ルールよりも空気を味方に付けた方が、事を有利に運べる。
 空は目の前で起きた出来事に、唖然としている。

(こら驚いた……HONDAの技術者が居ったら、顔ひきつりまくりやな――――)

 一方、ルイズは目に見えて不満な顔だ。マズイ――――ギーシュは機先を制する事にした。

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。よもや、文句はあるまいね?」
「好きにしたらええ。ワイも好きにやる」

 そのやり取りで、ルイズは抗議のタイミングを逸してしまった。

(勝った……)

 キザたらしく薔薇を持て弄びながら、ギーシュは確信した。

 計画通り――――っっ

(奴がどんなに速くとも、ワルキューレで進路を抑えれば、詠唱の時間は十分稼げる。後は残る6体を随時投入すれば、僕の勝ちは動かない――――っ)

「あんた、元“王”でしょう?ギーシュのワルキューレくらいに驚いてて大丈夫なの?」
「いやいや、あら本当に凄いわ。ワイの国は未だ、あそこまで動ける二足歩行ロボットは作れへん」
「ロボット?ゴーレムの事?遅れた国なのね」
「その分、別の分野は進んどる――――さ、離れとき」

 ルイズは不満と不安を綯い交ぜにした視線を残して、観客の中に消えた。元“王”と言う空の言葉が嘘なのではないか、と言う疑念と不満。決闘と名の付いた公開私刑になりはしないか、と言う不安だ。

「さてと、では始めようか」

 その声を合図に、双方は動き出した。


 芝生を踏みしめ、青銅の人形が迫る。思いの外、速い。人間並だ。これで土系統の最下級。最上級のスクウェア・クラスなら、どんな化け物を作って見せるのだろう。
 一歩、また一歩、疾走に併せて芝が沈む。その具合を見るに、中は空だろう。それでも重量はかなりの物だ。100㎏を超える体に、中軽量級のスピード。常人では先ず、勝ち目が無い。
 青銅の拳が唸る。強烈なフックが、風を巻き込んで迫り来る。
 空は後退してかわす。モーターは回していない。とりあえず、メイジの力を見てみたい。
 返しの左。間髪入れずに再び右。髪を、頬を掠める風圧が、その威力を物語る。空は車体を右、左、に捻る。
 ワルキューレが突進。回転が上がる。右から左から凶悪な鈍器が飛んで来る。まるで嵐だ。樹木を砕き、根ごと引っこ抜く鉄の颶風。
 空はそれ以上に速い。柔軟な指が駆動輪を前後に滑る。素早い後退。鋭いターン。時には片輪、時には殆ど横倒し。鼠花火もかくやの勢いで、車椅子が独楽と回る。
 観衆が沸き立つ。車椅子が見せる異常な速さに目を瞠る。
 逆の声も有る。かたわ一人に手こずるギーシュの不甲斐なさを詰る。

「どうした!逃げの一手か!」

 業を煮やしたギーシュは、次なる一手を打つ。薔薇を振るって、花びらをもう一枚。新たなワルキューレを作り出す。

(今だ――――!)

 二体目の投入が、一瞬空の注意を引いた事を、ギーシュは見逃さなかった。更に薔薇を振る。相手の移動を封じる魔法だ。土塊が駆動輪に絡み付き、車椅子をその場に縛り付ける。ワルキューレが無慈悲に拳を振るう。
 勝負有った――――ギーシュならずとも、そう考えただろう。だが、重く固い拳の棍棒は虚しく空を切った。誰もが唖然とした。
 頭上だ。空は逆立ちの要領で、ワルキューレの肩に乗っていた。尋常ならざる身軽さだった。そもそも、この男は脚を病んでいたのではないのか。どうやって、跳躍した?

「ん?……と、邪魔や」

 空は力任せにワルキューレを投げる。その勢いで一転、再び車椅子に納まった。
 青銅の塊が縦に転がる。首が折れ、腰が歪む。そこへ飛び込む二体目のワルキューレ――――こちらも思わぬ敏捷さを見せる。障害物を飛び越え、一躍空に襲いかかる。
 その時、ギーシュは今度こそ、信じられない物を見た。
 ワルキューレが弾き飛ばされた。まるで、鉄の壁に激突したかの様相だ。後に吹っ飛び、バラバラになる。そこでは、空が掌を突き出している。
 ワルキューレを突き飛ばした?素手で破壊した?そんな人間が存在し得るのか。パニックに陥りかけた時、空が動いた。魔法の足枷が振り切られる。

 マズイ――――!

 自分と空の間には何も無い。突進を阻む物が無い。

 マズイ――――!

 ギーシュは慌てて杖を振るう。一体目は未だ倒れたままだ。これで足りるか――――花弁を三枚落とす。
 空が加速――――騎士だってここまでは速く走れない。だが、食堂で見た程では無い。ワルキューレが生まれる。刀槍で武装した三体が突進。一体目もよろよろと立ち上がる。四体のワルキューレが、敵の行く手に立ちはだかる。

(え――――?)

 ギーシュの思考に空白が生まれた。何かが視界を過ぎり、一瞬、ワルキューレの背中を見失う。
 慌ててコントロールに集中――――だが、その手段は手元から失われていた。


 何が起きた――――?

 ギーシュは混乱した。空は半回転、勢いを殺しつつ、停止する。それは、左手、すぐ数メイル先での出来事だった。

 何が起きた――――?

 空の手には、自分の薔薇が有る。何時、奪い取られた?
 レビテーションで頭上から見物していた生徒達だけが、事態を正しく理解していた。広場の芝に、大きなS字が刻まれている。
 複数のワルキューレを同時に投入した事が、ギーシュの失策だ。自分を守る筈の防壁が、逆にブラインドとなり、空の姿を見失わせた。そして、視界の外から飛び込んで来る、超高速の対象に反応出来る訳が無い。

「ん……あの人形こさえるのに、これが無いとアカンやろ思ってたけど、コントロールも駄目なんか?」

 当たり前だ。杖無しに魔法を使えるメイジは居ない。
 歓声が上がった。笑い混じりの歓声だった。或る者は言った。平民がギーシュに勝った!――――或る者は言った。ギーシュが平民に負けた!
 ギーシュは唇を震わせていた。何が起きたかは判らなくとも、一つの事だけは理解出来た。自分は負けた。平民に負けた。魔法の力を以て君臨する貴族が、無力な筈の平民に負けた。これ程の恥辱は無い。
 だが、これは神聖な決闘の結果だった。潔く受け容れなければならない。内心の葛藤を押さえ込み、ギーシュはからからの喉から、声を絞り出した。

「ま……参っ……――――」
「ほな。これ記念にもろとくわ」

 最後まで言い切る前に、空が言った。自分の薔薇の事だと理解するのに、五秒かかった。

「な……――――」
「えーと、グラモン家やったっけ?……のまあ、何番目か知らんけど……その子息は、かたわの平民と決闘をして、負けてしまいました――――兄ちゃんが出世した時、園遊会で格好の話題になるやろな」

 ギーシュは真っ青になる。それは彼にとって、死の宣告に等しい物だった。思わぬ言葉に、観衆にもざわめきが走る。笑っている者も居るが、それは一握りだ。

「ぼ、僕を脅迫する気か!」

 恥辱と怒りと恐怖に震える少年に、空は冷たい目を返した。

「なんや……やっぱり、何の覚悟も出来てなかったんかい……これやから、半人前相手はいやや言うたんや」
「何……?」

 目と同じ、冷たい声。ギーシュは息を飲む。

「決闘言うたら、勇気を見せるもんやろ。根性見せて、名誉を回復するもんやろ。お前が何時、勇気を見せた。人形の後に隠れとって、使えなくなったら、はい、参りました?冗談やないで、ホンマ」

 空は手にした薔薇を、無造作に放り投げた。

「いらんわ。持って帰れ」


 足下に落ちた薔薇を、ギーシュは表情の抜け落ちた顔で見つめていた。嘲笑が観衆のあちらこちらから巻き起こったが、それも耳に入らなかった。
 確かに、空の言う通りだ。自分は一つも勇気を示していない。
 思えば最終的には受ける形になったものの、この決闘は元々、自分が挑んだ物だった。あの時、自分はどんなつもりで決闘を挑んだ?名誉の為?
 違う。頭に血が上り、血気の勇に走っただけだ。ただ、空の侮辱的な態度が許せず、叩き潰し、身の程を判らせてやりたかっただけだ。いや、空が居なければ、その対象はルイズだった。
 自分はただ、魔法を使えない相手に、その力を示したかっただけだったのだ。そこには、一門の名誉を賭して戦う、どんな覚悟も有りはしなかった。そして、いざ決闘となれば、勇気では無く、小策に走った。
 大体、事の切っ掛けはなんだった。自分は一度でも、グラモン家の男に相応しい態度を取っただろうか。
 ギーシュは自分の振る舞いを恥じた。だが、決闘は終わったのだ。名誉を回復する機会を、自ら放棄したのだ。
 潔く負けを認めなければならない。そして――――どうする?足下の薔薇を拾い、背を丸めて立ち去る?
 ギーシュは内心で頭を振った。それだけは絶対に嫌だ。断じて嫌だ。
 なら、恥の上塗りになろうとも、すべき事は決まっていた。
 この時、ヴェストリの広場に集まった少年少女は、一様に声を失った。今まで見た事も無い物を、信じられない物を見た。

「申し訳ない、ミスタ」

 空に向かい、ギーシュは深々と頭を下げた。

「貴方の言われる通りだ。僕の振る舞いは名誉有る物では無かった」

 刹那、広場は爆笑に包まれた。貴族が平民に頭を下げた。なんと恥知らずな事だろう。
 無慈悲な笑い声は、当然、ギーシュの耳にも届いた。それでも彼は動じず、淡々と続けた。

「貴方を紳士と見込んで、お願いする。この未熟な男に、今一度、名誉回復の機会を与えてはくれないだろうか。綸言汗の如し。貴族の言葉は神の言葉に等しい。
一度、降参を口にした身でこの様な懇願をするのは、一門の名を辱める物かも知れない。だが、僕は貴族である前に一人の男だ。恥は知らずとも、意地が有る」
「――――機会も何も、おまえ、未だマイッタ、て言うてへんやろ。そっちがその気なら、幾らでも相手になるわ」
「有り難うございます。貴方の慈悲深い態度に感謝する。では――――」

 ギーシュは身を屈めて、薔薇の杖を拾い上げる。爆笑が絶頂に達した。また、馬鹿の一つ覚えのワルキューレか――――だが、この時、グラモン家の四男が見せた行動は、彼等の想像を絶した物だった。
 ギーシュは薔薇を、空に投げ渡した。
 下卑た笑いが渦巻く広場は、一転、沈黙に包まれる。

「まずは、奪り戻す。誇り〈エムブレム〉を」

 そう宣言すると、メイジの少年は、生身で駆け出した。


 ――――To be continued


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