あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ドクターウェストの華麗なる実験 第二話

 光在る所に闇在り。
 闇在る所に光在り。
 それは人の世において断つ事の出来ない連鎖であり、回り巡る掟である。
 世界もまたそれに然り。
 太陽が空で輝き続けることは無く、闇夜がいつまでも蔓延る事も無い。
 どんなに暗い夜だろうと、やがては朝は来る。
 そこには一つの例外は無く、ハルケギニアにおいてもそうだった。
 暗い空が薄れ、地平線の後ろまで来ている山吹色の光が闇夜と拮抗して赤紫の境界を縁取り、遂には光が世界を満たす。
 隠れていた太陽が昇り、生き物達は動き始める。
 清々しい朝だった。
 やや冷たい空気を感じる者はのさばる眠気の残痕を緩やかに拭い取られ、陽光の暖かさに活力を貰うだろう。
 だが、そんな朝の恩恵を受けていない者がいた。
 ルイズだった。
 昨日思わぬ出来事によって墜落した拍子に気絶してしまった彼女が目を覚ましたのは、日も落ちた夜の自分の部屋だった。
 しばらくぼーっとしていたが、自分の召喚した使い魔の事とそいつが仕出かした事を思い出し、怒り狂って探しに部屋を飛び出した。
 勿論ウェストに怒りの一発をくれてやる心算で。
 だが結局見つかる事は無かった。
 一応食堂でこれでもかというくらいの量の料理を食っていた事は分かったが、それ以降の足取りは何もつかめなかった。
 逃げてしまったんだ。
 ルイズは自然とそういう結論に辿り着き、涙が溢れてきた。
 召喚したのが人間で、しかも逃げられてしまう。
 明日授業に出たときに他の生徒から何と言われて蔑まれるだろうか。
 考えるだけでも憂鬱になり、夢へ逃げるようにルイズは着替えもせずにベッドに横になる。
 ほんの少し前まで寝ていたルイズだが、夜の静寂が慈悲深かったのか僅かにシーツを濡らすだけで寝息を立て始める。
 そして朝まで目を覚ます事無く、なおも眠り続けていた。
 昨日の事で相当疲れたようだった。
 しかし彼女は眠りから覚めなければならない。
 どんなに憂鬱でもそうして授業に出るのが貴族としてこの学院に身を置く者の義務である。
 よって、ルイズに眠りを覚ます声がかけられる。

「ドォクタ――――――――――――――ッ!! ウェ―――――――――――――――ストッ!!」

 メランコリックをものの見事に倒壊させる実に気の利いた電波で狂った声だった。
 ルイズはベッドからシーツごと転がり落ちる。
 突然の事に目をパチクリさせていたルイズだったが、慌てて窓を開けて声の主を探し、そして見つける。
 声の主――――ウェストは朝日をバックにして空を飛行していた。
 背中にはなにやら鉄で出来た巨大な帽子のような物体を背負っていて、そこから突き出した高速回転するプロペラによってウェストは横に回ったり縦に回ったりと悠々と飛行している。

「グッモーニン・エヴリ・ワンダフルデイ!
 やあやあ皆さんおはようございまーすっ!
 本日も我輩、好調好調絶校長につき何ら問題ナッシーーーーングッ!
 この『グレート飛べ飛べガジェット』も、このトリスタインの歴史に燦然と刻まれる我輩の偉業を魁ているのであーる。
 それでは手足の運動いってみよーーーーーっ!!」

 1っ! 2っ! 3っ! 4っ! 5っ! 6っ! 7っ! 8っ!
 2っ! 2っ! 3っ! 4っ! 5っ! 6っ! 7っ! 8っ!

 空中に留まりながらウェストは両手を横に大きく振り、それに合わせるように膝を軽く曲げ伸ばしする。
 要は普通のラジオ体操だ。
 お馴染みの音楽とナレーションはラジオが無いのでウェストが自分で言っている。
 ラジオ体操というものを見たことのないルイズにとってその動きは可笑しなものだった。



 だが体操をするウェストを見て胸に乗っていた重石が軽さを感じ、同時にウェストに好感を持った。
 何の前触れも無く知らない場所に連れて来られていきなり使い魔になれと言われたのに、ああやって何でもなくいてくれる。
 確かにこのハルケギニアでウェストが頼れるのはルイズ一人だが、ウェストの性格からてっきり何処かへ逃げたと思っていた。
 勿論ウェストがルイズの為に逃げなかったなんて事はありえない。
 それでもルイズはそこに居てくれたウェストに感謝の念を禁じ得なかった。
 そうして空中でラジオ体操と洒落込むウェストを見ていたルイズだが、ふとウェストの後ろに何か在るのを見つける。
 太陽の強い光に目を細くして見つめると、そこには太陽の光よりもう一段階強い光があった。
 あれは一体何なのか。
 ウェストの動きに合わせて同じように縦へ横へと動くその光に、ルイズは一抹の不安を感じた。
 もしあの光が有害な物だったら、ウェストはどうなるのか。
 そう考えると一層に不安は増し、ルイズはウェストに声をかけようと口を開く。
 が、言葉が咽喉を通り過ぎる前に光の正体が判明した。
 それは誰もが目を逸らし、誰もが避け、誰もがあえて触れようとしなかったもの。
 光は遂にウェストと同じ動きを止め、ウェストの横へと並び、そして――――――――――

「素晴らしい! 全く持って素晴らしい!
 ああ、ありがとうウェスト君。
 私は活路が目の前に開けたような気分だよ。
 本当にありがとう。
 君は私の恩人だ」

 ウェストと同じように太陽を背にし、『グレート飛べ飛べガジェット』を背負い一段と頭上を輝かせたコルベールがウェストの両手をしっかりと掴み、まるで旧来からの親友のように握手をする。

「うむっ! 昨夜に我輩の英知を求めて来た時はこんなショッパイ親父に何が分かるのかと思っていたが、貴様は我輩が思っていた以上であった。
 この魔法全盛の時代に、あえて科学を究め極めようというその意気込みに我輩感動したのである。
 君の思い、確かに受け取った!
 我輩に任せておけば、貴様の目指す栄光への道(ロード)は劇的ビフォーアフターの要領でエスカレーター式に早代わり。
 ノックネヴィス(載貨重量564,763トン。全長458.4m。全幅68.9m。原油タンカーで世界最大の船舶)に乗った気分でいるがよい」

 一応言っておくが、コルベールはウェストの胸のルーンを確認しようと訪ねただけで、ウェストの英知を求めに来たわけではない。
 だが確認する前に好奇心に負けてコルベールが『飛べ飛べガジェット』の事を訪ねてしまい、すっかり目的が頭髪と同じ道を辿ってしまったのだった。
 それからコルベールが『グレート飛べ飛べガジェット』を見つけて科学者的チョメチョメが始まってしまい、コルベールのミッションはゲームオーバー。
 誰もが想像出来るだろう。
 『グレート飛べ飛べガジェット』に頬擦りをすると同時に頭皮の何も無い毛穴からガムシロップを垂れ流しそうな程甘いコルベールの未知の技術に対する純愛っぷりを。
 コルベールと謎の美少女(テクノロジー)。
 これ絶対ゲームとか小説できる。
 『私立アキハバラ工業高校』とか『機会天使コルベール』とか『造りかけの黒電話』とか、そういう感じのが。
 とまあ本末転倒から始まって紆余曲折の過程を経て、時系列は現在に戻る。

「ノックネヴィスが何なのかは分からないが、大いに期待させてもらうよ」

 ルイズが見たこと無いほど顔を緩ませて賛美していたコルベールは、下を向くと声を張って呼びかけた。

「あなたも早くこっちに来てみて下さい。
 魔法を使わずに、それもこのような未知の技術で空を飛ぶというのは何とも感慨深いものですぞ!」

 ルイズはコルベールが見た方に視線を動かして見る。
 そこにはフラフラとしながら『グレート飛べ飛べガジェット』』で昇っていく老人の姿が。



「そう急かす出ない。ワシのような年寄りは物覚えが悪いんじゃ。
 まだ若いお主のようにこの『グレート飛べ飛べガジェット』という奴の操作の仕方は直ぐには覚えられんよ」

「はは、すいません。私とした事が、つい我を忘れてはしゃいでしまって。
 しかし我々は今、この世界の外から持ち込まれた力の恩恵を授かっています。
 これを興奮せずに何と言いましょうか、オールド・オスマン!」

「まったく、君の情熱には恐れ入る。
 君を見ていると、ワシにまで君の情熱が飛び火しそうじゃわい。
 じゃがそれも一興。
 ウェスト君、我々の準備は万全じゃぞ?」

 コルベールとオスマンの視線にウェストは肯くと、白衣の内側からエレキギターを取り出して構える。

「オーケイ、オーケイ。
 貴様らも我輩も準備はオーライというわけか。
 ならば! 我輩たちは全力を持ってやり切るのみ!
 昨夜の血を滲ませた徹夜の特訓の成果、見せてやるがよい!
 ミュージック、GO! GO! GO!!」

 ウェストはギターをテンポ良く演奏し、三人はウェストを中心に横一列に並ぶ。
 そして始まる曲にあわせて踊り始めた。
 曲名はハレ晴れユカイだった。

「ファイヤ―――――ボ―――――――――――――――――――――ルッッ!!!」

 ルイズは絶叫と共に杖を振った。
 するとウェストの『グレート飛べ飛べガジェット』が大爆発し、隣の二人も巻き込んで更に爆発が二つ続く。

「WAWAWA、忘れもNoooooooooooooooooooooooooッ!!」

 突然の爆発に失神して落ちていくオスマンとコルベールに、訳の分からない叫びを残して吹っ飛ぶウェスト。
 安全のためか地面に敷いてある分厚いマットに落ちたオスマンとコルベールは助かったが、一人飛んだウェストは何もない地面に激突した。
 運が悪い事に顔面からモロに突っ込んだウェストは、殺虫剤をかけられたゴキブリのように脚を犬神家フォームで痙攣させている。
 ルイズはウェストを尻目に窓から射す日光に誘われて上を向き、まだ然程高くない位置で輝く朝日の眩しさに思わず目を細める。
 肌を撫でるやや冷たい空気がゆっくりと体の火照りを払うのを感じながら、新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込むと一言こう漏らした。

「今ならわたし、この空を飛べる気がするわ」

 そう言うと窓辺に足をかけて、I can fly!

「朝っぱらから何やってんのよあんた」

 何やら騒ぐルイズが気になって部屋に入ってきたキュルケに声をかけられ、ルイズは飛ぶ前に正気を取り戻す。
 こうしてルイズの朝は過ぎていった。



 顔面から落ちたウェストだったが、やはりというか無事に回復してルイズと共に教室に来ていた。
 もっとも無事といってもウェストの首は右を向いたまま元には戻っていない。
 落下の所為らしい。

「ちょっとウェスト。あんたいい加減にその首を直しなさいよ。
 見てて鬱陶しいわ」

「なっ!? き、貴様の所為でこうなったのであろうが。
 それなのに然も当然の如く我輩を罵倒するとは、貴様には他人を思いやるという事を親から教えられなかったのであるか!?
 こんな直滑降な首では、右から来た物を左に受け流す事すら出来ないではないか」

「受け流さなくて宜しい。
 だいたい何だったのよあれは。
 オールド・オスマンとミスタ・コルベールを邪神召喚儀式の生贄に使わないでよ」

「貴様はジャパニーズ・萌え・カルチャーをC計画と同等と申すか!!
 まあ確かにアレにはSF要素やコズミックホラー的形容詞も使われているから一概に関係ないと頭ごなしに言う事は出来ないが―――って話がずれたである。
 とにかく、貴様は我輩に謝れ。
 床に膝をついて手をついて頭をつけて、そのまま三点倒立をするくらいの慎みと反省と萌えを込めて我輩と京アニに謝れ!」

「京アニってなによ京アニって!!
 しかもこの期に及んで謝れですってぇ! 貴族のわたしが平民のあんたにぃ!?
 朝の事はまだ言いとしても、あんたが食堂で仕出かした事でわたしにどれだけの被害が被ったか分かってんの!?」

 ルイズが言っているのはウェストに朝食を出したところウェストが怒り狂って暴れまわった事だった。
 もっとも出されたウェストの食事が犬の餌モドキだった事が最初の原因なのだが、如何せんウェストはやりすぎた。
 白衣に仕込んであった小型ミサイルを所構わず発射して食堂は見るのも無惨なボロボロ。
 造りが頑丈だったのと固定化をかけていたからか、倒壊とまでは被害は行かなかったが、被害は酷い事には変わりない。
 被害額は相当なもので、完全な修復には暫くかかるとの事。
 とりあえず暫くの間は代わりの机が食堂に置かれることになった。
 加害者の主という事でルイズに請求が来て、結局ルイズが実家の両親に泣き付く事で事の次第は終わる事になる。
 そしてウェストは朝食を食べれなかった。

「あんたのせいでわたしはお父様とお母様とエレオノールお姉さまに何て言われるか!
 ああ、出来る事なら過去に戻ってあんたの所業を正したい……」

「むう…、そういうタイムトラベル的な事は長門か朝比奈…………」

「黙れっっ!!!」

 間髪いれずにルイズは懇親の右ストレートを叩きいれる。
 ウェストの股間に。

「ずぉぉォォォオオ御尾雄ぉぉぉぉぉぉぉぉおォォォォOOOOOおおぉぉ……ッッ!!
 わ…我輩…の……椰子の木と実が……………………………がく」

 ウェストは悶絶し、泡を噴いて気絶した。

「ルイズ、一応あなたの使い魔でしょ。
 いいの? ここまでして」



「これは教育よキュルケ。
 礼儀と常識が欠落した無知で無礼で頓珍漢なコイツに世知辛い世の中を生きる為の術を教えてあげるの。
 たとえ渡る世間が鬼ばかりでも、わたしの教えた事によってウェストはどんなに辛い事があっても切り抜けていけるわ。
 そうしてウェストは厳しい教育の裏に隠されたわたしの思いやりに気がつき、感謝の涙に頬を濡らす。
 その流れ出た尊いダイヤモンドはセンチメンタルでフォーリンラブなロマンスと共にウェストの乾ききった心を優しく慰めるの。
 やがてウェストはわたしに絶対の忠誠を近い、見事な使い魔へと成長するのよ」

「ふ~~~ん。
 どうでもいいけど、あんた若干自分の使い魔に毒されてない?」

 キュルケのこの言葉に暫し動きを止めたルイズだが、次の瞬間にこう叫んだ。

「これは庵野と富野の謀略だ!」

 毒され切っていた。

「はいはい、皆さんお静かに!」

 教室のドアが開くと先生が入ってきて全員を静める。
 先生が教室に入ってきたことで騒いでいた生徒も大人しくなって席に座る。
 ウェストは床に放置されたまま。
 先生は席に着いた生徒達を見渡して満足げに微笑むと、軽く咳払いをして喋り始めた

「皆さん。春の使い魔召喚は大成功だったようですね。
 このシュヴルーズ、新学期に召喚された使い魔を見る事を大変楽しみにしております。
 今年もいい使い魔たちが召喚できたようですね」

 いい使い魔、という言葉に教室はクスクスと笑い声に包まれる。
 ルイズはカッと顔が赤くなるのを感じ、反射的に床でのびているウェストを睨みつける。
 そこには相変わらず股間を押さえ青い顔で泡を吹く、意識の無いウェストが臥すのみだった。

「おやおや。随分と変わった使い魔を召喚したのですね、ミス・ヴァリエール」

 とうとうクスクス声は大きな笑い声に変わり、揶揄する声も加わった。
 怒りのあまりルイズは笑う生徒達を睨みつけるがそれでどうなるというわけでもなく、口を固く結んで視線を机に固定した。
 悔しさが呼吸のたびにルイズの鼻腔を抜けていく。

「おやめなさい!」

 ピシャリとシュヴルーズは言った。

「共に勉学を共にする学友を悪く言ってはいけません。
 平気で人を悪く言う人は貴族平民関係なく、一人の人間としての質を問われます。
 わかりましたか皆さん」

 この言葉に教室は静かになったが、まだ少し囁き声が聞こえていた。
 シュヴルーズは憤慨すると、杖を一振りする。
 すると、何所からとも無く赤土が教室内に現れて囁き合う生徒たちまで飛んで行き、その口を塞いでしまう。

「人が話をしている時は黙って聞きましょう。
 それが人に対する礼儀という物です。
 さて、それでは静かになった事ですし、授業を始めるとしましょう」



 シュヴルーズは教卓の後ろに立つと、また杖を一振りする。
 今度は赤土ではなくて変哲の無い石が教卓の上に現れる。
 どうやらこの石ころを授業で使うらしい。

「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。
 この名でもうお分かりになった筈ですが、これから一年間、私はあなた達に土系統の魔法について講義していく事になります」

 順調に進んでいく授業を、ルイズは受けた屈辱への怒りを抱えながら聞いていた。
 正直シュヴルーズに救われてある程度の怒りは収まりはしたものの、やはり元々の気性か話に集中できていない。
 口に詰まった赤土を張り出すのに苦闘している奴らを横目で見て「ざまあみろ」と胸の内で叫んでみても怒りは中々収まってくれない。
 収まりの悪い怒り。
 この正体がゼロと揶揄される自分自身に自分で向けた怒りだという事を、ルイズは重々承知している。
 優秀で高貴な親の元に生まれ、姉達は当りまえに立派なメイジで、その中で唯一人だけ落ち零れている事実は日々ルイズを苛んでいた。
 何故自分にはこんなにも才能が備わってないのか。
 何故自分はこんなにも惨めな思いをしなくてはならないのか。
 何故―――神はわたしにこの様な仕打ちをしたのか。
 そうやってルイズは自分や偶像を憎んだ事もあったし、今でもそれは続いている。
 このまま一生無能を曝して生きていくのなら、もういっその事死んでしまったほうが良いのではないのか。
 学院に入った当初のルイズは同年代の者達と接し、そう考える回数は増えていった。
 多感な年頃の不安定な心はルイズを暗い沼へと沈めていき、押し潰そうと迫ってくる事はとても耐えれた物ではなかった。
 胸の内でくすぶる怒りを無視し、続けられる講義を聞いていたルイズは、軽快に授業を進めるシュヴルーズを見た。
 目の前では教卓に置かれた石が真鍮に変えられる。
 授業をする事が楽しいらしく、シュヴルーズの表情は満ち足りている。
 その顔に、ルイズは全く似ていない筈の姉の一人であるカトレアを思い浮かべた。
 病気がちでよく床に臥せているカトレアだが、人一倍優しい彼女にルイズはいつも支えられ、慰められ、同時に励まされた。
 大好きな姉の腕の中は暖かくて何より安らぐ事ができ、その温もりはルイズの中に確かに残っている。
 そしてその優しさに抱かれて、ルイズは今まで頑張ってこれたのだ。
 しかし、昨日行われた使い魔召喚の儀式でルイズは中々成功できず、やっと召喚できなのは変な平民なのだ。
 使い魔というものは主人の目となり耳となり、望む物を探し出し、何より害をなす有象無象から身を護ってくれるもの。
 キュルケのサラマンダー然り、タバサの風竜然り、そういうものが相応しいのだ。
 直ぐそこの床で昏倒している馬鹿面はどう見ても相応しく無かった。
 ルイズはウェストの馬鹿面があまりにも馬鹿っぽさに、胸の内にある怒りをありったけ込めて睨む。
 穴が開きそうなほど睨んだ結果、やっぱりウェストは馬鹿面だと結論した。
 軽く鬱った。
 訳の分からない疲れがどっと押し寄せ、ルイズは机に頭を伏せる。
 これから先、旨くやっていける気が全くしなかった。
 唯一期待できそうなのはあの空を飛んだ何かだが、それを持つ本人がこんなのなので期待薄である。
 朝ウェストに好感を持った自分が心底アホに思えた。

「ミス・ヴァリエール。どこか調子でも悪いのですか?」

 はっとしてルイズは顔を上げた。

「いっ、いえ。特に調子が悪いとかはありません。
 失礼しました」

 このルイズの失態に再び教室は笑い声に包まれる。
 普段の自分ならしないだけに、ルイズは更に気を落とす。



「お静かにっ!
 いけませんわよミス・ヴァリエール。
 人が話している時はそれを聞くのが礼儀だと私は授業の始めに申しました。
 以後、気をつけるように。
 あらそうだわ。丁度良いので、あなたに錬金をしてもらいましょうか。
 さあ、ミス・ヴァリエール。こちらへいらっしゃい」

 この時、教室中に響いていた笑い声が消え、ルイズとシュヴルーズ以外の全員の顔が青ざめる。

「待ってください先生。
 ルイズに魔法をやらせるのは危険です」

 こう言ったのはキュルケだった。
 他の生徒もそれを肯定するように肯く。

「危険とは何ですかミス・ツェルプストー。
 私はあなたに害が及ぶそうな事を彼女にやらせようとはしてませんよ」

「そういうことじゃなくて、ルイズに魔法を使わせること自体危険――――――

 キュルケが言い終わろうとしたとの時

「ザオラク―――――――――――――――――――――――ッッ!!!
 おお ウェスト よ しんでしまうとはなさけない。
 だけど問題ありましぇーん! 
 たとえ千の風になろうとも我輩の誇る驚天動地の才能を持ってすれば、風となった我輩は世界中はおろか全宇宙に吹き渡り普く森羅万象を暴き尽くして見事蘇る事などチャラチャラヘッチャラ屁の河童。
 この世はでっかい宝島で今こそアドベンチャーと意気込むのは全くの無駄なのであーる。
 故にドラゴンボールを集める必要は全く無いのである。
 我輩のドラゴンボールは百八式まであるぞ、なのであーる!
 さあ、好きなだけ思う存分心置きなくギャルのパンティーの催促をするがよい!!」

ウェストが復活した。
 激しく喋ったのでさっきまで噴いていた泡が唾と一緒に飛んで近くに座っていたマリコルヌの顔にかかった。

「うわっ! 汚ぇぇっ!!
 おいお前! 平民の分際でこの僕に唾を吐きつけるなんてどういうことだ!
 こんな事をしてどうなるか分かってんのか!」

「ほほう。それは我輩に対する挑戦であるな。
 いいだろう。
 その挑戦、受けて立つである!」

「なっ! なんだよ! こ、この僕とやる気か!?」

「イエ――――ス!!
 イッツ! ロケンロ―――――――ルッッ!!!」

 ウェストがそう叫ぶと、白衣の下からガチョンガチョンとマッジクハンドが飛び出してきた。
 その数、実に十二本。
 もはや藪からマジックハンドと言っても差し支えないと思えるほどの唐突さ加減だった。
 そして当たり前に無視される「それドコに仕舞ってたの?」という疑問。
 きっとドラえもんに差し替えわってのび太の元にウェストが来ても何ら問題は無いだろう。道具的な意味で。



「なんだってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」

「ひゃ――――――っはっはっはっ!!
 これぞ千手観音フォ―――ム!!
 いざ、貴様をレッツ・フルボッコ☆」

 そう言うとマリコルヌに向けて十二のマジックハンドが繰り出された。
 その瞬間―――

「空気読め」

 何やら冷静―――というか冷徹な声が教室内に響いた。
 その底冷えする声によってウェストとマジックハンドは動き止め、数拍の沈黙が訪れる。
 ウェストを含める教室内にいる全員が声を出した人物に目を向ける。
 視線の先には、ジッとウェストに視線を固定したタバサの姿が。

「なるほど。貴様も我輩に挑むというわけか。
 勝てぬと分かっていても挑むその意気や良し!」

「空気読め」

 タバサはウェストを無視して言った。

「逃げ出すなら今の内であるよはいもう逃がさない~!!
 もう我輩は貴様を逃がさない。
 たとえ貴様がどんな場所へ逃げようと、我輩は時間の角度と通る今日のわんこのように貴様を追跡するのである。
 我輩の影に恐れ慄きながら、暗澹たる人生を送るがいい!!」

「空気読め」

「な、なんであるか。
 さっきから同じ言葉を繰り返して。
 空気を読むのはそっちである」

「空気読め」

「いや、だから…」

「空気読め」

「その……」

「空気読め」

「…………」

「空気読め」

「……………………」

「空気読め」

「………………………………………………」

「空気嫁」

「………………………………………………………………………………………………フッ」

 ウェストは口元を吊り上げて笑った。

「どうやら、貴様はそこいらの坊ちゃん嬢ちゃんとは一味違うようだな。
 よかろう。
 今回はそこの青髪超ロリッ子眼鏡に免じて許してやる。
 命が惜しくば、即刻立ち去るがいい!!」

 と言っても今は授業中なのでマリコルヌは立ち去れない。
 ルイズは頭を抱えた。

「んっんん!!
 皆さん此方にご注目!
 ほら、ミス・ヴァリエールの使い魔さんもお静かに!」

 この日何度目かになるシュヴルーズの一喝。
 ルイズはウェストを前にして動揺しないシュヴルーズがものスンゴク頼もしく思えた。

「なんであるか貴様は。
 この我輩に向かってそのような偉そうな口調で話しかけおって。
 邪魔をするなであーる」

「あんたより偉いのよ!!
 それに邪魔してんのはそっちでしょ!
 今は授業中なの。だから大人しく黙ってなさい」

 そう言い切るとルイズはウェストの相手をやめて石ころに向かい合う。

「ちょっと止めなさい!
 どうせ失敗するんだから無駄な被害を出さないでよ」

「うるさいわねッ!
 やってみなくちゃ分かんないじゃない!」

「お黙りなさいミス・ツェルプストー。
 さあミス・ヴァリエール。錬金したい金属を心の中に強く思い浮かべるのです。
 大丈夫。あなたならきっと出来ます」

 促されたルイズは杖を持ち静かに目を瞑り、真剣な面持ちでルーンを唱え始める。

「ほぅ!
 そういえば我輩、まだ一度も異世界の魔術を見ていなかったであるな。
 ロリッ娘よ! 貴様の魔術、特と拝ませてもらうであーる!」



 ウェストはルイズの魔法をよく見ようと石ころの近くへ近づいた。
 教卓の周りの三人を除いた全員は机の下に避難していたが、この三人は石ころに集中しているので気付かない。
 短いルーンを唱え終え、ルイズが杖を振り下ろす。
 石ころは反応を示して光り、そして次の瞬間に大爆発を起こした。
 爆風が至近距離で直撃したルイズとウェストとシュヴルーズは吹き飛び、机の下から悲鳴が上がる。
 突然の事に大人しくしていた使い魔たちも驚いて大騒ぎを始め、食った食われた火がついたといった騒動で教室はてんやわんや。
 阿鼻叫喚の真っ只中、ウェストは再び気絶していた。
 その頭には、見事なメロンソーダ色のアフロが一輪、慎ましくも艶やかに咲き誇っておったそうな。











ドクターウェストの華麗なる実験:第二話「これは庵野と富野の謀略だ!」完
次回、第三話「マーラとモーラって、なんか似てね?」につづく……つづく? ―――つづく!!

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